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今日も、一日忙しく過ごした。
体術、剣術、魔法の訓練をこなしつつ、二日後に迫った遺跡調査団への同行の件で担当文官と調整を進め、留守にする間の鏡の管理を姉に頼む。
彼女の・・アヤの同意と許可が前提だが、姉の事で相談に乗ってもらいつつ、留守の間に菓子の取引を進めてもらえたらと考えている。
隣国までの調査は移動を含め、一月半程で帰ってくる予定だ。
それだけの期間、異世界との関りを疎かにするのは不利益でよろしくなという判断からだが、この話が出た時思わず同行を取り止めようかと思うくらいには悩んだ。
だってそうだろう?
自分以外の者が、自分よりずっと長い時間彼女と一緒に過ごす事になったら・・
姉が・・もしかしたら兄らや、その他の者達が彼女と長く関わる事になったとしたら・・
彼女の中で、私という存在はどんどん希薄になってしまうのではないだろうか?
他人から見れば「その程度で」と笑うだろう。
だが、私という存在が彼女の中でどれ程の割合を占めているのか把握出来ない以上、この手の類の心配や不安は常に付き纏う。
『いっその事、関係を進展させるか?』
そんな浅慮極まる行動を起こしそうになるくらいに、私は追い詰められていたが・・
夜、彼女と・・アヤと顔を合わせた途端、そんな不安は吹き飛んでしまった。
「こ、こんばんはアド君!」
あちらの呼び鈴を鳴らし、何時ものように視界を塞ぐ布が取り払われて現れた彼女は・・正に輝いていた。
淡い緑色の、ドレスより簡素なスカートは胸の下から細かくひだが作られ、足元までストンと覆うカーテンの様に波打つ部分はひらひらと軽やかに揺れる。
その胸元にあしらわれた白いレース越しに、自分と対になる赤銅色の契約紋が透けて見えていた。
やや黄色がかった濃い肌色に、優しい白と赤銅との対比が映えて視線が引き付けられる。
細い肩紐の上からは袖口が大きく開いた透け感のある白色の上着が覆っており、柔らかそうな白い二の腕を美しく際立たせていた。
黒い髪は高い位置で結わえられ馬の尾のように纏められていて、その結び目には金に輝く飾りが付いている。
首元にも小さく煌めく石が金の細い鎖の途中で揺れており彼女の美しさに貢献していたが、それより何より、晒された首筋から鎖骨までが綺麗で見惚れた。
だが、特に注目すべきは彼女の顔だろう。
眼鏡を外し、派手過ぎぬよう化粧で整えられた顔はその・・いつもに増して輝いている。
淡く色づく目元と頬・・橙と赤の中間ほどの色で艶めく唇・・
潤んだ瞳で恥ずかしそうに斜めに傾げる様子が、胸の中心を打ち抜いてきて息が出来ない。
『か、か、可愛いっ!!』
無意識に拳をぎゅうと体の両脇で握り締め、叫び出しそうな衝動をどうにか飲み込む。
あまりの衝撃にそのまま無言で固まってしまったが、傍仕えに背中をトンと軽く叩かれて『はっ!』と息を吹き出した。
その瞬間、アヤも口を開いて話し始める。
「いや、あのね!今日こんな格好なのはアキと一緒に買い物で服を買ったもんだから「ふぁっしょんしょー」をしてたんだけど、アキが折角だからって「めいく」もしてくれてねっ!わ、私はこんなお洒落な恰好は微妙に似合ってないと思うのだけどアキが絶対アド君にも感想を求めるべきとか言って聞かなくて、それで・・・」
矢継ぎ早に語るアヤの声が段々と尻すぼみになり、最後に「その・・どう、かな?」と問うた。
その不安気な様子も、今は彼女の可愛らしさを引き立てるだけで・・
あぁ、ダメだ。声を、声を出して反応を返さねば・・彼女に誤解されかねない。
そんなのは嫌だ。
「あ゛・・ん、んん゛っ!・・失礼。その恰好の感想だな?・・とてもよく似合っている、ぞ?普段の恰好も嫌いではないが、その。そうして着飾るのもか・・・可愛らしくて、良い。と、思う・・とても・・」
「か、かわ?!・・いやいやいや!そんなお世辞言わなくていいから正直にお願いっ!」
最初にどもってしまったが、何とか言いたいことを伝えられた。
しかし彼女は赤らめた顔の前でぶんぶんと手を振り、改めて感想を求めて来る・・
何故そこまで懐疑的なのか気にはなるが、今はこちらの気持ちを素直に伝える事を優先した。
「?・・世辞などではない。何故私の言葉を疑う?本当に可愛いと思ったからそう言ったのだ」
「・・まじ?・・あの、その・・似合ってるって事で良い・・かな?」
「とてもよく似合っているし、可愛らしいと思う」
「へゃっ?!・・そ、そっか・・そっかぁ・・・良かった・・不快に感じられたらどうしようかと・・」
不快に思う要素など皆無だが?
寧ろ何をどうすれば彼女を不快に思うというのだろう?
首を傾げたところで、彼女の背後からアキ殿がひょいと顔を出して言った。
「お?やっぱり褒められた?だから言ったでしょ~似合ってるって!」
「いやいや、普通友だちの欲目かと思うじゃん?ぽちゃなんだし・・」
「まぁたそうやって自虐する。良いの!あたしやアド氏が似合ってるって褒めてるんだから、素直に受け取りなって!」
「うぅ・・お洒落慣れない・・もう着替えて「めいく」落としちゃ駄目かな?」
「駄ぁ目♪あたしも可愛くしてんだから、一緒に付き合ってよ~」
着替えようとする彼女を説得するアキ殿に、私も頷いて同意した。
「アヤ。出来れば私が居る間だけでもそのままで・・嫌なら仕方ないが・・」
「えっ・・と。や、慣れてないから違和感が凄いだけで、嫌ではない・・です」
「アド氏も説得してくれてる感じ?んじゃ暫くこのままってことで!」
「アキぃ~・・」
「大丈夫だって。「めいく」が気になるなら途中でちゃんと直してあげるから」
「・・・うぃ~・・」
ため息を吐き、間延びした声を発した彼女はどうやら諦めて着飾った格好を続けてくれるらしい。
あぁ・・なんたる僥倖!
突然降って湧いたこの幸運過ぎる状況に感謝して、あちら側から見えないところでぐっと拳を握る。
同時に、彼女を着飾らせてくれたアキ殿にも内心で礼を告げた。
「はぁ・・よし。それじゃ「かめら」と「もにたー」の準備をしますよっと・・」
漸く折り合いをつけたらしい彼女はそう言って、前日に回収した道具類をこちらに差し出す。
受け取った「かめら」と「もにたー」にはどちらとも新たな部品が取り付けられており、どうやらその部品でそれぞれ鏡とテーブルに固定が出来るようだ。
「んじゃ、説明するからよく見ててくださいな。まず「かめら」に付いてるこれを~・・」
全く同じ物を手に彼女が道具の取り付け方法を説明してくれた上、器用な傍仕えの手際もあってすぐに場は整えられる。
そうして彼女の隣にはアキ殿が座り、首元には[言語変換]の魔道具である首飾りが光っていた。
今日はその首飾りに合わせたのだろう。華やかな装いのアキ殿もまた、前日とは全く違った雰囲気となっている。
『彼女が着飾るだけで、こんなにも場が華やぐのだな・・』
傍仕えのジャスが淹れてくれた茶を飲みながら、大きな店で買ってきたという様々な道具や保存食の説明を聞く。
何とも夢心地なふわふわとした感覚に圧倒されそうになりつつ、どうにか会話を繋げていた。
「それで、これが前に話した「にさんかたんそ」が詰められた「ぼんべ」です」
そう言って示す彼女の隣には濃い緑に白で文字が書かれた大きな入れ物があり、取り扱いについて細かく説明を受けるのだった。
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