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【ファンボ】 半獣の番

  半獣の番

  ぱちぱち、と火の中に躍る枝のはじける音が聞こえる。

  立ち昇った煙は、夜の中空へと程なく消えていった。

  炎をじっと見つめながら、僕は疲れた身体を火に預けて。質素な食事をとっていた。

  揺れる炎を見ながら、時折。向かい側に座っている相手へと視線を向ける。

  ともすれば、黒い闇の中に紛れてしまいそうな、焦げ茶色の被毛をして狼の顔がある。白い狼である僕とは、色にせよ、それ以外にせよ。随分と様子が違っていた。

  「疲れていないか、カルフォ」

  「大丈夫です」

  [uploadedimage:24650123]

  こげ茶の狼は、そんな風に僕を気遣ってくれる。

  「少し、寒くなってきましたね」

  「そうだな。また、冬が来る。お前の計画では、もう少し北上するのだろう? 寒さは、大丈夫なのか」

  「そうですね。旅の間で、大分慣れはしましたけれど」

  「無理が出るようなら、早めに言え。温かい南に行くにせよ、大都市に戻るにせよ、思いのままだ」

  「ありがとうございます、ギリアムさん」

  ギリアム、と僕が呼んだ焦げ茶色の狼は、それで少し首を傾げる。二年以上の旅を経て、それが多少の照れ隠しを孕んでいる事を、理解できるようになった。

  「でも、こんな時だからこそ寒い地方では物資を必要としている人も居ます。それは商機でもあり、また新たな縁を繋ぐ上でも大切だと僕は思います」

  「……そうだな。なら、風邪を引かないように、温かくして寝る事だ。前みたいに道中で倒れられても、困る」

  「すみません」

  一度、旅の途中で倒れた事があった。体調が少し悪いかな、なんて思ってはいたけれど、無理をして先を急いで。結局あの時は、ギリアムさんが一日中僕の看病をしながら、

  野宿をし、周囲の警戒をし。朝になれば、そのまま僕を近くの街まで背負ってくれたのだった。

  迷惑を掛けられない。そんな浅い思考の果ての、更なる迷惑だった。反省している。それからは、ギリアムさんの助言は今まで以上に胸に留めるようになった。

  ギリアムさんは、傭兵だ。それも、かなりの腕前の。

  商人である僕が雇うにしては、本来ならば贅沢過ぎる程の凄腕。

  ただ、そんなギリアムさんの腕に惚れ込んで、商人としての旅をはじめたばかりの僕は必死に頼み込んだのだった。おかげで、旅の方はすこぶる順調だった。

  一人前の商人として、認められるための旅。

  それが、僕の旅の理由だった。一口に商人と言っても色々あるけれど、僕の場合は大金を転がして悠々と大口の取引をするタイプ……には程遠く。もっぱら自らの足で

  商材と、そして取引相手を求める。いわゆる旅商人と表現する方が近い業態だった。無論、市場にて細々とした商いを営むのもまた選択肢の一つではある。ただ、僕は

  世界を旅するのに憧れていたし、そこで暮らす人々にも興味があった。

  「自らの足で出向かなければ、そこにどのような商機があるのかわからない事もある」

  父や祖父、親戚からは口が酸っぱくなる程にそれを言われ続けてきた。そんな訳で、大商人ではないけれど、うちは代々そうした商人の家系なのだった。そうして僕は、

  今までは親類、あるいは信頼できる商人に同行する形でしか外に出た事はなかったけれど、今回初めて自分だけの旅をはじめたのだった。

  この旅を終えれば、晴れて父や祖父にも認められる立派な商人となれる。もっとも、厳密に何を成せば認められるか、とか。そういう訳でもない。旅商人というのは、

  当たり前の話だが商品と相手を探して西から東へと奔走する存在だ。つまり、金目の物を持ったり、持っていなくてもそういったものに詳しい、伝手がある。そういう存在。

  故に、命を狙われる事もあれば、かどわかされる事だって珍しい話でもなかった。また商人というのは移動中はまだしも、商いをする場合にはそれなりの装いというものも

  求められる。まあ、ぼろきれを身に纏っている奴を商人だとみて話しかける奴は居ないし、儲け話を持ち込む奴だっていないって訳だ。ただそれは翻って、商人としての

  活動をしている際に良い鴨として見咎められる事をも意味していた。

  そのため、商いを通じて世界中を旅し、生きていられれば上出来。そんな話になる。無論街の中に引きこもって誤魔化す事もできなくはないが、そんな事をして認められた

  所でその後旅商人としては到底やっていけないだろう。自分の足で旅を続けて、培った知識と目にて商品を探し、それを欲しがる人の手元へ渡す。物と物との仲介人。僕の

  理想の商人像とは、そういうものだった。ただ、現実は厳しい。この旅の試練に身を乗り出して、帰ってこなかった者も多かった。もっとも、そのすべてが命を落としたのかは

  わからないし、どこかで腰を落ち着けて商いをしたり、別の仕事をしたり。つまりは便りをよこさずに好き勝手やっている奴らもまあそこそこにいるだろう。

  僕としては、きちんと旅商人としての責務を果たしては、家族に認められた上で商人をしていきたいところだけど。

  そんな訳で、僕の旅には護衛が必要だった。無論、最低限の身を守る術は身に着けている。ただ、余程の腕前。それこそ一人で数十人を叩き潰せるような、規格外の化け物で

  ない限りは、到底一人旅なんてできるものではなかった。なまじ身一つであるというのならばまだしも、金目の物を持っているかも知れないのだから、当然盗賊たどなんだのには

  つけ狙われる。ただ、護衛をつけたいといったところで、それもまた容易いものではなかった。

  一口に傭兵といっても、色々ある。また、雇い方というのも。大人数を雇い、大人数で移動をする。そういうやり方もある。これはもっぱら、それなり以上の商人が隊商を組んで

  移動する時のやり方だ。運ぶ荷物の量も多く、商人と護衛という単純な二種類の者達に留まらず、それらに奉仕する者、また巡礼者などが金を払い同道したり、荷運びの奴隷や動物、

  規模にもよるけれど小さな一つの街が移動をしているかと思ってしまうようなものもある。ただ、それは僕が求めているものとは違っていた。自らの足で出向き、小さな商いと縁を

  大切にする。それには、大人数では何かと不都合が多いのだ。大きいが故に、採算がとれる場所にしか行くことができないし、比較的安全で、街が近いところしか通る事ができない。

  それならば僕自身が護衛を探し、その相手を雇用するよりも、そこにもぐりこんだ方がずっと早いというものだった。

  そのため、僕が求めているのはもっと少人数で進む事ができる。つまりは凄腕の傭兵の存在だった。

  ただ、これはこれでいざ求めたところでそう易々と護衛をしてくれる傭兵が見つかるかというとそうでもなかった。

  まず、最低限その相手が信用できる相手でないといけなかった。そうでないとお金を払って、二人きりになった途端に切り殺される、なんていう危険がない訳ではなかったし、

  なまじ少人数であるので、賊と遭遇した時だってきちんと戦ってくれるのか、寝返ったり、逃げたりしないのかと気を揉む必要もある。

  そうして様々な条件をクリアした傭兵が居たとして、雇うのにはそれなり以上のお金は必要だし、仮にお金があったとしても、そんな凄腕の、仕事を選ぶ立場である傭兵が、商人の

  卵でしかない僕なんかに果たして大人しく雇われてくれるのか……。数えあげればきりがない程に、求める相手の条件は厳しかった。

  だけど、奇跡は起きたのだ。

  どんな傭兵を雇うべきかと思案している僕はある時、護衛もまだつけていないのに、半ば賊に近い酔漢に小さな町で絡まれた。無論、正面切って戦うような真似はしない。致命傷を

  受けてしまったら、商人どころか人生が終わってしまう。仕方なくその場で売ろうと思っていた商品は諦めて、全力で逃走しようかと思っていた矢先に。今目の前で火の番をしている

  ギリアムさんに助けてもらったのだった。暗がりから闇が形をもったかのようにぬっと現れた巨漢の傭兵。腰に佩いている長剣は僕よりも少し短めなくらいの、つまりはかなりの

  大物で。一目見て、僕にせよ僕から商品をふんだくろうとしていた酔漢の方にせよ、これを相手にするのはあまりにも分が悪い、と悟る程だった。

  「大丈夫か」

  酔漢の不意打ちで殴られたために、足取りがおぼつかない僕を出会ったばかりのギリアムさんは気遣い、そのまま宿まで送り届けてくれた。

  この人しかいない。

  僕は酔漢に殴られて傷めた身体の事も何もかも忘れて、ギリアムさんに傭兵になってほしいと。次の日お礼を言いにいった矢先、全力で頼み込んだのだった。そもそも助けてくれた

  のだから、それなり謝礼をふっかけられてもなんの不思議もなかったのに、ギリアムさんは特にそういう事もしなかった。

  「昨日今日会ったばかりの俺に、ともすれば命を託す事。後悔はしないな?」

  僕の熱意に、最初は戸惑い、断りの返事をしていたギリアムさんだったけれど。決して引かない僕の態度を見て、最後にはそう口にして、まっすぐに僕を見つめた。

  僕はそれに力強く頷き、その日から僕の一人旅は、ギリアムさんとの二人旅に変わったのだった。

  とはいえ、ギリアムさんの実力のすべてを僕は知っていた訳ではなかった。ギリアムさんが提示してきた金額は、傭兵に対する謝礼としてはそれなりの額だったが、僕としては

  払えない金額ではなかった。元より護衛を雇わない選択肢は無い旅である、その程度の資金はあって当然。ただ、そんなギリアムさん一人で本当に事足りるのかという心配はあって、

  最初はもう一人雇うべきかと思案もしつつ、出会ったのは小さな街。めぼしい人物もおらず次へと旅立ち、その道中でギリアムさんの実力を思い知る事になる。

  あまりにも強かった。

  ……そんな一言で片づけるのは失礼かも知れないけれど、事実だった。夜盗に襲われても、獣に襲われても、ギリアムさんは顔色一つ変えずに剣を閃かせ、あっという間に制圧

  してしまう。それだけではなく、傭兵として培った様々な知識も、商人としての知識を蓄えている僕が舌を巻くほど持っていた。方向性が違うとはいえ、普通の相手と話したら知識量

  では僕は大抵勝ってしまう。それは当然の事だ。様々な事を学ばなければ、自らの足でどこに行ったとて、価値あるものを見定める事はできないのだから。そういう意味で、ギリアム

  さんの持つ傭兵の知識は、また違った視点でありながらも、時には僕の商売に活かせる物も非常に多かった。こちらの点でむしろ謝礼を払いたかった程だ。

  傭兵、というと粗野なイメージがあるのかも知れないが、実際は違う。無論駆け出しの傭兵は別だけど、長年傭兵として生きてきた人物というのは、知識にせよ、そして危険を。死の

  香りを嗅ぎ分けることのできる、嗅覚に非常に優れていた。何度か、ギリアムさんが戦闘を避けようとする場面もあった。そういう時、あとになってわかるのは、いくらギリアムさんとて

  僕を守りながらでは限界があるのだという事。そしてそれを的確に判断して、避けているのだという事実だった。

  一流の傭兵は、それこそどこかの国に属せば軍の隊長などに就けるくらいの能力を有しているのだと。僕は思い知った。

  それから、それから。ギリアムさんはそれだけではなくて。僕の商人としての夢や、商人としての立ち居振る舞い。そういうものに対する理解も深かった。おかげで旅は順調で、一年、

  二年と時は流れて。気づけば申し渡された期限である三年目ともなっていた。その間、僕は何度もギリアムさんに契約の延長を願い、ギリアムさんもそれを受け入れてくれた。都度

  支払いは発生するが、そんなのは僕とギリアムさんのたった二人で上手く回せてしまっている状況では、なんの問題にもならなかった。ギリアムさんは本当に職務熱心で、街についても

  酒は精々一杯飲むかどうかだし、僕を宿に放り投げて夜の街にしけこむ、という事もなかった。渡したお金なんて碌に使っていないのではと思ってしまうくらいだ。装備の修繕や、

  食費などは無論僕から追加で出しているものだし。

  そうして、気づけば三年目がはじまっている。僕は炎の先に居る、ギリアムさんを見つめた。闇の中に、こげ茶の被毛がうごめいて、その中に更に金の瞳が。じっと揺らめく炎を

  映している。

  僕は焦っていた。すべてが、順調だった。

  順調過ぎた。

  商売は、上手くいっていた。ギリアムさんがどっしりと構えてくれているので、僕としても焦る理由はなく。じっくりと交渉に入る事ができたし、僕の背後にギリアムさんが居る。

  如何にも強そうな。そして実際に強い傭兵が居る。ただそれだけで、僕が商人としてなめられずに済んだ場面もかなりあったと思う。僕はギリアムさんのそういう部分も存分に利用し、

  商売を上手く回していた。そして、手に入れた商品で、それを本当に欲しがる人の下へと。時には二束三文でも売る。今すぐの利益にはならないが、遠い先では返ってくると思われる物、

  またそれすらなかったとしても、僕が必要だと判断した相手には惜しみなくそうした。そういう僕の挙動にも、ギリアムさんは特に口を挟まなかった。

  気づけば、僕の名前もそこそこに売れてきた。というよりは、凄腕の傭兵を従えた商人が居る、という感じだけど。商人カルフォの名前は轟かずとも、傭兵ギリアムの名は人々の

  噂に上る事となった。そうすると、ギリアムさんへのスカウトの話が増えたけれど。それらを丁重に断って、僕との旅を続けてくれていた。もう、僕の出すはしたお金なんかじゃ、

  この人を繋ぎ止められないのではないかと内心心細くなって。だけどギリアムさんはそこに居てくれて。その度に僕は安堵して。

  そんな旅も、もうすぐ終わってしまう。

  ……。

  嫌だ、と思う。そう思ってしまった。僕はその時になって。もうギリアムさんと二年以上も一緒に居て。ようやく自分が抱えていた気持ちの正体を知ってしまっていた。

  僕は、ギリアムさんの事が好きだった。

  気づくと同時、悲しくて。ギリアムさんに知られないように必死に毛布を被って、一人で泣き続けた。

  今まで僕は、恋心というものには出会った事はなかった。というより、商人としての夢があまりにも大きすぎて、そんなものはずっと後の話だと思っていた。そもそも家庭を持つ

  なんて、それこそ商人として大成とはゆかずとも、それなりに成功を収めてからの話だ。商品と縁を求めてあちこち旅をする僕が、そんな家庭を持つだなんて到底思えなかったし、

  持ったとて、仮に妻が居たとしても。そんな愛しい妻を一人残して僕は行ってしまう。ともすれば、いずことも知れぬ地で力尽き、その死すら知らせぬ憂き目に遭わせてしまうだろう。

  そしてそんな、もっともらしい理由よりも何よりも、僕は商いが好きだった。困っている人の助けになりたいというのも勿論本音ではあるけれど、珍しい物を直に見たり。どれくらいの

  値がつくのかと思案したり、時には強気に出て、それを相手が買ってくれたり。それだって勿論好きだった。全部好きだ。

  だから、旅が順調に進んで終わるのは何より喜ばしい事だった。これで家族にも立派な商人になったと認められるし、この旅で培った縁は確かにあって、だから僕は僕自身の夢に

  向かって、これからも邁進していくことができる。

  はずだった。旅の終わりが、ギリアムさんとの別れだと気づくまでは。いや、それに気づいて、そして離れがたいと。もっと一緒に居たいと。何故そう思うのかと自問自答して、

  この人の事が好きなのだと気づくまでは。間違いなく僕は夢に向かってひたすらに走っていられたのだった。

  なのに、今は。ギリアムさんとの別れを、惜しんでいる。この旅が終わらないでほしいと願ってしまっている。商いより好きなものなんて、何もなかった。商いを優先して他が疎かに

  なるのは当たり前の事だった。今は、逆になってしまった。商いのために終えるべき旅を、終わりたくないと思ってしまっている。

  「僕の夢は、商人になる事なんです。家族にも認められて、立派な商人に。そのために、あなたの力が必要なんです。ギリアムさん」

  いつぞや口にした、その言葉が蘇る。商いより優先したいものが、できてしまった。できてしまった事が、悲しかった。抱えた気持ちを伝えたって、ギリアムさんをただ困らせて

  しまうという事実も、また悲しかった。せっかくこんなに長く旅をして、ギリアムさんは寡黙なのですごく仲良くなれたとは言い難いのかも知れないけれど、ある程度親しくはなれた

  のに、想いを伝えたら、そんな関係すらなくなってしまう事も悲しかった。

  何も想いを伝えずに、商人として家族に認められた後もまた傍に居てほしいと願ったら?

  それも、いいかも知れない。だけどそれじゃ、いつかギリアムさんは僕から離れていってしまうかも知れなかった。いつか。かも知れない。そんな不明瞭な言葉でさえ、僕の考えは

  充分過ぎる程に僕の想いを傷つけた。涙が溢れる。商人になるという夢よりも大切な事を知ってしまった衝撃も、僕なんかじゃギリアムさんに相手にされない。そもそも同性だという

  事実にも。

  「ギリアムさん。隣に行っても、いいですか?」

  だから僕は、意を決して言葉を発した。このままでは終われないと思って。ギリアムさんは短く返事をしてくれて、僕はおずおずとその隣へと。

  「失礼します」

  [uploadedimage:24650125]

  隣に座って、変わらず火を見つめている巨漢の狼を見上げる。近くでこうして並んでみると、体格の差が如実に理解された。僕の二倍、とまでは言わないけれど。大人と子供ほども差が

  あるのではないかというくらいはある。別に、僕の背が低い訳ではないのにだ。これで並んで同じ狼です、だなんてとても言えない気がした。

  もっとも、本当に同じなのかどうかはわからないけれど。

  「ギリアムさん、憶えていますか? 僕の旅の期限」

  「……ああ。三年だったな」

  「はい。三年なんて、長いなと。あの時は……出発する前は思っていたのに。気づけばもう、二年目も終わって、三年目がはじまって。この二年の間、商売は順調でした。ギリアムさんの

  おかげです」

  「お前の商才もあったんだろうさ」

  そうすげなく返されて、僕は苦笑する。それは贔屓目に見ても半分くらいではないかな、と思う。ギリアムさんがどんな時でも後ろでどっしりと構えてくれていたから、僕は交渉にせよ、

  危険な地域にせよ、大手を振って歩けたのだから。本当に危険だと判断した時は、ギリアムさんは素早く僕の腕を引いてくれたし。だからこそ僕は、思うがままに振舞っては商機を物に

  できたのだった。特に、治安があまりよろしくないような都市での商いは、ギリアムさんと出会った時のそれのように。僕一人では駄目なのだった。お金で解決をする前に、暴力にて

  解決をする。金と暴力、どちらが先に出てくるか、という違いでしかなかった。もっともお金で解決できない事をその次に暴力で解決した事はないけれど。それで解決するのは、相手が

  先に手を出してきた場合だ。ほとんどの場合、ギリアムさんはあっという間に制圧してくれる。そもそもギリアムさんの外見と佩いている長剣を見て、安易に喧嘩を売ってくる人なんて

  滅多にいなかったけれど。

  「僕一人じゃ、出会った頃みたいに上手くいかないことが多かったと思います。いつもありがとうございます、ギリアムさん」

  「……ああ」

  「旅は、もうすぐ終わってしまいますけれど……頑張りましょうね」

  口にして、僕は改めてそれを思い知る。とはいえまだ三年目がはじまったばかり、そんな明日明後日の話ではなかった。だけど、それでも惜しいと。もう終わってしまうのかと思って

  しまうのは。ここまでの二年間が、あまりにもあっという間に過ぎていったからだった。とても、楽しかった。商いをするのも、ギリアムさんと共に居ることも。

  その辺りで、僕はようやく気付いたのだった。ギリアムさんが好きなのは、勿論だけど。商いが楽しいのは、当たり前の話だけど。

  その二つが共にある事。ギリアムさんと商いをしているのが、僕は一番楽しかったのだと。

  例えばどちらかだけを欠いたとしたら、どうだろうか。

  ギリアムさんが居て、商いができない。これはまあ、幸せといえば幸せかも知れない。でもきっと、僕は引け目を感じるだろう。だって僕から商いをとったら、何が残るんだって話だ。

  多少は広い見識に、鑑定眼に、培われた交渉術に。確かに持っているものはある。だけど獅子奮迅の働きができるギリアムさんと比べて、大分見劣りする。そもそもその状況、どういう

  風に生活していくのかもわからない。僕の護衛は終わったから、ギリアムさんを送り出す? それは寂しい気もする。そもそもその形になった時、僕はギリアムさんのなんなんだって話だ。

  では逆に、ギリアムさんが居ない状況での商いは。

  ……寂しい。とても、寂しい。それに今までのように旅を続けるのなら、結局はまた傭兵探しからだ。ギリアムさんのような凄腕の傭兵が、そんな都合よく来てくれる気がしない。

  多少は僕の名というものがあって、それが売れていたとしても、だ。むしろ中途半端に売れた名というのは、必ずしも幸運を招くとも限らない。

  そしてきっと、見つかったとしても。失ったギリアムさんの影を僕自身、求め続けてしまうだろう。

  それぐらいに、この二年の旅は楽しく、また思い出深かった。立ち寄った街に、ギリアムさんを欠いてまた訪れたら。きっと僕は、その度に思い出すだろう。あの時僕の隣には、とても

  頼もしい大男の傭兵が居てくれた事を。

  ……。

  「どうした」

  「あ、いえ……旅が、終わってしまうのかと思ったら。なんだか、寂しくて」

  「そのために、旅をしてきたのにか」

  「それはそうなんですけれど」

  いつの間にか鼻声になっている僕を、ギリアムさんが気遣ってくれる。ようやく炎から目を離して、僕を見下ろして、見つめてくれる。粗野というか、あまり愛想はないけれど。いつも

  僕の事を気遣ってくれる人だった。

  「だが、お前は大きくなったじゃないか」

  「えっ。そんなに背、変わってないですけど」

  「そういう話ではなくてな」

  苦笑をギリアムさんがする。あんまり見られない、笑った顔だった。そんな仕草にも、僕の胸は高鳴る。

  「カルフォ。初めて会った頃のお前は、もっと怯えていた。今は、とても堂々としている」

  「それは、そのう……」

  ギリアムさんに対してビビっていたからでは。

  とはさすがに言えなくて、僕は言葉を濁す。ただギリアムさんは僕の言わんとする事を察したのは、また少し笑って。

  「旅先で交渉に入った時の話だ。最初と今では、お前の振舞い方は随分と変わった。知識を知識のままにせずに、身に着けていったからだ。最初の内は、俺が首を挟む必要があるかと

  思った物だが、最近はそういう心配をする事もまったくなくなった。立派になったと思うぞ」

  「ギリアムさん……」

  初めてギリアムさんから、こんなにまっすぐに褒められた気がした。ギリアムさんはいつも、こういう事は口にはしないのを知っていた。僕が致命的に間違いそうな時だけは、声を

  掛けてくれて。問題がない時は、何も言わずに着いてきてくれる。それが嫌な訳ではなかった。ギリアムさんがそうして着いてきてくれると、僕は嬉しかったのだから。ただ、それは

  それとして。こんな風に直截な言葉で僕の行動を褒められると、僕は嬉しくなってしまう。自然と尻尾が揺れてしまうのだった。

  自分の中で、気持ちが暴れる。元々好きなのに、こんな風にまっすぐに僕を見つめて投げかけられる言葉に、新しい供給に、僕の心はもう窒息寸前だった。

  「ずっと……言いたかった事があるんです。僕」

  一縷の望みをかけて、僕は躊躇っていた言葉を口にする。もし、嫌われてしまったら? その不安が無い訳ではなかった。

  だけど同時に、僕はこれが分の悪い賭けではない事も理解していた。僕があの時見ていた物が、確かなら……。

  「……好きです。ギリアムさん」

  「……」

  「ずっと、言うか迷ってました。こんな事伝えても、迷惑だろうとか。ギリアムさんと一緒に旅をして、商いをするの。すごく楽しいのに、自分で台無しにしたくないとか。だけど……。

  どんな返事が来たとしても、それはそれとして。あなたに、伝えたいって思いました。いつも、ギリアムさんに感謝しています。感謝だけじゃなくて、好きだって、思いました。

  ごめんなさい。押し付けがましくて」

  「いや……それは」

  ギリアムさんはしばらくの間瞬きを繰り返しながら固まっていた。どうにか絞り出した言葉も、珍しく歯切れが悪かった。口数は多くはないけれど、一度話しはじめたら言い淀む事は

  ほとんどなかったのに。戸惑うような。躊躇うような。ただ、まっすぐに僕から見上げれば。その瞳はなんとも言えない感情の光を湛えていて、その真意は到底くみ取れはしなかった

  けれど。同時に、僕を傷つけまいと、言葉を探しているようでもあった。それだけでも、僕は嬉しかった。気持ち悪いだの言われて即座に振られても、まあそれは仕方ないと思っていた

  ので。

  「僕は、旅が終わってもギリアムさんと一緒に居たいです。……いや、もっと、ギリアムさんと旅がしたい。故郷に帰って、親族から認められたら。その足でまた旅に出たい。あなたと。

  ギリアムさんは、どう思っていますか? こんな事を言う僕とは……もう、一緒に旅はしたくありませんか」

  「カルフォ……待ってくれ、頼む」

  軽く腕を上げて、困ったようにギリアムさんが告げる。これもまた、珍しい事だった。思案も言葉も、迷ったところなんてほとんど見た事がなかったから。

  「まず、だな。お前の気持ちは、その……嬉しく思う。だが……俺は、お前の気持ちには、応えられない」

  ずきりと、胸が痛む。だけどそれはある意味では想定内の返答だった。

  「僕じゃ、駄目ですか?」

  「そうじゃない。そうじゃないんだ……ただ、俺が……」

  苦悶の表情。ギリアムさんのその顔を見ると、僕はまたギリアムさんへの想いが強くなった。ギリアムさんが何に迷い、僕の好意に応えられないのか、僕は知っていたから。

  「ギリアムさんが、半獣だから?」

  「……っ! どうして、それを……」

  僕が口にした言葉に、ギリアムさんが目を見開く。僕は少し頷いてから、ギリアムさんへとそっと手を伸ばす。わかりやすいくらいに、ギリアムさんの全身が震えた。だけど、

  僕の手を振り払う真似もしなかった。観念したかのように、むしろその後はそっと身を寄せてくる。厚いマントの中にある、軽鎧。その胸部に触れてから、僕はそっと指先を首元へと。

  マントの留め具と紐を解くと、それを下ろして。その先には、ギリアムさんの素肌が眠っていた。喉元の辺りは、まだふわふわとした被毛があるが、そこから下を辿れば、不意に被毛の

  海がなくなって、つるりとした感触を覚える。新鮮な感覚だった。全身が毛に包まれている僕では絶対にありえない触感。少しこする様に触れて、僕は指を引く。僕の白い指先が、

  焦げ茶色に変色していた。皮膚だけになっている部分が、本来はもっと明るい色合いなのだろう。遠目から、あるいは不意にそこが見えたとしても悟られないように、ギリアムさんは

  全身とまでは言わずとも、そういう部分を染めているのだった。

  「ごめんなさい。この間、見てしまったんです。その……ギリアムさんが、森の中で」

  「ああ……見られて、いたのか……」

  ギリアムさんが素直に身を任せてくれるのに対して、僕もまた嘘を吐く訳にはいかなかった。何故それを知ったのか、軽く触れるだけでギリアムさんも合点がいったようだった。

  十日程前、だっただろうか。

  寒村に立ち寄った僕とギリアムさんは、宿で一部屋を借りて就寝した。大抵、部屋は一緒だった。ただ、ギリアムさんは僕の用心棒でもあるため、特にこういった寒村や、または

  大きな街であったとしても治安に問題がある時などは、あまり無防備な姿は晒さない。当然、僕の傍を離れる事もなかった。けれど、夜中に喉の渇きを覚えて起きた僕の視界の中に、

  ギリアムさんは居なかった。無論、用を足したり、軽食を欲したり、そういう事もあるので、居ないとは何事だ、なんて言いたい訳ではなかったけれど。とりあえず僕は部屋に置いてある

  水差しから水を飲んで、しばらくギリアムさんを待っていた。大抵そういう時、それほど待たずにギリアムさんは戻ってきてくれるけれど、その日は違っていたのだった。

  僕はそれが気になって、思い切って宿を出たのだった。深夜を既に回って、しかも場所は寒村。大きな街なら歓楽街なりがあって、不夜城の如く灯りは煌々と並んでいるのかも

  知れないが、そんな事もなく。ただ月の灯りが静かな村と、遠くの森の緑を照らしているばかりだった。宿の中は静まり返っていて、少し探ってみたけれどギリアムさんの姿はなく。外に

  出た僕は途方に暮れて、それから目も覚めてしまったのでふらふらと森の方へと歩いていった。当てがあった訳ではないけれど、そもそもギリアムさんの巨体を考えると、外に出て

  立っていたら即座に僕は見つけられる自信があった。なまじ小さな村なので、どこに居てもギリアムさんは目立つ。それが見当たらないという事は、という消去法だった。

  とはいえ、森は広大だった。すぐ入って見つけられないようだったら引き返すつもりだった。こんなところで迷子になってしまって迷惑でもかけたら、それこそギリアムさんへの想いを

  自覚した手前、申し訳なくて顔も合わせられそうにない。

  ただ、幸いな事に僕はすぐにギリアムさんを見つけた。

  村人が通るのだろう、獣道よりかはいくらかマシな道を進んで、少し開けた場所で。僕はギリアムさんの大きすぎる姿を見つけて。

  そして、絶句したのだった。

  月明かりに照らされた、ギリアムさんの姿。いつもは服を着込んでいてわからなかった。当然ながら、身体を清めたりする際もギリアムさんは僕の前では決して脱がなかった。

  「醜い傷があるんだ。見られたくない」

  そう言われては、それを無理にみようと詮索する心は僕にはなかった。

  だからその時、僕はギリアムさんが素肌を晒していると知って、見られたくない物を見てしまっていいのかと逡巡し、そしてギリアムさんの身体の様子に気づいて、固まったのだった。

  いや、それよりも。

  服を崩し、裸体を晒したギリアムさんは一心不乱に股間に手を伸ばして、息を荒らげていた。

  自慰をしていたのだった。

  [uploadedimage:24650126]

  「はぁ、ハァ……あぁぁっ……」

  僕は心臓が飛び跳ねるのを感じた。ギリアムさんの、発情した姿。感じている声。悶える仕草。二年も一緒に居るのに、一度も見た事がなかったものがそこにあった。思わず、

  申し訳ないなんて気持ちも忘れて食い入るように見つめようとして。僕はようやく気付いたのだった。ギリアムさんのその身体の異様さに。

  顔は、いつも見ているギリアムさんの物だ。だけど、身体が。身体にもあるものだと思っていた、焦げ茶色の被毛がそこにはなかった。

  「半獣……」

  息を呑んで、僕は呟いた。ギリアムさんの身体は、獣の毛皮に覆われている部分と、そうではない部分が混在していた。頭部は狼のもので、胸毛などを除いて身体には毛が無くて。

  肘から手先まで、膝から足先までがまた被毛に覆われていた。それから、後頭部から背中、腰へとわずかばかりの被毛が走り、それは尾にまで続いて。これは普段から見えているから

  知っていたけれど、きちんとした尻尾があった。確かにあれなら、例えば手袋やブーツをつけるところを見るだけでは一見して半獣だなんてわからなかっただろう。実際も僕も今まで

  気づきもしなかった。それ以上に肌を露出する際は、ギリアムさんはいつも一人だったから。

  見てはいけないものを見てしまっている。恋をしていたギリアムさんが、半獣だという事。そして今一心不乱に自慰に耽っているところまで。幸いな事に、ギリアムさんは僕が見ている

  事に気づいてはいなかった。普段のギリアムさんなら、気づいたかも知れない。だけど僕も、この旅を通じて息をひそめる事に関してだけは長じていた。ギリアムさんが戦っている間、

  守られている事も勿論多かったけれど、僕が隠れている方が都合が良いことの方が圧倒的に多い。そのため身を隠す術を僕は特に伸ばしたのだ。おかげで、僕を守ってくれるはずの

  ギリアムさんからすら隠れられる程に。何より、今のギリアムさんは興奮しきっていて、普段よりも注意が疎かになっているのだろう。それは、よく見て取れた。裸体を晒している

  ギリアムさんの股間に聳え立つ、巨漢と評するに足る身体にまったく引けを取らない程の雄々しいペニスが、今まさに毛むくじゃらのギリアムさんの手によって乱暴にしごかれ、その度に

  ギリアムさんはくぐもった快感の声を上げては腰をがくがくと震わせている。一心不乱に乱れていた。こんな状態で、僕が見ている事に気づかなかったとしてもそれは仕方がない。

  見てはいけないものを見ている自覚が、僕にはあった。だけど、僕は動けなかった。ギリアムさんが半獣だったという衝撃も、徐々に和らいでいった。今はただ、誰にも見られていないと

  思っては自身を慰めているギリアムさんの艶めかしい姿に僕は釘付けだった。痛みを感じる。僕の股間も、ギリアムさんのそこに負けないくらいにいきり立っていた。自分がそんな状態に

  なっている事すら、僕は気づいていなかった。少しだけ、不用意に見つかる事だけは避けようと更に身を隠し、僕はズボンをくつろげて、勃起しきった自分の物を取り出して触れた。

  熱い。

  慣れない手つきで、僕は自分のペニスをしごいた。途端に凄まじい快感が走って、声が出てしまいそうになるのを懸命に堪えた。今声を出すのは不味い。だけど、ギリアムさんと同じ

  ような恰好で、同じように自慰に耽るというのは、僕にとっては今まで味わっていた人生の中でも一等興奮するものだった。

  「はっ、はっ……ぐっ、ああぁっ……」

  加えて、グリアムさんの喘ぎ声まて聞こえるとなれば尚更だ。普段は寡黙で、口数も多くはないのに。あんなに立派な身体で、どんな時でも取り乱すような事は決してないはずなのに。

  超人のようなギリアムさんが、今はあられもない声をあげている。それだけで、ギリアムさんを慕っている僕にとっては他のすべてがどうでもよい事のように思えた。もう、ギリアム

  さんが半獣だという事すら気にならなかった。むしろ、月の光に照らされて。汗ばんだその肌が、ぬらぬらと光る。被毛のある頭部や腕などはあまりその傾向が見られないのに、ぱんぱんに

  膨らんだ二の腕や、胸筋は怪しい光の反射を見せて煌めき、流れた汗が脇や、背中。胸。隆起した筋肉の原を超えて流れてゆく様が。離れたここに居てさえその雄の香りが漂ってきそうな

  光景が、余計に僕の興奮を煽った。充分過ぎる程の快感を得たのか、それとも自らいじっていたのか。膨らんだ胸筋に立つ乳首の方へと汗の雫が流れるさまは、あまりにも扇情的で、僕の

  ペニスは爆発しそうな程に何度もびくびくと跳ねた。

  「カルフォ、カルフォ……くっ……」

  不意に、僕は耳を疑う。聞き間違いでなければ、確かに今、ギリアムさんは僕の名前を呼んだ。自慰に耽っている、その最中に。気づかれたかと思ったけれど、ギリアムさんの視線は

  宙を見つめたままだった。手の動きは更に激しくなり、にちゅにちゅ、ぐちゃぐちゅとペニスと、そこを包む右手からいやらしく泡立った液体が音を立てているのがうかがえるばかりで、

  僕に気づいた素振りなんてどこにもなかった。

  ギリアムさんは、僕の事を考えて自慰に耽っていたのだった。

  「うっ、く……!!」

  その事実に気づいた時、僕はあっという間に絶頂へと達した。勢いよく射精した。久しぶりの射精の快感に突っ伏してしまいそうな衝動を我慢して、草の上に精液をぶちまける。

  こんなの、反則だった。

  「カルフォ、イく……出すぞ……っ!」

  カルフォ、カルフォとギリアムさんが僕を呼ぶ。僕を呼んでいるはずなのに、僕は他の誰かを呼ばれている気分にもなった。だってその名前の呼び方が、あまりにも甘やかで、情熱的で、

  まるで恋人を求めるかのように熱を帯びていて。あんな風に呼ばれた事なんて一度もなかった。突然そんな声音を聞いて、僕は我慢できるはずもなかった。

  [uploadedimage:24650124]

  「おっ……おおおおぉぉぉぉっ!!」

  そして僕の絶頂の後を追うかのように、ギリアムさんは射精した。のけぞり、中空に向かって逞しいペニスを突き上げる。まるでそこに孕ませるべき相手がいるかのように、突き

  上げられたペニスの先端からは勢いよく精液が飛び散る。それは弧を描くように宙を舞い、びちゃびちゃと少し離れた草の上、木々に降り注いだ。それを見て、僕は全身から力が

  抜けそうになる。

  僕の名前を呼んだギリアムさんのペニスから、凄まじい量の精液が飛び散っている……。ぶちまけている……。

  お腹の辺りが疼いた。僕は飛び出していきたい気持ちを懸命に堪えた。僕を呼んで行為に耽っているのなら、それこそ僕を求めているのかも知れないと驕るのも無理はなかった。僕の

  身体に、あの大量の精液が。僕の外側にも、内側にも……。

  飛び出していきたい衝動を堪えて、僕はギリアムさんが正気に戻る前に、急いでその場を離れた。興奮が抜けきれば、覗いてしまった事。そして忘れかけていた、ギリアムさんが半獣で

  あるという事実もまた僕の頭の中に戻ってきていた。

  結局その後は、僕が部屋に戻り狸寝入りをしていると、ギリアムさんも戻ってきて、あとは何も変わらずに朝がやってきた。

  それから、今に。僕がギリアムさんに告白をした今に至るのだった。

  僕がギリアムさんに好きだと口にしたのは、何よりもその出来事があったからなのだった。

  ギリアムさんも、僕の事を憎からず思ってくれているのならと……。

  「お前に、見られていたとはな……俺としたことが。見られている事にも気づかなかったとは」

  僕からの言葉に、いささか面映ゆそうにギリアムさんは苦笑する。

  「ごめんなさい、覗いてしまって」

  「いや、いい。護衛をしている俺が何も言わずに離れたのも、俺の落ち度だからな。一応、お前の傍には警戒のための術は残していたが」

  少し視線をそらして、ギリアムさんがそちらを。宙に浮く光へと向ける。さっきから焚火をかこんでいた僕とギリアムさんとはまた別に、もう一つの光があった。これは周囲を監視

  するためのもので、常に微弱な力を発してはそれを広範囲に届け、その領域に侵入した相手がどのような存在であるのかを計るためのものだった。相手が酷い興奮状態であったり、殺意で

  あったり。要は危険な物を孕んでいる存在というものは、その力が身体の外へと。魔力の残滓のような物が溢れるのだという。これは、それを探知できる、らしい。それから、周囲の

  音や光をある程度抑える事もできる。これは、僕達がこうして夜営をしているのを遠くから見つけにくくする効果があるのだった。僕はここまでのものは扱えないので、詳しくは

  わからないけれど、実際にこの旅ではかなり役に立っていた。ギリアムさんは確かに凄腕の傭兵だけど、だからといって常に、どんな時でも彼一人で僕を守れる訳ではなかった。そんな

  生活を何年も強いられていたら、さすがに精神的な負担もかなりのものだろう。ギリアムさんにも休息は必要で、そういう時にギリアムさんはこの術を置いていく。

  視線を僕へと戻したギリアムさんは、不意にその表情を固いものへと変えた。瞳には、どこか諦念の光が宿っている。

  「だが、カルフォ。俺が半獣だと知ったのだろう? それなのに何故、俺を求めようとする」

  「そんなの、僕には……関係ないからです」

  「無い訳ないだろう。カルフォ。お前も商人ならば、半獣の話を知らないとは言わせない」

  「それは」

  今度は僕が言葉を詰まらせる番だった。それほどまでに、半獣という存在は暗く、重たいものなのだった。

  幼い頃から、商人の家で生まれ育ち、自身もまた商人になりたいと志した僕に対して、親族は優しかった。厳格な祖父に、優しい父に。なにくれとなく面倒を見てくれる従兄弟達に、

  僕は囲まれていた。

  それぞれが、思い思いの方針で、僕に商人について教えてくれていた。厳しい意見もあれば、優しい意見もあった。僕の今の商人としての指針は、その中で育まれたもので、あるいは

  誰かにとっては生ぬるく、誰かにとっては頷けるものになっているとは思う。様々な意見を吸収して、僕は僕自身の商人としての価値観を培い、そして今、商売をそれなりには軌道に

  乗せていた。

  だけど、そんな中において、おしなべて全員の口から同じように発せられた言葉。

  決して半獣には関わるな。

  「どうして?」

  僕の純粋な疑問。それに対する返答は様々であったけれど。否定的であることは確かで、そしてどこか嫌悪感を滲ませている物が多かった。

  僕のような旅商人は、商材のために奔走し、新たな顧客のためにも奔走する。その商いにおいて、貴賤というものは考慮する対象ではなかった。むしろ、身分が高いが故に表立って

  身分が低い者に近づけなかったり、あるいは身分が低いが故に、到底身分が高い者には近づけなかったり。そういった人達の、橋渡し役としても商人は機能するのだ。

  大切なのは、そこに商機があるかどうかであって。そして商いを通じて、品を出した物は金銭を、金銭を出した物は品を、間を取り持った僕は報酬や、あるいは感謝の心を。全員が

  幸せになる事を目指すものだから。無論、それがきれいごとに過ぎない場面というのも多々ありはするものの、基本的にそれは商売の基本であるのは確かだった。

  故に、種族による貴賤というものが仮にあったとしても、そこに頓着する謂れはない、はずだった。商人にとっては。

  それなのに、商人の家系である親族が口をそろえて、本当にそうあるべきと謳うはずの商人の教えからは逸れた事を口にする。僕にとってそれは、長年の疑問でもあった。

  無論、僕は自分でも半獣については調べていた。

  彼らは数が少なく、獣の血が薄いという。ただ、それだからといって身体能力などが、僕のような通常の(便宜上、そう呼ぶ事にする)存在と比べて劣るという事はなかった。

  むしろ、目の前に居るギリアムさんを見ればそんな話はまったくの嘘八百なのはわかるだろう。どちらかというとより強くなると説明した方が納得できる程だった。

  性格が残忍、という事もなかった。無論、差別され、蔑視されている彼らの立ち居振る舞いにまったくの問題がないのかと言えばそれはまた違うけれど、かといって十把一絡げと

  ばかりに見るのはあまりにも横暴というものだろう。

  「僕はこの旅で、半獣の方にも会いました。ギリアムさんだけではなくて」

  半獣の数は少ない。だけど、絶対に見ないという訳ではなかった。むしろ商材や商機を求めてちょっとした秘境くらいなら喜んで僕は入るので、そういうところでは半獣に会うのは

  そう珍しい事ではなかった。彼らは僕と、そして半獣である事を隠していたギリアムさんを見ると、酷く怯えた目をする事もあって。そういう時も僕は熱心に話をして、必要ならば

  それもまた商いへと昇華していった。

  「あまり半獣には関わるな」

  いつぞや、ギリアムさんからもそう言われた事があった。あの時、ギリアムさんはどんな気持ちでその言葉を口にしていたのだろう。その時の僕は、ギリアムさんもそういう考えが

  あるのだろうかと思ったり、それはそれとして平然と半獣に近づく僕の危うさを案じているのかと思ったけれど。今となってはまったく別の意味を持っていたのだと理解する。

  「僕の親族は、みんな半獣の方を悪く言っていたけれど……僕は、そうは思いません。それに、そういう人達とだって、商機があれば縁を繋ぐのが、商人だと思っています」

  「お前自身が、不幸になったとしてもか?」

  「それは、わかりません。安請け合いはしたくないので、例えばどんな半獣の人とも分け隔てなく接します、とか。そういう事は言えません。でも、少なくとも……僕はギリアムさんと

  居て、不幸だなんて。むしろ、幸せでした。今まで付き添いで旅に出る事はあったけれど、僕の安全を考えて危険な場所には行けなかった。今回の旅も、きちんとした護衛が雇えないなら

  それも難しいと思っていました。だけど、ギリアムさんが僕の下へと来てくれました。他の誰にもできない……とまでは言えないかも知れませんが、それでもギリアムさんは、僕が

  求めていた傭兵としての要素のほとんどすべてを満たしている方で。そんな人と出会えて、旅ができた事は僕にとっては僥倖であり、また幸福な事でもありました。たとえこの後

  どれだけか僕が不幸に陥ったとしても、それとこれとは別の話です。たとえこの後あなたに不幸にされたとしても、今まで僕が幸せだった事実が覆される訳でもありません。

  そうでしょう?」

  「お前は……本当に口がよく回る奴だな」

  誉め言葉とは言い難い返答を、僕は笑顔で受け止める。

  「むしろ、心配なのは僕の方です。僕はその……女の子じゃないし。見た目も別に十人並みですし」

  そこだけを考えたら、本当に僕はギリアムさんとはつりあえそうにないなと感じる。商人としての腕前には多少は覚えがあるが、それも傭兵として凄腕であるギリアムさんと比べたら

  かすんでしまう。

  「お前は、俺の半獣の身体が怖くはないのか」

  「怖い……ですか」

  「不気味に思わないのか。自分と違う身体を」

  そう告げるギリアムさんの様子に、僕は胸が痛んだ。半獣が怖くないのか、気持ち悪くはないのか。そう問いかけられるのは、なんて事もなかった。それよりも、ギリアムさんが

  自身の事を悪し様に言っている事実が、悲しかった。それだけで、今までどれだけか他者から拒絶され、侮蔑され続けてきたのかを物語るかのようだった。あるいは今の僕のように、

  傭兵としてのギリアムさんに思いを寄せた人も過去には居たのかも知れなかった。あまりの巨躯の凄みに、恐ろしいという想いを抱く者も多く。それを乗り越えて傍にやってきた相手に、

  半獣である事を告げては今度こそ見切られてしまう。そういう人生だったのだろうか。あくまで、想像する事しか僕にはできなかった。そんな事があったのかと、訊くことも憚られる。

  「正直に言いますね。……えっと、逞しくて、恰好いいなって思ってました……」

  「……」

  言ってから、僕は無性に恥ずかしくなる。いや、好きな人の素敵なところを口にできる、しかも当人に向かって。そんな日がくるとは夢にも思ってなかった。そしてこれはお世辞でも

  なんでもなく、僕の元々のギリアムさんへの恋心に拍車をかけた部分でもあったのだった。月明かりに照らされていた、ギリアムさんの逞しい肉体。どんなにか鍛えていたとしても、

  被毛越しではあんなにくっきりと、筋肉の盛り上がりは見て取れなかっただろう。今思い出しても。そして暗がりで良く見えないけれど、目の前に居るギリアムさんの胸元に視線を

  送っても、僕はその身体の様子を見て、僕自身が酷く興奮している事に気づいた。それが、この旅の間ずっと僕の事を守り続けてくれていた男の人の身体だと思うと、感慨と興奮も

  ひとしおという奴だった。

  それに、その身体から覗く真新しい傷に気づけば、愛おしさはむしろより一層深まった。凄腕の傭兵だから、その身体には無数の古傷がある。僕との旅で、僕を守るために受けた傷も

  まだある。被毛の無い身体だからこそ、その傷はよくよく見て取る事ができて。

  ……どうしてこんな身体を、僕が嫌う事ができようか。

  「こんな身体が、お前には却って良いという事か……。これは、さすがに予想していなかった」

  くく、とくぐもった笑い声をギリアムさんが上げる。大声ではないけれど、ギリアムさんば声を出して笑う所を、初めて見た。はっとして顔を上げた僕の瞳に飛び込む、堪えきれない

  笑みに渋面を崩すギリアムさんの姿。それでまた、僕は見惚れて。そして一層好きになった。こんな風にも、この人は笑えたんだ。

  「カルフォ。最後に一つだけ、確認をしておかなければならない事がある。俺が……いや、半獣が。何故そうまでして、お前達に毛嫌いされるかについてだ。……」

  「……」

  半獣の数は多くはない。だから僕は、何故半獣が嫌われるのか、よくは知らなかった。親族も、とにかく近づくなと僕に言うばかりだった。

  ギリアムさんから告げられた内容に、僕は驚愕する。

  「それでも俺を求めるのか」

  確認するように、ギリアムさんがそう告げる。僕は何も言わずに、ギリアムさんの手を取った。大きすぎる、獣の手を。

  月明かりに照らされて、僕は大男に押し倒される。

  「ギリアム……さ……」

  僕の頬に、耳に、ギリアムさんは食らいつくように口づけを。舌先を出してはくすぐるように。僕が咄嗟に口を開けると、それを待ってたといわんばかりに、舌が捻じ込まれる。

  「んんぅ……」

  僕は息も絶え絶えで、ギリアムさんから与えられる刺激を受け流すのに精いっぱいだった。なんの経験もない僕の身体を、ギリアムさんば貪るように。白い僕の被毛の上を、こげ茶の

  ギリアムさんの身体が蠢く。ギリアムさんだって、半獣というからにはそうした経験には恵まれてはいなかったのではと思ったけれど、僕のそんな推測をまるで感じさせないかのように、

  ギリアムさんの愛撫は僕の身体のあちこちへと降り注いで。

  ギリアムさんが、僕の服に手を掛ける。脱がせやすいように。そう思っていた矢先、爪を立てたのか、闇の中にかすかな布を割く音がするのと同時、僕の服の前の部分はあっけなく

  ギリアムさんによって引き裂かれた。

  [uploadedimage:24650148]

  「あっ」

  覚えず、悲鳴のような声を僕はあげてしまう。こんなに乱暴な真似、普段のギリアムさんなら考えられなかった。暗がりにある二つに双眸が、爛々と輝いて僕の身体を見下ろしている。

  慣れているからこうしているのではないと、その頃になって僕は悟った。ただ興奮状態にあるギリアムさんは、自然とそうした行動に出ているのだ。僕を求め、僕を愛撫し……。

  僕と交尾をするために。

  露わになった僕の胸に、先程までと変わらずギリアムさんは顔を埋め、食らいつく。僕の白い被毛の中にある、桃色の突起を、興奮したように長い舌先で転がす。僕は小さく喘いで、

  身を捩った。合意の上での行為。そのはずなのに、僕の両腕はひとまとめにされ頭上に、ギリアムさんの片手で押さえられて。そうして身体を貪られている。だけど僕にとって、

  そんなことは些末な問題でしかなかった。ギリアムさんが、求めてくれている。それだけで、僕は満たされていた。時折牙が当たる度に、そのまま僕の身体が食らいつくされてしまう

  のではないかという恐怖が襲うけれど、その度、次に与えられるのは甘やかな刺激ばかりだった。

  ギリアムさんから求められる喜びに、僕は溺れていた。元々、ギリアムさんへの想いを抱いたまではよかったものの、女の子でもなければ、容姿に優れている訳でもないと引け目を

  感じていたから。ギリアムさんが僕をオカズにしていたことを知って、一縷の望みをかけたに過ぎなかったから。

  「お前が俺を好きだと思うよりも、ずっと前から。俺はお前が好きだった」

  押し倒される前に、ギリアムさんから放たれた言葉に、僕は翻弄された。

  「半獣を前にしても動じずに商売を続けるお前の姿が、眩しかった。お前が、欲しくなってしまった。お前を壊してしまうから、とても……声はかけられなかった……」

  「ギリアムさん……」

  それが、僕を思っての自慰行為へと発展したのだろう。

  「僕は大丈夫です、ギリアムさん。だから、僕をギリアムさんの番にしてください」

  ギリアムさんが紳士的だったのは。いや、理性を押さえていられたのは、そこまでのようだった。興奮が最高潮に達したのか、あとは僕を押し倒し、僕の服を引き裂き。僕の身体に

  舌を這わせている。浅ましく僕を求めるギリアムさんの姿に、僕は歓喜に震えた。たとえこの感情がギリアムさんの影響によるものだとしても、それでも構わなかった。

  「あっ、はぁっ……や、駄目……ギリアムさん……」

  ぴちゃぴちゃと音が立つ。一頻り僕を堪能したギリアムさんは、僕の残りの服も半ば破り捨てるようにしてぼろきれに変えると、傍にあった岩に向かって僕を四つん這いにさせ、そして

  尻を掲げさせた。迷うことなくギリアムさんは僕の肛門へと今度は顔を近づけ、そこを舐め上げた。宿の一室でもなく、野外でこんな事をしている。僕は羞恥に頬を熱くした。幸い、

  元よりギリアムさんと結ばれる事を想像し、妄想していた僕だ。行為に及ぶために必要な品はすべて事前に準備できていた。無論、潤滑油も完備しているし、切れてしまってもいいように

  軟膏だって用意した。その辺りは、商人としての立場を如何なく利用した。

  熱い吐息が肛門にかかる。こんなところに、興奮に満ち満ちた吐息が。そしてそのすぐ後には柔らかな舌先が何度も当たる事があるのかと、僕は混乱しきっていた。男同士の作法を

  知らなかった訳ではない。最低限の性知識だって、商人には必要なものだから。ただそれは、知識としてただ蓄えていたに過ぎなかったのだと思い知る。軟膏にせよ、油にせよ、仕入れた

  際にそれがどの程度の用途にまで使えるかを知る必要があって。だから知っていた。それだけに過ぎなかった。肛門にかかるギリアムさんの熱い吐息も、うねる舌先の感覚も、僕を

  ただただ苛み、翻弄する。こんな事を、他の誰でもなく僕自身が体験する日が来るなんて。

  「ひっ……」

  [uploadedimage:24650152]

  押し当てられていたギリアムさんの長い舌先が、不意にずるりと。入っているのだと理解するのに、少し時間がかかった。閉じ切っていたはずのところをこじ開けるくらいに、強く

  舌先が当てられていたのだった。同時に、よくそれが入ったなと僕は感心してしまう。入るか入らないかであれば、そりゃ入るだろうけれど。かなり強く舌先で押さないと、上手くは

  入らなさそうなのに。僕の中に入ってきたそれは、遠慮会釈もなく僕の中を。腸壁をずるずると擦り上げている。柔らかい舌だから、痛くはないけれど、変な感覚だった。奥の方に

  入ってくると少し圧迫感が出てくる。ギリアムさんは、舌で僕の穴を慣らそうと試みているのだろう。ギリアムさんの指先ときたら、体躯と同じく太くて。太いだけならまだしも、その

  指先にはあまりにも鋭く、立派な爪が生えている。切っても削っても、それは僕の肛門を慣らすのには使えないという判断なのだろう。

  「カルフォ……」

  [uploadedimage:24650156]

  しばらくぴちゃぴちゃという音ばかりが僕の羞恥を掻き立てたのちに、入ってきた時と同じように抜けて。少し遅れてギリアムさんが声を掛けてくる。息も絶え絶えの僕は振り返って、

  月明かりに照らされたその身体を。その股間に聳え立つ雄根を見て、言葉を失う。僕の視線を受けたそれは、まるで見せつけるかのようにびくり、びくりとしゃくりあげてみせた。あの日

  遠目から見た時も、大きな物だと思っていたけれど。こうして間近で見ても、いやそれだからこそ、やはり大きかった。僕の穴を舐めつくしている間にも、興奮しきっていたのか。今は

  その膨らみ切った亀頭の鈴口からは透明な液体がたらりと、性行為を、……交尾する事を待ち焦がれて、涎を垂らしていた。僕はその凶器の様子に、小さな恐れと。そしてそれよりも

  ずっと大きな期待を。もっと言えば欲望を抱いた。

  ギリアムさんが、僕で興奮してくれている……。僕がギリアンさんに焦がれて、番になりたいと口にした希望に応えるかのように、僕を犯したいと主張している……。

  お尻の辺りが、その奥の部分が、じんじんと痺れるような感覚を僕は覚えた。こんな大きすぎる物、入る訳がないと理性が訴えているのに、本能は欲しくなってしまっていた。

  物欲しそうな顔を僕がしていたからか、ギリアムさんはそのまま、事前に渡していた潤滑油を掌に、そして雄々しいペニスへと垂らす。少し濁った、月光に照らされた粘液がたらりと、

  熱く湯気さえ立ち昇らせそうなふとましい雄根に纏わりつく。青白い光に照らされた、血管の絡みついたそれは酷くグロテスクのようにも見えたけれど、僕の身体はそれを欲しがって

  しまっていた。

  ギリアムさんは粘液を纏わせた手で、激しくペニスをしごく。ぐちゅくぢゅと音と泡が立ち、興奮した息遣いが夜に響いた。数度そうしたかと思えば、中腰になり。その先端を僕の

  肛門へとあてがう。……大きい。一度もそういう行為をしたことがない僕の肛門に、それはあまりにも大きすぎた。

  「……いいんだな」

  わずかに残った理性で、ギリアムさんが発した言葉に、僕は雌犬のように尻を掲げる事で応えた。こんな大きな物で貫かれてしまったら、僕はもう元には戻れないだろう。それでも

  僕の心は、欲しいと。それだけを主張する事を繰り返していた。

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