俺達はいわゆる非リアだった……。
たまたま近くを通りかかったニンゲンたちの言葉で『リアジュウ』って言葉があるだろ。どうも、『リアジュウ』ってのは[[rb:番>つがい]]になりそうなニンゲンと幸せな日常を過ごしてるってことらしい。そう考えると、俺達は従うべき[[rb:メス>エンニュート]]がなかなか見つからない『非リア』ってわけだな。けど、ずっと番が見つからない生活ってのも辛いよなあ。俺も辛いぜ。せめて進化できればよかったんだろうけど俺達オスにはそれができねえしなあ。
そんな辛い生活の中、俺は他のヤトウモリが持ち得ないような特別な力を得た。なんと、他のポケモンを生み出すことができちまうんだ。すごいだろ? ただコイツらは長続きしない。せいぜい1,2時間程度で消えちまうのさ。つまり、番になるようなメスを生み出すことはできないってわけだな。
……何だよ、そんな残念そうな顔をするなって。長続きはしなくても戦力にするには十分だろ。それに……俺は見つけたんだ。もしかしたら、創造方法を工夫すれば俺の能力で作った命が長続きするかもしれない。
そうだな……他種の生き物ごと遺伝子を盗むんだ。そいつを使って俺の生み出す命のゲノム情報を書き換えるのさ。そうすりゃ生まれてくる生き物はハイブリッドになるってことだ、そのへんの動物で試したんだぜ? ……つまり、この方法でならもしかしたら番になれるメスを生み出せるかもしれない、ってことだ。
――ああ。その気になれば俺達と同じヤトウモリだって生み出せるさ。ただ、好みのメスを作ったところで長続きしないからやろうとしなかっただけだ。だが……これなら行けるかもしれない。生きた生物のメスを使ってそいつの遺伝子を盗んでやれば、あるいは――
……はぁ? どうやってメスの生き物を捕まえるんだよ、って顔してるな? おいおい忘れたのか? 特別な力に目覚めたのは俺だけじゃねえ。俺の力の影響なのかどうかは知らんが、お前たちも不思議な力を使えるようになってるんだぜ?
……ハハッ、お前も毒液の使い方が上手くなってきてるな。この黒いネバネバならメスの生き物捕まえられるんじゃねえの?
……はあぁ!? どうやって洞窟におびき寄せる、だぁ!? それは……、…………そうだけどよ……。
[newpage]
お前、なかなかいいアイデアだよな。部下が匂いを調整していたらニンゲンのメスが寄ってきた。俺達の巣はニンゲンたちがあまり立ち寄らない洞窟だってのに、匂いだけでおびき寄せられるなんて大したもんだ。
あのメス、匂いにつられてやってきたせいかここがどこなのかってパニクってんな。そうだ、どうかその辺をウロウロしててくれないか。あそこには別の部下が作った特殊な毒液があってな……と言っても毒性はあまり無えんだ。その代わり黒くて粘性が強くてな……生体反応を感知するとひとりでに動き出して、足を踏み入れた生物を包みこんじまうんだ。このままあのニンゲンのメスが毒液を踏んづけてくれれば……
ぶにゅっ ジュルルルッ!!
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来た! ニンゲンのメスが踏んづけた真っ黒ネバネバの毒液がグニグニと蠢き、彼女の脚に伸び始めた!
「きゃあっ! な、何!?」
毒液はムニュムニュと蠢きながらせり上がり下半身、両腕、胸元までをも呑み込んでいく。ニンゲンはフクと呼ばれるものをまとっているが、毒液はそれも溶かして生まれたままの姿に変えていく。そうして毒液はなおもニンゲンのメスの素肌をグニグニとマッサージするように伝っていき、部下の生み出すいい匂いの催眠効果も相まって彼女を気持ち良くさせていく。目に光も灯っておらず、とても虚ろな表情をしている。意識が朦朧としているのだろうか? まあ、この後全部俺達が奪ってやるわけだから関係ないんだがな。
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「…………。」
……それにしても、ニンゲンのメスは胸が大きく膨らんでいるんだよな。俺達動物やポケモンには見られないニンゲン特有の特徴なんだっけ? 確かニンゲンの言葉では『おっぱい』っていうんだよな。聞いた話によると『おっぱい』にはニンゲンたちを魅了する魅力があるらしいな。……確かに、俺もこのニンゲンのメスの大きな『おっぱい』に魅了されているのかまじまじと見つめてしまっているな……
そんな彼女の『おっぱい』や、全身を覆う毒液の艶に見とれてしまっている俺だったが、その毒液の侵食はついに首、頬、耳を伝っていく。意識のない虚ろな表情も虚空を見つめたまま毒液に包まれていく。後ろ髪にも毒液がまわり後頭部を伝って頭のてっぺんをがばあっ、と包む。頭頂部で結ばれたツインテールに毒液が触れると……その長い髪がすすられていくかのように根本から溶かされ、結果短くなっていき……やがて完全に坊主頭になってしまった。顔の方も目も口も鼻も覆われのっぺらぼうになってしまった。口の凹みや鼻の高さがかろうじて分かるレベルか。
こうして俺達の甘い香りに誘われまんまとテリトリーに誘い込まれたニンゲンのメスは全身を真っ黒でネバネバの毒液にぴっちりと包まれ、意識活動も封じられた。しかしまだこの状態でも『おっぱい』と呼ばれる胸の膨らみや腰のくびれ、形の良い艶のあるお尻のラインといったニンゲンのメスとしての特徴ははっきりと残っている。そして何より本来あるはずの髪型もなくなり坊主頭となっているこの状態……おそらくニンゲンで言うところの『扇情的』というやつなのだろう。
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「…………。」
意識もなく呆然と立ち尽くす、真っ黒なオブジェのような姿と化したニンゲンのメス。意識こそ失われているようだが生命活動は継続しているようで、大まかには直立不動ながらまだ少し、緩やかにだが動いている。
『ダンナ、今がチャンスですぜ。このニンゲンのメス意識がありやせん。この毒液のおかげッスね。奴が調整した匂いのおかげでもあると思いやすが……』
『ああ。よくやってくれたな。今ならこのニンゲンのメスの遺伝子を……いや、“身体”を使って……俺の生み出す生命体を、長続きさせることができる』
部下に案内され、俺は艷やかなボディラインをあらわにしたニンゲンのメス――その肢体を包む粘液の端に手を触れた。[[rb:ヤトウモリ>同族]]のメスを直接創造するのではなく、生命体となる前の状態をイメージして……そうだな、胚……は生命体としての形を持っているから、それよりも前の何か……うーん、『生命の素』って言うべきか? そのヤトウモリのメスとなる生命の素を……ニンゲンのメスを包みこんだ粘液の根本に注ぎ込んだ。これにより今から生まれてくるメスはこのニンゲンのメスの遺伝子を盗み、“進化”した個体となる。……ここで言う“進化”とはポケモンのそれではなく生物学的な意味のそれなので“進化”という形容をしてるってことだな。
しばらくすると、毒液にぴっちりと包まれていたニンゲンのメスの足元に変化が起こる。
ググッ……メキメキッ、ビキッ
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なんと足の指の間が裂けていっているのだ。それでいて足の指そのものも伸びていっており、やがて手のひらと同じような形に変形していく。同時に足元に広がっていた毒液も収縮していった。
ヤトウモリの生命の素のようなものを注ぎ込んだ俺にはわかる。彼女は……自らの命を作り変えていっているのだ。
ぐきめきっ、グチュッ……ぐぽっ ぐぱんっ、ぐぷっ……
全身の骨を作り変えられていくような痛々しい音が響いている……その一方でニンゲンのメスの身体を覆う毒液からはぐぽぐぽっ、ぐぷぐぷっ……という音が聞こえており、骨格変化の痛々しい音を打ち消してくれている……ような気がする。おそらく人間としての肉体を溶かしていっているのだろうか? 丸みを帯びたなだらかな肩はさらに起伏が控えめになっていき、首は少し細くなりながら上へと伸びていく。太もももムクムクとその太さを増していくのに対し膝下、とくにふくらはぎはどんどん細くなっていく。くびれ……はあまり変わらないだろうか。お尻もその艷やかさに変化はないが、そこから太めの尻尾がムクムクと発達していく。その尻尾のもう少し上のあたりからはひらひらとしたものが生えてきた。そして胸の『おっぱい』から太ももにかけての部分が濃紺に染まっていき――そう、どういうわけか『おっぱい』はそのまま残っているのだ――さらに『おっぱい』やお腹にはマゼンタの模様が現れる。また尻尾の内側や、そこに繋がる股間のあたりが、更に手のひらと足の裏もマゼンタに染まった。
そう。ニンゲンとしての身体を毒液に溶かされていく彼女の身体は……俺達と同じヤトウモリのメス……いや、その進化系であるエンニュートへと作り変えられていっているのだ。
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『ニンゲンのメスが……エンニュートに……!? いったいどうなっているんだ……!?』
『能力を応用したのさ。さっき俺が生み出したメスは生命体として生まれる前の存在で、胚よりも前の段階でな。そんな彼女はこのニンゲンのメスの遺伝子を使って自身のゲノム情報を書き換えることで“進化”していってるんだが、同時に遺伝子を奪われたニンゲンのメスの身体をそのまま奪っちまうってわけさ』
『じゃあ、このニンゲンのメスがエンニュートに変身していってるのって……遺伝子を書き換えられてるからッスか!?』
『その解釈で間違ってないぜ。“他種の生き物ごと”遺伝子を盗む、“身体”を使って俺の作る生命体を長続きさせる、って言っただろ? つまり……このニンゲンのメスは遺伝子どころか人間としてのすべてを奪われて俺達の種族の一部になるのさ。――ほら見ろ、変身も佳境に差し掛かっているみたいだぜ?』
ミシッ メキメキメキ……メキョッ……
鼻の形以外のっぺらぼう状態の、真っ黒で坊主頭のニンゲンのメスの頭。その鼻が、唇が次第に前の方に引き伸ばされていく。厳密には上唇と鼻が融合しながらマズルを形成していき、その過程で顎も退化していった。伸びていくのはマズルだけではなく、上下から牙も生え揃っていく。
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これでニンゲンのメスだった彼女の身体はエンニュートへとその形を変えた。唯一、胸には『おっぱい』が残っているが……それ以外は完全にエンニュートに変わっている。――成功だ! 俺の生命を創造する能力の応用でニンゲンのメスを同族のメス、しかも進化系のエンニュートに作り変えることに成功したのだ……!
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ぱちっ
彼女がそっと目を開ける。その瞳も完全にエンニュートのものへと作り変えられており、ニンゲンのメスだった頃の面影は胸の豊満な『おっぱい』を除き消え失せている。
『ここは……? わたし……どうなった、の……?』
『おっ、目が覚めたみたいッス』
『おはようさん。……突然だが、昔のことは覚えてるか?』
『昔……? ……ううん、わからない。わたし、何も覚えてない……』
『……そっか。じゃあ“おめでとう”のほうがいいかもな。何せお前はたった今生まれたばかりなんだしよ』
『生まれた…ばかり?』
『ああ。お前は生まれたてのエンニュートさ。それ以外の何者でもねえ』
何も覚えていないらしいエンニュート。どうやらニンゲンとしての身体が溶けた際に脳までも溶けてしまったらしく、それと同時にニンゲンとしての記憶も人格も失われてしまったようだ。……そう考えると『生まれたばかり』というのも言い得て妙なのかもしれない。だが……俺達としては素体になるニンゲンの記憶などどうでもいい。ただ、こうして俺の能力でニンゲンのメスを同族のメス(厳密には進化系であるエンニュート)に変化させる方法がわかっただけで……なんか、こう、達成感に満たされたような気がする。……そうだ!
『……こいつはお前にくれてやる。幸せに暮らせよな』
『えっ、いいんスか!? 俺がこの娘もらっちゃって!?』
『ああ。それに……この力があればいくらでも番になるメスを……エンニュートを生み出すことができるからな。番がいなくて困ってる仲間たちのためにも殖やしてやらないとな』
『へへっ、ありがてえッスな。……一生ついて行きやすぜ、ダンナ!』
こうして、俺がニンゲンのメスを素体にして生み出した最初のエンニュートは配下の番になった。そして俺はこの異能で、哀れにも巣に迷い込んだニンゲンのメスを毒液で包み、彼女らを素体に同族のメスであるエンニュートに生まれ変わらせることで繁殖を試みることとなったのだった。
その後、この街で年若い女性の失踪事件が増加することとなるのだが……それはまた別の話である。