憎悪

  暗闇に包まれた国道は静寂に満ちていた。

  ときおり、大型トラックや乗用車がハイビームを点けたまま走行し、一時的に国道に光と音をもたらすが、すぐにそれは消え去り、再び暗闇と静寂が広がる。国道の脇の林には野生のポケモン達の姿があり、辺りは非常に静かである。

  地平線が微かに光ると、ハイビームを点けた乗用車が走ってきた。制限速度60kmの道であるが、乗用車は時速90kmを超えており、エンジンが激しく唸りを上げている。揺れる車内には人影が2つあり、助手席に座っている牡のルカリオ、オズは運転席でハンドルを握る女性、×××を横目で見た。×××は硬い表情をしており、前方を凝視しながらアクセルを踏み続けている。微かに歯を鳴らす×××はオズの視線にも気が付かず、何かから逃れるようにアクセルを踏み込んだ。

  「…私は悪くない、私は悪くない」

  オズの耳に×××の小さな声が届いた。懺悔するかのように×××は小さな声で呟いており、額から冷や汗が垂れていた。

  以前、×××が私にリンゴの絵柄のマグカップを投げつけた際、⚪︎⚪︎⚪︎は×××に厳しい態度を取った。その後、×××がパソコンで新薬のデータの数値を改変している場面を、オズは見てしまった。その事を知っているのは×××とオズだけであり、他の研究員や⚪︎⚪︎⚪︎は新薬のデータが改変された事など知る由もなかった。

  しかも、データは臨床試験を終えたものであり、このデータを基に新薬が作られることが決定していた。

  改変されたデータに基づき研究は進み、やがて新薬の実物が続々と作られていった。

  国が威信をかけ、研究員達が叡智を集め、⚪︎⚪︎⚪︎が情熱を注いで作り出した新薬は、×××の醜い感情により歪められ、何も知らない患者達へと投与された。その結果がどうなるのか、火を見るより明らかであった。

  データの数値の桁数が改竄された新薬を投与された結果、疾患で弱りきっていた患者達の血管内で微細で多量の血栓を作り出し、それは脳や心臓、腎臓などの臓器を詰まらせた。過剰な新薬の成分がアレルギー反応を引き起こし、アナフィラキシーショックを起こした患者もいた。

  ×××の悪意により、新薬を投与された患者のほぼ全員が多臓器不全や心肺停止となり、帰らぬ人となった。

  そして、全ての責任は臨床の責任者であった⚪︎⚪︎⚪︎のものとなった。

  患者家族から暴言を吐かれ、時には殴られたりもした。⚪︎⚪︎⚪︎は他の研究員や管理者に助けを求めたが、誰もが自身の責任を嫌がり、いの一番に逃げ出した。だが、研究員達よりも早く国は動き、全スタッフの身柄を確保し、即座に逮捕した。

  罪状はでっちあげであった。

  ただ、国のお偉いさんを患者家族の憎悪や他国からの嘲笑から守るための生贄とされたのだ。研究員達もまた、保身のために⚪︎⚪︎⚪︎に全責任をなすりつけ、⚪︎⚪︎⚪︎は反論する余地も無く、死刑判決が下された。

  その間、全ての原因である×××は研究所を辞め、警察に捕まる前に真っ先に逃げ出した。乗用車のリアシートには大きなスーツケースが置かれ、×××はオズと共に空港へと向かっていた。

  「悪いのは⚪︎⚪︎⚪︎だ、私を認めなかった⚪︎⚪︎⚪︎や研究チームの全員が悪いんだ…私は悪くない…」

  醜い感情に従い、多くの患者の命を奪い、愛していた⚪︎⚪︎⚪︎を死刑台へと背中を押した。

  その結果を受け入れきれない×××の呟きを耳にしたオズは溜息を吐くと、揺れる助手席から外を見た。

  暗闇の中に、小さな光の集まりが見えた。それが空港ターミナルである事に気がついた×××は僅かに表情を緩めると、更にアクセルを踏み込んだ。

  だが、空港に近づくということは、テロ対策を警戒している警察に出会すことを意味していた。加えて、×××の運転する乗用車は時速120km以上の速度で走っていた。

  甲高いサイレンの音が聞こえた。

  ×××の視線がバックミラーに向けられる。そこには国道の脇で鼠捕りをしていたパトカーの車体が写り込んでおり、サイレンを鳴らしながら接近してきた。×××の運転する乗用車は明らかに速度違反をしており、パトカーが追跡してくる理由は明白だ。

  だが、今の×××にとって、後方からサイレンを鳴らして接近してくるパトカーの姿は、死神のように見える。

  「…来た、追いつかれた…」

  パトカーが追跡してくる理由を×××の逮捕のためと勘違いした×××は、更にアクセルを踏み込んだ。助手席に座るオズは加速の勢いを腹の底で感じていた。夜の闇に溶け込む街灯の光が視界の端を流れていき、オズは顔を引き攣らせながら×××の横顔を見る。

  彼女の顔は憔悴しきっており、アクセルを力一杯踏み込んでいる。

  速度は、時速150kmを超えている。

  乗用車の後方から追尾するパトカーの数は3台に増えており、それをミラー越しに見た×××は泣きながらアクセルを踏み締める。

  車体が、微かに振動しだす。

  ×××のテクニックではコントロール不可能な速度に達しているのは、明らかである。

  オズは興奮している×××を宥めるべく、声を上げようとした。

  そこからは、一瞬のうちの出来事であった。

  時速160kmで暴走していた乗用車はコントロールを失い、大きく右に回転しながらスリップした。そのまま乗用車は勢いを吸収できず、その場で横転し何度も回転しながら国道を転がった。

  その時には×××とオズの意識は同時に失われ、彼らが最後に感じたのは頭部への激しい衝撃であった。

  横転した乗用車は何度も回転し、ルーフ部分は潰れ、信号待ちをしている大型トレーラーの最後尾に衝突した。

  辺りに轟音と金属音が響き渡り、乗用車は停止した。

  少し後、追尾していたパトカーがトレーラーの後方で停車し、車内から降りた警察官達は乗用車の車内を覗き込んだ。

  彼らは溜息をつくと、首を左右に振った。

  「ダメだ、頭がミートパイみたいになっているぞ…」

  警察官の言葉は、×××とオズに届く事はなかった。

  *

  草の大陸、トレジャータウンにあるプクリンのギルド。

  室内にはヒトカゲの赤子の寝息が微かに広がっている。

  応接室の中にいる牡のルカリオ、オズワルドは荒縄で縛られたまま、思い出した過去の記憶を吐露した。彼の言葉を黙って聞いていた室内の面々は、いずれも驚きの表情を見せている。

  「…私が覚えている事は以上です。あの後、×××と共に白いポケモンに会い、この世界へと飛ばされた…その時点で私の記憶は朧げになり、×××…いえ、グレーテの言われるままに将校に付き従い、やがて時の波紋を使い、過去の世界へと渡ってきたのです」

  「過去の世界に渡った衝撃で、全てを忘れてしまっていました」とオズワルドは続け、彼の言葉を聞いた牝のゾロアーク、ニコルは目を潤し、オズワルドの顔を見つめながら口を開く。

  「…あなた、×××の傍にいたオズなの?」

  ニコルの問いにオズワルドは頷くと、縛られたまま天井を見上げる。彼は疲れた表情のまま溜息をこぼし、視線をニコルやヘンデルに向ける。

  「…覚えている事は、生きたまま頭が潰され、私自身を失ってしまった事です。×××もまた、人格を失い、グレーテとなり、将校と協力し享楽に溺れています」

  将校の傍でKとして活動し、多くの命を刈り取ってきたオズワルドの言葉を聞き、カフカやフランツ、ヘンデルは閉口している。だが、ニコルは涙を溢しながら縛られているオズワルドを抱き締めると、声を押し殺しながら泣いていた。

  「…ごめん、×××を止めれなくてごめんね」

  泣きながら懺悔するニコルの姿を見たオズワルドは目を細めると、目尻から微かに涙を流した。嗚咽を漏らすニコルはオズワルドの身体を優しく抱きしめ、やがて床から立ち上がった。

  目尻から溢れる涙を指先で拭い、ニコルは力強い目でカフカやフランツ、ヘンデルに目を向ける。

  「…グレーテと将校を止めよう。これ以上、ヤツらの犠牲者を出してはいけないわ」

  ニコルの言葉を聞いたカフカは静かに頷き、フランツもゆっくりと頷く。ヘンデルは大きな瞳で微笑むと、室内にいる弟子達を見渡し、口を開いた。

  「まだトレジャータウンには暴徒や異端審問官達は来ていない…急いで準備するよ‼︎」

  ヘンデルの言葉に弟子達は頷くと、それぞれの役割を果たすべく、駆け足で応接室を後にした。その後をヤミラミ達とヘレンが続き、彼女らは医療拠点を確保すべく、薬品や鎮痛剤、芥子の花を集めに行く。

  ヘンデルがオズワルドの傍に立ち、彼を見下ろした。

  その視線に晒されたオズワルドは居心地が悪そうに顔を背けるが、ヘンデルは閉口したままオズワルドの縄を解き、彼に手を差し伸ばした。

  ヘンデルの手を見上げたオズワルドは、黙ったまま彼の顔を見て、やがて手を握り立ち上がった。

  「…君が時の守護者であった事、将校と呼ばれるバクフーンに付き従い、虐殺していた事は事実だね。だからと言って、後から僕たちがあれこれ言うのは違うよね」

  そう話すヘンデルはオズワルドの手を握りしめたまま、彼の顔を見る。ヘンデルの大きな瞳にオズワルドの顔が反射している。

  「君は将校やグレーテについて、詳しいよね。力を貸してもらうよ」

  ヘンデルの瞳を見つめたオズワルドは力強く頷くと、視線をカフカとフランツに向けた。彼らもまた頷き返し、それぞれの役割を果たすべく、応接室を後にした。

  カフカとフランツ、オズワルドは薬草や芥子の花を集めるために、そして医療拠点を設けるために。

  その背中を見届けたニコルはヘレン達と合流すべく、急いで応接室から出て行った。

  室内に1人残ったヘンデルは溜息を漏らし、視線を窓の外に向ける。窓の外にはトレジャータウンの街並みが広がっており、街の外れには多くの人影が集まっている。それを見たヘンデルは顔を強張らせ、ヒトカゲの赤子、エリスを抱き上げ、部屋を後にした。

  同時刻、トレジャータウンの近郊の村々は地獄と化していた。

  オズボーン暗殺の混乱は草の大陸にも広がり、カピンタウンや付近の村々にも広がっている。カピンタウンにあるレシラム教教会から出撃した異端審問官達は異教徒や旅人、ゼクロム教徒達に牙を剥き、己の裁量で血祭りにあげている。その影響はトレジャータウンの近郊まで広がり、異端審問官とレシラム教の暴徒達は無抵抗の村民に刃を突き立てていた。

  また1人、無抵抗な村民の背中に槍を突き刺した異端審問官、バシャーモのリラは感情の伴わない目で槍を引き抜き、それに纏う血を振り払った。

  白い礼服、胸に刻まれた六芒星と魔除けの赤い模様、異端審問官の証で身を包んだリラは、焦点の合わない目で村民を見下ろした。

  「…悪魔め‼︎地獄に堕ちろ‼︎」

  口から血を吐き出しながら村民は憎悪の言葉を言い放つ。だが、リラはぼんやりとした目で村民を見下ろし、そのまま村民の頭を踏み潰した。格闘タイプのリラの脚力は凄まじく、頭蓋骨を砕かれた村民の頭はトマトのように潰れた。

  ぬるりとした感触が足底から広がるが、リラはぼんやりとした目で辺りを見ている。彼女の首と腕には複数の注射痕があり、リラの身体から汗と尿の臭いが広がっている。

  カウフマンの指示で地下牢から出されたリラには、多量の麻薬や覚醒剤が投与された。オズボーンに孕まされ、監禁され赤子を産まされたリラの人格は、多量の麻薬と覚醒剤により汚染され、既に崩壊していた。薬により意識が朦朧としているリラは、カウフマンの「反抗者を殺せ」という暗示に従い、草の大陸へと送り込まれた。

  既に片手で数えられない数の村を滅ぼしたリラ達異端審問官と暴徒は、新たなターゲットを求めて、辺りを徘徊している。リラの視界の端では破壊された扉から民家の中が見えており、若い牝の村民が複数の牡の暴徒に襲われている。近くにはいくつかの死体が転がっており、辺りに悲鳴と血と臓物の生臭さが広がる。

  叫び声が聞こえる。

  焦点の合わないリラの瞳が動くと、火炎瓶の投げ込まれた民家から逃げ出してきた牡の村民の姿が見える。彼は燃え上がる家から子供を連れて逃げ出すと、なんとか異端審問官や暴徒達から逃れようと村の外に向かう。だが、その背中に向けて異端審問官が手を振ると、暴徒の持つクロスボウや弓矢などから矢が放たれ、彼と彼の抱き上げる子供の身体を貫く。

  片手で数えられない本数の矢が刺さり、彼らは地面に倒れ込む。辺りに血の染みが広がり、呻き声が微かに聞こえる。

  村のあちこちに死体が転がり、若い牝は暴徒の牡に襲われ、その後は命を刈り取られていく。数日前までは穏やかな光景に包まれていた村は、今では地獄絵図と化している。

  リラは汗と尿の臭いを撒き散らしながら村の中を歩き、ぼんやりと辺りを見回している。

  燃えている民家が爆発した。

  家の中に保管されている燃料に引火したのか、突然の爆発に暴徒や異端審問官達は怯むが、リラはそれに反応せずに歩き続ける。爆発した民家から木片が飛び散り、リラの太腿に突き刺さるが、彼女は悲鳴も呻き声もあげず、ただ歩き続ける。

  リラの瞳が動いた。

  反射ではなく、意思を持って動いたリラの瞳は、ある方向を捉える。奇しくも、その先にあるのはリラの娘、エリスが保護されているプクリンのギルド、そしてトレジャータウン。

  リラの野生の本能が、第六感がエリスの所在を彼女に告げた。かつて、自身の意思で3人の兵士を殺めてまで逃した赤子の存在を、多量の麻薬と覚醒剤で人格を破壊されたエリスは求めている。

  理性ではなく、本能でエリスを探している。

  麻薬と覚醒剤を投与されていないリラなら、エリスを探す危険性を十分に理解できていた。だが、今のリラは人格を破壊されて、ただ刺激にのみ反応するような状態である。

  リラは口角から涎を垂らしながら歩くと、トレジャータウンのある方角を指差した。

  それはエリスを求めての行動であり、他意は含まれない。だが、暴徒や他の異端審問官達はリラの動きを視認し、興奮したように雄叫びをあげると、次の目標を定めて移動を始める。

  村の中にいる生き残りの村民達を次々と殺害していき、若い牝は暴徒により連れ去られていく。異端審問官達は異教徒の証を下げる村人達に勝手な罪を告げると、暴徒達が手にした剣や槍、農機具で村民達を処理していく。

  それはリラを筆頭とした一つの暴力装置となり、トレジャータウンへと迫っている。

  そして、トレジャータウンの近郊にはオズワルドとニコル、ヘレンの住む洋館も建てられている。

  *

  霧の大陸、ノエルタウン、レシラム教教会。

  水の大陸から遠方に位置する霧の大陸はレシラム教の目も届きにくく、砂の大陸のゼクロム教のような巨大な宗教や組織が存在しない土地である。故に、水の大陸や砂の大陸から干渉を受けにくく、時の守護者達が秘密裏に活動するにはうってつけの場所である。

  ノエルタウンのレシラム教教会は街外れにあり、加えて積雪で街とのコンタクトが取りにくい環境にある。また騎士団も駐留しているが、ルドルフのような厳しい指揮官が居らず、兵としての練度も低いものである。

  故に、レシラム教教会はマスケット銃や毒ガスで武装した時の守護者達に秘密裏に攻め込まれ、抵抗する者は皆殺しとなり、死体は氷山の中の谷に遺棄された。非武装の者や無抵抗の者、降伏した者は地下の倉庫に監禁された。

  教会内の大聖堂、その脇にある通路を歩いている牡のバクフーン、カウフマンは脇にある小部屋を一瞥し、くすくすと笑みを浮かべる。暖炉の炎で暖められた室内にはレシラム教のシスターや牝の従者の姿があり、彼女らは複数の牡の守護者達に乱暴されている。

  強引に股を開かされ、或いは四つ這いにさせられたシスター達は悲鳴をあげるが、暴力と牝に飢えた守護者達は更に興奮し、彼女らの顔面を殴り、思うがままに欲望を吐き出している。部屋の隅には用済みとなり、息が細くなった従者達の姿があり、中には胸の動きが止まっている者もいる。

  カウフマンは室内に入ると、敬礼してくる時の守護者達に応え、彼女らの側にある椅子に腰かける。

  「ごきげんよう、異端の神に仕える者達よ」

  指先に炎を灯し、タバコに火をつけたカウフマンはそう話すと、床から見上げてくるシスターの顔を見て、目を細める。牡の守護者達が放つ欲望を全身で受けたアローラキュウコンのシスターは、白い身体を白く汚されたまま、カウフマンの顔を見つめる。

  疲労と精神的なダメージにより、シスターの身体は微かに震えており、既知の顔であるカウフマンを見上げると、震える声で尋ねる。

  「…なぜですか」

  レシラム教のNo.2にして円卓の一員であるはずのカウフマンが、教会を占拠した面々と共に行動し、同じレシラム教の信者であるシスターや従者達に暴力を振るう理由を、シスターは尋ねる。彼女の問いを耳にしたカウフマンはほくそ笑み、タバコの煙をシスターの顔に向かって吐き出す。

  白い煙が白く汚されたシスターの顔を覆い、カウフマンはくすくすと笑い続ける。

  「…レシラム教が他の宗教に何をしてきたか、知っていますか?オズボーン教皇が巫女や侍女達にどのような暴力を振るってきたか、知っていますか?」

  そう話すカウフマンは目を細めると、シスターを見下ろし、彼女の頭を掴む。そのままシスターの身体を引き寄せ、強引に口を開かせ、剃り立つ自身を口に押し込む。

  室内にシスターの悲鳴と湿った音が広がる。

  「はっきりと言いましょう。レシラム教もゼクロム教も、どちらもクソです」

  シスターの頭を掴み、強引に前後に動かしながらカウフマンは話す。シスターの口からカエルのような音が漏れるが、カウフマンは意に介さずにシスターの頭を使い続ける。

  「真実を重んずるレシラム教…理想を重んずるゼクロム教…集団としての共通の真実を重視する全体主義と個々の理想を重視する個別主義…どちらもクソです」

  そう話し、カウフマンは剃り立つ自身をシスターの喉奥に深く押し込む。シスターの喉奥に白い欲望を放ち、カウフマンは目を細め、シスターの口から自身を引き抜いた。そのまま弱ったシスターの身体を抱き上げ、未だに剃り立つ自身を白く汚れたシスターの性器に挿し込む。

  室内にシスターの悲鳴が響く。

  「…結局、レシラム教もゼクロム教もただの集団に過ぎない…世界を変える力を持たない集団の集まりです」

  カウフマンは穏やかな口調でシスターの脇腹を掴み、強引にシスターの身体を上下させる。体力を失い、疲労しているシスターに抵抗する力はなく、カウフマンに挿入された性器を周囲の守護者達に見られながら呻き声を漏らしている。

  シスターの目尻から涙が溢れる。

  「しかし、ディアルガ様は違う。ディアルガ様の至宝と時の歯車があれば、過去と未来の世界を繋ぎ、滅び行く未来の世界から我々は脱出できます」

  シスターの胎内で果てたカウフマンは、浅く息を吐き出す。心と身体を汚されたシスターは力無く首を傾けるが、カウフマンは背後からシスターの首を手で握り締め、強引に意識を戻させる。

  首を絞められたシスターは目を見開き、意識を覚醒させる。

  「…あなたは想像できますか?過去の世界の連中が愚かに争った結果、ディアルガ様の力が暴走し、星の停止へと誘われた世界に生まれた者達の存在を…」

  シスターは口から舌を出し、酸素を求めて魚のように口をぱくぱくと動かしている。だが、カウフマンは己の望むままにシスターの首を絞めながら腰を動かす。

  「星の回転軸が歪み、時間の周期が乱れ、四季と光が無くなる不毛な世界を…絶望しか存在しない世界に生まれた我々の思いを…」

  シスターは白目を剥き、口角から涎を垂らす。

  「その原因が過去の世界におけるレシラム教とゼクロム教の対立、そしてディアルガ様の秘宝を兵器として運用しようとした結果によるものだと…」

  過去の世界の争いが未来の世界の破滅の原因となり、未来の世界で絶望しながら生きてきたカウフマン、将校達が過去の世界を憎む要因となった。絶望の世界で狂気と暴力に支配された集団は過去の世界の者達に憎悪を抱き、発散するために暴れているのだ。

  「…ディアルガ様の秘宝はお前達には渡さない、我々ディアルガ教が守る」

  そう呟き、将校は手の力を抜く。死の直前までシスターを追い込み、彼女の胎内が震えることにより将校は果て、シスターの胎内に欲望を放つ。抵抗する力を既に無くしてるシスターは、カウフマンの欲望を黙って受け入れている。

  その姿を見たカウフマンは憎悪の対象であるレシラム教を信仰する者を征服する事で、幸福感を抱く。カウフマンはタバコを灰皿に押し当て、シスターの胎内から自身を引き抜き、シスターの身体を乱暴に突き飛ばす。シスターは度重なる暴力により失禁しており、糸の切れたマリオネットのように力無く転がり、室内にいる別の守護者達が欲望を剃り立たせながら襲いかかる。

  その光景を見たカウフマンは新たなタバコに火をつけ、部屋を後にする。

  同じような光景が教会内のあちこちで広がり、別の部屋では牡の若い従者が時の守護者達に襲われている。違う部屋では成人した牡のレシラム教信者や教会近くに居たゼクロム教信者達が拷問を受けており、時の守護者達の憎悪の炎を身に受けていた。

  カウフマンが室内を覗き込む。

  そこにはレシラム教信者の牡のアローラサンドパンの姿がある。彼の両手は背中で縛られており、首には縄がかけられている。その縄は天井の梁を利用し滑車のように張られており、先端を持つ時の守護者達が愉快そうに笑いながら少しずつ絞めている。

  室内に信者の漏らした尿臭が広がっているが、守護者達は気にせずに縄を締め続けている。やがて、鈍い音と共に信者の首は異常な方を向き、身体は微痙攣を繰り返す。

  地下倉庫には予備の玩具がたくさん保管されている。

  カウフマンはくすくすと笑い、通路の奥へと歩いていった。

  同じ頃、教会の外は吹雪に覆われていた。

  教会内は時の守護者達が制圧し、周辺も武装した守護者達が警戒している。ときおり、吹雪で道に迷った旅人が教会に救いを求めて訪問してくるが、守護者達に拘束され、抵抗する者は殺害され、降伏した者は地下倉庫に監禁されている。

  また1人、教会内の状況を知らない旅人が守護者に捕まり、教会内へと連行されていく。その光景を積雪の山の陰から盗み見ている者がいる。

  吹雪の世界には溶け込まない桃色の身体、セレビィのエミルである。カウフマンとグレーテが時の歯車を使い、過去と未来の世界を繋げた際、エミルも隙を見て過去の世界へと渡ってきていた。

  他の守護者達に見つからないように霧の大陸に潜伏していたエミルだったが、レシラム教教会が陥落し、将校が合流した事でオズボーン暗殺と暴動の状況を把握できた。以降は潜伏したまま情報を集め、共に過去の世界へと渡ってきたラプラスのノアと共にカフカ達との合流を目指していた。

  吹雪の中、エミルはレシラム教教会の裏にある崖を降り、崖下で待っているノアと合流した。

  吹雪と強風により海は荒れており、付近に時の守護者達の姿は見当たらない。水氷タイプを有するノアにとって、この環境は苦ではなく、いつもと変わらぬ雰囲気でエミルを待っている。

  「どうでしたか?」

  ノアの問いにエミルは小さく首を振り応え、彼の背中に乗る。

  「ダメですね…教会内は将校が支配しています…」

  エミルの大きな瞳が悲しそうに細められ、ノアも小さな溜息をこぼす。ある程度の状況を把握できたとはいえ、教会内の凄惨な状況から人質を救い出す手段がなく、ただ指を咥えて見ているだけの状態である。

  エミルとノアは共に崖上の教会を見上げ、時の守護者達に見つかる前に移動する事にした。

  荒波の海をノアが泳ぎ、その背中に防寒具で身を包んだエミルが乗る。海風と荒波の冷たさがエミルの体温を奪うため、ノアはなるべく穏やかな海域を選び、波を避けながら泳いでいる。

  やがて、ノエルタウンから距離を置いたノアは速度を落とし、背中に乗るエミルに尋ねる。

  「…以前、グレーゴルさんとカフカさんと話した際に、過去を変えるとタイムパラドックスが起きると言っていましたよね」

  「…」

  「戸惑いはないのですか?」

  ノアの質問を聞いたエミルは沈黙で応える。数秒後、エミルは息を吐き出し、遠くに見える霧の大陸に目を向ける。

  「確かに…消えてしまうのは怖いです」

  エミルの視線がノエルタウンの教会のある方に向く。その大きな瞳には悲しみの色が浮かんでおり、エミルは静かに話す。

  「将校達の憎悪も理解できない訳でもありません…でも、過去の世界の者達に危害を加えて良い理由にはなりません」

  「…」

  「…連中に一矢報いて消える、というのも乙ですね」

  エミルの言葉を聞いたノアは「そうですね」と応え、愉快そうに笑った。だが、ノアの笑い声は乾いたものであり、広大な海の中で静かに響いた。

  「…まずはカフカさん達と合流しましょうか」

  ノアは静かな声で続けて話した。彼の提案を聞いたエミルは小さく頷き、寒さに耐えるように身を小さくさせる。

  未来の世界でカフカやグレーゴルを過去の世界へと送り出したエミルは、ノアと共に時の守護者達の毒牙を逃れつつ、過去の世界へと渡るタイミングを待っていた。部下に集めさせた時の歯車とディアルガの至宝を使い、

  奇しくも将校が時の波紋を開いたのは偶然の産物であった。

  仲間を救うため、自身らを犠牲にする覚悟で過去の世界へと渡ったエミルとノアは、カフカとグレーゴルと合流する事を目指して、行動を始めた。

  海は、荒波に覆われていた。