「…ふぁあ、今日もアヌビスになるのかぁ」
助手は、自分の黒と金色に染められた、見慣れた皮膚を見てつぶやく。
彼の体は黒いペイントでくまなく覆われ、金色の装飾が施されていた。顔にはアヌビスの特徴的な頭部を再現したマスクをかぶっていた。
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ここはとある博物館。最近発見された古代遺跡の収蔵品が、特別に展示されるのだ。
…しかしその遺跡、かなりの曰く付きであり、不用意に遺跡に立ち入った者は不幸に見舞われると言われていた。その遺跡は普通の人間に姿を晒すことを極度に嫌っているかのようだ。
出土品も例外ではない。遺跡から見つかった品々を持ち出そうとすると必ず災いが起きた。…遺跡の新たな主と認められた、一人の男を除いて。
簡単に言うと、その「主」がアヌビスの姿になれば、遺跡も気を許してくれるということだ。いつからか、この遺跡に入る者は遺跡の守護神たるアヌビスの姿を借りることで呪いから身を守れると信じられ始めたのだ。(詳しい経緯は各々文献を当たっていただくとしよう。)
とは言え、出土品を「主」と遠く引き離してしまえば、何が起きるかわかったものではない。
当然「主自身」、すなわち助手も展示会に連れてこられた。
助手としては偶然とはいえ自身の調査の成果を示せる機会であるので、悪い気はしなかったし、拒否する理由もなかった。アヌビスのボディペイントをすることにも、抵抗はなくなっていた。
……もっとも、アヌビス姿を衆人に“見られる”恥ずかしさは別の問題だったが。
「(…とはいえ、ボクは会場に居るだけでいいんだけどね。)」助手は自らを落ち着かせる。
今まで出土品を研究所や、地元政府の高官に見せるために同行した経験があるが、ちょっと走ってすぐ手が届く程度の距離に居れば、問題は特に起きていない。出土品についての説明は教授や博物館の学芸員がやってくれるし、警備員も監視カメラも万全である。
「(…というか、こんな曰く付きの出土品を盗む人なんて居ないと思うけどなぁ。)」
助手自身が行うことは、展示室の物陰に隠れて、展示会が終わるまでじっとしているだけだ。
…わざわざ、「主」が下々の者に諸肌を脱ぐ必要は無いのだ。(と、助手は考えている)
「(よし、展示会場はこれで問題なさそうだ。…ふぁあ、眠いなぁ…。)」
…助手は早起きしてアヌビスに変身させられたからか、眠そうな様子である。
それも無理もない。ボディペイントは教授や他のメンバーに塗ってもらっているとは言え、本人は塗料が乾くまで何時間も立ちっぱなしでなければいけない。
アヌビスの姿で遺跡に潜ったり、研究調査に同行することは慣れたとはいえ、実は変身段階でも意外に体力を使うのだ。
「(…ちょっとそこの椅子で休もう…少しだけなら…)」
会場には遺跡の石をかたどった四角い椅子があり、助手はその1つに座った。
…ここまで長時間の準備と緊張からか、助手は自分が思っている以上に疲れていたようだ。
「(むにゃむにゃ…)」
展示室の静けさと心地よい照明に包まれ、助手は次第にまぶたが重くなっていった。
…zzzz…
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数十分後、来場者たちが会場に案内された。
彼らは遺跡内部から見つかった書物や遺物を眺めて、神秘的な雰囲気をじっくり堪能していた。
そのうち、来場者の一人が変わった「展示品」に気付く。
「このアヌビス像、すごくリアルだなぁ。」
「こんな美しいモノがあの遺跡に隠されていたのか!」
「まるで生きているみたいだ。呼吸しているようにも見えて…今にも動き出しそうだ、なんてね。」
椅子に座ったまま寝てしまった助手の姿は、展示品の一部のように見えたのだ。
来場者たちは彼をアヌビス像だと思い込んで眺め始めた。
「(…ん?)」」
会場が賑やかになったからだろうか、人の雰囲気を感じて「アヌビス」は目覚めた。
「(…むにゃ。なんだか…あれ、視線を感じる…??)」
彼は周囲を見て…状況を理解するのに数秒かかったが…
彼は自分が展示品と間違われていることに気づいた。
「(……!!!!!!!!!////)」
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…その瞬間、助手は自らの居眠りによるやらかしを悟ったのであった。
彼は急いで隠れようともしたが、すぐに、全てが遅かったことに気付いたのである。
「きゃあああああ!!!!(寝坊してアヌビス姿を見られちゃった!!!!!)」
思わず館内に響き渡るほどの声で叫び、下着にしっかりと隠れているはずの股間を意味もなく両手で抑えながら、黒く塗られた顔の下の素肌を真っ赤にして恥ずかしがる助手。
その姿を見て、来場者たちは…
「うわあああああ!!!遺跡の祟りだあああああ!!!!!」
「なんてことだ!!!もう助からないゾ!!!!!」
「ほえ?」
まだ半分寝ぼけているのもあり、助手はあっけにとられてしまった。
…突然の出来事にパニックになったのは、アヌビス側だけではなかったようだ。
しかし、その慌てた姿のせいで、さらに注目を浴びる羽目になってしまうのであった。
「あは…ははははは……!!!」
助手は思わず笑い出してしまった。
照れ隠しなのか、失態を笑ってごまかしたいからか、それとも自分が置かれた状況の面白さに笑いをこらえることができなかったのからかは、彼のみぞ知る…
「す、すみません…居眠りしてしまいました! ボクは展示品ではありません!!!」
正気に戻った助手は慌てて説明しようとする。
…来場者が「アヌビス像」の正体が人間であることに気付くまで、それなりの時間を要したのだった。
…それがかえって、助手の恥じらいを増強させる結果になったのであった。
…その後、助手は自らがアヌビスの姿になった経緯を、会場をあちこち歩いて説明して回ることになったのだった。
「あなたの姿、本当に素晴らしかったですよ!まるで本物の像かと思いましたよ!」
「これは最高の展示だよ!君のおかげで、今日は忘れられない一日になりそうだよ」
「…はい、どういたし…まして////」
アヌビスの元に、来訪者がどんどん集まってくる。
「おじさん、なんでアヌビスの姿なの? はだかではずかしくないの?」一人の子供が尋ねた。
「このボディペイント、どれくらい時間がかかってるんですか?」子供の父と思わしき人物も便乗するように聞く。
「うーんと、それはねぇ…」
…アヌビスはしばらく質問攻めに遭うのであった。
「あの…もしよければ、私と記念撮影してくださいませんか?」
「えっ!?…………はい…!」
助手は少し照れながらも、断り切れずツーショットに応えたのであった。
「(…まあ、みんなに笑顔を届けているようで…悪い気はしないなぁ。)」
結局、この出来事により、アヌビス…改め助手は一躍街の話題の中心となったのであった。
彼の写真はSNSで拡散され、世界各国のテレビでも取り上げられた。
不本意ながら「露出」が増えてしまった助手は、人前では常に恥ずかしさでいっぱいだった…が。
どこか“誇らしさ”を感じ始めてもいたらしく、最近は一般人の写真撮影にも積極的に応えるようになりはじめているようだ。
人間とアヌビスの間を行き来する生活を送るようになっていた彼は、
次第にアヌビスとしての第二の人生も楽しむようになったのかもしれない....
…と周りの調査隊から呼ばれているのだとか。
つづく?