鳥を導く星【3】

  ほぼ全てのヒーローに連絡がわたり、テレビカメラもまわり始めたころ。

  相棒から「トラブル吸引体質」と確定されたベテランヒーローは、アカデミーの建物内に例の「一部の生徒」と一緒に取り残されていた。

  

  突然の出来事に、事件発生時から全員気が気ではない様子…と思いきや、彼らは意外に強かった。

  

  「こ、これ今テレビまわってるよな!」

  「うんうんっ、それにもうすぐ他のヒーロー達来てくれるんでしょ!?」

  「私、最近頑張ってる新人のスタークラングに会いたいなー」

  「わかる!すっごい声がキレイだよね」

  「俺はやっぱブルーローズ!」

  「…………」

  

  

  さすがの虎徹も、この状態には唖然としていた。

  取り残された直後はお互いに泣きながら助けを求めていた生徒たちが、わずか数十分でここまでの変貌を遂げたのだから。

  

  

  「お前らスゲーな……」

  「だって、ワイルドタイガーさんもいてくれますし!こんな体験、普通ないしっ」

  「あっ、そう……」

  

  そりゃどーも、と軽く返してとにかくどう切り抜けるかに思考を戻す虎徹。

  相手はNEXT、それは確実だ。だがなぜアカデミーを狙ったのか、その根本的な理由がわからない。

  さらに言えば相手の能力も、とりあえずは炎を扱うのだろうという推測しかできていないのが正直なところだ。

  

  しかしその炎も、ファイアーエンブレムやルナティックとはまた性質が異なるようで、ますますわからない。

  

  今の状態もなんとも奇妙な状態だった。自分たちがいるこの教室(2階)の扉、窓、そこから続く廊下の下に降りる階段…とにかく脱出可能な出入り口のみという部分部分に炎がついている。

  熱も感じるし、煙も出ている。だが不自然なことに、もう何十分と燃え続けている個所には何も変化が訪れていないのだ。

  

  (なんなんだこの奇妙な火は…。燃えているのに、燃えていない?本物じゃないってことか?)

  

  そこまで考えていたとき、外から歓声が聞こえた。

  もしかしたら誰かしらヒーローが到着したのかもしれない、そう思ったと同時に手首のPDAが鳴りだした。

  

  ピッ

  

  「俺だ」

  『僕です。トランスポーターと一緒に向かっていますが、あと5分くらいで到着できそうです。そちらはどうですか?』

  「いや、それが奇妙なところがあってな…」

  『奇妙?貴方の推測や感は意外に頼りになりますからね…話を聴いても?』

  「意外は余計だ!…奇妙って言うのは、この火の性質だよ。ファイアーエンブレムともルナティックとも、何かが違う……!?」

  

  そこまで言いかけた時に、窓が割れる音が響いた。

  しかも2階のこの部屋の、だ。先ほどの歓声といい、やはり誰かヒーローが来てくれたらしい。

  

  しかしその割れた窓のほうを見て、虎徹は言葉を失った。

  

  「お、お前は……」

  

  虎徹や生徒達の目の前にいたのは、見知ったヒーローの誰かではなく

  

  1年ほど前からたびたび現れるようになった、ヒーローのようにスーツを身につけた姿で背に羽が生えているNEXT。

  

  メディアが勝手に名付けた、その名は

  

  「…白の、堕天使…」

  [newpage]

  

  その背に広がった、輝く白い羽。それは実際に生えているわけではなく…明らかに能力によって形作られたという感じのものである。その姿はまるで天使そのもので、出現当初はそれはもうえらく騒がれた。

  

  アポロンメディアの社員や、ヒーローメンバーの間でも、しばらくはその話題で持ち切りだったくらいだ。

  

  身長、体格からおそらく男性だろうと推測はされているが、何しろ出現頻度がそれほど多いわけではないこともあって1年経過する今でもとにかく謎だらけな存在だった。

  

  しかし、そのパターンからいくつか考えられることがあるのも事実だ。

  

  まず、彼が出現するときはほぼ確実に、その事件を引き起こしたのがNEXTである場合なのがほとんどということ。

  

  決して一言も声を出さないこと。

  

  他のヒーローと同じように人命救助も行うこと。

  

  そして最も気にかかるのは、ルナティックのサポートをするような動きをとること。

  

  

  その後、ルナティックと同じダークヒーローなのかと一部が騒ぎたてたことをきっかけに、メディアは単なる推測の域を出ないまま、「ダークヒーローによって闇に落とされた天使」などというイメージを勝手に作り上げた。

  

  結局のところ、その呼び名を本人が否定することもなく、実際に何と呼べば良いのか謎の存在だったために今ではすっかり定着している。

  

  (まさかこんな近くでお目にかかれるなんてなぁー)

  

  まじまじとその存在を見つめる虎徹。そして彼の背後ではさらに生徒たちがヒートアップした状態で騒いでいる。

  白の堕天使は、相変わらずの無言で虎徹と生徒達のほうへ向かって歩き出した。

  

  「…あんた、もしかしてこいつらを助けに来てくれたのか?」

  「………」

  

  言葉で答えることはなかったが、しかし頷くことで虎徹からの問いに「yes」と表現したようだ。

  たったそれだけのやりとりだったが、虎徹は少し考え、信じてみることにした。

  

  「俺の相棒と後輩が、後少しで到着するんだが…あんたなら上手いこと助け出してくれそうだ。俺はあのNEXTを追いたいんでな、頼んでも良いか?」

  

  再び頷かれた。

  それを確認した虎徹は、PDAに向かって話しかける。

  

  「ってわけだ。悪いがバニー、スタークラングを俺がいるこの2階へ連れてきたら、お前は俺と犯人追い詰めるぞ」

  『まったく、またそうやって勝手に…。ですが、そこに堕天使がいるというなら、そうしたほうがいいかもしれませんね』

  

  堕天使がいるということは、ルナティックも近くにいるのだろうから。

  

  「そういうこった。…頼んだぜ、堕天使さん」