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【163】酒の席にて。

  ―・・彼女は絵が非常に上手くて、それで生計を立てている。

  料理も上手で、何度か手料理を食した。

  どの料理も食べた事が無い物ばかりだったが、どれもこれも美味で・・

  ふとした拍子に『また食べたい』と考えてしまう。

  小柄な体格に、肩辺りまで伸ばした黒髪が良く似合っていて・・

  酒を飲み交わした時に見た、零れたひと房を耳に掛ける様子を思い出す度に切なくなる。

  彼女との会話も楽しくて、その端々から感じられる優しさに、毎度救われる思いだ。

  彼女は声も、魅力的で・・何の気なしに出て来る「好き」という言葉に、恋愛的な意味が含まれないと解っていても、勝手に心臓が高鳴って仕方ない。

  語る合間にどんどん酒が進み、気が付けば料理は殆ど手付かずのまま。

  何度か従業員がやって来て新しい酒のカップを置いて行った気がする。

  今までにないくらい酔っている・・が、何とも心地よい感覚で、好いた人の事を語る口は止まらない。

  相槌を打ちながらも、皿の中身を減らしていたらしい黒髪は『微笑ましい』といった面持ちでしみじみと言った。

  「アド、その娘のこと、好きなんだなぁ・・」

  「ん・・む。これ以上ない程に好きだ・・」

  「話して、酒飲んで、手料理食わせてもらって・・・いいなぁ・・」

  カップを傾け、しみじみと大きなため息を吐いた黒髪は徐に続ける。

  「で、床ではどんな感じなんだ?」

  ・・・トコ・・床?・・

  「・・いや、まだ(ちゃんとした)情は交わして、いない・・」

  「はぁ?!好き合ってんだろ?!ならヤるだろ?!」

  「私は、好いているが・・向こうはどうか・・」

  「何、何!アドはそんなに熱烈に想ってるのに告ってねーの?!付き合いたくねぇの!?」

  「付き合う・・付き合うと、どうなる?」

  「んなの!・・・えーと。一緒に酒飲んで飯食ったり、歌ったり踊ったり、連れだって買い物したり?・・すんじゃねぇの?多分・・」

  途中から自信なさ気に言った黒髪は「俺だってまともに付き合った事ねぇから分かんねぇよ!」とカップを呷った。

  「今言った感じだと、付き合う前と後でもあまり変わらないように感じるが・・」

  それなら、今はまだこのままでも・・

  「馬っ鹿!お前、それだとその娘が他のヤツと付き合うとか言い始めたらどうすんだよ!」

  [[rb:彼女 > アヤ]]が、他の男と?・・

  「っ!?それ、は・・嫌だ」

  腹の奥底でどろりとした感情が渦巻き、視界が暗くなる・・

  嫉妬に焼かれた魔力が暴れそうになった時、黒髪が続けた。

  「それによ、付き合ったら抱けるだろ?!つーか抱きたいだろ?!」

  「っ?!それは・・向こうが、許してくれる、なら・・」

  「いや、お前みたいな器量良しなら許さねぇ女いねぇだろうがよ」

  「そう、だろうか?」

  「っはー!何でそんなに自信無ぇんだよ!何。相手の娘ってお前が躊躇うくらい美人なのか?」

  「絵姿とか持ってねぇの?」と訊かれ、[[rb:魔法鞄 > マジックバック]]から彼女と撮った「しゃしん」を取り出して見せた。

  「見せるだけだ。触れないでくれ」

  「分ったよ・・うわ、すっげ!小さいのに随分精巧な絵だな!」

  2つに折った「しゃしん」の彼女の面だけをちら、と見せ。すぐに魔法鞄に仕舞う。

  「何だよ!もっとちゃんと見せろよ!」

  「・・・嫌だ」

  「何でだよ!別に減るもんじゃねぇだろ?」

  「・・断る。何か、いい気がしない・・」

  「はぁ~。他の男に好きな娘の姿を見せたくないってか?独占欲強いな、お前」

  『あぁ、これが独占欲・・』

  なんとも、醜くも切ない気持ちだ。

  「ちょっとしか見えなかったけど、なんかぱっとしねぇ子だな。普通っつーか。顔の作りは見た事ない感じだけどよ」

  「珍しくはあるな」と締めくくった黒髪にムッとして言い返す。

  「セドリック。お前の目に眼球はちゃんと収まっているか?でなければ洞か何かだ。彼女は可愛い!」

  「お、おう。まぁお前にとってはな?俺は一般論を―」

  「仕事に情熱があって、広く深い知識を持ち、料理が上手く、私の「目が好きだ」と言ってくれた!そしていつも優しく気遣ってくれる上に胸も大きい!彼女こそ私の唯一だ!」

  途中でがたっ!と椅子を鳴らして腰を浮かし、前のめりになって詰め寄った。

  すると黒髪はこちらの手を取り「・・お前、胸派か!」と発言の一部に目を煌めかせる。

  「そうか胸派か!!それならじっくり好みの胸について語ろうぜ同士よっ!」

  攻守交代とばかりに目を爛々と輝かせ、鼻息も荒く捲し立てた。

  「いや、私は胸がどうとかでは―」

  「うんうん!そうだよな!そこも含めて丸っと好きなんだよな?!そんじゃお互いに想い人の好きなトコを語るとしようぜ!まず俺からな!フラウリィーラさんの好きなところ1つ目は・・・やっぱ胸だぜ!服の上からでもわかる形の良さ!堪んないぜ!」

  そう言って、『次はお前の番だ』と期待の目を向ける黒髪に、ついこちらも言葉を返す。

  「・・私は、その。もちろん胸も、だが・・細い足首にドキッとした事が・・」

  「足首!?素足を見た事あんの?!」

  「うむ・・彼女の住む地域では室内は素足で過ごすらしい・・のでな」

  「くぁ~!羨ましいっ!」

  「こう・・小指の小さな爪が薄赤色で、なんとも可愛くて、だな・・」

  「うーわ。それは堪らんわ」

  「他にも、眼鏡をくい、と上げる仕草だとか・・」

  「あ~。はいはいはい」

  「口元を、こう、長い舌で舐める様子とかが・・」

  「うっわ。見てぇ~!俺もフラウリィーラさんのペロリ見てぇっ!」

  黒髪の反応に調子づいてしまい、酒で曖昧になった思考のまま彼女の好きなところを次々と上げて行く。

  「跳ねた時に胸が大きく揺れる様を目にした時は、下が窮屈になってしまって・・」

  「あ、それ解る!不意打ちやべぇよな!直ぐに抜けりゃあ良いけど、そんな都合よくはいかねぇしよ!」

  「傍に寄った時に、不意に香った花のような甘い香りが腰にくるというか・・」

  「あ゛~解るっ!どうして女ってあんなイイ匂いすんだろうな!吸い寄せられるっつーの?フラウリィーラさんの汗の匂いとかさ、臭いとかねぇの!何かこう「食べたい」ってなるんだよな!」

  「うむ・・舌を這わせたくなるな・・」

  「そう!そうなんだよっ!特に唇とか首筋とかに目が行っちまうんだよなーっ!!」

  「魔力を注ぎたくなる・・」

  「本当、それなぁ~・・女はすげぇよ。男の魔力を受け取って子どもまで作っちまうんだからなぁ~・・フラウリィーラさん。俺の子生んでくんねぇかな・・」

  彼女と私の子か・・・

  私の魔力を受け、彼女の中で育つ命・・

  彼女と私の究極の繋がり、想いの結晶・・

  腕の中で大きなお腹を擦り、幸せそうに笑う彼女を想像する・・

  最初は男の子か?勿論女の子でも構わない。

  私に似るか?いや、彼女に似てくれた方が・・いやいや、どちらに似ても可愛いに違いない。

  彼女との幸せな生活を思い浮かべていたが、黒髪の「まぁ。まずはお互い付き合ってからの話だな」の言葉に現実を突き付けられてはっとした。

  「そうだな・・そうだった・・」

  一瞬にして幻想は打ち砕かれ、現実は容赦なく非情な事実を押し付けて来る・・

  「理解したぜ!今まで「恋」だと思ってたのは「恋」なんかじゃなかった!フラウリィーラさんに感じるこの想いこそが「恋」だったんだ!俺は、この旅の間にフラウリィーラさんと絶対恋人になってみせるっ!本気だぜ?!」

  そうだ。現状が何だというのだ。

  望む先が、得たい未来があるのならば、己の力で掴み取れば良いのだ!

  「あぁ。そうだな!私も、次彼女に会った時にはこの想いを伝えるとしよう!」

  「おうよ!互いに想い人と恋人関係になってやろうぜ!」

  そう言って差し出された拳にこちらも拳を握り軽く打ち合わせ、そのままテーブル越しに腕を組み額を突き合わせるようにして言った。

  「あぁ!愛しい人をこの腕に抱くために!」

  「っしゃあ!やってやろうぜ!」

  互いに空いた方の手でカップを掴み、腕を解いてかこん!と打ち合わせると一気に呷る。

  その後も酒は途切れることなく減り続け、私は護衛に付いていた半精霊に担がれて宿に戻る羽目になるのだった。

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