鳥を導く星【5】

  「しっかしまさかこんなことになるなんてなぁ。俺、ただ呼ばれて行っただけなのに」

  「…虎徹さん、やっぱり(自分の体質に)気付いてないんですね」

  「は?何を?」

  「いえ、なんでもありません。行きましょう」

  

  

  バーナビーは、虎徹の問いを軽くスルーした。

  

  

  

  

  

  

  『おーっとココでタイガー&バーナビーが始動だぁ!コンビ復活から早1年、バーナビーはこのアカデミーの卒業生として、ワイルドタイガーはその相棒としてどんな活躍を見せてくれるのか!?』

  

  マリオの実況が響き渡る現場を、赤と緑のスーツが駆けていく。

  さすがに能力の発動はまだ早すぎるので出来ないが、とにかくまずは犯人を見つけ出さなければ。

  

  そこでふと、虎徹はさっきまでいた教室でのことを思い出す。

  

  そういえばさっきあの堕天使は、炎がまとわりつく窓に突っ込むようにして入ってきた。

  スーツが頑丈と言えばそれまでだが、しかしぱっと見た限りでは、どこにも炎による損傷はなかったように思う。

  やはりあの炎は実害のないもののようだ。

  

  (やーっぱ奇妙だよな…。しょうがない、もう一度確かめるしかねえか)

  

  隣を走るバーナビーに、あの通信で話そうとして出来なかった説明をしようとした時だった。

  途端にPDAが鳴りだし、誰かと繋げてみればアントニオだった。

  

  「んだよお前、どうした?」

  『どうしたもこうしたも、この建物おかしいぜ!気づけば同じとこに戻ってきたり、窓やら壁やら破壊して外に出てみりゃ結局中に戻っちまう。おい虎徹、お前最初に現場にいたとき何か感じなかったか?』

  「……いや、少なくとも俺はお前が体験したようなことは何もなかったぜ。ただ、」

  「虎徹さん前っ!」

  「へ、ぅわぁああああっ!?」

  

  この反射神経はさすがと言うべきか。

  虎徹は炎にまみれた窓に衝突しかけたことに驚き、とっさに止まる。しかしさすがに勢いが消えるわけではなく、そのままぶつかりはしなかったものの、両手を窓の炎につく体勢になってしまった。

  

  しかしその出来事が、虎徹にこのモヤモヤの答えを導き出したのだった。

  

  「まったく何やってるんですか」

  「あっぶねー…。っていやそんなことより!バニー、俺さっきこの火が奇妙だって言ったの覚えてるよな?」

  「ええ、でも具体的になにが奇妙なのか聞いてないですが」

  「後で説明する。けど、相手の能力がこれでわかったかもしれねえ」

  

  自分が奇妙だと気にかけていた内容プラス、アントニオの報告。

  確信があるとまでは言えないが、可能性は十分にある。

  

  

  

  「この犯人、おそらく“幻覚”を使えるんだ」

  

  [newpage]

  

  (後2人……)

  

  スタークラングことオリオンは、順調に生徒たちを避難させていた。

  白の堕天使の協力もあって、思いのほか早く仕事は済みそうである。

  

  しかしわずか数十分とはいえ、握手を求められたり質問攻めにあったりなど、まるで緊張感のない生徒たちに早くも精神的な疲れが来ているのも確かだった。

  

  (先輩達、犯人見つけられたのかな)

  

  最後の一人を、堕天使が抱えあげる。そして外へと飛び立っていった。

  

  それを確認すると、オリオンは周辺に犯人らしき人物がいないことを確認して、自らも外へ一度避難しようとしてその動きを止めた。

  

  「な……?」

  

  まぎれもなく自分が作り出したはずの脱出ルート。それが、目の前で勝手に変化した。

  窓だったそこは完全な壁に、というよりも今自分がいる教室はただの壁に囲まれた密室になっている。

  そしてさっきまであった炎も、忽然と消えていた。

  

  「なっ、なんだよこれーーーーっ!!!」

  

  予想外の出来事に、オリオンは軽くパニックになった。

  

  

  ―――――――

  

  

  「幻覚…ですか」

  「言いきることはできないが、可能性はあるだろ」

  

  虎徹は、バーナビー達が来るまでに気づいたことや、炎が奇妙だと言った理由を説明した。

  そして実際に触れたことで、可能性の一つではあるが虎徹が導き出したその結論に、バーナビーも理解の意を見せる。

  

  「そういうことでしたか。確かにそれなら、今建物の中にいる皆が振りまわされていることにも説明がつく。…他に可能性が見出せない以上、まずはその可能性を信じてみるしかないでしょうね」

  「なら話は早いな。…問題は、犯人がどこにいるのか、だ」

  

  もしも幻覚をつくることが犯人の能力だとするなら、それは様々なパターンが考えられてくる。

  特に一番厄介なのは、犯人自身が自分に幻覚をかけること。もしそれで景色か何かに同化されでもしたら、まちがいなく見つけることは困難だ。

  

  さてどうしたものか。

  

  「っだぁ!考えても埒が明かねえ、とにかく犯人探すぞ!」

  「そうですね。……?」

  「どうした?」

  「いえ、今何か影が……」

  「影?…ああーっ!?」

  

  バーナビーが気がついた影とやらに、虎徹も意識を向ける。

  なんとなしに上空を見上げてみれば……その視線の先に映ったのはルナティックと、その相棒ではないかと噂される「白の堕天使」だった。

  

  「虎徹さん、あいつらを追いましょう!もしかしたら犯人の居場所を突き止めたのかもしれないっ」

  「ああ、そうだな。いくぞっ」

  

  彼らの行く先に犯人がいるのなら…その結果はもう、わかりきっている。

  

  (急がなけりゃ、犯人が殺される……っ)

  

  それだけはどうしても避けたい。

  過去何度かルナティックによって犯人を殺害されている事は、ヒーローたちにとって苦い記憶でしかないのだ。

  

  とにかく見失わないよう、2人はルナティックと白の堕天使を追うのだった。