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悪党のオスケモ(シマウマ獣人)が売られる際に失禁ショーをさせられる話。
夜の倉庫に、湿った悲鳴が転がった。
「だから言ったろうが。期日はとっくに過ぎてんだよ」
シマウマの獣人は不機嫌に煙草のフィルターを噛み潰す。通り名「縞鋼」は、足元に蹲るイヌ型の獣人の側頭部を、太い足で踏みつけていた。コンクリートに横顔を押しつけられた男がひゅうひゅうと喉を鳴らす。折れた犬歯が床に転がっていた。口からあふれる血と唾液が細かいキズに沿って粘りながら流れている。血と唾液がつこうとも、彼に気にした素振りは微塵もなかった。倒れた相手にかける情けは、毛筋ほどもなかった。
「か、勘弁してくれ、縞鋼さん……あと一週間だけ」
「ほかでも、飽きるくらいに聞いてきた。あてがあるんだろうな?」
煙草の煙を鼻孔から吐き、縞鋼は踏む力をわずかに強めた。
革靴の下で頭蓋骨が軋む。背後に控えた若い衆。ふたりのトカゲ獣人が無表情に腕を組んでいる。
縞鋼の体は巨大だった。身の丈二メートル近い筋肉の城壁。仕立てのいいスーツの上からでも背中の輪郭があけすけであった。太い首に走る縞模様は、薄暗い倉庫の灯りの下で刃物の軌跡さながらに見えた。
「は、はい……や、やっと目処がた、たったんです」
「利息含めて八千万。耳を揃えて明後日の晩までだ。出来なきゃ、次は一家丸ごと身売りだ」
言い終える前に、足を退けた。解放されたイヌ獣人が咳き込み、涙と涎を垂らしながら「すみません」と何度も頭を床に打ちつける。その土下座を一瞥もせず、縞鋼は踵を返した。
倉庫の外は港の風が吹いていた。潮の匂いに混じってガソリンや排ガスの臭気。停めてある黒いセダンに向かいながら、ポケットの携帯を開く。着信が三件。うち一件は組の若頭から。
「……チッ」
舌打ちひとつ。
火のついた煙草を吐き捨てた。
「いけすかねえ」
つまらない取り立ての仕事を口実に逃げてきたが、こうも連絡をされていては言い訳も足りなくなる。
この若頭は組を牛耳ろうとしているだけでなく、汚いやり方は控えるべきだと青臭いことを抜かしていた。
そして、汚いやり方と荒っぽいやり方が目立ち手心のない縞鋼も目の敵にされていた。以前は面と向かって「おまえは極道ではない。ただの畜生道を歩むゴロツキだ」と説教を垂れてきた。
「しゃらくせえやつだ」
思い出し、ぽつりと漏らしてしまう。
手下ふたりと車へ乗り込み、運転手に顎をやった。
「おい、若頭の屋敷へまわせ」
「へい」
エンジン音が木霊する。
この夜。縞鋼はまだ知らなかった。
若頭からの電話は罠だった。呼び出された先で待っていたのは若頭ではなかった。
幹部衆が用意した酒盃。裏社会の秩序を乱しすぎた獣が、目の上の瘤だと切り払われる。
次に目を開けたとき、縞鋼の腕は革枷に縛められ、冷たいビットギャグを噛まされていた。
[newpage]
まったく笑い話だ。
ステージの照明が白く容赦なく降り注ぐ中、縞鋼は奥歯でビットギャグの金属が舌の上。
家畜にされた馬がハミを食わされているかのように、ぎりぎりと平たい歯で忌々しく噛む。
スーツも、シャツも、サラシも、ふんどしも、靴下の一枚すら残されていない。許されてない。
二メートル近い裸体が、全てを晒して競売台の上に立たされている。縞の走る太い首から広い胸板、岩のような腹筋、そして股間。見せ物のように照明を当てられた熱を帯びていた。雄らしい、シマウマらしい巨根。黒い睾丸がアボカドさながらに目立っていた。
まったく、大した笑い話だ。
人を散々食い物にしてきたこの俺が、今度は自分が商品棚に並んでいる。
血肉を喰らい、指を詰めさせ、何人も何人も強盗的に非合法的に社会から世界から消していった。
今度は自分が商品となり、所有物の手で始末される側になった。決してこないと信じた未来だった。
若頭のやつは卑劣と卑怯を嫌っている。酒の席に現れなかったゆえ、発案者ではないとわかっていた。
しかし、誰がしたのかわからないのが気に入らない。呪ってやりたいのに、恨みを向ける先が不透明だ。
ステージの下には闇が広がっていた。観客席の照明は落とされ、顔は見えない。
だが気配と、ざわめきと、光る眼球の反射でわかる。少なくとも三百は超えている。
大物の匂いがする連中。その親族や友人なのか、能天気に楽しそうな囁き声が無数にある。
気に入らねえ、と心から思う。自分たちで手を汚したことない口八丁な連中に晒されている状況が。
「それでは本日の目玉商品。所属は……まあ存じ上げているでしょうが、口にできないものはございます。今宵、闇に紛れ、どこぞへと消える存在でありますから、どうか公の場で話すのは、お控えください」
司会を務めるキツネの獣人が、マイクを通して甲高い声で縞鋼にまつわるものを読み上げていた。
「身長百九十八、体重百二十六。シマウマ、未去勢。筋量は見ての通り、ガチムチというやつでございます。和彫り、背面全面。男性器も実に御立派! 見事なものです。用途は様々でありますものの、出品者からは『性奴隷』と仰せつかっておりますな」
くすくすした陰湿な笑いが場を賑わす。
縞鋼は最初から気づいている。この競売の客層、この見せ方、この剥き方。拘束具。加えて、性器にわざわざスポットライトを当てる悪趣味さ。馬並みの竿と、革紐で吊り上げるように固定された巨大な睾丸を、高級食材のように陳列する理由はひとつだ。
男色。
雄を嬲り、犯し、飼うための用途。
裏社会で名の通った札付きの悪。縞鋼で遊べる権利を得たい。
「くっ」
不意に、下腹に鈍い圧が走った。
反射的に腹筋が硬くなる。鍛え上げた体幹と意地で押し返す。だが波は確実に強くなっていた。
捕縛され恐らく半日は経った。便所に一度も行かされていない。ビットギャグにより、会話は一度もしていない。
膀胱が重い。恥骨の奥で液体が揺れる感覚がある。巨体を支える太い脚に力を込め直す。大腿の筋肉が引き締まる。
歯と金属の隙間から荒い呼吸が漏れる。額に汗が滲んだ。
堪えろ。こんなところで漏らしてたまるか。
縞鋼は自分に言い聞かせた。
極道として。雄として。最後の矜持を、まだ膀胱の中に握り締めていた。
客席から、品定めの視線が無数に突き刺さっていた。ニヤニヤと穢らしい。
クソったれが。心で毒づこうとも、小便垂れになるのを、必死に堪えている。
「おやおや、みなさま御覧いただけますか?」
細目のキツネの司会が扇子をぱちりと鳴らし、ステージを滑るように歩く。
仕立ての良い紺のスーツに派手な金の懐中時計。声は甲高いが、よく通る。
「かの有名な板付きともあろう男が、何やら妙ですね。もじもじと、身を中央へ寄せるようにしていらっしゃいます。トイレを我慢する御子様の仕草をし始めておりますよ」
場を転がすのが巧い男だった。
「こちらの出物、実はこうなってしまったのは理由がございます!」
扇子を広げ、鼻先を隠す。右へ左へ視線を移し、鼻先を扇子で覆い隠す。
「捕縛からここに立つまで薬で眠らせえとりましたが、なんと丸三日。一度も排泄をさせておりません!」
客席がざわついた。
「水分は管理下で摂らせております。が、出す方は一切。丸三日ですよ皆さま。シマウマ。体重百二十六キロの巨躯が溜め込んだ量、ご想像にお任せいたします。後ろのほうは購入者が存分に楽しめばよいと、薬で硬くさせておりますゆえ、言ってしまえば『お通じ』すら許可されておりません」
縞鋼の腹が、照明の下でわずかに膨らんでいるのが見て取れた。
下腹部が内側から張り詰めている。恥骨の奥が熱く脈打っている。
立っているだけで圧が骨に響く。縞鋼は歯を食いしばったまま微動だにしない。
両脚を踏ん張り、蹄がステージの床を軋ませる。後ろ手に縛られた無様な姿で睨む。
口からダラダラと唾液を零しながら、毛先に水分をまといつかせ、ぜえぜえと滑稽に。
「いやはや、プライドと根性は一丁前ですねぇ。さすがは裏で悪鬼羅刹と呼ばれた雄。意地の張り方まで極道仕込みというわけだ。やりすぎのあまり、畜生や餓鬼。極道ぶったゴロツキなど、いろいろな言葉もついて回っておりますがね。こちらをどうぞ」
キツネが薄く笑いながら手元のリモコンを操作する。
ステージ背後の大型ディスプレイに映像が切り替わった。
「では、商品の詳細をご覧いただきましょう」
まず背面。カメラが縞鋼の背中を大写しにする。
白と黒の縞模様の上を、見事な和彫りの昇り龍が背骨に沿って天を目指していた。鱗の一枚一枚に色が入り、波濤を蹴立てて駆け上がる構図。肩甲骨から腰の際まで、汗に濡れた毛並みの下で龍が蠢いているようにすら見えた。皮肉なほど脂汗を染みつき、金糸で織られたかのように神々しい輝きを帯びているのだった。息を切らせる荒々しい呼吸にて、躍動感を持ち生命を宿していた。
「背面一面、昇り龍。彫り師は国内五本の指に入ります某職人。いやはや一流の仕事ですな。この龍をお好きなように這わせるのは、さぞ愉しいかと。いやぁ羨ましいです」
含みのある言い方に、客席から低い笑いが漏れた。
扇子を閉じる。トントン、とマイクを軽く叩き注目を集め話が進んでいく。
次に右腕。牡丹の花弁が筋肉の隆起に沿って咲き乱れる図柄が映し出される。
「右腕、牡丹。極道の華ですな。腕の太さがまた、この力で暴れられたら手がつけられませんので、拘束具はお引き渡しまで外しません」
続いて左腕。髑髏と蓮。死と浄土が絡み合う図案が、トカゲ革のように分厚い皮と、筋繊維の上に刻まれている。
「左腕、髑髏に蓮。なかなか業の深い絵面でございます」
キツネが再びリモコンを押すと、カメラアングルが変わった。今度は全身の正面像。
ディスプレイいっぱいに、縞鋼の裸体が映し出された。首から肩、胸板、腹筋、股間、大腿、脛、縞模様の一本一本まで鮮明に。客席の誰もが、巨大な雄の全貌を舐めるように見ることができた。
「縞模様、ご覧の通り密で均一。毛並みも——洗浄済みですが、元の質が良い」
その間も、縞鋼の下腹は限界に向かって刻一刻と張り詰め続けていた。
大腿の内側がぴくりと痙攣した。
尿道口に熱いものが走ってしまった。
ぴゅ、と尿道を通り抜ける感覚が確かにした。
震えながら、気張りながら、根性を使い尽くす勢いだ。
全身の筋肉を総動員して押し戻す。出してなるものかと。
ビットギャグの咥え、歯が砕けそうなほど顎を締めた。
こめかみに汗が大粒の一筋。縞の上を流れ落ちた。
キツネの細い目が、それを見逃さなかった。
「おや。そろそろですかねぇ?」
扇子の先が、縞鋼の張り詰めた下腹を指す。
「ここに三日分の小水を溜めて、限界を見計らった状態で、十分に耐えましたでしょう。さあ、みなさま、始めましょうか」
キツネが扇子を鳴らした。
「それでは五千万から!」
番号札が上がる。
「六千万」「八千万」
競りの声。縞鋼は苛立つ暇もない。意識の大半はもう腹の中にあった。
膀胱の底が、じわりと痺れてしまっていた。三日かけ溜まった尿が膀胱の壁を内側から押し広げ、腹筋の裏で重たく唸る。
眉間にシワをよせる。腹筋全体を締める。我慢しようと、苦し紛れに両足をあわせるが、肉竿と睾丸が太ももに押され前に出る。
腹筋へ圧力を加え固める。骨盤底の筋肉を締め決壊すまいと忍耐強く待つ。尿道の出口を根性だけで握り潰してきた。だが一時間前から、波が来るたびに堪えきれる余裕が削れていくのがわかっていた。
「一億」
札が上がった。抑えきれないものが神経を貫く。
下腹の奥から尿道に向かって熱い塊が押し寄せる。
括約筋を締め直す。なんとか間に合った。尿道の途中まで流れ込んできた熱さが、竿の内側をじわりと焼いた。出口のすぐ手前で堰き止めている。粘膜が内側から血を溜め、余計な真似をするなと苦痛を与え解放を促してきた。
まだだ。
小便なんざ垂れるんじゃねえ。
せめてステージを降りるまでは。
こんなカスどもの見世物になるか。
クズの思い通りになってたまるかよ。
割れたブロック状の筋肉へ力を込め、汗だらけの両手を握りしめる。
太腿の内側を密着させるように脚を絞った。余計に巨大な睾丸が腿に挟まれて窮屈に押し上げられる。
だがそうしないと、もう姿勢を保てなかった。くすくすとした笑いと、視線が股間部へと殺到していた。
!?
ビクッと肩をすくめてしまった。
竿の先端から、細い一筋が垂れた。
意志とは無関係だった。尿道の奥を締め上げていた筋肉の隙間を、熱い液体がするりとすり抜けた。
亀頭の割れ目から透明な雫が膨らみ、ぷるりと戦慄く。意地を通り抜けたものが重力に負けて落ちた。
ぱた。
ステージの床板に、小さな染みが生まれた。
ほんの、少し。手についた雫を落とす程度の量。
「っ――」
ギャグで声が詰まった。
全身の筋肉を硬直させて止めにかかる。
尿道口をきつく締め、腹筋を引き絞り、止めた。止めたはずだった。
だが竿の先端には雫が一つぶら下がっていた。照明を受け、透明に光る。
二滴目が落ちた。三滴目は早いものだった。
ぱた、ぱた、と。
間隔が短くなっていく。
点が線になろうとしている。
いまにも、放出の寸前だった。
「一億二千万」「一億五千万」
客席は入札に夢中だった。縞鋼の足元の小さな水溜りに注意を払う者はいない。
全員がキツネの読み上げる数字と、ステージ上の裸体の筋肉と入れ墨に視線を注いでいた。
縞鋼は唇を噛んだ。ビットギャグの金属が歯茎に食い込む。痛みで気を紛らわせようとした。
無駄だった。生理現象を意地や根性で耐えるのは限界がある。そんなものとっくに尽きていた。
ちょろ……
竿と睾丸の境目に温水が流れ出す。
忍耐の期限は終わってしまっていた。
膀胱が抱えている量は、常軌を逸している。
おのれが抱えてきたものと、比べようのないほどに大量なのだ。
それが尿道という一本の管に蓄積し、出口を求め肉を圧していた。
ぽた、ぽた、ぽた――――ぽた――
漏れが、止まらない。
竿の先端から途切れなく雫が垂れる。
床の染みが少しずつ広がってしまっていた。
キツネの細い目が、ふとステージの床を見た。
「おや」
マイクを通さない小さな声。だが確かに、細い目で観ていた。
キツネは、何も言わなかった。薄い笑みを浮かべたまま競りを続けた。
愉しんでいる。ぶん殴りたかった。縞鋼の背筋を屈辱が這い上がっていく。
「一億八千万」
その声を聞いた刹那。
目をひん剥き、つむり、堤が崩れた。
最初は細い線だった。竿の先端から一本の筋が、つう、と床に向かって伸びた。
しゃあああああっっっっ
濃厚な体液が産声をあげた。
もう力めない。穴を塞げない。
ゆえに飛び出したものは高く伸び、刹那も途切れなかった。
排泄の液体が糸のように垂れ、床を叩く音がぱたぱたと連なる。
縞鋼は全ての筋肉を総動員した。
出すんじゃねえ! なに漏らしてやがんだよ!
首を引きつらせながら、怯えたみたいに肩をすくませる。毛並みの白い部分が、朱に染まり汗を浮かせる。
腹を引き、肉を締め、歯茎が潰れんばかりに顎を閉ざした。
無意味。感じるのは忍耐の果てに生じる、清々しい開放のみ。さも何かをやり遂げたふうに、生理現象を甘受する。
尿の線が、太くなった。尿道から何かを突き立てたみたいに押し広げられる。
「これはこれは!」
キツネは大仰に扇子で片手の平を打つ。
「想像を超えるような量が詰まっていたのかも知れません。おしっこを漏らしながら、気持ちよさそうな顔ですこと!」
キツネの賑やかしを受け、会場はいっそう喜色に彩られていた。
竿の内側を熱い奔流が駆け抜け、亀頭から勢いをつけて噴き出した。
尿道がこじ開けられるほど、腰が抜けてしまいそうな虚脱感があった。
「体中の力がおしっこと一緒に抜けています。鬼の子と恐れられていたシマウマも、出しているときは、赤子のように腑抜けておりますね!」
ステージに、滑稽な水音が響いた。
客は大いに盛り上がり、手を打った。
じょぼぼぼぼ、じゅぼぼぼぼぼぼっ
もう隠しようのない。恥を晒す以外に道はなかった。
太く力強い放尿が、巨大な竿から真下に落ち、床板を激しく叩いた。
「小水が雨あられと降り注いでいます。ご覧ください、まったく途切れる気配がありませんよ!」
飛沫が足の周りに散り、アンモニア臭がした。
縞模様の脛を細かい雫が跳ね返って濡らしていく。
三日分ともなれば、色は濃く、異臭もキツく雄臭い。
「スポットライトで輝き、裏社会で名を馳せた男とあろうものが、入れ墨を晒し口惜しく見物されるサマは実に情緒的ではありませんか! ちょっとアルコール臭いですね、日本酒を愉しんでいたのでしょうかな?」
客席の空気が、変わった。
大笑いするのではなく魅入っていた。
貶すために、コケにするためにであった。
商品に成り下がる悪党の無様を記憶に刻んでいる。
入札の手が止まり、視線がステージの足元に集まった。
縞鋼の股間から噴き出す尿はバシャバシャと鳴り止まない。
「あらあら」
キツネが扇子で口元を隠しながら、マイクに向かってゆるりと言った。
「眠らされている内に、いったいどれだけ溜まっていたでしょう。ご覧ください皆さま、これが馬並みの膀胱容量です。いやはや崩れた表情が、なんとも気持ちよさそうですね。あんなに唾液をあふれさせて、涙を零し可愛らしいこと」
止まらない。堪えきれない。
決壊した堤防は閉じようがなかった。
腹の底から押し出されるように、熱い汁が尿道を満たしっぱなしだ。竿の中を勢いよく通り抜け、娯楽として客の目を喜ばせる。
括約筋は弛緩していた。肩が下がった。
尿道を締めたい意志を神経は受けつけない。
ステージに水溜りが広がっていく。足裏の周りを浸し、板目の溝に沿って流れ、客席の手前へ向かっていった。
そして抗いがたい快感が来た。
長らく堪えていた。だからこそ、膀胱が空になっていくのは、膿を絞り出すような癒しをもたらした。
純粋な歓びだった。腹筋から頭頂部に、指先まで通う甘いリラックス。両足が、ほんのりと開いてしまう。
膨れ上がった膀胱から内臓も解放され、体の内側が軽くなっていく。たとえるなら湯上がりの脱力感に近しかった。縞鋼の膝が震え、太腿がわなわなと揺れた。
「ふ、ぅ――」
ギャグの隙間から、安心を帯びた呻きを通してしまう。
竿より飛び出す尿の流れは依然として太い。鉛筆ほどもある。
竿から床までの溜めた色をした線は、客にとっては楽しい水芸。
「いやぁ、勢いが衰えませんねぇ。調教後の活用法は多岐にわたりますよ。おっと、失礼。本当に出してもらいたいのは、白いおしっこですものね。そちらは所有者のみのお愉しみと相成ります」
キツネの一言に、客席から低い笑い声と、それ以上の熱気が湧いた。
尿がこれほどに出るのであれば、あのパンパンになった黒い袋は如何ほどに詰めているのかと。
縞鋼は頭を垂れていた。もう顔を上げていられなかった。睨む余力すら削がれていった。視界の端に、自分の竿から延々と流れ落ちる尿の筋が見える。
足元の水溜りに自分の縞模様がぼんやり映っていた。背後のディスプレイに何があるのか、考えたくもなかった。全てが映し出されているのだろう。太い竿の先端から途切れなく零れ落ちる放尿と、それに浸されていく巨体が、客席の全員の目に焼きつけられている。
屈辱だった。
これまでの人生で、これほどの恥はなかった。
人を踏みつけ、血と金を搾り取り、縞鋼と呼ばれて恐れられた自分が。
裸で縛られ衆人環視で小便を漏らし涙している。なのに体は悦んでいた。
膀胱が軽くなるたび、全身を緩やかなる脱力が洗う。満たされていく愉悦。
臍の裏から湧き上がるぞくぞくとした痺れ。手足の筋肉が強張るのをやめた。体内の血が加速していく、さあっとした微かな冷たさ。
開放の快感が恥辱を追い越し、追い越されてはまた追いつく。
息を荒げながら、縞鋼の視界は現実頭皮からか、何も映さない。
ちょろ、ちょろちょろ
線は落ち着きを持っていた。半ばから折れだした。
太い柱が細い糸になり、糸が途切れ途切れの雫になり、ぽた、ぽた、と最後の数滴が竿の先端から名残惜しそうに落ちる。一滴ごとに下腹の奥が微かに痙攣する。糸を手繰り寄せるみたいに量は消え、音が失せ、尿道に辿り着けば最後の一滴が落ちる。
糸が切れた。
ようやく終わった。
ステージの水溜りは縞鋼の蹄の周りに巨大な鏡を作り、模様を投げかけていた。湯気がまだ薄く漂い、縞鋼の脚の間を靄が這っていた。
縞鋼は立っていた。かろうじて倒れまいと意識していたが、腰は覚束ない。
大枚をはたき背中に刻んだ昇り龍は、汗で濡れそぼって光を鈍く弾いていた。両腕の入れ墨も同様だった。
全身から力という力が抜け落ちていた。自分の小便の湖に立っていようが、迫力ある入れ墨とシマウマの柄は羞恥心を誘う飾りに成り果てた。
耳に何も入ってこない。しかし、キツネが手にした木槌を鳴らすのだけは、鼓膜と心の臓を確かに打ち据え、ビクリと震える。
「三億五千万! ありませんか? もうありませんか? これにて今宵は締めくくりにございます!」
景気よく木槌が鳴り、所有者が決定された。
「ありがとうございます、それでは、お気をつけて、お帰りくださいませ!」
キツネの声が、尿の水面を滑るように鳴り渡った。
自分がいくらで売れたのかを、小便まみれのまま聞いた。
ステージの水溜りに映る自分を、縞鋼はぼんやりと見下ろす。
情けない泣きっ面。鼻腔から汁を零して、潤んだ両目を眺める。
なんて、しけた顔してやがんだよ
これまで踏みにじり蹴りつけたやつの顔だった。
情けを求め縋りついた連中と何の違いも見当たらない。
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