008-005
街での騒動を終えたダインが帰還すると、待ちかねた遊魔達が今日の成果を報告する為に集まって来た。
今日は早く屋敷に帰って来た三天人達が食事の用意をして、耳長料理が並べられたテーブルに王都ディーラルに居る遊魔達が勢揃いしている。
ダイン 「リリルカが一番収穫があった様ですね、大きな尻尾で解ります」
リリルカ 「はい、北部の守護者は友好的な様です、087と名乗った者の一人を連れ帰りました、ダイン様の力を知っている様で遊魔に魔進化させると解ると言ってます」
ダイン 「真偽の解らない話しより遊魔にした方が早いですからね、それで王城の方はどうでした、私が接したペーテ王女は敵対する気は無さそうでしたが・・・」
ディセルト 「ダイン様が私達三人を娶る事はヒーソフ王に報告しました、現国王のヒーソフ派は争うつもりなどないでしょう、ですが王妹ラールカが諸侯を味方に付けており、現状では其方が優勢だとか」
ダイン 「この王都に不穏な気配が有ると聴きましたがそれが原因でしょうか?」
リリルカ 「それについてはリリルカからも報告が有ります、具体的な事は聞いておりませんがどうやら地の王に動きが有る様です、ディーラル諸侯に通じている者もある様で」
ディーティエ 「確かに今のディーラルではマギガントなど巨人魔導具を用いて来るであろう地の王の侵攻に対して無力ですから、地の王と通じる者が居てもおかしくは有りません」
ダイン 「現状我々も似た様なものですね、対抗出来る戦力は魔龍が四体ですからね、王都の防衛ぐらいは可能かも知れませんがそれ以上は難しそうですね」
ディセルト 「魔龍を出せば、王都も只事じゃ済みませんよ」
ダイン 「地の王が動く前にメファティの援軍が間にあえば良いんですが、私の国の戦力を見れば此方に寝返る者も居るでしょうから、大きさとは力でも有りますし、取り敢えずは一つ一つ問題を解決して行きましょう、087ならオハナですね・・・今後北部の守護者は花園と呼ぶ事にしましょう、オハナは花園からの贈り物ですからですね」
レ・ミュウ 「それが良いと思います、花園と事を構えるのは賢明とは思えません、ですが味方に付ければ心強いかと」
リリルカ 「花園はまだ色々と隠している様ですからね、規模から考えると何を蓄えているか解りません、花園自体が古代の兵器なのかも・・・山が崩れずにあの巨大な構造物が乗るとは思えませんから」
ダイン 「浮遊要塞の類だと考えられますね、私とミュウが南の巨岩で見た裂け目は花園の仕業なのかも知れません」
レ・ミュウ 「なら花園と地の王は敵対しているのかも知れません、耳長を呼び寄せた次は遊魔を利用するつもりなのでは?」
ディセルト 「私達がここに来た理由は神託ですから、可能性は高いと思います」
ダイン 「ですが地の王と交渉するよりも益がありそうですね、花園はディーラルを支配していない事から地の王より穏健に思えます、地の王に対しては武力の後ろ盾が有益でしょうし、今後ディーラル王族の内情は見守る事にしましょう、ペーテが助力を求めて来た時は別ですが」
リリルカ 「確かにあの王女はダイン様の好みですよね、でもリリルカが連れて来たオハナ三号も確実に好みだと思います」
ダイン 「三号ですか・・・同じ個体が3体居たんですか?」
リリルカ 「見た目は異なりますが近しいモノだと感じました、自ら087-001から005と紹介してくれましたから、087は製造ロットだと言ってましたね」
ダイン 「花園には人体製造プラントが存在するという事ですか、耳長の複製が可能ならば魔龍戦力を増強出来ますね」
レ・ミュウ 「さすが主は考える事が邪悪です、ミュウを増やせばきっとお役に立ちます」
ダイン 「まだどうなるか解りませんけどね、リリルカは私の部屋に来て下さい、残りは自由にして下さい、もしかすると王妹ラールカが動くかも知れませんね」
ディセルト 「私達の事はヒーソフ王にしか告げてませんが、それで王妹が動くとなると王妹の力はかなりの物でしょうね」
ダイン 「見えない力は侮れませんから、地の王が怖いのはそこですよ」
リリルカ 「既に王都の近くまで坑道を作っていると聴きました・・・」
ダイン 「それで花園が動いていないのは、動けないという事でしょうか・・・ミュウは万が一の時に動いて貰いますよ、あとペーテは回収したいですね」
ディセルト 「その娘、確か会った事がある気がします」
リリルカ 「私は学府で見た事有りますから何か有れば任せて下さい、尻尾の扱いも上手くなりましたから」
ダイン 「正統な血統さえ確保しておけば、後々使い道は幾らでもあるでしょう、亡国の姫というのは同情を集め易いですからね」
ディセルト 「耳長には理解し難い感覚です、経験を経て優れた者が一族を率いるのが当然ですから」
ダイン 「耳長ほど経験を得る時間が人間には有りませんからね、ですから偉大で有った人物の血族に期待してしまうんですよ」
リリルカ 「それで間違う事も多いですけど、王妹ラールカがいい例ですね」
ディセルト 「人心の掌握術は現国王よりも優秀ですよ、野心的なのは隠せていませんけど」
リリルカ 「噂が真実なら遊魔には成れませんけどね、あの状況を考えるに真実でしょうけど」
ディセルト 「身体で諸侯をたらし込んでいるという噂ですか、確かに処女じゃなければ幾ら美人でも遊魔には成れませんよね」
ダイン 「私と出会ったペーテ王女と同じ歳という話ですが、王族にも色々有るんですね」
リリルカ 「あの二人は歳が同じという事で色々比べられてますから、社交的で世渡りの上手いとされるラールカと本の虫と言われるペーテ・・・ペーテを探す時は書庫を探せと言われてますからね、でも、男が探しても逃げちゃうそうです」
ダイン 「私に対して臆している様には思えませんでしたが・・・」
ディセルト 「それは肩書きと雰囲気の問題でしょう、ダイン様って変な事聞いても教えてくれそうですから、市場で料理教室する人ですからね」
ダイン 「アレは争いの根本原因を無くそうという考えだったんですが・・・」
リリルカ 「ペーテ王女はそこに感服したんでしょうね、上手く使えば利益を得られるのに公表しちゃうなんて、お人好しが過ぎますよ」
レ・ミュウ 「主は人の幸福も考えてますから、自分が争いの原因を作り人々が困っている事が嫌だったんですよね」
ダイン 「まぁ、今後の布石でもありますがね・・・賢人などと持ち上げられても実績が伴わないと人の尊敬は得られませんし」
ディセルト 「ダイン様の目的が遊魔の繁栄である以上、利益を生み出す人間社会は安定している方がやり易いですからね」
ディーティル 「北部は何かと不安定ですからね、そこに地の王が動いているとなれば尚更ですよ」
ダイン 「探る事が増えたという事です、花園はこのまま解決しそうなのでディセルト達に地の王を探って貰いましょう、実際に戦った三人が魔力探知に長けていれば地中の坑道の発見も可能でしょう、出来れば夜に探って欲しいですね」
レ・ミュウ 「それは問題無いと思う、むしろ視覚が制限されてより魔力を感じ易い」
ディセルト 「なら早速今晩からですね、先ず私が調べてみます、ティとティルはここの護を頼みます、ラールカが動く事は十分にあり得ますから」
ダイン 「兵は迅速を尊ぶというやつですよ、早めに対処した方が上手く行く事が多いですから、そもそも常に主導権を握る方が楽ですからね、ずっと俺のターンというやつです」
ダインの言葉に一同は困惑している、ダインもつい口走ってしまったがこういう時に七実が居ない事を後悔していた。
ディセルト 「地の王との戦いはずっと相手の対処に回ったので辛い戦いでした、それを避ける為に地中の動きを探るわけですね」
ダイン 「見えない敵は厄介ですからね、私が遊魔を生み出した根底には絶対的な味方を欲していた為だと言えます、人の言葉は幾らでも偽れますから」
ディーティル 「そうですよ、私も長年暮らしていた二人の秘めた感情を知って愕然としましたから、でも許しちゃってますよ」
ディーティエ 「お互い様ですよね、まぁ遊魔に成った事でティルの欠点は無くなりましたけど・・・」
ディセルト 「百数十年の問題が簡単に解決しましたね、流石ダイン様が作り上げた遊魔です」
ダイン 「解決出来る問題は早く解決した方がいいですから、さぁ有言実行と行きましょうか、ルトは地の王の穴を探って下さい、私はリリルカとオハナを堕とします」
ディセルト 「解りました、取り敢えず王都周辺だけでいいですよね」
ダイン 「はい、南側だけで十分です、わざわざ隠れられる地中を進んでいるのに遠回りはしないでしょうから」
ディセルト 「なんだかワクワクしますね、今度は前の様には行きませんよ」
ダイン 「何だかんだで恨みがあるんですね」
ディーティエ 「当然ですよ、仲間を殆ど殺されちゃいましたから、あと山の整備場も調べるべきでは、私が地の王ならあそこも狙うと思います」
ダイン 「そうですね、時間があればお願いします、でも明るくなる前に戻って下さいね」
ディセルト 「確かに隠蔽魔術と魔力探知を同時にやるのは難しいですよね、ルト自身の魔力が混ざり判別し辛いです」
ダイン 「南部から移動して来た私達が、地の王の穴を探知出来なかった理由はそれだと思います、飛行は魔力の発散が大きいですからね」
ディセルト 「私も何か良い方法がないか考えてみます、私達の探知の魔術が向上すればそれだけ相手を見つけ易いですから」
ダイン 「良い考えです、色々と試してみて下さい、私とリリルカは部屋に上がりましょうか、オハナの解析には時間が掛かるでしょうから」
そう言ってダインはリリルカの手を取ると部屋から退出して行く、ディセルトは一旦各々の部屋へと戻り、外出着に着替えた後に出発する事になり、ディーティエとディーティルは食事の後片付けを始める、一度ダインの方針が示されると遊魔の動きは早い。
耳長屋敷の二階に在る一番大きな部屋は、ダインの部屋として改造されていた、具体的には隣の部屋に水回りが整備されて大きな浴場と下水設備が追加されて、ダインの部屋から自由に出入り出来る扉が用意されたのだ。
魔進化には液体が生じる事が多いので、下水は必要で下水が有るなら浴場も欲しいとのダインの意見によって、ディセルト達三天人が王城から帰った後に改造したのだ。
ダイン 「なかなか良い部屋ですね、木製の湯船が温泉の様です」
リリルカ 「温泉ですか、自然に湧き出るお湯なんですよね?」
ダイン 「お湯が沸いていてもそのまま入れるってわけじゃ無いんですよ、源泉からお湯を引いて温度を調整して入るところも多いですね、この風呂は魔導具でお湯を沸かす方式ですが」
リリルカ 「なるほど、新鮮な感覚です、ここでは風呂と言えば蒸し風呂ですから、熱くなった身体で冷水に入るのが気持ちいいですけど」
ダイン 「私はお湯のお風呂が良いですね、お湯に入る事で重力から解放される感覚が好きなんですよ、リリルカの尻尾カプセルで体感しましたよね」
リリルカ 「あれは凄かったです、生まれ変わる事を実感出来たと思います」
ダイン 「ならリリルカも新しい妹にやって上げましょう、この湯船は尻尾カプセルを展開し易い様にデザインしてますから使い心地は良い筈です」
リリルカ 「この縁の奥の椅子に座って尻尾を伸ばすんですよね」
ダイン 「それも可能ですが、一緒に中に入れる広さも確保してます、今回はリリルカもお風呂を堪能して下さい、私も一緒に入りますよ」
大きな木の湯船は縦に長く、数人が十分に並んで入れる広さだ、縁の近くは段差になっており、お風呂に入りながら二人が階段状の椅子に座り込んで正面から尻尾カプセルの中を観察し易い作りとなっているのだ、また湯船の中で椅子となる段差の中央には尻尾を通す窪みも有り、尻尾展開者を後方に配して前に座る者が色々と獲物を楽しめる仕組みとなっている。
ダインはリリルカを後ろに座らせて自分は前に座る、オハナ三号にはまだ余り手が付けられておらず、これから本格的な魔進化が始まるのだ。
おまけ
フライ・ベアー級浮遊母艦 新素材ユーマニスの発明で、普及型浮遊母艦ウッド・ベアー級を開発した七実は、ユーマニスの特性を研究して、ユーマ複合材の開発に成功した。
ユーマ複合材とは木材や植物繊維をユーマニスを使って固める事で積層構造化した物で、その強度は鋼鉄に匹敵しながら、重量は七十練魔鋼と同程度という非常に優れた素材だ、そしてユーマ複合材の最大の利点は材料確保の容易さで、七実はこのユーマ複合材を使って、ダインが魔鋼を使って建造する予定だったフライ・ベアー級浮遊母艦の建造を開始する。
だが、浮遊航行魔導機関などは新規製造では時間が掛かり過ぎる為に、ユーマ・ティアス用に作られた物を用いる事となった。
これには当然、ティアスの反対が有ったが、ユーマ・ティアスの外観のクオリティを上げる事で同意にこじ付けた、実際ティアスも混沌大陸に出すわけには行かないユーマ・ティアスよりも、より実用的でダイン探索任務に有効なフライ・ベアーの方が優先させるべきなのは解っている。
こうして建造が決まったフライ・ベアーは、ククジア王都ククージア郊外で造船ドックの建設と同時に建造されている、具体的にはフライ・ベアーは下面階層から組み上げられ、階層が増すごとにドックの外壁をかさ増しをして、建造区画と足場を同じ高さにする事で作業の効率化を測り、ダインの想定の数倍の速度で建造が進んでいる。
フライ・ベアー級の見た目はスカイ・ベアー級を拡大した様な形であるが、ゾッフォフレームを無理矢理巨大化させたスカイ・ベアー級とは違って、魔鋼フレームが存在していない、その為に外壁の構造が厚く作られて船体強度を維持しているが、艦内スペースの比率は高く、ユーマ共栄国の主力浮遊母艦として多数のマギガントの運用が可能である。