002-027
テガスに居る遊魔達は勇者リエルの捕獲を成し遂げていたが、その主人であるダインは予期せぬ困難に見舞われ様としていた。
書庫で歴史書を読みながらくつろいでいたダインの所に、慌てた様子のティアスがやって来る。
ティアス 「慌ただしくてすみませんが、大変な事が起こってしまいました、アーキアさんの件で怒ったクガトが協定戦での決着を申請したんですよ、それで丁度いいのでダインさんにやらせようって事になって、王都の貴族達もダインさんの実力が見たいみたいで承認されてしまいました、クガトが選んだ騎士との一騎打ちでの決着で勝った方がアーキアさんを保護出来ると」
ダイン 「なるほど、リエルがこの場に来たんですね、ポロルグの領地のテガスでいい様にされない様に配慮したわけですか」
ティアス 「それがそうでも無いんですよ、テガスからの遠話魔術でリエルが現れたとの報告を受けてます、あちらはダインさんの不在を意図した王都への召還と慌ててましたが、クガトの意図が解らないです」
ダイン 「単なる足止めで私を引き留めるつもりじゃないでしょうか、どの道、魔力七万のリエルじゃ無いと私の相手は難しいと思いますが」
ティアス 「確かに協定戦となると準備が必要ですからね、こうなってしまっては拒否は不可能なので、私のポロルグ・ジーカを使って戦って下さい、ポロルグならダインさんも扱える筈です」
ダイン 「そうですね、ですが慣らしは必要なので今すぐ格納庫へ行きましょうか、足止めが目的ならば敵に時間を与えるのは得策では有りませんから」
プルル 「え、ダイン様ってマギガント扱えるんですか、アーグルに来て十日だと聴きましたけど」
ティアス 「ダインさん達は乗って直ぐにマギガントをマスターしているんですよ、それを疑う貴族も多いので普通に嫌がらせですよね」
ダイン 「いいでは無いですか、敵味方は早い内にハッキリさせた方がいいですからね」
ティアス 「そうですか、時間を掛ければ多くの貴族を説得出来ると思います」
ダイン 「ティアス様は協調を求めているんですね、ですが私はそうじゃないんですよ、決めれない人間は時間を無駄にするだけですから、居ない方がいいとさえ思っています」
ダインの発言にティアスは不快そうな表情をするが、実際ダインを頼っているのはティアスの方なので、ここは深く追求する事を避ける。
実際、ダインの言う時間稼ぎが狙いなら相手の想定は少しでも崩しておきたいのだ。
ティアス 「ダインさんは自信家ですよね、なら格納庫に向かいましょうか、どうせならいち早く支度して連中を驚かせてやりましょう」
ダイン 「はい、案内して下さい、ポナリア・ジーカは慣れてますが、機体差はテガスの三機にも有りましたから、扱う機体の特性は早く知っておきたいですね」
了承を得たティアスはダインの手を取って部屋を出ると、足速に廊下を移動し始める、プルルは片付けの為部屋に残った様で、ティアスに手を引かれたダインはすれ違う人間からの奇妙な視線を浴びながら広い王宮を目的地へと急いだ。
そして、三十分は歩いて、階段を三階は降りたところで、別の建屋に移るとテガスの工房によく似た雰囲気の場所に移った。
ダイン 「工房独自の雰囲気ですね、天井が高いのかテガスと良く似てますよ」
ティアス 「マギガントを扱ってますからね、この区画はマギガントは入れてませんけど、天井が高い作りなんですよ、そして、目的地はあの扉の先です」
王宮の中とは思えない簡素な扉では有ったが、重要施設が王宮に作られたというだけなのだろう、ティアスが開いた扉の先には広大な格納庫が拡がっており、居並ぶマギガントは数十体は有る様だ、工員達が慌ただしく動き回っており、テガスの何倍もある工房の様だ。
ダインは初めて見る種類のマギガントに目を奪われながらもティアスに手を引かれて奥へと連れられて行く、ここでも工員達に奇妙な目で見られていたが、好奇な視線に晒されるのはテガスで既に慣らされてしまっている。
足早に進んで、十体のマギガントの前を通り過ぎると、十一体目には来る時に乗ったザガルバが配置されており、櫓に乗った工員達が何やら作業をしている、そして、次の十二体目でティアスの足が止まるとダインも足を止める。
ティアス 「着きましたよ、ちょっと派手でダインさんも恥ずかしいかも知れませんけど、私が自由に出来るのはこの機体ぐらいですから」
そうしてティアスが指差した機体にダインが目を向けると、それはダインが乗っていい物かと疑う程、優美に装飾された機体だった。
白を基調とした配色に、描かれた花のマーキング、鎧の縁には金の彩色が施されて、テガスに有った動かすマギガントと違って、芸術品の類だ。
ダイン 「これですか、確かに私には似合いませんね、それに壊すとただじゃ済まない気がします」
ティアス 「大丈夫ですよ、私もしょっちゅう壊してますから、でも工員達は喜んで治してくれてますよ、何だか壊す度に豪華になって行くんですよね」
ダインはその言葉にティアスの人徳を感じてしまうのだが、同時に整備する者にとってはダインに壊される事は甚だ不快に思うだろうと感じてますます気が引けてしまう。
ダイン 「手間掛かってますよね、テガスじゃ鎧の装飾など殆どしてませんでしたが」
ティアス 「別に気にしないで下さい、ダインさんが戦うのは私の為ですから、私の為に傷付くのはこの子も本望ですよ」
ティアスはそう言っているが、取り巻く工員達はそうは思っていない様だ、ほぼ全員が訝しげな視線でダインを見ている。
ダイン 「まぁ状況を考えれば仕方有りませんので使わせて頂きますが・・・」
ティアス 「あ、そう言えば騎士服が有りませんよね、直ぐに手配します、取り敢えず乗って貰って慣らしを行って下さい」
ティアスはダインの手を引いて櫓を登って行く、工員達は相変わらず嫌そうな顔をしているが、所有者のティアスが行っているので文句も言えない様だ。
櫓に登って間近に見てみると、見た目以外はテガスのポナリアと変わらない事に気付くとダインも少ないからず安心する、その上でティアスの進めに従って操縦席に座って魔力を込めると映像盤に映る工員達の顔が驚きに変化する。
魔力十二万のダインならば、ポナリアの最大限まで魔道力に力が行き渡って魔動力が限界まで膨張しているのだ。
それはこの世界の人間には不可能な芸当で、王都の工員達にも初めての出来事なのだろう、噂を聞き付けポロルグを見に来る工員達はどんどんと増えて行き、開いたハッチから見えるティアスの顔は得意気だ。
ダインはそんなティアスに配慮して、ポナリアの左手を持ち上げると軽く動かして反応を見てみると、テガスに有る三体の間に有る様な操作感覚で、動かすのに問題は無さそうだ。
ダイン 「問題有りませんね、これなら普通に動きます、武器は矛をお願いしたいのですが」
ティアス 「矛ですか、沢山有りますよ、でも限界まで魔動力が働いてますのでとっておきが使えるかも、用意させておきますね」
そう言って、ティアスは工員に何か指示を伝えると、狭い操縦席へと潜り込んで来る。
ダイン 「狭いですが、何をするつもりですか」
ティアス 「違いが気になって、私じゃこの子の本気を出して上げる事は出来ませんから、でも凄いですね、魔力計が振り切ってます」
ダイン 「測定は十万って話でしたよね、テガスの機体でもこうなってましたよ」
ティアス 「やっぱりダインさん本物です、私はこれから隣のザガルバに移ってそこから指示しますね、既に相手は闘技場に来ている様なのでダインさんの凄さを見せつけて上げましょう、獲物は工房の出口に用意させています、矛以外も有りますので気に入った物を使って下さいね」
ティアスが話終えると、丁度工員がダインの騎士服を持ってやって来る、騎士服は動き易い用大きめに作られているので、同じ背丈なら殆どの人間が着る事が出来る。
ティアス 「私も降りてザガルバに移ります、騎士服に着替えると起動させますので、ちゃんと着替えて下さね」
軽く微笑んだティアスは狭い操縦席から降りて櫓を降りて行く、ティアスが降りてもティアスの匂いを感じるのは、このポナリアがティアスが普段から使い込んでいる為だろう。
そんな事を考えつつもダインは工員から受け取った騎士服に着替え始める、手渡してくれた女性工員は先程の怪訝な表情がすっかり消え去って、好奇心一杯にダインを見つめていたが、名残惜しい感じで櫓を降りて行く。
そして、乗り込み易い様に設置されていた櫓が撤去され、ダインが着替え終わるとポロルグの通信盤に騎士服を纏ったティアスの姿が映る。
ティアス 「準備は終わってますね、私が先導しますので後に続いて下さい」
ダインは軽く頷くと、直ぐに映像盤に前を横切って進むザガルバの姿が映る、それにはティアスが乗っている筈で続いて行けば闘技場に出られるのであろう。
地響きを立てて二体のマギガントが工房を移動して行く、それを見つめる工員達は皆真剣な表情で、多くの者がダインの力に興味を持っている事が解る。
居並ぶマギガントの前を通って、巨大な鉄の扉の前へとたどり着くと、扉は左右に開いて、石壁で続く横幅の広く先に格子が見える通路が現れる、テガスも似た様な感じで、闘技場は石材で作られているのだろう。
歩を進めたザガルバとポナリアが格子の前で立ち止まると今度は格子が上に開いて闘技場へ道が開ける。
そして、格子の先からは黒いマギガントが見えている、形から判別するに天翔ける処女を装着したフーティアの様で、投撃可能な手槍と大きな四角い盾を装備している。
ティアス 「側面に武器が用意されてますので好きな物を使って下さい、お勧めは一番大きいヤツです、大きさは力強さの象徴でも有りますから」
ティアスは先程から何か武器で企んでいる様で、悪戯な笑みを浮かべている、そして、扉を抜けて横目で備え付けられた武器達を見て、ダインはその意図を理解した。
テガスでも見た通常のマギガントの武器の中に、明らかに異彩を放つ巨大な武器が一つ混ざっている、それは長い柄を持つ巨大な偃月刀で、限界レベルの魔動力を引き出していないマギガントでは扱う事すら不可能に思える、だが、限界まで引き出されたポナリアなら問題は無いだろう。
巨大偃月刀の前にポナリアを移動させると会場からどよめきが沸き起こる、マギガントに乗っておらずダインの魔力を測れない観客からすれば巨大偃月刀は無茶な武器と思えているのだ。
ダインのポナリア・ジーカは腕を延ばして偃月刀の刃に近い柄を握ると力を込めて持ち上げてみる、片手で持てない物など、武器としては使えないというダインの判断だ、そしてポロルグはダインの期待に応えて片手でそれを持ち上げて見せる。
それに対して、破れるような喝采が起こって会場は盛り上がっている。
ティアス 「実はそれ、ムゥディ・フーティア用に作られた武器なんですよ、未だかつて片手でそれを持ち上げたマギガントなんて有りませんよ、私も片手は予想外でした」
ダイン 「ムゥディ・フーティアとは確か動かない王のマギガントでしたね、原因は魔動力不足でしたか」
ティアス 「はい、ですから武器だけでも持ち上げた事で、観客もダインさんの実力を感じているんですよ」
ダイン 「それでこの喝采ですか、それにしても映像盤に相手が映っていないという事は相手はあのフーティアに未搭乗の様ですね」
ティアス 「そうでしょね、クガトから飛来した様ですが、まさかこれ程の速さで支度を整えるとは思って無かった様です、そしてこの速さなら相手の魔力も完全に回復出来ませんよ」
一先ず、ダイン達の早期決着の戦略は功を奏した様だ、十分な休息が出来ていなければそれだけ相手の不利になる筈だ。
ダインが巨大な獲物を構えて黒いフーティアと対峙して暫くすると、ダイン達が入った逆の扉が開いて、全身黒で兜に大きな角を生やした鎧にマントを羽織った人物が現れる。
その人物は足速に黒いフーティアに近付くと軽く交互に置かれた腕を飛び移って操縦席に乗り込んで行くと直ぐに通信盤にその姿が映し出される。
黒騎士 「思ったよりも早かったので出遅れたなり、申し訳有りませぬ」
ティアス 「いえ、そちらはまだお疲れじゃないかと、公正を期す為にお待ちしますが」
黒騎士 「それには及びません、我の準備も万全なり」
鎧を纏っているものの明らかに若い女性が、似つかわしくない言葉使いをしている事にダインは滑稽に感じていたが、それが彼女の演出ならば黙認するしか無い、だが、ポナリアの通信盤に表示されている、魔力計の数値を見ると彼女の魔力値は十万を超えている様なのだ、魔力計は十万までしか記す事が出来ないので、滑稽に見える黒騎士はダインの魔力すら上回る可能性が有る。
その事にはティアスも気付いている様で何やら表情が強張っている、リエル以外にこれ程の実力者がテガス側に居た事は想定外で、最悪ダインは奥の手を使う必要が有るかも知れない。
その後、審判三人がマギガントに乗り込んで、通信盤に四人の顔が映し出されると、主審によるルールの説明が始まり、黒騎士は黙してその説明を聞き入っている。
ダインは黒騎士の兜から生えた角が余りにも生々しい事が妙に気になってはいたが、ルール自体は簡潔だったので、問題が起こる事は無いだろう。
おまけ
マギガントの機体差 同一種の機体であっても性能差は存在する、手作業で行われるマギガントの製造作業に置いて同一品質の部品の製造は不可能であり、その事で個体差が生じている。
この性能差は上位機種になるほど大きくなり上位機種を運用するには多くの優れた工員が必要となる。
ゾッフォの様なパワー型の普及機はさほど細かい調整を必要としない為、少々左右のバランスが崩れても影響が無いが、ジーカの様なスピード型の機体には大きな問題となる為、特にジーカの部品は品質管理が厳しい、その為かジーカには機体差が余り無いが、一度戦闘を行うと大きく乱れてしまう為にジーカの運用にはコストが嵩む。
フーティア、ポナリア・ジーカの様な上位機種では機体によって明確な性能差が有る、飛行用途で使われていたフェカト機は戦闘評価が低く、ティアス機がもっとも傑作なポナリア・ジーカと言われている。
フーティアはリエル機がもっとも高性能とも言われているが、どの機体も高い性能を維持しており、評価の低い物はザガルバへと改造される。