005-030
フェカトの広げた書類と向き合い唸りを上げているダインの元に、意味深なバスケットを抱えたティアスがやってくると、すかさずダインが問い掛ける。
ダイン 「甘い匂いがしていますが今回は大丈夫でしょうね、高級なだけが美味じゃ有りませんよ」
ダインが開口一番に牽制したのは、前回出されたティアスの手料理で酷い目に遭ったせいだ、ただ味はそれほど悪く無かったが、ダインの食の好みからは大きくズレた一品だったのだ。
ティアス 「ダイン様が甘いのが好みだから考えたんですよ、普段の食事も甘い方が良いって」
ダイン 「いや、食後に甘い物は好きですが、食事は普通でお願いしたいですね、私は甘辛く煮た料理も余り好みじゃ無いんですよ、食事と甘味でメリハリを求めてます」
フェカト 「ダイン様の食事は主に愛耶の担当ですからね、あの味に対抗しようと手を尽くしたのは認めますが、完全に無駄ですよ、ティアスはティアスの得意分野で貢献すべきです」
ティアス 「何でも出来るのがティアスなんですよ、あの料理だって王宮じゃ好評だったのに・・・」
ダイン 「国王の手料理を正面から否定は出来ないでしょう、せめて遊魔の誰かに味見役を任せていれば・・・」
フェカト 「過ぎた事は仕方有りませんよ、ティアスもちゃんと反省している様ですし」
ティアス 「はい、今回はちゃんと木の実を使いました、植物なら甘くても問題無いですよね」
ダイン 「先入観は有りますよ、木の実と言ってもスパイスの類いを甘くされても困ります」
ティアス 「大丈夫な筈です、ただ今回は食材の関係上人間に食べさせるわけには行かなかったんですよ」
ダイン 「なるほど、ティアスも自分で勝負する気になったんですね」
ダインの言葉に頷いたティアスが、バスケットの覆いを取るとグラスに入った白い塊が姿を現す、見た目はプリンの様だが、過去の事例から見て余計な一工夫が加えられている可能性は高い。
フェカト 「見た目は普通ですよね、フェカトが毒見しましょうか?」
ダイン 「それには及びません、このダインは手料理から逃げるほど野暮じゃ有りませんよ」
フェカト 「流石はダイン様です、よく混ぜてから召し上がって下さい」
ダイン 「え、プリンじゃ無いんですか、普通は混ぜませんよね」
ティアス 「中の具が沈んじゃいますから、具と乳の調和をお試し下さい」
ダイン 「具ですか、甘味では余り効かない言葉ですね、タピオカみたいな物でしょうか」
ダインは疑問を口にしつつも、グラスの中を匙でかき混ぜて一口すくい上げて口に含む、甘い液体ともっちりした小さな団子の組み合わせで、白玉クリームぜんざいからぜんざいを抜いた様な感覚だ、だが、味の調整はちゃんと出来ていて、白玉を噛むとクリームの甘さが和らいで程よい甘さとなる。
ダイン思考 『ちゃんと進歩してますね、白いクリームにもお茶の味がしてますから深みも有ります、茶の苦味で甘さを引き立てつつ、白玉で調整するとは中々の発想ですね、ナナが入知恵したんでしょうか?』
ダインの憶測は正しかった、自身の有った前作で不評だったティアスは遊魔で一番ダインとの付き合いが長い七実を頼ったのだ。
だが、家事スキルの低い七実は記憶に有った流行り物を思い出して、タピオカミルクティーを提案した訳だ。
そして、旬を逃した異世界の流行り物は意外とダインの味覚に有った様で、ティアスは食でダインを満足させるという目的を達成出来たのであった。
ティアス 「どうです、結構自信あるんですが、ナナも褒めてくれましたし」
ダイン 「確かに日本の味っぽいですね、私は本物を飲んだ事は有りませんが、ですが十分に美味しい物ですよ、フェカトも食べてみて下さい」
フェカト 「良いんですか、ダイン様の為に作った物なんですよね」
ティアス 「美味しいって言ってくれただけで満足ですから、次はフェカトも手料理でダイン様に満足して貰わないと」
ダイン 「なるほど、ティアスは策士ですね、新しい称号を生み出して自身の価値を高めるんですね」
ティアス 「ティアスは出来る妻ですから、どんな事でもダイン様を満足させたいんですよ」
フェカト 「人の得意分野にまで踏み込むなんて・・・でも自信家のティアスらしい行為です」
ティアス 「だってナナ見たら焦りますよ、ナナはダイン様の理想を叶える為に新しい物を生み出していますから、今回の竜骨と浮遊機関も凄い発明ですよね、現行の運河貨物船を浮遊母艦として使う事が可能になりますから」
ダイン 「その意図で作られた物ですが今の浮遊母艦は無駄も多いんですよ、ですから浮遊母艦に適した船体を船大工に任せるつもりです」
フェカト 「駄目じゃ無いですか、ダイン様にそういう話題を振ると中々帰って来ませんよ、今回はそういう話が中心になりますので今ぐらいは楽しまないと」
ティアス 「それもそうですね、でもユーマ・ティアスは順調に進んでますよ、ナナは凝り性だから、尻尾を使って形を記憶してティアス人形を作っちゃったんですよ、何も忠実に再現しなくてもいいのに」
ダイン 「さすがナナですね、等身大ティアスフィギュアを作ってしまうとは、体型に関しては私からも言っておきましょう、やはり胸は盛るべきでしょうから」
フェカト 「詐欺じゃ無いですか?」
ダイン 「像は動きませんから、それぐらいはいいでしょう、特に下から見上げられる物なので、お尻が強調されてしまいます」
ティアス 「それ、嫌ですよ、ティアスのお尻が民の記憶に刻まれるなんて」
ダイン 「お尻好きなど、少数派でしょうからね、ですが今更変更は出来ませんよ」
フェカト 「スカイベアーのポーズでも良かったかもしれませんけど、あれだとデブになっちゃいますからね、お尻が大きい方がまだ良いと思います」
ティアス 「尻尾が大きいだけで、お尻が大きい訳じゃ有りませんよね」
ダイン 「尻尾よりも尻に注目してしまうのが男なんですよ、胸が有れば別ですが・・・」
ティアス 「ティアスの胸はダイン様の為のモノですから、巨像の尻が凝視されても我慢します」
ダイン 「まぁ、この計画自体がご褒美か羞恥プレイか微妙な位置付けでは有りますが、私の美の評価が行われるのは少し怖いですね」
フェカト 「ダイン様の美意識は遊魔だけが理解すれば良いモノですからね、人間の言葉なんかどうでもいいですよ」
ダイン 「私も人でしたからね、理解されないと思いつつも淡い期待は抱いてしまいます」
ティアス 「けど、色は塗りませんから、全てが表現される訳じゃ無いですよ」
ダイン 「まぁ認識の違いでも楽しみましょう、ですが尻尾で型を作るとは流石ナナですね、原寸大ティアスが有れば本人に遠慮は要りませんから」
ティアス 「ティアスの意見が言えないのは嫌ですけど、ずっとナナの元には居られませんから、もうナナの感性に任せるしか無いですよね」
ダイン 「はい、ユーマ・ティアスはもうナナの作品です、私はその先を思案しないと」
フェカト 「エゴナの協力が得られる事で食料問題がほぼ解決しましたからね、私の試算だと後二ヶ月程で東方遠征も可能な筈です」
ダイン 「通信ネットワークの整備に、中継基地、どれもが滞りなく進んでますね、問題は浮遊母艦の穴埋めですが、ユーマ・ティアスは予定より進んでますね、四番艦と簡易型も二ヶ月後には運用可能でしょう」
ティアス 「数が一気に二倍以上ですよね、早すぎますよ」
フェカト 「輸送量はもっと凄いですよ、四番艦だけでスカイベアーの三倍は運べますから」
ダイン 「それぐらいじゃ無いと東方遠征に不安が有りますから、相手は三百機のクフィカールを保有してますからね」
ティアス 「戴冠式でユーマ・ティアスを披露してから、直ぐに東方遠征なんですよね、もっとゆっくりしても良いんじゃ無いですか?」
ダイン 「耳長の情報を元にルーフィンに中央大陸への探りを入れて貰ったんですが、魔龍の裏付けが取れました、フィセーリア達の記憶からは解ってはいたんですが、出所が一つの情報は鵜呑みに出来ませんよ、そして、私の魔龍も早く試したいですからね」
フェカト 「実験を行っている島での経過を見る限りかなりの戦力が期待出来ますからね、耳長遊魔を運んだ方が、東方での安全が確保出来そうです」
魔龍という秘匿性の高い戦力を見出した事で、遊魔の優先事項は浮遊母艦の建造に変わっている、魔龍一体の戦力はクフィカールをも上回っており、遠征の戦力としてはマギガントを運ぶよりも遥かに効率的なのだ、その上、魔龍の成り手の耳長は耳長騎士団が交流という形で途切れる事なくユーマに送り込まれている。
ダイン 「引き留める口実もそろそろ限界に近いですからね、その意味でも私の東方行きは先送り出来ません」
フェカト 「人類法が無い東方大陸では戦争が出来ますからね、人類圏でもその方が早いですよ」
ダイン 「あくまで話し合いが先ですよ、耳長自体が納得して協力してくれた方が心が痛みません、魔進化は耳長にも魅力的な事は証明されてますからね」
フェカト 「万人に与えられないのが問題なんですよ、交流団の耳長達は皆んな資格が有りますから、でも、耳長には雄も非処女もいますからね、そういう者達からの支持は望めないですよね」
ダイン 「平等な支持なんて求めてませんよ、私と共に生きる事を望む者に幸福を与えるだけです、そもそも遊魔を嫌う者達まで幸せにする義務なんて無いでしょう、今でも私は国の出入りを制限してませんから」
フェカト 「ユーマ国民は明らかに増えてますよ、テガス魔動力学院への志願者なんか百倍以上です、平民層への特待生制度の噂が広まった結果ですから」
ティアス 「色々と話題になってる学院ですね、遊魔には教えられる事が多いですから良いと思います、ティアスも通って見たいですよ」
ダイン 「授業は映像盤に映す予定ですから、ククージアでも受けられますよ、でもこの学校の目的は希望者を選別する為です、門戸は広いですが先に進めるのは極僅かになると思います、遊魔選別の為の施設でも有るんですよ、あとテガスで不足している労働力を調達する意味も有りますね、学費は無料ですが対価としての労働は行って貰いますから、もっとも働いて覚えた事の方が身に付く筈ですからね」
ティアス 「そういう物なんですか、ティアスには経験有りませんから」
ダイン 「私はそうですよ、ユーマの技術的な成功は私の実体験が大きく反映されてます、見ると触れるは全然違うんですよ」
フェカト 「魔動力学院まで進め無くても、何かの技術は身に付けて貰いたいですね、それがユーマへの愛着になると思いますから」
ダイン 「若い時の楽しい体験は強く記憶に残る物なんですよ、人が集まればテガスの街も面白くなるでしょう、ですが理を乱す猿は排除しますよ、私は性善性悪などでは無く人間とは獣だと思っています、ちゃんとした理を理解出来ない者には価値など無いと思っています」
ティアス 「遊魔の真理を理解しているとよく解ります、人の目線では気付けない事ですね」
ダイン 「多くの人間には物の価値が理解出来ませんから、多くの人が理解出来るのは料理ぐらいですよ、料理は個人で美味い不味いの評価が出来ますから、私は知性を進化させたのは味覚だと思っているんですよ、生存に不可欠な要素で有りながら幾らでも追求が可能ですから」
ティアス 「だからこそティアスは食でダイン様に認めて貰いたかったんですよ、遊魔文化って食の割合が物凄く高いですから」
ダインは遊魔食文化を浸透させる事で正体が露見した時の保険となる様に考えている、食は生存に必要不可欠で一度味を覚えてしまえば求めてしまう物なのだ。
人類圏の人間が遊魔食文化と遊魔根絶を秤に掛けるとして、遊魔食文化の決別を拒む者が多い程、遊魔が人類と共生出来る未来が開ける算段だ。
おまけ
ユーマ・ティアス ユーマが建造する三番目の浮遊母艦、七実によりダイン芸術の広告塔としての役割を提案され、それに沿う形で建造が進んでいる。
その姿は崩した正座をする遊魔姿のティアスを巨大化した物で、ダインの美を人類圏に広く知らしめるのが目的で、その目的の為に民衆の注目度が高い浮遊母艦を使用するという、かなりぶっ飛んだ発想から作られている。
モデルのティアスは全裸では無くドレス姿だが、スカートの中は緻密に作り込まれる予定で、ダインから民への施しの意味合いもある。
完全な左右対称で、これは七実の行うクラフトゾッフォの魔鋼板金作業を別の一機が反転再現させる事で作業労力を減らす為でもある。
本来、浮遊母艦の三番艦はククージアで建造予定で有ったがユーマ・ティアスの作業はテガスで秘密裏に行われており、その代わりとしてククージアでは木材を多用した普及型浮遊母艦の建造準備が始まっている 、人類圏技術を製造に取り入れた普及型が完成すれば、文字通り人類圏に浮遊母艦が普及し始めると思われる。