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魔法少年オスレイヤー

  もやもやとした不思議な空間の中で狼の少年は漂っていた。

  何処かも分からない。暑いのか寒いのか。

  上に向かっているのか下に向かっているのかも。

  何もかも分からない。

  そんな空間で。

  自分の手より少し大きいぐらいのおたまじゃくしが唐突に現れた。

  でも、なぜか驚きと言う感情が生まれない。

  まるであたかも当然のような。

  

  「さぁ、ミユ!変身だ!」

  

  不思議な生物の声に少年―ミユは頷いた。

  どろり、と不思議な生物は粘度の高い液体に変わった。

  口に含むと形容しがたい味が広がり、ミユは顔をしかめる。

  体が熱くなって…ぱぁ、と光を放った。

  光が収縮すると、そこにミユという少年はいなかった。

  銀の毛並みが風になびく。

  目隠しのようなサングラスがキラリ、と光る。

  ピチピチのタイツは体のライン―もちろん筋肉の筋や股間のモノも含め―をむしろ主張すらしているようだ。

  手に持つステッキは時折ブルブルと自然に動く。

  ミユはステッキを構えて叫ぶ。

  

  

  「魔法少年オスレイヤー!悪い怪人さんはお仕置きしちゃうぞ!」

  

  

  [newpage]

  

  チュンチュン、と小鳥のさえずりが聞こえてきた。

  ミユはベッドの上でパチパチと数度瞬きをする。

  今のは…夢か。

  何だか不思議な夢だった。

  というか魔法少年ってなんだろう。

  昨日読んだお話のせいだろうか。

  主人公が変身して悪者をやっつける。そんなお話。

  ふぁ、とアクビをするとミユはベッドから立ち上がった。

  

  

  空がきらり、と輝く。

  

  

  今日の学校、そういえば体育があるんだった。

  それを思い出すとミユははぁぁ、とため息をついた。

  体育は苦手。50mは10秒。1000mは走りきれるかすら怪しい。ボールを使う競技だってからっきしだ。

  毎回憂鬱になってしまう。

  体育中止にならないかな、と叶いもしない願いをしていると…

  

  「みーくん、おはよー!」

  

  後ろから元気な声をかけられてミユは振り向く。

  そこにいたのは獅子の少年。

  ミユはにっこりと微笑み手を振った。

  

  「おはよー、とーくん!」

  

  ミユに追い付くとはぁはぁと荒く息をしながら獅子の少年―トウゴはにっこりと微笑んだ。

  少しその場で休み、二人は仲良く登校を再開する。

  今日体育やだねー、とかでも給食はフルーツポンチだし頑張ろう、とか。

  そんな当たり前の会話をして。

  

  

  空がきらり、と輝いた。

  

  

  授業もそこそこに、今日一番の憂鬱な時間である体育が始まった。

  今日はソフトボール。体操服に着替えて校舎に出た二人は同時にため息をつき顔を見合わせた。

  

  「ソフトボールだって。」

  

  「バッターボックスには立ちたくないなぁ」

  

  まぁそんなこと言っても授業は授業だ。

  二人には少々大きいグローブを手にはめてまずはキャッチボール。

  他の児童に比べて二人は酷くゆっくりとした動きである。

  運動ができる子からしたら見てるだけでイライラしてしまうだろう。しかし二人は至極真面目なのだ。

  と、そんな時。

  

  「あっ、みーくんごめん!」

  

  トウゴの投げたボールは大きく逸れてぽてんぽてんと遠くにまで転がり…校庭から飛び出すと近くの林へ行ってしまった。

  

  「大丈夫だよ!取ってくるからちょっと待っててね!」

  

  ミユは笑顔を浮かべ林に駆け出していく。

  

  

  空がきらり、と強烈に、輝いた。

  

  

  林の中は何となく不気味だ。薄暗く、空気が淀んでいるような気がする。

  ミユは眉を八の字にしながら林の中に行ってしまったボールを探していた。

  しかし、探せども探せどもお目当てのボールを見つけることが出来ない。そろそろ戻らないと先生にも怒られてしまう。焦りの気持ちが生まれた始めたとき。

  

  「ん?」

  

  ミユは視界の端に違和感を覚えて思わず声を出した。

  今、光ったような。

  視線をそちらの方に向けてみる。

  気のせい、ではなさそうだ。薄暗い林の中で何かが光輝いている。

  どくん、どくんとまるで鼓動するような光り方だ。惹かれるようにミユはその光の方向へ進んでいく。

  茂みの向こう。がさがさとかき分けてみると…その光は、何かの生き物のように見える。

  両手で優しく拾い上げて、マジマジと見てみた。

  ミユの両手に収まるほどの大きさであるそれは、真っ白なおたまじゃくしのようだ。

  

  「大丈夫?」

  

  ミユが話しかけてみると、白いおたまじゃくしは体の大きさに対して少々大きすぎる瞳をばっちりと開きミユの瞳をじっと見つめてきた。

  真っ黒な瞳からミユは目を離すことが出来ない。

  

  「君は…うん、すごく才能がありそうだ!」

  

  「へ?」

  

  白いおたまじゃくしの言葉にミユは思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。

  しかしそんなミユを無視しておたまじゃくしは言葉を続けた。

  

  「僕の姿も見えるし、綺麗な瞳をしてる。とっても優しい子だ!ねぇ君!僕に名前を教えてくれないかい?僕はタマル!」

  

  「え、あ、ミユ…アラノミユ…」

  

  ずずい、と目の前まで迫ってきたおたまじゃくし―タマルの勢いに押されながらミユは名乗った。

  うん、とタマルは頷くと真剣な表情で更にミユに迫る。

  

  「ミユ!実は色んな世界の平和を乱そうとする、ワルックっていう奴がこの世界に来てしまったんだ!」

  

  「え、あ、はぁ…」

  

  タマルの言ってることが分からない。

  いや言葉は分かるのだけれど突拍子も無さすぎて理解できないのだ。

  

  

  要約すると。

  元々ワルックもタマルも別の世界の住人で。

  

  タマルが後少しでワルックを捕まえられそうな所まで追い詰めたけど。

  

  なんとこの世界とタマル達の世界が繋がってしまい。

  

  ワルックが逃げ込んで。

  

  タマルも居ないしじゃあこの世界を乱しちゃおうぜ。

  

  みたいな感じだ。

  これで理解できたら柔軟性が高過ぎる、というかなんというか。

  ミユはただただぽかーんとした表情を浮かべるだけだ。

  で。

  

  「ミユ!そういう訳だから…君に頼みたいことがあるんだ!」

  

  「うん。」

  

  「僕と合体して、この世界を守ってくれないか?!」

  

  「…え?」

  

  「正義のヒーロー、魔法少年オスレイヤーとして、ワルックを捕まえて欲しいんだ!」

  

  まぁなんとベタな展開だろうか。

  最近まで見てた魔法少女ものの一話目みたいだ。

  …もちろんミユの答えは。

  

  「えっと…無理だよ、僕には…ごめんね、タマルさん。他の人に頼んでみて?…その、僕、今体育の途中だから戻らないと。」

  

  ミユは近くに落ちていたボールを拾い上げ立ち上がると全力でその場を後にした。

  逃亡である。

  まぁいきなりよく分からない生き物によく分からない事を頼まれればそうしたって仕方ないだろう。

  

  「あ、ちょっと!待ってよミユ!」

  

  タマルは驚いた表情を見せると浮かび上がり直ぐにミユの後を追った。

  [newpage]

  

  「あ、みーくん!」

  

  林から戻ってきたミユを見つけたトウゴは安心したような笑顔を見せ手を振る。

  戻ってくるのが少々遅かったので心配していたのだ。

  

  「ごめん、えっと、その…」

  

  しかしミユは困ったような表情を浮かべた。その理由は、直ぐに分かる。

  

  「おーい、ミユー!」

  

  聞き慣れない声。トウゴは首をかしげその声の主を探した。

  ミユの後方。そこには白いおたまじゃくし、としか形容の出来ない生き物が浮いているのだ。

  

  「…えっ、何?」

  

  余りにも現実離れしたそれに、トウゴも驚きを隠せない。

  怪訝そうな表情のトウゴにミユも首を振る。

  

  「分かんない…なんかいきなり世界を救って欲しいって言われるし…」

  

  「ミユ!お願いだよ!…あれ、君は…」

  

  トウゴを見るとタマルは首をかしげ―首じゃなくて全身なのだが―不思議そうな表情を浮かべる。

  

  「君も才能がありそうだね。ねぇ、君。名前を教えてくれないか?」

  

  「え、僕?えっと…トウゴ。ヤマフジトウゴ。」

  

  「トウゴか。ねぇ、トウゴ!実は色んな世界の平和を乱そうとする、ワルックっていう奴が…」

  

  「アラノ、ヤマフジ!そろそろ試合始めるぞ!」

  

  タマルの言葉の途中で先生の声が聞こえる。

  二人はびくっ、と体を震わせるとぎぎぎぎ、と錆び付いたロボットのように振り返った。

  少しずつ近づいてくる先生。見つかったら怒られるかも。そう思う二人。

  目の前にまで近付いてきたが…先生はいつも通りだ。

  

  「?どうした?二人とも。」

  

  二人のリアクションに首をかしげる先生。

  

  「え、あ、いや、その、な、何でもないです。」

  

  慌てて取り繕うミユ。

  もう一度ちらり、とタマルの居た方を振り返るが…そこには何も居ない。

  

  「…あれ、居ない…」

  

  確かに居たはずのタマルが居なくなっているのだ。

  幻…?

  二人は顔を見合わせてハテナマークに埋もれることしかできなかった。

  

  

  

  

  

  時間は流れ夕方。

  不思議な生物の事が頭に引っ掛かり何だか気持ちがざわつく。

  それはトウゴも同じようだ。

  

  「今日のおたまじゃくし、何だったんだろうね。」

  

  「わかんない…幻だったのかなぁ…」

  

  「うーん…」

  

  腕を組み考え込む二人。

  しばらくそうして考えていると、トウゴが唐突にあっ!と声をあげた。

  

  「どうしたの?とーくん。」

  

  「うん、僕、帰りにノート買わなきゃいけなかったんだ。」

  

  「そうなんだ。…じゃあ、また明日だね。」

  

  「またね!」

  

  そしてトウゴはとてとてと店がある方へ駆け出した。

  ぽつん、と一人になったミユは自宅の方へ歩き出す。

  と。

  

  「ミユ!」

  

  誰かに名前を呼ばれた。

  この声は聞き覚えがある。

  

  「タマル…さん?」

  

  呟くと、ミユの目の前に突然タマルが現れた。

  現れたタマルの表情は真剣そのもの。焦ってもいるようだ。

  

  「ミユ!今すぐトウゴを追いかけるんだ!大変なことになる!」

  

  「え、え?」

  

  「早く!」

  

  タマルの剣幕にミユは目を白黒させながらも駆け出した。

  

  

  

  

  

  

  気がついたら景色が白黒になっていた。

  白黒の木。白黒の空。

  それに似つかわない、鮮やかな黄色と黒の縞模様。

  上半身は裸。しかし見事な筋肉の鎧で覆われていて見るものを畏怖させるには十分だ。

  下半身もほぼ裸であり、紐のような下着で陰部を覆っているだけ。

  トウゴは腰を抜かしそれを見上げていた。

  

  「このガキを連れてこいって、何を考えてらっしゃるんだ?まぁいい。」

  

  ざっ、とそいつ―虎はトウゴに一歩近づいた。

  そしてまるで丸太のような逞しい腕を伸ばす。

  捕まってしまえばきっと、逃げることは叶わないだろう。

  しかし、助けを呼ぼうにもあまりの恐怖に声を出すことが出来ない。

  トウゴはぎゅっ、と目を瞑った。

  

  

  

  

  

  

  「とーくん!」

  

  白黒とカラーの境目でミユは目の前の状況に思わず叫んだ。

  手を伸ばすけれど、境目はまるで見えない壁でもあるかのようにその手を遮る。

  

  「封印されてるんだ。…ミユ!彼を、トウゴを助けられるのは君しか居ない。君が、変身さえすればきっと!」

  

  タマルの一言にミユは困惑の表情を浮かべるが、すぐに力強くうなずいた。

  

  「出来るか分かんないけど…でも、とーくんを助けなきゃ!」

  

  「よし!ミユ、手を差し出すんだ!」

  

  両手を差し出すミユ。そこに乗っかるタマル。程無くしてタマルは粘度の高い真っ白な液体に変貌した。

  

  (ここから先はミユの頭の中に話し掛けるよ。さぁ、僕を飲み込むんだ。)

  

  「分かった!」

  

  ミユは迷うことなくその液体を口に運んだ。

  苦いような、しょっぱいような、なんとも言えない味が口一杯に広がる。

  それをなんとか飲み込むと…ばぁ、とミユの全身が光り輝いた。

  光が収まると…そこに居るのは、普通の少年ではない存在だ。

  銀色の毛並みが風になびく。

  目隠しのようにも見えるサングラスがキラリ、と輝いて。

  体を覆うのは銀色のタイツ。体にぴったりとフィットしていて妙に艶かしい。

  ギャグボールのようにも見えるネックレス。

  片手に持つのは男性器を模した形のステッキ。

  

  (さぁ、行こう、ミユ!いや、魔法少年オスレイヤー!)

  

  「うん!」

  

  オスレイヤーは力強く頷くとステッキを縦に振るった。

  ヴン、と空間の裂ける音がして白黒とカラーの境目に穴が開く。

  オスレイヤーは迷わずそこに飛び込んだ。

  

  [newpage]

  

  「…ちっ、邪魔者が来やがったな。」

  

  腕を伸ばしていた虎は忌々しそうに呟くと空気を握るような仕草をした。

  ぎゅっ、と強く握ると何もなかったはずの空間から幅が広い剣が現れる。

  目を瞑っていたトウゴは恐る恐るといったように目を開いた。

  そこにいるのは、虎と…銀色の毛並みが眩しい、狼。

  

  「誰だ貴様!」

  

  「あ、えと、魔法少年オスレイヤーだ!その、そこに居る少年を解放してもらうぞ!」

  

  やたら言葉はたどたどしいのだが。

  

  「オス…?」

  

  「オスレイヤーだぁ?…よくわかんねぇが、このガキを解放するわけにはいかねぇな!出てこい!」

  

  虎は叫ぶと乱暴に足元へと剣を突き刺した。

  ゴゴゴゴ、と地鳴りがしてボコリと地面が膨らむ。

  オスレイヤーは足に力を込めて道から屋根へと跳び移った。

  直後、オスレイヤーの居た道の地面が割れ、そこから岩でできた竜が飛び出す。

  ガァァァァ!

  竜が遠吠えをすると、それだけで空気が震えガラスがバリン、と割れる。

  

  「やっちまえ、ドラゴ!」

  

  虎は勝ち誇ったように笑い叫んだ。

  

  

  (いいかい、ミユ。絶対に弱気なところを見せちゃ駄目だよ!)

  

  (そんなこと言われても…こんなのどうすればいいの?!)

  

  オスレイヤー…いや、ミユは半分泣きながら頭の中でタマルに話しかける。

  無理もないだろう。喧嘩だってしたことないのに、いきなり化け物じみた奴と戦え、と言われているのだから。

  

  (大丈夫、僕を信じて!)

  

  ミユを安心させるためにもタマルは力強い言葉をかける。

  

  (さぁ、オスレイヤー!攻撃だ!)

  

  

  「…ホワイトインク!」

  

  口を開き竜―ドラゴがオスレイヤーに迫る。

  すぅ、と息を吸いオスレイヤーはステッキを振りかざし叫んだ。

  空気が歪み、そこから白い液体が大量に飛び出しドラゴに降りかかる。

  ギャァァァ!

  ジュウ、という音と共にドラゴは苦しげに咆哮をあげた。

  ホワイトインクが虎の近くにも降りかかり地面を溶かす。

  強酸性の液体だ。あたれば無事ではすまないだろう。

  虎の余裕そうな表情が憤怒で歪む。

  

  「てめぇ…!」

  

  「もう一回言わせてもらう!その子を解放しろ!」

  

  「ざけんな!ドラゴ!こっちにこい!」

  

  ギリギリと歯軋りをしながら虎は地面に刺した剣を持ち上げドラゴを呼び寄せた。

  ゆらゆらと頼りなくドラゴは虎の元へと近づいていく。

  そして虎は手に持った剣でドラゴを貫いた。

  ギャ、という短い悲鳴の後、ドラゴと剣が光り輝き…シンプルだった剣が禍々しく変貌していた。

  刃の部分は赤黒く変色し脈動するように光り輝く。

  柄から伸びる肉の色をした触手状のものが虎の腕に絡まっている。

  よく見ると、先端は虎の体内に侵入していた。

  その影響なのかは不明だが、虎は異常に血走った目をオスレイヤーに向ける。

  

  「邪魔すル奴は…コロス!」

  

  宣言した直後。虎はガァァァァ!と理性も何も感じることができない遠吠えをあげると、オスレイヤーの前から姿を消した。

  いや、その様にオスレイヤーには見えた。

  

  「どこに?!」

  

  (ミユ!上だ!)

  

  タマルの声が聞こえて、オスレイヤーは迷うことなく前に跳躍する。

  刹那。先程までオスレイヤーが立っていた場所にクレーターが出来ていた。

  背筋がぞくりとして嫌な汗が額を伝う。

  なんとか体勢を立て直すオスレイヤー。

  ちらり、とトウゴの方を見ると、ピクリとも動かない。

  まだ生きているとは思うのだが…早く助けないと。

  

  「余所見たァ余裕だナぁ!!」

  

  ハッとしオスレイヤーは手に持っていたステッキで咄嗟に振り降ろされる剣を防いだ。

  ガギィ、と鈍い音。その力強さに両腕がじんじんと痺れ足に痛みすら感じる。

  

  「ぐっ!」

  

  「こんなモんか、おい!!」

  

  激昂する虎。腕に力を込めたまま、足を思いきり振り上げる。

  防ぐ手段を持たないオスレイヤーの腹部を直撃した。

  

  「ァァァァ!!」

  

  痛みから悲鳴を上げ、オスレイヤーの体が空に舞った。

  ずしゃぁ、と肩から着地をし何度か地面を跳ねる。

  強烈な痛みに、吐き気。オスレイヤーは悶えながら地面に手をついた。

  立ち上がらなければ。

  殺されてしまう。

  だけど、体は言うことを聞かない。

  

  (ミユ!)

  

  タマルの悲痛な叫びが聞こえる。

  

  「しメぇだ。」

  

  首元に剣が添えられた。

  冷たい鉄。なのに、嫌に暖かく感じる。

  このままでは…

  

  「じャあな」

  

  冷たく、酷薄な声が聞こえる。

  オスレイヤー…いや、ミユはいきすぎた恐怖から目を閉じることすら出来なかった。

  カツン、と音が聞こえる。

  ポスッ、と音が聞こえる。

  虎は顔を歪めた。

  

  「ガキィ!邪魔スんじゃねえよ!」

  

  虎の視線の先には、ガクガクと両足を震えさせながら石を投げるトウゴの姿。

  少しでもミユ、いやオスレイヤーを助けようとした、彼なりの攻撃。

  虎の体に傷一つつけることは出来なかったが…明確な隙が生まれる。

  そして。

  

  「とーくん!」

  

  オスレイヤーは叫び、立ち上がった。

  彼を守らなければ。その思いが、オスレイヤーを突き動かす。

  虎は牙を剥き出しトウゴの方へ向かっていた。

  考えている暇はない。オスレイヤーはステッキを強く、強く握りしめた。

  

  「ホワイトウォール!」

  

  振りかざされたステッキの先端が光る。

  地面が盛り上がり、トウゴを覆い隠すように白い壁。

  虎の振り降ろす剣の一撃はまたしても阻まれてしまった。

  虎の怒りは頂点に達する。

  

  「クソがァァァァ!!」

  

  半分獣のような咆哮をあげながら虎はオスレイヤーに襲いかかった。

  真っ直ぐ跳んでくる虎に、オスレイヤーは怯まない。ステッキをかざし…

  

  「ホワイトプリズン!」

  

  唱えると、ステッキの先端から水流が迸る。

  その液体は虎に振りかかると…ガキン、と硬度を増し、まるで鉄か何かのようになった。

  重さも同様のようだ。

  虎の体が落ち、まるで地面に縛り付けられたようになる。

  

  「なんっだ…これは!」

  

  状況を判断できない虎はがむしゃらに暴れる。

  しかしその白い鉄はヒビが入るどころかビクリともしない。

  はぁはぁとオスレイヤーは荒く呼吸をし唾を飲み込んだ。

  

  (捕まえられたけど、これどうするの?)

  

  頭の中でミユはタマルに話しかける。

  確かにこのままで、というわけにもいかないだろう。

  かといって、殺してしまうのはいかがなものか。

  しばらくの空白。

  

  (よし、ミユ!怪人は浄化しよう!)

  

  (浄化?)

  

  (そう!今から僕の言う通りにしてね?)

  

  タマルの説明が始まり…ミユは顔を真っ赤にする。

  

  (うぇ?!そ、そんなことしていいの?!)

  

  (大丈夫!それに、そうしないと怪人はまたきっとトウゴの事を狙ってくるよ?)

  

  (うぅ…わ、分かったよ…)

  

  そしてオスレイヤーは一歩虎に近づく。

  虎はというとまだがむしゃらに暴れているところだ。とはいえ疲れが出始めたのかその動きは緩慢。

  ドラゴとの同調も解けたのか剣は普通の物に戻っている。

  

  「なんだ…この野郎…」

  

  睨み付ける虎。オスレイヤーは…申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

  

  「えと…ごめんね、怪人さん。」

  

  「は…?」

  

  予想外の言葉に虎は訝しげな表情を浮かべた。

  オスレイヤーはちらり、とトウゴの方を見て、壁に覆われていることを確認すると、ステッキをぐるり、と回転させた。

  虎の体がふわり、と一瞬浮き上がりまた地面に落ちる。

  虎の体勢が仰向けからうつ伏せに代わり…そして尻を突き出すような形になる。

  何が何だか分からない虎はオスレイヤーを睨むことしか出来ない。

  オスレイヤーは手に持っているステッキ―先端は男性器な訳で―を虎の尻、もっと言うなら肛門にあてがった。

  

  「おま…まさか…止めろ!」

  

  何がこれから行われるのか理解した虎は悲痛な叫び声をあげる。

  オスレイヤーは本当に申し訳なさそうに…ステッキを虎の体内に捩じ込んだ。

  

  「ガァァァァ!!」

  

  ごりゅごりゅと体内に無理矢理侵入してきたステッキ―早い話がバイブである―が虎の腸内を、前立腺を抉る。

  その刺激に虎は目を見開き涎を垂れ流しながら叫んだ。

  

  「や、やっぱり痛いよね、ごめんね、怪人さん。でも、こうしないと…」

  

  謝りながらもオスレイヤーはステッキの抜き差しを繰り返し虎の腸内を抉り続ける。

  

  「ガァァッ、ァァッ!はっ、はぁっ…んぁぁぁ!」

  

  腸内の中で適度に振動し刺激を与えるステッキ。

  虎の声に少しずつ艶っぽさが増し、悲鳴がいつしか嬌声に変わっていた。

  目もトロンとし始め、顔が紅潮する。

  ほとんど紐のような下着も、膨張する肉棒を押さえつけることができなくなりその意味を失っていた。

  どう格納されていたのか聞きたくなるほどの大きさの肉棒はオスレイヤーがステッキを動かす度に先走りを飛び散らせブルン、と揺れる。

  分泌されていた腸液が肛門から溢れだした。

  グチュグチュと卑猥な水音と据えた臭いが虎をさらに堕として…もとい、浄化していく。

  

  「ぁっ、あぁぁぁっ!駄目だっ!いっぢまう…ぅぅぅ!!」

  

  叫ぶ虎。その言葉が示す通り、虎の肉棒はビクビクと小刻みに震え大量の先走りを溢れさせ地面を汚した。

  オスレイヤーはさらにステッキの速度をあげた。

  

  「あっ、がぁっ、んぁぁぁぁっ…ぁぁぁぁ!」

  

  「あ、えと…ホワイトウォーター!」

  

  「ぁぁぁぁぁぁ!!」

  

  虎の絶叫とオスレイヤーの呪文詠唱はほぼ同時。

  白目を向き叫ぶ虎は大量の濃い精液を地面に吹き出した。

  体内には熱い液体が溢れ、虎の腹が妊娠したのではないかと思うほどに膨れる。

  虎の射精は分単位で続き、地面には先走りと腸液と精液の水溜まりが出来ていた。

  やがて射精の勢いが弱まり、虎はその水溜まりにびしゃり、と落ちた。

  焦点の合わない目。舌をはみ出させ時折ぐへへ、と壊れたような笑みを浮かべている。

  

  「終わった…の?」

  倒れる虎の前に立つオスレイヤーは呆然と呟いた。

  

  (一応浄化は出来たけど…そうだ、この虎を仲間にしよう!)

  

  (どうやって?)

  

  (マジメタフォーゼだ!)

  

  ここにきてまた新しい魔法である。

  流れに流されるままにオスレイヤーは虎の肛門からステッキを抜き、空高くかざした。

  

  「マジメタフォーゼ!」

  

  半ばやけくそ気味に叫ぶと…ステッキから光が溢れだし、オスレイヤーの全身を覆った。

  眩い光り。それが収まると…

  

  「…ん?」

  

  オスレイヤーは違和感を感じ首をかしげる。

  何だか視線がやけに高い。父親の肩車よりもずっとずっと高いのだ。

  それに…

  

  「なんか、僕の手、おっきくなってるよ?」

  

  手も大きい。ぷにぷにとしていたはずの肉球もゴツゴツでカサカサだ。

  それに声が…やたら低いような。

  

  (ミユ。あそこにある鏡を見てみて?)

  

  首をかしげながらオスレイヤーはドスドスとカーブミラーの方へ向かっていく。

  …鏡に写ったのは、まぁ非常にガタイのいい狼だ。

  目隠しのようなサングラス、ネックレス代わりのギャグボール。

  全身タイツのせいで逞しい筋肉がむしろ強調されているようにも見える。

  

  「な、何これ!僕?!」

  

  自分の顔をペタペタ触りながらオスレイヤーは疑問たっぷりの声をあげた。

  

  (そうだよ!さぁ、怪人を仲間にしよう!)

  

  「ど、どうやって…」

  

  言いかけて、オスレイヤーは動きを止めると顔を赤くする。

  知らないはずの知識が頭の中で暴れまわったのだ。

  したことも見たこともない行為。

  それを行うことで怪人はオスレイヤーの仲間になるのだ。

  オスレイヤーの股間のモノがむくむくと膨らむ。

  その大きさたるや、子供の腕ほどはあろうか。

  ドスドスとオスレイヤーは倒れている虎に近づいた。

  

  [newpage]

  

  虎は未だに快楽の中でトリップをしているようだ。

  そんな虎をオスレイヤーは軽く持ち上げた。

  変身前はあんなに大きかった虎が、今ではとても小さく見える。

  まぁ、実際オスレイヤーが虎より圧倒的に大きくなっているのだから当然か。

  

  「怪人さん…」

  

  「ふぇ…?」

  

  間の抜けた声をあげる虎。

  オスレイヤーは瞳の奥にある種の光を宿しながら両腕で虎の両足を抱え上げた。

  タイツの股間部分が開き、大きく脈動する肉棒が外気にさらされた。

  まだ行為も何もしていないのに先走りが溢れ肉棒全体を、大きな玉をしっとりと濡らす。

  その凶悪とも言える肉棒を肛門にあてがわれた虎の表情が淫らに歪む。

  亀頭がズブズブと虎の中にゆっくりとした速度で沈んでいった。

  ステッキにより広げられていた肛門だったがそれでもオスレイヤーの肉棒は太すぎるようで、ミヂミヂと音が聞こえる。

  虎は歯を食い縛り痛みと快楽に耐えていた。

  無理矢理虎の中に侵入するオスレイヤーの肉棒。

  今は竿の半分ほどがその姿を隠している。

  

  「はぁっ…怪人さんの中…気持ち良い…」

  

  虚ろに呟きオスレイヤーは更に肉棒を奥に侵入させていく。

  ゴリュゴリュと虎の中を抉り、前立腺も刺激していく。

  

  「ガッ、ッァァ!んっ、んぁぁぁ!」

  

  声をこらえることが出来なくなった虎は唾液を撒き散らしながら嬌声をあげた。

  ズンッ、と一際強い衝撃。

  虎はオスレイヤーの肉棒を全て飲み込んだのだ。

  

  「ぁっ…んんん…っぁ…」

  

  空気の漏れるような喘ぎ声。

  オスレイヤーは腰を引きズルズルと肉棒を半分ほど抜き取り…そしてまた腰を虎に押し付けた。

  ズパン、ズパンと肉のぶつかる音。

  最初はゆっくりだったオスレイヤーのストロークが徐々に速度を増していく。

  

  「あっあぁぁ!怪人さん、凄いっ…んぁぁっ!」

  

  腰を動かす度送られてくる快感にオスレイヤーは吼えた。

  肉のぶつかる音にはやがてグチュグチュと水の音が混ざり始め、辺りに卑猥な臭いを撒き散らす。

  虎は蕩けた目で喘ぎながらオスレイヤーに向けて舌を伸ばす。

  何をするべきか本能で悟ったオスレイヤーは顔を虎に近づけ虎の唇を貪った。

  口内を犯し、舌を絡ませる。

  その間もオスレイヤーは腰の動きを止めることはない。

  唇を離すと二人の唾液が橋のように繋がる。

  

  「ふっ…フゥゥゥ…!」

  

  やがてオスレイヤーの動きが緩慢になり、ビクビクと腰が痙攣し始めた。

  そろそろ限界だと言うことだろうか。

  察知した虎は甘えるような、ねだるような視線をオスレイヤーに送りオスレイヤーを強く抱き締めた。

  肛門をきゅっ、と締め付ける。

  

  「あっ…ふぁっ…ォォォォン!」

  

  まるで本物の獣のような遠吠えをするとオスレイヤーは虎の奥まで肉棒を突き入れそこで果てた。

  凄まじい量の精液が虎の中を暴れまわり、孕ませようとする動きで虎の更に奥へ進んでいく。

  

  「ガァァァァ!!」

  

  凶悪な肉棒と射精に虎は白目を剥き叫び、こちらも大量の精液を吐き出した。

  宙に放たれた精液は対面にいたオスレイヤーを、そして虎自身を白く染め上げる。

  

  「フッ…フゥゥゥゥ!」

  

  臭いを嗅いだオスレイヤーは頬をつり上げ、射精しながらもなお腰を動かす。

  精液の奔流は勢いを増し虎の腹を膨らませた。

  

  「アガッ…!だ、らめらぁ!そんな、そん…うぇぇぇ!がぽっ…」

  

  嬌声と悲鳴の混ざった声をあげる虎。

  直後虎は逆流した精液を口から吐き出した。

  全身が、体内が精液に埋め尽くされた虎。

  やがて相手を蹂躙するような射精を終えたオスレイヤーは虎の肛門から肉棒を抜いた。

  ずるり、と半分ほど萎えた肉棒が外気にさらされると同時に広がりきった虎の肛門から大量の精液がボトボトと溢れだした。

  ずしゃあ、と地面に落ちる虎。すぐに起き上がるとオスレイヤーの汚れた肉棒をしゃぶった。

  様々な臭いが虎の脳を揺さぶる。

  虎の表情は崩れきり、だらしなく、それでいて卑猥だ。

  オスレイヤーは虎の頭を撫でた。

  

  [newpage]

  

  「…なんかとんでもないことしたような気がする…」

  

  元の姿に戻ったオスレイヤーは眉間にシワを寄せながら呟いた。

  目の前には未だに精液と腸液と先走りに塗れ下品な笑いを浮かべる虎がいた。

  タマル曰く、もう浄化は済みオスレイヤーの使い魔になったそうだが。

  まぁ、浄化だ浄化。そう思い直しオスレイヤーはずっと放置していたトウゴの方へ向かった。

  魔法で作った壁の向こう。そこにはすやすや眠るトウゴがいる。

  ほっ、と胸を撫で下ろしたオスレイヤー…もとい、ミユ。

  トウゴをおんぶするとオスレイヤーは一声、空に遠吠えする。

  

  「アォォォン!」

  

  ぴきぴき、と空にヒビが入り、パラパラと白黒の空が崩れていく。

  破片は空に消え、徐々に世界は色を取り戻していった。

  それにともない壊れたり隆起してしまった地面などが元に戻っていく。

  …未だに虎は精液まみれな訳ではあるが。

  

  「ん…んぅぅ…」

  

  可愛らしい声をあげトウゴは目を覚ます。

  ボケッ、とした目だったが…何が起きていたのかを思い出しキョロキョロ辺りを見渡すと首をかしげた。

  

  「あれ、僕は…」

  

  「大丈夫かい?とー…あ、いや、君。」

  

  極力声色を変えながらミユ…オスレイヤーはトウゴに話しかけた。

  

  「貴方は?」

  

  「ぼっ…あ、あぁ、いや、私はオスレイヤー。ここで怪人が出てきたみたいで、君を助けに来たんだよ。無事みたいでよかった。」

  

  意識が戻ったのならもう大丈夫だろう。

  オスレイヤーはそっとトウゴを降ろし腕を握った。

  

  「もう大丈夫だね。では、私はこれで。」

  

  立ち去ろうとするオスレイヤー。その尻尾をぎゅっとトウゴは握りしめた。

  

  「その…ありがとう!オスレイヤー!」

  

  満面の笑みを浮かべるトウゴ。

  オスレイヤー…いや、ミユもにっこりと微笑み、そして姿を消した。

  [newpage]

  

  「…ねぇ、タマル。」

  

  すっかり元に戻ったミユは疲れた表情を浮かべていた。

  

  「なんだい?ミユ。」

  

  ふわふわとミユの周囲を浮かびながらタマル。

  ミユは手に持っていた鎖をじゃらり、と持ち上げる。

  その先に繋がれているのは…

  

  「ご主人様ぁ…うへへぇ…」

  

  崩れた笑みを浮かべ露出された肉棒を勃起させ続けている虎だ。

  首輪に身体中紐で結ばれている。

  四つん這いでミユの後をついてきているのだ。

  

  「怪人さん、ずっとこんな感じなの?僕、これ逮捕されない?」

  

  まぁ、小学生が大の大人を全裸で歩かせているわけで、怪しいとかそういうレベルではないのだが。

  

  「大丈夫!他の人には今の怪人は只の猫にしか見えてないから!」

  

  …本当にそうだと良いのだが。

  何はともあれ、辺りも暗くなってしまったし早く家に帰らないと怒られてしまう。

  鎖を引っ張りながらミユは家までの道を少し早歩きで進んだ。

  

  傍らには白いおたまじゃくし。片手には鎖と、それに繋がれた理性の欠片も見られない虎の怪人。

  親が見たら卒倒しそうな光景である。

  いつも見ているドアの扉が物々しく見えて仕方ない。

  はぁ、とため息を一つつきミユはドアを開けた。

  

  「ただいま…」

  

  ドアを開けるとキッチンの方からトタトタと誰かが軽く走ってくる音が聞こえてくる。

  母親だ。

  

  「…もう、こんな遅くなって!」

  

  一瞬安堵の表情を見せたが母親はすぐに目をつり上げた。

  ミユは耳をたたみ尻尾を縮こまらせて頭を下げた。

  

  「ごめんなさい…その…」

  

  非常に切り出しにくそうなミユに母親は首をかしげる。

  そしてミユの手に握られている鎖に気がついた。

  その先には…

  

  「…猫?」

  

  どうやら、母親には本当に猫に見えているようだ。

  

  「う、うん。その、ね、どうしてもついてきちゃって、でもずっと放っておく訳にもいかないし…だから、この子、うちで飼っちゃダメ?」

  

  飼う、という一言で虎が嬉しそうに壊れた笑みを浮かべたがミユは気にしないことにした。

  とにかく、ミユの必死なアピールに母親は手を頬に当て迷うような表情を浮かべ、そしてため息をついた。

  

  「ちゃんと責任持って面倒見るのよ?」

  

  「分かった!ありがとう、お母さん!」

  

  そしてミユは猫、もとい虎を自分の部屋につれていった。

  はぁぁぁ、と深い深いため息。

  なんとか連れ込んだは良いが、いかんせん部屋が若干狭く感じる。

  体格の非常に良い虎が横になっているのだから仕方ないが。

  

  「…タマル、ワルックって何処にいるの?」

  

  「うーん、細かい場所は僕にもわからないんだ。何となく近くにいる雰囲気はあるんだけど…」

  

  まぁ、すぐ見つかるようなら苦労もないか。

  しかし今日は色々ありすぎて疲れた。ミユは大きく欠伸をするとベットで横になる。

  虎の時おりあげる呻き声というか喘ぎ声も気にせずミユは眠りについた。

  [newpage]

  

  

  

  薄暗い空間。それを照らすのはスクリーンの光だ。

  スクリーンにはオスレイヤーに犯されている虎の姿。

  

  「…全く、たった一人にあそこまでやられるとは情けない奴だ。」

  

  厳かな、渋い声が響く。

  

  「まぁ、あいつは私たちの中では最弱ですから…仕方ないですね。」

  

  理知的な、少し高めの声が響く。

  

  「ふん、面汚しめ!」

  

  冷たい、粗暴な声が響く。

  スクリーンの光にうっすら照らされるのは鰐、隼、牛の獣人達だ。虎と同じようにやたらと露出の高い衣服を身に纏っている。

  …全員股間が膨らんでいるように見えるが。

  

  「…お前達、ほんとはちょっとうらやましいなーとか考えてないか?」

  

  響くのはまるで変声器を使ったような、不自然な声。

  全員が同時に口を閉ざし固まる。

  

  「な、何を言っておられるのですかワルック様。そんな訳無いでございましょう!」

  

  「股間膨らましながら言われても説得力がまるでないぞ。まぁよい。虎はもう構わんが…オスレイヤー。あいつは倒さねばな。」

  

  「俺に任せな!あんなひょろっこいの、俺が叩きのめしてやる!」

  

  ふん、と息巻くのは牛。

  ワルックは笑った。

  

  「頼もしいな、牛よ。ならば、次はお前に任せてみよう。」

  

  「喜んで!」

  

  「我が寄り代も、もう間もなく手に入りそうだ。ふふふっ、はーっはっはっ!」

  

  まさに悪役、といったような笑い声が、暗闇に響いた。

  

  

  

  続く?

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