005-023
映像盤に映った七実にそれ程慌てた様子は無いが、ダインの知る限り七実はエゴナの工房で、ヒューリに送ったダイオーンの調整をしている筈だ、そして画面にはちゃんとヒューリ専用ダイオーンから送られた映像である事が記されている。
ダイン 「映像盤の調整中ですか?」
七実 「いえ、ダイン様に指示を仰ぐ為に繋ぎました、ヒューリ様をビグ・ユーマに連れ込んだとの話を伺いましたから」
ダイン 「何やら予想外の事態に見舞われているというわけですね」
七実 「はい、実は今し方、ダイン様が負かしたエリリナ嬢がユーマへの保護を要請して来ました、身柄はイーヴィエが確保していますが、今後の対応をお教え下さい」
ダイン 「私を頼った者を追い返しはしませんよ、それにエリリナは使い道が有りそうですからね、少々揉めても構いませんからビグ・ユーマの船室で面倒見てあげて下さい」
七実 「解りました、そのままイーヴィエを監視に付けますね」
ダイン 「それでお願いします、私は直ぐにでもヒューリを仕上げて対応しましょう」
七実 「もう手を出したんですか、立場の有る娘なんですから軽率な事は控えて下さい」
ダイン 「抜かりは有りません、進歩した私の魔進化はそれ程時間は掛かりません」
フィセーリア 「でも、着たままの服はどうやって乾かすんですか?」
フィセーリアの指摘にダインは焦りの表情を浮かべる、ヒューリを安心させる為に全裸に剥く事を避けた結果、新しい難題が浮上したのだ。
ダイン 「そうですね、耳長の服を着せましょう、ヒューリ自身がねだったと説明すればそれで何とかなるでしょう、耳長には友好の印に互いの服を交換する風習が有ると言えば大丈夫ですよね」
フィセーリア 「勝手に変な風習を捏造しないで下さい、でも、私もヒューリの服は着てみたいです」
ダイン 「なら今から服を脱がせましょう、直ぐに絞って乾かせば大丈夫な筈です」
七実 「ヒューリの服は、ダイン様の着る様な雑な服じゃ無いと思いますけど、乾かすのはちゃんと女の子に任せて下さいね、ダイン様がちゃんと扱えるとは思えませんし」
ダインの衣服の無頓着な性格を知る七実はちゃんと釘を刺しておく、ダインに任せると力ずくで絞って干すだけで、服の皺とか細かいところなど全く考えないだろう。
ダイン 「なら、誰か呼びましょう、確かプルルが下に居ると思うので頼みます」
視線を向けられたフィセーリアは直ぐに立ち上がって、プルルを探す為に艦橋から出て行く。
ダインはダインで尻尾の触手を解いて、ヒューリの服を脱がせて行くが、高級なドレスの扱いにかなり苦労している様だ。
七実 「この世界の服は高いですから慎重に扱って下さいね、ナナはエゴナの人間の様子を見ながら作業を続けます」
結果、フィセーリアに連れられて戻ったプルルは、ダインの体液に濡らされたヒューリのドレスを持ってまた下に戻り、フィセーリアはこのままダインの魔進化を観察する事にする。
ドレスを脱がせながらも魔進化の作業は継続されており、ヒューリの身体には魔力光を伴った紋様が浮き出ている。
フィセーリア 「魔力光が大きいところが脈だというわけですか、光も少し点滅してますね」
ダイン 「魔力の流れにも強弱が有る様です、そして魔力は頭で増幅される様ですね」
ダインの指摘通りに、頭から離れた所の方が魔力光の光が弱くなっている、つまり頭から魔力が産み出されているという説の有力な証拠ともいえよう。
フィセーリア 「確かに、魔進化して魔力が劇的に向上する理由は、遊魔思考を手に入れる事と大きく関係している様です、現にヒューリはまだ遊魔じゃ有りませんが魔力の向上を感じます」
ダイン 「そうなんですよ、耳長も同じく魔進化すると魔力が上がりますよね、なら元々高い魔力を持つという中央大陸の魔龍は私に類する知性を有しているんじゃ無いでしょうか」
フィセーリア 「中央の魔龍も遊魔耳長と同じ、耳長が変容したという事ですか?」
ダイン 「推測ですけどね、私は実際に見た事有りませんし、耳長は耳長が魔龍になる事を知らなかった、以前魔龍は互いに争っている為に勢力範囲を拡げないとも聞きましたが、本当にそうなんでしょうか?」
フィセーリア 「高度な知性が有れば、無益な戦いをしないというのがダイン様の考えでしたね」
ダイン 「はい、ですから近い内に魔龍と接触を持つ必要が有るんですよ、その為にはこの人類圏の安定を急がないと、私が不在となればユーマによからぬ事を企む勢力も現れるかも知れません」
想像力の高いダインは悪い事態を想定して大胆に動きたく無いのだ、これはダインのアーグル世界に対する知識が増えた事が原因では有るが、調べたくなる好奇心と現状を維持する労力でバランスを取る事はダインに取っても難題なのだ。
フィセーリア思考 『このヒューリという少女に対する過度な期待はダイン様の不安の現れかも知れませんね、人間を統率する遊魔に人間の国を任せる事で、人類圏の安定を強固にしないと不安なんですよ、そしてダイン様の不安を解消しないと中央大陸の探索にも力が入らないですよね』
フィセーリア 「ダイン様は気にしすぎだと思います、遊魔は社会もさることながら個人も十分に優れています、だからもっと楽に進めてもより良い解決を導き出せると思いますが」
ダイン 「長命のフィセーリアに言われると説得力が有りますね、中央大陸を脱出した耳長の苦難を考えれば遊魔の問題など取るに足らないという事ですか」
フィセーリア 「そうですね、耳長にはクフィカールが有りましたけど、遊魔のはもっと凄い力が有りますから、それにダイン様っていざという時に人類圏の征服を考えて、マギガント戦力を整えてますが、遊魔の力で攻めた方が早いですよ」
ダイン 「ですが人類圏の魔族への感情を考えるならば、あまり遊魔を表には出したく無いんですよね」
フィセーリア 「確かにザキトス魔族は暴力の権化の様な存在でしたから、生身でクフィカールに挑む様な奴らでしたし、脳筋ってヤツですね」
ダイン 「そういう存在ならば、弱い人間には興味ないのでは」
フィセーリア 「遊魔の様に共存を考えない生き物でしたから、生産などせず略奪するばかりで、同じ魔族同士で奪い合いもしてました、ザキトスはダイン様のような絶対者ではなく魔族を産み出せる存在という意味合いが強かったんです」
ダイン 「ルゥから聞いたザキトス像とは違いますね、ですがフィセーリアの話の方が辻褄は合いますね、ザキトスが絶対者なら魔獣を餌に中央大陸に魔族を導く意味も無さそうです、私ならば人類大陸を掌握してから侵攻します」
フィセーリア 「ザキトスに関してはいずれ私の見解をじっくりとお話しします、今はこの娘を仕上げるんですよね」
フィセーリアはダインに有効な話題をストックした上で、ヒューリの魔進化を促して次の機会を狙う、確かにダインも実際にザキトス戦役を体験したフィセーリアの話には興味をそそられるが、ヒューリの魔進化は急ぐ理由がある。
ダイン 「実はかなり進んでいますよ、ヒューリには英傑型遊魔という新しい試みを実行しているんですよ、英傑型は人間の姿と変わらない形で戦闘力を大幅に高めるんですよ、ちょうど魔龍化してしまう耳長とは対極的な遊魔となるわけです」
フィセーリア 「この魔力の高まりはその現れだったんですか、この姿で遊魔の平均を上回っている様です」
ダイン 「敢えて人間の姿の英傑を生み出す事によって、エゴナの権力をヒューリに集中させます、ヒューリはそれだけのカリスマも有る様ですから、そもそも何も無い者を王位に就けようとは思わない筈ですから」
フィセーリア 「私達耳長が接触したこの時期だからこそ人の英傑を生み出すわけですね、ダイン様の考えは未来を見てますね」
ダイン 「買い被り過ぎです、私はただ魔龍とは違う刺激を求めただけです、その結果が魔龍と対極の英傑です」
フィセーリア 「そういう事にしておきます、真に優れた者は己を評価しませんから、ダイン様も今よりずっと優れた自分を見てますよね」
ダイン 「確かに今の私は理想の私には遠おく及びませんから、ヒューリに英傑という役目を与えるのも目指す私に近付く為なのかも知れません、もっともこのままでも良いという怠惰な私もいますけどね」
フィセーリア 「ダイン様は今のダイン様のままでいいですよ、所詮英傑像なんて創作です、ザキトス戦役の人間の英傑と直に触れ合った私の言葉ですから」
ダイン 「それを聴くと安心しますね、完璧な英傑などおらず、人の妄想が英傑を完璧にする、ですがこのヒューリにはなるべく完璧を演じて貰いますよ、その内耳長とも対峙して勝って貰わないと、人間の期待を背負って貰うんです」
フィセーリア 「耳長の登場が人類の英傑を産み出す土壌となったわけですね」
ダイン 「他の要因でもそうなりますね、耳長魔龍が続いた私の鬱憤を晴らすのがこのヒューリですから」
その言葉にフィセーリアは少し悲しくなってしまうが、与えられた能力は仕方が無い事だ、そしてフィセーリアの中にも耳長が何故魔龍となるのかの疑問が渦巻いており、その疑問の答えを得る為にはダインと共に歩む他無い。
ダイン 「どうやら英傑型は完成した様です、見た目でほぼ変わるところは有りませんが、魔力は桁違いに増えましたね」
フィセーリア 「凄いですね、言葉にし難いですが、そう、本能的な恐れを抱いてしまいます、見た目はほぼ耳長の女性と変わらない筈なのに、この魔力を耳長が得てしまったら凄い魔龍になっちゃいますね」
ダイン 「魔力密度を上げる為に色々模索しましたから、今後個体戦闘力を強化する事が遊魔の課題ですから、英傑型遊魔の登場は遊魔史の新しい1ページを刻む出来事ですね」
フィセーリア 「姿の変わらない遊魔ですからね、ダイン様の美がその身に表現されないのは可哀想でも有りますね」
ダイン 「いや、ヒューリにもちゃんと私の美を表現した姿を与えますよ、第一尻尾が無いと遊魔としての生き方を楽しめ無いじゃ無いですか、特にヒューリは暫く処女でいてくれる為に快楽を味わう為の尻尾は必須です、今から次に移りますよ」
ダインは次と言ったが、その行動は不可解だった、ヒューリの口に触手が捩じ込まれると尻尾カプセル下部から気泡が発生して身体が大気に包まれて行く、これはヒューリを覚醒させる準備に間違い無く、フィセーリアはこの中途半端な行いに疑問を深める。
尻尾カプセル内の液体が抜き取られると舞い起こった風にヒューリの身体が乾いて行く、そして膨張した尻尾カプセルが左右に別れると、遊魔椅子に座ったヒューリが外に出るのとほぼ同時に口の触手も外れて、産まれたままのヒューリが姿を現す。
フィセーリア 「これで仕上げなんですか、ダイン様らしく有りませんよ」
ダイン 「ヒューリの肉体美は私も手を加えるのを躊躇ったという事です、ですが変化出来るのが遊魔ですよ」
ダインの言葉を受けてかヒューリの目が開く、だが、状況を上手く理解出来ていない様で当たりを見回すと、正面のダインに問い掛けて来る。
ヒューリ 「ここは・・・ダイン様のビグ・ユーマですよね、私はダイン様に力をお願いして・・・」
ヒューリはその言葉の途中で自身に宿った力の一端に気付いた様で、右手を前に広げて軽く詠唱を唱えると、その人差し指から恐ろしいほど眩い光が漏れる。
その余りの眩さに手を閉じると、ヒューリは自身の身体に宿った膨大な魔力を実感出来た様だ。
ダイン 「成功の様ですね、人の姿のままで高い魔力を維持出来ています、ですが最大の違いは身体の強靭さです、それを測るのはどうしましょうか?」
ダインの言葉に反応したヒューリは瞬時に移動してダインの後ろに回り込むと、背中からギュッと抱きしめる。
ヒューリ 「どうでしょう、もっと強く出来ます」
ダイン 「今の抱擁で十分です腕力も凄いですね、遊魔形態の私が振り払えません、もっともヒューリの抱擁を払うわけが有りませんが」
フィセーリア 「動きも早いですね、人間の動きとは思えませんでした、あ、遊魔の動きなんですよね」
ヒューリ 「ヒューリの頭の中にあった動きを真似てみました、尻尾が無い分バランスが難しくて抱き付いたんですよ」
ダイン 「やはり尻尾の無い遊魔は今までの蓄積が上手く行かないのかも知れませんね、まぁ暫くすれば慣れるでしょうが、ヒューリは次に進んでみて下さい」
ヒューリ 「あれですね、ここからがダイン様のヒューリですね」
ヒューリの耳が長く延びて白い毛が生え揃って行く、そしてお尻からは丸くて白いふわふわの尻尾が段々と大きくなって行く、手脚も同様に白い毛が生えていき、ふかふかの毛並みを持った獣人の姿へと変化して行くのだ。
おまけ
英傑型遊魔 ダインが産み出した新しい遊魔、人間形態時の魔力量を魔進化する前の人間時と変わらない程に制御する事が可能となっている。
魔力制御によって、ダインとの深い関わりを疑われない遊魔を産み出す事で、遊魔の人類圏侵蝕をより秘密裏に行う事が目的だ。
具体的にはDコアによる魔力蓄積を人間形態時でも行える遊魔であり、従来の魔進化によって起こる魔力の増大を隠蔽する事が可能となっている。
ダインがこのタイプの遊魔を産み出した背景には、ダイン自身が目立ち過ぎた事を反省した為で、より目立つ存在を作り出す事でユーマへの注目度を下げる事が目的でもある。
英雄型では無く英傑型なのは、英雄だと男に限定されそうなイメージをダインが持っていた為であり、ダインの拘りが現れた名称ともいえる。
最初の個体であるヒューリは人間から変わらないまま魔進化を終えたが、ちゃんとした遊魔の姿である獣人形態への変容も可能であり、大国を統べる女王という役目を与えられながらも可愛いうさぎ型獣人の姿へと変容する事が出来る、立場と姿に大きなギャップを与えるのはダイン流の遊び心の現れだといえよう。