※戦争で片腕を失った犬獣人と、彼を幸せにしたいと願う男のお話。

  ☆

  故郷に戻ったところで、どうしようもないことはわかっていた。

  負傷したこの体では、ただの厄介者扱いしかされないだろう。

  それでも俺は帰ることを選んだんだ。

  ……もう一度、生きて会うことができるかもしれないから。

  俺とあいつが帰る場所は、ここしかないのだから。

  ☆

  この戦争は、我が国が敗北することによって、幕を閉じた。

  「なんじゃ、帰って来たんかい」

  父親の第一声はそれだった。

  血の繋がらない、でっぷり肥えた猫獣人の義父は、上から下までじろじろと俺の体を眺める。

  まるで品定めするかのように。

  「片手まで無くして、まるで使い物にならんじゃないか。畑仕事もできん身体で、無駄飯喰らいになろうと思っとるんか?」

  「……」

  何も言うことができない俺に変わって、唯一血の繋がりのある母親はかばうように言った。

  「お国のために奉仕してきたんだから、仕方ないよ」

  「……ふんっ」

  不機嫌そうに鼻を鳴らし、その場を立ち去る義父。

  その姿が消えるまで見送ると、犬獣人である母親は、そっと俺に近づき抱きしめた。

  「よく生きて帰って来たね」

  その目には涙が浮かんでいた。

  「うん。こんな体になっちゃったけど……」

  「生きてるだけでいいんだよ。本当に良かった……」

  

  ☆

  俺ー犬山大二郎ーが5歳の時、実の父親が病で亡くなった。

  その母をかねてから懸想していた義父が娶ることで、俺の生活は一変した。

  血の繋がらない息子の存在など、疎ましいだけだったのだろう。

  義父の猫村は、まるで俺をいない者として扱うようになった。

  俺の顔を見ると苦々しげな顔をして、学校に通うときも『無駄な金がかかる』とばかりに舌打ちをしてみせるのだ。

  悔しかった。

  それでも、こんな田舎の村では、仕事もない母一人子一人では生きていくことは出来ない。

  そんな義父に逆らうこともできず、母親もまた昔のように大っぴらに俺をかわいがることは出来なかった。

  義父がいないところで、『ごめんね、ごめんね』と泣いて俺を抱きしめるだけ。

  ……いつか大人になれば。

  俺はその思いだけで、この針の筵のような生活を乗り越えてきたのだ。

  いや。

  もう1つ。

  もう1つだけ、俺の心には支えとなるものがあった。

  虎田重義。

  俺の親友でもあり……言い交した相手だった。

  犬獣人としては小柄な俺に対して、虎獣人である奴は肉食獣人に相応しい、大柄な体をしている。

  いつも笑顔で明るくて人懐っこい、俺とは対極にあるような男だった。

  そんな、子供のころからの幼馴染である奴に恋心が芽生えたのはいつからだったのだろう。

  こいつの側にいるだけで、俺は幸せを感じるのだ。

  それが友情ではなく恋だと気づいた俺は、男同士でこんな気持ちになるという事に、我ながら忌避感と戸惑いを覚えてしまったのを今も覚えている。

  だが、あいつも俺に対して同じような気持ちを抱いてくれていたようで、ある時不意に抱きしめられると、『好きだ』と耳元で囁いてくれた。

  『大二郎、俺はお前が好きだ。……なあ、大人になったらここを出て、俺達2人で暮らさないか? 誰も俺達の事を知らないところで、一緒に生きていきたいんだ』

  きっと俺の境遇を考えた上でのその言葉は、涙が出るぐらい嬉しかった。

  俺はこくりと頷くと、その想いに応えるように強くその体を抱きしめた。

  その肉厚な体の感触を、俺は今も鮮明に覚えている。

  俺達は、村の人たちにバレないようにこっそりと愛情を確かめ合いながら、成人になる日を待ち続けていた。

  できるのは人目を気にしながら手を繋ぐことぐらい。

  交わりはおろか、接吻すらもしたことはなかった。

  それでも俺は幸せだったのだ。

  だが。

  もうすぐ成人になろうという18歳。

  この国は大国と戦争を始めてしまう。

  初めは華々しい戦果が報道されていたのだが、それは初めのうちだけ。

  国としての規模の違いがあるためか、すぐに劣勢になり、何の経験もない若者までもが戦争に駆り出されるようになってしまった。

  俺も、重義も。

  悲壮感を漂わせる俺に、幼馴染の虎獣人は言う。

  『大二郎、死ぬんじゃないぞ。俺も必ず生きて帰ってくる』

  すでに戦況は悪く、お国のために命を捧げなければならない、というような風潮さえ蔓延していた。

  生きて帰ってくるなどという言葉を使えば、非国民だと罵られるほどに。

  それでも、重義は言った。

  『俺たちは生き残って、必ず二人で人生をやり直すんだ』

  重義は北での戦いへと赴くこととなった。

  俺は南方へと赴くことになり、そこで左腕を失った。

  そして、戦争は終わったのだった。

  ☆

  「お前、村長の家に奉公に行け」

  俺が帰ってきて一週間。

  夕餉の席で、右手だけで四苦八苦しながら飯を食っていると、ちゃぶ台の向こう側にいる義父が、俺を見て言った。

  「えっ……」

  手から箸がポロリとが落ちる。

  「お前みたいな役立たずでも使ってくれるそうだ」

  義父は俺と目を合わさずに、突き放すように言う。

  「でも……」

  俺よりも困惑した顔をしているのは母親だった。

  「まだ帰って来たばかりなのに……」

  かばうような母親の言葉に、義父は声を荒げた。

  「じゃあ何か? このろくに働けもしない無駄飯喰らいをいつまでも家に置いておけというのか!」

  「そういう訳じゃ……」

  困惑したような母親の声。

  養ってもらっている手前、強くも言えないのだろう。

  ……これ以上、母さんを困らせるわけにはいかないんだ。

  「母さん、俺行くよ」

  「……大二郎」

  涙ぐむ母親を見て、義父はふん、と鼻を鳴らした。

  「明日の朝には村長のところへ連れて行くから、用意をしておけよ」

  言いたいことだけ言うと、義父は立ち上がりその場を立ち去った。

  ☆

  子供のころから慣れ親しんだ小道を抜け、村の中央にある村長の家へと向かう。

  義父の後ろからまるで屠殺される牛のように、俺はとぼとぼと後をついていくことしか出来なかった。

  村の中では一番大きいお屋敷の門をくぐると……。

  「大二郎!」

  駆け寄ってくるのは、俺よりも一回り以上は大柄な猪獣人。

  それは村長である、猪村さんだった。

  もう60は越えているであろう老齢の猪獣人は、目に涙を浮かべながら、大きな体で俺をきつく抱きしめた。

  「こんな……こんな姿になってしもうて……」

  ああ、そうだ。

  ……この人は、子供の頃から俺をかわいがってくれた数少ない大人だったんだ。

  母親が義父と結婚してから、村の大人たちの考えが義父寄りになり、俺を邪険にするようになっていっても、この人だけは分け隔てなく俺に接してくれたんだった。

  そう、この村で俺が強くやってこれたのは、重義とこの人の存在があったこそなのだ。

  「恥ずかしながら帰ってきました……」

  涙ぐむ村長の前で、俺はそう告げることしか出来なかった。

  「いや……良く帰ってきた。命あっただけでめっけもんじゃ。さあさ、うちに上がってくれ」

  「じゃあ、俺はもう帰ってええかの?」

  そんな二人の様子に何の興味も抱かないように、義父は言った。

  「ああ。じゃあ、この子はわしが預からしてもらう。それでええな?」

  「おう。村長に任せたから、煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

  何の興味もないように素っ気なく言うと、猫獣人は振り向きもせずその場を歩き去ってしまう。

  残されたのは俺と老齢の猪獣人だけ。

  「ほら、疲れたろう? ひとまずお茶でも入れてやろう。まずは戦争の疲れを癒さんとな」

  「あ、ありがとうございます」

  母親以外の口から聞いた、初めてのねぎらいの言葉に、俺は涙が出そうになるのを堪えて、何度も頭を下げた。

  ☆

  村長である猪村さんは、この大きな家に1人で暮らしていた。

  奥さんは早くに亡くなって、子供たちも少し離れた家に住んでいる。

  都会に出ている子もいるようだ。

  だから俺は猪村さんと2人きりでこの家に住むことになる。

  『しばらくはゆっくり過ごしたらええ』。

  多少は家の手伝いもしてもらうが、まずは片手に慣れることからだと、猪村さんは言ってくれた。

  それは奉公というよりも、俺の社会復帰のための言葉のように思われた。

  無理なことは何もさせず、まるで子供か孫のようを見るような目で、俺を慈しんでくれる。

  それが嬉しかった。

  子供の頃からの村での辛辣な日々に、戦争での苦痛の日々。

  それがまるで夢だったかのように、俺は幸せだった。

  ……それにしても。

  俺は思う。

  ……猪村さんは、どうしてこんなにも俺によくしてくれるんだろう。

  昔からそうだった。

  この人だけは、まるで実の父親のような優しさで接してくれたのだ。

  今だって、隻腕になってしまいお世辞にも役に立つとは思えない俺を使ってくれている。

  それがどれだけありがたいことか、身に染みて感じられるのだ。

  だからこそ、重義が帰ってきてくれた後の事を思うと、俺は少しばかり気が重かった。

  この優しい猪村さんに別れを告げて、この村から出ていかなければならないのだから。

  確かに今は、ぬるま湯のような生活を過ごせている。

  このまま猪村さんに守られていれば、何の苦痛を感じることもない。

  ただ穏やかな日々の中、俺は暮らしていけるのだ。

  それでも。

  いくら猪村さんの庇護が温かく優しいものだとしても、この村の外での生活が、片手の俺にとってどれだけ辛いものであろうと。

  俺には一緒に暮らそうと言ってくれた、最愛の人がいるから。

  彼の隣にいることが、俺の一番の幸せなんだ。

  ……俺は重義と共に生きたいんだ。

  だが、重義は帰ってはこなかった。

  戦争が終わって、2ヶ月経っても3か月経っても、村に姿を現すことはなかった。

  ☆

  「たまには、酒でも呑むか」

  猪村さんの家の厄介になって半年が過ぎた夜、そんなことを言って猪村さんは一升瓶を持ち出してきた。

  都会に比べて食糧事情がマシとは言え、まだ物資が不足している中、酒を手に入れるのは大変だったに違いない。

  どうしたんですかそれ、と俺が聞くと、『大二郎がここに来て半年の祝いだから』と、細い目をさらに細めて笑ってくれた。

  「あ、ありがとうございます……」

  その言葉に俺は目を潤ませる。

  「そう言えば、大二郎と一緒に酒を酌み交わしたことはなかったなぁ。成人したら2人で吞みたいと思って居ったんじゃよ」

  猪村さんはにこにこと笑いながら、大きな湯呑を俺の目の前に置くと、とくとくと一升瓶からどぶろくを注いでくれる。

  「さあさ、どんどん呑んでくれ」

  「はい……」

  この歳になるまでほとんど口にしたことがなかった酒を口に含む。

  甘酒のような甘さがうまいと感じられた。

  身体がぽかぽかと温かくなり、気持ちがほがらかになってくる。

  いつもよりも饒舌になる俺を見ながら、嬉しそうに猪村さんは笑った。

  「どうして……」

  「うん?」

  その饒舌さが、今まで聞くことができなかったことを俺に口走らせる。

  「どうして、俺にこんなに良くしてくれるんですか? 片手を失った役立たずの俺を……」

  俺の言葉に、猪村さんは微笑んだ。

  「昔から、大二郎のことが気に入っとったんじゃ。親父さんを亡くして辛い目にあってもくじけず頑張っとるお前さんが、わしは好きだったんじゃ。だから、少しでも応援してやりたいと思ってな」

  「あ、ありがとうございます……」

  その言葉は、涙が出るほど嬉しかった。

  ……ちゃんと俺の事を見てくれてる人がいたんだ。

  「なあ」

  漬物を肴に、2人で一升瓶を空にする頃、ふと猪村さんは俺に尋ねてくる。

  「大二郎はこの先、どうするつもりなんだ? ずっとここでわしと暮らすのも悪くはないぞ?」

  その言葉に、俺は一瞬戸惑う。

  だが、酔いのせいもあるのだろう、口からポロリと本音が漏れてしまう。

  「どうしても、会いたい奴がいるんです」

  それを聞いた猪村さんは穏やかな口調で言った。

  「重義のことか?」

  「……はい」

  ……なぜこの人がそれを知っているんだ?

  そう思いながらも、気づかれているのならと、俺の口は止まらなかった。

  「あいつと約束したんです。この村を離れて、一緒に暮らそうと」

  その言葉からは、俺と重義の関係がばれてしまうかもしれない。

  男同士でありながら、お互いを恋い慕っていると。

  それでも、俺の口は嘘をつくことができなかった。

  酒のせいもあるが、俺を大事にしてくれる猪村さんに正直な気持ちを伝えたかったのだ。

  

  「そうか、そうか」

  頷く猪村さんの眼は優しかった。

  「あいつが、好きなのか?」

  「……はい」

  ☆

  生まれて初めて酒を呑んで、俺はぐでんぐでんに酔っぱらってしまった。

  「あ……」

  いつの間にか俺は眠ってしまったようで、気がつくとその体は布団の上に横たえられていた。

  

  「起きなきゃ……」

  身を起こそうと動かすが、俺の体は言うことを聞かない。

  「なに、これ……」

  

  体が痺れたように力が入らない。

  慌てる俺の目の前に、褌だけを身に着けた猪村さんが姿を現す。

  その体は、老齢とは思えないほど、がっしりとしていた。

  脂肪に包まれてはいるが、着物の上からではわからなかった筋肉質の分厚い体。

  その股間は、褌で隠されていても、いきり勃っているのは一目でわかるほどだった。

  俺の逸物なんかとは違う、恐ろしいほどでかい肉棒。

  「猪村さん……」

  「身体が動かんのか?」

  「えっ……」

  俺が異常を訴えようとすると、先回りして猪獣人は聞いてくるのだ。

  「それはそうじゃろう。さっきの酒に少しばかり痺れ薬を混ぜさせてもらったんじゃ」

  「……」

  にこにこと笑う猪獣人。

  その言葉と笑顔のギャップに、俺は言葉が出ない。

  「なんで、そんなこと……」

  「決まっとるじゃろう? お前さんがわしから逃げ出そうとするからじゃ」

  「逃げ……出す?」

  ……何の、ことだ。

  「言っておったじゃろう? 重義とともに、この村を離れて一緒に暮らすとな」

  「それは……」

  猪獣人は唇をゆがめた。

  それは笑顔なのに、とても冷たい表情に見えた。

  「そんなこと許すわけないじゃろう? お前はわしが買ったんじゃ」

  「……買った?」

  どういう……。

  「そうじゃ。猫村の親父から大枚はたいてな」

  何を言っているのか、俺には理解ができなかった。

  「なんで、そんなことを……」

  猪村さんの瞳の奥には、狂気が隠されていた。

  「わしがお前さんのことが好きだからに決まっておろうが。小さい頃から目をかけてやったのはそのためじゃ」

  「す……き……」

  それはどういう……。

  「その愛らしい顔を、幼い体をかわいがってやりたかった。わしの逸物を身体がへしゃげるほど叩き込んで、雄汁をその腹が弾けるほどに満たしてやりたかった。その妄想で、どれだけせんずりを掻いてきたことか」

  「……」

  そこには、俺の知っている優しい猪村さんの姿はなかった。

  ただ劣情に駆られた、見知らぬ猪獣人の姿しかなかった。

  「お前が虎田の息子を好いているのはわかっていた。村での仕打ちもあったから、いずれ2人でこの村を離れるであろうこともうすうす気づいておったんじゃ。……だが、戦争でお前さんは片腕を失い、この村に帰ってきた。そして、虎田の息子はいない。絶好の機会だと思わんか? わしが、お前さんを手に入れるためのな」

  「……」

  「だからわしは猫村の親父に話を持ち掛けたんじゃ。お前さんを妾として売ってくれるようにとな。……あの親父は、喜んでお前さんをわしに売ってくれたよ。役立たずを処分出来てありがたいと感謝しておった」

  「……」

  だからあの時、義父は煮るなり焼くなりと言ったんだ。

  きっと俺が村長の慰み者になることがわかっていて、そんなことを言ったんだ。

  「いやだ……」

  俺は子供のように首を振ることしかできない。

  我知らず瞳からは、涙があふれ出ていた。

  「いやだいやだっ! そんなこと……」

  「そうそう、母親もちゃんとそれを知っとったようじゃぞ。自分の息子とはいえ、いつまでも役に立たない息子を家に置いておくわけにはいかなかったんじゃろうな」

  「ああ……」

  目の前で、俺の世界が音を立てて崩れていく。

  

  「大丈夫じゃ。お前さんにはわしがいる。男同士だからと言っても、誰にも文句は言わさんよ。わしがずっと、お前さんの面倒を見てやるからな」

  猪獣人の手には、見慣れない注射器が握られていた。

  「そうは言っても、なかなか現実は受け入れられんじゃろうからな。素直になれるように、いい薬を入れてやろう」

  「なに……それ……」

  現実が理解できない。

  これが現実だとしたら、今まで俺が生きてきた世界は、何だったんだ。

  「これはなかなか高かったんだぞ。お前を気持ちよくするためだけに仕入れたんじゃ」

  「やめ、やめてください!」

  痺れた身体で必死に逃げようとするが、身をよじることすらできなかった。

  猪獣人はたやすく俺の腕を抑えると、その切っ先を滑らせるように押し込んでいく。

  「あっ」

  チクっとした痛みとともに、体の中に冷たい液体が流れ込むのを感じた。

  それは体に広がっていくと、途端に全身を熱く火照らせてしまう。

  身体が興奮して、敏感になっていくのがわかるのだ。

  心臓が強く脈打っているのがわかる。

  ……怖い。

  風が皮膚に当たるだけで、とろけるような気持ちよさに襲われてしまう。

  自分が自分でなくなってしまうようだった。

  「……ひぃっ!」

  猪獣人の指先が、ざらり、と俺の頬を撫でた。

  たったそれだけなのに、猪特有の針金のような硬い毛が、とてつもない快感を俺に与えてしまう。

  「かわええのぉ。……そばにいるお前さんを抱きたくて、この半年わしがどれだけ我慢したことか。金玉の中の雄汁が煮えたぎるほど我慢したんじゃぞ」

  「やめて……」

  「やめるわけなかろう? 誰にも捧げていないこの処女穴をわしにたっぷり堪能させておくれ」

  そう言いながら俺の服を脱がせると、その太い指先を俺にケツに突き立てる。

  ぐじゅりっ。

  「んんんっ!」

  初めて異物を挿入されるというのに、俺のケツはそれを当たり前のように咥えこんでしまう。

  「薬がよく効いとるようじゃの。初めてとは思えんほど緩んでおるわい」

  猪獣人は、ほくそ笑んだ。

  「気持ちいいじゃろ?」

  俺は否定をするように必死に首を振る。

  でも、その通りだった。

  その太い指が腸壁をえぐるたびに、声が漏れそうになるほどの快感が脳天を突き抜けるのだ。

  「もっとええところをさわってやるからの。ほれ、ここはどうじゃ?」

  探るような指先は、俺の逸物の裏辺りで動きを止めると、その場で緩急をつけた刺激を加え始める。

  くちゅっ、くちゅっ、くちゅっ、くちゅっ。

  クルミのようなしこりのあるそこは、快楽の源泉だった。

  押せば押されるほど、精を漏らしてしまいそうになる快感に襲われてしまうのだ。

  俺の体は小刻みに震え、頭の中は真っ白になる。

  「や、やめてくだ……ああああっ!」

  俺は耐えがたい快感に怖くなり、力の入らない手で畳を掻きむしる。

  ただただ、気持ちよかった。

  指先が小刻みに動くだけで、体が痙攣してしまうのだ。

  今までの人生で感じたことがない快感の嵐。

  それに揉みくちゃにされて、俺は翻弄されることしか出来なかった。

  どぷ、どぷ。

  気づかないうちに、俺の逸物からは子種がこぼれてしまっていた。

  「おうおう、たっぷり漏らして。気持ちよかったんじゃな?」

  猪獣人は嬉しそうに笑うと、それをすくい取り、うまそうに舐めた。

  「若者の精汁はやっぱりええのぉ。股間がみなぎるわ」

  そう言うと、じゅぷりと指を抜く。

  俺はその姿を呆然と見上げることしか出来ない。

  「そろそろええかのう」

  猪獣人は、はらりと褌を取り払う。

  「……」

  ……すごい。

  思わず口から漏れそうになるほど、その逸物はすさまじい威容を見せつけた。

  大人の腕と見まがうほどの長大な逸物は、淫水焼けで赤味などまるでない、ただただどす黒い色合いをしていた。

  竿には太い血管が縦横無尽に走り、どくどくと脈打つのが目に見えて分かる。

  我慢汁でてらてらと光る亀頭は、松茸のように肉厚の雁が大きく張り出しているのだ。

  あんなものをぶち込まれてしまえば、俺のケツは壊されてしまうに違いない。

  ……それでも。

  薬で狂わされた俺の体は、あの肉杭が欲しいとわなないてしまうのだ。

  指の1本だけで、あれだけ気持ちよかったのだ。

  あれだけの逸物にえぐられれば……。

  正気を保つことなどできないかもしれない。

  それでも、俺の体と頭は、その快感を望んでいるのだ。

  ……駄目だ。

  それでも、俺の心は必死に声をあげる。

  ……俺には、重義がいるんだから。

  俺はあいつを待たないといけないんだ。

  「やめて……ください。……お願い……ですから……」

  途切れ途切れ口を開きながら、俺は猪獣人に懇願する。

  俺の体は、将来を誓い合ったあの虎獣人のものなのに。

  だが、猪獣人は俺の哀願に笑顔で答えた。

  「心配するな。わしがすべて忘れさせてやる。嫁さんを狂うほど泣かせ続けた逸品じゃ。今日からこれがお前さんだけのものになるんじゃぞ」

  「駄目、駄目だから……あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!」

  ずちゅんっ!

  情け容赦など、そこにはなかった。

  凶悪な逸物は、ただ快楽を貪るために、俺の肉壺をこじ開け、埋め込まれたのだ。

  「やだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」

  びしゃぁぁっ!

  重義のために守ってきた処女を散らされたというのに、俺はその衝撃で潮を噴いてしまう。

  それほどまでに、挿入の快感はすさまじかった。

  薬のせいで敏感になった腸壁を、その巨大な肉杭が余さずごりごりと刺激していくのだ。

  目の前がチカチカと光り、何も見えなくなる。

  

  「んがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

  口を大きく開けないと、身体が裂けてしまいそうな錯覚に陥るほどに、その肉棒の大きさはすごかった。

  ずるずるずるっ!

  その張り出した雁首が、無理矢理に肉襞を押しのけ、貫いていく。

  「ひぎぃぃぃぃぃぃぃっ!」

  指での刺激と違い、身体を壊されるほどの衝撃を与えられているというのに、俺は少しの痛みも感じられなかった。

  そこにあるのは、闇を溶かしたような真っ黒な快楽の海。

  俺はそこに浸りながら、体全体で射精をするような快感を何度も何度も繰り返し味わうのだ。

  ごりっ、ごりっ。

  「んあああああああああああああっ!!」

  抜き差しされるたびに、この体が猪獣人の逸物に慣らされていくのがわかる。

  ……重義のものなのに。

  それでも、この快楽を拒むことなど、できるはずもなかった。

  

  「もっと奥まで入れてやるからな。気持ちいいぞぉ」

  淫らな笑みを浮かべた猪獣人、そう言うと、俺の体を掴み、乱暴に腰を突き入れた。

  ぐちゅんっ!

  「あひぃぃぃぃぃぃっ!!」

  快感が一斉に俺の体に押し寄せる。

  身動きできないほどがっちりと押さえ込まれたまま、ずぶり、と肉壁が快楽に裂けていく音がした。

  「……っ!」

  声にならない喘ぎ声。

  身体が壊されていくのがわかるのに、絶頂に達することしか出来ないのだ。

  体に力が入らない。

  まるで陸に上げられた蛸のように、ぐにゃぐにゃになった体。

  その中心に1本、剛直の肉杭が俺を支えるように突き刺さっているのだ。

  「気持ちいいか?」

  その大きな体は俺を包み込み、優しく囁いた。

  肉厚な体に抱きしめられると、すべてを任せてしまいたくなるほどの安心感に襲われてしまう。

  「なあ、接吻するか?」

  でも、駄目だ。

  俺は口を寄せてくる猪獣人から、必死に顔を反らそうとする。

  ……せめて。

  せめて口づけだけは。

  身体は許しても、口づけだけは重義に残しておきたかったのだ。

  「なんじゃ、まだあいつに操を立てるつもりか」

  そんな俺の姿を見て、猪獣人は憐れみ混じりの言葉を投げかける。

  「いくらあいつを待っても無駄だ、虎田の息子はもう、戻ってこんよ」

  猪獣人は平然と言う。

  「あいつは、死んだんだからな」

  ……。

  その言葉に、俺の頭は真っ白になる。

  「そんな……違う! そんなこと……」

  「やはり知らんかったのか? あいつの行っておった北の戦線が大敗したことを」

  「え……」

  知らなかった。

  「あの国は苛烈じゃからな。ほとんどの者は虐殺され、残った者もすべて捕虜として氷しかないような極寒の地へ奴隷として強制連行されたのじゃ。逃げ延びたものなど、まずおらんとの事じゃ。……半年も経った。あいつが生きて帰ってくることはもうないじゃろう」

  「嘘だ、嘘だ……」

  「嘘など言わんよ。お前さんには、もう頼る者はおらんのじゃ。……わし以外を除いてはな」

  「あ、あ……」

  涙がぽろぽろとこぼれだす。

  そんな馬鹿な……。

  すがるようにそう思う一方、心のどこかにある冷静な部分が、猪獣人の言葉を受け入れてしまう。

  ……だからいつまで経っても重義は帰ってこなかったんだ。

  寒々しかった。

  心の中がぽっかりと開いてしまったように。

  ……もう、俺は1人なんだ。

  空虚に空いてしまった胸の穴を塞ぐように、猪獣人は俺の耳に囁く。

  「大丈夫じゃ。お前さんにわしがついとる。わしならずっとそばにいてやれるぞ」

  ……ああ。

  誘うようなその言葉に、俺はすがりつくように抱きついた。

  「よしよし」

  そう言いながら、近づいてくるマズルを、俺は避けることなどできなかった。

  どうして避けることが出来よう。

  俺にはもう、この人しかいないのだから。

  ぬちゅり。

  唇が重なり、舌が差し込まれる。

  猪獣人との接吻は、狂いそうにあるほど気持ちよかった。

  「そら、もう一度動いてやるからの。たっぷり感じて泣けばいい」

  ぐちゅんっ、ぐちゅんっ!

  再び動き出した逸物は、先ほどまでとは違う、激しさを持っていた。

  すでに自分の雌になったと確信しているのだろう。

  猪獣人は、乱雑なほどの動きに変えていくのだ。

  でも、それが気持ちよかった。

  俺は堪えることもせずに、その快楽を享受してしまう。

  もう、それしかなかったから。

  がちゅん、ぐちゅり、ごちゅん、ぐちゅん、ぐじゅり、ぐじゅっ、ぐじゅっ、ばちゅん、ばちゅん、がつんっ、ぐじゅりっ、ぐじゅぐじゅぐちゅぐちゅ、ぐじゅりっ、ぐじゅりっ、ぐじゅりっ、ぐじゅりっ!

  雄を求めてわななく肉襞を壊すように貫くと、また引き抜き、容赦なく逸物を叩きつける。

  身体が潰れるほど歪んでも、容赦などしない。

  これは己の雌を調教する儀式なのだ。

  「いやぁぁっ! ああああああああああっっ!!」

  あまりの快感に、脳が壊れていくのがわかる。

  それでも、俺はその感触が心地よかった。

  もういいのだ。

  何も考えず、この快楽を受け入れるだけで。

  もう、いいから……。

  がつがつがつがつがつがつがつがつがつがつがつっ、がつんっ、がつんっ、がつんっ、じゅちゅじゅちゅじゅちゅじゅちゅっ、じゅるり、ずるり、ずるり、がつんっ、がつんっ、がつんがつんがつんがつんっ、がつがつがつがつがつがつがつがつがつがつがつ!

  「大二郎っ! イクぞっ、イクぞっ、イクぞぉぉぉぉぉっ!!!」

  どりゅりゅりゅりゅりゅっ!

  「ん”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ””あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ””あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ””あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ””あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!」

  俺の肉襞に爆発したような衝撃が走る。

  洪水のような大量の雄汁に、一瞬で俺の腹は膨れ上がる。

  猪獣人の子種で満たされた俺は、もう何も考えることなどできなかった。

  ただただ幸せだったから。

  もう何も考えたくない。

  ただこの感触に浸っていたい。

  ……アア、モウ俺ニハコノ人シカイナインダ。

  ……俺ノ居場所ハココニシカナインダ。

  「おい、大二郎、大二郎」

  「……」

  「……なんじゃ、おかしくなってしもうたんか」

  「……」

  「大丈夫じゃ。お前がどんなになったって、わしは大事にしたるからな。ええベべ着せて、飯も喰わせて、毎日抱いて、お人形さんみたいにかわいがったるからな。……ほら、もっとじゃ。もっと気持ちよくしてやる、その身体がわしの子種でふやけてぐずぐずになるまでかわいがってやるぞ。もっともっと、わしを楽しませておくれ」

  ★

  「あの、猪村さんいらっしゃいますか!」

  門をくぐり、開かれたままの玄関から顔を覗かせる一人の虎獣人。

  くしゃくしゃの兵隊服に身を包んだままのまだ年若い男は、我慢できないように大きな声で、家の奥へと声をかけた。

  「虎田です! 虎田の息子です。この度、戦争から帰ってきました! ここに大二郎がいると聞いて……」

  それは死んだと思っていた、大二郎の幼馴染である虎田重義だった。

  ……生きていたのか。

  わしは純粋に驚く。

  報道では、あの北の地から逃げ延びたものは、1人もいないと言っていたのに。

  この虎獣人は、あの過酷な戦争を生き延びて、捕虜になることもなく帰って来たのだ。

  最愛の大二郎に会うために。

  猫村の家から大二郎の居場所を聞いてきたのだろう。

  きっと実家にも戻らず、帰ってきたその足で、うちに尋ねてきたのだ。

  ……だが、もう遅い。

  大二郎は、わしのものになったのだから。

  

  「大二郎?」

  土間から家の中を見回しながら叫んでいた彼は、やがてその片隅にひっそりと佇む犬獣人の姿を目に留める。

  「……」

  上がり框に腰を掛け、黙ったまま人形のようにぽつんと座る大二郎。

  「……こんなところに! 大二郎、大二郎!」

  慌てて駆け寄り、その大きな手で、犬獣人の体を掴み、揺する。

  「……」

  だが、大二郎は何も言わない。

  ただ子供のようにあどけなく微笑んだまま。

  愛しい人を目の前にしているはずなのに、その目は何も映していなかった。

  「大二郎、どうしたんだ! 俺だ、重義だ! 大二郎!」

  その反応のなさに怯えるように、虎獣人は何度も何度も体を揺する。

  「おいおい、うちの子に乱暴してもらっては困るなぁ」

  ……もうええだろう。

  わしはそう声をかけながら、物陰から顔を出した。

  「猪村さん! これは……」

  獰猛な牙を剥いて、噛みつくように問いかける虎獣人に、わしは笑って見せた。

  「困るなぁ。わしの大事な妾にさわってもらったら」

  「妾……」

  平然と言うわしの言葉に、奴は顔を強張らせる。

  しかし、わしの姿を見て嬉しそうにほほ笑む大二郎の顔は、その言葉が真実だと虎獣人に如実に伝えているのだ。

  「そんな馬鹿な……!」

  「嘘を言うても仕方ないじゃろう? こいつはあの戦争で心を病んでしまったんだよ。だからわしが預かって、妾としてそばに置いておくことにしたんじゃ」

  「そんな……」

  「男同士じゃが、こいつもそれを望んでいる。見ればわかるじゃろう?」

  わしがそう言って大二郎に顔を寄せると、甘えたような表情で、こいつは口づけをねだった。

  わしはにやりと笑うと、虎獣人にみせつけるように、たっぷりと接吻を見せつけてやる。

  舌を絡めて、唾液を流し込んでやると、喉を鳴らしてそれを呑み込んでみせる。

  こいつの眼にはもう、わし以外のものなど映りはしないのだろう。

  「なんで……こんなことに……」

  最愛の男の変貌に、驚きを隠すことなどできず、その場にへたり込む虎獣人。

  わしはそんな彼に、冷たく言い放つ。

  「ほら、もうええじゃろ。お前さんの大事な男はわしのもんになったんじゃ。……さて、今からこいつをかわいがってやらんといかんからな。帰った帰った」

  「……」

  その言葉に、夢遊病者のようにその場を後にする虎獣人。

  彼がこの家に尋ねてくることは、もうないだろう。

  甘えるように寄りかかる大二郎を抱きしめながら、わしは思う。

  ……これで、こいつはわしだけのもんじゃ。

  「ずっと昔からお前を手に入れたかったんじゃ。いつまでも愛してやるからな。大好きじゃぞ」