004-032
時は遡って、選定戦開始前の第二、第三会場、双方の騎士は既に準備を終えて向かい合い、後は開始の合図を待つばかりだ。
対峙する騎士達の装備は三人が右手に剣と左手に盾のオーソドックスなスタイルで、異様に巨大な戦斧を装備したクフィカールだけが異質感を放っている。
フィリッカ 「リーリエッテも油断はしない様に、相手は何をするか解らない騎士だ」
アーキア 「アキの戦い方ってそんなに変かな、みんなが大人しいだけだよ」
アーキアの変な返しで、リーリエッテの表情は更に硬くなってしまう、型に嵌まらない戦い方をするリーリエッテは相手を惑わす戦いをするが、逆に惑わされるのは苦手だ、その意味ではではこの会場の二戦は正攻法対正攻法、奇策対奇策の対照的な戦いとなる様だ。
そして鳴り響く銅鑼の音で真っ先に動いたのはアーキアだ、フーティアの姿勢を低くして近付く姿は四つ脚の動物の突進にも見えるが、上体を曲げて低くして両手を広げたまま移動しているだけだ、だが、その移動方向はリーリエッテのクフィカールからかなりズレており、不可解な移動に思える。
だが、アーキアにもちゃんとした意図は有る、激突しそうな勢いで側面の壁に接近すると上手く身を翻して壁を蹴って、今度はリーリエッテのクフィカールを狙う。
リーリエッテ思考 『こんなの躱せば、良いだけです』
リーリエッテは至極普通の判断をしたが、そこに違和感を感じる、そこで自身の後方に注目すると、アーキアの突進の射線上にはフィリッカのクフィカールが位置しているのだ。
リーリエッテ思考 『この子、味方の援護も考えて』
確かにお互いの対戦相手は決まっているが、二戦を同時に同じ会場で行う以上はアクシデントが起きる事も十分有り得る、そして、ルール上は自身の対戦相手以外の攻撃は禁じられておらず、アーキアの行動は禁じられた行為ではない。
リーリエッテ思考 『避ければフィリッカに迷惑を掛けてしまいます、ここはリーが防がないと』
この考えがアーキアの思うツボだった、フィリッカに側方警戒させてリエルへの注意力を割かせてもよし、リーリエッテに対応を迫らせてもよしの二段構えの戦法で先ず優位に立つのがアーキアの目論見なのだ。
そして、迎え撃つ為に大斧を振り上げたリーリエッテの行動にアーキアは妨害を行う、左手を大きく振るうと、丸盾がフリスビーの様に飛翔してリーリエッテのクフィカールを襲う。
この攻撃自体は大した威力の有るものでは無いが、無防備状態で直撃したなら無傷というわけにも行かない、防ぐ為に大斧で防御を行うが、攻撃手段は奪われて、そこにアーキアが突進して来る。
リーリエッテ思考 『考え無しの行動に見えて結構計算されてます、こういう騎士との対戦は初めてですから気を引き締めて行かないと』
そう考えた矢先にリーリエッテは高い授業料を払う事となった、守勢のクフィカールにアーキアの攻撃が二度も加えられて、体勢を崩してしまう、特に左前腕部に命中した二度目の蹴りは予想外で、変に関節が軋む音がしている。
リーリエッテ 「流石勇者と言われるだけの騎士ですね、初手から予想の上を行かれています」
アーキア 「褒めてくれてありがとね、でも、決めきれ無かったのは残念だよ」
そう、アーキアの蹴りは頭部を狙ったものだったのだ、リーリエッテは咄嗟の判断で大斧から左手を離してガードしたが、腕の破損を招いて本来の実力を出せない状態に追い込まれてしまったのだ。
リーリエッテ 「油断をしたつもりは無かったのですが、してやられました」
派手な動きで始まった第三会場に比べて、第二会場の戦いは正攻法だ、開始の銅鑼の合図で前に出た両者はほぼ中間地点で会合して、剣撃の応酬が始まっていた、だが、アーキアの異常な動きに対する警戒はフィリッカも怠っておらず、その余計な注意がリエルに対する守勢を招いている。
フィリッカ思考 『何というか一対一なのに集中出来ません、剣技では優っている筈なのに押し負けてます』
攻めに関してはフィリッカは遠征隊の中でも一番の腕だと自他共に認められている、自身主導で自分のペースの戦いに持ち込むのがフィリッカ本来の戦い方なのだが、アーキアの存在はそれを不可能にさせる程鬱陶しい。
そして、必要以上に隙を見せないリエルも強敵で、予期していた人類圏の騎士の強さを遥かに上回っている。
フィリッカ 「良い味方を持ってますね、私も本領を発揮出来ませんよ」
事態が好転せずに思わず、フィリッカは愚痴ってしまった、リエルもフィリッカが本来の実力を披露出来ない環境で有る事には気付いていて詫びを入れてしまう。
リエル 「一対一の戦いなのに、アキが邪魔してすみません」
フィリッカ 「環境に対して上手く立ち回るのは優れた騎士の証です、でも貴女は全力で挑みたい相手ですから」
リエル 「それをされたらもう終わってそうですね、リィだって実力差は解ります、だから卑怯でも全力で挑ませて貰います」
フィリッカ 「もどかしいだけで、卑怯とは思っていません、ですがちゃんとした一対一の戦いをいつか行いたいものです」
リエル 「なら、次は生身か同じマギガントで戦いましょう、このフーティアは人類圏でも最高峰のマギガントだとは思いますけど、そちらの機体に随分と劣ってますから」
フィリッカ 「マギガントを貸してくれるなら応じます、クフィカールは選ばれた騎士しか搭乗を許されないていないので」
リエルとフィリッカはお互いに真面目な性格なので、決着を真に対等な状態で望んでいるのだ、だが、今は不本意でも勝敗を決めないわけには行かない。
そのまま二人はまた剣撃の応酬を続け、お互いの技を披露して行く、その戦いは確かに高レベルなものではあったが、観客が見て面白いと思うのは皮肉にもアーキアの破天荒さの方だった。
左腕の損傷から、本来の戦闘スタイルが不可能となったリーリエッテが柔軟に対応していた、大斧の刃を外して上下を入れ替えると、柄はメイスとして使える様にも作られており、今、正にその状態で戦いは続いていた。
アーキア 「盾で受けても凄い衝撃だよ、大斧が健在だったならば腕ごと行かれていたね」
リーリエッテ 「本当に残念です、当てれない動きじゃないので、初手の判断が悔やまれます」
リーリエッテは円盾の投撃を防いでしまった事を本当に後悔していた、フーティアの腕力は思った程強くは無く、致命打とも言える一撃も鎧を通す事は無かったのだ。
アーキア 「こちらの剣撃も効果薄いしね、その鎧硬すぎるよ」
リーリエッテ 「作るのに五十年は掛かりますから、種類の違う細い魔鋼を何重にも編み込んで作るんですよ」
アーキア 「時間が掛かる事は今のユーマじゃ出来ないからね、でも、それならそれで対抗策はあるしね」
リーリエッテ 「強気な発言ですね、私の方が優位だと思いますけど」
アーキア 「それは認めるよ、でも勝負は壊す事じゃ無くて倒す事だからね、力学って奴だよ」
アーキアは何かを思い付いたのか、左手に剣を持って、籠手と一体化した円盾を引っ張ってワイヤーを伸ばして掴むと、先端に繋がった円盾をくるくると回し始める。
リーリエッテ 「罠でも貼るつもりですか、掛けるところがないと使えませんよ」
アーキア 「そうでも無いよ、離れたところから投げられるのは嫌でしょ」
そう言って、フリスビーの様に円盾を投げると、かなり正確にリーリエッテのクフィカールを捉えて来る。
リーリエッテ 「へぇ、面白いです、攻守の武器として上手く纏まってますね」
アーキア 「ナナが変な武器作るの好きなんだよね、でも使い熟せると結構有りなんだよ」
躱された円盾を、ワイヤーを巻き取って回収すると、今度はぐるぐると回し始める、一見アーキアは遊んでいるだけの様にも思えるが、油断出来ない相手である事はリーリエッテも十分に理解している。
リーリエッテ思考 『この子、何をしてくるか読めませんけど、意外と抜け目ないから怖いんですよ、さっきから後手に回り過ぎです』
アーキアは何手か先を読んで行動するタイプでは無いが、相手の思考の及ばない行動をしてくるのだ、その無茶苦茶な思考は予測し難く、見てから有効な対処をしないといけない疲れるタイプなのだ。
リーリエッテも多彩な攻撃を繰り返す事で仲間達から一目置かれているが、それはあくまで訓練という下地が有ってこそ可能としている物で、アーキアの様な出鱈目な思い付きでは無いのだ。
警戒を強めてリーリエッテはアーキアの出方を伺う、円盾の投撃を意識させてはいるが、何を企んでいるのか解らない。
そうしてアーキアは円盾をぐるぐる回しながらにじり寄って来る、リーリエッテは右手と左手の間のワイヤーにも何か有りそうだと気になってしまうが、何でも疑い始めてはキリが無い事も理解はしている、そうリーリエッテの百年を越える騎士経験を持ってしてもアーキアは未知数な存在で有った。
一方のフィリッカは戦いを十二分に楽しんでいた、リエルの素直な剣技はフィリッカの騎士としての経験を持ってするば十分に対処可能で、余力の有るフィリッカはリエルに存分に攻めさせて技量を測っていた。
リエルもフィリッカの方が自身よりも力量で勝る事を理解していたが、今攻めなければ次のチャンスは中々訪れない事も感じ取っていた。
リエル思考 『技量でも負けてマギガントでも負けてますね、ダイン様は負けても許してくれるでしょうが、勝ちたいのは当たり前ですから、でもこの人本当に隙が無いですね、アーキアはいい勝負している様ですが』
リエルは遊魔と成ったアーキアが自分に劣らない存在で有る事を十分に理解しているが、アーキアが善戦出来ている理由までは解ってはいない、どの道それが解ったとしても生真面目なリエルでは真似る事は不可能でも有るのだが。
リエル思考 『でも、通信盤のアーキアは何かを伝えようとしている様です、初手の挟撃作戦は見抜かれてしまいましたけど、この状況で出来る事なんて・・・』
リエルは少し考え込むと、アーキアの位置どりが変わらない事に気付いた、そしてアーキアの思惑を察知して行動を開始する。
相手の背後に周り込もうとする行為は、ある意味で自分の弱さを知らせる様なもので有る、リエルはそれを承知した様にフィリッカの後ろを取れる様に左手から周り込もうと動くが、正面にリエルを捉えたいフィリッカは同じ様に動いて、お互いの位置を徐々にずらしていく、そしてその応酬は小刻みに続けられて、リエルはアーキアの望む位置へと移動を完了させる。
フィリッカ思考 『妙な動きですね、背後に周り込むなんて無理な事は解ってるでしょうに、それにここからだと隣の状況も解って丁度良いですよ、自分の戦いに集中させる為に位置を移動させたんでしょうか』
フィリッカは自身の思考で納得出来る解答を導き出すと、それを真実だと思って納得してしまった、確かに隣の戦いが望めるこの位置だと、気が散ってしまうのは仕方が無い、だが、フィリッカの実力ならばそれを加えてもリエルに押される事は無いだろう。
この時点でフィリッカはリエルの実力を十分に把握出来ており、正しい判断をしていたと言っていいだろう、だが、フィリッカがちゃんとした力量を見極めたのはリエルだけで、次にアーキアをも見極めようとした欲張りで足をすくわれる事となる。
おまけ
第二、第三戦の会場 ククージア王城内に設けられた大きい方の闘技場で、普段ククージアで行われる協定戦はこの会場で行われている、ダインがククージアで行ったマギガント戦もこの会場で行われている。
二試合同時に行えるほど広い闘技場では有るが、今回の様に同時に二試合が行われる事は滅多にない。
王城内というククージアでも最重要区画に位置しているが、城壁に闘技場へ行く専用の出入り口が存在している為に、一般市民でも普通に試合を観戦する事が出来る、ただ、一般人区画と要人区画は完全に隔離されており、王城内に民衆が許可無く入れるのはこの闘技場ぐらいである。
二つの闘技場は王都工房とも隣接しており、マギガント出入り口はそのまま工房にも通じている、飛行型マギガントの離着陸場も闘技場が担っており、ククージアの空の玄関口でもある。