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第一話 デルマラクエスト 後編

  気づくと元の森の中に寝転んでいた。隣にいたデルングもたった今気付いたようで辺りを見回している。さっきまでいたリングは無く、明るい森の中にいた。俺もデルングも、出会った当初の服装のままになっている。

  「え、あれ……何コレ?夢?」

  何も理解できない状況に困惑していると、デルングがやれやれと言った口調で話す。

  「おかえり、レン。楽しかったね、レンが作った『深層世界』での“ドスケベエロボクシング”はさ」

  「は?しんそー世界?」

  「そう。俺たちはそこから戻ってきたんだ」

  戻ってきた?あのリングから?どうやって?いろんな疑問が脳内を駆け巡り、その全てが理解できずにただただ困惑する。固まった俺を見ながらデルングはどこから説明すべきかと逡巡しながら話し出す。

  「まず、さっきいたリングは現実じゃない。『深層世界』と呼ばれる場所だ。そして、それはレンが作った。無自覚にね」

  「俺が……?」

  「そう、俺のことを見て『ドスケベエロボクシングがしたい』って願ったから作り上げられてしまったんだ」

  ぐ、それは本当に恥ずかしいから言わないでくれ……。

  「そ、それで、俺たちはそこに行って、やるだけやって帰ってきたんだな?じゃあ、丸一日やりまくってたってことか……」

  俺は目線を逸らすついでに辺りの明るい森を見ながらつぶやいた。

  「いや、俺たちは『深層世界』に意識を持ってかれただけで現実では1秒も経って無い」

  「え、どういうこと?」

  困惑する俺をよそにデルングは続ける。

  「さっきレンが展開した『深層世界』ってのは人間の意識だけを巻き込むものなんだ。その世界に入った人は現実のように時間の流れを感じるけど、世界にそう錯覚させられてるだけ。『深層世界』から戻ったら現実では全く時間が経過してないが、世界での出来事を体験した意識だけが残るんだ」

  デルングはさも当たり前のことのように話す。だが俺はさっきまでデルングと確かにドスケベエロボクシングをやり放題していたとしか思えなかった。あの時感じたパンチの感触もセックスの興奮もはっきりと覚えていて、その全てが実体験としか感じられなかった。

  「意識だけもってく世界を俺が作って、そこでやりたい放題してたって事……?なんつーか、あまりにも都合が良すぎるな……」

  困惑する俺を見ながらデルングは無理もないよなと言ったように眉を下げる。

  「それだけの力をレンが持ってるってことだよ」

  デルングはそう言いながら俺に向き直る。

  「改めて、この世界のことを話させてもらおうか」

  そういえばデルングの話を遮ってあんなことをしてたんだった。俺は咄嗟に謝罪するとデルングは特に気にしてないというように笑って話を続けた。

  「ここはレンのように時々、他の世界からやってくる人間がいるところなんだ。もともとここにいた俺たちは君達のことを『転移者』って呼んでる」

  『転移者』……そういえばデルングが意識を取り戻した時にそう呼ばれた気がする。

  「そして『転移者』は共通して莫大な魔力を持っているんだ」

  「魔力?」

  再び聞き慣れないワードに困惑する。

  「魔法を使うためのエネルギーだよ。この世界は魔力を基盤として成り立ってるんだ。さっきの『深層世界』だって大量の魔力を消費してつくるものだ。俺だったらちょっとの時間しか持たないね」

  デルングの話を聞くと、死んだと思ったら異世界に飛んで特別な力を貰って無双する……そんな話が連想される。

  「つまり今の俺は『なろう系主人公』みたいな状況……?」

  「そうそれ」

  「なんで通じるんだよ」

  「やたら長いタイトルの小説で主人公が異世界で無双するやつ」

  「内容まで同じなんかい」

  「世界は違っても同じようなものが流行ってるんだね。まぁ、要するにそれだよ」

  「そんな雑な認識でいいのか……?」

  頭を抱える俺をよそにデルングは目を細めながら口角を上げる。その後、先ほどまで崩していた姿勢を正して俺の目をまっすぐに見つめる。

  「助けてもらった上で図々しいとは思うんだけど、レンに頼みたいことがあるんだ」

  余裕綽々としていた姿から一転して真剣な声でデルングは話す。

  「俺は今、旅の途中でね。一緒に行動していた仲間がいたんだ。だけど旅の最中に野盗に襲われて、逃げている途中で離れ離れになってしまった。そいつを一緒に探してくれないか」

  デルングの表情からは事の深刻さを見てとれた。

  「いきなりそう言われても……俺はどうすれば良いんだ?」

  「さっきも言ったけどレンは莫大な魔力を持ってる。その魔力を使わせてもらえれば人探しの魔法が使えるんだ。だからレンには俺に魔力を提供して欲しい」

  「そういうことか……」

  デルングは人探しのために俺のことを頼りたい。だが、俺はいきなりやってきた異世界で、二つ返事で協力していいのか躊躇ってしまった。デルングにはドスケベエロボクシングに付き合ってもらったけど……。

  「……それなら、俺からもデルングを頼らせてもらっていいか?」

  きっと、目の前で困っている人がいて、その人を助けられる力があるのなら、迷わずに手を差し伸べるのが当たり前なのだろう。

  でも俺はそんな立派な人間にはなれない。

  人助けだとしても都合よく使われることだけはされたくない。

  デルングは俺がこんな人間だと知って失望しただろうか……。

  「もちろん。俺にできることならなんでも言ってくれ」

  逡巡していた俺をよそに、デルングはなんてことないと言ったように続ける。

  「さっきみたいなエロボクシングだっていくらでもやるし、それ以上のプレイもお望み通りなんでもするよ」

  「いやいやいやいや、そこまでは望んでない!」

  「そう?てっきり俺の体目当てだと思ったんだけど?」

  「それは………。いや、その違くて!ここのこととかもっと教えて欲しいだけだって!魔力とか魔法とか全然わかんねぇから!」

  「そういうことね。でもさ……」

  デルングはフッと笑いながらゆっくりと俺に近づいてくる。

  「レン、本当にありがとう。俺の頼みを引き受けてくれて」

  そして、俺の腰に手を回して抱きついてきた。静かに頬を寄せられると、デルングの柔らかな体毛が触れて胸が高鳴ってしまう。

  「レンに出会えて本当によかった」

  デルングの深く落ち着いた声が響くたびに顔がほてっていく。否応なくさっきまでのエロボクシングが思い起こされきてしまう。そうしているとデルングは俺のことを真っ直ぐに見つめてくる。透き通った琥珀色の目に見つめられると、俺は居た堪れなくなって目を逸らした。

  「はは、レン、照れてる?」

  「照れてねぇよ」

  「ふーん、でもここ反応してるね?」

  悪戯な笑みを浮かべながらデルングは俺の股間に手を添えてくる。硬くなったちんこをわざとらしく撫でてくるので、荒い息が漏れてしまう。デルングはさらに体を密着させて耳元で囁いてくる。

  「なぁレン、もう一回"ドスケベエロボクシング"しようよ」

  デルングの言葉を皮切りに、俺たちはまたボクシングリングの上にやってきた。さっき教えてもらった『深層世界』を、俺は再び無意識のうちに広げていた。俺もデルングも先ほどまでの光景を繰り返す様に、艶やかなボクシンググローブとトランクス、リングブーツを身につけている。お互いの体温を感じ合うように肌が触れ合い、情欲が際限なく高められていく。

  ……次は何ラウンドまで行けるだろうか。そう思いながら俺は唇を交わした。

  第一話 デルマラクエスト 終

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