AdAd
  
『パンドラの洞窟』にて。

  「ここ、か。」

  白髪交じりに整髪されていない、ぼさぼさの黒髪。無精ひげの生えた、精悍な顔立ち。

  大きな十字傷が彼の精悍さをより際立たせているようだ。年の頃で言えば初老、とも言えるだろう。

  鎖帷子にグリーブと至ってシンプルで動きやすそうな軽装備。しかしその下の肉体はその年を思わせるには相応しくない。

  膨れ上がった腕。胸板。簡単な刃物では彼の肉体を貫くことは出来ないだろう。

  そんな彼が訪れたのは森の奥深くにある、洞窟だ。何も偶然通りかかり、好奇心からこうして洞窟を覗いている訳では無い。

  歴戦の冒険者。未知の洞窟を探索し、地図を広げる。トレジャーハンターと言っても差し支えないだろう。

  そんな彼に依頼の一つとして舞い込んできたのが…この洞窟である。

  なんでもここから魔物が飛び出し、周囲の動物や人に被害を加えるというのだ。

  もちろん彼以外にもこの洞窟を探索しにいく冒険者はいたが…誰一人として帰ってこない。

  「『パンドラの洞窟』…か。」

  誰が名付けたのか。最早その起源をたどる事すら困難であるほど、昔から。この場所に、こうして存在している。

  生粋の冒険者である彼は…じっとりと滲んできた脂汗を乱雑に拭い隠し切れないように頬を吊り上げた。

  この洞窟の奥に何があるのだろうか。知りたい。何も無くても、それもまたトレジャーハンターとしての名を上げる。

  パンドラの洞窟には、『何も無い』事を証明できた、ということだ。

  ベルトにぶら下がっていたポーチから楔を取り出し、洞窟の入り口に打ち付ける。

  そして一本の小さなロープを取り出した。楔と自分の体に結びつけ。しっかり固定する。

  人間の言葉ではない言葉を。彼の使える数少ない魔術を唱えた。それは至極簡単で、だが確実に彼の命を繋ぐものだ。

  ロープに淡い光が宿ると…彼はロープを思い切り引っ張る。小さなロープが、まるで鎖のようにびんっ、と音を立てる。数度繰り返し、楔から抜けない事。楔が抜けない事を確認すると。

  彼は一つ、深呼吸をし…洞窟の中に足を踏み入れた。

  小さなロープは無限の長さを持つように。彼の体から離れても限界を迎えることなく伸びる。

  正しく命綱、という訳だ。

  中に足を踏み入れると…洞窟の湿気と黴と。それだけではない臭いが立ち込めている。

  そうだ、これは。屍の臭いだ。

  彼は足に着けているナイフホルダーからナイフを取り出し、その先端に魔術を唱えた。

  ぼうっ、と火が灯り…暗い洞窟内を僅かに照らし出す。

  「行くか。」

  彼は覚悟を決めたように呟くと…日光の届かない、洞窟の奥深くへ一歩踏み入れた。

  足音を殺し、息をひそめ、慎重に歩を進める。ナイフに灯した火も居場所を悟られぬよう、足元や周辺が見えるギリギリの大きさに抑えた。もし危険な魔物がいた場合、先に自分が襲われては元も子もない。

  自分の目的はこの洞窟の探索であり、魔物の討伐などではない。生きて帰る事が、第一目標だ。

  常に気を張る。ほんの一瞬の油断すら命取りになるのだから。

  だが同時に、それは彼が最も幸福を、そして生きている、と実感する瞬間でもあった。

  つつ、と汗が流れる音すら聞こえそうなほどに耳を澄ます。聞こえるのは自分の吐息と、鼓動。

  生きている。

  そう、生きている。内臓を掴まれるような緊張感。それと同時にどうしようもない興奮。体の奥が冷たく、熱くなる。

  相反する感情がせめぎ合う。その感覚は、普通に街で生きているだけでは得られないものだ。

  一歩、一歩。死に近づき、離れる。

  洞窟の奥はまだ続いている。日光はすでに届かず…屍の臭いが。黴の臭いが。より一層濃くなった。

  これはあまり嗅いでいない方がいい。そう判断した彼はポーチから布を取り出し、顔に巻き付ける。

  幾分かはこれでマシになるだろう。…それと同時に時刻を確認する。

  小さな懐中時計。陽も見えず自分以外誰もいない。そんな外と断絶された空間ではこういった小さな確認で正気を保つ。…まだ洞窟に入ってから十数分。

  彼が懐中時計をしまうと。空気がピン、と張り詰めるような感覚。

  「おいでなすったか。」

  懐中時計をしまい、彼はもう片方の手に、もう一本のナイフを握った。

  暗闇の奥。そこから現れたのは…ウェアタイガーだ。

  その目に理性は無く。彼の姿を視認するとだらだらと唾液を零し…グルルルルゥッ、と唸り声をあげた。

  「サクッ、とやっちまうかね。」

  そう呟くと彼は強靭で、精悍な肉体からは考えられないほど軽やかに地面を蹴り上げた。

  ウェアタイガーからしたら突然姿を消したようにしか見えないだろう。彼の眼にはきょろきょろと辺りを見回すウェアタイガーの姿が映っていた。灯り代わりの火を。その勢いを強める。

  ウェアタイガーの延髄を狙いすまし。

  「そらよっ!」

  火のついたナイフを突き立てる。しかしすんでの所で。ウェアタイガーは身を翻した。

  彼は舌打ちをする。これで一撃で仕留められれば良かったのだが。

  しかし完全に避けられたわけでは無い。延髄の僅か横。恐らく大動脈の周辺には突き立てられただろう。

  ギャァァァ、とウェアタイガーは悲鳴を上げると…首元から大量の血液を噴き出させた。

  びしゃびしゃと返り血が洞窟の壁に飛び散り、彼を僅かに濡らす。

  とはいえ。その血のせいで火の魔術が溶けてしまい…一瞬周囲が暗闇に包まれた。

  彼は急ぎ、もう片方のナイフに魔術をかけた。ウェアタイガーは…激痛に苦悶の表情を浮かべ、唸り声をあげる。

  「悪く思うなよ。こっちもこれで食ってるんでなッ!」

  そう言いながら彼は動きの止まっているウェアタイガーの真正面へ一気に潜り込む。

  火のついたナイフで顔を炙り。そして首元に刺さったままのナイフに手をかけ。そして。

  「ふんっ!」

  一気に肉を切裂く。ぶぢぶぢっ、と肉と血管が千切れる音。迷うことなく彼は喉元をかき切った。

  大量の血液が噴き出す。必要以上に浴び過ぎないように彼はその余韻や罪悪感に引きずられる事なくウェアタイガーの背後に回り込むと…どんっ、と力強くウェアタイガーを倒した。

  ギャァ…ァッ…

  倒れたウェアタイガーは大きく痙攣すると…全身の血液を首元から溢れさせ…そしてそれきり、動かなくなった。

  肉の焼け焦げる臭いと、血の臭いが洞窟の、彼の周囲に充満した。

  彼はふぅっ、とため息を吐くと…ロープに手をかけた。何となくの長さは分かる。

  もう数キロに及ぶだろう。これは引き返すべきでは無いだろうか。

  いや。もう少し進んでみよう。彼はそう判断し、もう一度深呼吸をすると…進み始めた。

  ウェアタイガーの浮かべた表情が、ただの魔物と思えなかったのだ。

  ウェアタイガーの唸り声が、ただの唸り声に聞こえなかったのだ。

  [newpage]

  進めば進むほど。湿度が高くなる。そして、逆に屍の臭いは薄れていった。

  つまりここまでたどり着ける、生者が少ないということだ。

  それだけ進んでも、洞窟は続き、更に分岐し、複雑になる。

  懐中時計を確認する。…すでに二時間ほどは歩いている様だ。何も成果は無い。

  しかしこれ以上の探索は無謀か。懐中時計をしまい。彼はくるり、と振り向いた。

  道中で、ウェアタイガーの死骸を回収しようか。何か分かることがあるかもしれない。

  そう考えながら彼は一歩を踏み出す。その時。自分以外の音が聴こえた。

  ぬちゃり、という音が正しいだろう。

  背後から。天井から。壁から。ぬちゃり、ぬちゃり、と。何かが絡みつくような。粘液の音。

  「チッ!」

  彼はナイフに灯した火に更に魔力を込めた。ぼぉうっ!と大きな音を立て、火が炎、と呼べる大きさに変わり…周辺を一気に照らし出した。

  岩で出来た天井。そして壁。その隙間に見えるのは…おぞましい色をした、触手。

  彼は一気にロープを手に、来た道を引き返し始めた。

  天井からずるり、と一本の触手が伸び、彼を捕らえようと試みている様だ。

  もちろん捕まる訳にはいかない。片手のナイフで切り払い、来た時の慎重さを捨て、一気に走り抜ける。

  そこで彼は気が付いた。岩の隙間。天井の隙間。全てに触手が詰まっている事。

  詰まる所…

  「触手の中って事かッ…クソッ!」

  日光の当たらない所から、恐らくこの触手はこの洞窟の外側ー岩の隙間に生息していた。

  そして洞窟に入った『獲物』―現在の彼を値踏みしていたのだろう。

  道理で入ったら帰ってこれない訳だ。奥深くまで行けば、恐らくこの触手に。

  そして痕跡は残さない。そう。触手という存在は全てを吸い付くし、吸収し、この世からその生き物を消し去ることに特化しているのだから。

  だと言って。このままはい、そうですか。と言うまま捕らわれる訳にも行かない。

  彼は必死に足を動かし、時折伸びてくる触手を避け、必死にロープをたどる。

  生きて帰り、この事を誰かに。他の冒険者に伝えなくてはいけない。だからここで…

  ロープが終わった。

  彼はそれに目を見開く。何故?どうして?…楔がただそこに。洞窟の中に静かに転がっていた。

  抜けないように何度も確認した。少なくとも人の力では地面から抜けないはず。

  あぁ。

  「そう言うことかよ…ッ」

  絶望に支配された言葉を吐き捨てる。入る所から既に。触手の。触手の差し向けた『何か』によって監視されていたのだろう。

  洞窟は終わらない。深さも分からない。脱出の方法は…無い。

  彼は触手に捕らわれた。無駄に抵抗すれば…それこそ、本当に。死んでしまう。

  だから。大人しく、捕らわれる事にした。

  [newpage]

  彼を捕らえた触手は…彼を恐ろしい程に優しく―身じろぎ一つ出来ないほどしっかりに包み込み…彼をどこかへ連れていく。

  粘液が染み出す触手に包まれるというのは気味が悪い。そしてそれに対し、命の危機を感じていないのがまた気味が悪い。

  濡れた触手は彼の体温より少々高い程度の暖かさであり…まるで人に包み込まれているような安堵感を与えてくるのだ。

  染み出す粘液もどこか甘い臭いが漂い…毒気を抜かれる。

  それが恐らく触手の巧妙な罠であることを脳が理解しても…抗う事が出来ないのだ。

  下手を打てば眠りにすら堕ちてしまいそうな程に優しく暖かい。

  「くそ…」

  力なく呟く言葉には、どこか眠たげで。どうにか逃げる手段を考えようにも…思考を始めようとした瞬間、とく、とく、と触手の鼓動が聞こえて。とろん、と眠気に襲われるような。

  非常に不味い状況なのは分かっている。分かっているのだが…気を張り過ぎていたのだろう。疲れがどっと押し寄せて。

  その時。何の手立ても考えも出来ない彼が、触手から解放された。これが逃げ出せる数少ないチャンスだと分かっている。

  だが。

  触手は彼を開放する。

  「ぐぅっ…」

  受け身を取る事の出来なかった彼はどしゃ、と音を立てながら地面に落ちた。全身に鈍痛が走り、少々目が覚める。

  そして彼は、自分がいるこの空間の異様さに気が付いた。彼が放たれた空間に甘い甘い。とてつもなく甘い臭いが充満していたのだ。薄暗闇の中で目を凝らす。

  何故洞窟の中に居るのにまだ見えるのか。その疑問が生まれる前に、彼は目を見開いた。

  「がぁっ…ぁっ…ぐぅはぁっ…」

  異常に腹が膨れた、恐らく自分と同じ冒険者。そして。

  物言わぬ。ウェアジャガーの死骸。それも恐らく死んでから相当経っているだろう。肉は腐り骨が露出しているのだから。

  腹が膨れた冒険者は獣のような唸り声をあげると、その全身を悶えさせている様だ。表情は苦痛と、恥辱と。

  そして。

  「がぁぁぁっ、あぁぁぁっ、ぐぅぁぁぁっ!!」

  ぶぢんっ。びしゃっ、びちゃっ。

  単語にすればいたって単純な音。それはおおよそ普通に生きている間は聞いてはいけない音だろう。

  肉が千切れ、粘液が溢れ出し、地面や壁を汚す音。彼にも何か生暖かい液体が降りかかる。

  「なんだっ…これはっ…」

  呆然と呟く彼に、冒険者は―半狂乱になりながら声を上げる。ずがんずがんと肉体が地面に叩きつけ。それでも足りぬと体をエビぞりにし。

  甘い臭いと血の臭いが入り混じるそこは。脂汗がどう、と溢れ出す。一刻も早く逃げなければ。どうにかしなくては。

  でも、何を。どうすればいい?身に着けていたポーチは触手に捕らわれた際に落としてしまった。

  身に着けているのは簡易な装備だけ。触手の体内のような洞窟で何かをするには。あまりにも、何も無さ過ぎた。

  暖かな触手に包まれ、忘れかけていた絶望が、じっとりと彼を包み込む。

  冒険者はもう意識が無い様だ。唸り声は消え失せ、びたんびたんと地面の上を跳ねる音だけが響き渡った。

  立ち上がる事も出来ない。その時。触手が冒険者に近寄った。

  触手が近付くと、冒険者の姿がより良く見えた。あぁ、光源は…この触手だったか。

  恐らく独自の発光機能を身に付けているのだろう。ぼんやりとした光に照らし出された…全裸の冒険者。

  白目を向き、唾液をだらだらと溢れさせ、ふっくらとした脂肪に包まれた柔らかな胸。

  びゅるびゅるとそこから液体を溢れさせる。股間の剛直は歪に膨らんだ腹を通り、ビキビキと硬く聳え立つ。そう、雄。雄のはずなのだ。それなのに。

  触手が冒険者の股間へと伸びていく。触手の先端がたどり着いたそこにあるのは。

  『何か』がすでに姿を見せている…男性には無い筈の、ワレメ。激しく蠢き、どろどろと透明な粘液を留まることなく溢れさせている。

  ピギャァァァァァァ!

  『何か』が吼える。吼えたのだろう。冒険者の声ではない甲高い声が…冒険者の腹から洞窟内へ響き渡り。そして。

  ずりゅぅんっ!

  『何か』が産まれた。しかしまだ冒険者の腹の中には『何か』がいるのだ。ぼこぼこと凹凸を繰り返し、冒険者は白目を血走らせる。恐らくもう、冒険者の体は限界なのだろう。

  だが。触手が冒険者の口元に近付くと…冒険者の口を蹂躙し始める。冒険者はびくっ、びくっ、と両腕を痙攣させ…それきり動かなくなる。いや、動いているのか?

  それが彼には分からなくなったのだ。

  「ぐぁっ…!」

  目隠しをされるように。触手が彼の目の前を遮り、頭にぐるぐると纏わりつく。

  そして自害が出来ないように。猿轡をされるように触手が口に入り込む。

  「むぐぅっ!ぐぅっ!」

  暴れようともがこうとした彼だったが…両腕両脚にも触手が絡みつき、その動きを封じ込める。

  触手は彼をしっかりととらえると、まずは彼の全身に粘液を塗り付けていく。丁寧に、優しく。

  「むぐっ、んぐぅっ…んぶぅっ…」

  こんな状況でありながら…彼は触手の繊細な動きに思わず声を上げた。

  がっちりとした筋肉を一つ一つ。ゆっくりとなぞる。胸板を、腹を、脇を、腕を、太腿を。

  じっとりと粘液が皮膚から浸透していく。そう、浸透していくのが分かるのだ。

  体を熱くさせる。火照り始める肉体。ばくんばくんと心臓が痛いほどに跳ねまわる。

  やがて全身をしっかり撫で回した触手は…彼のそそり立つ逸物へ集合していく。

  「むぐーっ!ぐぅーっ!!」

  くぐもった声を上げながら彼は体をくねらせる。しかしそんなもので触手を払えるわけもない。

  触手は…彼の逸物にぐるり、と絡みつくと…彼の逸物を上下に扱き始めた。

  「むぅぅぅぅっ!!!」

  ぐちゅぐちゅと逸物を扱かれる感覚に彼は悲鳴を上げた。

  直接的に与えられる快楽は、今まで彼が経験したことの無いものだった。どんな上物の雌や雄を抱いた時よりも、ずっと、ずっと。

  すでに性感帯は理解している、と言わんばかりに。触手は裏筋。雁首。亀頭全体。睾丸。全てを同時に突き、扱く。

  背中から脳天へ駆け巡る快楽に、彼は腰を、全身を震わせた。

  しかし触手の彼への愛撫はそれだけでは終わらない。硬く引き締まった雄穴。そしてアリの門渡りへ。

  優しくゆっくりと。恐怖心が消え失せてしまうほど。優しく。雄穴とアリの門渡りを撫で回す。

  「むぐっ、ふぐっ、んぐぅぅっ…!」

  恐怖心が消え失せる。これが何よりの恐怖だった。何を恐れているのか、理解出来なくなってしまったということ。

  それは最も自分が『死』に近付いている、という証拠なのだから。隣人に挨拶をするように。当たり前のように。『死』が近付いているのだから。

  体は素直に反応したようだ。硬く引き締まったはずの雄穴がゆっくりと開きくぱ、くぱ、と切なげに引くつく。

  疼いて、疼いて。

  それを察知したように。触手は彼の雄穴に一本の触手を捻じ込んだ。ちょうどヒトの逸物と同じぐらいの大きさだろう。

  ずぶ、ずぶぶ、ずぶぅっ…

  「ひぎぃっ!?」

  ゆっくりとしっかりと腸内を圧迫する触手の感触に彼は再び声を上げ、歯を食い縛った。

  触手はすさまじい弾力を持っており、彼の顎や歯ではとても千切れそうにない。すぐさま戻るのはゴムによく似ている。

  前立腺をぐりゅぐりゅと抉り上げ、腸内をじゅぶじゅぶとかき混ぜる。彼は触手によって閉ざす事の出来ない口からだらだらと唾液を溢れさせる。

  雄穴を蹂躙され、逸物を扱かれ。感じている。恐怖心よりも、快楽の方が上回った。

  それが恐ろしい。このまま自分は犯され、先程の…あの冒険者の様に。なってしまうのだろうか。

  誰にも、この洞窟の秘密を教えられることなく。

  「んひぎがぁぁぁっ!?!!!」

  消え去りそうな自我の中。必死に自分を保とうとしていた彼の思考が唐突に終わりを迎える。

  蟻の門渡りをなぞり続けていた触手が、そこを貫いたのだ。

  今まで与えられていた快楽とは違い、こちらは凄まじい激痛だった。

  ぶしゅぅぅっ、と凄まじい勢いで体液が溢れ出す。ああ、この液体は恐らく、自分の血液だ。

  そして触手は充分奥まで彼の体に突き刺さるとそこで動きを止め。ゆっくり、ゆっくりと液体を注入していく。

  注射なんかと比べ物にならない。そんな激痛が駆け巡る中。

  逸物を扱く触手の動きが激しくなる。雄穴を蹂躙する触手がびゅるびゅると液体を彼の腸内に注ぎ込んでいく。

  腸内に注ぎ込まれた液体はすぐさま活発に蠕動していた腸壁が飲み干し…体へと吸収されると彼の体を蝕み。

  「ふぐっ、ぐがぁっ、あがっ、がぁぁぁっ!」

  激痛と至上の快楽が同時に彼の脳内を苛み、その感覚に彼は叫んだ。

  熱い痛い気持ちいい怖い冷たい鋭い鈍い欲しい止めて助けてもっと

  単語だけが頭を突き抜けて。頭が吹き飛んでしまいそうだ。

  やがて逸物がびくびくっ、と震えあがり。睾丸がせり上がった。

  「ぐっ、がぁっ、がっ…!出るッ、出るッ!!!がぁぁぁぁっ!!!」

  ぼびゅぅぅっ!どぶびゅるるるぅっ!

  逸物が爆ぜる。今まで感じていた快楽が一挙に押し寄せ、脳が爆発したのではないかと錯覚するほどだった。

  閉ざされた視界の中で星が煌めき、ちかちかと点滅する。

  死  ぬ…

  彼の意識はそこで、ブラックアウトした。

  [newpage]

  目を覚ました時。彼は触手の中に優しく包み込まれていた。

  起き上がろうにも自分が今立っているのか寝ているのかも分からない。ふわふわと浮かんでいるような。

  視界は…もう奪われていないようだ。自分の肉体を視認する事は出来る。

  全身が粘液に覆われしっとりと濡れている。身に着けていた鎖帷子やグリーブは取り払われ…生まれたままの姿。頭がぼんやりとする。

  逸物はすっかり萎えてしまったようであり、しかし触手に意識を失った後も弄られ続けていたのだろう、すっかり精液に塗れ汚れてしまっている。

  まだ生きていたか。完全に死んだと思ったが。手に力を込め、何とか触手を押し退けようと試みる。

  当然、それだけで逃げ出すのは不可能。

  それでももがいていると…彼の意識が戻ったことが触手に伝わったのだろう。

  触手は彼を解放する。

  どうやら自分は寝かされていたようだ。触手から解放されるとひんやりと冷たく湿った岩の感覚が背中やを伝い…彼は身震いする。寒い。酷く寒い。

  また何かをされるのだろうか。そう思う彼だったが…触手はただ洞窟の壁の奥でうずるうずると動き回るだけだ。

  「なんだ…なんなんだ…」

  自分の置かれている状況が、分からない。分からない?いや、理解したくないだけだ。

  触手に捕らわれ、餌になるか、苗床になるか。

  そうだ、苗床…!そして意識を失う前にされた、至上の快楽と激痛はもしや。

  はっ、としたように彼は下半身へ手を伸ばす。股間へ。逸物の下、雄穴の間…

  くちゅ。

  「~~~~~っ!!!!!」

  湿った音と共に、彼の背中に稲妻が駆け抜けた。触れたそこにあるのは、本来雄には存在しないはずの器官。

  ぶるぶると震えながら彼ははぁはぁと荒く呼吸をする。唐突に与えられた、味わえるはずの無い快楽。

  自分の体が苗床にされてしまったという事実。ばくんばくんと心臓が口から飛び出してしまうのではないかと思うほどに鼓動を強くする。

  触れた事によってだろう、彼の新しく出来た器官ー膣が、激しく蠢き始める。

  ぐぱぁ、と拡がったと思えばひくひくと切なげに蠢き、塞ぐものを、熱を求める。

  「やめっ…ちがっ…なんだっ…これっ…はっ…!」

  下腹部が疼きに苛まれる。きゅん、と切なく、しかし燃えてしまいそうなほどに激しく。

  毒虫に刺された時の痒みにも似ているのだろうか。そう残った、ちっぽけな理性が考える。

  体は。

  「がっ、はぁっ、あっ、んぐぅぁぅぁっ!」

  野太い声を上げながら。股を大きく開き。腰をがくがくと揺する。びしゃびしゃと音を立てながら、粘液が彼の周辺を濡らした。

  甘い臭いに、雌のフェロモン。頭がおかしくなってしまいそうだ。彼の体は。

  それをよしとしない。ならば。おかしくなりそうな原因を一つでも潰そうと。

  手が、股間へ伸びる。ワレメに触れたら。空気ではなく、指が触れたら。

  震える手で。一瞬の躊躇は、彼の中の理性が押し留めたのだろう。だが体はもう、それ以上の言う事を聴こうとはしない。

  ぐちゅ。

  「あぁぁぁぁっ!!!」

  彼は絶叫し、身を仰け反らせた。彼の太い指が陰茎を通り過ぎ、ワレメをなぞる。ただそれだけで、逸物を扱くものよりも何倍も、何十倍も大きな快楽を彼の体にもたらしたのだ。

  行き過ぎた快楽は、幸福と変わらない。こんな洞窟で、これから苗床にされるだろう。それなのに。

  「ぉ”っ、ぁ”っ、んぁ”っ!」

  彼の表情が緩んだ。淫らに頬を吊り上げる。頬が紅潮し、目が虚ろになる。

  もう止まらない。止められない。

  何度も何度もワレメをなぞる。その度に快楽は上乗せされ、頭の中が幸福感で満たされていく。透明な粘液にやがて白く、甘い香りを放つ液体が混ざり、粘度を増した。

  蠢くワレメは、やがて。彼の指を飲み込む。ぐちゅ、と膣壁に指がぶつかると。

  「ぉ”ぉ”ぉ”ぁ”ぁ”ぁ”っ♥」

  彼は唾液を口から垂らし、腰を地面から浮かせるとびくんびくんと何度も何度も震える。快楽と幸福からもう、何も頭に入らない。

  地面に寝ているのに、浮いているような。体と脳が一致しない。それでも指はもっともっとと、動きを止めない。抽送を繰り返し、その度に粘液が泡を立て、地面を濡らしていく。

  それに伴い、触れられてもいない逸物からびゅるびゅると精液が溢れ出し、彼の体をコーティングした。

  「ぉ”っ、ぁ”っ、んがぁ”っ♥」

  顔についた精液を舐めとり、彼は膣に居れる指の本数を増やし。空いた片手で自分の胸を揉み始めた。

  自我はもう、無い。本能が赴くまま。欲望のまま。こりこりと乳首を捏ね繰り回し、膣を責め立て。きゅぅんっ、と一際大きな疼き。

  「~~~~ッ!!!!!」

  狂乱。狂喜。白目を剥きがくがくと体を痙攣させている姿は…苗床になるに相応しいのだろう。

  やがて彼の体に。ゆっくりと触手が近寄ってくる。

  そして彼の目の前に、一つの触手が降り立った。びゅるっ、びゅるっ、と甘い蜜。粘液を彼の顔に降りかけ。彼の口をなぞった。

  咥えろ、ということだろう。彼は自分の胸やワレメを弄り回しながら迷うことなくその触手を咥え込んだ。

  「んぼぉっ♥」

  熱い触手を咥え込む。口の中一杯に熱と肉の感触。そうだ、この感触は人の肉によく似ている。指や、足や、逸物。よく似ている。

  安心する。安心は幸福を呼ぶ。幸福と快楽が入り混じっている彼には…快楽足りえる。

  彼の口に入る前にはびゅるびゅると無数に出ていたはずの蜜が動きを止めてしまった。甘い甘い蜜。欲しい。欲しい。欲しい。

  彼は触手に舌を這わせ、舐めまわした。吸い上げる。頬が凹むほど。そうしていると…

  びゅるっ、びゅるぅぅっ。

  「~~~ッ♥」

  彼の口の中に、胃の中に。甘い蜜が満ちていく。その蜜を飲み干すたび、体に力が満ちるような感覚を覚える。そしてその力は…膣の疼きへ変貌する。

  飲めば飲むほど。逸物も膨らむ。膣から得られる快楽も増える。もっと、もっとと。

  触手に…そうだ。奉仕する。

  やがて彼は。誘われるように。上半身を起こすと、膣から、胸から両手を離すと触手を優しくつかみ、必死に扱き始める。

  そうすると蜜の量が増え、濃くなるのだ。だから。必死に。

  膣から溢れる粘液が彼の体全体を濡らすほどになっても。鍛え上げられ、硬く引き締まった胸がふっくらとした柔らかさを帯びてきていても。腰が勝手に前後にガクガクと震えても。

  夢中で。蜜を飲み、触手を扱く。

  腹が満ちるほど蜜を注ぎ込まれ。彼の膣が、ワレメが。大きく拡がった時。触手は彼の体を覆った。

  「あはぁっ…♥はぶっ…♥」

  彼はそれに恐怖感も、何も抱いていない。苗床にされる。それなのに。むしろ幸福で、快楽で。誇りすら覚えてしまいそうだ。

  触手は彼を優しく撫で回す。もどかしく、何度も。胸を摩り、太腿を、逸物を撫で上げて。

  「んひっ、おぼぉっ♥おぎっ♥」

  蜜を口の端から零し、震え、喘ぐ。触手は暖かい。冷たく、湿った地面から拾い上げられると安堵感。

  宙に浮いた体。ぐぱぐぱと収縮を繰り返すワレメに触手が触れた。指とは明らかに異なる、太く、熱い、肉の塊。

  「おぶっ、ふごぉっ♥はっ、はっ、はぁっ…♥」

  期待に呼吸が、鼓動が昂る。彼の濁った瞳から放たれる光。淫靡で妖しい。

  ず…ぶぶっ…

  「ぉ”っ…♥」

  ぶち、と膣の中の膜が千切れる音と感触。僅かな痛みは、凄まじい快楽を前にあっさりと消え失せ…

  彼は触手を咥えたまま。絶頂に。絶頂だと思っていたそこよりさらに高みへと昇っていくのを感じ取った。

  全身がバラバラになるのではないかと思うほどの快楽が全身を駆け巡り、脳をパンクさせる。

  パンクした脳は全身を弛緩させた。だらり、と力なく触手から手が離れ、触手に揺蕩う。

  奥まで挿入された触手はそこで動きを止め、少しずつ液体を注ぎ込んでいく。蜜とよく似た感触の何か。

  びくっ、びくっ、と痙攣し、彼は愉悦に顔を歪めた。下腹部がぽこ、と膨らむまで注ぎ込まれると。

  触手は…抽送を始める。

  「ぉ”ぁ”ぁ”っ、がぁっ…ひぎぃぃぃっ♥♥♥」

  頭がおかしくなりそうだ。いや、もうなっているのだろうか。それすらも分からない。自分が何をしにここに来て、何者なのか。

  消え失せそうになる。

  ずちゅずちゅぼちゅん、と肉の塊が何度もワレメを割り拡げ、中身をかき混ぜる。膣壁を圧迫し、襞を撫で回す。

  悲鳴のような嬌声を上げられたのは、一度だけ。その後は触手によって口を塞がれ…蜜を注ぎ込まれる。

  甘い甘い甘い甘い甘い。甘さは快楽。快楽は甘さ。痛みも苦痛も何もない。行き過ぎた快楽は幸福。

  びゅるびゅると触手が止めどなく液体を流し込み、その度に彼はどこまでも高みへと達する。

  何度目かの絶頂を迎え。彼の意識は唐突に終わりを迎えた。

  [newpage]

  彼は、目を覚ました。

  生きている。死んだと思った。あの時、意識が断絶し…終わったと思った。終わったと思った直前は…

  「ぁっ…ひっ…んっ…はぁっ…♥」

  腹の奥が切なく疼く。そう。快楽と至福が全身を包み…思い出しただけで彼はだらしなく舌をはみ出させてしまうほどだった。

  しばらく快楽の余韻に浸っていた彼だったが…少しずつ、少しずつ自分を取り戻していく。

  自分は意志がそこまで強い…と言える方ではない。だからもう自分を取り戻す事は無理だと思った。だが、だからこそだろうか。

  柔軟に意思を受け入れ、変え。こうして自我を保っている。

  …そうだ。自分はあれだけの事をされて…

  腹を見てみる。…当然のようにぷっくらと歪に膨らんでいる。嫌悪感や絶望は、無い。むしろ、誇らしいと思ってしまうのは、何故?

  撫で回す。そこで彼は一つの異変に気が付いた。腕から毛が…生えている。

  いや、昔から生えていたが…ここまで毛深かっただろうか。疑問符が浮かぶと同時に。

  「あぐぁっ…はぁっ…♥」

  その疑問符を消し去る様に、腹が動いた。どくんどくんと自分以外の鼓動が胎内から聞こえるのは、不気味だが…

  彼は嬉しそうに笑い、その胎を撫で回した。長い、長い舌をはみ出させて。

  ぶるっ、と震える。ぶしゅぅ、と逸物から先走りが。ワレメから粘液が溢れ出すと、その臭いを感知したように。

  触手が一本、二本。彼に近付く。

  愛おしむ様に。大切なものを扱う様に。彼の頭をずるり、と這い、体を撫で回す。にゅるにゅるとした触手の撫でた場所からじんわりと暖かな感触。

  快楽だけでない、幸福。彼は目をとろんと蕩けさせた。

  全身を撫で回されると口に一本の、彼を撫で回した触手とは別の触手が近付く。蜜を注ぎ込んでくれる触手だ。

  腹が空いた。きっと胎内の仔に栄養を送っているのだろう。だから。彼はその触手を咥え込んだ。

  暖かなそれは咥えた直後にびゅるり、と少しだけ蜜を彼の口に注ぎ込む。やはり甘い。それも想像以上に。

  芽生えた幸福は膨らむ。体を小刻みに震わせながら彼は自然と触手を貪るように吸い上げた。舌を這わせ、少しでも多く蜜を出して欲しくて。

  両手を触手に伸ばす。歪に膨らんだ腕。長く、鋭く伸びかけている爪。かり、かり、と触手を弄れば蜜の量がまた増えた。

  奉仕する。奉仕すればこの蜜をもっと貰える。じゅぼっ、じゅぼっ、と音を立てて。顔にもかかった。甘い臭いが鼻から脳へ突き抜けて。

  腹の中で仔が蠢く。喜んでいる様だ。心の奥がじんわりと熱くなる。

  ねじ曲がっている。それでも湧いてくる幸福感には抗えなかった。だから。

  「んはぁっ♥」

  彼は表情を蕩けさせながら、触手に奉仕し続けた。

  口だけでは足りない。もっと、もっと。そうだ。自分には…

  「ぐぼっ…あっ、あはぁっ…♥」

  彼は両手を触手から離すと自分の尻をがっぷりと掴んで、割り拡げる。もわぁ、と雄の臭いと雌の臭いが入り混じった臭い。

  触手を誘う様に腰を少し振ると…触手はすぐさま彼の雄穴に近寄ってきた。にゅるにゅると、撫で回されると。

  「んひゃぁっ!?」

  彼は素っ頓狂な声を上げた。触られた場所。未知の感覚で、今まで自分になかったものだったのだ。

  首をゆっくり動かし、自分の体を見てみると。尻の上。丁度尾骨の辺りだろう。そこに見慣れない、毛の塊。

  「これ…なに…?」

  疑問符が再び浮かび上がる。毛の深い腕。歪な両腕。長い長い舌。自分は今…

  ずぶぅうぅっ!

  「ひぎぃぁぁぁぁぁっ♥」

  だがそれは雄穴に挿入された触手によって取り払われる。熱い触手が彼のハラワタを圧迫し、満たす。

  胎内の仔とは別に、腹が膨れ上がるほど奥まで一気に挿入されると彼は意識を半ば飛ばしながら、しかし与えられる快楽。

  そして蜜の熱に酔いしれ、喘ぎ声を上げ続ける。

  大きく開いた口に、触手を捻じ込まれ。えづきそうになったのに、幸せで。自分の中を満たす全てに…彼は愛おしさすら感じ始めていた。

  びゅぅっ、とまた新しい蜜が注ぎ込まれた。愛おしさを感じると、なおの事その蜜が甘く甘く感じる。

  激しく腸壁を抉られているのに、どうしようもない快楽と幸福。

  「あっ、あぁっ、ひぎぃぃぃっ!!」

  それらに酔いしれているとそれは突然に訪れた。ぶしゅあ、と凄まじい量の液体が膣から体外へ排出された。

  激痛と、快楽と幸福が重なる。理解した。

  「うっ、うまれっ、産まれるぅぅっ♥触手の仔でりゅぅ♥おぼぉごぉほぉぉぉ♥」

  歓喜と狂喜の声に、触手が激しく蠢き、彼の両の太腿に絡みつくと大きく開かせる。

  彼の目に映るのは、自分の股ぐらから血と粘液が混ざった液体が溢れ。そして。

  ぴぎゃぁぁぁ!

  そこからずるり、と出て来る、新しい触手。甲高い声で、泣くそれはあまりにもグロテスクで。それなのに。

  「ひひっ、いひひぃっ♥産まれてるっ、孕んだ触手♥あひっ♥産まれでるぅぅぅ♥♥あっ、あ゛いぐっ、ぐるっ、ぎでるっ、あ゛っ、あ゛あ゛あ゛あ゛っっ♥♥♥♥」

  触手の最も太い場所が彼のワレメをすり抜け、どぢゅるっ、と地面に落ちた。祝福するかのように彼を覆う触手が動きを止め…そして頭を優しく撫でた。

  「ぐへっ、ぐへへぇっ…ふへぇっ…♥」

  彼は嬉しそうに笑うと自分のすっかり凹んだ腹と。そして触手を産み出したワレメを撫で回した。

  [newpage]

  泥のように眠り。起きた。

  「あぐっ、がっ、あがぁぁぁっ!!」

  意識を取り戻した直後から感じたのはとてつもない激痛だった。それも生半可なものではない。涙と鼻水が自然と溢れ出し、声を出さなければ狂ってしまうほどの激痛。

  ぶちぶちっ、と体が千切れるような音。痛みを少しでも和らげようと肌を掻き毟る。

  鋭い爪が皮膚を切り裂き、真っ赤に染まる。破れた皮膚の下から現れたのは。

  「がっ、あがっ、ォォァッ!」

  悲鳴は遠吠えに変わりつつあった。獣のような毛並みが。彼の全身を覆う。

  激痛と、自分が変わっていく恐怖。ぶちぶちと千切れる体。それを凄まじい勢いで修復していくのもまた、自分の体。

  彼は頭を抱え、叫ぶ。吠える。吼える。耳を引きずり出される。開いた口が。顎が。変貌する。

  強靭な物だ。自分の視界に入る。意識を保てているのは何故だろう。痛みに悶えながらも彼は思う。

  歯がボロボロとこぼれ落ちる。後から歯茎破るように生えてきたのは鋭い牙。

  全身が膨らんでいく。彼の変貌に触手は、彼に近づいた。そして蜜を振りかける。

  「ガァァァァッ!!」

  甘い蜜が痛みを和らげるが、足りない。彼は歪に膨らみ上がった腕を振るう。鋭い爪が、触手を引き裂く。ぶしゅぁぁ、と蜜が。青臭い液体と同時に噴き出した。

  彼ははぁはぁと激しく息を吐き。地面に溢れた蜜と青臭い液体に舌を這わせる。

  ぴちゃ、ぴちゃ、と。長い舌が液体を掬い上げる。ぶち、ぶち。

  「ガァッ、アガァッ…!!」

  ォォォォォォンッッ!!

  彼の声に。触手はびたびた、と。嬉しそうに蠢いた。

  [newpage]

  「ウ…ゥゥ…」

  彼は自分の声で目を覚ました。いや、それが自分の声だとは思えなかった。

  危険な獣が近くに迫っているかと思い、意識を取り戻した。それが正しいだろう。

  ゆっくりと彼が目を開くと。変わらずそこは触手の洞窟の中。それなのになんだかやけに明るく見える。

  そして視界も歪んでいるような気がする。

  「グゥゥ…」

  また獣の唸り声だ。こんな洞窟に、まだ生きている獣が入ってきたのだろうか。だとしたらその獣も自分と同じ末路を辿るだろう。

  すんすん、と鼻を動かす。甘い臭い。青臭い臭い。雄の臭いと雌の臭い。それに獣の臭い。

  行き過ぎた快楽と激痛に半分ほど飛んでいた思考がゆっくりと彼の元に戻ってくる。

  「俺ハ…」

  声を出すと。それは半ば獣の声と混ざっていた。彼はそれにはっ、とした表情を浮かべる。

  視界が歪んでいる理由。

  獣の臭い。唸り声。連鎖式に理解していく。自分は。

  恐ろしくなる。認めたくない。けれど。彼は震えながら自分の腕を持ち上げてみた。

  …太い太い腕。毛むくじゃら。鋭い爪に、肉球。

  ゆっくりと立ち上がる。視線が高い。視界が広い。そして目の前にあるのは…黒い鼻。

  これは恐らく、マズル。

  「俺…ウェアウルフ…ニ…」

  言葉が出し辛いのは、喉を覆う筋肉のせいだろうか。盛り上がり、張り裂けそうなほどの力が体の中を暴れまわっている。

  認めたくない。認めたくない。嫌だ。しかし、現実は非情だ。

  地面の水溜り。紅い液体。それは恐らく自分が触手の仔を産んだ際に出来た物。

  …そこに写るのは、鋭い瞳に獣の光を備えたウェアウルフ。

  「ぁっ、ァァッ…ァァァァァァッ!!!!」

  彼の―ウェアウルフの遠吠えが洞窟の中に虚しく響き渡る。それは絶望か。それとも産声か。

  頭を抱え込み、うずくまる。何故こんな事になってしまったのか。自分はこれからどうなるのか。

  恐ろしくてたまらない。寒い。毛並みに包まれているのに、酷く寒い。

  暖かい物が欲しい。温めて欲しい。助けて欲しい。

  ぼろぼろと大粒の涙がこぼれ、頬の毛並みを濡らした。

  ぬるり、と。ウェアウルフの耳に音が聴こえる。とても小さく。けれど確かに。きっと人だった時には聴き取れないものだっただろう。

  三角形の大きな耳がぴくぴくと動く。尻尾がゆらり、と自分の意志と関係なく大きく揺れた。

  洞窟の隙間から触手が現れる。ゆっくりと。

  ウェアウルフになった事で全ての感覚が鋭敏になっているのだろう。暗闇の中でも触手の色が分かる。

  肉の色だ。おぞましい、紅と黒の混ざった、肉の色。グロテスクな臓物の色だ。

  漂ってくる臭いは酷く甘い。彼の嗅いでいたものよりもっとずっと甘い。

  憎しみや怒りが。湧いていたはずの激情が。

  「…ァッ…」

  きゅん、と腹の奥が切なく疼いた。

  元に戻る事も出来ない。そうしたのはあの触手だ。こんな体にされ、触手を孕まされた。

  それなのに触手を見続けていると。臭いを嗅ぎ続けていると。

  「ァッ…ファァッ…グゥッ…ンンン…」

  ガクガクと膝が笑い、立っている事が難しくなる。股間の逸物はすさまじい大きさと凶悪さに変貌し、だらだらと先走りを零している。

  そしてやはり、股間のワレメは。膣は。子宮は。残っていて。じゅくじゅくと汁を溢す。

  透明な液体が大量にあふれ出すと同時に白い粘液が混ざり始める。

  また孕まされるのか。嫌だ。嫌なはずだ。なのになんで…

  「アフゥッ…ワフゥゥンッ…♥」

  座り込む。その姿勢を保つ事すら難しくて。仰向けに寝転がるとウェアウルフは愛玩動物のような鳴き声を上げると腹を天井に向けた。服従のポーズ。孕ませて欲しいと。体が求めてしまう。

  体が求めれば、理性は消えていく。

  全身を触手に包み込まれた。あぁ、暖かい。ウェアウルフになってからずっと寒かったのに、暖かい。

  堕ちていく。堕ちていく。

  それでもいいかと。思うほど暖かく、優しく。少し細い触手が頭を通り抜け、頭を撫でる。

  目の前に触手を差し出され、ウェアウルフは一瞬ためらった。

  しかしすぐ。大きな口を開けて触手を咥え込む。肉の味。蜜の味。

  尻尾が千切れんばかりに振りたくられる。感情全てを消し去るほどの幸福感が胸を一杯に充たした。

  鋭くとがった牙ではもしかしたら触手を傷付けてしまうかもしれない。

  そう考えながらウェアウルフは甘く噛む事より、舌を絡ませることを選んだ。

  ぐるぐると人であった時には考えられないほど多く舌を絡ませ、長いマズルを窄ませる。

  粘膜がぴっとりと密着すると触手はびゅるびゅる、と多くの蜜をウェアウルフの口へ注ぎ込む。

  蜜の味に反応したのだろう、ぐぱぐぱとワレメが激しく蠢き始めた。

  フェロモンが全身から解き放たれて。触手はウェアウルフを再び孕まそうと。

  そのワレメに触手を殺到させる。ウェアウルフは、笑った。

  [newpage]

  触手を産むことに嫌悪感も、痛みも感じなくなってきた。幾度かの出産を経験し。

  触手が愛しい。産まれた仔は成長し、今はもう洞窟の中で立派に入ってきた生き物を捕食し、苗床にしている様だ。

  …他に入ってきた生き物。

  何かが引っかかる。ウェアウルフは久しぶりに『考える』事をし始めた。

  触手に犯され、仔を孕んでいる時は幸福感と本能によってお飾りとなっている頭を動かした。

  そもそも自分は、何故ここに居るんだっけ。最初から触手の苗床では無かったはずだ。

  「俺…は…」

  久しぶりに喘ぎ声以外を出した。声は洞窟内に響き、ウェアウルフの耳に再び入り込んでくる。

  野太い、しかし頼りない声。頭を片手で押さえる。

  考える。考える。考える。

  …ふらふらと洞窟の中を歩く。触手も今は満足しているのだろう、動く気配が感じ取れない。

  洞窟の中を歩くと。蜜以外の臭い。腐敗臭。血の臭い。鉄の臭い。ウェアウルフは思わず鼻を押さえた。

  そうだ。この臭いは、嗅ぎ覚えがある。その臭いのする方へ。歩く。

  鼻が鋭敏になっているおかげだろう。光も無く、目印も何もない。いくつにも分岐した道を迷うことなく進む事が出来た。

  辿り着いたのは…人の亡骸。足元には大量の血と、粘液。既に腐りかけており、骨が露出していた。

  思い出す。ここに来た理由。ここに居る理由。自分が…もともと、人であったこと。

  「そう…か…」

  ウェアウルフは自分の手を見つめ、ぼんやりと呟く。

  とてつもない絶望。それを前にウェアウルフは諦める事を覚えた。

  パンドラの箱には、一つの希望が残っていた、という。ここがパンドラの箱なら、残っていたのかもしれない。

  しかしここはパンドラの洞窟だ。

  残っていた一つは、希望ではなく、達観。

  もう元に戻ることは出来ない。仮に戻れたとして。自分は。自分の体は。この快楽や幸福を味わえなくなることをよしとするだろうか。

  不可能だ。依存性の高い薬物にハマってしまったものの末路は、すべからく悲惨なものだ。

  ぎりっ、と少しだけ牙を食い縛り。しかしウェアウルフは―彼は。洞窟から外へ向かう事にした。

  自分はもう助からない。底なし沼に、首まで埋まってしまった状態だ。

  その状態から出来る事。それは…

  「伝え…ない…と…」

  ここが危険な事。何も無い事。絶対に入ってはいけない、と。忠告する事だけだ。

  重い。足元の岩がめきめきと音を立てて砕けるほどの重さ。それなのに歩いていく内に体が軽くなったように錯覚する。

  体が慣れてきているのだろう。鼻を動かし、耳を動かし。外の臭いを嗅ぎつける。触手の甘い臭いが漂う中から、少しずつ離れていく。

  道中で触手に遮られるかと思ったが、そんな事も無く。ウェアウルフは洞窟の入り口へと。外へと向かった。

  「うっ…」

  眩しさに腕で目を覆い、瞼をきつく閉じる。鼻を動かすと新鮮な木々の香り。風の香り。それらが肺の中を一杯に満たした。

  心地よいのに、物足りなさを感じてしまう自分に違和感と恐怖を覚えながらウェアウルフはゆっくりと目を開いた。

  見える世界が違う。人であった時、こんなに世界は美しく見えただろうか。そして。

  じゅるり。

  「あえっ…?」

  地面にぼたぼたと液体が垂れてからウェアウルフは驚いた様な声を上げた。零した液体。それは自分の口から出ていたのだ。

  それも大量に。これ以上零さないように、なんとか飲み込み、洞窟の外へ。森へと歩を進めていく。

  ずしん、ずしん、と重たい音。耳を澄まさずとも生き物の声や羽ばたき。ざわめきが聞こえる。

  早く伝えなくては。ウェアウルフの中に一欠片残っていた彼が焦燥を覚え始めた頃。

  ウェアウルフは足を止める。見つけた。見つけられた。伝える。あの洞窟に近寄るなと。

  腹が減った

  あそこに入れば二度と出られず、死ぬか苗床として生き続けるか。

  犯したい

  自分のようになりたくなければ。絶対に入るなと。

  ちりちりと燃える。思考が、脳が、本能が。焦げる。焦げ付くほどの熱。

  がさがさ、とわざと大きな音を立てながら自分の求めていた―人の匂いがする所へ飛び出す。

  「なっ!?」

  そこに居るのは二人の人。片方は小柄。そしてローブを身に纏っている。もう片方は大柄で…昔の自分のようだ。

  「くる…なっ…!」

  燃え滾る本能を抑えつけながら、彼は必死に言葉を手繰り寄せる。唾液がだらだらと滴り続け、視界が真っ赤に染まっても。

  「洞窟…何もッ…ナイッ…!だかラっ…!立チされッ…!!!」

  きっと。初めて彼と出会ったウェアジャガーも。同じことを言おうとしていたのだろう。

  今になって。ウェアウルフになって。やっとわかった。あの時、自分は引き返すべきだったのだ。

  だから、引き返して欲しかった。

  「そう言われて立ち去るほどやわじゃねぇんだよ!」

  大柄の人が。頬を吊り上げ、剣を構えた。それに続くよう小柄な人が杖を取り出し、何事かを詠唱し始める。

  もうすべてが。手遅れなのか?

  詠唱が終わったのだろう、杖を振りかざすと大柄な人が、淡く光り始める。おそらく肉体強化の魔術だろう。

  自分の伝えたい事も伝えられないのか?

  人の剣が。自分に振りかざされた。ゆっくりと。酷くゆっくりと剣が目の前に迫った。

  そう。あっさりと避けられるほどに。そして。

  ガァァァァァァッ!!!!

  その遠吠えは、自分の物だと。彼―ウェアウルフは最初、分からなかった。

  自分に飛び掛かった人が。肉塊になるまで。

  剣を避けたウェアウルフはにぃっ、と残忍に頬を吊り上げると人の頭に拳を叩きつけた。

  悲鳴は聞こえない。肉が吹き飛び、木々にびたんっ!と叩きつけられる音だけが。

  骨が千切れる音が。血が噴き出す音が。それだけが聞こえる。真っ赤な華が木に咲き誇る。

  暖かい。それは触手に包まれた時と同じ暖かさだ。

  自分の視界が真っ赤に染まる。概念的な表現でなく。真っ赤に。舌なめずりをする。

  甘い。甘い。甘い。甘い。甘い。鉄。甘い。甘い。

  「うぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

  小柄な人の悲鳴に。ウェアウルフは…嗤った。

  地面に落ちた肉の塊はびぐんっ、と一度大きく痙攣したと思えばそれ以降動かなくなる。

  どくどくと無くなった首から大量の液体が溢れ出し、地面を汚した。

  小柄な人は腰が抜けてしまったのだろう、尻もちをつき、必死に逃げ回ろうとしていた。

  後でいい。今は。

  ウェアウルフは肉の塊を持ち上げると、胸の谷間に爪を突き立てた。本能が分かっている。知っている。

  ここから。ここから。

  一気に引き裂いた。ぶぢぶぢと肉の千切れる音の後。そこから飛び出すのは真っ赤な臓物。そして大量の液体。

  ウェアウルフは恍惚の表情でそれを浴びた。大きな口を開けて臓物を噛み砕く。

  「くっ…くくくっ…かかっ…ひひっ…!」

  ぐじゃりぐじゃりと噛み締める度に。噛み千切る度に。触手から与えられるモノよりも甘い蜜が飛び出すようで。

  臓物を漁り、肉を食い破る。そうする度に満たされいてく。腹が、脳が。満たされる。幸福と快楽と恍惚と。

  入り混じった『食事』は。産まれて初めての『食事』は。忘れられそうにもない程しあわせなものだった。

  笑いが止まらない。腹の底から笑う。笑う。

  夢中で漁った。骨までしゃぶり尽くした。後には何も残らないほど。

  もう、無くなった。少しだけ足りない。腹は満ちた。でもまだ、『食事』は終わらない。

  夢中になって肉を貪っていたせいだろう、いつの間にか小柄な人はその場に居なかった。

  無駄な事だ。臭いで分かる。クンクン、と鼻を鳴らす。そんなに遠くない場所に居る。ウェアウルフは両脚に力を込めると…素早く。

  深紅の弾丸のごとく。飛び出した。

  走る。気持ちいい。風が気持ちいい。でも、もっと気持ちいい事を知っている。

  触手にされた事。思い出せば子宮が疼く。けれど。そういえばこっちはまだだ。

  膨れ上がった逸物がびくんっ、と期待に震えた。

  グルゥゥウゥゥゥゥッ!!

  唸り声をあげて。ウェアウルフは臭いの元へ一直線へ走り抜ける。時間にして、ほんの数秒だろう。

  視界の端に人を。獲物を捉え…

  「ガァァァァァッ!!」

  思い切り吼えるとウェアウルフは獲物へ飛び掛かると背後から地面に押し倒し。組み付く。速度を殺しきれず組み付いたせいだろう。ぼぎり、と恍惚の音が聴こえた。

  「ァァァァッ!!!」

  獲物は痛みと恐怖から顔を引きつらせ、慟哭の声を上げる。ぞく、ぞくと。触手から享受していた快楽とは全く異なる快楽がウェアウルフの脊髄を突き抜けた。

  人であった時、ここまでの快楽を感じたことはあっただろうか。

  思い出そうとしても思い出せず。がぱぁ、と口を大きく開く。血生臭い呼気を獲物に纏わりつかせて。

  鋭い牙がぎらりと光る。獲物はただただ怯え、血がにじむほど強く地面に爪を突き立て。少しでも逃れようと身をよじらせる。

  全ては無駄だと分かっていても。蠢く。

  自分の手の中で踊り狂う。このまま握りつぶす事も、そのまま踊り続ける事も。自分が全てを決められる。

  ウェアウルフは大きな口を開けたまま、獲物を潰さない程度に体重を乗せた。どくんどくんと獲物の鼓動が伝わる。

  死にたくない死にたくない死にたくない

  そんな声が聞こえる。獲物の。被食者の虚しい叫び。

  支配されるのは心地よかった。快楽を享受し、捕食者の望むまま。体を弄ばれ、使われた。

  支配するのはとてつもない快楽だった。支配欲が満たされ、制圧する優越感。蹂躙しても、しなくてもいい。どちらを選ぶか。選択の愉しみがあった。

  大きく開けた口からだらだらと唾液と血が滴り、獲物を濡らす。濡らすたびに獲物はびくっ、びくっ、と怯え竦み。声にならない声を上げ、助けを求めるよう、血塗れの手を空に伸ばす。

  耐え切れない。これ以上は耐え切れない。ウェアウルフは大きく開けた口を獲物の肩口に近付けた。

  舌を伸ばし、肩を、首を。舐める。血管に舌を這わせ、唾液を纏わせる。獲物の尻の谷間に、自らの逸物を擦りつける。

  食欲は満ちた。意識を失っていたせいだろう、睡眠欲も満たされている。

  後は。

  「動くナ。動ケばこロす。」

  先程までの『彼』とは全く異なる声色。捕食の歓びを覚えた獣の声。獲物はその声に体を硬直させることしか出来ない。

  獲物の臭いを愉しむ。焦燥と絶望と憎悪と怨嗟。暗い感情は甘い臭いを立て、獲物を覆い、ウェアウルフにさらなる甘美を想像させた。

  腕をローブにかけると爪を振るう。丈夫に編まれているであろうそれは、しかしウェアウルフの前には紙切れと何も変わらない。

  「ハァッ…!」

  獲物の肉体はやはりウェアウルフの想像と違わず。細く、軽く捻るだけで折れてしまう、木の枝のように見えた。

  だが雄穴は相当使い込まれている様だ。ウェアウルフが尻を撫で、爪を雄穴に近付けるとグパグパと引くつき、汁を垂らし始める。

  運がいい。もし使われていなければすぐさま裂け、そのままショック死する事も考えられた。

  なんて運がいいんだ。ウェアウルフは尻尾を大きく揺らす。尻から両手を離し…獲物の両腕を掴むと地面に押し付ける。

  上半身を少しだけ上げ、獲物を見下ろす。怯え、竦み、震え。表情が見えないのが残念だが…地面にぼたぼたと液体が垂れた。

  逸物が更に膨らみ、びくんびくんと激しく脈動する。期待にとろとろと先走りが溢れ、獲物の尻に降りかかると。

  「ひっ…!」

  恐怖から引き攣った声を上げる。震えは更に大きくなって。ウェアウルフの嗜虐心を煽る。

  もっと怯えろ。もっともっともっと。

  「おレをたのしマせろ。」

  零れ出る言葉。それと同時にウェアウルフは逸物を獲物の雄穴に宛がった。その気配を雄穴が感知したのだろう、ぐぱぁ、と拡がりどろどろと腸液をあふれさせた。

  じゅるりと唾液を飲み込み。獲物に再び体重を乗せると。

  ずんっ。

  「ぁ”ぁ”ぁ”っ…!!!」

  めり、めり、と歯を食い縛る音。獲物のかすれた、助けを求める声。心地よく締め付ける雄穴。自分の体の下で暴れまわり、跳ねる、獲物。

  肉の感触。切り裂いた時と違う。爆発するような快楽ではない。こちらはじんわりと。桶を満たしていく、水のように。

  ゆっくりゆっくり。ウェアウルフを快楽へ誘う。

  挿入した逸物は雄穴に入ると更に膨らむ。根元が膨らみはじめたのを確認すると。

  ウェアウルフは一気に腰の抽送をし始めた。

  「ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”っ!!!!」

  獲物の声が虚しく響き渡る。ウェアウルフにとってはその声も性欲を満たすに足るものだ。

  腰を動かし、雄穴の中を搔きまわす。ぐちゃぐちゃと粘液が擦れる音。どつどつと肉のぶつかる音。

  逸物を奥へ奥へと推し進めていく。腸壁を引きずり出し、再び埋め込む様に。こつ、と少し硬い所にぶつかると獲物はびぐんっ、とウェアウルフの体を跳ねのけんばかりに跳ねた。

  「ココか。」

  ウェアウルフは愉しそうに呟くとこつこつとぶつかる、硬い場所を重点的に突き始めた。

  そうすると獲物は面白い程ウェアウルフの下で跳ねまわり、いつの間にか勃起していた肉棒からびゅるりと白濁液をこぼすのだ。

  それに伴い雄穴が締まり、更にウェアウルフの逸物を絞り上げる。気持ちいい。激しい快楽。

  もっとだ。もっとだ。

  ウェアウルフは大きな口を開けると獲物の肩に噛みついた。とはいえ軽く、軽くだ。牙の痕が付く程度に。

  何度もマーキングするようにかぷかぷと噛みつく。獲物はある一線を越えてしまったのだろうか。

  「ひっ、ひぎっ、お”っ…ぁ”っ…!」

  引き攣った声が、雌犬のような。悦ぶような。そんなものに変わり始める。

  ウェアウルフが両腕を離してももはや離れようとも暴れようともしない。地面を握りしめる。舌をはみ出させたのをウェアウルフは見逃さない。

  腰を動かしながら、土と血と粘液で濡れた指を獲物の口にねじ込む。

  口腔内の粘膜をこそぐと。びくっ、びくっ、と震え、その指を獲物はしゃぶり始めた。

  ウェアウルフの腰の動きがどんなものになっても。下腹部の凹凸が繰り返されても。

  ただ、嗤う。

  腰の底、腹の底が、じんわりと熱くなる。いや、もはや灼熱と言ってもいいのかもしれない。

  解放の時を待ちわび、渦巻いている。

  「グゥゥゥッ、ゥゥゥゥゥッ!!!」

  ウェアウルフは歓喜の唸り声を上げると獲物の口から指を離し、地面に両腕をついた。

  獲物は…僅かに振り返り、ウェアウルフを見つめる。

  その瞳は絶望の快楽に濁り、涙を溢し。しかし頬は吊り上がり、だらだらと唾液を零していた。

  「ひっ、ひぎっ、おひっ、はひっ、ははっ、ひゃはぁっ…♥」

  獲物の甘えるような声に。ウェアウルフは。

  ガァッ、ガァァァッ…ォォォォォンッ!!!!!

  大きく遠吠えをすると。腰を数度大きく動かし。

  獲物に全体重を乗せると。

  …びゅうっぅぅぅうっ、びゅるるぅっ、ぶびゅぅぅっ、ぶびゅるるぅっ、どぼびゅぶびゅるるぅぅぅっ!

  真っ白なマグマを。欲望で煮えたぎるマグマを。獲物の中に注ぎ込んだ。

  「ひぎぐあぁぁぁっ!!!あぐぅぁぁぁっ!ぎでるっ、種ッ、ぎでるぉぉぉっ、ォォォォォン♥」

  もう理性も何も残っていないのだろうか。諦めたのだろうか。獲物は与えられる暴力的な快楽に言葉を、表情を崩し、全身をがくがくと震わせる。

  注ぎ込まれる精液は、量も濃さも、人を遥かに上回るものだった。

  腹部を大きく膨らませ、それでもまだ足りないと。注ぎ続ける。

  ごりっ。ごりっ。ごりっ。

  「ひっ…?」

  その音に獲物は一瞬混乱したような表情を浮かべる。ウェアウルフもそうだろう。しかしすぐさま理解し受け入れる。

  亀頭球。そう呼ばれる根元の部分がゆっくりと。獲物の雄穴へ飲み込まれていく。

  「~~~~~~~っ♥♥♥」

  雄穴を逸物以上に押し拡げられ、そしてそのまま固定される。がっちりと結合すると、精液は行き場を失い、更に獲物の腹を膨らませるだけだ。

  孕んだのではないかと思うほど腹が膨らみ。獲物は白目を剥き、ただただうめく。

  ウェアウルフは満足したように。しかしまだ味わいたいと。

  尻尾を獲物の太腿に絡め…射精の快楽と。支配欲と。優越感に。目を細めた。

  [newpage]

  幸福と言うものが形としてあるのなら。まさにそれはこの形をしているのだろう。

  ウェアウルフはそう思いながら洞窟の中に戻り…触手に手を伸ばす。

  血塗れのウェアウルフに伸びてきた触手。それを愛おしむ様に撫でて。

  そうすると触手は本数を増やした。ウェアウルフを包み込めるほど大きな触手も、迫った。

  ウェアウルフは自らそこに身を委ねる。暖かな布団にくるまれているような。安堵感。

  雄の快楽を知った。雌の快楽も知っている。どちらもウェアウルフの脳を痺れさせ、それ以外何も受け入れられなくなる。

  ウェアウルフは太腿を掴み、両足を開く。ぐぱぁ、と拡がるワレメは肉壁を見せびらかし、もわ、と甘い臭いを立てる。

  「はらっ、ふへっ、孕む、孕む♥」

  ウェアウルフの声を聞いてか。触手はゆっくりとウェアウルフのワレメに入り込み、ずちゅずちゅと抽送を繰り返した。

  甘い快楽が全身をめぐる。とろん、と目が虚ろに、恍惚に蕩ける。

  だらしなく開かれた口に、触手が詰め寄った。ウェアウルフは迷うことなく咥え込み、じゅるじゅると音を立てながら頬を凹ませ吸い上げる。

  びゅぅ、と蜜が飛び出した。

  血とは比較できない。どちらも甘い。美味しい。欲しい。必要だ。

  パンパンに張り詰めた胸から白い液体が飛び出し、触手やウェアウルフの体を濡らした。

  口やワレメをぐちゅぐちゅとかき混ぜながら、触手はウェアウルフの頭を這いずり回る。それはまるで愛おしい仔を撫で回すようで。

  ウェアウルフは尻尾を揺らし、目じりを下げた。

  また。蜜が、種が注ぎ込まれる。

  腹を膨らますほど。気絶してしまいそうなほどの快楽で。

  目の前がちかちかと。明滅する。

  足音が、聞こえた。

  [newpage]

  パンドラの洞窟に、行ってはならない。

  パンドラの箱に、一つ希望があったと。ならパンドラの洞窟も同じでは?

  そう思ってはいけない。あそこに希望は無い。

  何故そう言いきれるか、と?

  ウェアウルフがそう語ったからだ。

  あぁ。確かに彼はそう言ったよ。私の仲間を殺した彼が、ね。

  何故信じるか、と?

  さぁ、何故だと思う?

  あぁ、時間だ。私は行かなくてはならない。

  体が疼くんだ。欲しい。欲しい。欲しい。

  何が?と?

  ヒミツだ。君は知らない方がいい。

  私も知らない方が良かった。

  あぁ、でも。欲しいんだ。疼くんだ。

  私も…俺も…おナじ…

  [newpage]

  何があったのか、今では知るものは居ない。

  ただ一つ。確かに人々に刻み込まれる。

  パンドラの洞窟に、足を踏み入れてはいけない。

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