009-003
信じられない出来事が起こったが、ペーテは持ち得る限りの自制心を発揮して冷静さを保つ、ダインはそんなペーテに感心している様で優しく声を掛ける。
ダイン 「この状況で取り乱さないとはさすがですね、オハナの存在すら恐怖を感じるでしょうに」
ペーテ 「あの角や翼を持つ人はオハナというんですか、ここはいったい何処なんでしょう?」
ダイン 「奇妙な山の上側の中ですよ、ペーテは実物を見た事ありますか?」
ダインの言葉にペーテは驚愕する、奇妙な山を見るだけでも王都から最短で十日は掛かる、だが、ダインは瞬きする様な一瞬でそこまで辿り着いたというのだ。
オハナⅧ 「お早いお帰りですね、王都の状況が切迫している証でしょうか・・・あれ、お連れの方がいますね」
ダイン 「この方はペーテ・ディーラル嬢です、遊魔に加えますので仲良くしてやって下さい」
オハナⅧ 「その名前ってこの国の王女様ですよね、大丈夫なんですか?」
ダイン 「ペーテは今後の遊魔の戦略で重要な意味を持ちます、ディーラル王家は民衆に疎まれていないので取り込んだ方が得策です」
ディーラル豪族の調停を行なっている王家は国民からの信任は得ている、ディーラル国家の疎まれる権力者は豪族達であり、そこから距離を置いて調停に尽くす王家は必要不可欠な存在として認識されている、一部の例外は存在しているが。
ペーテ 「ペーテ・ディーラルです、賢人様を頼って参りました」
オハナⅧはペーテを失礼なほど凝視して値踏みしている、そもそも上下関係の無い087には王族の権威など意味が無いのだ。
オハナⅧ 「王族とは力有る存在だと認識していますが、とてもそうは見えませんね」
オハナⅧの失礼な言葉に対してペーテは別段怒る気配など無い、そもそも人間でないモノと同じ常識であると考えていないからだ。
ダイン 「この者達は人の社会を知りませんので無礼を許してあげて下さい」
ペーテ 「いえ、逆に私が機嫌を損ねてないか心配です、人間なんて比べ物にならない程のお力をお持ちでしょうから、なんとなくそう感じます」
ダイン 「その認識は正しいですが、その力は私が与えたモノですよ、元来この娘には角も翼も尻尾も有りませんから、それらは私が与えたんですよ」
オハナⅧ 「はい、遊魔へと迎え入れられた証です、多分以前の私は今の貴女とそれ程変わらない存在だったと思います」
ペーテ 「その姿は賢人様が与えたモノなのですか、ここの住人がそういうモノだと思ってました」
ダイン 「奇妙な山と呼ばれるラグム・デムは古代の文明の作った物です、オハナ達はここで作られた人間でしたが、私が遊魔の力を与えたんですよ、まぁ説明を聞くよりも体験した方が早いですね」
ダインの言葉にペーテは自分が絡め取られてしまった事を理解する、だが、敗戦国の王族として不自由な生活を強いられるよりも、力有る賢人の伴侶となった方がよっぽど良い、何よりペーテはダイン程の傑物に出会った事など無かったのだ。
ペーテ 「つまり賢人様は私の身体をお望みという事ですか・・・」
ダイン 「身体だけじゃ有りません、私はペーテの全てを望んでいるんですよ、もちろん心もです」
ペーテ 「私は確かに賢人様に惹かれてはおりますが、それ以上に恐ろしいと思っています、そんな今の私が賢人様をお慕いする事は難しいかと・・・」
ペーテが正直に真実を語った事はダインにとって喜ばしい、自身に恐怖を抱く存在がどう変わるのか楽しみなのだ、そしてダインはペーテの心が自分に好ましいモノと変わる事を疑ってなどいない。
ダイン 「私に対する恐怖ですか、それは当然の事でしょう、ですが私の行いはその恐怖すら信奉へと変えてしまうんですよ」
ペーテ 「信じ難い事です、この恐れが信奉に変わるなんて・・・」
ダイン 「人の仕組みを理解する私には簡単な事です、ペーテには今から最大限の恐怖を与えましょう、そして次に目覚めている時にどうなっているのか感想を聞かせて下さいね」
ダインが不穏な言葉を口にすると、突然の恐怖がペーテに襲い掛かる、大きく開いた巨大な生き物の口が頭上より落ちて、ペーテの頭を丸呑みにしてしまったのだ、そこから口は徐々にペーテの全身を呑み込んで行き、余りの恐怖にペーテは失禁してしまう。
オハナⅧ 「ダインは酷いです、この娘粗相しちゃいましたよ」
ダイン 「いえ、確かに恐怖は与えましたが、直ぐに気を失ったので大丈夫ですよ、人の心は想定以上に負荷が掛かると飛んでしまうモノ何です」
オハナⅧ 「でも、掃除はオハナⅧがやるんですよね?」
ダイン 「気付いた者が行うのが効率的です、私はペーテの仕上げが有りますので休息室へと向かいます」
オハナⅧ 「ここでも魔進化は可能ですよね?」
ダイン 「ペーテの姿は色々と役に立ちますからね、遊花に加える必要があります」
オハナⅧ 「それで休息室ですか、てっきり匂いから逃げるのかと・・・」
ペーテの粗相による異臭にオハナⅧは顔をしかめている、対してダインはペーテの恐怖の証に満足そうな笑顔を浮かべている。
ダイン 「無責任の様ですが後は任せましたよ、地の王・・・リデウム階層国の軍勢は今、王都手前で止まってますが何時侵攻を再開するか解りませんから」
オハナⅧ 「承知しました、クステーシャを存分に暴れさせる時が楽しみです」
ダイン 「心強い言葉ですね」
ダインはペーテを丸呑みにした尻尾を背中に貼り付けると、直ぐに転移して休息室へと移動する、この部屋の位置情報は前に登録されており、何時でも出入り口を作る事が出来る、では、何故、直接ここに転移しなかったというと、カプセルの中の人間を見せる事を躊躇った為だ。
並ぶ10機のカプセルには異常が無い様だが、中の遊花は着実に成長している様だ、中にはもう出していい程に成長した個体も有り、成長した遊花とペーテを入れ替えた方が複製ペーテを作る上で都合が良い。
ダイン思考 『リリルカの複製体が行けそうですね、二人同時に開放しましょう』
オリジナルのリリルカほど成長していないが複製体リリルカ二人は丁度ダイン好みと言えるぐらいに成長している、熟し始めた果実の様な頃合いをダインはもっとも好むのだ。
複製リリルカ達の開放作業は直ぐに開始されて、両者の口と鼻を覆う触手マスクが装着される、ラグム・デムの休息装着は統合意識体を生み出している1機以外の9機に遊魔細胞が組み込まれており、ダインが生み出した尻尾カプセルの運用法も行える様になっている。
ダイン思考 『時間は有限ですから、出来る事はやっておきましょう』
ダインは自身の尻尾から新しい触手を生やして、リリルカ複製体の一人が収納されているカプセルに接続させる、リリルカ複製体が開放された後にペーテ複製体の製作を直ぐに行う為に、採取したペーテの細胞や生体情報を送る為である。
開放と情報取得を同時に行なっている方に遅れが出ているものの、リリルカ複製体の作業は順調に進んでいる、早い方は既に意識を覚醒させた様で、カプセル越しに見る初めての世界を興味深げに見つめているが、遊花に与えられた基本的な知識が機能している様で恐れや不安は無い様だ。
ダイン思考 『遊花は上手く知識を共有してますが、尖った部分は現れて来ませんね、まだ、成長中なのでしょうが、脳の成長と知識の詰め込みのバランスを調整すべきでしょう』
ダインには不満がある様だが、ラグム・デムの生み出した087に比べて遊花は格段に進歩している、087は人格の形成に最低でも10日を必要としていたが、遊花は全ての工程を大体一日で熟しているのだ。
ダインが人格形成の為に知識の修得手順を考えている間に、リリルカ02の開放の時が近付いていた、既に中の液体は抜けて、排水器を外された口鼻から、息をする事を初めている。
そして、外のダインに興味があるリリルカ02はカプセルの覆いを叩いて外のダインに自身の存在をアピールする。
ダイン 「なるほど、リリルカの好奇心は複製体でも健在の様ですね、それは私にとっても有益な事です、準備は整っている様なので出して上げましょう」
ダインの言葉に応じる様に、休息カプセルの覆いが開いて行く、リリルカ02は完全に開くのが待ちきれない様で、開く途中で横に身を乗り出して勢いよくダインに縋りつく。
リリルカ02 「本物のダイン様です、夢で何度もお会いしてました」
リリルカ02はダインに抱き付いて、夢では感じる事のない五感を使ってその存在を刻み込む、特に匂いは斬新な感覚の様で、ダインの至る所に鼻を近付けてはその匂いを確かめている様だ。
ダイン 「そんなに嗅がれると恥ずかしいですね」
リリルカ02 「身体の全てでダイン様を感じたいです、ダイン様の匂いは特に刺激的です」
リリルカ02の言葉に、ダインはペーテを飲み込んだ時に失禁が掛かったのかと不安を感じてしまう、だが、初めて嗅覚を感じるリリルカ02にはどんな匂いでも目新しい事で、より刺激的に感じているのだ。
ダイン 「堪能しているところ悪いですが、私にも次の準備が有ります、先ずは尻尾のペーテを解放してカプセルに移さないと・・・」
ダインはリリルカ02を抱えて半回転すると、尻尾をカプセル近付けてペーテを解放する。
リリルカ02 「え、これ変な匂いがしてます、ダインと違って不快です」
ペーテはダインの尻尾に丸呑みされたので、衣服などはそのままだ、それは当然失禁の後も処理されていないわけで、辺りに鼻を突くアンモニア臭が漂う。
ダイン 「確かにこれは困りましたね、直ぐにカプセルを起動させて処理を始めましょう」
ペーテを入れた休息カプセルは直ぐに覆いを閉じて行き、それと並行する様に内部に生え出した無数の触手が衣服に絡み付いて行く、触手達は纏まった意思を持つ様に連帯してペーテの衣服を剥ぎ取って行き、カプセル内部に液体が満ちて行く。
リリルカ02 「嫌な匂いが薄れました、何故あんなのを連れていたんですか?」
ダイン 「普段のペーテはあんな臭いを纏ってはいませんよ、あれは耐え難い恐怖を感じた証です、新しい遊花に悪いイメージを与えてしまってペーテには気の毒な事をしてしまいましたね」
リリルカ02 「人は恐怖であの様な臭いを出すんですか、生物の防衛本能という事ですね」
ダイン 「それは私にも解りませんが、恐怖が人の身体に変化を与えている事は確実です、ですからペーテを嫌わないであげて下さい、まぁ二人が共に遊魔と成れば嫌う事は有りえませんが」
リリルカ02 「ゆーまはゆーかが目指す存在ですね、ゆーかはゆーまに成る為に生み出された存在ですよね」
ダイン 「はい、今の遊花は不完全です、ペーテも暫く時間が掛かるでしょうから先に貴女を仕上げましょう」
リリルカ02 「ゆーか嬉しいです、ゆーかの望みは早くダイン様のお役に立つ事です」
ダイン 「嬉しい言葉ですね、私は今、多くの遊魔の力を欲しています、敵は直ぐそこまで迫ってますからね」
ダインの想定した、マギガマイナーとクステーシャの戦力差は四倍ぐらいクステーシャの方が高く、クステーシャが一機増えるだけでも戦局は遊魔側に大きく傾く、現状で王都ディグランの防衛は可能だと思えるが、初戦で相手により多くの被害を与えた方が侵攻計画自体を遅らせる事は間違いない。
そして、今、一糸も纏わぬリリルカ02を抱いて魔進化させた方が服を脱がせる手間も省く事が出来る。
おまけ
戦時のディグラン住民 間近にリデウム軍が迫り、ググノ城塞が陥落した現在であってもディグラン住人に余り動揺はない。
ググノ城塞から逃げた兵が相当数入り込んではいるが、ディグランの住人は自分達に逃げ場が無い事を既に理解しており、腹を括っているとも言える。
ディーラルの戦いでは民衆が被害を受ける事が殆どなく、戦いは兵士達だけで行われる、これは国土に対して人間が少ない為で、民衆に被害を与えて村や町が崩壊すると土地を手に入れてもその価値が大幅に低下する為、ディーラルの戦いの常識でも有るのだ。
この様な認識を持っているからこそ、ディグランの街は戦時下でも落ち着いており、普段とほぼ変わらない生活が送られている、もっとも南からの流通が止まっている為に遠からず物質不足に見舞われるのだが。
一方で、王城は大混乱だ、ディーラルの国内戦において民衆が被害を受ける事はほぼ無いが、権力層は別で、命を奪われる事も多い、これは勝者を明確にする為のある種の伝統の様な物で、王城が大混乱だったのは自分達の生き残る術を必死に探し求めていた為だ。