夏である。夏といえばそう、祭りの季節である。七夕祭り、夏祭り。裸祭りに、コミケ。夏の夕暮れ、まだまだ蒸し暑かれど、日差しがなくなり、幾分か暑さの和らいだ頃。空が茜色と、菫色の入り混じった色合いに染まる頃。狼の青年、村野曜一(むらのよういち)は、自宅のボロアパ-トで、型落ちのエアコンがガタガタと稼働する中、宅配ピザのチラシを眺めていた。
「照り焼きチキン、マルゲリ-タ、シ-フ-ド...ううん、どれも美味そうで悩んじまうなあ。いっそ全部...いやいや早まるなし俺」
フロ-リングに胡坐を掻き、腕組みしながらうんうん唸っていると、不意にインタ-ホンが鳴る。
「はい」
「おっす、来たぞお」
ドアカメラなどというハイテックなものはなく、ドアの向こうから聞こえてきた声に、曜一はぱっと顔を輝かせ、尻尾をブンブン振りながら立ち上がる。
「いらっしゃい!待ってたぜい!」
「わはは!その尻尾を見ればわかるぜえ!そんなに俺が待ち遠しかったかよ?可愛い奴だなあおい!」
「うわやめろって!早く入れよ!」
玄関先で抱き付いてこようとする中年の虎獣人、赤城丹雄(あかぎあきお)を慌てて室内に引き入れ、曜一は焦ったように鍵をかける。室内にいても、隣室のテレビの音が聞こえてしまうようなボロアパ-トだ。
迂闊にああでもないこうでもないとイチャ付けば、あっさりホモだとバレてしまうだろう。バレて困ることがあるのかと問われれば、あるとしか答えようがないのがこの日本というお国柄。この全身白髪混じりの虎の爺さ...虎のおっさんと付き合ってもう一カ月になるというのに、未だにエッチはラブホテル。そんな曜一は今夜、丹雄とこの部屋から花火を観る約束をしていた。
ボロアパ-トであるが、三階建てであることが幸いし、窓からやや遠くのタ-ミナル駅近くでやっている花火大会が拝めるのである。付き合って初めてのおうちデ-ト。丹雄がその手に提げているビニル袋の中でキンッキンに冷えた
ビ-ルと、熱熱の宅配ピザで、花火を肴に晩酌を楽しもう、というのが今回の魂胆であった。
「それじゃあ、さっさとピザ頼んじまおうぜ!花火大会まで、あと三十分ぐらいだからさ!」
「おお!どれも美味そうじゃねえか!餃子ピザとかレバニラピザはねえのか?」
「あるわけないだろ!ラ-メン屋の出前じゃねえんだぞ!」
「冗談だ冗談!そうさなあ、俺はこのグラタン風ソ-セ-ジ&ミ-トボ-ルにすっかな!」
「じゃあ俺は、ええと、デラックスミックスでいいや!」
今は出前も電話でなく、アプリから注文できる時代である。ピザの注文を終えたふたりは、早速缶ビ-ルで乾杯することにした。水滴で濡れたビ-ルの缶は、火照った手の平が痛いほどに冷えており、心地良い。
「かんぱ-い!」
「おう!付き合って一カ月記念とかいう奴だな!」
「声がデカイって!」
階下にも隣にも声が筒抜けになりやすいボロアパ-トである。体も声も、ついでにアソコもデカイおっさん虎の口を慌てて塞ぎながら、それでも曜一は、尻尾を振りつつ缶ビ-ルに口を付ける。心なしか顔が赤いのは、決してアルコ-ルのせいだけではなかろう。
☆
「ン~ン、あっちぃ~」
互いにビールを呑みながら、届いた宅配ピザを肴にしていた曜一と丹雄。エアコンを利かせているにも関わらずアルコールと熱々のピザのおかげで風呂上りのように体温が熱く出来上がっており、流した汗がシャツとパンツに引っ付く。丹雄など「あっちぃ~」と言いながら既に上半身裸になってしまっていた。
「ん! ……もう時間じゃね?」
缶ビールに口付けていたその時、曜一は狼特有の耳をピクピクッと震わせて窓の方に向ける。擦りガラス越しの外を見ればすっかり暗くなっており既に夜。そして微かに爆発音が聞こえてきた。
「どれどれ……おーう始まってんじゃあねーか!」
「オッサン!落ちるんじゃねえぞ!」
「わーってるっての!そこまで耄碌しちゃあいねえよ!」
丹雄は酒のせいか多少フラつきながら立ち上がると片手に飲み掛けの缶ビールを握ったまま窓の方へと千鳥足。鍵を開けて引き戸を開ければ上は暗い夜空。下は最寄りのスーパーや住宅の灯り。だが暗闇のはずの空に、一瞬の閃光――花火が打ち上がった。丹雄の「オイ、来いよ!」という手招きのまま曜一は立ち上がり、丹雄の隣でミニベランダの手すりに身を乗り出す。辛うじて洗濯物を干すスペースと、エアコンの室外機を置くスペースがあるだけの、人が立ち入ることはできないミニベランダだが、身を乗り出すにはちょうどよい塩梅であった。
「おー……やっぱイイ眺めだなァ……」
次々とドンドンパラパラと花火が煌めくのを見て、曜一は輝ける夜空に目が釘付けになる。恋人と眺めてるから……というのもあるのかもしれないが、ただただ単純に「楽しい」と。今頃、あの花火を下から見上げているであろう子供らのように、打ち上げ花火に純粋に感動し、楽しめる童心がまだまだ残っていたのかもしれないと。自分自身がそう思えるということに小さな驚きと感動を抱く曜一。
「おおっ、オッサン見ろよ。あの花火なんか、何かのアニメのキャラっぽい形してンッ!?」
定番の連続打ち上げ花火の次は、遊び心のある変わった花火が打ちあがり始めたのを見た曜一は、ビールでも取りに行ったのか隣から離れて部屋の中に戻ってしまった丹雄を呼ぼうとした……しかし、返事の代わりにズボンとパンツを一気に下にズリ下ろされてしまったのだ。
「おおおオッサン? ななな何をする――」
「ナニをするんだよ」
曜一が上半身を捻って後ろを振り返ると、丹雄は「グヘヘ」とマズルの周りを舌なめずりして曜一の露わになった尻をペロリと舐める。突然のことで猛抗議しようとした曜一だったがそれよりも先に丹雄の熱くて粘り気のある舌使いとその感触を受け「アヒィ……」と情けない悲鳴を上げてからは抵抗の意思を完全に喪ってしまった。
「ハァ……アア……アーおっさん……やめろよぉ」
必死になって言葉を紡いだ曜一は「やめろ」と伝えたものの、熱に浮かされたかのような虚ろな目と半端に開いた口の端からチロリとはみ出た舌先、そして粗い息遣いは、情欲に支配された発情したケダモノのそれである。
「やめろだぁ? ホントはブチ犯されたくてウズウズしてたんだろ! なんだぁこのケツは!」
丹雄が舌先でペロリッ。そしてゴツゴツとした太長い人差し指をズボッと突っ込めば、窄んでいた肛門がすぐさま緩くなり始めていき、次第にクパクパとまるで生きているかのように開閉を繰り返す。そしてその下で萎えていた曜一のチンポもムクムクムクと硬くなりそそり立った。
「ケツが言ってるぜぇ……チンポが欲しい、チンポが欲しいってよお!」
「バッカ……オッサン……こんなとこでぇ!」
ミニベランダの手すりに上半身をもたれている曜一は下半身を……偶然にも尻を突き出しているような体勢にある。そんな曜一の背後で丹雄がカチャカチャとズボンのベルトを外すとズボンとパンツを足元に脱ぎ下ろした。丹雄のチンポは熱く硬く太く滾っており、硬く張り過ぎて亀頭部分が水晶のようにピカピカと光を反射するほど。そんな熱く硬い亀頭部分が弛んだ肛門付近にヌルリと触れれば「アヒィン」と情けない喘ぎ声を漏らす曜一。
「そうだイイコト思いついた……花火が打ち上がっている最中ずっとバコろうぜ! そうすりゃあちょっとした音も喘ぎ声も花火の音で掻き消されるだろ?」
「ハァアア? あ、アホか……そんなことダメ――」
「うるせぇ! お前こそケツもチンポも熟れちまってるだろうが!」
丹雄が曜一の尻頬をパシィンと引っ叩くと曜一は再び情けない喘ぎ声を上げて、もうそれ以上は抵抗も文句も言わなくなった……観念したようだ。
「打ち上げ花火は一時間だったな? たっぷり一時間愉しませてもらう、ぜっと!」
「あああああ!」
丹雄が「ぜっと!」と言うや否や、曜一の腰を両腕で掴み位置を固定させて奮い立ったチンポを突っ込み入れた。突然の異物の挿入に曜一は苦痛と……そして快楽のあまり叫んでしまった。しかしここは壁の薄いアパートだということは忘れておらず、文字通り歯を食い縛って喘ぎ声を抑えた。
「ンッ……ンンンッ……ンッ」
曜一は叫び声も喘ぎ声も上げないようにしていたがそれでも食い縛った歯の隙間から苦しい声が漏れる。おまけに丹雄ときたら悪戯めいた思い付きなのか花火の音に合わせて腰を打ち付けてきているようで、花火が「ドン、ドンドン ドン」と打ち上がれば、腰も「パン、パンパンパン、パン」とリズミカルに打ち付けてきて曜一の腸内を丹念に抉る。
「あ、お隣さん……こんばんはあ。花火スゴかですとね~」
その時だった、丹雄は腰の打ち付けを、曜一はグッと喘ぎ声を止めた。挨拶をしてきたのは曜一たちの居る部屋の右隣に住む中年の猪の男だった。彼もまたベランダから花火を見ていたようで、フと隣のベランダに目をやれば、お隣さんである若い狼がベランダから上半身を乗り出して花火を眺めているではないか。良き隣人として挨拶の一つくらいはしないとという社会人として常識的なマナーから故のことだろう。
しかしお隣さんが常識的な良き隣人であればあるほど、花火に託けてホモセックスに興じているという情けなさと惨めさと恥ずかしさ……そして背徳感で背中の毛がゾワゾワしてしまう曜一。自分はなんてことをしているのかと。いや何より、上手く部屋の中と下半身の状況が見えてないのが不幸中の幸いだったが、何かの拍子でバレたらどうするのかと。
「え、ええそうですねぇホントにッヒッ!」
曜一は何とかして作り笑いを浮かべて良き隣人で花火を眺めていた狼の青年を装うとしたが、動きを止めていた丹雄が再び花火のリズムに合わせてチンポの挿入と排出を始めたもので言葉を紡いでいる最中に小さく叫んでしまった。
「ん! どんとかしましたがね? 中で何か――」
「わああああああ大丈夫大丈夫ですから! あの……せ、洗濯バサミ踏んじゃっただけ! ネコ踏んじゃったならぬ洗濯バサミ踏んじゃったなんつってへへへ……」
隣人の猪からすれば好青年に見える狼がいきなり目を見開いて甲高い悲鳴をあげた、おまけに狼の住む部屋に誰かヒトの気配を感じたのだ。彼の身に何かあったのかと、ベランダにもたれていた上半身を更に乗り出して狼の部屋の様子を覗おうとした。だがそうはさせぬと狼は上半身だけを大きく乗り出して両手を振って猪を止めてヘタな言い訳をする。
「ほうですか……ん? おっと、いけん! こりゃあ焦げちまう――」
曜一本人が大丈夫だと言い張るので、乗り出していた上半身を引っ込めた猪。鼻をフンフンと鳴らしたかと思うと部屋の中へと戻って行った。どうやら料理の最中だったようで、コンロに火を点けたままだった、のだろうか。何はともあれ、一先ずは難を逃れたとホッと一安心。
「へへへ、危なかったなぁっと!」
いや一安心などしてる場合ではなかった。再び花火のリズムに合わせて丹雄が腰を打ち付けてチンポを捻じ込んできたのだ。しかも先ほどのお隣さんにバレるかもしれないという背徳感が性欲に繋がりますます興奮したようで、リズムに合わせつつも一打ち一打ちが力強く、深い。
「ひぎっ! あがっ! うあっ! ああっ!」
昂った丹雄の猛攻により歯を食い縛ることも出来なくなった曜一は口を大きく開けて悲鳴を上げてしまう。だがそれでも、またお隣さんとかにバレてしまうという意思が辛うじて勝ち、その悲鳴は蚊のようにか細いものだった。しかし声こそは出なくてもその蕩けた表情――涙も鼻水も涎も垂れ流し善がり狂う様は丸出しであった。
――ドドドドドドドドドドド。
もはや花火なんて見てない曜一と丹雄だったが、一定間隔だった花火の音が止まなくなった。最後の〆の連続打ち上げ花火だ。それに伴い丹雄の腰の打ち付けも〆とばかりにマッタ無し。
「ああああああああああもおおおおおおおおおおだめええええええええええ!」
「おおおおイけイけ! 俺もイくぞ! 俺の熱い花火受け取ってくれえええ!」
花火と丹雄が最後の一打ち「ドパアン」という音。花火は終わった、そして最後の一打ちで腰を打ち付けたまま丹雄はチンポを曜一の腸の奥の奥にまで捻じ込み、熱く滾った花火ザーメンを注ぎ入れた。
「あ……あ……あ……」
苦痛も快楽も花火も終わった曜一。しかし同時に、もう終わってしまったという虚無感を覚えた。それは花火のことなのか、それとも――。
「ふぅ……花火見損ねたなぁ」
丹雄が一息吐くと、ニュポッと曜一の肛門からチンポを抜き出した。緩くなってしまった曜一の肛門からボタッボタッと精液が溢れ出し、足元のフローリングに垂れた。フローリングに垂れて飛沫になったその形は奇しくも打ち上げ花火に似ていた。
☆
「おはようございまあす」
「あ、おはようございます!」
翌朝。曜一が玄関の扉を開けると、ちょうど隣の部屋の猪が出てきたところであった。
「昨夜はすごかったとですねえ」
「え!?」
「花火」
「あ、そうですよね!いやあ凄かったですねあはは!花火!」
よもや丹雄との情事がバレてしまっていたのかと一瞬ドキリとした曜一であったが、猪の人畜無害そうな笑顔に、慌てて早とちりを恥じ入るように愛想笑いを浮かべる。
結局、あの後丹雄は、明日も朝っぱらから現場の仕事があるからと、ピザも中途半端に食い散らかしたまま、ビ-ルの空き缶も飲み掛けのまま、ビクビクと窓際で土下座をするかのようにへたり込んでしまい、ぐったりと這い蹲る曜一さえもを全部放置して、だははと上機嫌で帰っていってしまったのだ。
前からガサツなオッサンだとは思っていたが、あそこまで振り回されたとなると、これから先の付き合いに一抹の不安がよぎらないでもない。が、結局のところ、昨夜はどうだったよ?と問われれば、すげえよかった、と正直に答えてしまうほかなく。エロ親父とエロ犬と、類は友を呼ぶ、ということであろうか。
「ほら、お前も挨拶せんね!」
「...おはよう、ございます」
「あ、おはようございっ!?」
猪が促すと、その背後から、にょっきりと身長190cm近い、巨漢の獅子が出てきた。全身のバルクはまるで現役のアスリ-トのようであったが、その顔立ちはやや幼く、ともすれば曜一よりも年下に見える。ひょっとしたら、運動部に所属する大学生、下手をすれば、高校生であるのかもしれない。
だが、それ以上に曜一の目を引いたのは、その獅子の青年が、タンクトップにホットパンツ、足元はビ-チサンダルという、ほとんど半裸に近いいでたちで、恥ずかしそうにおずおずと出てきたことだ。そしてその乳首。タンクトップの横からチラチラと見えてしまっている、金時豆ほどもある大きさの乳首はその幼い風貌にまるで見合わぬほどに黒ずみ、右側の乳首を覆う周辺の毛が少し、香ばしくなっている。
『おっといけん!こりゃあ焦げちまう--』
昨夜の猪の言葉を思い出し、曜一は目を丸くする。そういえば、だ。猪のおっさんは、焦げちまうであろう何かの火を止めに室内に引っ込んだきり、再び出てくることはなかったような?曜一の脳裏に、淫靡な想像が浮かび上がる。
窓辺に立ち、ミニベランダに身を乗り出して、花火を眺める下半身裸の猪。そしてその猪の股間に顔を埋め、猪のチンポと窓枠に頭を挟まれて、苦悶しながらも気持ちよさそうに呻きながら、倍以上も歳の離れた中年猪の、臭~いチンポに奉仕する、若き獅子の青年。その乳首とチンポには、底の部分を少しだけ溶かされ、へばり付く火の灯された低温ロウソクがダラダラと、真っ赤なロウを滴らせ...。
全ては曜一の、邪な想像にすぎないのかもしれない。このふたりはただの知り合いか何かで、焦げてしまいそうになっていたのは乳首ではなく、猪が作っていたおつまみか何かで、獅子の片胸、その毛先がほんの少しだけ焦げているのは、焦げているのは...。
「へっへ!昨夜はお互い、えろう楽しんだみたいですけえ、どうです?今度は、お宅さんとわしらで、たまにはお隣さん同士、四人で仲よう親交を深める、ちゅうんは!考えてみりゃあ、引っ越しの挨拶もまだじゃったですし?」
「いっ!?」
「っ!」
猪は嗤いながら、背後に立つ獅子のホットパンツの股間を、むんずと鷲掴みにしてみせる。その仕草、その手つき。獅子は抵抗するでもなく、濡れた瞳で猪と曜一を交互に見やっている。間違いない、このふたり、できてやがる!
「そそそそうですね!その、もし機会があればぜひ!」
あまりのなりゆきに、そんじゃ俺急いでるんで!とガチャガチャと慌ただしい手振りで施錠し、逃げるように立ち去ってゆくことしかできない曜一。真っ赤な顔で俯きながらも、猪に鷲掴みにされた股間をじゅんといきりたたせる獅子の学生。そしてそのふたりをニヤニヤと眺めながら、顎を擦る猪。
早朝のうちからもうじりじりと蝉がけたたましく鳴いている、季節はまさに夏である。夏といえばそう、祭りの季節である。あちこちで盛んに行われるお祭りは、毎週のようにどこかで開催され。そういえば、と曜一は、小走りにアパ-トの階段を駆け下りながら、思い出す。次の花火大会は四日後、近所の運動公園で行われる夏祭りで、開催されるはずだったな、と。
To be continued...??