004-17
ムジカへの懸念は一旦心に留めるだけにして、ユーマ一行はククジア王都に向かう為に空の旅を満喫していた。
スカイベアーの魔導エンジンが放つ轟音は消音魔導式を上手く利用する事によって解消されており、眼下に見えるククジアの民達は、突如現れた空飛ぶ船を不安な表情で見上げている。
ダイン 「スカイベアーの存在も今は物珍しいかも知れませんが、直ぐに当たり前になるかも知れませんね」
七実 「どうでしょう、真似しようとして真似られるとは思えませんけど」
真夏 「ダイン様って自分の事を過小評価しますからね、テガスで建造に関わった工員ですら、魔導エンジンの事は理解してませんよ」
ダイン 「そんなに凄い事でしょうか、空飛ぶ船はファンタジーじゃ結構出て来ますけど」
七実 「想像と現実じゃ全然違いますよ」
プルル 「船は水の上に浮かぶ物で空飛ぶ物じゃ無いです」
ダイン 「液体の上に浮くのも、大気の中に浮くのも、それ程違わないと思いますが、今は私達が技術を加速させましたが、アーグル人類もきっと編み出したと思います、何せ万能な魔力が有りますからね」
ムジカ 「魔力って万能なモノなんですか、強さの指標だと思ってました」
ダイン 「ムジカは騎士以外の道に進んで貰った方が良いかも知れませんね、騎士は花形の職業だとは思いますが、魔導技師の方が人々の役に立ちますよ」
イーヴィエ 「このスカイベアーを見せられてしまっては反論など出来ませんね、テガスから王都にゾッフォを運ぶのは、通常なら一ヶ月以上掛かる筈ですから、それがたった一刻だなんて」
ダイン 「今はユーマと付き合う事の利益を強調したいですからね、ツェーリアでは正直やり過ぎてしまいました」
イーヴィエ 「私も出来ればダイン王との接触を持つ様に家から言われておりました、ダイン王との面識は今の人類圏国家の間で一番望まれているモノですから」
ダイン 「なら、国に帰れば大出世出来るかも知れませんね」
イーヴィエ 「本当にお人が悪い、テガスで毎日を過ごしていれば、母国になんて戻れませんよ、ですからユーマの騎士の座を望んでいるのです」
ダイン 「羽付きの生徒ならその希望は叶えられるでしょう、努力の出来る人間を嫌う道理は有りませんから」
七実 「ダイン様の悪い癖が出てますね、イーヴィエの才能なのかも知れませんよ」
ダイン 「万事に対して優秀なのは努力ですね、尖った者は努力無しでも尖っているものです、好きの才能というヤツです、スルームとムジカはそれっぽいですが」
ダインの言葉を聞いたスルームは何故だか頷いている、ムジカは謙遜して首を振っているが、この対照的な反応をする二人に対してダインの感じる可能性は高い。
七実 「スルームって、アキに良く似てますよ、あの娘も妙に自信家ですから」
真夏 「本物の実力は持ってますからね、マナはまだ模擬戦で勝った事有りませんし」
ダイン 「現状では近接戦しか選択肢が有りませんから、マナの才能は後方から全体を見渡して適切に支援する事ですからね」
ダインの言葉の意味を三人の生徒達は理解していない様だ、協定戦でも集団戦というものは存在しているが、基本近接での戦いが主で、遠距離武器による後方支援の概念が存在していないのだ。
イーヴィエ 「ダイン王はまだまだ変革の種をお持ちの様ですね、ますますテガスから離れたく有りませんね」
七実 「九割方そうなりますよ、イーヴィエはダイン様が好きなタイプですから、まぁここに居る全員そうなんですけど」
ダイン 「ユーマは人材を欲していますし、どうせなら可愛い娘が多い方が私も嬉しいです」
ムジカ 「そんな、後宮の方々に比べれば私なんて」
七実 「謙遜しなくても十分可愛いですよ、それにダイン様は女の子を自分の好みにしちゃいますから」
イーヴィエ 「確かにポーカ学長は優しくて綺麗になりましたね、前はもっと厳しい人だったんですが」
スルーム 「私は今の方が良いですよ、前はよく怒られてましたから」
イーヴィエ 「模擬戦でジーカ壊せば怒られて当然です、それも自壊でしたし」
スルーム 「思ったよりも飛び過ぎたんですよ、軽さは計算した筈なんですけど」
七実 「魔動力との相性ですかね、魔力の質で結構変わりますから、ダイン様もジーカは駄目ですよね」
ダイン 「ジーカは敏感過ぎるんですよ、軽さは重要な武器では有りますが、軽いだけではしっくりと来ないんですよ、素の身体の感覚と大きく異なるからでしょうか」
真夏 「解る気がします、生身でもよく動ける娘がジーカの扱いも上手いですよね」
イーヴィエ 「スルームって余り動きは無いですけど、紙一重で躱して絶妙に隙を突いてくるんですよ、でもジーカだとその動きが難しい様で」
ダイン 「ジーカは常に動いて滑らかになる様に立ち回る機体ですから、その辺りの相性も有りますね」
スルーム 「私はエポポに興味有ります、重心が低い様ですから素速い突きを繰り出しても安定してるみたいですから」
ダイン 「私に近い戦い方をする様ですね、模擬戦の折はエポポを使ってもいいですよ、テガスの学院にも数体配備する予定ですから」
七実 「最近はジノまで持って行くのに時間が掛かってますからね、バラさずにゾッフォの魔鋼練度は上げられる様になりましたけど」
ダイン 「練度の測定の為に、鎧を外す必要が有りますからね、工員達はその仕事ばかりで面白く無いかも知れません」
真夏 「でも、あれは慣れて無いマナ達には出来ませんから、測定は大型の秤で楽になってますけど」
ダイン 「王都に着いてから、人員についてクガト側と交渉してみましょうか、どうせスカイベアーに集まって来るでしょうから」
ダインがククジア王都行きを素直に了承したのは、人材を確保する目的も有った、スカイベアーの威容を敢えて見せ付ける事で人々の関心を集めて、興味を持ち能力の有る者を招聘するつもりなのだ。
そして、スカイベアーが王都上空へと辿り着くと、王宮から五機のマギガントが飛び立ち、威圧する様に周囲を旋回するのだが、一番近くを旋回するポナリア・ジーカはティアスの物で、接近して通信盤の範囲に入る事が目的の様だ。
ティアスのポナリアは細かい調整を行いながら、安定して通信盤圏内での飛行に成功していた、どうやらティアスはククジア側のエスコート役を任されている様で、安定通信での第一声では儀礼的要素が強い様である。
ティアス 「本日はお越し頂いて有難うございます、話は伺っておりましたが本当に凄い物をお作りになったのですね」
ダイン 「詳細は報告していましたし、王女殿下は視察もなさいましたよね」
ティアス 「まさかこれ程の物が出来るとは、それに完成が早過ぎますよ」
ダイン 「大型の工作機械が既に存在していましたからね、マギガント製造のノウハウを上手く応用する事で短期間の完成に漕ぎ着けた訳です、実はこのスカイベアーのフレームはゾッフォのモノを巨大化させた様な形をしているんですよ」
ティアス 「確かに這う人の形にも見えますね、お腹が大きいですけど」
ダイン 「その膨らんだお腹が格納庫になってます、今もゾッフォを三機搭載してますよ、今から面白い実演を行いますのでご覧になって下さい」
ダインは真夏に視線を送ると、意味を理解した真夏が艦橋を出て行く、ウィディ・ゾッフォの発艦を見せる事で、更に王都の人間に衝撃を与えるつもりなのだ。
ティアス 「何やらまた企んでますね、ツェーリアもこの威容の前に平伏したんですよね」
ダイン 「あれはジゾン殿が先を見据えていたからですよ、早期にユーマと統合されて得る利益は大きいですから」
ティアス 「あの小国の身の軽さは羨ましいですよ、ククジアではユーマを手放す事で周囲とのバランスを取る様にしましたから、そして、リボルト兄様はダイン王は他国の人間なので選定戦には出せないって言うんですよ」
ダイン 「それが読めていなかったティアスでは有りませんよね?」
ティアス 「もちろんです、ダイン王の国ユーマを認めさせる為の取引です、確かに他国の人間は参加させられませんが、ティアスの家族なら問題有りません、リボルト兄様はティアスの性格を読んだつもりでしょうが、ダイン王の魅力も読み違えてますね」
ティアスが妖しく微笑むと、隣の通信盤に真夏の顔が浮かび上がる。
真夏 「なんだか盛り上がってますね、ウィディに問題は無い様です、フックを下ろして貰ってからエンジン始動ですね」
ダイン 「はい、ある程度のエンジン出力が出てから切り離します、念の為に重魔鋼の浮遊は発動して下さいね、エンジン推力だけでも飛行は可能だと思いますが落とす訳には行きませんからね」
七実 「失敗したら、大恥かいちゃいますからね、でも映画の赤いヤツの発艦みたいでかっこ良いですよね」
ダイン 「発艦は考えてみましたが、着艦はまだ無理なんですよ、両方の速度を合わせてドッキングでも良さそうですがまだまだ試行錯誤が必要です、想定している運用の為には空中での着艦も必要となるでしょうから」
真夏 「着陸して積み込むのは駄目なんですか」
ダイン 「地上が何処も安全だとは限りませんから、空もそうですけどね」
ティアス 「また変な事考えてますね情報は伺ってます、それもクガト勢力と共同だなんて」
ダイン 「選定戦の敵だからと言って、全てで敵対する事は有りませんからね、ちゃんと話の解る人もいますし」
ティアス 「そういえば、テガスに送る魔鋼の一部が王都にまで届いてますよ」
ダイン 「それは朗報ですね、ゾッフォの改修作業はまだ余裕が有りますから、出来るだけ持って帰りましょう、運用出来るスカイベアー級が増えた方が色々と役立ちますし」
ティアス 「ダイン王が新型のジーカよりも、スカイベアーを優先した理由が解りましたよ、確かに多くの資材を運べるのは便利ですね」
ダイン 「ツェーリアもそれで上手く行ってますからね、テガスに集まった物資をスカイベアーでツェーリアに送る事でユーマへの支持が広まっているんですよ」
七実 「あのお話中すみませんが、マナの準備が終わった様なので発艦の許可を頂きたいです」
スカイベアーを操艦している七実がダインに許可を求める、その表情には真夏を心配する感じも読み取れ、能天気にティアスと会話しているダインに対して少し怒っている様にも見える。
ダイン 「大丈夫ですよ、エンジンが十分な推力を出せなくても浮遊は可能ですから、重魔鋼の制御は私達が持ち込んだ技術よりも確実です、真夏は魔導エンジンを始動させて下さい、スカイベアーよりも前に出たところで切り離しです」
真夏 「はい、では始動します」
真夏が計器を操作すると辺りに轟音が響き始める、ウィディ・ゾッフォの魔導エンジンはスカイベアーの物と違って消音魔導式が施されておらず大きな音を生じさせてしまうのだ。
響き渡る轟音は見上げる王都の民の不安を更に煽ったが、上空を乱舞するマギガント達の様相は王都の民に取っても初めて見る光景でもあった、特に巨大なスカイベアーの姿は新しい時代の到来を感じさせる物で、見上げる姿勢に不自由は有ったが、誰もが目を離す事は無かった。
おまけ
ウィディ・ゾッフォ ユーマによって実用化された飛行型マギガント、飛行と言っても天翔る処女装備のマギガントとは違い、空力と推力を活用する事で飛んでいる。
両腕両脚に装備した重魔鋼アンカーを利用して浮遊し、浮遊状態から飛行する為に滑走路などは必要としていない。
飛行時は揚力を得る為に飛行形態への変形が必要で、飛行形態で浮遊状態の時に人型形態へと変形する事は可能だが、あくまで飛行は高速移動手段で有る。
フレームはゾッフォとほぼ変わらずに四つん這いになる事で飛行形態に以降する、その際、左右の肩に装備されていた盾が水平に展開されて主翼の役目を担っている、他にも臀部の装甲も水平に広がる事で尾翼の役割を担う。
背中には魔導ジェットエンジンを搭載するのだが、実験機である為に単発時と双発時の両形態が存在している。
実験中の魔導ジェットエンジンは燃料消費が大きく悩みの種となっており、魔力で駆動するプロペラ方式試作も行われている。
いずれにせよ、ウィディ・ゾッフォはあくまで試験機であり、いずれユーマ騎士団で採用される主力機が登場するであろう。