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【9】ボクと契約して、〇〇(ピー)になってよ!!ってか?
魔力を有する量は、個々人で違う。
成長と共に増大することが多いが、それが生まれつき多い者もいる。
私はその「魔力保有量が多い体質」だった・・
それだけならば問題は無かった。
どころか、魔力保有量が多いという事は強力な魔法の使い手になる可能性があるということで、普通なら将来も有望視されただろう。
ところが、私は「魔力を吸収し続ける」という能力も生まれつき持っていたのだ。
その所為で小さい頃は何度も死にかけた。
体に見合わない多量の魔力は命をも脅かす。
生まれた直後は周囲の魔力に中てられ、息が止まったらしい。
直ぐに空の魔石を押し当てられ、体内の飽和状態の魔力を吸い出すことで一命を取り留めたと、乳母からよく聞かされた。
身体が溜め込む魔力に慣れるまで常に空の魔石を身に着け、命を繋いだ。
だが魔石を身に着けていても、幼い身体に多すぎる魔力は毒にも等しく、体力を削る。
その所為で、成長は遅く病弱だった。
体調を崩す度、母は「ごめんね」と泣き、父は忙しい合間を縫って顔を見せてくれ・・
兄たちは寝室まで遊びに来て、姉は花を持ってきては歌を歌ってくれた。
弟妹達が生まれた頃には幾分マシになっていたが、それでも臥せっていればよちよちと見舞いに来てくれた。
皆、暇では無いのに。
国を、民を守る為、身を粉にして働いている合間を縫って時間を作り、私に良くしてくれたのだ。
今、こうして自分が生きていられるのは、間違いなく家族のお蔭だ。
やがて精通した事で魔力排出の効率が上がり、体調を崩す事も減った。
ただ健康的な生活の為に自慰を覚え、以来、ほぼ毎日のように行っている。
鏡を使うようになった切っ掛けは確か・・出さないと、出さなければと思うほど、硬くならない日があって・・
何故硬くならないのか、何かの病気なのかと不安になって、小部屋の鏡で自身を観察した時だ。
何か、いけないことをしている気がして、その理由を考えていて・・
ふと『この姿を見ているのが自分ではなく、他人の視線だったら』と想像したら・・
堪らなく興奮した。
だが、体内の魔力を消費する為の行為である自慰に、快楽を求めてはいけないのだと、ずっとそう思っていた。
異界の魔女が・・アヤが、そんな私の凝り固まった思考を解き放ってくれた。
許しを与えてくれた。
同時に、支配して、くれた。
今まで誰も、ただの一人も、私に命令などしてこなかった。
脆弱だった幼い頃を引きずっている両親は私に自由は与えど、仕事は与えず。
何か役に立てる事は無いかと訊ねる私に、兄らは過保護なままで・・
有り余る魔力を使い、魔法で役に立てればと思ったが上手く行かず。
ならばと体力を付け、剣を鍛えれば貴族らに「野心有り」と邪推され・・
余計に家族に迷惑をかける事になった。
動けば動くほど、自分の想いとは裏腹に負担を強いる現状に身動きが取れなくなった・・
そんな状況から抜け出せず燻り続けている私に、アヤは支配という名の安息と、快感という解放を与えてくれたのだ。
あの声が。
仕草が。
熱を孕んだ視線が・・
私の内にある鍵のかかった扉を一つ一つ探し当て、解き放っていく・・
あの快感を、また得られるのかと想像しただけで・・
腰の奥が、ズクリと疼いた。
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
カチリ、カチリと時を刻む音が、しんと静まり返った部屋に響く。
鏡の向こうで身動き一つせず、青年は固まったままだ。
その様子に内心『脈あり』と微笑んで、タンブラーを傾けて声を掛ける。
「ね?どうかな?私は本物を描けて楽しい。君は、色んな人に見てもらえる・・どちらともお得だなんて、素敵でしょ?」
「そ、んな・・」
「ん?もう一声?しょうがないなぁ・・・あぁ、最初に言った通り、こちらの知識を教えるってので、どうかな?」
「―っ?!!」
「私のしたい事に付き合ってもらう度に、一つずつ。水でも火でも。勿論それ以外でも・・知りたい事、なぁんでも教えてあげる」
台に手を付き前のめりに立ち上がる青年の背後で、椅子が倒れて大きな音を立てた。
「それはっ?!本当か?!!」
鬼気迫る青年に対し、頼子は余裕を崩さず笑みを浮かべて答える。
「勿論だよ。契約書にしたって良いよ?」
「・・・・二言は無いな?」
「条件は幾つか付けるし、知らない事は教えられないからね「永遠の命を得る方法」とか言われても無理だよ?」
「分かった。直ぐに契約書を準備する・・少し待ってくれ」
「あはっ!良いよぉ~こっちも[[rb:準 > ・]][[rb:備 > ・]]しておくから、ね?」
目を細めて艶事を匂わせると、青年は少し言葉に詰まったものの、しっかりと頷いて言った。
「分かった・・一時間で戻る」
「んふ♪待ってるよ」
青年はガラスの器を呷ると足早に鏡の前から立ち去った。
頼子は笑いながらタンブラーを空にして、鏡台の上を片付け始める。
あぁ。ワクワクしちゃうなぁ。
今日はどんな事をシて楽しもうか・・
ぺろりと舌なめずりして、眼鏡のブリッジを押し上げた。
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
青年は予定より早く戻って来た。
余程急いだのか、薄っすら汗を掻いている。
「待たせた」
「ん~ん。大丈夫!早かったね♪」
「・・契約書を作る為、空の魔石が必要だったが・・姉が融通してくれたのでな。早く済んだ」
「そっか。じゃあ早速、契約といこうか?」
「あぁ・・」
青年は台の上の物を足元へと退かしスペースを空けると、緻密な模様が縁取る紙が乗ったボードを置いた。
その隣に仄かに発光するインク壺を置き、真っ白な羽のペンを取り出して椅子に座る。
「こちらでの契約書には、魔力の籠ったインクと紙を使い、互いの身体に契約紋を刻む。破棄する場合は二人で宣誓する・・それと、アヤの異名が必要だが「異界の魔女」で良いか?」
「へぇ~「異界の魔女」ね。良いじゃんそれっぽくて。リアル魔法か~楽しみ♪」
うきうきと上体を揺らす頼子だったが、はっとして付け加えた。
「あ、制約として「異世界の知識を悪用しない」って入れてもらえる?」
「分かった・・では、書いていく」
青年は子どもの頭程もある皮袋を取り出し、そこに左手を入れると、反対の右手にペンを握った。
眉根の皺を深くしながら、インク壺にペン先を浸す。
《契約者「夏の高き青」は契約者「異界の魔女」が望む行為に付き合う。その都度、対価として異界の知識を一つ知る権利を得る・・》
カリカリと紙に文字が綴られ、書き込んだ端からパチリパチリと小さな火花が散る。
正に「魔法」といった不可思議な現象に、頼子は目が釘付けだ。
《異界の知識を、悪意を持って使用することは出来ない・・また、知り得た知識による責は「夏の高き青」が持つ・・契約期間は、双方の破棄の宣誓をもって終了する・・》
少し苦し気に言葉を零しながら、青年はペンを走らせる。
文字に散る火花も、徐々に激しさを増し、頼子は紙が燃えるのではないかと少し心配になった。
契約書の下の方には円になった模様が二つあり、そこに青年が名前を書き込んだ。
最後にパチッと小さく火花が爆ぜ、消える。
「アヤも、隣に名前を書いてくれ」
そう言って、指で汗を拭った青年は羽ペンと契約書を差し出してきた。
ドキドキしながら受け取って、空いている方の円に「綾小路頼子」とフルネームを記入する。
魔法を使った契約だ。偽名では何が起こるか分からないので、本名を書いた。
文字が違うのだ。読めないだろうから、この文字で「アヤ」と読むのだと白を切ろうと思う。
書き終わり、ペンが紙から離れた途端パンっ!とクラッカーを鳴らしたような音がして光が弾けた。
吃驚して固まっていると「凄い音だったな」と鏡の向こうの青年も驚きながら言う。
「へ?普通はあんな音は出ないの?なんか失敗したかな?」
「確認してみよう。契約書をこちらに」
素直に契約書とペンを返す頼子。
青年は受け取った契約書の角を摘むと、なんと二枚に分離させた。
紙は一枚にしか見えなかったが、元々二枚だったのだろうか?
「よし、写しも出来たから大丈夫だ。問題ないな」
そう言って「こっちが写しだ。そちらで保管してくれ」と二枚になった誓約書の片方を差し出され、思わず受け取る。
手元の契約書は成程、確かに写しのようだ。
元々入っていた縁の模様は赤銅色だったが、今見ている方は萌黄色だ。
「体のどこかに契約紋が現れている筈だ。大抵は胸辺りだが・・」
「どれどれ・・おっ。本当だ」
Tシャツの襟ぐりをびよんと伸ばして胸元を覗き込むと、丁度谷間の上辺りに握りこぶし程の大きさの模様が浮き出ていた。
形はカクカクとした文字のような模様が縁を飾っている真円で、色は赤銅。
真ん中には大きく「И」のような文字が入っている。
どうやら青年の名前の一部のようだ。
「私の方も、問題なさそうだな」
そう声が聞こえて視線を上げると、青年も胸をはだけさせて契約紋とやらを確認していた。
同じく、胸の真ん中に赤銅色の円が浮かんでいる。
真ん中の文字は「綾」だった。
奇しくも偽名で名乗った「アヤ」部分が切り取られたらしい。
『・・・なんか、自分の名前が相手の身体に刻まれてるとか、ちょっとむず痒い』
『痛いカップルかよ』と青年と自分の胸元を見比べて、そわつく感覚を逃がそうと腕をつねった。
地味に痛かった。
でもそのお蔭で変な感覚は消えてくれたので良しとする。
「契約は無事に交わされた」
「うん?うん。そうだね。あんま実感ないけども」
青年の言葉に不思議な体験をした時独特の、非日常感から来るフワフワした気持ちで答える。
「それでその、早速だが・・私は何をすれば・・いい?」
その言葉にぱちりと瞬きして、まじまじと青年を見る。
胸元を開けたまま、目線を斜め下に落としてこちらと視線を合わせようとしない。
顔は火照って赤く、僅かに息が上がっているようだ。
流れる汗が、こめかみから顎に伝って落ちる。
頼子は唇の両端を持ち上げて、心底楽しそうに笑った。
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