敵組織に潜入中のスパイですが、裏切ろうか悩んでます
ここは様々な派閥が争う、闇の街。
マフィアやヤクザが多く存在している。
私はレイン。
時雨組の構成員で、今回[[rb:虹獣組 > こうじゅうぐみ]]に潜入することになったスパイ。
というのも、幹部に「あの組織が敵になりそうだから探ってこい」と言われて、一時的に追い出された。
正直、あの地獄みたいな量の業務から一時的にでも逃げられるのはありがたい。
とりあえず、潜入のために虹獣組に向かおう。
「どうぞ」
「し、失礼します、、、」
傘が経費で出なかった上に、自前の傘も持っていなかったので、雨の中徒歩で虹獣組に向かっていたところ、虹獣組のボスであるはずのギンコに会った。
噂に聞いていたよりもずっとかっこよくて見惚れていたら、足元の段差に気づかずに転んでしまった。
「大丈夫ですか?」と笑顔で声をかけられて、
焦って「私を虹獣組に入れてください!」と言ってしまった。
ギンコはきょとんとした顔をした後、すぐに元の表情に戻り、私を虹獣組まで案内してくれた。
案内された先は、和風のお屋敷だった。
中に入ってタオルを貸してもらい、あらかた水気をとった後に、応接室のような場所に通されて、私の正面にギンコが座った。
周囲に護衛らしき人物はいない。
「虹獣組に入りたいというのは本当でしょうか?」
早速本題だ。
「はい!本当です!」
声が裏返る。
「わ、私は数日前は別の組織にいたのですが、労働環境は地獄のようで、部下の扱いも酷いものでした。
そんな時に虹獣組の構成員募集の張り紙を見つけ、藁にもすがる思いでここまできました!
どうか、お願いします、、、
私を、虹獣組に入れてください!
雑用でも、なんでもします!」
ちなみに、今話した私の所属している場所についてのことはほぼ事実。
そして、虹獣組が構成員を募集しているのも事実。
こういう組織において、こういった形で構成員を募集するのは珍しいけど、今回の任務にしてみればかなり好都合だ。
ギンコは難しそうな表情をしている。
「、、、人間であるあなたが、なぜ虹獣組に?
虹獣組は構成員のほとんどが亜人で構成されています。
あなたを構成員にするためには、それなりに突出した能力を要求されることになりますが、何か誇れるような特技や能力はありますか?」
「情報処理と資料整理は得意です!」
地獄のような業務で鍛えられたから、そういう仕事には強い、、、つもり。
「なるほど、、、
ところで、獣人はお好きですか?」
突拍子もない質問に、ちょっと固まった。
「、、、え?」
「先ほども話した通り、虹獣組の構成員には亜人、その中でも獣人が多いです。
、、、実はですね、時々あなたのように構成員になりたいとここを訪れる人間の方がいるんです。
ですが、その大半が獣人や亜人に異常なほどの執着を見せているんですよ。
業務に支障が出る可能性があるので、そういう人間にはお帰りいただいているんですが、、、
あなたはどうでしょうか?」
、、、実際、私は獣人とかは好きな方だ。
モフモフを堪能したいとかの気持ちはあるけど、流石に仕事中はそんな煩悩は捨てている。
「どちらかと言えば好き、というぐらいです」
「わかりました。
お住まいはどちらでしょうか?
もしそういったものがないのでしたら、部屋をお貸ししますが」
どうやら、潜入は成功したらしい。
貸し出された部屋は、近くにあるマンションの一室で、前いた寮よりも圧倒的にいい環境だった。
ギンコからもらった、虹獣組の証だというピンバッジを机の上に置き、部屋の設備を確認する。
日用品も家電も一通り揃っているし、ベッドも柔らかい。
バスルームとトイレは別で、両方とも綺麗。
ベランダもあるし、クローゼットは人間用ではないけれど、大きいだけだから普通に使えそう。
大体確認したところで夕食のインスタント麺を食べて、明日に備えて早めに寝た。
次の日から、虹獣組での業務が始まった。
昨日とは違って、借りている部屋のあるマンションの近くにあるビルが仕事場みたいだ。
スーツに着替え、ピンバッジをつけて仕事場に向かう。
ピンバッジは、白と黒で縁取られた、様々な色が混ざり合った模様の狐が彫られている。
仕事は、傘下のお店の利益計算や庇護下にある団体からの納入金や取引のデータ整理を任された。
「獣人が多い弊害か、こういった事務的な仕事が苦手な人が多いので、こういう仕事を任せられるのは助かります」
とギンコから言われたけど、新人にそんなことを任せていいのかな、、、
実際、メガネ型のカメラで資料は全て撮っているし。
今日の仕事が終わったら、早速資料に書いてあった情報をまとめよう。
部屋に監視カメラ的なものは見当たらなかったし。
「レイン」
突然名前を呼ばれて、ちょっとびっくりした。
「お前初日なのにもうこんなに仕事片付けたのか」
上司の犬獣人が、後ろから話しかけてきた。
「あ、はい」
「お前仕事早いな〜
他のやつを見てみろ。
まだ半分も終わってないぞ?」
周囲を見てみると、机で居眠りしている人、ペンを回して遊んでいる人、パソコンでマインスイーパーをしている人と、私のいた組織じゃ考えられないような勤務態度の人が多くいた。
そもそもの仕事量は少ないから、あんな勤務態度でも終わらせることができるんだろう。
「まだお前は顔を知られていないだろうし、他の部署に挨拶に行ってこい。
時間あるだろ?」
「クレーム対応部」と書かれた札のある扉を開く。
「は、初めまして!
この度虹獣組にー」
ドン!と音を立てて、すぐそばの壁にスーツを着た人が叩きつけられた。
見た目からして、虹獣組の人ではなさそう。
「ここは俺たちの傘下の企業のクレームに対応する場所じゃねぇ。
そんなにクレームを入れたいのなら、その企業のとこに行け。
つーかそんなしょうもない苦情いちいち言いにくんな!
なんだ「香水使ったら彼女に嫌われて別れられたから責任とれ」って!
とっとと出てけ!」
この部署のボスであろう狼獣人が大きな声で威圧すると、さっきの人は全速力で逃げていった。
「、、、ところで、誰だお前」
話しかけられた!
「そのバッジつけてるっつーことは、[[rb:虹獣組 > うち]]所属だよな?」
怖いけど、ちゃんと説明しなきゃ怪しまれる!
「は、初めまして!
この度虹獣組に所属することになりました!
レインと申します!
以後、よろしくお願いしまふっ!」
噛んじゃった!
恥ずかしい、、、
というか、無言で見つめられてるけどこの時間何なの、、、?
体格のいい獣人に囲まれて身動き取れない、、、
「そうか」
萎縮して固まっていると、さっきまで怖い顔をしていた狼獣人が微笑んでくれた。
「俺はガルア。
この部署にいる奴らのまとめ役であり、この虹獣組の幹部の1人だ。
これからよろしくな」
「は、はい!
よろしくお願いします!」
「さっきは怖がらせて悪かったな。
お詫びにこいつをやろう」
ガルアはスーツの内ポケットから包装紙に包まれたクッキーを何枚か取り出して、私に手渡してくれた。
「好きな時に食ってくれ。
ただし、「情報処理室」に行く時は必ず一つは持ってけよ」
「情報処理室」の扉を開き、中に入る。
モニターや大きなサーバーがたくさんある部屋で、正面には背もたれつきの椅子が置いてある。
でも、そこには誰もいなかった。
誰かがいる気配もない。
、、、今なら情報を漁れるんじゃー
突然背後から首を絞められ、身動きが取れなくなった。
窒息するようなキツさじゃないけど、抜けられそうにない。
「君誰?
ここで何してるの?」
存在に気づけなかった、、、!
もがいていたら、さっきガルアに言われたことを思い出した。
「わ、私クッキー持ってます!」
ダメ元で言ってたら、拘束が解けた。
床に倒れる。
「なんだ新人さんか〜
それならこんなことする必要なかったね。
ごめんね。
普通にバッジ見逃してたよ」
、、、もしかして、あのままもがいてたら殺されてた、、、?
とりあえず立ち上がり、クッキーを一個手渡した。
クッキーを受け取った彼は、猫の獣人のようだった。
どうりで気配を感じなかったわけだ。
猫科の獣人たちは気配を消すのがうまいから、そこにいても存在を認識できない時がある。
黒いフード付きのパーカーに、大きめのズボンを履いている。
「ふーむ、「ガルアの認証」ね」
「、、、?
ガルアの認証ってなんですか?」
「虹獣組の幹部以上の人たちはさ、それぞれ何かしらのお菓子を常備してるんだよ。
種類によって特定の意味を表してるんだけど、ガルアからクッキーを渡されたら、「仲間の証」って意味なんだよね。
僕はそういうのを管理してるの。
そういえば自己紹介が遅れたね。
僕はヴェイル。
情報処理室の管理者兼、構成員情報の管理者兼、虹獣組幹部の1人だよ。
僕だけ他の幹部に比べて役職が一個多いんだよね。
とりあえず、レインに「ガルアの認証」を付与しとくね」
「なんで名前を知ってるんですか?」
「情報管理してるの僕だからね。
構成員の情報はほとんど覚えてるよ」
ヴェイルはキーボードで何かを入力している。
「付与完了。
次からは幹部からお菓子を貰ったら僕のとこまで来てね。
こういうのが増えると色々お得だし」
「何かあるんですか?」
「所持数に応じて食堂で割引がされたり、お菓子をくれた幹部のいる部署に異動願を出すと優先してくれたりと結構便利だよ。
ただし、使うにはそのピンバッジを持っていく必要があるから気をつけてね」
仕事を終えて、部屋に帰ってきた。
とりあえず今日分かったことをまとめる。
•幹部ガルアについて(資料添付)
•幹部ヴェイルについて(資料添付)
•構成員のほとんどが亜人
•構成員用のマンションがある
•傘下の店が多い(資料添付)
•虹獣組の構成員は固有のピンバッジを着用(資料添付)
•情報処理室は多人数での制圧が必要
•虹獣組の庇護下にある団体(資料添付)
•虹獣組が行っている取引のデータ(資料添付)
、、、こんなところかな。
この情報は、まとめて送ることにしよう。
そういえば明日は土曜日だけど、仕事はないらしい。
休日出勤が当たり前になってたから違和感しかないけど、久しぶりの休日を満喫しよう。
私服に着替えて部屋から出る。
久しぶりに外食にでも行こうかな。
「ねぇそこの君、俺たちと遊ばない?」
街を歩いていたら、チンピラっぽい獣人の人たちに話しかけられた。
「えっと、、、」
どうやって断ろうと考えていたら、、、
「レイン、こんなとこで何してんだ?」
聞き覚えのある声が聞こえた。
振り向くと、私服に身を包んだガルアが立っていた。
「ガルアさん!」
チンピラがガルアに睨みを効かせて近づいていく。
「誰だてめぇ!
俺らはこいつに用があんだよ!
とっとと失せろ!」
「失せんのはテメェらの方だ!」
、、、この後、チンピラたち対ガルアのバトルに発展した。
チンピラを倒し終わったガルアが、こっちを向いて話し始めた。
「大丈夫か?」
「は、はい。
助かりました」
「この辺治安悪いんだよな〜
とにかく、さっきみたいなことがあったら逃げろ。
ああいうのは相手するだけ無駄だ。
、、、ところで、どこに行くつもりだったんだ?」
「久しぶりの休暇なので、外で何か食べようかと思ったんです」
「目星はつけてるのか?」
「、、、」
気になったお店に入ってみようと思っていたから、目星は一切つけずに来ている。
「、、、これから俺も昼飯食いに行くんだが、よかったら一緒に来ないか?
さっきの調子じゃ、行く先々で絡まれそうだからな」
、、、これは、ガルアのことについて知るチャンス!
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて、、、」
ガルアについていった先にあったのは、小さなカフェだった。
「ここうちの傘下の店でな、バッジ出すと会計で一割引してくれんだよな。
バッジ、持ってきてるか?」
「はい」
一応使えるかもしれないから、バッジはお財布に入れてきている。
ガルアに連れられて中に入ると、いい匂いがした。
「いらっしゃい、、、
あっガルアさん!
ちょっとぶりですね」
奥から男の人が出てきた。
見た感じ、結構若そう。
「調子はどうだ?」
「おかげさまで経営は順調です。
そちらの方は?」
「最近うちに入ってきた新人だ」
「は、初めまして。
レインです」
「初めまして。
僕はこのカフェのオーナーをしている、ラクルです。
とりあえず、お好きな席にどうぞ」
窓辺の席に座り、ガルアと向かい合う形になった。
ガルアはメニュー表を開き、私の方に向けて置いた。
「俺はもう決まってっから、好きなの選べ」
こういうオシャレなお店に来るのは初めてで、何を頼めばいいのかわからず悩んでいると、
「迷ったらカツサンドを選ぶといいぜ。
ラクルのおすすめでな、かなりうまいんだ」
メニューを見ると、美味しそうなカツサンドの画像があって、値段もちょっと安め。
出費を抑えたいのもあって、これを頼むことにした。
運ばれてきたのは、パンの間にカツとキャベツが挟まれている、ごく普通のカツサンドだった。
一つのバスケットに二つ入っている。
こういうものを食べるのなんていつぶりだろう。
ガルアの方には、ミートソーススパゲッティが置かれていた。
「いただきます」
、、、美味しい。
ちゃんとした料理を食べたのなんていつぶりだろう。
社会に出てしばらくした後は、料理なんかする時間もなくて、コンビニで買ったものを食べたり、インスタント食品を使って済ませていた。
頬に、何か温かいものが伝って落ちるのを感じる。
視界もぼやけている。
「、、、レイン、お前なんで泣いてるんだ?」
気づいた時には、目から涙が流れていた。
「、、、前のとこで、何かあったのか?
俺でよければ話を聞くが」
敵となる組織の幹部に、話すべきじゃないのは分かってる。
でも、話さないといけない気がして、私はガルアに話し始めた。
「私、社会に出て初めての就職活動に失敗して、唯一入ることができたのが前いた組織だったんです。
でも労働環境がひどくて、パワハラや仕事の押し付けは当たり前。
ミスは全部部下の責任で、賄賂も横領も見て見ぬ振りしなきゃいけなくて、、、
仕事も尋常じゃない量で残業は日常茶飯事、帰るのはいつも8時過ぎで、休日返上で働かされて、、、
昼食もまともに取れなくて、家に帰っても料理を作る気力も時間もなくて、、、
、、、普通の料理を食べたのも、久しぶりなんです」
「、、、」
ガルアの方を見ると、悲しそうな目で私を見ていた。
その大きく、強そうな体躯には似合わない、優しい表情で。
「すみません、せっかく一緒に食べているのに、こんな雰囲気にしちゃって、、、」
急いで涙を拭いてもう一度ガルアの方を見ると、明るい表情に戻っていた。
「話してくれてありがとな。
でも安心しろ。
虹獣組はそんな場所じゃねえからな。
、、、後で相談してみるか」
最後にガルアが小声で何か言ったが、聞き取れなかった。
突然、目の前にケーキと紅茶が運ばれてきた。
「どうぞ。
これは私からのサービスです」
「前に言ってた試作品か?」
「はい。
結構いい出来だったので、メニューに入れる前に、お客さんにも感想を聞こうと思ってるんです。
、、、仕事に疲れたら、甘いものや美味しいものを食べて癒されるのも大事ですから」
ティッシュで鼻をかみ、ケーキの皿に載っているフォークを手に取る。
「、、、いただきます」
ケーキは甘くて美味しかったけど、なぜかちょっとしょっぱかった、、、
「今日はありがとうございました」
「こっちこそ、付き合ってくれてありがとな。
そういえば、明日暇か?」
「特に予定はありませんが、、、」
「分かった。
もし迷惑だったら、ちゃんと言えよ」
、、、?
次の日の10時頃、特にやることもないのでベッドで横になっていると、チャイムが鳴った。
玄関のドアを開くと、ギンコが立っていた。
初めて会った時と同じく和服を着ているけど、手にはスーパーのビニール袋が握られていた。
「こんにちは。
ガルアに、「レインはちゃんとした食事をとっていないから、料理を教えてやってくれないか?」と言われまして。
迷惑でなければ、一緒にお昼ご飯作りませんか?」
、、、こういうのは断っちゃいけない気がする。
それに、帰ってくる時間が早くなった今、食生活を少しでも健康的に戻しておかないと業務に支障が出そうだし。
今部屋に怪しいものは出してないから、そういう意味でも大丈夫。
情報は全てパソコンの中にあるし、そのパソコンもカバンの中に隠してある。
「えっと、、、じゃあ、よろしくお願いします」
ギンコはキッチンに立つと、道具を用意し始めた。
「レインさん、食材を袋から出しておいてくれませんか?」
「あっはい!」
スーパーの袋の中には、米、味噌、ネギ、豆腐、鮭の切り身、塩といろんなものが入っていた。
「レインさんは米を研いだ経験はありますか?」
「小さい頃に何回かあります」
「じゃあ、米研ぎをお願いします。
私はその間に味噌汁と焼き鮭を用意するので」
久しぶりに米を研ぎつつ、ギンコと話す。
「その、、、お二人は、どういうご関係なんですか?
先ほどの話を聞く限り、親しい間柄のようですが、、、」
「実は、ガルアと私は小さい頃からの友人なんです。
私もガルアのことを、「頼れる兄貴分」と認識してます。
私がこの虹獣組を立ち上げてからずっと、私をサポートしてくれているんですよ。
多少不器用なところはありますけど、優しいんですよね」
、、、ちょっと昨日のことを思い出した。
「水が濁ってますよ」
話すのに夢中になっていたら、いつの間にか研ぎ汁が白く濁っていた。
濁った研ぎ汁を捨てて、新しい水を入れた。
ご飯を用意して、テーブルに並べる。
「じゃあ、早速いただきましょうか」
「「いただきます」」
健康的なお昼ご飯。
昨日の今日なので、流石に泣いたりしない。
美味しい。
焼き鮭もいい焼き加減で、皮もパリッとしている。
お味噌汁もほっとする味だ。
「普段から、こういう料理はよく作るんです。
、、、意外ですか?」
「あ、えっと、、、はい。
虹獣組の頭をしている人が、私なんかに構うことも、
その、、、こういう普通の料理を作ることも。
なんかもっと、高級食材を贅沢に使ったものを作らせているイメージでした」
顔に出てたかな、、、
「確かに、そういうふうな食事をする人もいると思います。
ですが、私は料理が趣味でして、よく自分で料理を作っているんです。
和風なものも、洋風なものもよく作るんですよ。
それに、、、」
ギンコの声が一転して小さくなり、シリアスなトーンになる。
「敵が送ってきたスパイに毒を盛られたりしていたら、危ないですからね」
、、、!
「ごちそうさまでした。
洗い物は任せてもいいですか?」
「あっはい」
「それでは、また」
ギンコが立ち上がり、お皿をシンクに置いてから私の部屋を出て行った。
「、、、バレてるのかな」
少し不安だ、、、
いつも通り仕事を早く終わらせて、パソコン内のデータ整理をしていたら、
上司に「この資料を情報処理室に届けてくれないか」と言われたので、資料を持って情報処理室に向かう。
もちろんバレないように資料に目を通してから。
情報処理室に入り、ヴェイルを探す。
「ヴェイルさんいませんか?」
「僕はこっちだよ」
ヴェイルがいつの間にか後ろに立っていた。
「何か用?」
「この資料を渡してくれと言われまして」
上司から渡された資料を手渡す。
傘下の店が離反したことが書いてあった。
「、、、ねぇ、これ読んだでしょ」
「!
読んでないです!」
「だって若干紙に折り目がついてるんだもん。
この形状は読んだりしないとつかない折り目だよ」
どうにか切り抜けなきゃ、、、!
「、、、えっと、その、、、」
「ヴェイル、ちゃんと仕事してますか?」
どうしようか悩んでいたら、ギンコが情報処理室に入ってきた。
「ちゃんとやってるよ。
あっそうだ。
ギンコ、この資料この子が読んじゃったみたいなんだよね。
どうしたらいいと思う?」
ギンコが資料をヴェイルから受け取ると、私の方ではなくヴェイルの方を向いた。
「、、、ヴェイル、この折り目は資料の確認の時につく折り目では?」
「、、、あ」
、、、そういえば、私が読む前から折り目がついていたような気がする。
「、、、疑っちゃってごめんね」
「いえ、大丈夫です」
ギンコのおかげでなんとかなった。
「とりあえず、私はこれをヴェイルに渡しに来ただけなので」
ギンコは、渡された資料と一緒に紙袋を手渡した。
「わーいクレープだ〜!」
、、、なんかヴェイルの雰囲気が違う?
「ヴェイルはこういう甘いものが好きなんです。
お金とかにあまり執着しないタイプで、働いてもらうためにはこうやってお菓子を渡す必要があるんですよね。
では、私はこれで」
ギンコが情報処理室から出ていった。
ヴェイルは嬉しそうに紙袋の中からクレープを取り出している。
「そうだ!
お詫びにレインにもこのクレープあげるよ!
二つ入ってたからちょうどいいし!」
、、、いつもと違うテンションのヴェイルに驚きつつも、クレープの入った紙袋を受け取った。
クレープには「お持ち帰り用」というシールが貼ってあって、外にはみ出さないように包装紙で包まれている。
お昼休みに食べてみたけど、今まで食べた中で一番美味しいクレープだった。
休日を含めてわかった情報をまとめる。
•ガルアは相当な強さを持っているため、銃火器等での鎮圧が必要
•傘下の店にガルアと親しげに話すラクルという店主がいる(資料添付)
•ギンコは食事を自分で用意するため、食事に毒を入れることは難しい
•ヴェイルは甘い物で釣ることができる
•ヴェイルは甘いものを渡されるとテンションがおかしくなる(資料添付)
、、、意外と手に入った情報が少ない。
初日ほどの情報量はないけど、幹部に関する情報を手に入れることができたのはいいことかもしれない。
次の日出勤すると、なんだか全体が騒がしかった。
聞き耳を立てていたら、庇護下にあったとある団体が裏切ったとので、「処理」しに行くらしい。
仕事をしていたら、私の所属している部署にも人が来た。
「この中で情報処理に自信がある奴はいるか?」
みんなが私の方を向く。
「私ですか⁉︎」
「だってレインさん仕事めちゃくちゃ早いじゃないですか」
「いつも早く終わらせて俺たちの仕事手伝ってくれるし」
「、、、手伝ってもらえるだろうか?」
、、、これは断っちゃいけないやつだ。
「、、、わかりました」
専用の突入服に着替え、他の人たちと合流する。
大体20人ぐらいだろうか。
その中には、見覚えのある狼獣人がいた。
「おっレインじゃねぇか」
「!
ガルアさん」
いつものスーツとは違い、動きやすそうな服装になっている。
「まさかお前が来るとはな。
とりあえず戦闘は俺たちでするから、しっかりついてこいよ」
「は、はい!」
「後ろからの奇襲は僕が対応するから安心してね〜」
振り向くと、ヴェイルが立っていた。
ちょっと大きめのサイズの服を着ていて、袖から手が出ていない。
「武器は?」
「ちゃんといっぱい持ってきてるよ。
刃物も鈍器も投げ物も銃もたくさん。
ガルアたち用の武器のスペアもあるから、ダメにしちゃったら教えてね。
補充するから」
「じゃ、行くか」
、、、ここ、今気づいたけど時雨組と繋がっているみたいだ。
時雨組の人と鉢合わせしないといいけど、、、
正面はガルアたちが切り開き、後ろはヴェイルがナイフで弾を弾きつつ相手を的確に撃ち抜いている。
こういうのは多少見慣れているけど、血の匂いが充満していてちょっと気持ち悪い。
一通り殲滅し終え、メインコンピュータのある部屋に辿り着いた。
「俺が護衛するから、情報を根こそぎ抜いてくれ」
「わかりました!」
コードは知っているので、どんどん情報を抜き取っていく。
「、、、レインさん?」
聞き覚えのある声に顔をあげると、時雨組で働いていた時の同僚のラフカがいた。
ラフカは私の後輩で、いつも私の仕事を手伝ってくれる、優しい年下の男の人。
珍しく早く終わった日とかは、一緒によく飲みに行っていた。
「どうしてここに?」
「敵襲か!」
ガルアがラフカに銃を向ける。
「待ってください!」
ガルアとラフカの間に立つ。
「、、、何をしてる」
「この人は悪い人じゃないです!
前の組織にいた時の同僚で、、、」
「それが何だ」
ガルアはラフカを鋭く睨みつけている。
「、、、レインさん、なんであなたがそっち側にいるんです?」
しまった!
潜入は機密情報だから、ラフカは知らないんだ!
ラフカの方を向き、小声で耳打ちする。
「今潜入任務中なの。
人質になってもらってもいい?」
「、、、わかりました」
その場はラフカに投降してもらって、詳しい情報を持っている情報源として生かしてもらうことができた。
ただ、ガルアは私に少し、不信感を覚えたようだった、、、
「どうしよう、、、!」
あの行動のせいでスパイとバレてしまったかもしれない、、、
ここで虹獣組を去れば、任務は完遂できたことになる。
でも多分、ラフカは殺されてしまう。
かといってこのことをギンコに話すのもいけない気がする。
どうすれば、、、
チャイムが鳴った。
ドアスコープを覗き込むと、ヴェイルが立っていた。
、、、出ない方が良さそうだ。
「、、、レイン、いないの?
とりあえず、いる体で話を進めるね。
人質に関してなんだけど、あのラフカって人はレインの知り合いなんだよね?
レインから話をして、虹獣組に引き込むことができるなら、彼は大丈夫だと思うよ。
今のところ彼は生きてるし。
それと、、、
、、、改めて調べ直してみたんだけどさ、
レイン、君元時雨組なんだね。
それならあそこで知り合いに会うのも納得がいくよ。
、、、僕の勘だけどさ、君がギンコに正直に秘密を話して、ここにいたいって言えば、受け入れてくれると思うよ。
データとしょっちゅう睨めっこしてる僕が、勘だなんてらしくないけどね。
、、、逃げたいなら逃げてもいいよ。
でも、いつか向き合う時が来るだろうから、気をつけてね。
、、、レインに渡そうと思ってたスイーツ、ここに置いとくから、気が向いたら食べて。
、、、それじゃ、またね」
ヴェイルがドアスコープから見えなくなった。
しばらく怖くてドアを開けられなかったけど、数時間後、私はドアの前に置いてあった紙袋を拾って、中を見てみた。
中には、有名なお店のマドレーヌが入っていた。
決意を固めて、ギンコに会いに来た。
「、、、レインさん、来てくれたんですね」
ギンコは初めて会ったときのような柔らかい表情ではなく、少し険しい表情をしていた。
「、、、あなたの言い分を、聞かせてください」
、、、もう緊張はしていない。
「、、、私は、時雨組の構成員です。
幹部に「虹獣組を探ってこい」と言われて虹獣組に来ました。
、、、一番最初に話した話は、全て事実です。
時雨組は虹獣組よりもずっと真っ黒で、ここが天国だと感じるほどでした。
いままで、私はこのメガネで情報をコピーしていました。
ですが、一度もその情報を送っていません。
、、、こんなことを言っておきながら。
スパイとしてこの虹獣組に潜入しておきながら、こんなことを言うのは間違いだとわかっています。
、、、でも、私はここにいたいです。
ラフカに関しては、私から説得してみせます。
だから、お願いします!」
ここで殺されても、それは私の自業自得だ。
だけど、時雨組に帰りたくない!
「、、、ここで、私があなたを殺すと言ったら、あなたはどうしますか?」
ギンコから、とてつもないプレッシャーを感じる。
「、、、受け入れます。
上からの命令だったとしても、情報を盗んでいたことや騙していたことは、私にも非があります」
「、、、」
ギンコから放たれていたプレッシャーが和らぎ、優しい声のトーンになった。
「、、、実はですね、最初から全部知ってたんですよ」
「え⁉︎」
思わずギンコの方を向いてしまった。
そこには笑顔があった。
「ヴェイルは他の組織の構成員の情報もある程度持ってるんですけど、その中にあなたの情報もあったんです。
あの日、あなたに声をかけた直後に「虹獣組に入れてください!」って言われたのは少し驚きましたけど」
「、、、つまり、そのことを知った上で私を、、、?」
「そういうことです」
「、、、私は、ずっと手のひらの上で転がされていたってことですか?」
「そうです。
、、、さて、では色々と聞きたいことを聞いても?」
「、、、なんでしょう」
「時雨組の情報を話していただいてもいいですか?」
「、、、わかりました。
それで、許していただけるなら」
「許すだって!」
「最初から許してたのにな」
ギンコの後ろから、ガルアとヴェイルが現れた。
「お二人ともなぜここに⁉︎」
「ギンコから一応護衛を頼まれててな。
まぁギンコからお前が時雨組にいたことは言われてたし、泳がせて色々探ってみようっつー感じだったからな」
「あのマドレーヌ食べてくれた〜?
あれ実はギンコが作ってるやつなんだよ〜」
「えっ⁉︎」
情報が多すぎてパンクしそう、、、
「、、、レインさん」
「は、はい!」
「改めて、これからよろしくお願いしますね」
「、、、!
はい!」
その後、時雨組は少しずつ虹獣組によって解体されていき、時雨組の幹部たちの消息は、未だつかめていないという、、、[newpage]
レイン
時雨組に所属していた人間の女性。
今は虹獣組に所属しており、ラフカと一緒に情報処理の仕事をしている。
同年代よりも少し背が低めの、ごく普通の見た目をした18歳。
過酷な労働環境にいたため、事務的な仕事の処理能力が異様に高い。
最近できた趣味は料理。
ギンコ
虹獣組の頭をしている狐の獣人。
銀色の毛並みをした狐の耳と尻尾があり、糸目なので目の色はわからない。
見た目は青年のようで、カリスマ性のある20歳。
基本的に助けを求めてくる相手は分け隔てなく助けてくれる。
趣味は宝石など綺麗な物の蒐集と料理。
ガルア
虹獣組幹部兼クレーム対応部のまとめ役をしている狼の獣人。
真っ黒な毛並みをしていて、目は金色で鋭い形をしている。
ガタイが良く、力も強い22歳。
相手がしてくる接し方によって結構態度が変わり、敵やケチをつけてくる相手には容赦しない。
趣味は飲食店巡りと筋トレ。
ヴェイル
虹獣組幹部兼情報処理室管理者兼構成員情報管理者の猫の獣人。
ダークグレーの毛並みに、丸く赤い目をしている。
体は小さいが力はそこそこあり、技術もある19歳。
知らない人が部屋に入ってきたらとりあえず締めてから考える。
趣味はゲームと物作り。[newpage]
ギンコに事情を話し、時雨組関連が色々と片付いた私は、前と同じように職場に向かっていた。
、、、ギンコには、そこまで責任を感じなくてもいいと言われた。
「あなたは情報を盗んでこそいましたが、それを他の組織に流す等の行動はしていませんでした。
未遂かつ不可抗力であったなら、私はあなたを許しますよ」
、、、正直、ギンコは結構甘いところがある。
でも、それでいて締めるところはちゃんと締める。
だから、みんな彼についていくんだろう。
かくいう私もそうなったし。
扉を開くと、私の机の隣にもう一つ、新しく机が設置されていた。
前と同じように仕事の準備をしていたら、聞き覚えのある声がした。
「レインさん!」
振り返ると、そこにはラフカが立っていた。
「今日からまた、レインさんのお世話になります!」
、、、そういえば、ラフカも私と同じように情報処理が得意だったっけ。
まぁ時雨組のあの業務量をこなしていれば、自然と身につく、、、というか、身についてしまうものだけどね。
「ギンコさんにレインさんと一緒にうちに来ないかって言われちゃいまして、二つ返事でokしちゃいました!」
「、、、ラフカ。
もうちょっと考えてから行動しなよ」
「だってあの状況で拒否ったら確実に殺られちゃうじゃないですか〜
不可抗力ですよ!
それに、レインさんがここにいたいって思うくらいにはここの環境はいいんですよね?」
「そうね。
時雨組なんかとは比べ物にならないくらいにはいい環境よ」
「だったら一層断る理由なんてないですよ!
ってレインさん!
もう始業時刻です!」
「じゃあ、早速仕事を始めましょうか」[newpage]
休みの日になったので、ラフカを連れてラクルのお店に来ていた。
「おしゃれなお店ですね〜」
「とりあえず席に座りましょ」
席に座り、メニューを読む。
、、、あれ?
ラクルが来ない。
耳を澄ますと、小さく声が聞こえた。
「誰、、、助け、、、」
ラクルの助けを求める声が聞こえたので、キッチンを覗いてみたら、戸棚にはまって抜けなくなっている狸が見えた。
足が上を向いていて、ずっとジタバタしている。
とりあえずラフカと協力して、その狸を木箱から引き抜いた。
、、、なんかこの狸の顔、既視感がある。
「、、、あのぉ、、、
そろそろ下ろしていただいても、、、?」
「、、、もしかして、ラクルさん?」
「いやはや、お恥ずかしいところをお見せしてしまいましたね」
料理を食べつつ、さっきにことについて尋ねてみた。
ちなみに私が今日頼んだのはミートソーススパゲッティ。
「さっき狸の姿になっていたのはどういう仕組みなんですか?」
「一部の獣人には種族固有の能力があるんです。
その中でも、狐や狸には変化能力があるんですよ」
「じゃあなんであの戸棚にはまってたんですか?
それも狸の見た目で」
「奥の方に材料のストックがないか探そうとしたんですけど、いつもの姿じゃうまく探れなかったんです。
だから小さいあの姿になって、探していた物もゲットできたんですが、、、」
「、、、詰まって出れなくなったんですね」
「はい、、、
抜いていただけて助かりました」
「、、、バイトとか雇ったほうがいいんじゃないっすか?」