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はてさて果たしてどうしたものか。
空っぽの大きなバッグを背に、少し細身の男ははぁぁ、と大きくため息を吐いた。
鬱蒼と生い茂る森の奥深くでは陽射しから太陽の位置を把握することも出来ない。
手にした方位磁石はただひたすらグルグル回り、本来の目的をすっかり忘れてしまっているようだ。
自分がどっちから来たのか、似たような景色が続く森の中では分からない。
一度足を止めて見たものの人の気配はおろか獣の気配すら早々感じない。遠くに鳥か何かが通るだけ。
遭難である。立派にばっちり遭難状態。
太陽が差し込んでいてもなお時間の感覚が消え失せて、今自分が何日、こうして迷っているのかも正直思い出せない。
近くに流れる川に流れる水はとても澄み渡っており、そのまま飲んでも腹を下す事は無かった。
食べられる山菜や果実なんかも多く、直近で飢えて死ぬ、という未来は見えない。それはいい。
それはいいが。流石にこのまま遭難しっぱなし、というのは歓迎すべき状態ではない。
というか命の保証もない。
参った。本当に参った。
慣れた道を歩いていたはずだった。いつものように商品を配送し、いつものように家に帰る所だった。
一瞬考え事をしながら歩いていたら…いつの間にか見覚えのある道は、見知らぬ獣道に変わっていた。
不思議に思った時には、もう既に自分が歩いていた道が存在していなかったのである。
あぶないと思った彼は立ち止まり数時間待ってみたのだが…人通りは一切なく。
今こうして、良く分からない道で立ち止まり天を仰いでいる。
空気の臭いや風の様子からここがなんとなく山の奥の方だという事は分かる。
逆に言えばわかる事はそれだけである。
地図を取り出した所でこんな森の奥の道など書いてあるはずもない。というかそれ以前に方角も分からないのだからどうしようもない。
あれ、これは詰んだのでは?
うっすらと―いやずっと頭にはこびりついていたけれど―浮かび上がるのは死という一言。
死神がにっこりと笑顔で鎌を振っているのが見えそうな勢い。
「誰か~、いませんか~?」
かすれかけた声を上げて商人はきょろきょろとあたりを見渡した。
獣の声すら戻ってこず、風がさわさわと木の葉を揺らすばかり。
食料もまだあるし、ここは一つ覚悟を決めてここで誰かが通るまで待つか?
それとももう少し探索をしてみるべきか。
地図と方位磁石をバックに戻すと商人は両腕を組みうぅむ、と唸り声を上げる。
「待つか…」
商人はそう呟くともう一つため息を吐き、バッグをシート代わりに地面へと座り込んだ。
ポケットから小さな果実を取り出し口に入れる。
爽やかな酸味と僅かな甘みが疲れた体に染み渡るようだ。
疲れた。疲れた?
そう、座り込んだその時から、商人は疲労の波が一挙に押し寄せてくるのを感じ取った。
極度の緊張と慣れているとは言え過酷な山道。それらが合わさり、商人の体力は当の昔に限界を迎えていた。
急速に意識が遠のいていく。
このまま意識を失えば笑顔の死神が鎌を思う存分振るう事は明らか。
あ、これ、死んだ。
[newpage]
途切れた意識が繋がった。
全身を受け止める柔らかな感触。暖かく包み込まれる感覚。鼻を突くのは野性味溢れる、どこか懐かしい臭い。
これはどこで嗅いだ臭いだろう。
徐々に明確になる意識を手繰り寄せ、思案しながら商人は瞼を開いた。
先程まで自分が居た場所とは明らかに異なる。見た事のない天井。
どうやら天国では無いらしい。
「…ここは…どこ…?」
商人は小さく呟き、体を起こそうとして。
「いってて…」
酷使された肉体は少しでも動かそうとすれば鈍痛が駆け抜け、情けない声を上げた。
ここがどこなのか。自分がどうなっているのか。状況が分からないが…とりあえず、生きているらしい。
安堵の息を吐き、商人は視線を動かす。
家、だろう。随分と大きく、広めに作られている。自分が眠っているのは大きなベッド。
そして全身を包むのは大きなシーツ。鼻で呼吸するとシーツとベッドから漂う、懐かしい臭い。
不思議と安心感が湧いてくるその臭いは、幼い頃に嗅いだ香り。
シーツに鼻を近付けすんすん、と鼻を動かしていると、がちゃり、とドアの開く音が部屋の中に響いた。
商人はまだどこかぼんやりした頭のまま、音の方へと視線を向ける。
ドアの向こうに立っていたのは…屈強な男だ。
凄まじい太さの首。連なった山のように盛り上がった肩。胸板は分厚い、という言葉すら足りず、更に谷間が出来上がる。
血管が浮かび上がり威圧感を与えるのは丸太を束ねたかのような腕。バキバキに割れた腹筋は部位ごとに影を作り上げていた。
くびれが出来るように見える背筋。そんな屈強な上半身を支える太腿は子供の胴体か、はたまた商人の胴体か。
屈強、頑強と言う言葉を混ぜて一晩煮詰めて凝縮したかのような男。
身につけているのは腰布ただ一枚。全身を覆う体毛に、胸や腕、太腿や腹に刻み込まれたタトゥーがまたその男の威圧感を際立たせる。
それなのに、銀色の瞳は繊細で、まるで宝石のように美しい。
視線が合う。商人はびく、と全身を震わせた。
美しい瞳に宿る鋭い光が、商人の本能に警鐘を鳴らす。
…一方の男はというと。
「おぉ、気が付いたか!良かった良かった!」
一気に表情を崩すと商人に駆け寄り、ベッドに飛び乗ると商人の体を抱き起こし…抱き寄せる。
先程まで比較対象が無かったから分からなかったが、デカい。とにかくデカい。
大きな手は片方だけで商人の背中を覆う。上半身を起こすと、胸の谷間に丁度顔がフィットする。
商人より一回り、二回り…いや、さらにもう一つ。大人と子供よりも更に更に。
むぎゅうぅ、と男は自分の胸に商人を抱き寄せると力強く。
そりゃあもう、全身の鈍痛が吹き飛ぶような強さで。
「むぐぅぅぅ!ぅぅ"ぅ"っ!」
商人のくぐもった、悶絶するような声に男はようやくはっ、とした表情を浮かべ急いで商人の体を解放した。
みっちりと詰まった胸に埋もれて危うく窒息死する所だった。
「す、すまん。つい…」
「い、いや、大丈夫です…その、えぇっと…」
聞きたい事が山程ある。山程あるがまずは。
「俺を、助けてくれたんですか?」
「あぁ!川のほとりで寝てる…っていうか、倒れてたからな!家に連れて帰ってきたんだ!」
「あ、ありがとうございました。」
「うん!…ここら辺は俺達以外、人が滅多に通らないからな!生きてて良かった!」
男の元気な声に屈託の無い笑み。それはとても眩しく。
商人は表情を綻ばせる。あぁ、助かったのだとようやく実感した。
野ざらしにされていた体を包み込む、大きく暖かな肉体。
そこから来る安堵感に、商人は男に身を預ける。
どく、どく、と伝わる鼓動は大きく、穏やか。
商人の様子に男は戸惑うような素振りを見せたが…すぐに商人を受け入れる。
今度は優しく抱き寄せ。ぽん、ぽん、と商人の頭を撫でた。
「怖かったな。うん、良かった。」
この山で初めて出会った人だというのに。何故かそう感じられなくて。
自然と涙が溢れ出す。男の熱が、商人の体を包み込んで。
いつの間にか溢れていた涙が、男の胸を濡らす。それは体毛を通り抜けて、皮膚にまで届いて。
つん、と鼻の奥が染みる。ずず、と鼻をすすると、男から湧き立つ香りが商人の脳に届く。
あぁ、シーツから漂うのはこの香り。
幼いころ、父親に抱き留められた時のような。
芳醇で、どこか酸っぱくて。心地よい、雄の臭い。
[newpage]
「す、すいません、俺…!」
商人は開口一番。男に頭を大きく下げた。
髪はボサボサ。目の下には涙によって隈が作られ、衣服はくしゃくしゃ。
「気にしないでいい!ぐっすり寝られたか?俺も寝そうで、そうするとお前、潰しそうだったから我慢した!」
男は豪快に笑うとその巨体を軽やかに動かしながらカチャカチャと食器を配膳していた。
胸には商人の顔の後がくっきりと。胸元や腹の体毛が濡れ、少々かぴかぴ。
…商人は男の胸の中で、気が付いたら爆睡していたのである。
確かに疲れ果てていたとはいえ、見知らぬ男の中で眠ってしまうとは。
商人は自らの非礼を詫びながら、気恥ずかしさに顔を真っ赤にする。
それにしても。忙しなく動き回る男を見ながら商人は部屋の中を見渡してみる。
ここは先程まで居た寝室ではない。リビングだろう。
部屋の中は全てがビックサイズである。
今自分が座っている椅子も。机も。棚や窓に食器やかまど。
全部が全部大きい。自分が子供に戻ってしまったかのような錯覚を覚えるレベルだ。
そして次々と並べられていく、目の前の食事もまぁビッグ。
「あの、ここまでしてもらわなくても良かったのですが…」
「これぐらいするさ!ここにはめったに人が来ない!来たら全身全霊でもてなす!それが村の掟だ!ほら、パン!粉から何から全部ここ特製!食え!旨いぞ!」
男はダイナミックにパン篭を置くと一つ手に取りむしゃり、とかぶりついた。
商人はおずおずと一つ手に取る。男からしたら普通のサイズのパンは、商人からしたら巨大なパンである。
香ばしく、そして甘い香り。食欲をそそられる香り。
むしり、とちぎって、口に入れてみる。
「…美味しい…!」
それは今までに食べた事のあるパンとは比べ物にならない美味だった。
久方振りの火が通った食べ物。人が加工した食べ物。そこから来るものでもあるのだろうが…
それでも美味い。商人は申し訳なさそうに浮かべていた笑みを一気にほどけさせ、パンを食べ進めていく。
「良かった!さて、俺も飯にする!腹減った!」
ずしんっ、と轟音と共に頑丈で大きな椅子が軋む。
しばしの食事は、沈黙の中。
商人は一つパンを食べ終えると、ふぅぅ、と大きく息を吐き、目を細めながら腹をぽんぽんと叩いた。
「美味しかった…お腹、いっぱい…」
「ん?もういいのか?肉も美味いぞ?」
「え、えぇ、大丈夫…」
「…それもそうか!うん、じゃあ俺が全部食う!」
男は見ていて気持ちのいい食べっぷりで。
目の前の食事を次々と平らげていく。やはりその肉体には大量のエネルギーを使うのだろうか。
大きな口を開けて。元気に並んだ白い歯。少しとげとげしていて、牙…には届かないか。
机の上に並んだ食事があっという間に男の中に吸い込まれて。
最後にごきゅごきゅと旨そうにジョッキを傾け、飲み物を飲み干し。
「食った食った!…そういや、一応聞きたいんだけど、お前、なんであそこにいたんだ?」
男の問いかけに商人は苦笑いを浮かべる。
「いや、なんでだろう…いつも通り帰ってたんですけど、気が付いたら知らない道を歩いてて…方位磁石も壊れちゃうし陽の位置も分からないしで迷ってて…はっきり分からないんですよね。本当に助かりました、もう死ぬかと思ってて…」
「そうか。…うん、分かった!」
商人の答えに男はジョッキを置き、両腕を組んで数度頷く。
そして立ち上がり。商人の椅子の横に立つと。
「のわっ!?」
商人を抱き上げた。
余りにも唐突で、軽やかで、有無を言わさず、そして慣れた様に。
これは…お姫様抱っこ…!
同性ながら商人は胸が高鳴るのを感じた。いやいや、おかしな話だろう。
見知らぬ山で見知らぬ男に介抱され、お姫様抱っこ。
情緒が追い付かない。
男はにこにこと笑みを浮かべながら商人を見つめる。
「水浴び、しよう!俺もお前も、汗でベトベト!うん!行こう!」
「ぬぇ”ッ!?んぇ”!?」
男は言うや否や。商人を抱いたまま部屋の外へと飛び出していく。
男の浮かべた笑みに。
含みの色がある事に、商人は気が付かない。
外に出る。鬱蒼と生い茂る森の中、点在するのはやはり大きな家。
夜が近付いているのだろうか、所々から聞こえる、賑やかな声。食事の準備を整えている香り。
「よぉ!今日はずいぶん早いな!」
と、スタスタと駆け抜ける男に声をかけるのは青年。
男と同じようなタトゥーに、やはり屈強で頑強な肉体。腰布一枚、それが少し持ち上がり…
商人は気恥ずかしさに目を逸らした。
「おう!…客人が来てるからな!」
「…ふぅん、そうか!久しぶりだな客人は!」
「それじゃ、またな!」
「おぉ!…楽しんで来いよ!」
青年の豪快な笑顔に、男も笑顔を返し、すぐさま駆け抜けていく。
遠くから聞こえる夜行性の鳥の声。木々を揺らす風は少し冷たく、男の腕の中に居ながら商人はぶるり、と震える。
「もう少しで着く!水場で、特別な場所!」
「特別…?」
木の葉の隙間から見える空の色は、紫色。夜の闇。星のきらめき。
楽しそうな会話に含まれていた色は。
どく、どく、と。胸板に触れている顔に伝わる、男の…雄の鼓動は。
寒さとは別の理由で、体が少し震える。
視線を上げて。雄を見つめる。にこにこと浮かべる笑みは、部屋の中で見ていた時と同じものなのに。
瞳の奥に宿るのは、星々のきらめきに負けず、妖しい、獣の光。
「あぁ、特別な場所!」
雄がざっ、と茂みを掻き分けると。商人の目の前が一挙に広がった。
木々に遮られていたはずの風が、一気に全身を駆け抜ける。
夜の闇に彩られ、星々の煌めきと…浮かぶ月を映す、水鏡。
「この山は普通、人は通らない!…通る人が居るとすれば、それは選ばれて、呼ばれた者!だから俺達は、客人が来たら必ずもてなすんだ!」
はきはきとした声。無邪気で、無垢で。メラメラと燃え盛る声。
それは商人である彼は、何度も聞いた事のある声。
ぞわぞわと背筋が粟立つ。ゆっくりと。雄は商人を水鏡の縁へ座らせた。
「…俺の、俺達の…新しい、仲間!さて、始めよう!」
水鏡に浮かび上がる月明かりを瞳に宿し。
雄はゆっくりと顔を上げると…ぽっかりと浮かぶ、真ん丸黄色のお月様を。
「俺の…俺達のォ…」
縦に伸びた瞳孔で捉え。
「ォ”ォ”ッ!!」
吼えた。
ビリビリと全身が痺れる。今すぐに逃げろという本能が鳴らす警鐘が歯をカチカチと鳴らさせる。
それだというのに、何故だろう。商人は雄から目を離せずにいた。
天を仰ぐ雄は、背筋を仰け反らせると両腕を振り払った。
めきめき、と耳を塞ぎたくなるような骨の軋む音が雄の全身から鳴り響く。
続けざまに聞こえるのはぶぢっ、ぶぢぃっ、と肉が千切れる音。
瞬き一つ。
ばづんっ!と皮膚が弾け飛び、ただでさえ大きな体が更に膨張する。
めぎっ、めぎっ、ぶちっ、ぶぢぃっ!
「ォ”ォ”ッ、ォ”ォ”ォ”ッ!!」
だが雄から発せられる声はどこまでも嬉しそうで、心地よさそうで。
野太かった声がさらに低くなり、聞いた事のあるもの。獣の色に染まり始めた。
膨張する。膨張し続ける。分厚い胸板も、両腕も、両脚も、何もかも。
膨張していく。
弾け飛んだ皮膚を新たに覆うのは、鮮血を纏ってもなお月明かりに煌めく、銀色の毛並み。
ごぎゃんっ、ごぎゃんっ、と骨がひしゃげると頭蓋の形がみるみるうちに変形していく。
長く伸びたマズル。大きな三角形の耳。鋭い牙。鋭い金色の瞳。
毛並みが整い、大きく長く、太い尻尾がにょろりと姿を見せれば。
「アォォォォォンッ!!」
空に、満月に向かって。雄―人狼は誇らしげに遠吠えを放り投げる。
恐ろしい。おぞましい。
そう思う。それなのに、何故だろう。
美しいと、思える。
数多の、美しいものに触れてきた。確かに美しいと感じた。
それら全てが霞んでいく、荒々しくも神々しい美しさ。
「…どうだ?今の俺!」
人狼の問いかけに何も答えられない。にこにこと浮かべる笑みは、先程までと同じで、違くて、美しくて。
ただただ、心が満たされていくような感覚を商人は覚えている。
それは表情に出ていたのか。それとも人狼は、商人の感情を読み取ったのか。
すんすん、と鼻を動かすと商人の頭に口づけを落とす。
細長いマズルは熱く。漂う獣臭は強く。沸き立つフェロモンが商人を包み込む。
「呼ばれた者は、俺達の仲間になる!…俺の、俺達の、人狼の因子を注いで、人狼になる!」
一言一言が脳内に染み渡り、商人はようやく。
「あ…ぁ…」
と声を漏らした。だがそこに、恐怖や絶望は無い。
全身が熱くなる。鼓動がどうしようもなく速くなる。腹の奥が疼く。
「最初はちょっと痛いと思う!…でも、大丈夫!」
人狼は商人の体をまさぐりながら、びりびりと、僅かに身に付けていた布地を鋭い爪で切り裂いた。
露出する肉体は、人狼と比べると相当に頼りない。
首筋をマズルで撫でて。人狼は商人の体を持ち上げる。
「ぁ…ぁっ…ぁ”ぁ”っ…♥」
商人は満月を見上げる。美しく、妖しい光。
月光に照らされる肉体が、熱くて。
ムクムクと。見ずとも、商人の股の間を凶悪な肉の塊が通り抜けていくのが商人には理解できた。
どう考えても入るはずの無い、凶悪な肉の塊。
ベチベチと腹を叩くそれは打つ直前の鉄のように、熱い。
先端から溢れ出すぬるぬるとした液体が商人の体に塗されると、鼓動が更に速く、強くなる。
排泄以外の行為に使ったことの無い肛門が、性器へと変貌していく。
ぐ、ぱぁ♥
強過ぎる雄と獣のフェロモンに中てられ、商人は人としての思考が出来ずにいる。
警鐘を鳴らしていたはずの本能が警鐘を歓喜の鐘へと変えて。
「…うん、大丈夫そうだ!じゃあ、挿入れるな!」
その様子を見ながら頷くと、人狼は商人の両膝の裏に両腕を突っ込み、ひょいと体を持ち上げた。
視線を下ろす。
すらりとした先端。根元には瘤。毛並みに覆われ直接睾丸は見えない。人と異なるそれは…
商人の胴体と比べても、遜色ない太さと長さ。ぐるぐると絡みついた血管が脈動し、力強く血液を行きわたらせる。
改めて。
天を衝くそれは凶悪で。禍々しい。凶器のようなペニス。
人狼はペニスの先端を商人の雄穴に宛がうとぐちゅぐちゅと粘液を塗り付け、濡らしていく。
熱い。ただ少しなぞられただけで背筋に稲妻が走り、お粗末な逸物が膨らみ、とぷとぷと先走りが溢れ出した。
ペニスを咥え込もうとしているのだろうか、商人の雄穴は敏感に反応し、ぐぱぐぱと蠢きまわる。
すぅ、と人狼は息を吸い込むと、ずらりと並んだ牙を商人に見せて。
…ずんっ♥
「ヵヒッ…ァ”ッ、ぁ”ぁ”ぁ”ッ♥」
商人は雄穴を通り抜けるペニスの感覚に絶叫を上げた。
涙と鼻水が自分の意志と反して溢れ出し、ぐるんっ、と目が上を向く。
ガクガクと全身が激しく痙攣しながら脂汗が滲みだした。
激痛、という言葉では表現しきれない。
灼けた槍をそのまま腹に突き刺されたかのような。鈍器で腹部を思いっきり殴打されたような。
背部を蹴り飛ばされたかのような。
様々な種類の激痛が商人の脳に一気に叩き込まれ。
「グゥゥッ…ゥっ、ゥゥッ…大丈夫、大丈夫…力抜いて、呼吸して。」
凶悪なペニスを突き入れた人狼の優しい声。
それに導かれるままに。商人はなんとか呼吸をしながら、出来うる限り力を抜こうと試みる。
人狼はペニスを途中まで商人の中に突き入れたまま、そこで一度動きを止めた。
そしてなだめるように、ペロペロと商人の首筋や肩を舌で舐め上げる。
暖かく、ぬるりとしていて。獣の生臭さに、雄の臭い。人狼のフェロモン。
「フーッ、フーッ、フーッ…フーッ、フーッ…!」
なんとか呼吸する。
雄穴をぎちぎちと拡げるペニスはやはり、凄まじい硬さ。
腸内を満たし、蹂躙する。腸壁を圧迫され、排泄しようと試みているが…無意味。
どくっ、どくっ、どくっ、と。背中に密着した人狼の鼓動から僅かに遅れて、ペニスが脈動する。
酷く長い時間が経ったような気がした。
人狼のペニスから分泌される粘液が腸内を満たし。腸壁から吸収されていく。
「フーッ、フーッ…はぁっ、ハァッ…ハァッ、ハァァッ…」
激痛と意識が薄れていく。がくんっ、と全身が弛緩する。
死の直前。そこに至った時。
「ハァァァァッ…ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”っ♥ぁ”っ、ァ”ァ”ッ♥」
商人は目を見開き、両脚を突っ張らせると再び絶叫する。
しかし今度は、先程と違う。悲鳴ではない。慟哭ではない。
「ァ”ァ”ァ”ァ”ッ♥♥」
びゅるぅっ♥びゅるっ、びゅるぅぅっ♥
それは産声。歓喜の声。
薄れた激痛は嘘のように消え失せ。意識がはっきりとしていく。
商人の逸物はぶるんっ、ぶるんっ、と中空で暴れまわりながら明確な快楽と共に人としては濃い精液を周囲に飛び散らせた。
腸内を満たされ、圧迫される。骨が軋み、肉が悲鳴を上げても。
それを痛みと感じず。脳内麻薬が大量に分泌され、商人を満たして。
「…うん、もう大丈夫だな!じゃあ、動くぞ!これからだ!」
「ぉ”ぅ”っ、ォ”ッ、ォ”ォ”ッ♥」
「アォォォォンッ!!」
人狼は嬉しそうに吼えると尻尾を大きく振りながら。腰を振り始めた。
ずるるるっ、ずんっ♥ずぶりゅっ、ぐぢゅんっ、ばぢゅっ、どぢゅんっ♥
雄穴が捲れ上がる。ペニスによって腸壁が外部へと引きずり出される。
関節が歪み、ひしゃげる音がする。
目を細め、喉を鳴らし。人狼は心地よさそうな表情で商人の肩に噛みつく。
全ての痛みを痛みとして認識できない。
「ぉ”っ、ぉ”っ♥ぉ”ぉ”っ、ぉ”ぉ”ぃ”ぃ”っ♥ぃ”っ、ぃ”ぃ”っ♥」
痛みを快楽と認識してしまった商人は人狼の腰の動きに合わせ、紛れもない嬌声を上げる。
肩口についた牙の痕。そこから染み込む人狼の唾液。
じゅくじゅくとした熱を伴い、全身を蝕んでいくのが分かる。
腹が持ち上がり、前立腺を圧し潰され。先走りと腸液の混ざった液体が泡立ち、二人の結合部をあっという間に濡らしていく。
「はぁ”っ、はぁ”っ♥ぁ”んっ、ぁ”っ、ぉ”っ♥」
「気持ちいい、お前、中、気持ちいい!お前も、気持ち、良さそう!」
気持ちいい。そうか、これは気持ちいいんだ。
商人は頬を吊り上げると顔を人狼の方へと向ける。
トロトロに蕩けた瞳は、物欲しげで。
ギラギラと光った瞳は、獣欲に満ちていて。
人狼は牙を離すと商人の唇を貪る。太く長い舌を商人の口腔内に捻じ込んで。
ぢゅぶ、ぢゅぶ、と音を立てて。舌を絡める。
熱く、生臭く、雄臭く。商人は満たされていく。
自分の中の『人』が。意識を失って。色を喪って。
雄穴がきゅうっ、と締まる。人狼のペニスを旨そうに咥え込み、締め付け、吸い上げる。
腸壁全体が絡まり、襞が竿を扱き上げる。
雄を知らなかった雄穴が、凶悪なペニスから迸る欲望を求めて。蠢く。
「ぐるッ、グルゥッ!ぁ”っ、そんっ、締めッ、俺ッ、俺ッ、俺ッ!!」
人狼は牙を食い縛りながら途切れ途切れに声を上げ、しかし腰の動きを止めずに。
びくんっ、びくんっ、と腰を跳ねさせる。
人狼のペニスが商人の中で膨れ、跳ねまわる。
毛並みにうずもれた睾丸がせり上がり、商人の尻を叩いた。
「ぁ”っ、ぁ”っ♥」
商人は言葉に出せない。だが、その瞳は雄弁に語っている。
人狼の因子を。すなわち精液を。注ぎ込んで欲しいと。
腹を満たし、全身を侵し、生まれ変わる瞬間を待っていると。
人狼は。
「アォォォンッ!!!」
高らかに、誇らしい遠吠えを上げると。
ずがっ、ばぢゅっ、どぢゅっ、ごぢゅんっぼぢゅっ、どぢゅんっ♥
腰の動きを激しくする。限界まで膨らみ上がったペニスの抜き差しを繰り返す。
商人の尻が持ち上がり、人狼の太腿の痕が刻み込まれ。
腹を突き破らんばかりの荒々しさと猛々しさに、商人は嗤う。
尻尾を太腿に絡め。
「ォ”ッ、ォ”ォ”ッ…ウォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ッ!!!!」
一撃。
どっぶっ…ごぶびゅるぅっ♥どぼっ、ごぼっ、ごぼぼびゅるぅぅっ♥びゅるっ、びゅるぅっ♥
「~~~~ッ♥♥ッ、ッ、ッ♥♥」
注ぎ込まれる濁流。一気に満たされていく腹。心。
色を喪った商人を新たに彩るは、獣の予感。
間断なく注ぎ込まれる濁流が、商人を押し流し。
「ォ”ッ…ァ”ッ、ぁ”ぁ”っ…ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ッ♥♥」
心臓が裏返る。腸壁から吸収された精液が体内に浸透して。
商人は目を見開いた。
真ん丸黄色のお月様。
「ォ”ォ”ッ♥ォ”ッ、ォ”ォ”ォ”ッ♥」
ごぎゃんっ、ごぎゃんっ!
心地よさそうな商人の声と裏腹に。
全身から響き渡るのは骨が砕け散る音。
ぶぢっ、ぶぢぃっ!みぢっ、みぢっ!
筋肉が千切れる音。皮膚が引き裂かれる音。
どくんどくんどくんっ、と激しく速い、心臓の鼓動。
マグマが如く煮えたぎった血液が全身を駆け抜けると。
「ガァ”ァ”ァ”ッ!!!」
獣の。人狼の声を上げた。
千切れた筋肉は即座に修復する。修復した筋肉は再び千切れ、より太く、頑強な筋繊維を作り上げる。
軋んで砕けた骨が、筋肉に合わせ頑強さを増し、生成されていく。
ひ弱で、粗末とさえ言えた肉体は…凄まじい勢いで膨張していく。
薄い胸板が、角ばり。角ばった胸板は分厚さを増し。やがて両胸は谷間を作り上げるまでに膨張した。
頼りない背中には鬼の相貌を想起させる筋肉の隆起。それは背後に立たずとも前部から見えるであろう、くびれを作り上げた。
ぽきりと折れてしまいそうだった両腕は太く。上腕は丸太を束ねたかのように。その丸太に乗るのは山。
前腕には血管が浮かび上がり、脈動すれば前腕の頑強さが増していく。
腹回りの脂肪が急激に燃え、消え失せ。代わりに浮かび上がる、鉄板のような腹。
太腿は子供の胴体並にまで膨れ上がり。部位ごとにくっきりと影を作り上げるふくらはぎ。
皮膚が弾け飛び、代わりに飛び出すのは黄金色の毛並み。
頭蓋が砕けた。だがそれを脳が認知する前に、頭蓋は再形成されていく。
頭の前部が前へとせり出し、強靭な顎を作り出し。牙が飛び出した。
背部方向へと僅かにせり出して。
毛並みが飛び出すと同時に皮膚が積み上がり。ピンと立った大きな三角形の耳が作り上げられた。
づるり、と飛び出した脊椎を筋肉と皮膚、毛並みが覆い尻尾が出来上がり。
「ォ”ォ”ッ…アォ”ォ”ォ”ォ”ンッ!!!」
商人は。
人狼へと変貌した。
「っと、っと、とととっ!」
一気に重量を増したからだろう、人狼は嬉しそうに微笑んでいたが体勢を崩し…
しかし結合したまま。前へと倒れていく。
ずがしゃぁ、と地面が悲鳴を上げて。
「ご、ごめん!痛くなかったか?」
人狼は心配そうに商人に―生まれたばかりの人狼に―心配そうに声をかけた。
もし商人が人だったら恐らく無事では済まなかっただろう。
だが、今の商人は。
「大丈夫。…ねぇ、もっと。もっとシよう?」
にっこりと、そして妖艶に微笑み。人狼の尻尾へと不慣れな動きで尻尾を絡めた。
「仲間になった、人狼になった。もっと濃くして、人狼の事、教えて?」
「…うん!」
尻尾を深く深く絡ませて。
月明かりの下、二匹の人狼の宴が始まる。
[newpage]
そういえば、初めてあの家の中の物を見た時、物凄くでかく見えたなぁと。
商人はカップに注いだ紅茶を啜りながらふと考える。
ボサボサの短髪。ムチムチとはち切れんばかりの胸板に、大振りの乳首。そこを通り抜けるピアス。
太い首や山脈を想起させる肩に刻み込まれたタトゥー。
くっきりと分かれた腹筋に樹齢十数年の木なら抱きしめるだけで砕けるほどの力が漲る背筋。
身に付けているのは腰布だけであり、腰布の下は股間の逸物を固定するだけの布。
区画が出来ている太腿とふくらはぎ。
腰掛けた椅子も、食器が並んだ棚も、多分ここに来たばかりの時は巨大に見えていただろう。
「おにいさーん!」
元気よく聞こえてくる声に商人はん、と声を漏らすとカップを置き立ち上がった。
部屋を出ると広々とした店舗。
入り口には同じようなタトゥーを刻み、腰布だけを身に付けた…今にも弾けてしまいそうな青臭い肉体の少年達。
だが当然、その肉体は少年とは到底思えない筋肉量。
盛り上がった胸も、くっきり分かれた腹も。
「これちょーだい!」
商人はくすり、と微笑むと紙袋を手に、少年へと近付いた。
雑貨、菓子、その他もろもろ。
「はい、どうぞ。」
行商人、という奴から店主へジョブチェンジ。自由気ままな移動もいいが、腰を据えて店を持つのも悪くない。
商品を受け取る少年達の笑みを見つめ、商人は空を眺めた。
「ねぇおにいさん!今日は、満月だよ!」
「今日は俺とシようよ!おにいさんのチンポ、すげぇ俺と相性いいんだもん!」
…少年たちの炯々とした瞳に。商人はやはり微笑んだまま。
やはり、瞳に炯々とした、欲望に飢えた獣の光を宿して。
「悪いね、今日はおにいさん、別の人と約束があってね。また今度。」
「…分かった、俺達のとーさんとだろ!」
「とーさんに拾われたんだもんね、おにいさん。じゃあしょうがないかぁ。」
「また今度。そん時はひぃひぃ言わせてあげるから。」
商人の言葉に、少年たちは少しだけぞくり、と背筋を震わせ。
だが、にっこりと―今度はとびきり妖艶に―微笑んだ。
「わかったー!ありがとー!」
「お買い上げどうも!」
突けば弾ける少年たちの背中を見送ると。
入れ違いに店へと近付くのは雄。
商人を拾い、そして今の道へと導いた雄。
「よぉ!今日は満月だな!」
雄の声に、商人は鼓動が昂るのを感じながら。股間に熱が灯るのを感じながら。
そしてまた、雄の股間がムクムクと膨らんでいるのを目にしながら。
「そうだね。…その、よろしく、ね。」
「おう!…たっぷり、愉しもう!お前の泣き顔もアヘ顔も!俺は大好きだからな!」
獣の臭いと雄の臭いを乗せて、風が吹く。
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