ケース:聖騎士団見習いセドリックと喪光の白虎ラウル
[chapter:若き騎士セドリック]
セドリック。まだ二十歳になったばかりの彼は、聖騎士団の中でもひときわ目立つ…というよりは、どこか少年らしさを残した、控えめな青年だった。顔立ちには幼さが残り、華奢とも言える身体つきは、厳格なる白き聖騎士団の勇猛な騎士たちの中にあっては、頼りなく映るかもしれない。しかし、彼の瞳の奥には、一点の曇りもない純粋な光…聖騎士としての「正義」を信じる揺るぎない決意が宿っていた。そして、その「正義」の象徴こそが、ラウル団長だった。
ラウル団長。白き鎧を纏った、誇り高き聖騎士団の団長。彼の剣技、彼の指揮能力、そして何よりも…彼の清廉潔白な生き様。ラウル団長は、セドリックにとっての「理想の騎士」であり、「神に最も近い存在」。彼の言葉は絶対であり、彼の期待に応えることこそが、セドリックの人生の全てだった。彼は、まるで雛鳥が親鳥を慕うように、ただひたすらに、ラウル団長を慕っていた。それは、純粋な尊敬の念であり、絶対的な忠誠心だった。
魔族に対しては、ラウル団長から教えられた通り、絶対的な「悪」、世界の歪みと見なしていた。魔族の「混沌」や「無法」は、彼の「規律」と「正義」を重んじる価値観とは相容れないものだった。魔族は倒すべき存在であり、その存在自体が「汚らわしい」と感じていた。
セドリックは生まれつき、異常に鋭敏な嗅覚を持っていた。周囲のあらゆる匂いを、他の誰よりも敏感に感じ取る。土の匂い、草木の匂い、雨の匂い…そして、人間の匂い。彼の世界は、匂いによって彩られていた。それは、彼の五感の中でも、最も繊細で、最も直接的な情報源だった。
彼のラウル団長への強い憧れは、その純粋さ故に、無意識のうちに別の感情と結びついていた。それは、獣的な性欲の片鱗…彼自身が最も否定し、抑圧していた「不純なもの」だった。かつて聖騎士団の洗濯係をしていた頃、彼は密かに、ラウル団長の下着を…手に取り…その匂いを嗅いだことがある。あの、清潔で…ラウル団長の匂い…。その匂いを嗅いだ瞬間、芳醇な香りが備考をつき抜ける…彼の身体は…微かに…熱を持った。そして…彼は…その匂いの記憶を辿りながら…密かに…自分を慰めた。勃起した己の肉棒を握りしめ…。その経験は、彼に強烈な罪悪感と羞恥心を植え付けた。「汚らわしい…」「聖騎士としてあるまじき行為だ…」。彼はその記憶と、それに伴う身体の反応を、心の奥底に…深く…深く…封じ込めた。それは、彼の純粋さが故に、自身の欲望を「悪」と断罪し、徹底的に抑圧した証だった。
彼は知らなかった。自身の嗅覚が、やがて彼を獣の世界へと誘う決定的な鍵となることを。彼が抑圧した「不純な」欲望が、獣化の過程で解放され、彼の純粋さを汚すことになることを。そして、彼が絶対的に信じた「正義」が、いかに脆く、そして歪んでいたのかを。
ラウル団長が魔将ライネルに敗れ、行方不明となり…聖騎士団が壊滅的な打撃を受けるその日まで…セドリックは、ただ一人の純粋な聖騎士として、ラウル団長への憧れと、自身の抑圧された欲望を抱えながら…獣となる運命の…静かな予兆の中で…生きていた…。彼の物語は…ここから始まる…。鎖と獣香の螺旋を…辿る…彼の堕落譚が…。
[chapter:白き影、獣の呼び声]
剣が彼の若い手の中で、血と疲労と恐怖に濡れて、鉛のように重く感じられた。辺りには血の匂い、鉄の匂い、そして魔族のぞっとするような生臭い匂いが充満していた。そこは戦場だった。地獄だった。白き聖騎士団は、もはや形を成していなかった。魔族の波のような猛攻が、誇り高い騎士たちを次々と飲み込んでいく。そして、彼らは声高に恐れ戦く、あの存在が現れたのだ。恐ろしい獣が現れたという噂は聞いていた。あのラウル団長すら、その獣に殺されてしまったと。聖騎士団を次々と壊滅させていると。その噂が、今、彼の目の前で現実のものとなった。
「退け! 退けぇっ! セドリック! 早く!」仲間の喉を掻きむしるような叫び声が、血と焼け焦げた空気を切り裂いた。しかし、彼は動けなかった。足が縫い付けられたように、血と泥に濡れた床に張り付いている。恐怖が彼の全身を麻痺させていた。
戦場の中心に、突如としてあの存在が現れた。それは獣だった。巨大な身体。全身、雪のように白く、力強い毛皮に覆われた虎。その巨躯が二足で立ち上がり、天を衝くような咆哮を上げた。白い虎だ。人間ではない。紛れもない魔族だ。しかし、今まで書物で読んだ、あるいは戦場で相対した、どの魔族よりも圧倒的に恐ろしい。その放つ「力」の波動、その速度、その咆哮。空気が歪むほどの重圧が、彼の全身の血を凍り付かせた。純粋な生命の恐怖が彼の心を支配する。
聖騎士たちが叫び声を上げながら、次々と切り裂かれ、吹き飛ばされる。誇り高き騎士団の鎧も、聖印も、あっけなく破られる。まるで吹きすさぶ嵐の中の枯れ葉のように、彼らは散っていく。彼はただ、その光景を恐怖で硬直して見ていた。逃げなければと理性は叫ぶが、身体は彼の意思に反して動かない。恐怖が全身を麻痺させている。
白き虎は獰猛に戦場を駆け巡る。その動きは速く、そして一切の無駄がない。まるで全てを計算し尽くしているかのようだ。その圧倒的な力。神聖な鎧を布切れのように容易く引き裂いてく。奴の全てが死をもたらす絶対的な凶器だった。
そして、白き虎の右手に握られている剣に、彼の視線が釘付けになった。その剣を見た瞬間、彼の心臓は鼓動を忘れた。それは見間違えるはずがない。あの特徴的な鍔、柄。長年、手入れを欠かさなかった刀身に刻まれた聖印。それは、ラウル団長の愛剣だった。
なぜ? なぜあの獣が団長の剣を持っている? 噂は、噂は本当だったのか? ラウル団長は、あの、あの恐ろしい獣に殺されてしまったのか? 絶望が彼の心を深く突き刺す。憧れだった、彼の全てだった、理想の騎士、ラウル団長が。この、この恐ろしい獣に。猛烈な怒りが湧き上がる。魔族め! 団長を! 我々の団長を!
しかし。白き虎のその勇猛な戦いぶり。人間ではありえないその速さ、その力。魔族とは思えない洗練された剣さばき。そしてその仕草。剣を構える角度、敵に止めを刺す時のあの容赦のない正確さ。一瞬だけだった。本当に一瞬だけ、彼の脳裏によぎった。それは、まるでラウル団長の戦い方のようだと。
そして、白き虎が再び咆哮を上げた瞬間、彼の視線はその鋭い眼差しを捉えた。血に飢えた獣の眼差し。その奥に、ほんの一瞬微かに、しかし確かに見覚えのある強い意志の光が宿っているような気がした。すぐにその光は獣の獰猛な眼差しに飲み込まれた。それは彼が見間違いをしたのだ。ラウル団長ではない。これはラウル団長を殺した恐ろしい魔族だ。その事実だけが彼の脳裏に焼き付く。恐怖が再び全てを覆い尽くす。身体が震える。純粋な生命の危機に対する恐怖。そして団長を殺した恐ろしい獣への怒り。その二つの感情が彼の心を支配する。
そして、彼の生まれつき鋭敏な嗅覚が捉えた。辺りに漂う血と鉄と魔族の匂い。その中に微かに、しかし抗いがたい匂いが混じっている。他の魔族の匂いとは違う。それは獣の匂いだ。強いオスの獣の匂い。そしてその匂いは、どこか懐かしいような、温かくなるようなかすかなもの。その匂いを嗅いだ瞬間、彼の身体の奥底が微かにゾワリと粟立ち、熱を持った。それは獣の匂い。しかしなぜ懐かしい? なぜ温かい? 戸惑いがよぎる。しかし、その感情から必死に目を背ける。考えるな。それは危険な魔族の匂いだ。汚らわしい匂いだ。ただ恐ろしい匂いだ。それだけだ。彼は自分に言い聞かせた。ラウル団長の匂いだなどありえない。
恐怖と怒りが彼の心の中で渦巻く。あの恐ろしい白き虎。ラウル団長の剣を持ち、団長のような戦い方をし、そしてどこか懐かしく温かくなるような理解できない匂いを放つ。その恐ろしい存在に対するかすかな羨望の揺らぎが生まれる。その圧倒的な力。人間では決して持ち得ない力。しかしその感情は恐怖と怒りにあっという間に圧倒される。意識することさえ難しい。そんな感情を抱いたことへの罪悪感と羞恥心の方が強く彼を苛む。
戦場はさらに混乱を極める。聖騎士団は壊滅した。仲間たちの叫び声が遠ざかっていく。彼はもう戦えなかった。身体が動かない。このままでは殺される。獣の本能、生存本能が彼の理性に突き刺さる。恐怖に駆られ、判断力は鈍りきっている。
彼は這うように死体の山を越え、仲間たちの屍を乗り越え、戦場から命からがら逃げ出した。身体中傷だらけだった。白き虎の咆哮が背後から地鳴りのように追いかけてくる。その咆哮が彼の耳に焼き付く。それは恐怖の音でありながら、どこか力強く魅惑を感じさせる音に聞こえた。
戦場から遠く離れ、安全な場所で彼は身体を休めた。全身痛む。心も深く傷ついている。
(ラウル団長…っ)
ラウル団長は死んだ。あの恐ろしい白き虎に殺されたのだ。恐怖。絶望。悲しみ。怒り。罪悪感。そしてあの白き虎への拭い去れないかすかな揺らぎ。その極限の葛藤の中で、彼の身体に微かな異変が起こった。皮膚の奥底が微かに熱い。そしてゾワリと粟立つ。それは獣の味覚や性の快感とは違う、もっと根源的な変化の兆候だ。身体の内側から何かが目覚めようとしているかのようだ。熱が、血が、内側で微かに蠢く。鼻腔の奥がチクリと疼く。嗅覚がさらに鋭敏になった感覚だ。微かな匂いも以前より鮮明に捉えられる。特に獣の匂いが。あの白き虎から感じた匂いが。手足の指先が微かにピリピリと痺れる。爪の形がほんの少し硬くなり始めている気がする。指の腹の皮膚が微かに厚みを増しているような。それは彼自身も全く気が付かない微かな変化だった。人間としての理性がその変化を認識できない。あまりに微かすぎるからだ。
団長を殺した相手への復讐心と、その相手への理解できないかすかな羨望。その矛盾する感情の凄絶な衝突が、彼の内なる獣の因子を静かに呼び覚ましたのだ。それはセドリックの獣堕ちの始まりだった。恐怖とかすかな羨望という歪んだ感情が彼の純粋さを蝕み始め、身体を獣へと変貌させる静かな呪いの発動だった。その後の彼の純粋な希望と獣への道のりが静かに始まった。団長を殺した相手への恐怖と復讐心、そして拭い去れないかすかな匂い。それがセドリックの心と身体に深く刻み込まれたのだった。
[chapter:絶望に芽生えし希望]
身体が重い。ボロボロだった。あの戦場から、命からがら這うように逃げ帰った駐屯地。そこは地獄だった。仲間の呻き声、悲鳴が響く。白い聖騎士団の鎧は、血と泥に汚され、無惨に転がっている。聖騎士団は壊滅したのだ。彼を含め、わずかな人間しか帰ってこれなかった。あの白き虎の猛攻によって。
最低限の治療を受けた。傷はかろうじて塞がったが、完全に癒えているわけではない。全身が軋むように痛む。血が足りない。力が入らない。重い身体を引きずりながら、それでも彼は歩みを止めなかった。
ここは駐屯地の野外病院と化した広場だ。至る所に傷ついた仲間たち。病床は全て埋まっている。簡易ベッドに、毛布に、直接地面に。重症な者ばかりだ。周りを見渡す。仲間たちの顔に希望の色はない。あるのは絶望と恐怖。あの白き虎の恐ろしさ、それは彼らの魂に深く刻み込まれてしまった。部隊の士気は著しく下がっていた。もう誰も戦いたくない。あの獣と相対したくない。あの咆哮、あの力。
心が冷える。絶望。悲しみ。罪悪感が彼を苛む。
(なぜ自分だけが逃げられた? 仲間たちはあの地獄で死んでいったのに…あのラウル団長ですら…)
そんな絶望に打ちひしがれている中、一人の騎士がボロボロになりながら駐屯地に帰還してきた。彼は深い傷を負っていた。しかし、その瞳には微かな光が宿っていた。彼は倒れ込むように医務官に抱えられ、掠れた声である情報を口にした。
「ラウル団長がっ…ラウル団長が生きているかもしれない…!!」
それは、ラウル団長が生きているという情報だった。
彼の心臓が再び大きく脈打った。ラウル団長が生きている? あの白き虎に殺されたと噂されていたラウル団長が? その騎士の言葉が耳に響く。
「魔族の砦に囚われていると…あの戦いの中で…あの獅子が…ライネルが言っていた…っ!」
希望。絶望に沈んでいた心に、一筋の光が差し込む。ラウル団長が生きている。救出できるかもしれない。我々の団長が…
しかし、その希望と共に別の感情が湧き上がる。あの白き虎。ラウル団長の愛剣を持ち、団長の面影を一瞬見せ、そして理解できない匂いを放っていたあの獣。
(もし、もし本当にラウル団長が生きているのなら、あの白き虎は一体?)
恐怖が微かに蘇る。そしてあの獣へのかすかな羨望の揺らぎ。それにまだセドリックは気づかない。今はそんなこと考えている場合ではない。ラウル団長が生きているかもしれないのだ。
希望にしがみつく。それが彼の心を突き動かす。団長を救出する。しかし現実を見る。この部隊の戦力では、とてもあのライネルの砦を攻めることなどできない。あの白き虎がいる限り。皆の顔に浮かぶ恐怖。誰かが行かなければならない。情報を確認しに。砦の様子を探りに。
彼は立ち上がった。身体はまだ痛む。しかし決意が彼を突き動かす。
「私が…行きます…」
彼の声に、周りの騎士たちが振り返る。驚愕の表情。
「セドリック、正気か?」
「あのライネルの砦に単身でなど!」
止めようとする声。しかし彼の決意は揺るがなかった。
なぜ自分が立候補したのか。自分でも完全に整理がついていない。周りの絶望している仲間たちに勇気を与えたかったからだろうか? 騎士としての責任感だろうか? それとも、あのラウル団長生存というわずかな希望にすがりたかったからだろうか? あるいは、純粋にもう一度、彼の憧れだったラウル団長に会いたかったからだろうか? その中にあの白き虎、あの獣の正体を知りたいという抑えきれない衝動があったことにセドリックはまだ気が付いていない。全てが混じり合っていた複雑な感情の渦。しかしその中心にあるのは、ラウル団長を救出するという目的だ。
セドリックは最低限の装備を整えた。剣。そして希望を胸に抱く。ラウル団長がライネルの砦に囚われている。夕暮れが近づき空が赤く染まる。彼は駐屯地を後にした。仲間の声を背に…獣の潜む砦へ…単身で。
身体の奥底が微かに熱い。鼻腔の奥がチクリと疼く。嗅覚が微かに鋭敏になっているのを感じる。能力が成長しているというのか…この極限の状態の中で…爪の根元がほんの少し硬くなっている気がする。指の腹の皮膚が微かに厚みを増しているような。
それは獣化因子の静かな発動だった。恐怖と希望と羨望と罪悪感と決意。その複雑な感情の渦の中で、彼の内なる獣が静かに目覚め始めていた。彼は獣へと続く道を歩み始めた。ラウル団長を救出するために。そして彼の知らないところで、彼の純粋さは蝕まれていく。
[chapter:獣の罠]
満身創痍の身体が、剣だけを携えた彼の若い身体に、鉛のように重くのしかかった。駐屯地を出てから幾日かが過ぎた。傷はかろうじて塞がったが、痛みはまだ全身を苛んでいた。食料も水も底をつきかけている。疲労は深い。それでも彼は歩みを止めなかった。ラウル団長が生きているかもしれないという、かすかな希望が彼を突き動かしていた。それが、この満身創痍の身体を前へ進ませる唯一の燃料だった。獣人に遭遇するかもしれないという恐怖も常に胸にあった。セドリックは既に魔族の領域へと深く足を踏み入れているのだから。
そして、砦が近いことを示すように、肌を撫でる空気が変わるのを感じた。今までとは違う、重く湿った空気。そして、彼の生まれつき鋭敏な嗅覚が、微かに鼻腔を刺すような匂いを捉えた。獣の匂いだった。血生臭く、しかしどこか甘くねっとりとした匂い。それはあの戦場で嗅いだ魔族の匂いだが、それだけではない。もっと根源的な、生命の匂い。そして、どこか抗いがたい魅力を感じる匂い。緊張が全身を走った。身体が硬直する。獣が近い。魔族の本拠地だ。
その匂いの中に、一瞬あの戦場で見た恐ろしい白き虎から感じた、どこか懐かしく温かくなるような、微かなものが混じっているような気がしたが、戦場で仲間たちをたやすく屠るその力の恐怖と傷つけられた仲間への怒りに彼はその思考を打ち消した。心の微かなざわつきがあったことに、彼は見ないふりをした。それは恐怖だけではない、別の感情だった。白き虎へのかすかな羨望。あの力、あの匂い。それがこの匂いと響き合うのか? 違う。そんなはずはない。これは危険な匂いだ。汚らわしい匂いだ。考えるな。それはただ危険な獣の匂い、それだけだ。彼は自分に言い聞かせた。
セドリックは立ち止まった。これ以上無警戒に進むのは危険だと理性は告げた。周囲を見渡す。遠くに黒い影が見える。山脈の麓に築かれた巨大な建造物。砦だ。ライネルの砦。ラウル団長が囚われているという砦。心が昂ぶる。希望。ラウル団長があの砦に…生きているかもしれない。早くあの砦に潜入して、団長に会いたい。そんな逸る気持ちを理性で必死に抑えた。
彼は慎重に茂みに身を隠した。そして遠くから砦を観察することにした。数日間、毎日同じ場所から砦の様子を探った。まずは構造を把握する。どこから潜入できるか…見張りの数…弱点は…満身創痍の中、理性的に考える。ラウル団長に会うために。救出するために。
城を観察し数日が経ち、彼はあることに気が付いた。夜更けになると、砦の警備が一切いなくなるのだ。見張り台から兵士の気配が消え、巡回も途絶える。それは毎晩夜更けの定刻になると必ず起こった。
(なぜだ? なぜ夜に警備がいなくなる? 魔族は夜に活動するのではないのか?)
戸惑いがよぎる。しかしその理由を知る由もない。獣が深夜に性の交歓をしているからだなど、人間である彼には想像もつかないことだった。彼はただ目の前の事実に希望を見出した。これはチャンスだ。潜入できる絶好の機会だ。毎晩同じ時間に、同じ場所から砦の内部に潜入できる。ラウル団長を救えるかもしれない…
彼は決意した。次の夜、潜入する。ラウル団長が囚われているという砦へ。不安と緊張が走る。あの白き虎に遭遇するかもしれない。しかしラウル団長に会えるかもしれないという微かな希望が彼の恐怖を微かに相殺した。そしてその心の中には、獣へのかすかな好奇心が隠されていることに見ないふりをしながら。
夜が来た。砦の外はいつもの通り静まり返っていた。夜更けの帳が降りる。セドリックは、潜入を決意した夜の静寂の中に身を置いた。警戒心を最大限に高めながら、砦の裏手へと慎重に近づく。周囲には獣人の気配はない。あの獣の匂いはしかし、近くになっている。空気そのものがねっとりとした獣の匂いを纏っているかのようだ。セドリックの嗅覚は獣化因子の覚醒によって微かに鋭敏になっていたが、彼はそのことに気づかず、単に自分の嗅覚がこの極限の状態においてさらに成長しているのだと思っていた。身体に起こり始めている微かな異変、皮膚の熱、鼻腔の疼き、爪の硬さ、指先の痺れといった兆候も続いていたが、彼はそれらを疲労や傷の影響だと考え、獣化の呪いだとは全く気づいていなかった。ラウル団長を救出するという希望と、白き虎への恐怖、そしてかすかな獣への羨望が混じり合った複雑な感情を胸に…彼は事前に調べておいた潜入経路から砦の内部へと潜り込んだ。壁を登り、窓をすり抜け、隠し通路を進む。身体はまだ痛む。満身創痍の身体に鞭打つ。しかしラウル団長への思いが彼を突き動かしていた。
(早く団長に会いたい…私が団長を救うんだ…)
砦の内部は暗く静まり返っていた。獣人たちの気配は遠い。彼の鋭敏な嗅覚をもって周囲の匂いを慎重に探る。様々が匂いがセドリックの鼻腔を掠める。魔族の匂い、血の匂い、土の匂い。そして微かに温かいような匂い。あの白き虎から感じた、理解できない匂いの欠片。
そして。ある部屋から強い獣の匂いが漂ってくる。それはあの砦の外で感じた獣の匂いだが、比べ物にならないほど濃厚で、甘く、そして生々しい獣の性の匂いだった。複数の獣の匂いが混じり合っている。
身体が熱くなる。そして微かに震え始める。皮膚の奥底がゾワゾワと粟立つ。鼻腔の奥がチクリと疼く。全身の毛穴が開いていくかのようだ。彼の内なる獣が騒ぎ出す。何かに目覚めようとするかのようだ。あの白き虎から感じたどこか懐かしく温かくなるようなかすかな匂い。それがこの濃厚な匂いと繋がっている? 自分の身体に起こり始めている微かな異変が…
(この匂いに体が反応している? 何だこの感覚は? 昨夜よりも強い。なぜ身体がこんなに熱い? なぜ震える? なぜ興奮している?)
自身が興奮してしまっていることに彼は再び気が付いた。それは恐怖による震えとは違う。身体の内側からの高揚感。ドクン、ドクンと心臓が速く打つ。荒い呼吸。下腹部が微かに疼く。肉棒が熱を帯び始めている。
しかし、今朝団長に誓いを立てた。その誓いを思い出す。獣の匂いなんかに負けてはならない。いけない。今は。今は。理性は必死に働こうとする。団長を救う。その目的だけを…
湧き上がる身体の熱と心のざわつきを必死に抑え込む。あの部屋から漂う強い獣の匂いから距離を取ろうとする。しかし身体が勝手に部屋へと引き寄せられているかのようだ。そして部屋が近づくにつれて。音だ。壁の向こうから激しい音が漏れ聞こえてくる。それは獣同士の咆哮にも似た激しい喘ぎ声。肉がぶつかり合う音。べちゃべちゃと淫らな水がはじける音。それは紛れもない性の音だった。獣たちが互いの身体を貪り合い、快感に溺れている生々しい音。
セドリックの興奮はさらに昂った。身体の熱が爆発的に上昇する。股間が猛烈に熱くなる。ドクン、ドクンと肉棒が脈打つ。硬くなっていく。音。匂い。そしてこの身体。なぜこんなに。理性は悲鳴を上げた。
(逃げろっ…!見てはならない…っ!)
しかし獣として目覚め始めた本能が抗いがたい衝動へと変わる。あの音と匂いの中に飛び込みたい…
彼は部屋のドアの目前までたどり着いた。そこから強い獣の性の匂いが直接彼の鼻腔を、そして全身を直撃する。内側からの欲情と外からの刺激が結合し、彼を獣の発情へと叩き込む。そして気が付いた。ドアが少し空いていることに。ほんの僅かな隙間だ。しかしそこから部屋の内部を覗くことができる。
葛藤。恐怖。理性。そして抗いがたい獣的な好奇心。そして欲望…見てはならない。こんな、こんなものを。理性は叫ぶ。今朝の誓いは。しかし身体が勝手に動いた。震える手でドアに触れる。冷たい金属。そして覗いてしまった。部屋の隙間から。
目に飛び込んできたのは信じられない光景だった。薄暗い部屋の中。そこには二匹の獣がいた。巨大な獅子獣人。ライネルだ。そしてその下に組み敷かれている白い虎。あの白き虎だ…あれほどの恐怖と葛藤を植え付けた恐ろしい白き虎が。
ライネルは白き虎の背中に乗り、腰を激しく突き上げている。ライネルの巨大な獣の肉棒が、白虎の内部に深く強く挿入されているのが見える。まがまがしい固く大きく反り上がった獅子の肉棒が、白虎の肉色の秘訣に深く強く沈み込み、猛烈な速度で突き上げられている。肉がぶつかり合う音、水が弾ける音。それが目の前で行われている。白き虎の身体は大きく力強い…しかし、今はライネルに完全に組み敷かれている。その白い美しい毛並みが乱れている。身体が震えている。そしてその喉から人間の悲鳴とも獣の唸り声とも違う、信じられないほど甘美で煽情的な嬌声が漏れ出ている。それはまるで発情した雌猫のような嬌声だった。
「ゥルルルルル…!!ハァ…ハァ…グルゥァァァァッ…!!!」
白虎の声が激しく響き渡る。その光景を見て彼の脳が白くなった。恐怖、驚愕、そして抗いがたい興奮。美しい毛並み、力強い筋肉、そしてライネルに弄ばれ快感に溺れているその姿。それはまさに獣の饗宴だ。剥き出しの欲望。生の快感。そして支配と従属。そしてそのあえぐ白き虎の顔に目が釘付けになった。血に飢えた獣の眼差し。しかし快感に歪んでいる。その顔、その乱れた表情。ラウル団長? その顔に確かに自分が憧れたラウル団長の面影を重ねてしまった。あの厳格だったラウル団長が。こんな姿に…ライネルに組み敷かれ獣として快感に溺れている。混乱。絶望。悲しみ。そしてそれらを全て焼き尽くす強烈な欲望。
(白き虎…っ!…なぜ…なぜラウル団長を…思い出す…っ!!)
彼はもう自分を抑えることができない。人間としての理性など意味をなさない。部屋の隙間からその獣の饗宴を覗きながら、彼は一心不乱に自を慰め始めた。勃起した熱い肉棒を必死に擦り上げる。ドクン、ドクンと脈打つ肉棒が、握られた手の中で熱を帯びていく。
(ああぁっ…!!気持ち…いいっ…ラウル…団長っ…!!)
目の前の光景、耳に響く音、鼻腔を焼く匂い、それら全てを吸収するように。あえぐ白き虎。ライネルに激しく侵されている白き虎。ラウル団長の面影。その姿が彼の肉棒を猛烈に刺激する。激しく速く擦り上げる。そして身体がどんどん獣の姿になっていく。意識はない。夢中だ。快感に、欲望に支配されている。
快楽が溢れれば溢れるほど、皮膚が熱く震える。白い微かな体毛が生えてくる。耳の形が変わっていく。鼻先が湿っていく。爪が硬くなる。
(気持ちいい…っ気持ちいい…っ団長…あなたのその姿ッ…もっと…もっと…っ!!)
獣として目覚め始めた彼の身体は快感を猛烈に求める。そして目の前の白き虎、ラウル団長の面影。それが彼の獣欲を無限に掻き立てる。彼の理性はその身体の変化に全く気が付かない。ただ目の前の光景と自身の身体から湧き上がる快感に完全に集中している。
ライネルは白き虎の背中に乗り、腰を突き上げ続ける。ズチュン、ズチュンと深い音が響く。
「グルルルル…ガァアッ…!!アア…ッ!!…ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァァァ!!」
白き虎は嬌声を上げる。身体が震える。そして。白き虎がひときわ激しい咆哮を上げた。快感の絶叫だ。
その咆哮と共に、白き虎の身体からすさまじい勢いで大量の精液がまき散らされる。濃厚で熱い獣の精液の匂いが一気に部屋中に充満する。そして扉の隙間を通して彼の鼻腔にも直接飛び込んでくる。その強烈な匂いに当てられて。彼の身体も耐えきれなくなった。
「はぁ…はぁっ…!!だんちょ…うっ…あああぁぁぁぁっっ!」
彼の口から人間の声ではない獣の絶頂の叫びが爆発した。
同時だった。白き虎の絶頂と彼の絶頂が重なった。身体の奥底から熱い精液が噴き出す。勃起した肉棒から白い液体が勢いよく飛び散る。快感の嵐。身体が痙攣する。脳が痺れる。
「はぁ…はぁ…はぁ…うぅ…っ」
快感の余韻に呆然とする。呼吸が深くなる。そして一瞬絶頂を迎えたことにより理性を取り戻した。
(私は…何を…っ)
その瞬間。目の前。白き虎を満足げに組み敷いているライネルと目が合った。ライネルはセドリックを見てにやりと笑う。その瞳に深い愉悦と、そして全てを見抜いている冷たい光が宿っている。ライネルは。気づいていた。彼の潜入に…彼の獣化に…彼が覗いて自慰していることに…全てを知っていたのだ。
身体中に警鐘が打ち鳴らされた。
(しまった…!!見つかった…捕らえられる…!!)
獣の本能と人間の理性の双方が叫び声をあげる。生存本能、恐怖が彼の全身を突き動かす。彼はすぐにその場を立ち去った。音を立てないように素早くそして慎重に。恐怖が彼を突き動かす。あの光景。それによって自らの中に生まれた悍ましい衝動。そしてすべてを見抜いているかの追うなライネルの眼差し。砦から這うように抜け出し、アジトに逃げるように戻ってきた。
満身創痍の身体が震えている。あの恐怖に呼吸が乱れている。興奮に心臓が激しく打っている。獣の匂いが、まだ鼻腔に焼き付いている。あの光景が、目に焼き付いている。そして、自身の股間の、獣のように熱く、精液に濡れた肉棒の感触が…
しかし、思い出すのは、あの美しい白虎の姿。ライネルに組み敷かれ快感に溺れていたあの姿…そして白虎の表情に重なるラウル団長の面影。
(まさか…団長は…あの白き虎は…っ!!)
もう確信に近い感情が湧き上がる。きっとあの白き虎はラウル団長なのかもしれない。彼が憧れたラウル団長が…魔族に、獣に、そしてライネルに快感に堕ちていた。人間の団長を失った喪失感に改めて感じた、深い絶望、恐怖…しかしそれらを全て塗りつぶしていく強烈な興奮。そして獣欲。
身体の内側から収まらない興奮が湧き上がる。股間が熱い。肉棒が再び硬く屹立する。
(ラウル団長…白き虎…快感に溺れていた、あの団長が…っ!!)
彼は抗えなかった。再び自らの肉棒を手に取り、激しくこすり始める。何度も、何度も自慰を繰り返した。あの美しい白き虎、ラウル団長の姿を思い出しながら。あの甘美な嬌声。まき散らされた精液。何度も、何度も…それは朝まで続いた。自身の身体がどんどん獣の姿に堕ちていくのに全く気が付かないほど夢中だった。体毛が濃くなる。耳が垂れ始める。鼻先が湿る。爪が硬くなる。そして意識を失った。快感と疲労で。彼は知らなかった。あの夜、彼の純粋な心は完全に打ち砕かれ、彼は獣の世界へ決定的な一歩を踏み出したことを…憧れだったラウル団長の堕ちた姿を目撃し、それに獣として反応してしまったことを。ライネルの巧妙な罠に完全に嵌まってしまったことを。
そして夜明けにはほとんど人間としての姿を失いかけていることを…そして、その快楽の残滓に包まれたまま意識を手放した。そこにはもう人間の形をしたセドリックはいなかった。
彼は獣へと堕ちた。欲望に汚された。あの白き虎の影に誘われて…
[chapter:獣に導かれし夜、憧憬の檻へ]
夜が来た。暗い。しかし闇は彼を妨げない。身体は軽い。痛みも遠い。身体が変わっていくのを感じる。全身を覆う密生した柔らかくも硬い体毛。耳の形が垂れ下がり始めている。鼻先は湿る。爪は硬い。彼の短い尻尾が微かに揺れる。獣化が進んでいる。しかし、そのことを自覚する理性が残されていない。体が獣欲にまみれ人間としての思考は消えた。あるのは衝動、欲望、快感への渇望。そしてあの場所への強い引き寄せ。
彼の身体がおのずと動き出す。行くべき場所へ。あの部屋へ…かつて彼を突き動かしたラウル団長を救うという目的はもはやない。彼の短いしかし力強い足を動かすのは、強くなっていくあの白き虎への獣としての憧れでしかないのだ。強きオスへの根源的な憧憬と欲望。それが彼を突き動かす。
足取りが速い。かつて満身創痍の身体を引きずっていたのが嘘のようだ。獣化が進んだおかげで身体が軽い。素早く静かに砦へ近づいていく。獣への恐怖や不安も、白き虎への憧れ、そして獣欲にかき消されている。
昨夜と同じ潜入経路から砦の内部へと潜り込んだ。壁を登り、窓をすり抜け、通路を進む。身体は軽快だ。まるで自分の身体ではないかのようだ。しかし、今はそれが心地よい。
砦の内部は暗い。しかし彼の獣化した目、鼻、耳は闇の中でも全てを捉える。獣人たちの気配は遠い。
彼の異常に鋭敏になった嗅覚が周囲の匂いを捉える。血の匂い、魔族の匂い。そして強い獣の匂い。砦全体にその匂いがこもっているかのようだ。
しかし昨夜と違う。あの濃厚で甘く生々しい性の匂いがしない。獣の匂いはするが、あのいやらしい匂いがないのだ。
微かに脳裏によぎる。しかしその理由を理解する知性はない。ただ獣の匂いだけ。そしてあの白き虎から感じたどこか懐かしく温かくなるような匂い。その匂いが彼の内なる獣をさらに騒がせる。身体が熱くなる。ゾワゾワと粟立つ。鼻腔の奥がチクリと疼く。股間が熱を持つ。肉棒が期待に硬く勃起する。
獣の本能が彼を突き動かす。もはやためらいなどない。迷いなどない。昨夜快感に溺れてしまったあの部屋へと足がおのずと向かう。獣の匂いを辿って。
廊下を進む。獣の匂いがどんどん強くなっていく。そしてあの部屋のドアの前までたどり着いた。
ドアの隙間はない。閉まっている。しかし躊躇はない。
(早く…!はやく…!)
彼は獣の本能に導かれそのドアに手をかけた。ドアノブを回す。カチリと小さな音。鍵は掛かっていない。ライネルの罠…しかしそんなこと彼の頭にはない。
そしてドアを開けた。
目に飛び込んできたのはあの部屋だ。そしてそこにいる彼。部屋の中は薄暗い。しかし彼の獣化した目は全てを捉える。中央に置かれるベッドの上に鎮座しているあの巨大な身体。全身雪のように白く力強い毛皮に覆われた虎!
(白き虎…団長…っ??)
彼はベッドの上に悠然と座っていた。その瞳は暗闇の中でも光を放っている。獣の眼差し。しかしどこか穏やかな力強さも感じさせる。そして、白き虎の眼差しが彼を捉えた。セドリックの眼差しと交差する。身体が硬直する。しかし恐怖はもうない。今セドリックが目の前の獣に感じているのは圧倒的な憧れ。そして彼に対する強烈な獣欲。あの白き虎、彼が憧れたあの力あの匂い。その存在が目の前にいる。セドリックの内側で悦びが爆発的に高まる。
(会えた…!会えた…!あの白き虎に…!)
身体が勝手に震え始める。それは恐怖ではない。悦びと興奮だ!鼻腔の奥がチクリと疼く!身体が熱い!股間が猛烈に疼く!はちきれんばかりに勃起した肉棒が熱を放つ!
「あぁっ…はぁ…はぁ…ハァッハァッ…うぅぅぅぅ…っ」
犬のような呼吸が彼の口から漏れ出した。獣のようなうなり声が溢れる。それは悦びであり獣欲でありそして満たされることへの期待だ。そして、彼の身体が、その喜びに耐えきれなくなった。
「アァァァアアァァァアァ…ッッ!!!」
溢れ出す。彼の熱い精液が勢いよく噴き出した。触れてもいないのに、勃起した肉棒から白い液体が勢いよく飛び散る。そしてセドリックの変わりゆく体毛、垂れ始めた耳、湿った鼻先、短い尻尾、その全てが悦びと興奮に震える。絶頂を迎えその快楽を吐き散らかす。白き虎を目の前にして、会えた!その悦びと興奮で身体を制御できない。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
呼吸が乱れる。まるで犬のように舌を出し荒い息を繰り返す。身体が震える。そして口元から涎がこぼれ落ちる。それはもはや人間の仕草ではない。セドリックの身体はもう犬獣人の身体に作り替えらえたのだ。全身を覆う密生した体毛。垂れ下がった耳。湿った鼻先。そして激しく揺れる短い尻尾。
その時、ベッドの上に鎮座していた白き虎が口を開いた。
「セドリック…」
その声…!!その声は紛れもなく!
「よくきたな」
その声はラウル団長…!!
「褒美をくれてやる」
(ラウル団長の褒美…美しい白き虎となられたラウル団長…!あのあこがれの団長が…私に褒美を!)
セドリックの内側で純粋な悦びが爆発する。人間としての憧れと獣としての従属全てが混じり合い、ラウル団長への根源的な愛情へと変わる。彼の尻尾が激しく激しく揺れる。犬が主人に会えた時のように。犬の本能だ。
(嬉しい…!嬉しい…!)
身体が勝手に悦びを表す!身体が勝手に動く。足が白き虎のいるベッドへ向かう。もはや戸惑いはない。今は何もセドリックを縛らない。
そして彼は白き虎の胸に飛び込んだ。力強い身体、白い毛皮。温かい。あの懐かしく温かい匂いがすぐそこに。ラウル団長の匂い。そして獣の匂い。彼の憧れの匂い。まるで犬が主人に甘えるみたいに…彼の白い毛皮に顔を擦り付ける。彼の匂いを深く吸い込む。あの懐かしく温かいそして力強い獣の匂い。そしてその顔を白虎の口に近づけた。白き虎に甘えるように…心の底で望み続けたあの団長にキスをした。それは忠誠であり愛情でありそして獣としての本能だった。
白き虎の熱い舌がセドリックの口の中に差し込まれる。大きく力強い舌が彼の口内を貪るように絡め取る。絡まる獣の舌。そして唾液。白き虎の唾液。甘い。そして強い獣の匂いがする。白虎から放たれる濃厚な獣の匂い。そしてあのライネルの唾液で感じた甘美な獣の味覚。それが今白き虎の唾液となってセドリックの口内に流れ込む。
直接感じる白き虎の匂いと味覚。それはセドリックがずっと憧れていた匂いだ。懐かしく温かくそして力強いラウル団長の匂い。そして獣の性の匂い。
セドリックは歓喜した。彼の内側で快感が爆発する。脳が痺れる。全身が震える。白き虎の舌が彼の口内を貪る。荒々しく、しかし彼はその支配される悦びを知ってしまった。あのライネル様に組み敷かれた白き虎。そして今その白き虎に貪られている自分。それは何よりのご褒美だった。あの快感。あの匂い。あの味。そして白き虎の力強い舌の動き。
「んんんっ…ぁっ…くぅんっ…!!きゃん…! きゅん…! くぅぅん…!」
彼の口から人間の声ではない、かわいらしい子犬のような鳴き声。獣の絶頂の叫びが爆発した。身体が再び絶頂を迎えた。射精。彼の身体から熱い精液が再び噴き出す。勃起した肉棒から白い液体が勢いよく白き虎の白い毛皮に飛び散る。彼の完全に獣化した身体、密生した体毛、垂れ下がった耳、湿った鼻先、短い尻尾。その全てが悦びと興奮に震える。
白き虎はセドリックの獣としての純粋な絶頂、かわいらしい鳴き声、そして溢れ出る精液を見てさらに愛情と支配欲を強める。この純粋な獣。お前は俺の飼い犬だ…
白き虎はセドリックの犬の身体をたやすく持ち上げた。かつて彼が憧れそして恐れたラウル団長の圧倒的な力。それが今セドリックを抱きしめている。二人のの身体はもはや人間のそれではない。獣のしなやかさと強さを備えている。
そして何倍も大きなその白き身体でセドリックを組み敷いた。ベッドの上に。力強い腕ががセドリックの身体を固定する。セドリックは彼の重みに喜びを感じ身を委ねる。
「グルルルゥゥゥゥ…」
ラウルの唸り声が、セドリックの耳元で響く。その大きな体に押さえつけられ、その耳元で聞こえる低く力強い鳴き声に身体が支配され震えが収まらない。ただその震えは恐怖からくるものではない。これから生まれる激しい快感への期待に、切望したラウルと一つになれる喜びに体が震えてしまう。ラウルの剛直が、セドリックの入り口を捉える。熱く硬いそれから、ラウルの体温が、獣としての欲望がセドリックに伝わる。
(ああぁっ…ラウル団長…っ!!はやくっ…わたしに…ラウル団長の…”それ”を…くださいっ…!!!)
「くぅぅんっ…ハァッハァッ…」
もはや人の言葉を忘れ、強請るような甘えるような鳴き声をだしてしまう。そして、セドリックが待望するそれが…ラウルの剛直がセドリックを突き刺した。
「あぁあっ!!はぁっ!…ラウル…だんちょうっっ!!!」
白き虎はセドリックを獣のように後ろから激しく犯す。ラウルの赤黒くまがまがしい、そしてとげ付きの大きな肉棒がが完全に獣となったセドリックの内部を容赦なく抉っていく。
ブチュゥッ! ドプゥッ!
という生々しい水音と肉が突き破られるような音。
セドリックの全身に電撃のような衝撃が走った。脳が白くなる。視界が歪む。意識が飛びそうになる。
初めて感じる獣としての性交。
それはあの自慰行為の快感とは比べ物にならない。白き虎の大きなちんこが彼のケツの穴を容赦なく突き破り奥へ奥へと侵入してくる。
「きゃん…! きゅん…!あぁぁっ…はぁっ…!! くぅぅぅぅん…」
彼の口から人間の声ではないかわいらしい犬のような、発情した雌犬のような鳴き声。獣の絶叫が爆発した。それは苦痛ではない。それは純粋な快感の叫びだ。
セドリックはは泣きわめいた。快感に身をよじり激しい息を吐き、甲高い鳴き声のような声を上げる。
(もっと…!もっと…!ラウル様の…その力強い雄を…っ!!)
その声に応えるように白き虎の大きな肉棒はセドリックを容赦なく突き立てていく。深い強い突き上げ。身体が震える。
そのあまりにも巨大な快楽の大きさにセドリックは何度も何度も絶頂を迎えてしまう。精液がセドリックの獣の毛を濡らし、潤滑油となって、摩擦するセドリックのペニスに快感を与えていく。彼の短い尻尾が絶頂のたびにピクピクと跳ね上がる。
白き虎はセドリックの快感に満ちたかわいらしい鳴き声を聞き、その身体の震えそして繰り返される絶頂を感じてさらに欲望を高める。
「グルルルゥゥゥ…セドリック…俺のかわいい犬よ…」
白き虎は喉の奥で獣の低いうなり声をあげたと思うと…
「ハァ…ハァッ…グルルゥ…!!…アァぁっ…!!
「ウォォォォォォォォォォォォォォォォン!」
白き虎は激しい咆哮を上げた。それは支配者の咆哮であり性の咆哮でありそして番への求愛の咆哮だ。
そして自らのため込んだ快楽を…あふれるばかりの獣欲を…
セドリックに放った。
白く熱い獣の精液がセドリックのケツの穴の奥深くへと猛烈な勢いで注ぎ込まれる。
(あぁぁぁっっっ…!!ラウル…さま…ぁっ…これが…獣の…快感っ…!!)
セドリックはさらなる強烈な快感に身体を硬直させた。脳が白くなる。全てが消え去る。残るのは白き虎との肉体的なつながり。そして快感だけだ。
二匹は最上の快楽に包まれた。獣として完全に満たされた瞬間。
白き虎はセドリックの背中で身体を休める。セドリックは彼の重みを感じながら身体を寄り添わせる。彼の短い尻尾が白き虎の身体に絡みつく。
それは獣になれた幸せ。
二匹はもう人間ではない。彼らは獣だ。
白き虎はセドリックの白い毛皮に顔を埋める。セドリックは白き虎の温かい重みを感じながら彼の獣の匂いを深く吸い込む。
それは喜びであり愛情でありそして永遠に続くであろう獣としての性の悦びの始まりだった。
セドリックはラウルのペットとなったのだ…人間の身体を捨てて犬獣人として…