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虎々てんたくる その1

  「アルバイト募集ねぇ」

  黄色と黒の縞模様、全身をはちきれんばかりの筋肉が覆っている。

  格好はシャツにボロボロのズボン、腰には無骨な長剣を挿している。そんな格好。

  顔や露出している肌には所々傷がついて。

  そんな精悍な虎の男は薄暗い路地の裏で今にも飛んでいきそうな薄っぺらい張り紙を見て呟いた。

  中身はこんな感じである。

  『体力に自信のある男性募集。1週間野宿するだけで超高額なお給料!』

  …怪しさ爆発である。彼が今までしてきた傭兵という危険な仕事よりずっと給料がいいのだ。

  どう考えても怪しい。怪しすぎる。

  しかし虎は腕を組んで眉間にしわを寄せて真剣に考え込んでいる。

  実は彼、今しがた仕事を失ったばかりなのだ。

  傭兵業というのは戦争があってなんぼのもの。しかし彼の居る国ではつい最近戦争が終わってしまったのだ。

  それだけならよかったのだが、どうやら彼の国は相手国と和平を結んだそうで。

  おまけに軍事も縮小。彼らのような傭兵はもう用済み、というわけだ。

  これならまだ負けてくれたほうがよかった、と彼は思う。

  そしたら相手国に行って傭兵すればいいのだから。

  そんなもう考えても仕方ないたらればを考えながらも、何も仕事をしないというわけにはいかず。

  しかし幼い頃から戦場という場に身をおいていた彼に出来る仕事と言うのは多くも無いのだ。

  両親も彼女も子供も居ない、気楽な独り身だが。

  ポケットから袋を取り出す。中に入っているのは彼ら傭兵の事を不憫に思った王様から渡された金貨が数枚。

  不憫に思うなら雇ってくれと思ったが…横に居た護衛が鎧でがっちり身を固め、しかも剣まで抜いていたのだから何も言えず。

  この金貨で過ごせるのはせいぜい数週間といったところか。せめて家でも持っていればよかったのだが。

  「…明後日か。」

  希望者は明後日早朝に城下町のとある場所に来てくれ、という事らしい。

  虎はため息をつき袋をポケットにしまいこんでその場を後にした。

  

  二日がたって。

  虎は集合場所に来ていた。

  当然のことながらそこには自分以外誰も居らず。

  というか本当に人っ子一人居らずこれは騙されたんじゃないかという不安すら感じ始めていた。

  でそこらへんの家からこう、ドッキリ大成功!みたいな立て札持った人達やらが来たり。

  一応落とし穴が無いかしゃがみ地面をぽんぽんとたたいてみたりする。

  そんな挙動不審の虎の前に一人の若い男が現れた。

  「あなたは、あの張り紙を見て?」

  今にも消えてしまいそうなか細い声でフードを被り顔が良く見えない男が虎に話しかけてきた。

  虎は立ち上がりおう、とうなずく。男はフードを外し安心したような微笑を浮かべた。

  獅子の鬣を持つ男は、その種族ににつかわず随分と細身で、あまり顔色も良くないように見える。

  羽織ったローブの下は白衣という良く分からない格好だ。研究者か何かだろうか。

  「今回はあなた一人…ですね。ありがとうございます。」

  「いや、まぁ、それはいいんだけど…」

  「それでは向かいましょう。あ、詳しい内容は馬車の中でしますから。」

  獅子の男は疑問を投げかけようとする虎の言葉をさえぎりそそくさと歩き始めた。

  虎は口を塞ぎ、その獅子の男の後を追いかける。

  

  「今回、貴方にはとある場所で野宿をしてもらいます。」

  渡された紙と獅子の男を顔を見比べながら虎は頷いた。

  別に野宿は嫌じゃない。というか急に殺されたり襲撃されなければむしろ歓迎だ。

  「紙にも書いてある通り、恐らく命に危険は無いと思いますが…万が一、ということもありますので。」

  そして獅子の男はもう一枚の紙を渡す。まぁ同意書だ。

  何があっても文句言いませんよ、っていう、傭兵の時にも書かされるやつ。

  適当に中身を呼読んでさらさらと文句言いません、って書いて。

  「あのよぉ、野宿は別にいいんだけど…なんであんなに金出すんだ?なんかあんのか?」

  同意書に記述を終わらせた虎は獅子の男に紙を渡し疑問をぶちまけた。

  虎の疑問ももっともである。獅子の男は予測済み、と言わんばかりの表情だ。

  虎の書き終わった同意書を受け取ると獅子の男はそれと同時にやたらと重い袋を渡した。

  「こちらは前金です。残りは終わって帰る際に。…そうですね、とある生物との共存が出来るか、という実験です。

  あぁ、生物と言ってもこちらに危害を加えることはありません。むしろ友好的です。」

  友好的なら共存できるか、ということを証明しなくてもいいんじゃないか、と思う虎だが。

  「まだ件数が全然足りていないんですよ。あと十数件モニターを採って、その上で学会に発表しようかと。」

  「そうなのか。」

  研究やらなんやら、虎には良く分からないが、彼がそういうのならきっとそうなのだろう。

  怪しいことは怪しいが…実際金貨を受け取ってしまったのだから、交渉成立ということで。

  しかしこれだけの金貨があれば十数年、下手したらそれ以上仕事をしないでも過ごせるだろう。

  1週間たてばこれと同じだけの報酬が更に貰える、となればもう一生仕事しないでも過ごせそうだ。

  がたんがたんとゆれを大きくしながら進む馬車の中で虎は頬を緩ませた。

  …獅子の男がそれ以上に汚らしい笑みを浮かべた事にも気がつかずに。

  

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