002-018
既にダイン達が学院に来て10日が過ぎていた、予想された勇者リエルの来訪はなく、アーキアが逃げたクガト領からは、詳細を問いただす書簡が送られただけで表立っての糾弾なども無かった。
肉料理を含んだ重めの朝食を終えた遊魔達は、朝のミーティングを始めていた。
フェカト 「静かなのは不気味ですけど、こちらもかなり力を付けてますからね」
フェカトのいう様に、学院はダイン達のお陰で短期間の内にかなりの変革を遂げていた、料理革命などが起きていてその波は徐々に市中へも伝わり始めている、また、七実の考案した新しいやり方で、マギガントの骨肉とも言える、魔鋼と魔動力の大量生産に成功していたりと、文化、産業の交流拠点としてポロルグ領内の重要地域としての認識が広まりつつ有った。
そして、素材の大量供給によってポーカのウウル・ジーの修理もほぼ終わるなど、かなりの戦力を整えつつ有った。
徐々に満たされて行く遊魔勢力では有ったが、満たされても別の不満が噴出するのが人間というもので。
真夏 「でも、問題も有りますよ、今のマギガントの上限でダイン様の魔力がちゃんと活用されてませんよね、魔鋼や魔動力作るのはいいんですけど」
七実 「ポナリアやウウル・ジーでも魔動力に使える魔力の上限二万ぐらいですからね、本人魔力の三割が動力に割けますから、ダイン様は十二万ですから完全にオーバーしてますよ」
アーキア 「アーキアのフーティアは二万四千だから、魔力八万のアーキアにはベストなんだよね、だから上限高いからといってダイン様にはあげないよ」
ポーカ 「どの道フーティアでもダイン様の実力は活かせませんからね、多分新しい機体作るしか有りませんよね」
七実 「ポナリアのフレームなら三万は魔動力貼れると思いますけど」
たった数日でマギガントを理解した七実は次を考え始めている、そして遊魔として当然ダインの為の物が最優先なのだ。
フェカト 「余分なポナリアのフレーム何て有りませんよ」
フェカトの言葉に当ての外れた七実は考え込んでしまうが、何かを思い出した者がいた。
ポーカ 「ポナリアが駄目なら、あれが行けるんじゃ無いですか、王の偶像とか」
それは王都に有る特別なマギガントだ、最強のマギガントの製作を命じた王命によって完成した物だが、余りにも高級で頑丈に作り過ぎた為に、起動に大量の魔力が必要となって、結果、誰も乗りこなす事が出来ない代物として誕生して、笑い話となっている。
フェカト 「ああ、そういえばそんなのも有りましたね、最高のマギガント作ったけど動かせなくて偶像って呼ばれてる奴が、確かにアレを動かせれば貰えるって話でしたね」
ポーカ 「勇者リエルも失敗してましたけど、ダイン様はリエルより魔力有りますから」
七実 「七実もそれ聞きましたよ、でも近所に住んでた工房にいる娘の話によると、そもそも脚の魔動力が足りて無くて歩けないって話でした」
フェカト 「街から出るのが譲渡の条件でしたけど、詐欺ですね」
ポーカ 「リエルの動いただけでも奇跡って言われてましたから」
ポーカの提案は不発に終わった様だが、七実はその時間で新しい考えを纏めた様だ。
七実 「やっぱり新しいフレームですね、ダイン様の言っていた工作機械で切削加工出来れば部品自体は早く出来ると思うんですよ、それに組む為の人員は十分ですし」
ダイン 「そちらは当然進めてますが、ちゃんと他の手段も用意しますよ、強靭なマギガントのフレームを調達するにはどうすればいいですか?」
フェカト 「先ずは単純にお金ですよね、ですが人に動かせないモノを作っても意味は無いので、最上級でもポナリアやフーティアですよ、他国なら他にも有るかも知れませんけど」
ダイン 「なるほど、どの道私の限界を引き出せるマギガントフレームは無いわけですか」
フェカト 「有っても王の偶像ぐらいでしょうね、でも歩けないなら動かせませんよ」
七実 「ポナリアをベースにちょっと盛れば四万は行けそうですけど」
フェカト 「魔鋼自体にもっと魔素を込める必要が有りますね、でもそれだと天翔ける処女で使う品質ですよ」
七実 「そこはダイン様にマギガント使って叩いて貰えば直ぐだと思う、問題は工作機械の製造だよね」
そう、強大な魔力を持つ遊魔がマギガントに乗って鎚を振るう事で、大量の魔鋼を製造する事が可能になったのだ、そしてその行動は遊魔がマギガントを乗りこなす訓練にもなって一石二鳥の効果が出ている。
ダイン 「工作機械は既存のマギガントの予備部品を流用すれば比較的簡単ですね、関節部にはちょうどいい穴も空いてますから、難しいと思われていたモーターの製作や電源なども魔導の応用で簡単に似たような物が作れるんですよね」
ポーカ 「運河で動かす運搬船の技術を応用するつもりですよね、ダイン様は変わった事考えますよね」
ダイン 「私が全てを考えてるわけじゃ有りませんよ、使えそうな物を組み上げて新しい物を作っているだけで、この世界の技術の下地が無ければ不可能でしたし」
現世地球とは全く異なった技術大系を持つアーグルでは有ったが、似た様な用途の機器は確かに有る、そして魔力で回転運動を行う機械はアーグルにも存在していて、ダインはそれを利用して、マギガント製造に有用な機器を色々と作り始めている。
真夏 「いや、ダイン様の凄いところは機械の存在と使い方を知ってた事ですよ、真夏なんてどうやって工業製品作ってるのか知りませんでしたから」
ダイン 「まだまだですけどね、人より力の強いマギガントが有るなら、それに仕事をさせればいいと考えた七実のやり方の方が容易に実行出来て今のところ効果的ですよ」
七実 「ダイン様に褒められると照れちゃいますね」
ポーカ 「七実のお陰でポーカのウウル・ジーは今日にも復帰出来そうですしね、後三ヶ月は魔鋼製造の予定でしたから」
アーキア 「なら、模擬戦いってみる、真夏達はまだまだだし、ポーカもリベンジしたいよね」
フェカト 「厄介事は増やさないで下さい、ウウル・ジーは直せますけど、フーティアは壊れると難しいんですよ、本来ならアーキアにはジノ・ゾッフォ使って欲しいんですけど」
アーキア 「アレは悪くは無いけど面白く無いんだよね、こうしたいって動きが無理なんだよね、その点、ポナリアとかウウル・ジーは楽しいよね、結構無茶に動くし、転けても壊れないし」
フェカト 「そう言える才能が怖いですよね、普通はあの不安定さが怖い筈なのに」
ポーカやアーキアの技術を共有したフェカトも近いレベルでマギガントを扱える筈なのだが、人間の時に味わった苦労は遊魔に成っても覚えている様だ。
ファービ 「ファービもウウル・ガーは楽しいですよ、ポナリアはちょっと硬いですから」
フェカト 「フェカトとしては複雑ですね、ポナリアはウウル・ジーより高いのに」
ダイン 「素材で道具の価値は決まりませんからね、使う者の使い易さが重要です、私はポナリアの安定感がしっくり来てますけど、ウウル・ジーは私には軽い」
真夏 「真夏も同じ感覚です、ウウル・ジーは跳ね過ぎますね」
ニア 「ニャアはそれが楽しいですにゃ、でも、長物の武器は使い辛いにゃ」
真夏 「武器相性は有りますよね、真夏はまだしっくりくる武器なくて、作業で使ってるハンマーが一番使えますから」
ダイン 「射撃武器の構想も有るんですが、それこそ工作機械待ちです、砲身が作れないんですよ、原理的には魔動カタパルトを考えてますが」
七実 「はい、七実もちゃんと考えてますからね、ダイン様も遠距離攻撃好きですから」
そうして、話が進んでいる中、エプロンを付けた愛耶がデザートの入った器を乗せたワゴンを押して部屋に入ってくる。
愛耶 「またマギガントの話ですか、変革なら料理の方が凄いと思いますけど、今日は王宮の料理人が習いに来る予定なんですよね」
フェカト 「はい、王家用の飛行マギガントで来るという話でしたので驚きましたよ、それほど国王はダイン様に興味あるんでしょうね、ですからフェカトは出迎えと案内を優先しますね」
愛耶 「愛耶も屋敷で料理ですよね、マギガント乗るのはなんか慣れなくて」
ダイン 「別に構いませんよ、愛耶の料理は私も楽しみにしてますから、それにポーカとアーキアが居ますので協定戦の面子は十分に足りてます」
愛耶 「本当はダイン様の側に居たいんですけどね、でも、新しい食材をどう料理するか考えるのも楽しいんですよ」
ダイン 「確かに美味しい食事はそれだけで生きる意味を感じさせてくれますよ、それに自分好みの牝を抱く時も」
七実 「自分の好みに変えちゃうのは生命の冒涜みたいですけど、そもそもダイン様には禁忌なんて存在してませんからね」
ダイン 「その通りです、もし神の定める禁忌ならば、私にこの力は宿りませんよ」
ファービ 「魔王だよねやっぱり、ファービは力を貰えるほど近く接する事が出来て良かったけど」
こうして遊魔達の一日が始まる、主な者は訓練と魔鋼の製造の為に工房に行き、愛弥は残って料理の研究、フェカトは各方面への連絡などで暫く国賓屋敷に留まる事になる、ポーカは既にダイン達へ教える事が殆んど無くなったので本来の学長の職務に赴く。
そして、工房に到着したダイン達が訓練を兼ねた作業を始めようとしていると、慌てた様子のフェカトがダイン達のところにやって来る。
その余りにも急ぐ様子にポナリアに乗り掛かっていたダインが一旦乗るのを止めてフェカトに歩み寄って行く。
フェカト 「大変です、ダイン様に王都から召喚命令が掛かりました、今日テガスに到着する王家のマギガントに乗って王都に来る様に命令されてます」
ダイン 「私一人で王都ですか?」
フェカト 「はい、王家のマギガントって只の移動手段ですから、騎士は一流の処女ですけど、護衛も兼ねてますから」
ダイン 「ですが急ですね」
七実 「難しい条件ですよ、でも断る事は出来ないんですよね」
フェカト 「はい、王家の威光は無視出来ませんから、ポロルグはジーカ大量採用してる件で怪しまれてるところも有りますから」
ダイン 「でも、ちょうどいいんじゃ無いですか、私も王都には興味有りますから」
フェカト 「一応随伴に二機のマギガントは許可されてますが、遊魔には天翔ける処女が使えませんから」
七実 「研究はしてますけど、まだ無理ですね、上手くダイン様の影響を受けていない魔力だけを分離出来れば可能性はあるんですが」
ダイン 「まぁ、今は仕方有りませんよ、王家もただの気紛れで呼び付けているのかもしれませんし、気負っても仕方ないですからね」
フェカト 「ですが、残された遊魔達は不安ですよ、ダイン様お一人なんて」
ダイン 「心配してくれるのは有り難いですが、なんとかなるでしょう、ただの人間相手なら遅れは取りませんよ」
フェカト 「ダイン様の事は信じてますけど、油断しないで下さい」
ダイン 「フェカトは私の戦いを見てませんからね、流石にマギガント数機を相手にしろと言われれば無理ですが」
フェカト 「取り敢えずそろそろ到着の時間です、ダイン様は折り返しで乗る様に命じられてますから時間もないですね」
ダイン 「なら急ぎましょうか」
フェカト 「はい、他の遊魔達への説明は七実に頼みますね」
七実 「貧乏くじですが仕方有りませんよね、後の事は七実にお任せ下さい」
ダイン 「私がいないので遊魔同士で慰め合って下さい、むしろ私が我慢する方が問題かも知れませんね」
フェカト 「今日中には帰れるって話でしたから、一応王には敬意を示して下さい」
ダイン 「その程度の世渡りは出来るつもりですよ」
フェカト 「確かにダイン様は大丈夫ですよね、無理そうな娘はいますけど、なら一緒に参りましょうか」
ダイン 「一応私も連絡魔術は可能ですので、何か有れば知らせます、連絡が無いといって心配しないで下さい」
和やかに微笑みながら手を振るダインで有ったが、送り出す七実の心境は複雑であった、遊魔の護衛無しに行かせる事など避けたい事では有ったが、そもそも天翔ける処女の原理をちゃんと解明出来ていない自分にも責任があるのだ。
そう思うと七実は居ても立っても居られずに飛行型マギガントに赴いて、その構造を調べ始めるので有った。
おまけ
アーグルの工業技術 魔術が存在するがかなり高い技術力を有しており、魔力を使用して現代文明の電動技術に近い事を可能としている、電気回路の様に魔力を制御して回転運動や魔法生物を使用しての人工筋肉の利用など一部では現代技術すら上回っている分野も有る。
マギガントはアーグル技術の集大成と呼べる物で、回転運動を用いたフレームの金属加工技術とそれを動かす人工筋肉の利用など独自の技術を発展させている、反面、生活を豊かにする為への応用は遅れており、成り立ち自体が地球の技術発展とは大きく異なっている、これはアーグル文化が富の獲得を軽視して商業の発達が遅れている事が原因なのかも知れない。