AdAd
  
【琥珀の牢】狸達【鏑木森の悪鬼】

  鏑木森の中を行く四人の人影、、、

  

  

  前を行く大狸が頭を振りつつ

  「なあ、旦那

  その狸親父をとっ捕まえて"毛刈り"してやるって言うのはいいんだけどよ......

  こう、その、、なんつーか、、、当てはあんのかよ?」

  此処に来てその至極真っ当な"疑問"を口にする辺りに人の良さが伺えるその問いに

  

  太犬がニィと笑って答える言葉は

  「嫌やなぁ、、、有る訳ないやんか」

  

  思わずコケる大狸に、苦笑いする若虎........大熊猫はニコニコ笑っている

  「孝之助らしいアルネ」

  「孝さん、また....」

  

  ガバっと跳ね起きた大狸が太犬の頭を両の拳でぐりぐりと、、、、

  もはや"恩ある身"とか"ささやかに鬱憤を晴らす"という概念は念頭から消え失せたようである

  「お前はーーー! こんな時ぐらい真面目にやれーーーーー!」

  「あだ、あだだだ、、、あんちゃん、堪忍や~~」

  

  昇月村での"いつもの光景?"が此処でも繰り広げられる....若虎が止めに入るのもいつも事

  「箏さん、、もうその辺で勘弁して上げてください」

  若虎の困った笑顔で取り成す言葉に"むぅ"という表情(カオ)のまま、やむなく手を離す大狸

  「もう....孝さんも箏さん相手にちょっと意地悪ですよ」

  「いや~~普通此処まで来る間に気が付かんかなぁ、、、って思うてもうて、つい....

  元"忍"やのに........」

  "ぷぷぷ"と笑いを堪える太犬に

  「やめてねぇよ!」

  と"現役"である事を主張して今度は頭から"がるる"と噛み付きそうな勢いの大狸、、、、

  

  「宗吉、こっちの狸さんも面白いアルネ」

  ニコニコ笑って二人のやり取りを見ている大熊猫に力無く笑う若虎、、、、

  

  ......周りの状況(敵地の中)を差し置いてつくづく平和である......

  

  

  

  

  

  

  そんな大狸の顔が急に厳しい物に変わる、、、

  「おい、......気をつけろよ」

  静かに、四人のみに聞こえる様に囁くと遠目には判らぬ様に槍を握り直すと

  「コッチからも来るアルネ......」

  大熊猫が後ろを見ずに告げてくる..........そんな中、一人太犬は涼しい顔、、、

  「はて、、どないされる御積りやろね......」

  「どないって、、囲まれかけてんだぞ、旦那?」

  先程まで敵地である事を忘れかけて大声上げてた自身に怒るやら後悔するやら色んな感情が

  湧き上がるのをどうにか押し殺して、、、しかし言葉に焦りが滲む大狸に

  「あんちゃん、、、北天門から此処までの間に"アイツら(悪鬼)"、一匹でも見た事あった?」

  「いや、北天門抜けてからは一回も、、、、、!?」

  太犬の言葉にハッとする

  ...そういや、コッチ(鏑木森の中)来て、もっと多くのアイツら(悪鬼)に襲われるモンだと

  思ってたら、、、てっきり大方北天門の向こうへ出払ったお陰かと思ってたけどよ、、

  自身そういった"油断"をせぬよう気を引き締めようとしていた所で太犬の返答につい、大声を

  上げてしまった訳であるが、、、

  「旦那、、、ひょっとして"見張られてた事"気づいてたのか?」

  焦りが驚きに変わり、まじまじと見つめる大狸に

  「いんや、どっちか言うと、、、

  "こうなって欲しい"って思うて此処に来たんやけどね」

  ほんの少しだけ"申し訳無さそう"な笑顔で返す太犬、、、

  「どういう事アルカ?」

  大熊猫の訝しげな問いに

  「二人共ごめん、俺だけ知らされてたんだけど、、、

  元々向こうから見つけて貰うつもりだったんだよ

  この(鏑木森の)中でコッチから見つけるなんて絶対無理だから、、、」

  こっち(若虎)は本当に申し訳無さそうな笑顔で返す

  「いや、しかしよ、、、

  本人が出て来てくれるか判んねぇし、、第一コレじゃ"捕まえる"なんて......!!」

  自身の言葉に愕然とする、、、、

  ...初めから"捕まえる"つもりが無ぇ?

  「旦那、、いったいどういう.......」

  「孝之助....?」

  大狸と大熊猫が揃って見つめてくる中、、

  「なあ、二人共、、、この場はうちに任せてくれへんかな......

  後、、、頼みがあるんやけど、ええか?」

  無言のままの二人を前に太犬が続ける

  「もしもの時は宗だけでも逃がしてやってくれへんかな」

  あくまでも笑顔のまま、、、、

  「ちょ!」

  「孝之助!」

  二人を振り返らずに前に進み出て

  「お客さんが来なはったみたいやで、、、」

  

  

  

  

  

  「人の庭(実験場)で随分と騒がしい者達だな」

  目の前より近づいてくる壮年の狸、、、供に悪鬼二体を連れて、、

  「殻繰師-五百枝蔵人殿とお見受けしましたが、間違い有りませんやろか?」

  そう深々と頭を下げる太犬に

  「だとしたらどうするのかね? 私を捕まえて"毛刈り"とやらをするとでも?

  諸君が私の実験材料(悪鬼)になる可能性を考慮した方が良いのではないかね?」

  嘲笑するのでも無く、、、只、淡々と連ねる言葉に熱は篭らず、、

  却って聞く者の心の"温もり"を奪っていくかの様........

  冷たい沈黙が辺りを支配する......あの大熊猫でさえ黙りこんでしまう

  

  目の前に連れた悪鬼二体に、両の背後から近づく六体づつの悪鬼、

  門の外で会ったモノよりも敏捷な感じがするのは気の所為か....

  計十四体の悪鬼に囲まれた状態では流石に打つ手は無い様に思われる、、

  

  「ご高名は兼ね兼ねお聞きしております、、稀代の殻繰師とか、、、

  全ての時間を研究に費やすというお話も........それで

  そんな忙しい御方がうちらにどんな用事がありますやろか?」

  この状況を欠片も気にかける様子も無くニィと笑って答える太犬に周りが呆気にとられる、、、

  先程まで"目の前の狸を捕まえに来たのでは無かったのか?"と、、

  

  「幅広く実験材料を集めるのも研究の一環でね....今回はつまらん結果しか出そうもないが」

  面白くなさそうに四人を睨め付ける、、、"生きた心地がしなかった"とは大狸の後の言葉

  

  そんな言葉に太犬は

  「わざわざそないな事言いに来てくだはるとは、、、案外酔狂な方なんですなぁ」

  しみじみとした物言いに更に混迷を深める周囲の者達、、、太犬の意図が見えてこない

  只、二人のやり取りを見守るのみ、、、

  

  様子が変わったのは狸の方、、、

  「いい加減、私の時間を浪費させる意味を理解して貰った方がいいようだな、、

  "何"をしに来た?」

  物言いが変わった訳では無い、、しかしその言葉には先程まで無かった"熱"を帯びていて、、

  

  「"何者"か? ではあらへんのですか、この場合?」

  少しだけ語気を強める茶色の毛玉、、、笑顔を貼りつけたまま眼鏡の奥の目は笑っていない

  

  「そんな事(自己紹介?)に時間を費やせと?」

  「互いの認識がずれていた故の互いが望まぬ結末は"商い"ではよくある話なんでねぇ、、、

  せやから此処で互いのずれを正すのは決して無駄な事やとは思わんのですけど」

  

  ふんっと鼻を鳴らすと

  「凡百な見識だが、間違っているとは言えんな....いいだろう、私が諸君をどの様に認識して

  いるかを述べるとしよう、、、此れで私の情報収集能力の一端を自ら暴露する事を考えても

  これ以上此処で無駄な時間を費やす事に比べたら許容出来る範囲だ」

  傲然と言葉を放つ狸に頭を下げる太犬....だが、どうやら狸にはそれが益々面白く無いらしく

  「回答①、

  黒田孝之助、

  商人、、本土にて廻船問屋を営む黒田屋の長男、、、公には半年前に海に落ちて"死亡"した

  とされているが昇月村にて命を取り留め、そのまま謀反人共へ加担

  宗吉、

  漁師の息子、、、出生(生まれ)を考えれば、学はある方だろう、、

  黒田孝之助と行動を共にする事が多し

  『桃鈴零』、

  幕府湾に来ている西域の商船『白龍』の乗組員の一人、、今はこれしか判らん

  最後、

  其処の大狸は七割五分の確率で......些か不本意な数字だが

  箏雪、

  元忍び、、先の"手綱街道の戦い"にて死亡したとされているが、

  存命してそのまま謀反人共へ加担、、

  此処までで何か訂正する事があるか?」

  

  くっと大狸が顔を隠した布の下で歯を噛み締める、、、まさか、もうばれていたとは、、

  弟(華焔)の事に思いを馳せる、、このまま天壊の上に報告されたら、、、

  槍を握り締める拳に我知らず力が入る

  ...此処で討ち取りさえすれば........

  

  「無駄な労力は嫌いなのでね、、この事を向こう(天壊)に知らせるつもりは"今は"無い

  ついでに言っておくが、自分の行動で他の三人を巻き添えにする可能性を考慮する事を

  お勧めする」

  大狸の方を向いてつまらなそうに言葉を続ける壮年の狸

  「うちらの事、随分と調べてはったんですな、、、」

  少々感嘆した様子で話す太犬に

  「先の馬鹿騒ぎ(手綱街道の戦い)で、少し興味を引く事象の内の一つを調べていたついでだ

  諸君らに興味は無い」

  言葉とは裏腹にその声には苛立ちが少々滲んでいる様に聞こえるのは気の所為か、、、

  「回答①ちゅう事は、②以降があるんでんな?」

  此処まで正体を明らかにされたというのにむしろ太犬は愉しげ、、早く"続き"を聞きたいと

  

  

  「回答②、

  黒田孝之助、、、一部で"親戚"と呼ばれる集団の一員

  "親戚"とは国も生まれも種族さえも様々な者達で構成される目的不明の集団、、

  只、何か歴史的に大きな転換点にて、その傍らにて目撃される事が多々ある

  一説には、全ての事象を記録し続けて居り、その知識は膨大な物とも言われている

  此れには訂正は入るのか?」

  言い終えた狸が太犬を睨め付ける、、、

  「何とも、まあ、、恥ずかしうなりますな......そんな大層な物やあらへんのやけど

  せやけど、中々どうして、、色々調べられておられるんですなぁ」

  感心とも面白がっているとも取れる太犬の言葉に、、、ふんっと鼻を鳴らすと

  「くだらん噂話を繋ぎあわせただけだ、、

  最初に聞いた時には一笑に付したのだがな、、"そんな物"が存在する訳が無いと、、」

  「と、言わはりますと、、?」

  「そんな噂の十分の一でも本当だとして、、、

  どうやってそれだけの知識を保存して伝えているのだ?

  そして、どうやって新たな知識を記録していく?

  更に閲覧をどうする?

  真っ当に書物の形で保存されていたら、その書庫は町一つの大きさでは済まない筈だ

  だが噂が立った場所には、そんな施設の欠片も無い、、、

  長命種の特殊な個体が"書庫"の役割を果たしている可能性も考えたが、、どの道そこには

  常に人集りが出来ている筈、、、正体の秘匿など不可能だ

  仮にそんな事を可能にする"物"を仮定したとして、、、

  どうやっても荒唐無稽な結論しか出てこない、、、だから、放って置いた......今迄はな」

  もはや睨みつけている事を隠しもしない、、、だが、その目線は太犬では無く、、、

  「此れが気にならはりますか?」

  そう言って軽く揺らすは肩に担いだ銃"帝月"、、、、

  「そんな物がアレに作れる筈が無い、、、少なくとも今迄はその筈だった、、、」

  もはや忌々しいという表情を隠そうともしない狸に、はぁっと溜息を返して

  「実の娘を言うに事欠いて"アレ"でっか、、、

  咲月はんやから作れたモノなんやけどねぇ

  有効射程百六十丈(四百八十めーとる)、、、、当然"生き殻繰"の手が届かん距離ですな

  初速は音速を超えとります、、、本場北嶺の"生き殻繰"は弾をも躱すちゅうのが自慢らしい

  けど、この弾は躱せんやろね、、、伝説の"十二神将"でも無い限りは」

  「知識をひけらかすのが好きな様だが、無駄にあれこれ口を挟むと痛い目に会う事を覚えてい

  た方が良いのではないかね?」

  北嶺の伝説の生き殻繰"十二神将"を口にされた事に苛立ちを感じて語調が荒くなる

  「では、そろそろ、、、こちらが答える番でっか、、

  先ずは回答①、

  この島には"記録"をする為に来ましたんや、、此れから起きるであろう事を記録する為に

  回答②、

  うちは自分の事情で藤兵衛はん達に加勢しとります、、別に"親戚"の意思みたいなモンとは

  違いまっせ、、、只、その知識の利用に制限はありまへんので使わせて貰ってます

  回答③、

  これがあんさんが求めている本当の回答かどうか判りませんけど、、、

  うちは咲月はんには、近いうちに"親戚"になってもらってもええかと思っておりますよ、、

  只、誤解無い様に言っときますけど、これ迄、咲月はんにはそんな大した事を教えた訳や

  無いですよ

  回答④、

  この場所にはあんさんに御願いしたい事があって此処に来ましたんや、

  ああいうやり方で悪鬼を片付けたら少しは関心持ってくれはるかと思うて、、」

  此処で漸く言葉を切ると壮年の狸を真剣な面持ちで見つめる

  「回答③は全くの無駄だな、、、」

  冷たく切り捨てるその言葉には却って明確な"意思"が感じられ、、

  「"作った物"には、少しは関心を持てるん出んな、、、」

  敢えてその先を言わぬ太犬の表情は静かな物、、

  「もう既に充分な時間を浪費している

  話があるのなら勝手に話すが良い、、、聞くかどうかは私の好きにさせてもらう」

  表情を隠す様に背を向ける狸に

  「先ず一つ、、、

  悪鬼を止めては貰えませんやろか?」

  「あれら(悪鬼)を見たのなら判る筈だ、

  本能のみで人を襲っているだけのつまらぬ物達だ、、、解き放ったのは私だが、私が命じて

  襲わせているのでは無い、どうして私が止められると考える?」

  感情を含まない言葉が背中から返ってくる

  「一流の仕事をする者は必ず二重三重の策を講じているもんやと思うておりますさかい、、、

  単に襲われないだけでなく、全体で止める方法も仕込んであるんやないかと思いましてな

  其れに、、最初に悪鬼達を解き放つ為に北天門の前に集めるのにあんさんが悪鬼相手に大声

  張り上げている光景は想像出来んかったので、、」

  「何が言いたい?」

  「人に"聞こえぬ音"を使った殻繰が北嶺にはありますやろ、、悪鬼全体にそれで号令を掛ける

  事が出来るんや無いかと、、、、

  最初に北天門の前に集めるのにそれをつかったんや無いかと考えてますんよ

  それで命令出来る事の中に"自壊"を命じる事も含まれてるんやないかと、、」

  「面白い考え方だが、、、仮に私がそんな事をした後の見返りは?」

  

  太犬が静かに笑って返す言葉は

  「茶屋白は御存知でっか?

  うちがお代を持ちますさかい、、

  あんさんとはもう少し落ち着いて話をしてみたいと思うておりますんですが、、

  どうでっしゃろ?」

  「散々、私の時間を浪費させておいた挙句の提案がそれか、、

  少しは気を使うという事を覚えた方が良いのではないかね? 仮にも商人だろう?」

  だが、その声の調子には、少々"面白い"という感が含まれている様にも、、

  「まあ、この件に関わらず、気が向いたら茶屋白に手紙でも預けてくれまへんか?

  うちはちょくちょく行っておりますさかいに」

  「成程、、それでその体という訳か」

  太犬の"些か?"太めの体を揶揄する様な言葉に少々むっとする

  「この体は生まれつきでんがな、、

  それともう一つ、、」

  「未だあるとは、本当に慎みという言葉を知らぬようだな」

  大仰に驚いた様な声がわざとらしく返ってくるが、嫌味は含まれていない

  「華焔ちゅう忍に関して何かしら知っている事は有りませんやろか?

  殻繰を使うと聞いているさかい、もしかして御存知ありまへんやろか?」

  太犬の言葉に大狸がビクリと体を震わせる

  「知って居るも何も、先刻その者に殻繰を渡したばかりだ、、そうか弟なのだったな?

  今は北天門の前で昇月村の者と戦って居るぞ、

  善戦していると言えるが、、流石にもうそろそろ引かないと危ういのでは無いかな」

  その言葉に唖然とする大狸、、、そこへ

  「何ぼさっとしてるんねん!あんちゃん!! とっとと北天門まで走らんかい!!!」

  太犬がどやしける

  「けど、、、俺が今、、」

  「けども、何もない!!

  間に合うかどうか判らんけど、今走らんかったら一生後悔するで!!」

  「宗! あんちゃんに付いてったり!」

  若虎へ声を掛ける

  

  

  

  

  

  

  「旦那、、ありがとな、、、」

  「ええから、早う行き!」

  若虎を連れて疾走る大狸を見送った太犬が、

  「スイマセンな、、本当に騒がしくて、、」

  狸が居た場所を振り返ると、其処には狸本人はおろか、周りの悪鬼達も姿を消していた.....

  

  

  

  

  

AdAd