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葛藤

  ★

  『なあ、俺と相撲をやってみないか?』

  泣いている俺に手を差し伸べたのは、大きな体でちょっとやんちゃな顔をした、同級生の熊獣人。

  それは俺にとって、人生の大きな出会いだった。

  

  ★

  小3の頃のことだ。

  その当時、小柄で内気だった俺ー狼谷(ろうや)小次郎ーは、よくクラスメートにいじめられていた。

  狼獣人なのに、大人しい性格だったから余計に目をつけられたのだろう。

  男友達なんて出来ずに、女子としか話せないような性格だったから、余計に目立ったのか。

  いつも学校では、悪ガキ連中にいじめられていた。

  でも、やり返したりすることも出来なくて。

  その日も、いつものように1人で下校していると、奴らは俺のランドセルを取り上げてきて、悪口を言ったり小突いてきたりしたのだ。

  『返して……僕のランドセル、返してよ……』

  『うるせぇ!』

  「弱虫狼の癖に生意気だぞ!』

  『女子とばっかり遊びやがって!』

  抵抗するなんて発想すらなかった俺は、されるがまま、ただ泣いていた。

  そんな時だ。

  熊獣人の彼が通りかかったのは。

  同じ小3だというのに、中学生ぐらいの体格のがっしりした同級生。

  彼は学校ではいつもやんちゃで、クラスの人気者。

  俺なんかとは全然違う、どちらかといえばいじめっ子と同じ括りにいる存在だった。

  なのに。

  『おい、お前ら。その辺にしとけよ』

  いじめられる俺を見て見かねたのか、いじめっ子たちを止めようとしてくれたのだ。

  『何を? ……熊倉、お前も最近生意気だよなぁ』

  『こいつもやっちまえ!』

  そう言うと、いじめっ子たちが熊獣人に殴りかかる。

  『あっ』

  俺はその様子を見て、思わず目をつぶってしまう。

  大人数に囲まれて、きっと彼は俺と同じようにひどい目に遭わされると思ったのだ。

  でも……。

  『なんで……』

  恐る恐る目を開けた俺は、目の前の光景に唖然とする。

  それは圧倒的だったから。

  熊獣人は、たった1人だというのに、かかってくるいじめっ子たちをちぎっては投げ、ちぎっては投げ。

  今まで俺をいじめていた悪がき軍団が、たった1人の同級生の彼に、まったく敵わないのだ。

  『くそ、覚えてろよ!』

  全員投げ飛ばされ、捨て台詞を吐いて、べそをかきながら逃げ出したいじめっ子たち。

  ……すごい。

  同じ小3年なのに。

  自分をいじめていた奴らが、なすすべもなくやられてしまった様に呆然としていると、彼は俺に男らしい顔で笑いかける。

  そしてその場に立ち尽くしていた俺に、手を差し伸べながらこう言ってきたのだ。

  『なあ、俺と相撲をやってみないか?』

  その姿はとても格好良くて。

  ……ヒーローみたいだ。

  俺よりも一回り以上大きな体で優しく微笑む彼を見て、俺は思った。

  そう、彼は俺にとって、ヒーローそのものだったのだ。

  『うん』

  俺はその姿を目に焼き付けながら、差し出された大きな手を取った。

  熊倉航大。

  それが俺を助けてくれた、ヒーローの名前だった。

  ☆

  「やっぱり、変わってねえか」

  朝起きて、顔を洗いがてら鏡を見ると、俺ー熊倉航大ーはため息をついた。

  目の前に映るのは、熊獣人にしてはあまりにも低い身長。

  種族的に大きければ2メートルを超すこともざらなのに、俺の身長は170センチ足らず。

  ……もう高3だってのに。

  

  「これ以上は無理なんかな」

  ……毎日、牛乳飲んで煮干しも食ってんのになぁ。

  将来、相撲取りとして飯を食っていきたいと思っている自分にとって、この身長の低さは致命的だった。

  いや、別に背が低くても力士になれないわけじゃねえんだけど……。

  小兵でもプロとして活躍している人は確かにいる。

  ただそれには、腕力以外にも技が必要なのだ。

  自分よりも大きな相手をひっくり返すだけの相撲の技術が。

  ……わかってるんだけどよ。

  小学生の頃は周りに比べても大柄だった俺は、いつも力押しの相撲だけで勝ち続けていた。

  昔はそれでよかったのだ。

  ただ、今は下から数えた方が早いようなこの小柄な体格。

  中学の頃まではそれでも何とかなったが、高校生になると今までのやり方では通用しなくなっていた。

  このままじゃ、たとえどこかの相撲部屋へ入ったところで、十両にも上がれないだろう。

  ……もっと大きく、もっと強くならないと。

  そんな危機感を感じているからこそ、稽古も頑張っているし、身長は駄目でもせめて体重は増やそうと努力しているのだが……。

  これがなかなかうまくいかないのだ。

  ……小次郎とは違うよな。

  俺は親友の狼獣人を頭に浮かべて、ため息をつく。

  「航大、朝ごはんよ!」

  「はーい」

  母親の声に、俺は憂鬱な気持ちのまま、リビングへ向かった。

  

  ☆

  狼谷小次郎。

  俺の小学校からのツレだ。

  初めて学校で会った時、彼は狼獣人とは思えないほど小柄で、内気で。

  もちろん俺とはまったくと言っていいほど接点がなかった。

  俺は男友達とわいわい騒ぐのが好きだったし、あいつはクラスの女子としか話せないような奴だったし。

  だが、彼のそういう性格はクラスでも悪目立ちしたのだろう。

  小次郎は意地の悪い連中にちょっかいを受けるようになっていたのだ。

  ある日のこと、俺は学校帰り、小次郎がクラスメイトにいじめられている場面に遭遇した。

  別に見ないふりをしても良かったのだが、つい小次郎を守るように手を出してしまう。

  幼い頃から近所の相撲教室に通っていた俺は、それなりに腕っぷしも強かった。

  同い年の悪ガキが何人束になろうと、負けないぐらいには。

  向かってくる奴らを突き飛ばし、投げ飛ばす。

  『お、覚えとけよ!』

  捨て台詞を吐いて悪ガキ共が逃げ出すと、呆然とした顔をする小次郎の姿が目に入る。

  まさか勝てるとは思わなかったと言わんばかりのその表情に、俺は思わず笑ってしまいそうになって。

  だからつい、こう言ってしまったのだ。

  『なあ、俺と相撲をやってみないか?』

  なぜだろう。

  こいつも、あんな奴らにいじめられないぐらい強くなったら、もっと楽しく毎日が過ごせるだろうに、と思ったんだ。

  『うん』

  あいつは俺の手を取って……。

  それから俺達は同じ道場に通うようになり、相撲を通して親友になった。

  でも……。

  あいつには、俺とは違って才能があったんだ。

  相撲を取るための才能が。

  ☆

  腹が裂けそうになるまで朝飯を食った後、俺は早朝の道を歩きながら、相撲部の朝稽古のため学校へと向かう。

  夏の全国大会に向けて、俺は必死になっていた。

  ……ここで結果を残さないと。

  うちの高校の相撲部は、いわゆる名門という奴だ。

  小中で強かった相撲部の連中が全国から集まっているから、全国大会にも常連のように出場している。

  俺もそうだ。

  小学生の頃から、県大会は当たり前のように勝ち上がって、全国大会には毎年出ていたし、小5の時には全国優勝したことだってあった。

  しかし、中学になってからその勢いが衰え、高校では鳴かず飛ばず。

  それはこの体格のせいなのだろう。

  今まで勝てた相手がどんどんデカくなり、試合をしても太刀打ちできなくなってしまう。

  クラスメイトは全国大会に出られただけでもすごいと言ってくれるが、違うのだ。

  俺はプロの力士になりたいのだから。

  ……アマチュアの、しかも高校生の大会で優勝できないでどうするんだ。

  その思いが先行して、俺は焦るばかりだった。

  ☆

  「おはよう、航大」

  校門をくぐろうとした時に聞こえてきた声に、俺は立ち止まった。

  俺と同じように、朝練に出るのだろう。

  声をかけてきた親友の狼獣人を俺は見つめた。

  幼い頃とは別人のような、威風堂々とした雄臭いその顔を。

  

  「……ああ」

  俺は複雑な表情で小さく頷いてみせる。

  「なあ、朝練だろ? 一緒に……」

  「いや、俺先に行くわ」

  突き放すように短く言うと、俺はその姿を一瞥して、1人で歩き出した。

  そう、俺とは違い、2メートルはある、恵まれた身体を。

  小次郎は、その名前とは裏腹に、成人と比べても勝てるほどの巨躯に成長していた。

  中学の時点ですでに俺より20cm以上デカかったのに、高校に入ってさらに身長が伸びたのだ。

  体重もそれに見合ってどんどん増えていって。

  それだけではない。

  こいつには相撲を取るための才能があった。

  その巨躯から繰り出す力だけではない。

  がっぷり四つになってからの瞬時の判断。

  追い詰められてからの機転の利かせ方。

  どれをとっても、俺は敵わないと感じさせられていた。

  泣き虫だった小次郎は、もういない。

  鋼のような精神と肉体を持った強い雄に生まれ変わったのだ。

  俺がどれだけ努力をしても、決して追いつくことが出来ない存在。

  ……昔はライバルだったのに。

  去年だって、俺は全国大会には出場できなかったのに、小次郎は大会で準優勝。

  小中ともに全国大会でしのぎを削ったのに、今となっては大きく離されてしまった。

  仲が良かったはずなのに、俺にとって小次郎は遠い存在になってしまったようで、昔のように接することが出来なくなってしまっていた。

  ☆

  「お願いします!」

  「よっしゃ、来い!」

  がつっ!

  肉と肉がぶつかる重たい音がして、後輩がごろりと土俵に転がった。

  転がしたのは小次郎だ。

  相撲部の主将であるあいつは、夏の大会間近だというのに、後輩たちの面倒を見ているのだ。

  ガキの頃とはまるで違う、その雄臭い顔は、とても凛々しく見える。

  「次!」

  「はい!」

  次々と後輩たちがぶつかり稽古しているのを尻目に、俺は柱に向かって、鉄砲を繰り返していた。

  どすっ、どすっ、どすっ、どすっ……。

  すり足をしながら、左右の手で交互に柱を突いていく。

  自分の思いをぶつけるように。

  ……強くなる。

  ……強くなりたい。

  どすっ、どすっ、どすっ、どすっ……。

  そんな俺の稽古を中断させたのは、稽古場に広がる野太い声。

  「おい、みんな集まれ!」

  それは顧問の猪山先生の声だった。

  皆は顔を上げ、稽古をやめると、パラパラと周りに集まっていく。

  小脇に小さな箱を抱えた猪獣人の顧問は、集まった俺達に大きな声で説明をしていく。

  「お前たちも分かっていると思うが、もうすぐ夏の県大会が始まる」

  俺はそれを聞いて気持ちを引き締めた。

  3年の俺にとって、今年が高校最後のチャンスだ。

  ……絶対、全国大会に出場してやる。

  そのためには、団体戦にしろ個人戦にしろ、まずは県大会で勝ち上がらないと、出場資格が与えられないのだ。

  顧問は続ける。

  「例年通り、3年を出場させようとも思ったんだが……今年は2年も良く育っているからな。2年3年でトーナメントをやって、勝ち上がった者を優先的に出場させることにする」

  「……」

  その言葉に、水を打ったようにしんとなる稽古場。

  現在、相撲部には3年15名、2年13名が在籍している。

  2年にとってみれば思わぬチャンスだが、3年にしてみれば高校最後の大会に出場出来ないかもしれないのだ。

  特に、俺のように飛びぬけて強くもない者は。

  ……くそ!

  それでも、顧問の決定に逆らう訳にはいかない。

  「とりあえずくじ引きをして、今日以降試合をしていくからな。まずは狼谷」

  「はい」

  名前を呼ばれた小次郎は、前に出ると顧問の持つ箱に手を突っ込みくじを引く。

  「13番です」

  「よし。次、犀川」

  「はい」

  呼び出された生徒たちは次々にくじを引き、顧問はそれをホワイトボードに書かれたトーナメント表に記入していく。

  

  「次、熊倉」

  「はい!」

  顧問に名を呼ばれた俺は、意気込んで箱に手を突っ込んだ。

  「……12番です」

  おお、というどよめきが稽古場に広がった。

  12番、ということは……。

  俺は頬がひくつくのを感じる。

  1回戦は……小次郎が相手だ。

  勝ちあがらなければならないこのトーナメントで、俺は1番のハズレくじを引いてしまったのだ。

  

  「……」

  仲間たちのどよめきには、『気の毒に……』といった感情や、『俺じゃなくてよかった……』という安堵の気持ちが込められているのだろう。

  だが。

  ……望むところだ。

  俺は意気消沈するどころか、無理矢理闘志を燃やした。

  ……こんなところで負けてなるものか。

  俺の目標はプロ力士なんだ。

  たとえ小次郎が相手でも、つまづいてなどいられない。

  ……絶対に勝ってやる。

  「試合は1日3番ずつ行うからな」

  くじ引きが終わると、顧問の猪山先生はぱんぱんと手を叩いて言う。

  「じゃあ、トーナメントは放課後の部活からスタートだからな。今日はくじの6番目まで取り行うぞ」

  「「はい!」」

  ……俺達の試合は明日か。

  「じゃあ各自、教室へ戻れ。そろそろ1時間目が始まるぞ。……ああ、狼谷。お前は残れ。大事な話があるからな」

  「は、はい……」

  ☆

  俺が教室に戻って、1時間目が終わっても、小次郎はクラスに戻ってこなかった。

  ……何やってるんだろ。

  彼はようやく2時間目に、先生に連れられて教室に戻ってくる。

  その顔は喜んでいるような困ったような顔をしていた。

  「狼谷、なに1時間目さぼってんだよ!」

  クラスメイトのヤジに反応したのは、先生だった。

  「ああ、狼谷はそぼってたわけじゃないぞ。お客さんが来られてたんだ。竜ヶ崎部屋の親方さんでな。なんでも狼谷を力士としてスカウトに来たとか」

  その言葉に俺は息が止まりそうになる。

  ……竜ケ崎部屋。

  俺がいつか入門したいと思っていた、相撲部屋だ。

  「うっそ!」

  「すげぇじゃん!」

  「スカウトだって……」

  教師の言葉にざわざわと騒ぎ出す生徒たち。

  「やっぱり狼谷は強ぇからな」

  「去年の全国大会準優勝だし」

  「じゃあ、学校やめて相撲取りになるのかよ?」

  「いや」

  先生は首を振る。

  「狼谷が入門するのは高校卒業後だな。こいつの行く竜ヶ崎部屋は名門だ。狼谷なら横綱にだってなれるかもしれないぞ。お前ら、応援してやれよ」

  「おう」

  「はいっ!」

  「頑張れよ、狼谷!」

  「……」

  俺は先生と並んで教壇に立ったままの小次郎を、穴が開くほど見つめた。

  どろどろとした気持ちが、俺の中で蠢くのがわかる。

  「……」

  そんな俺の視線を感じたのか。

  小次郎も、じっとこちらを見つめていた。

  ☆

  「すげぇな」

  「さすが先輩!」

  「竜ヶ崎部屋っていやぁ、何人も大関と横綱出してるとこだろ? そんなとこからスカウト来るなんて」

  「俺、先にサイン貰っとこうかな」

  放課後の部活でも、部員たちは小次郎の話で持ち切りだった。

  それはそうだろう。

  自分たちの中から、プロに見初められ、いち早く相撲取りになるものが現れたのだから。

  「さあさあ。騒ぐのもいいが、トーナメントの事を忘れてもらっては困るぞ」

  顧問の言葉に、皆は土俵の周りに集まる。

  相変わらず一人で稽古を続けている俺と、そんな俺を見つめる小次郎とを残して。

  「……なあ、航大」

  何度か逡巡したのだろう。

  小次郎は口を開くと、横を向いたまま鉄砲をしている俺に話しかけた。

  「……」

  「俺、卒業したら竜ヶ崎部屋に入ることになると思う」

  「そうか。……頑張れよ」

  ぎこちなく答えた俺を見て、小次郎は頷く。

  「うん……」

  まるで幼かった頃のように頼りない小さな声。

  きっとそれは、俺がどれだけ相撲取りになりたかったのかを知っているからだろう。

  そして俺を差し置いて、自分が相撲取りになってしまうという後ろめたさで。

  「でも……明日の試合は負けねえからな」

  俺は振り向きもしないで言い捨てる。

  ……ぜってぇ、負けねえ。

  俺は自分で道を切り開いて、相撲取りになってやる。

  全国大会でいい成績を上げて、それを引っ提げて相撲部屋に入門するんだ!

  ☆

  誰もいなくなった稽古場で、俺は1人基礎練習を繰り返していた。

  他の生徒はみな帰ってしまったが、俺は稽古がし足りないと残っていたのだ。

  仮想敵を小次郎に定め、ひたすらあいつとの取り組みをイメージしながら体を動かしていく。

  

  『……頑張れよ』

  ああは言ったけど、俺の頭の中は嫉妬と悔しさとでいっぱいだった。

  ……なんで俺じゃないんだ。

  ……なんで小次郎なんだ。

  でも、俺の中で蠢いているのは、それだけではなかった。

  もっと複雑な気持ちが、俺の心の中に込められているから。

  だから素直に、あいつのことを憎むことが出来なかったのだ。

  だって俺は、あいつのことが……。

  ……好きだから。

  いつからだろう。

  仲間として、ライバルとして交わっていくうちに、小次郎に対する気持ちが変化してしまったのは。

  初めはひ弱な弟を見守るぐらいの気持ちだったのに、だんだんと強くなるあいつを見ていると、『負かしたい』、『屈服させたい』という想いに変わっていったのだ。

  そしてその気持ちが、小次郎を自分のものにしたいというところから来ていると気づいたとき、俺はわかった。

  ……俺、小次郎が好きなんだ。

  その時から、俺はあいつの夢を見るようになってしまった。

  相撲で負かした小次郎を押さえつけて腰を振る夢。

  相撲で負かされた俺の身体にむしゃぶりついてくる小次郎の夢。

  目を覚ますと、俺のパンツはぐっしょりと精液で濡れていた。

  きっと雄が雄を好きになるなんて、間違っているのだろう。

  それは歪んで、間違った感情で。

  そんな想いを向けられたって、小次郎は困惑することしか出来ないはずで。

  いや、それどころか嫌悪感を露わにするかもしれない。

  それを考えるだけで、俺は怖かった。

  だから、嫉妬や悔しさだけじゃない。

  それと一緒に、この歪んだ気持ちをどうすればいいのかわからなくて、俺はあいつと距離を置くようになってしまったのだ。

  「おい、熊倉。そのぐらいにしとけ。もうそろそろ鍵を閉めるぞ」

  不意の呼びかけに、俺は動きを止めた。

  声のする方に顔をやると、顧問の猪山先生が稽古場に顔を覗かせていた。

  「……はい」

  そう返事をしながらも不服そうな顔をした俺を見て、猪山先生は笑う。

  大柄な猪獣人はそんな俺の隣まで来ると、ポンポンと頭を叩いた。

  「頑張りすぎもよくねえぞ」

  「でも……」

  「まあ、明日の相手は狼谷だからな。体動かしておかないと落ち着かないか」

  「はい」

  頷いた俺を見て、猪山先生は目を細める。

  「熊倉の頑張りはよくわかってる。いつだってお前は相撲に対して一生懸命だからな」

  「……」

  「だが、あいつが優れているのも分かっているんだろう?」

  「……はい。俺、あいつと……親友だから」

  俺の言葉に、先生はそうだろうなと呟いた。

  「正直、あいつの才能は本物だ。だが、お前にも勝っているものがある」

  「え……」

  「熊倉の勝ちたいと思う執念。これは誰にも負けてないからな。だから、明日は思い切り頑張ってみろ!」

  「は、はい! ありがとうございます!」

  ☆

  その晩は眠れなかった。

  「……」

  妬みと、不甲斐なさと、劣情。

  それらを乗りこなせるほど、俺は人生に達観してなかった。

  頭の中では明日の試合のことが渦巻いている。

  目を閉じると、取り組みのシミュレーションが繰り返され、それがいつの間にか小次郎の裸の姿へと変わる。

  俺とは違うデカいガタイ。

  男らしく勇ましい顔立ち。

  そんな小次郎が俺を誘うように……。

  

  「くそっ、くそっ、くそっ、くそっ……」

  頭まで布団をかぶって羊の数を数えても、その妄想は朝まで消えることはなかった。

  ☆

  「じゃあ、今日最後の取り組みだ」

  「「はいっ!」」

  翌日。

  稽古場での夏の大会選抜の最後の試合が始まろうとしていた。

  顧問の声で、俺と小次郎は土俵に上がる。

  体調は万全とは言えなかったが、朝から今まで授業を居眠りして過ごしたおかげで、寝不足に関しては解消できている。

  それと同時に覚悟も決まっていた。

  悩んで悩んで悩みつくして、今ある実力で小次郎にぶつかっていくしかないと分かったから。

  下手な策を弄しても、敵う訳がないのだ。

  俺らしい相撲を取ることで、活路は見いだせるはず。

  『熊倉の勝ちたいと思う執念。これは誰にも負けてないからな』

  先生も、そう言って励ましてくれたんだ。

  ……今までの俺を、全部ぶつけてやる。

  仕切り線越しに俺達は向かい合う。

  歯を剥き出しにして睨みつける俺と違い、どこか余裕があるように見える狼獣人の顔。

  

  「……」

  

  お互いの呼吸があった瞬間……。

  ばちんっ!

  2つの肉の塊が、激しい音を立てた。

  まるでトラックがぶつかってきたような衝撃に、俺は歯を食いしばりながら食らいついていく。

  やはり体格の差は大きい。

  はたから見れば子供と大人が取っ組み合いをしているように見えるだろう。

  突き放されないように必死に足に力を込めながら、俺は小次郎のまわしに手を伸ばし、胸と胸を密着させる。

  そのままその巨体を押し込もうとするが、押すどころか右にも左にも動かない。

  まるで岩の塊を相手にしているようだった。

  ……やばい。

  ここしばらくこいつと相撲を取っていなかったが、こんなにも強くなっているなんて。

  見ているだけと、実際に取ってみるとでは雲泥の差だった。

  一度離れたくても、まわしを掴んだ小次郎が逃がしてくれるはずがない。

  このまま寄り切るのが、こいつの得意な決まり手なのだから。

  

  じり、じり、じり、じり……。

  大きな体がゆっくりと前に進んでいく。

  俺の身体が少しずつ体が後退するのがわかる。

  押し返そうと歯が砕けるほど必死に力を込めても、その体格と腕力の差は歴然としているのだ。

  「ぐっ!」

  土俵際に足がかかる。

  体がのけ反りそうになる。

  だが、俺はまだ諦めていなかった。

  渾身の力で押し返しながら、反撃の目を窺う。

  体を縮め、岩のように硬くしながら、もう死んでもいいと、それぐらいの力を込めてその場に食い下がりながら、ひたすら猛攻を耐え抜くのだ。

  ……あ。

  それは一瞬のことだった。

  ふと感じた違和感。

  それが何かを判断する暇もなく、俺の身体は自動的に動いた。

  まるで導かれるように。

  なぜか力が緩んだ小次郎の左足を好機と捉えて、俺はその身体を振り回すように、ありったけの力を総動員して動かしたのだ。

  軸足になっている右足に向かって。

  「うぉぉぉぉぉっ!!」

  ぐらり、とその身体が小さく揺らいだ。

  ……今だ!

  俺はまわしを掴んだまま、全体重を乗せて覆いかぶさるように倒れ込む。

  小次郎を巻き添えにして。

  どんっ!

  その巨躯が土俵に尻餅をついた。

  寄り倒しだ。

  「「「うぉぉぉぉっ!」」」

  

  見ていた仲間たちから、どよめきと歓声が漏れる。

  それはそうだろう。

  この、相撲部員としてはぱっとしない俺が、大事な大一番で、全国大会準優勝の小次郎を倒したのだから。

  まさに大金星。

  こんな逆転劇、誰も想像はしなかったはずだ。

  「勝者、熊倉!」

  動揺したような、でも興奮したような声で、猪山先生の勝ち名乗りが、稽古場に響く。

  俺は……俺はついに勝ったのだ。

  ライバルだった親友の狼獣人に。

  でも……。

  俺は勝ち名乗りを無視して、大声で小次郎に叫んだ。

  「なんで……なんでこんなことをしたんだ!!」

  仰向けに倒れた狼獣人の胸ぐらを掴みながら。

  誰にもわからなかっただろう。

  俺と、戦った小次郎以外には。

  勝てるはずなどなかったのだ。

  死ぬ気で挑んだけど、力の差は歴然だった。

  それはぶつかった瞬間、嫌というほどわかってしまった。

  力も技術も及ばない。

  それでも、俺は必死に食い下がった。

  無様に負けたくない。

  何とか勝ちたい。

  一縷の希望を抱いて、糸よりも細い勝ち筋にしがみつきながら。

  だというのに……。

  最後の瞬間、あいつは誘うように、左足から力を抜いたのだ。

  明らかに意図的に。

  それが意味するものは……。

  「……」

  俺の目から、涙がボロボロこぼれた。

  確かに俺は勝ちたかった。

  でも、こんな風に勝ちを譲って欲しかったわけじゃない。

  本気の小次郎とガチンコで戦って、勝ちたかったんだ。

  じゃなきゃ、勝ったって意味なんてないんだ。

  我慢出来ない俺は、拳を握り締める。

  その気持ちを堪えることはどうしてもできなかったから。

  たとえそこが、神聖な土俵の上でも。

  「馬鹿野郎!」

  振りかぶった拳は、小次郎の頬を殴り飛ばした。

  ☆

  『反則負け』。

  それがこの試合の結末だった。

  神聖な土俵で相手に殴りかかるなんて許されるはずもない。

  それは試合ではなく、ただの暴力。

  しかも、それを教師と部員が見ていたのだ。

  言い逃れできるはずもない。

  結局、大会に出場するどころか……。

  

  「……停学1週間か」

  それが俺にくだされた処分だった。

  仕方のない事なのだろう。

  周りには、試合に勝った途端に俺が何の脈絡もなく小次郎に殴りかかったように見えたのだから。

  俺も小次郎もこの件に関しては一切口をつぐんだままで。

  学校もそういう対処をするしかなかったのだ。

  両親にもこっぴどく叱られたが、いい訳ひとつしない俺を見て呆れたのか、ここしばらくは腫物でも扱うような対応だった。

  

  「……しっかし、暇だな」

  俺は昼間からベッドの上で寝転がる。

  いつもなら、こんな時間があれば筋トレしたり相撲の取り組みの動画を見たりするのだが、なぜかそんな気持ちにもならなかった。

  まるでぽっかりと心の中に穴が開いてしまったかのように、何もする気にならないのだ。

  まるで相撲への意欲がなくなってしまったように。

  ばさっ。

  そのまま布団を頭までかぶると、俺は目をつぶる。

  ピンポーン。

  玄関のインターフォンが鳴ったのは、そんな時だった。

  ……誰だ?

  両親とも仕事で家にいないし、こんな時に尋ねてくるのは宅配業者ぐらいか。

  「……。はーい」

  俺はベッドから跳ね起きると、トントンと階下へ降りた。

  ☆

  「今、開けますね」

  かちゃり。

  玄関の扉を開けた瞬間、俺は眉をひそめてしまう。

  だってそこにいたのは、雄臭い顔をした、大柄な狼獣人だったから。

  「……」

  「よ、よお……」

  声を出さないままの俺に対して、気まずげに声をかけてくる小次郎。

  「……何しに来た」

  冷たい声が漏れてしまうのは仕方ないだろう。

  そんな俺に、小さな声で要件を告げる狼獣人。

  「一言、謝りたかったから……」

  「……」

  まるで内気だった昔に戻ったようなその表情。

  俺が守ってやっていた頃の顔だ。

  それを見ると、俺は無下に扱うことも出来ず……。

  「まあ、入れよ」

  小次郎を家に招き入れた。

  ☆

  「本当にすまなかった」

  何度も上がったことのある2階の俺の部屋に入ると、開口一番、小次郎はそう言った。

  俺はドカリとベッドに座ると、狼獣人の顔を見上げて睨みつける。

  「なんで……なんであんな事をしたんだよ」

  それは、あの試合の時にも聞いた問い掛け。

  考えまいとしていた事なのに、小次郎と相対すると嫌でも思い出してしまう。

  「なんであの時、手加減した?」

  「……」

  「お前あの取り組みの時、明らかに手を抜いたよな」

  「違う! あれはたまたま……」

  「嘘をつくな!」

  俺はたまらず怒鳴りつけた。

  「お前が……お前が相撲であんなミスをするわけがないだろうが! どれだけ俺がお前の取り組みを見てきたと思ってるんだ!」

  小次郎の相撲は、俺にとって憧れそのものだった。

  力強いだけではない。

  瞬発力のある動きに、臨機応変の対応。

  うらやましかった。

  ……こんな風になりたい。

  いつだってこいつの試合の時は、そう思いながら食い入るように見つめていたのだ。

  だからわかる。

  こいつは大事な一番で、そんな失敗をするような奴じゃない。

  「……」

  「俺を……俺を勝たせるためか?」

  「……」

  俯いたまま、小次郎は何も答えない。

  そんな親友を見て、俺は吐き捨てた。

  「……お情けかよ」

  その言葉に弾かれるように顔を上げる狼獣人。

  「自分は相撲部屋からスカウトされたから、高校の大会なんてどうでもよくなったんだろ? だから弱い俺にわざと負けてやろうなんて考えたんだ。喜ぶ俺を見下して笑うために」

  「ち、ちが……」

  「違わねえよ!」

  俺は小次郎の言葉を遮った。

  「じゃなきゃ、そんなことするわけねえだろうが! お情けでお前に勝たせてもらって、俺が喜ぶとでも思ったのか? ……ふざけるな!」

  俺は怒りで拳を震わせる。

  「そりゃ、お前は強い。昔ならいざ知らず、普通にやれば相手にならないぐらい実力の差が空いているのも分かってる! でもなぁ、俺にだって意地があるんだ!」

  「……」

  「そりゃ、俺だって大会に出たいさ。でも、それは自分の実力で勝ち上がってこそだ! だから、お前に全力でぶつかるつもりだった。お前が本気で応えてくれるなら、たとえ負けたとしても後悔しないように、俺の全身全霊で、胸を借りるつもりで挑んだんだ! それを……」

  「……」

  「昔と立場が逆転しちまった俺を、そんな風に馬鹿にして楽しかったか? 格下に勝ちを譲るのが、そんなに面白かったのか?」

  「そんなんじゃ……そんなんじゃねえよ!」

  遮るように放たれた小次郎の叫び声。

  俺はそんな狼獣人の姿に、一瞬戸惑ってしまう。

  だって小次郎の目には……涙が浮かんでいたから。

  ……こいつ、泣いてるのか。

  大きくなってからは、強くなってからは、決して涙を見せたことがない小次郎が、涙を流している。

  その姿に、俺は動揺してしまう。

  「確かに最後の瞬間、俺の左足には力が入らなかったよ! この勝負に勝ちたいという気持ちよりも、航大に大会に出てもらいたいという気持ちの方が強かったから……」

  「だから、それは俺を馬鹿に……」

  「違う! 俺はただ航大に喜んでもらいたかったんだ! だって俺……お前の事が……好きだから!」

  「っ!」

  その言葉に俺の頭は真っ白になる。

  ……こいつ、何を。

  その言葉を吐き出した狼獣人も、動揺を隠せないようだった。

  きっとそんなことを言うつもりなど、これっぽっちもなかったのだろう。

  言ってはいけないことを言ってしまったかのように、小次郎の顔はくしゃくしゃに歪められていた。

  

  「好き……」

  「ああ、そうさ!」

  開き直るように小次郎は叫ぶ。

  涙をボロボロこぼしながら。

  「男の癖に男を好きになるなんておかしいなんてこと、わかってるさ! でも、俺は……お前のことが好きなんだよ!」

  「……」

  「小3の時、いじめられていた俺を助けてくれた航大は、俺にとって憧れのヒーローだった。強いけど優しくて……。生き甲斐になる相撲も教えてくれた」

  「……」

  「その憧れが好きという感情に変わって……。お前がこの大会に出るために誰よりも一生懸命努力してるのも知ってたから。だから俺……お前に喜んで欲しくて……」

  ぐしゃぐしゃに濡れた小次郎の顔。

  泣きじゃくるその姿は、まるで幼い子供の頃のように見えた。

  「俺、好きなんだ。航大の事、好きなんだよ……」

  「……。馬鹿野郎!」

  俺はいたたまれなくなって、ベッドから立ち上がると、その大きな体を抱きしめた。

  「やめてくれよ!」

  それこそ情けでもかけられたとでも思ったのか、力無くいやいやと首を振る小次郎。

  「……うるせぇ! 俺だって……」

  俺は言葉にならないまま、親友の頭を掴むと、無理矢理にマズルを重ねたのだ。

  ごつっ!

  歯と歯が当たって鈍い音を立てる。

  きっとこいつも初めてなのだろう。

  不器用にぶつかった唇をこじ開けて、俺は舌を潜り込ませる。

  「……っ!」

  突然の出来事に硬直してしまった小次郎は、されるがままだった。

  俺は舌を伸ばして、口の中を乱暴に掻き回す。

  俺だって初めてなのだ。

  上手なやり方なんてわかりはしない。

  犬歯に当たって舌から血が滲むのがわかるが、そんなのは知った事ではなかった。

  「……」

  初めは強張ったままの小次郎の腕が、おずおずと伸ばされて俺の身体を抱きかかえる。

  そして、迷子のガキが父親に巡り合ったかのように、ひっしと俺に抱きついた。

  痛いほどの感じる強い抱擁を受けながら、俺は唇を離す。

  「なんで……」

  呆然と呟く小次郎。

  「決まってるだろうが。俺だって……お前が好きなんだよ」

  「……」

  困惑したような顔の狼獣人。

  「中学の頃から、だんだんお前のことが好きになっちまってた。……だけどな、俺だってそんな事言い出せなかった」

  「でも……そんな……俺……。お前に嫌われてるのかと思って……。ずっと話しかけてもらえなかったから……」

  「そりゃしょうがねえだろうが。相撲ではライバルと思ってたんだからよ。……お前のこと考えて……マス掻いたことだってあるぐらいなんだぞ」

  最後の言葉が尻すぼみに小さくなってしまったのは、仕方ない事だと思う。

  「えっ、そんな……」

  その厳つい顔が、うっすらと赤く染まった。

  「嘘だと思うか?」

  俺は小次郎の手を掴んで、無理矢理股間に押し当てる。

  「あっ……」

  逸物が硬くなってるのがわかったのだろう。

  「な? 俺はお前が好きだ」

  見つめているその顔が、泣き笑いに変わる。

  「俺だって……航大の事、好きだ」

  そう呟いた狼獣人は、今度は自分から唇を重ねてくるのだった。

  ☆

  「ずっと……ずっと俺、思い違いしてたんだ」

  やがて唇を離した小次郎は、放心したように言う。

  「……じゃあ、あんなことしなけりゃよかった。お前のプライド傷つけるようなことをして、しかも停学処分にまでしちまって……」

  「馬鹿、もういいんだよ、そのことは」

  俺は笑った。

  「でも……」

  「おい、小次郎。お前まさか、スカウトの件、辞退しようだなんて思ってないだろうな」

  「……」

  その顔を見ると、図星だったようだ。

  「そんなくだらねえことはしてくれるなよ」

  「でも……」

  「そんなこと考えてる事の方が、よっぽど俺のこと馬鹿にしてるし、傷つけるんだよ」

  「……」

  「そんなに俺に悪いと思ってるなら……」

  俺はそう呟くと、手を伸ばしてそっと小次郎の股間を握った。

  「あ……」

  こいつも俺と同じように臨戦態勢になってやがる。

  「これを俺の好きにしてもいいだろ?」

  「それって……」

  ごくりとつばを飲み込む小次郎。

  俺はそれ以上何も言わず、その場にひざまずくと、ゆっくりと小次郎のズボンをおろした。

  「……」

  興奮でいきり勃つ逸物は、なかなかのサイズだった。

  俺よりも幾分細いが、長さは完全に向こうの方が上だった。

  何より皮が剥けて、きれいに亀頭が露出しているのだ。

  ……くそっ。

  少しだけ負けた気になって、俺は鰓の張り出したそれに舌を這わせた。

  「あっ、航大……だめ……」

  「うるせぇ」

  ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ……。

  

  俺は子猫がミルクを舐めるような音を立てて、亀頭を舐め回した。

  だめだという割に、後から後から先走りが漏れてくる。

  そのまま上を見上げると、堪えるように掌をぎゅっと握りしめたまま、小次郎は歯を食いしばっていた。

  ……なんか、かわいいじゃねえか。

  俺はそんなことを思いながら、ぱくりと逸物を咥え込んだ。

  「んんんっ!」

  まだ刺激に慣れていないピンク色の亀頭が、口の中の粘膜に包まれると、それだけで震えている。

  俺はエロDVDで見たように、舌を絡みつかせて顔を前後に振った。

  「んぐっ、んぐっ……」

  えずきそうになりながら、少しでも気持ちよくなってもらいたいと、俺は深く逸物を飲み込んでいく。

  「……くそっ、航大。俺……イッちまう……」

  突然呟いたかと思うと、小次郎は俺の頭を引き離そうとする。

  俺はそれを拒み、口の粘膜で膨れ上がった逸物を締め付けた。

  「イグっ!」

  苦しそうな声を上げた瞬間……。

  びゅるっ、びゅるっ!

  ヨーグルトのように濃い粘液が、俺の喉に流れ込む。

  「んんっ!」

  ごくり、ごくり……。

  青臭く粘ついたそれを、俺は無理やり流し込んだ。

  「航大、ごめん。俺……」

  謝る小次郎に、俺は手で口を拭いながら笑う。

  「いいんだよ。俺がしたかったんだから」

  そんな俺を見つめて、小次郎は言った。

  「俺も……俺もしたい……」

  「えっ?」

  小次郎はいきなり俺の身体を抱えあげると、そのままベッドの上に押し倒した。

  どさっ。

  「お、おい……」

  突然のことと、さすがの体格の差に抵抗することも出来ないまま、俺のズボンはずりさげられてしまう。

  ずるり。

  「……っ」

  恥ずかしさで顔が赤くなるのがわかる。

  勃起した俺の逸物は太巻きぐらいのサイズはあるが、いかんせん寸胴で短く、先っぽまで皮で覆われているのだ。

  だが、小次郎はそんな俺の逸物を熱で浮かされたような表情で見つめていた。

  「すっげぇ、うれしい……」

  そう言うと、舌先で俺の皮を剥いていく。

  じゅるんっ。

  「ひっ」

  生まれて初めて感じる、他人に与えられる刺激。

  生温かくぬめったそれは、とろけるほどに気持ちよかった。

  ぐちゅっ、ぐちゅっ……。

  雄臭い顔を淫らに歪めて、夢中で俺のちんぽをしゃぶる狼獣人。

  皮を剥いた亀頭に嬉しそうに吸い付いて、がむしゃらに舌を動かす。

  時折歯が当たるような乱雑なフェラだったが、その感触さえも俺はたまらず……。

  「イクっ!」

  どぷっ、どぷっ……。

  魂が抜けるような快感と共に、俺は雄汁を吐き出した。

  ごく、ごく。

  それを喉を鳴らして飲んでしまう小次郎の顔。

  その表情はまるで俺を煽情してしまうように見えて。

  

  「……」

  萎えるどころかさきほどよりも硬くなる俺の逸物。

  俺は下半身でうずくまっている小次郎を抱き寄せると、囁いた。

  「なあ。……入れてもいいか?」

  「えっ……。こんなぶっといのをかよ……」

  自尊心をくすぐるようなその言葉に興奮した俺は、小次郎を抱きかかえたまま、ベッドの上で上下を入れ替えると、仰向けになった小次郎のケツに硬いままの逸物を押し付けた。

  そのまま竿を下から上へとしごくと、出し切れなかった俺のザーメンが、じわりと鈴口から漏れだした。

  

  「……」

  それを無言でケツに塗りたくると、俺は戸惑い顔の狼獣人目がけて、腰を突き出したのだ。

  がちゅんっ!

  無理やり押し込まれる俺の肉棒。

  小次郎の肉穴をこじ開けて肉襞に包み込まれるのがわかる。

  「痛ぇっ!」

  涙目で叫ぶ小次郎。

  だが、俺は腰の動きを止めることが出来なかった。

  その感触が気持ちよすぎたから。

  今まで生きてきた中で、一番の快感。

  きっと処女なのだろう。

  きつく絞まる肉襞は、俺の子種を搾り取りたいと言わんばかりにうねうねと絡みついてきているのだ。

  痛いほど強く咥えこまれた逸物は、腰を動かすとじゅちゅじゅちゅと濡れた音を響かせる。

  ……すっげぇ。

  

  ぬちゅ、ぬちゅ、ぬちゅ、ぬちゅ……。

  抜き差しすると、肉穴の中で、俺の皮が剥かれて、また戻る。

  普段表に出ない、敏感な粘膜をゴリゴリと刺激される快感はたまらなく気持ちいいのだ。

  思わず勢いよく腰を振ってしまう。

  がちゅん、がちゅん、がちゅん、がちゅん!

  「あっ、あっ、あっ、あっ!」

  痛みを堪えながらも、雌の声を響かせる厳つい狼獣人。

  その顔を見ているだけでたまらなくなって……。

  「くそっ、またイッちまうっ!」

  どぷどぷどぷどぷ……。

  俺は再び濃い精液を吐き出してしまったのだ。

  気持ちよかった……。

  ずるり。

  俺は余韻に浸りながら、逸物を引き抜いた。

  と、すっかり雌穴に変わってしまった小次郎のケツから、とろとろと子種がこぼれだす。

  俺の付けた大量の種が、あふれ出しているのだ。

  ……えっろ。

  そんな風に感慨にふけっていた俺の腕を、小次郎はがっしりと掴んだ。

  「えっ?」

  その目は険しく俺を睨みつける。

  「まさかお前だけ入れといて、終わるつもりじゃねえだろうな。俺にも入れさせろよ」

  そこにいるのはとろけた雌顔の狼獣人ではなく、いつものような雄臭い、厳つい相撲部主将の小次郎だった。

  「ば、馬鹿! そんな長いの入るかよ!」

  身の危険を感じた俺は逃げ出そうとするが。

  「あんなぶっといちんこぶち込んどいて何言ってやがる! ケツが裂けるかと思ったじゃねえか!」

  体をひっくり返され、うつ伏せに抑えつけられてしまった俺に、巨躯の狼獣人は言い放つ。

  

  「心配すんな。俺はちゃんと優しくやってやるからよ」

  小次郎はそう言うと、俺のケツを両手で広げて、その中に顔をうずめた。

  ……まさか。

  「おい、やめ……ひっ」

  べろり。

  温かく濡れた感触が俺のケツ穴をくすぐる。

  小次郎は、俺のケツを舐めているのだ。

  「き、汚いだろうが!」

  「……航大の身体に、汚いとこなんかねえよ」

  「……」

  思いつめたようなその声に、俺は思わず黙り込んでしまう。

  ぬちゃぬちゃぬちゃぬちゃ……。

  唾液をまぶしつけるように入り口を何度も往復した後、その太い指がおずおずと俺の中に入っていく。

  「あっ」

  なぜか、痛みなどまるでなかった。

  生まれて初めて、そこに異物を飲み込んだというのに。

  ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ……。

  「んんっ!」

  掻き回されると、どこか疼くような感覚が俺を襲った。

  ……気持ちいい。

  悔しいけど、それは確かだった。

  まるでやり慣れているかのような動きで、ぐるりと指で肉襞を掻き回されると、喘ぎたくなるほどの快感が俺の身体を打ち据えるのだ。

  ……なんで。

  ……なんでここがこんなに気持ちいいんだ。

  その指先が、俺のちんこの裏にある、小さなしこりをえぐるように動いた。

  ぐりっ。

  「ひゃぁっ!」

  まるで女のような悲鳴が、俺の口からこぼれてしまう。

  「ここだな」

  弱点を見つけたとばかりに、小次郎の指はそこを執拗に狙う。

  ごりっ、ごりっ、ごりっ、ごりっ……。

  「んあああああああああっ!!」

  ちんこの先からだらだらと汁がこぼれるのがわかった。

  「航大、わかるか? お前今、すげぇエロい顔してんぜ。むっちゃかわいい……」

  横から覗き込みながら、うわ言のように呟く小次郎は、決して指の動きを止めようとはしない。

  それどころか、2本3本と増やす始末だ。

  ずちゅっ、ずちゅっ、ずちゅっ、ずちゅっ……。

  「やめてくれぇぇぇっ!!」

  それでも俺のケツは痛みを感じなかった。

  たやすく指を受け入れて、快感を享受しようとするのだ。

  指の数にあわせて、2倍3倍へと快感が膨れ上がる。

  俺はもう、悶えることしか出来なかった。

  「……もう、いいよな」

  「……」

  ぐちゅり、と指を引き抜かれる頃には、俺は息も絶え絶えになっていた。

  気づかないうちに何度もイッたのか、シーツが白濁液でぐしょぐしょに濡れてしまっている。

  青臭い匂いに包まれたまま、俺に覆いかぶさってくる巨漢の狼獣人。

  「航大、入れるからな……」

  そう囁いた小次郎の逸物が、俺の肉穴に触れた。

  ぬちゅり。

  ……ああ。

  ……欲しがってる。

  俺は本能が望んでいることに気づいてしまった。

  肉穴が疼いて、うねうねと蠢いているのが見なくても分かる。

  もう肉穴じゃない。

  俺のケツは、雌穴に変わってしまっているのだ。

  小次郎の逸物を受け入れるための雌穴に。

  「入れて……くれよ……」

  思わず呟いたその言葉に小次郎はごくりとつばを飲み込んだ。

  がちゅんっ!

  「ん”ん”ん”ん”ん”っ!」

  そのあまりの快感の深さに、俺はのけ反った。

  ……すげぇ!

  その長い逸物で俺の肉襞を押し広げられると、それだけで全身が震えるような快感が走るのだ。

  「……やっべ。むっちゃ絞まる」

  苦しそうな小次郎の声。

  それでも、こいつは俺の中をまさぐるように腰を動かしていく。

  ぬこっ、ぬこっ、ぬこっ、ぬこっ……。

  「んひぃぃぃぃぃっ!!」

  もう、恥も外聞もなく、俺は喘いだ。

  気持ちいい。

  気持ちいいのだ。

  体中にバチバチと弾けるような快感が走りまくる。

  おかしくなってしまいそうな悦楽が、俺の身体を底なし沼に引きずり込もうとしているのがわかるのだ。

  ごちゅっ、ごちゅっ、ごちゅっ、ごちゅっ……。

  手慣れたような腰の動きが、俺を雌へと堕としていく。

  抵抗する事も出来ずに、ただ俺は目の前の雄の逸物を受け入れることしか出来なかった。

  「なんでっ! なんでそんなにうまいんだよ! おかしいだろうが!」

  俺に出来るのは、半分涙目で悪態をつくことだけ。

  そんな俺に、真面目な声色のまま親友は答える。

  「決まってるだろ。ずっとお前に入れたかったから、1人で練習してたんだよ。初めてでも、お前に気持ちよくなって欲しかったから……」

  「……」

  その気持ちが伝わってきて、俺の胸が熱くなる。

  「お前こそ、なんでちんこ入れられただけでそんなに感じてるんだよ! 俺があれだけ痛かったのによ! おかしいじゃねえか!」

  ずちゅんっ、がちゅんっ、がちゅんっ、ぬっちゃぬっちゃぬっちゃぬっちゃ、がつがつがつがつっ、どちゅんっ!

  「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

  「ひょっとして……誰かとやったことあるのかよ?」

  まるで叱責するような口調と共に、えぐるような動きで攻める狼獣人。

  俺は泣きながら必死に首を振る。

  「ち、違う! 俺だって初めてなのに……。お前に入れられたら、気持ちよくて……」

  しゃくりあげながら、俺は本音をこぼしてしまう。

  それは狼獣人の嗜虐心を刺激してしまって……。

  「くそっ、かわいい事言いやがって……。良いから何度でもイッてみろ!」

  ごつんっ、ごつんっ、ごん、ごん、ごんっ、ごつんっ、ごちゅんっ、ごつんっ、ごつんっ、ごちゅんっ、ごつんっ、ごつんっ、ごつんっ!

  「だめっ、だめだからぁぁぁっ!!」

  「うるせぇ、駄目じゃねえ!」

  ごりっ、ごりっ、ごりっ、ごりっ、がつんっ、ずごんっ、がつんっ、がつんっ、がつんっ、がつんっ、がつんっ、ばちゅっ、ばちゅっ、がつんっ、がつんっ、がちゅんっ、どちゅんっ、ごりっ、ごりっ、ごりっ、ごりっ、がつんっ、がつんっ、がつんっ、がつんっ、がつんっ、がつんっ、ばちゅっ、ばちゅっ、ごつっごつっごつっ、どちゅっ、がちゅんっ、ごつっごつっごつっ、どちゅっ、じゅちゅじゅちゅじゅちゅじゅちゅ、がつんっばちゅんっ、どちゅんっ、ばつんっ、どちゅんっ、がつんっ、がつんっ、がつんっ!

  「ひぎぃぃっ、イグっ、イッじゃうぅぅっ! またイグっ、イグっ、イグぅぅぅぅぅっ! なんで……ごわれじまうぅぅぅっ!!」

  びゅるっ、びゅるっ、びゅるっ、びゅるっ、びゅるっ、びゅるっ、びゅるっ、びゅるっ……。

  「おがじぐなるぅぅぅぅぅぅっ!!」

  「おかしくなっちまえっ!」

  ザーメンと潮混じりの液体が、シーツに広がっていく。

  その生温かい感触が冷えて冷たく感じるようになっても、小次郎の抽挿は続くのだ。

  頭はおかしくなりそうなのに、身体は逸物を求めて必死に締め付けていく。

  子種が欲しいと竿に絡みついて、ただただ吐き出してもらえるのを待っているのだ。

  やがて……。

  「くそっ、出すからな! 航大の中に、出すからな! ……イクぞぉぉぉぉぉぉっ!」

  びゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる!!!

  

  子を成そうという強い意志が感じられるほど激しい勢いで吐き出された雄汁が、俺の中を満たしていく。

  その感覚に浸りながら、俺は意識が遠のいていった。

  ★

  力尽きて眠ってしまった航大を抱きしめたまま、俺はその頭を撫でる。

  ……まさか、こんなことになるなんて。

  停学処分を受けた航大の家を訪ねた時には、思いもよらなかった。

  絶交されるかもしれない、2度と口をきいてもらえないかもしれないと、覚悟をしてきたのに。

  こうやって2人で気持ちを確かめ合えるなんて。

  それに。

  ……こいつはもう、俺の嫁みたいなもんなんだ。

  俺に攻められてよがり泣く熊獣人の姿を思うと、それだけでまた逸物が勃ってくる。

  ……航大も俺に入れたがるかもしれねえけど。

  力じゃ負けるつもりはない。

  これからも無理矢理でも押し倒して犯してやる。

  あれだけ俺に入れられて喘ぎまくったんだ。

  何度も泣かしていくうちに、自分が嫁だって気づいてくれるだろう。

  

  「それにしても……」

  俺はこれからのことに思いを馳せる。

  無事付き合えたとしても、俺たちは前途多難だ。

  航大の停学が終わったら部活の皆に説明して謝らないといけないし、夏の大会のことだってある。

  それに卒業したら、俺は相撲部屋への入門もあるし。

  大体、この先俺達がどうなるのかわからない。

  航大がこのまま相撲を続けてプロを目指すのか、それとも相撲の道を諦めるのか。

  俺だってそうだ。

  相撲取りになったとしても、プロとしてちゃんと芽が出るのかどうかなんてわからないのだから。

  でも、たとえ2人がどんな大人になったとしても、俺はずっと航大のそばにいたいんだ。

  そして、今度は俺が、何があっても航大を守ってやれるようになりたい。

  こいつが俺のヒーローになってくれたように、俺もこいつのヒーローになりたいから。

  

  「……もう絶対離さねえからな」

  そんなことを考えながら、俺は小柄な熊獣人を抱きしめたまま、眠りについたのだった。

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