006-002
食事の後は報告会が始まる、食器を片付けたテーブルにお茶とクッキーを出して、一日の状況を報告する、ダイン側がやった事は一目瞭然だが、ちょっとした周囲の坑道の探索も行っていた様で、そもそも安全が確認されたこそこれだけ大規模な事が行えた様だ。
ダイン 「元々広い地下空間が存在していたんですよ、私は上を少し拡張しただけです、熱魔術の実験の様ですが、正直これ程の魔力を持つ人間が居たとは想定外です、噂される潜伏しているザキトス魔族でしょうか?」
ラフォリア 「魔導符なら、人間でも可能かも知れません、魔導符はこの島で研究されている魔術で、複数の魔導士の魔力を束ねる事が可能なんです、まだ熱魔術ぐらいでしか成功してないと聞きましたが、この空間を作ったとなるとかなりのモノですね」
ダイン 「私最大の熱魔術に匹敵してますね、まぁこんな所に穴を開けても余り意味は有りませんが、念の為に放射線の類いも警戒していましたが、身体に変化は無い様です」
リレッタ 「また変な言葉が・・・でもダイン様の杞憂だったんですよね」
ダイン 「ラフォリアの言葉で魔術の一種で有る事が解りましたからね、ところで遊魔候補の状況はどうでしたか?」
ラフォリア 「数名を確認してみましたが殆どは大丈夫でした、一人不適合者がいましたが役柄的には問題の無い人物です」
ダイン 「その娘は惜しい事をしましたね、魔進化する機会はもう訪れないでしょうから」
シノール 「愛情が有って結ばれたのなら、それで十分幸福ですよ」
リレッタ 「過ぎた事は仕方ないですからね、ダイン様的には直ぐにでも情報を欲してますよね?」
ダイン 「当然そうなります、潜入班の安全を考慮するなら、この島の現状把握は疎かには出来ません、ラフォリアは誰がお薦めですか?」
ラフォリアは魔術を使って、手の平の上にフェイベル立体映像を投影させる。
ラフォリア 「一番情報を握っているのはこの娘でしょう、状況は一番先に確認しに行きました」
ダイン 「普通の街娘の様な見た目ですが、島人の監視役ですか?」
ラフォリア 「さすがはダイン様です、主に夜の街を監視している者です、一番大きな街に館を構えてますから、その点でも一番利用価値が高い筈です」
ダイン 「街ですか、確かに文化水準を確かめるのは重要ですね、この島は人類法が及ばないとも聞いていますし」
リレッタ 「ラフォリアの事前情報通りにククジアの貨幣が流通してました、ですが大きな額の貨幣を使うのは難しいと思います」
ラフォリア 「娼館では高額の貴族貨幣が使えますが、街の商店では無理ですね」
ダイン 「そうですかでも貴族貨幣など持って来てませんから問題無いでしょう、食料の調達を兼ねてフェイベルの実物を確認しに行きましょう、リノールとシノールは留守を頼みます、暇なら魚でも捕まえて下さい、鍋の野菜も探しに行きますよ」
リレッタ 「そろそろ日暮れですけど・・・でも夜の方がフェイベルを誘い易いですよね」
ダイン 「地の利は有りませんが、そもそも相手は我々を認識してません、警戒して無い獲物の方が狩り易いのが道理です」
リレッタ 「ダイン様はそういう人ですよね、もう処女の遊魔も普通になってますし迷う理由も有りませんよ」
遊魔歴の長いリレッタは食欲の満たされた後のダインの行動が性欲だと感じていた、その為の獲物がフェイベルというラフォリアのお薦めである事は当然なのである、だが、リレッタ自身にも湧き上がる熱いモノが有る、そしてダインが離れた秘密基地では二人の耳長も交わるであろう。
そう、ダインの料理した魚には精力増進の効果が有った様で、ダインの肉槍はギンギンに熱り勃っている、後のあの魚は勃ち魚(タチウオ)と呼ばれ遊魔の間で珍重される事になるのだ。
ダイン達が繰り出したレブナン島の夜の街は人類大陸の街とは全く別のところだった、風紀にうるさく清潔な人類大陸に比べて、この島最大の街リゲヤはまさに混沌としている、酒に酔った者が路上にたむろし、通りには客引きの娼婦する立っている。
人類圏では有り得ない状況に遊魔で有るリレッタすら恐れを感じている様だが、島を知るラフォリアには見慣れた光景の様だ。
ラフォリア 「フェイベルはこの街の北側詰所にだいたい居ます、仕事的には更生官というヤツです、剣術と魔術に秀でた武官で、一線を超えた人間を独自の判断で更生させるんですよ」
ダイン 「風紀委員といった物でしょうか、島の悪事を知る者だからこそ、情報にも強いという事ですか」
ラフォリア 「街には岩喰いも出向いてますから、そもそも飲酒は岩喰いの文化ですからね」
ダイン 「耳長といい私の世界の幻想種族の様です、あれが岩喰いなんですよね」
ダインが指刺した先には、店先のテーブルで食事する小柄で毛深い男達がいる、小柄な割には人間より手脚が太く、強靭な身体付きをしている。
ラフォリア 「その通りです、あの水瓶の中は全てお酒ですね、岩喰いは水みたいにお酒を飲むんですよ」
ダイン 「つまりこの島では酒の醸造が行われているんですね」
ラフォリア 「岩喰い領域の坑道で作られているそうです、人間の理性を奪う麻薬ですよね」
ラフォリアは店先で酔い潰れている男を見て、不愉快そうに答える。
ダイン 「まぁ人それぞれですからね、更生官というのはああいった人物を更生させるわけですか?」
ラフォリア 「ああやって寝てるだけなら放置です、手に負えないほど暴れる者とか、女性にいやらしい事をする者などが更生の対象です」
ダイン 「更生とはどういった事が行われるのですか?」
ラフォリア 「牢に入れるのがほとんどですね、一晩過ごして理性を取り戻すとお金を払って釈放です」
ダイン 「つまり、暴れて逃げるとフェイベルを誘い出せるというわけですか」
ラフォリア 「ラフォリアを襲ってくれてもいいですよ」
リレッタ 「ラフォリアは面が割れてるから駄目ですよ、襲うなら私にして下さい」
ダイン 「むしろ路地裏に誘い込んで、フェイベル自体を襲った方が早いですよね」
ラフォリア 「でも夜の街でも人通りが多いですよ、フェイベルとの接触は隠した方がいいですよね」
ダイン 「なら寝込みを襲った方がいいのでは?」
ラフォリア 「いや、その股間の状態から暴漢が適任過ぎるので」
ダイン 「原因はあの魚だと思うんですがなかなか収まりません、確かに牝で治めるのが一番ですね」
リレッタ 「一応、街の中の死角も押さえてますけど、特に坑道が有るところなんかお薦めです」
ラフォリア 「どうでしょう、それは岩喰いの坑道ですからね」
ダイン 「いや、坑道なら良い手が有ります、尻尾で密閉空間を作るんですよ、坑道内の戦いを想定して考えていたんですよ」
ラフォリア 「なら下水道の方が良さそうですね」
ダイン 「坑道の他に下水道も有ったんですか?」
リレッタ 「そういえばこの街って水運が巡らされて無いですね」
ダイン 「普通に空き家とかでよく有りませんか、留守宅を狙った空き巣だとか」
ラフォリア 「確かにこの島ではそういう犯罪が有りますね、部屋に忍び込んで寝てるとかいう奴ですよね、綺麗な女性が被害に有ってます」
ダイン 「物取りじゃないんですか?」
ダインは日本の犯罪感覚で尋ねてしまうが、そもそもアーグル人には財産という感覚が余り無い、衣服ですら洗濯所に行けば洗い終わった好きな物を着て、脱いだ物を代わりに置いて帰るのだ。
リレッタ 「身に付ける物が財産ですから、家には取られて困る物は有りませんよ、身体が一番の財産です」
ラフォリア 「ここでは少し違いますけど、贅沢考えなければ生きていけますね」
ダイン 「なら、フェイベルを直接襲うのが一番ですか」
リレッタ 「ダイン様が我慢出来るなら、明日寝込みを襲いましょう、今日はリレッタでいいですよね」
ダイン 「それも有りですが、私から女性を誘ってみたいんですよ、幸いこの島はそういう環境の様ですし、見極めは十分可能ですからね」
ダインの言葉にリレッタは驚きを隠せない、だが、確かにこの島の環境ならば一夜のお供を探す為に異性を誘う事は普通に行われている、そしてその提案の裏にはダイン也の思惑が有ると感じてしまうのが遊魔でも有る。
ラフォリア 「それは気付きませんでした、ダイン様を害せる者などいないでしょうから、そういう楽しみ方も良いと思います」
リレッタ 「本当に大丈夫なんですか、流刑者も多い街ですよね」
ラフォリア 「規律が緩いぐらいですよ、それにダイン様が自由に選ぶ牝って気になるじゃないですか」
リレッタ 「確かにこういう時に本心が覗けるかも知れませんね」
ダイン 「なら決まりですね、今からは別行動です、後を付けちゃ駄目ですよ」
そういってダインは人気の多い通路に歩き出して行く、ラフォリアとリレッタは魔導の光に照らされたダインの後ろ姿が見えなくなるまで見守ると互いに顔を見合わせてから、別々の方向へと歩き出して行く。
深々とマントを被ったダインの姿は意外とこの街では怪しくない、同じ様な姿をした者は珍しく無く、人生の汚点を背負った者達には馴染む姿である様だ。
魔力の見極めが出来るダインは目ぼしい牝を求めて彷徨する、流石に夜の時間にで歩いている女性はダインの獲物から外れている者が多く、そういった者達が何度もダインに声を掛けても来ている、だが、好みにうるさいダインは冷たく振り払って、運命の出会いを求めていた。
彷徨は既に数時間に及び、ダインも半ば諦めかけた時、その人物はダインの中に飛び込んで来た、正確にはダインの身に付けていたローブの中に入り込んで来て、それに続く様に岩喰いの男二名が現れる。
岩喰いA 「その女をよこしやがれ、俺の物だ」
岩喰いB 「何いうとる、儂んじゃ、人間はさっさと失せろ」
岩喰い達は巻き込まれたダインに怒声を見舞うが、ダインは全く動じる事は無く言い放つ。
ダイン 「助けを求められた以上は引き下がるわけには行きませんね、それに私は貴方方の様な暴力的で知性に欠ける者が大嫌いなんですよ、目障りですから消えて下さい」
そう言って、ダインが左手に火球を展開させる、詠唱も無くこれが出来るのは優れた魔術士の証だとラフォリア情報で知っていたダインは、脅しに対して実力で対抗したのだ。
岩喰いB 「お、お前魔術士か・・・魔術士が何故、岩喰いの女を助ける」
ダインは飛び込んで来た少女の容姿に合格を出していた、それに弱くはあるが処女の魔力を放っているのでそれだけで十分に助ける理由にはなる。
ダイン 「来る美少女は拒まないのが私の流儀です、ですが不快な存在は容赦無く焼去しますよ」
岩喰いA 「こりゃ無理だ、まだ死にたくはねぇからな、それにソイツ以外にも女は幾らでもいやがる」
岩喰いB 「全くだ、そいつはお前にくれてやるよ」
文字通りの捨て台詞を吐いて岩喰い達は足速に逃げ去って行く、その状況にダインの脚にしがみ付いていた少女はローブの中から出て来るとダインに頭を下げる。
岩喰い少女 「追い払ってくれてありがとう、折角人間の街まで逃げて来たのに・・・」
ダイン 「何か悪い事でもやらかしたんですか?」
岩喰い少女 「君、知らないのに助けてくれたの、僕今発情しちゃってるの、発情した牝は捕まっちゃうと嫁にされちゃうんだよ」
ダイン 「私はディという魔術士です、最近大陸から来たばかりで岩喰いと会ったのも初めてなんですよ」
ダインは名前以外はちゃんとした事実を告げる、変に嘘を混ぜると咄嗟の対応が出来ないからだ。
岩喰い少女 「そうだったの、僕にみる目が有ったんだね、僕はトルポ、こう見えても君よりお姉さんだと思うよ、ここじゃまだ危ないから僕の隠れ家に案内するね、お礼も必要だと思うし」
トルポは何故だかダインを気に入った様で、ローブの裾を掴んで何処かへと案内してくれる様だ、ダインは偶然を必然だと思うタイプなのでよりトルポを知る為に後に続く事にする、その先に待つのが罠で有ってもダインにはそれを打破する十分な自信も有った。
おまけ
岩喰い 主に亜人大陸(混沌大陸、中央大陸)に居住している種族で、人間とほぼ接点が無いが、レブナン島居住の岩喰いだけはクガト家と繋がりが有る。
同じ亜人大陸種族と耳長とはほとんど交わりが無い様で、リノールとシノールはレブナン島で初めて岩喰いを見た様だ。
男は大きくても身長は140センチぐらいと小柄だが、筋骨が発達した身体付きで力が強く頑丈で毛深い。
対して女性は骨格の太い人間の少女の様で体毛は薄く、男と比べて同種とは思えない程美形も多い。
岩喰い女性には発情期が有り、最初の発情時に初めて交わった男女が夫婦となるのが習わしだ、だが、男女比が大きく男性に偏っている為に未婚男性は常に発情した女岩喰いを探し求めており、争奪戦で命を落とす者すら存在する。
夫婦となった後は、女性を自らの家(坑道)からほぼ出させない為に女性の岩喰いを見る事はほとんど無く、岩喰い女性は男と同じ姿をしているというデマがまかり通ったりしている。