混沌探索編 第十八話 狙われた三天人

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  結局リリルカはダイン達と同じ部屋に泊まる事はせず、用意された部屋で一夜を過ごす事となった。

  だが、習慣とは恐ろしいものでリリルカは遅くまで眠る事が出来ず、目を覚ました今の時間は既に正午へと迫ろうとしていた。

  見知らぬ部屋に戸惑いを受けたリリルカだったが、直ぐに現状を把握すると寝衣から来た時の服に着替えて、隣部屋を尋ねる。

  リリルカが何度かダイン達の部屋をノックすると、中からメファティが迎え入れてくれる。

  メファティ 「遅かったですね、お二人は先程お迎えの馬車に乗りました、夕刻には帰られるとの事です」

  リリルカ 「もう天人様達からの使者が来たんですか、私なんて半年は待たされたのに」

  メファティ 「同族のミュウ様が居たからでしょうね、この土地に残った天人様は少ないとミュウ様が言ってました」

  リリルカ 「そうなんですか、でも賢人様が同伴する許可がよく降りましたよね、三天人様達は人間を信用していませんよ」

  メファティ 「ダイン様は特別ですから、それに三天人様達の同胞と面識がある様ですから」

  リリルカ 「あの方は得体が知れないですからね、でも、悪くは感じません、何かこう新しい風の様な」

  メファティ 「それはメティがこの国で一番理解しているつもりです、もっとも底は全然見えてませんけど・・・」

  リリルカ 「メティが羨ましいです、一緒に旅が出来るなんて・・・」

  メファティ 「ならお願いしてみれば良いじゃないですか、ダイン様はリリルカの事を評価してますから、きっと仲間にして貰えます」

  この時、リリルカを見つめるメファティの目は妙な色気を含んでいた、同性でもあるリリルカでも顔を赤てしまうぐらいで、ダインとレ・ミュウと接してる内に性に目醒めた事は疑い無さそうだ、そしてリリルカもその事に憧れを懐いてしまっている。

  リリルカ 「本当に私が必要とされているのでしょうか?」

  メファティ 「悔しいですがメティよりも必要とされてますね、以前の私は今のリリルカほど解っていませんでしたから」

  リリルカ 「お二人と旅をして変われたって事ですか?」

  メファティ 「それは秘密です、でもリリルカなら直ぐにでも解ると思います」

  リリルカは再び向けられたメファティの妖しい視線に狼狽しつつ、一度自分の家に帰る事にする、ダインに見て貰いたい物が沢山あるのだ。

  一方、迎えの馬車に乗り込んだダインとレ・ミュウは王都内の城壁を越え、その内部に広がる森へと差し掛かっていた。

  ダイン 「森を城壁で囲むとはおかしな光景ですね、いや、これは護じゃなくて人の出入りを禁じる為ですか・・・」

  レ・ミュウ 「良い森ですね、何だか懐かしい気がします」

  ダイン 「南方の森は熱帯の密林って感じでしたからね、ここは植生も針葉樹が多いようですし、あ、楓っぽい気が有りますね、私の居た世界ではああいう木の樹液を煮詰めて甘いシロップを作っていたんですよ」

  レ・ミュウ 「木の汁を啜るなんて虫みたいです」

  ダイン 「ですが虫が付くというのは食べれるという証でもあるんじゃ無いですか、ミュウは蜂蜜とか食べた事無いですか?」

  レ・ミュウ 「ハチミツって何ですか、名前からはハチの甘い汁ですか、アレ絞るんですか」

  ダイン 「いや、蜂が集める花の蜜ですよ、蜜蜂という巣に蜜を集める蜂がいて、巣から蜜をとるんですよ」

  レ・ミュウ 「蜂の集めた蜜ですか、面白い食べ物ですけど毒が有りそうですね」

  ダイン 「やはりこの世界でも蜂は刺すんですね」

  レ・ミュウ 「巣に近付くと刺される物ですよね、だったら蜜も取れないんじゃ」

  ダイン 「取るための技術が有るんですよ、専用の服を着たり巣を燻したりしてましたね」

  木から始まった二人の会話は終わりの時が近付いていた、森の道の先に立派な屋敷が見えて来て、ダインの注目がそちらに移ったのだ、そして馬車は屋敷のロータリーで停車すると、玄関前には迎えの者が見える。

  レ・ミュウ 「普通の耳長ですね、ミュウの事訝しげに見てますよ」

  ダイン 「当然ですよ、私も褐色肌の耳長がいるとは知りませんでしたから、まぁ長寿の耳長なら知っている者もいそうですけど、私の会った耳長は魔龍の正体を知りませんでした」

  レ・ミュウ 「なんか緊張します、でもミュウが前に出ないと」

  レ・ミュウは扉に手を掛けて外に降りるとダインも続く、そして二人並んで玄関へと歩いて出迎えの前で立ち止まる。

  レ・ミュウ 「レ・ミュウです、久しく同胞には会っていませんでしたので、会えたのを嬉しく思います」

  ディーティエ 「ディーティエと申します、まさかこの地で再び同胞と会えるとは思ってもみませんでした」

  レ・ミュウ 「そしてこの方がミュウの夫のディです」

  ダインの本名を伏せるのは予め決めていた。

  ダイン 「ディと申します、人間の私がこの様な場所に招かれるとは光栄に思います」

  ディーティエ 「耳長の伴侶なら同族と同じです、遠慮無く接して下さい」

  ダイン 「それは無理な話です、歳上の者には敬意を払うのが国のしきたりなので」

  ディーティエ 「そうですか・・・私達には接しやすい様にして下さい、此処には礼儀など気にする者はいませんので、さぁ立ち話もなんですので中にお入り下さい、屋敷で待つ二人も到着を待ち侘びていますので」

  ディーティエはダイン達を屋敷に招くと自ら先導して案内してくれる、広い屋敷では有るが使用人の類いは居ない様で、耳長が三人だけで暮らしている様だ。

  レ・ミュウ 「懐かしい雰囲気ですね、人間が作った屋敷の様ですが中が耳長風です」

  ディーティエ 「やっぱりこれが落ち着くんですよ、余りする事も有りませんからね」

  屋敷の廊下には蔦で編まれた縄を使って乾燥した花々が飾られている、確かにテガスの耳長宿舎にも同じ様な装飾が施された部屋が作られて、談話室として使われていた。

  ダイン 「これが北部の花ですか、大人しい色合いの物が多いですね」

  ディーティエ 「ディさんはお花に詳しいんですね、確かに雪深く春の遅いこの地域の花には派手さが有りませんよね、でも私はこの花達が大好きなんですよ」

  ダイン 「私もこういった花の方が好きですね、鮮やかな色合いは落ち着きませんよ」

  ディーティエ 「なるほど耳長に近い感性をお持ちだからこそ、ミュウさんが認めたわけですか」

  レ・ミュウ 「ディは強引にミュウを惚れさせちゃったんだよ、でも一緒に居てこの人しかいないと思うよ」

  ディーティエ 「こんな事を言っていいのか迷いますけど、人と深く関わると後が辛いですよ、共に過ごせる時間は限られてます」

  レ・ミュウ 「それでこんなところに居るんだ、でもさディーティエ達も話そうとすれば話せるよね」

  ダイン 「その話は皆んな揃ってからにしましょう、もうお気付きかも知れませんが私達は普通じゃ有りませんよ」

  ディーティエ 「ディさんは人間ではあり得ない程の魔力です、それにミュウも古の伝承を彷彿させる姿です」

  ダイン 「それは意外ですね、面識の有る東方大陸の耳長達からはミュウの秘密を聴けていませんでしたから」

  ディーティエ 「おかしな話です、ミュウさんは東方大陸で産まれた耳長じゃないんですか?」

  レ・ミュウ 「それは皆んなに知って貰いたいです、だから今は言えません」

  ディーティエ 「そうですね、お二人の事は三人で伺いましょう、もうこの部屋ですし」

  ディーティエは到着して部屋の扉を叩くと、しばらくして扉が開かれる、中にはディーティエによく似た耳長が二人おり、部屋の中へと三人を招いてくれる。

  部屋の中には大きな円卓が有り、三対二で向かい合う様に席が配置されている、三人側の真ん中には既に一人の耳長が席に着いており、扉を開けた耳長とディーティエはその両脇の席へと移動する。

  ディセルト 「私が一番年長のディセルトです、右手がディーティルで左手がディーティエになります」

  レ・ミュウ 「レ・ミュウとその夫のディです、ディは見ての通り人間です」

  ディーティル 「確かに見た目は人間ですけど、只者じゃありませんね」

  ダイン 「そうですね、最初からそう思って貰った方が話が楽です、その上で続けさせて貰いますと、私は人類大陸から来た者で、東方大陸の耳長とは交流が有ります」

  ディセルト 「ミュウさんを連れている事からそうだと思ってました」

  レ・ミュウ 「ミュウを東方から来た耳長だと思ってる様だけど、実は違うんだよミュウは東方には行った事ないし、歳だって君達より大分上、そもそもこの姿に戻れたのはつい最近の事だし」

  突然のレ・ミュウの話に北部耳長の三人は怪訝な顔をするが、それは当然の反応とも言える。

  ダイン 「耳長という種族は多くの魔力を得てしまうと姿が変わってしまう事はご存知ありませんか?」

  ディセルト 「初対面の方に話す話では無いですし、東方へ移った同胞達にも伏せられてましたが、その伝承は確かに有ります、肌の黒い耳長が魔龍に変わるというモノです、そしてミュウさんは伝承の通りの黒い耳長ですから、あるいはと考えてましたが・・・」

  ダイン 「やはり知る者が居たんですね、そう、このレ・ミュウは最近まで魔龍として生きていたんですよ」

  ディーティル 「いきなり凄い告白ですね、信じ難い事なのに」

  ダイン 「ちゃんとした真実を告げるのは、三人との友好を望んでいるからです、始めから嘘では信頼など抱けないでしょう」

  ディセルト 「でもまだ大事な事を伺ってませんよね、ディさんはどうやって魔龍を耳長へと戻す事が出来たのですか?」

  既にダインは三人の耳長を遊魔の適任者として見極めている、そしてこの屋敷にはこの部屋の五人以外居ない事も察知しており、反抗されても強引に魔進化を進めるつもりなのだ、ダインの意図はレ・ミュウにも伝わっており、只の耳長三人が二人の遊魔から逃げる術は無いだろう。

  ダイン 「そうですね、話すよりも実際に見て貰いましょう」

  ダインは上着を全て脱ぎ去ると遊魔の姿へと変容して行く、ディセルト達は不安の入り混じった表情でその様子を見つめるが逃げるつもりは無い様だ。

  ダインはちゃんと話してくれる以上は三天人達とも話し合う事が可能だと感じているのだ、そして変化を遂げたダインの姿にディーティルが声を上げる。

  ディーティル 「まさか魔族だったとは・・・魔族の魔術は魔龍をも従えるわけですか」

  ダイン 「見た目からそう思われても仕方ありませんが魔族とは違います、そもそもこの力はこの世界で手に入れたモノでも有りませんから・・・私は自分の種族の事を遊魔と呼んでいます」

  レ・ミュウ 「そう、ミュウも遊魔の力を授かって耳長の姿に戻れたんです、でもこっちの方がお気に入りです」

  レ・ミュウも言葉に呼応して遊魔への変異を始める、スカートの中から長い尻尾が生え出して、翼、角と下から変化が進んで行く。

  ディーティエ 「まるで魔龍の様な姿です、人間も強大な魔力を得れば変容するのですか?」

  ダイン 「それは無いと思います、私の変化は私が思い描いて実現させたモノです、今のミュウの姿も私が望んだ私の作品でもあるんですよ」

  レ・ミュウ 「愛する人に望まれる姿を与えられるなんて最高の幸福です、遊魔の満ち足りた時間は遊魔じゃ無いと体験出来ませんね」

  レ・ミュウの言葉にディセルト達は恐怖を覚える、かつて耳長であった存在は耳長とは違う価値観を得て自分達の前に存在しているのだ。

  そして、ディとレ・ミュウが自分達も仲間に加えようとしている事はどうやら間違い無さそうだ、それが十分に可能である事は二人の容姿と魔力が示している。

  おまけ

  三天人の森 ディーラル王都ディグラン二重城壁内に存在する森、ディグランは元々この耳長の森を中心に都市整備が行われている。

  これは三天人に関わる予言が大きく影響しており、三天人と人間(特に男)との接触を極力避ける為に設けられた措置だ。

  自然の森を囲い込んでいる為に大型生物以外の生態系が維持されており、三天人達はほぼ森の恵みだけで生活している。

  森に作られた屋敷は三天人達が時間を掛けて作り上げた物で、他には無い耳長式の建造物である、木材と石や岩を組み合わせて建築されており、内装も当然耳長式で森で集めた植物の加工品で飾り立てている。

  変わった所では蒸し風呂とシャワーを併設した浴場が完備されており、この設備は耳長文化の現れでは無く、ディーラルで一般的な蒸し風呂を気に入った三天人が自らの屋敷に作り上げた物である。