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【141】合流と出陣。

  ぐわんっ!と大気ごと体を揺らされて、皆反射的に視線を草原へと戻した。

  全員が絶句する中、魔物の群れが次々と爆ぜる様にして空へと打ち上げられる。

  かと思えば、突如として現れた植物らしき茶色と緑の塊にかなり広い範囲が飲み込まれた。

  他にも、ある場所では不自然に真っ黒な空間が形成されていたり、発生源の不明な破裂音がそこかしこで鳴っていたり・・空から光の柱が何本も降りてきたりしている・・

  「・・夢、というには生々しいわね~・・」

  生き物の焼ける匂いが吹き付ける風に混じり、否応なしに戦場の空気を届けた。

  ゴクリと、誰かの喉が鳴る音を合図に、張りつめていた空気が僅かに動く。

  その微かな緩みに差し込むようにして、皆に移動を促した。

  「そろそろ後の魔物が追い付く。休憩場へ急ごう」

  「だ、だべな!」

  「つってもよ、あんな何がどうなってるのか分かんねぇような所、通れるのか?」

  「っスね。命が幾つあっても足りそうにないっス」

  頷いたのは鬼人だけで、他の者は口々に尤もな懸念を浮かべるが、それは杞憂となる。

  上空から、音も無く「J」の面布を付けた半精霊が降りて来たからだ。

  「うぉ?!びっくりした!」と飛び退る褐色肌と、咄嗟に武器を構えた他の者を抑える形で一歩前に出て、予想より早い出迎えに「ご苦労。よく来てくれた」と声をかける。

  「お迎え~?」

  「あぁ。説明している時間は無い。苦情は後から聞こう」

  そう言って、「J」に視線で合図を送った。

  すると皆訳が分からぬまま「J」の魔法により地面からふわりと浮き上がる。

  「ななっ!何だ?!」

  「うわわっ!」

  「¶Φ?!ЮЙ§!!」

  「ひぇぇっ!」

  「あら~・・」

  脚が地を離れ、不安定な空中でじたばたと手足を動かす者は体勢が崩れてしまったが、じっと動かない者は立った姿勢のままで森の木々より高い位置に浮かび上がった。

  そこへ後ろから風が吹き付け、押し出されるようにしてぐんっと加速する。

  恐怖を覚えるほどの速度で足元の風景が後ろに流れていき、ばたばたと髪や衣服が後方にはためいた。

  ほんの数秒間、恐怖と息苦しさに耐えた後には、分厚く高い壁に守られた休憩場らしき所の開けた場所へ、私以外の者たちは無造作に投げ出される。

  ふわり地面に下ろされるのとほぼ同時に、三つ編みはしっかり足から着地。

  鬼人は上手く受け身をとって転がり起きた。

  他の3人も、何とか怪我無く着地してその身を起こす。

  「っはーっ!驚いたべ!」

  「・・やべぇ・・俺ら、今空飛んだよな?」

  「おぉ・・今更足が震えて来たぜ・・」

  「・・いきなりは勘弁っス。・・状況が状況っスけど・・出来れば説明してほしかったっス・・」

  「あら~。皆大丈夫~?」

  各々「J」と「B」に運ばれた感想を述べているが、鬼人と三つ編み以外は顔色が悪い。

  緊急だったとはいえ、いきなり空中を移動させられれば混乱するのは当然というもの。

  ・・かく言う私も、未だに慣れず肝が冷えた。

  少々申し訳なく思いながら「皆、平気か?」と声を掛ける。

  「お~・・だいじょ―・・ぶじゃねぇや。ちょい吐いてくる」

  「あらま~。大丈夫キーラ~」

  片手を上げ、ふらふらと荷車の影に移動する褐色肌。

  三つ編みはこちらに視線で詫びた後、その後に付いて行った。

  残った3人は着地の際の汚れを叩き落としていたが、こちらに向き直ると礼を伝える。

  「ここまで運んでくれて助かったべ!ありがとさんアド!」

  「だな。今はこんな状況だしよ。礼は落ち着いてから改めてさせてくれ!本当に助かったぜ!ありがとな!」

  「ありがとうございましたっス!」

  「あの方法は二度とごめんっスけど・・」と視線を逸らす[[rb:戦棍 > メイス]]使いに「分かった」と苦笑を返して、突き出されたそれぞれの拳にこちらの拳を合わせる冒険者の挨拶で別れを告げる。

  「落ち着いたら、また」

  呼びに来た「栄光への導き手」メンバーに駆け寄る3人を見送った所で、傍仕えが近くに降り立った。

  「アド様。ご無事で何よりです」

  「あぁ。「B」の働きでな。迎えも、予想していたより早くて助かった」

  「それは良うございました」

  胸に手を当て、大仰にならぬ程度に頭を下げる傍仕えに頷きを返し「それで、状況は?」と問う。

  「半精霊たちの構築した簡易壁と結界で、今のところは問題なく。ただ、小型の魔物の数が多いので殲滅は厳しいです」

  「そうか。ならば私も小型を相手に出よう」

  「分かりました。引き続き護衛に「B」を。補佐に中位の水の子を付けます。わたくしは暫く動けそうにありませんので」

  そう言って、傍仕えはくるりと手首を翻した。

  すると、何もない空間から小さな水玉が幾つも滲むようにして現れ、水流の如き筋を描いて集まり・・向こう側が透けて見える半精霊の姿をとる。

  水の中位半精霊はスカート状に広がった端をしゅるりと翻して回転。ぺこり頭を下げた後、私の肩へ移り腰を下ろした。

  見た目可愛らしい一時の相棒に「よろしく頼む」と声をかけ、小指の先ほどの小さな魔石を渡す。

  にっこり笑った半精霊が受け取った魔石を自身の体に取り込むところまで確認して、「分かった」と傍仕えに返した。

  労いの言葉を掛けたいところだが、今は偽りの身故、目線だけで感謝を伝える。

  「では私も、支度を済ませたら直ぐに出よう」

  首肯し、再度礼の姿勢をとった傍仕えは「それでは、お気をつけて」と頭を下げた後姿を掻き消した。

  手の多い傍仕えはやる事が多く、このような状況では目の回るような忙しさに違いない。

  だというのに、わざわざ顔を見せるとはなんとも、律儀なやつだ。

  少しの呆れと、その何倍もの感謝と共にふっ、と息を吐き出して意識を切り替える。

  『さて。ではジャスの負担を少しでも減らすとするか』

  だがその前に、補給だ。

  周囲を見回して人目が無いのを確認後、腰の[[rb:魔法鞄 > マジックバック]]から[[rb:異世界 > あちら]]の携帯食を取り出す。

  銀色で青い線の入った四角い容器の突起を捻り、パキリと開けて咥えた。

  そのままぎゅっと握り潰すと、粒の残るドロリとした内容物が勢いよく口内に飛び出る。

  この携帯食。

  味は何かの果物のようで悪くは無いのだが、口当たりがとにかく酷い。

  短時間で栄養補給ができる優秀な携帯食だが、その食感は有り体に言って吐瀉ぶ・・・

  いや。これ以上は止めよう。

  想像して気分が悪くなっては元も子もない。

  中身を啜り無理矢理に飲み込んで、容器を真っ平にすると蓋を戻し魔法鞄に仕舞った。

  次いで集めた水分で口内を洗い流し人心地ついたところで、『よし』と簡易壁に視線を向ける。

  その時、褐色肌に気怠げな声で呼びかけられた。

  「お~いアド~。さっきは運んでくれてありがとな~。気ぃつけて行ってこいよ~」

  傍仕えとのやり取りを聞いていたらしい褐色肌が荷車の影から青い顔を覗かせ、ひらりと手を振る。

  その上からこちらを窺う三つ編みも、にこやかな笑顔で告げた。

  「わたしからも感謝を~。ありがとうアドさん。夕食奮発するから期待してて~。行ってらっしゃ~い」

  「分かった。楽しみにしている」

  「ではな」と短く別れを口にして、待機していた「B」に視線を送る。

  こくり頷いたのを確認して、体内の魔力の流れを操作。

  脚に魔力を集め、下半身を強化して一気に駆け出す。

  一瞬で壁へと辿り着いて勢いのままに駆け上がれば、尋常ならざる異音と振動が絶えず響いてきていた向こう側を視認した。

  一般的な冒険者が対応できる中型から小型がうぞうぞと蠢き、見渡す範囲を埋め尽くしている。

  半精霊たちの攻撃魔法により僅かに空いた隙間も、すぐにぞろりと埋まってしまうほどの密度。

  幸か不幸か、魔物が溢れ出た森に一番近くに居たのがこの隊だったお陰で、半精霊たちによる土壁と結界により後方への被害は抑えられている。

  その分、人の魔力を求める魔物らがこれでもかと集っているわけだが、これだけ密集していれば適当に魔法をばら撒いてもかなりの数を削る事が出来るだろう。

  壁の頂上から下を見下ろせば、土壁とそれを守る為に張られた結界に押し寄せ、触れる度に押し返される魔物の波。

  蠢く魔物を睨め付け、足裏を意識してぐっと土を踏みしめた。

  ゆっくりと息を吸い・・吐き出すのに合わせ、ぶわりと魔力を放出する。

  自身の魔力により掌握した空間から水分を抽出。

  親指ほどの大きさで氷の鏃を無数に作っていく。

  そうして、完成した端から順次魔物の海原へ向けて打ち出した。

  きゅきゅきゅ!と硬質な物同士を擦り合わせたような音が連続して鳴り、見下ろす視線の先で魔物が弾け飛ぶ。

  そのままついと視線をずらせば、視界に収めた魔物は体のどこかしらを爆ぜさせて倒れた。

  肩に乗った水の中位半精霊が、鏃の元となる水分を集めてくれている。

  故に、攻撃が途切れることは無い。

  高揚も興奮もなく、淡々と魔物を削る事だけに集中して水分を操作する。

  少しでも魔物を減らす。

  出来る限り手間を減らして、目の前の害悪を片付けていく。

  あれらは濁り凝った魔力に侵されし、哀れ狂った生物の成れ果て。

  疾く疾く終わらせてやり、正しき魔力の流れへと返してやらねば。

  そうして只管水操魔法で魔物を打ち払い続けた。

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