混沌探索編 第四話 善意に潜む毒

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  レボト・クガトは逃げ出した先で話に出た忌々しい名前に不機嫌な様子を隠せない、だが、魔龍の襲来に島民は怯えきっており、人類圏でもっとも進んだ彼等の申し出は、正直安堵も覚えていた。

  レボト 「話が早過ぎるではないか、何故ユーマが魔龍の襲撃を知っているのだ」

  安堵はしていても納得出来ない事は尋ねるしかない、目の前のマギクランからの使いデナスはユーマ共栄国からの正式な援助の申し出をレボトに伝えに来たのだ。

  デナス 「ユーマの手がこの島にまで及んでいた為ですね、レボト殿はそれだけ警戒されているのでしょう、ですが我々マギクランが見過ごしているとは迂闊でした」

  レボト 「まぁ奴等が優秀な間者を有しているのはリボルト王子の敗北で明らかだったからの、マギクランより上手だったという事だな」

  デナス 「敵の優秀さを褒めるのに、味方を貶めるのはどうかと思いますが・・・ですが、我々がユーマの間者に気付けていなかったのも事実です、彼等はワザと援助の申し出を行って、我々の隠蔽工作を不可能にしたと考えます」

  レボト 「魔龍の襲撃が人類圏に伝われば大混乱になるだろうに・・・」

  デナス 「ですが、人類圏でのユーマの立場は今よりも重要になるでしょう、正直言って我々の持つマギガントでは勝ち目が無いと思います、まぁユーマの戦力でも勝てないと思いますが・・・」

  レボト 「いや、何かの勝算有っての行動だと思うぞ、奴等は何を隠しているか得体が知れぬからな、あの浮遊母艦も対魔龍を想定していたのかも知れん」

  デナス 「例の砲という武器ですか、確かに報告通りなら魔龍に対抗出来るかも知れません」

  レボト 「なら答えは出ておるな、話が通じる分ユーマの方が魔龍よりマシな相手じゃ、対価に何を要求されるかは解らんがの」

  デナス 「命有っての人生ですからね、私は翁は撥ね付けると思ってましたが」

  レボト 「今の儂の望みは普通に死ぬ事だからのぉ、だからこそこの島に逃げたのよ」

  デナス 「クガトのディケッデも大人しくなったものですね」

  ディケッデとは人類大陸に生息する怪魚の事だ、その大きな口は人を丸呑みにして食べてしまう程恐ろしい魚だ。

  レボト 「儂にも敵わぬ者が居るのよ、それにこれ以上は逃げれぬわ」

  デナス 「解りました、翁の了承は私から報告します、ですがマギクランの考えも有りますので」

  レボト 「勝敗の付く前に負けを認めた方が利が多いよのう」

  デナス 「とても翁の言葉とは思えませんが、心に留めて置きましょう」

  レボトの覇気は完全に衰えてしまっている、だが、レブナン島への影響力は未だ強く、陰から島を動かしていたマギクランでもこうしてお伺いを立てないと行けないのだ、結果、想定とは違う意見が提示され、マギクラン側は困惑する事になる。

  レブナン島には人類圏には知られたくない秘密が多く、ユーマの提示してきた支援計画はマギクランにとって諸刃の剣とも言える、だが、自分達の安全を考えるなら受け入れた方が良いと考える人間が多数派となりつつ有り、反対派のデナスにとっては心苦しい展開となった。

  そして、マギクラン上層構成員による会合に戻ったデナスは苦しい顔でレボトの意見を伝えた。

  老魔術士 「あのレボト翁がユーマの提案を受け入れるとは、毒気を抜かれましたな」

  赤毛の女性 「耳長の助成まで得た上で負ければそうなるのも仕方ありませんね、おまけに耳長は完全にユーマに取り込まれたと聴いてますよ」

  老魔術士をべガロ、赤毛の女性をデアティスと言いどちらもマギクランの幹部でも有る。

  デナス 「レボト翁の了承を得られたからは、ユーマの提案は受け入れないと行けませんね」

  べガロ 「本気か、あの様な得体の知れない者達を島に入れるとは、必ずや我らの禍いとなるぞ」

  デアティス 「魔龍に焼かれる方が脅威ですよ、命を奪われるのは論外です、確かにユーマは怪しさしか感じませんが、彼等は人類法に従ってますからね、魔龍に人類法は通用しないでしょう」

  卓に着く多くの者がデアティスに賛同の声を上げる、その多くは女性で有り、ダインの女性人気は人類圏から外れた島でも通用する様だ。

  デナス 「話せる相手なら交渉出来るという事ですね、レボト翁も同じ事を言ってました、それにこの申し出はククジア王宮からの通信魔術で伝えられた物ですからね、我々の立場ではククジアに従うしかありません、ですが、私は魔龍の背後にユーマが有る可能性も視野に入れてます」

  デナスは危険を承知で自身の推測を述べてみる、実際、マギクランの魔龍情報は耳長から伝えられた物で、マギクラン以上に耳長との繋がりを深めたユーマなら、より深い情報を握っている可能性が高い。

  デアティス 「デナス殿は想像力が逞しいですね、ユーマが魔龍を使うのであればこの島どころか人類圏まで支配出来ますね」

  ユーマ受け入れ派の面々はデナスの言葉に呆れている、幾らユーマの存在が脅威に思えてもここまで誇張されると笑うしかない、だが、笑われたデナスの方がユーマの実態を捉えているのだ。

  べガロ 「まぁ耳長のクフィカールも来援してくれるのはありがたいわ、まさか伝説のマギガントを拝めるとはのぉ・・・」

  

  デアティス 「それだけじゃありませんわ、ユーマは最大戦力の浮遊母艦を派遣してくれますからね、何でも浮遊母艦の武器ならば魔龍にも勝算が有るとか、ククージアでの映像は見ましたが直に見れるとは楽しみです」

  デアティスの言葉が現す様に、実はマギクランでもユーマ技術への関心は高い、ユーマが行った変革はここ半年で人類圏の歴史に換算すると数百年ぐらいの変化を一気に行ったという学者も居るほどだ、実際半年前に船が空を飛ぶなどと考えていた者などいない、例え居たとしてもそれは空想の話だったのだ。

  デナス 「受け入れといっても我々は許可を出すだけですから、ユーマは我々の存在を把握してないでしょうし・・・それにユーマは援助物資と一緒に自分達の食い扶持も用意するとか」

  べガロ 「物の流れを変えてしまうという浮遊母艦か、確かに百年は先を行っておるのぉ、だが、魔術では我々に敵わぬであろう」

  デアティス 「ユーマに魔術を教える者がいないので進んでないのでは、実際に魔導具の進歩は恐ろしい程進んでいますから」

  デナス 「魔導具は魔鋼に刻む術式の解析が進んでいますので、技術さえ有れば作れますよ、ユーマは術式の原理までは解っていないでしょうから」

  べガロ 「お主の魔導式の見識はマギクラン随一じゃて、だからこそユーマは恐ろしかろう」

  デアティス 「世の殿方にはそうでしょうね、かのダイン王は処女を好むと申しますから」

  デアティスは年相応の妖艶な笑みを浮かべるが実はまだ処女で有る、例え経験は無くとも女の武器を十分に心得ているからこそ、この場に参加する事が出来るのだ。

  デナス 「デアティス殿は気楽でいいですね、かの王を籠絡でもするおつもりでしょうか?」

  デアティス 「どうでしょう、でも一番話してみたい殿方ではありますわ、それは皆も同じでしょう」

  デアティスのみが口を開いているが、この場のマギクランの女性は皆が同じ考えだ、中には既婚者や非処女の者も存在しているが魅力的な異性を嫌う理由など無い、寵姫は無理だが性交をねだるぐらいは出来るだろうという希望があるのだ。

  そうして、ユーマの提案を受け入れる事でマギクランの結論は出た、だが、浮遊母艦を投入するユーマの支援の到着は早くて五日後という情報の開示され、べガロなどは更に不機嫌さを増しながら退席して行く、与えられた期間を有効に使ってユーマへの対策を行う為でも有る。

  一方、マギクランの決定をフェイベル経由で入手したレブナン島潜入班は早速島の制圧の為の作戦会議を行う、具体的にはマギクランと岩喰いの掌握では有るが、ダインが不在の現状では一番有効な手段が使えない。

  真夏 「マギクランの魔術は把握出来ていないのですよね」

  フェイベル 「はい、各々が独自に魔術を研究してますので、どの様な魔術が存在しているのか誰も全体を把握していません、マギクランの組織運営に余り関わりの無い魔術士もたくさんいますから、実は私もそうなんですよ義務として治安維持の任を担ってますが研究の自由は有ります、だからこの屋敷が有るんですよね」

  真夏 「まだ若いのに優秀なんですね、ラフォリアが一番のお薦めに選ぶわけです」

  ラフォリア 「研究室まで持っている事は解ってましたからね、そしてマギクランのメンバーは他人の研究室には無許可で立ち入れ無いんですよ、だからフェイベルの研究室は隠れ家に最適だと思いました」

  フェイベル 「フェイベルって、隠れ家目当てで遊魔にして貰えたんですか・・・」

  真夏 「ダイン様の基準は個人の地位や能力を考えているのも確かですが、一番は獲物の魅力ですよ、どんなに優れた地位や財産が有っても見た目が重要ですから、日本からお供している五人は皆んな市民という立場ですし、もっともマナとファナはラフォリアやフェイベルに近いダイン様の敵対組織に属してましたけどね」

  リレッタ 「マギクランの二人が望まれているのは間違い無いですね、何だかんだで遊魔の姿って個々にダイン様の拘りが現れているんですよ、二人は同系統の魔族型ですが違いも大きいですよね、どうでもいい娘ならここまで個別の作り込みは無いと思います」

  真夏 「そうですね、作品に対する情熱は決して冷めない方ですから、作品に対しての妥協は有りませんし」

  トルポ 「トルポは特に入念だったよね、初めての岩喰いで凄いやる気だったし」

  真夏 「皆んな自分を特別だと思いたいですが、それは遊魔としての働きで認められて下さい、建前ではダイン様の作品愛は平等ですけど、重用さる娘は確かにいますから、自分の強みを延ばして行くのが重要です」

  リレッタ 「ここに居る人達は個性が強いですからね、そしてよりダイン様のお役に立たないと・・・」

  真夏 「確かに試されてる感じはしますね、ダイン様の思惑を推測して望む状況を整える、ナナはレブナン島の掌握をダイン様の望みと考えた様ですが・・・」

  リレッタ 「マナはどう思うんですか?」

  真夏 「ナナ流のサプライズプレゼントだと思います、混沌大陸の入り口でも有るレブナン島は遊魔の今後に重要な土地ですから手に入れるべきだとは思います、ですがダイン様のお力無しでは難しいのも事実です、人は殺めるより使い潰すのがダイン様の考えですから」

  フェイベル 「フェイベルの力はマギクランの中では大した事有りませんから、今日の会合でも頷いてただけですし」

  ラフォリア 「魔術の実力よりも研究成果が評価されてますから、若輩者には肩身狭いですよね」

  フェイベル 「ユーマを好意的に思ってる幹部もいますから脈は有るんですけど、男は難しいですね」

  真夏 「ナナはユーマ戦力さえ駐留させれば何とかなると考えている様ですが、かなりの難題の様です、ダイン様はマギクランの魔術も欲してますから」

  七実の思惑は現場の遊魔達に大きな負担を与えている、だが、七実と付き合いの長い真夏は七実の計画がダイン頼みなところも理解している、そう、真夏の求められているのはマギクラン人材の選別でも有り、ダインの負担を軽くしようとする七実の思惑にも気付いているのだ。

  そして、その選別方法は遊魔にとっては実に明瞭で対象を見て魔力を探るだけで直ぐに可能なのだ。

  レブナン島統治組織 クガト分家を隠れ蓑にしたマギクランが取り仕切っているが、対外勢力には隠匿されているのでクガトの代表者が統治していると見られている。

  現在はククジアから落ち延びたレボト・クガトが表向きの統治者である。

  実際、レボトはククジア以外の国家との繋がりも深く、ククジアとの関係が思わしくない現在ではレボトの持つ繋がりがレブナン島自立統治の生命線でもあり、その意向は無視出来ない状況でもある。

  だが、魔龍襲来を受けてマギクランでさえその対処法を見出していない現在では、進んだ兵器を持つユーマ共栄国からの援軍の打診は渡に船で、自らの魔術研究を譲渡してでも対抗戦力の派兵を望むマギクランメンバーも多い。

  そして、最も反対すると思われたレボト・クガトもユーマ共栄国の派兵に対して容認の考えを示した為にユーマ増援部隊の到着する時は近い。