敗れたパーティーの生き残った勇者が魔王の手下の黒獅子に染め上げられて獣に堕ちる話

  ※CAUTION※

  ・成年男子がオスの獅子と性的関係になります。

  ・痛みを伴う獣化描写があります。

  ・肉食獣なので血や人間の遺体の描写もあります。

  ・いずれ雌化します。

  以上ご了承の上お楽しみください。

  [newpage]

  魔王城の広間にて、仲間たちの屍が、ものも言わずに転がっていた。

  「クソッ……ここまでか」

  俺は膝をついて、敵の背中を睨みつけた。

  大きな黒獅子の姿をしたそいつは、最後の仲間となった戦士を噛み殺し、その首から血をすすっているところだった。

  その背中に斬りつければ、一発逆転の致命傷を与えることだってできるだろう。だが、骨が砕け、腱も切られたらしい腕には、剣どころか小刀を持ち上げる力さえ入らない。ならばと魔法に頼ろうとしても、魔力はとうに尽きている。敵が背中を見せているのは、油断しているからではない。勝負はすでについたということを、憎らしいほど正しく理解しているのだ。

  「終わったな」

  どこからともなく、声が聞こえた。

  黒い煙が地面から湧き、その中に巨大な人影が姿を現した。

  「よくやったな、バルバリよ」

  その言葉に応えるように、戦士の首に喰い付いていた黒獅子は、人影のそばに走り寄って、媚びるように体をこすりつけた。

  「あとは、哀れな勇者一人か」

  その人影が、俺の方を見た。今までに出会ったどんな魔物よりも、強大でどす黒い気配を感じる。恐怖におののきつつ、俺はなんとか気を張って、精一杯毅然とした声で問うた。

  「貴様が、魔王か」

  「いかにも」

  魔王は、ゆったりとした口調で答えた。

  「こ、殺せ」

  俺はすぐさまそう言った。すでに全ての力を使い果たし、仲間も失った俺に、戦う気力は残ってはいない。だが、それで誇りまで捨てたわけではない。残された道は、潔く散るのみだ。

  だが魔王は、愉快そうに俺を笑った。

  「そう慌てるでない。わしはお前の戦いぶりを見ていた。敗れはしたものの、バルバリのところまでやってくるとは、なかなか見事であったぞ」

  わざとらしくそう言って、魔王は手を叩いた。その態度が、かえって俺の屈辱を加速させる。

  「バルバリは我がしもべの中でも一、二を争う実力者。惜しいな、実に惜しい。あともう少し力があれば、我が喉笛に剣を突きつけることも叶ったであろうに」

  その言葉に、黒獅子が誇らしげに喉を鳴らす。そして、魔王の元までたどり着かせなかった己の武勇を見せつけるかのように、俺の仲間の血で染まった牙をむき出しにした。その様はまるで、俺をあざ笑う表情にも見えた。

  「御託はいい、早く殺せ!」

  俺はもう一度そう言った。これ以上の侮辱には耐えられない。すぐにでも、自ら死を選びたい気分だった。

  「ふむ、そうか。ならば」

  魔王は大仰にうなずくと、黒獅子の顎を撫でて、妙にねっとりとした声色で言った。

  「勇者の処遇は、お前に任せよう、バルバリ。望み通り殺すもよし、他の道を選ぶもよし、ああ、だがその前に……」

  そこまで言ったところで、魔王は一度、指をパチンと鳴らした。

  「ふぐぅっ!?」

  その途端、俺の口の中が痺れるような感じがした。何をした、と思って睨みつけると、魔王は目を細めて頷いた。

  「舌を噛み切られては、愉しみが減ろう?」

  驚いた俺は、自分の舌に歯を立てようとしてみた。しかしその瞬間、バチンと音を立ててはねつけられ、口が強制的に開かされてしまった。どうやら、俺が自害できないよう魔法をかけたらしい。

  「さて、バルバリよ」

  魔王が黒獅子に向かって言った。

  「後は好きにするがよい」

  そして、俺に背を向けた。

  「ど、どういうつもりだ!?」

  思わず俺は叫んだ。だが魔王は、振り返りもせずに再び黒い煙を湧かせ、その身にまとい始めた。

  「さらばだ、勇者よ」

  そして、その言葉を最後に、魔王の気配は完全に消え去った。広間に残されたのは、魔王のしもべである黒獅子と、身動きもできずに座り込んだ俺だけだった。

  「頼む、殺してくれ」

  傷ついた身体は、指一本も動かせないほど疲弊している。おまけに舌を噛むこともできなくされた。俺はもう、獅子の情けに訴えることしかできなかった。

  「さあ、早く」

  すると、黒獅子は一歩、また一歩と俺にゆっくり近づいてきた。その体は、さっきまで戦っていたときよりもはるかに大きく感じられる。鋭い爪、恐ろしい牙、そして全身に漂うどす黒い魔力。どれもが、今や勇者としての力も削がれた、ただの人間である俺を殺すには十分なものだった。

  だが、黒獅子は、すぐそばまでやってきたところで、じっと俺を見下ろしたまま動かないでいた。

  「な、何を躊躇うことがある!? 早く殺せ!」

  敵に情けをかけられるくらいならば、一瞬で死んだ方がマシだ。しかし、そんな俺の叫びに、黒獅子は低く喉を鳴らすだけだった。そして、ゆっくりと頭を下げ、大きな口をあんぐりと開いたかと思うと、その舌で俺の頬をべろりと舐め上げた。

  「な、何を!?」

  ざらりとした、熱い舌の感触。それはまるで、愛撫するかのように俺の顔面を這い回り始めた。獣の唾液で、顔がべとべとになっていく。そのあまりの臭いに猛烈な吐き気がこみ上げてくる。

  「ぐ、おぇっ……!」

  反射的に身を捩って抵抗しようとしたが、やはり体は動かない。おまけに、分厚い大きな前足に身体を押さえつけられ、俺はただされるがままに、獣臭い唾液を顔中に塗りたくられるしかなかった。

  「ぐっ、ううっ、やめろぉっ!」

  俺が虚しく叫んでいる間も、黒獅子は表情ひとつ変えず俺の顔を舐め続けていた。やがてその舌は、俺の口元にまで伸びてきた。とっさに口を固く閉じようとしたものの、強引にこじ開けられ、舌はそのまま中にまで侵入してくる。そして、ネバネバとした液体が、舌を伝って口内へと流れ込んできた。

  「おほっ、がはっ!」

  たまらず咳き込むが、獅子は構わず唾液を大量に送り込んできた。強烈な生臭さが鼻腔を突き抜け、胃の中にまでぐるぐると渦巻いていく。

  (俺を辱めるつもりか)

  俺は心の中でそうつぶやきながら、涙を流した。こんな屈辱的な仕打ちを受けながら、抵抗する術は残されていない。

  やがて、口内に溜まった粘性の高い獣の唾液は、そのまま喉へと流れ込んでいった。

  あまりの不快感に、何度もえずいたものの、息苦しさと悪臭に耐えかね、結局は飲み込まざるをえなかった。少なくとも口の中から無くなってくれれば、鼻に直接突き刺さる臭いは少し楽になる。

  「うぶっ、げほっ!」

  最後にひときわ大きな泡を弾けさせて、ようやく獅子は俺の喉から舌を引き抜いた。それと同時に俺は盛大に咳き込み、涙を流した。口内にはまだ唾液の残りカスが残っているようで、不快な味がした。

  「さ、さあ、もう、いいだろう……」

  満足したなら殺してくれ。そういうつもりで、俺は震える声を絞り出した。

  しかし次の瞬間、黒獅子は俺の鎧や衣服に牙を立てると、まるで紙切れでも破るかのように、簡単に引き裂いてしまった。

  「なっ、何をす……ぐぁあ!」

  引きちぎられた部分からは肌が露わになり、戦いの中で負った傷も晒される。とっさに腕を振り上げ抗おうとしたが、すでに砕けた腕では、余計な痛みを味わうばかりだった。

  数分と経たぬ間に、俺は一糸まとわぬ姿にさせられてしまった。外気に触れて、そのうえ衣服を剥ぎ取られる際に付き転がされたために、傷口からはまだ血が滲みはじめ、折れていた各部の骨も悲鳴を上げている。

  「ぐぅっ……!」

  うつ伏せになったまま苦痛に悶えていると、背中に重いものがのしかかってきた。確かめなくても、黒獅子の仕業だとわかる。圧し潰してさらに痛めつけるつもりかと身構えていたが、それはまだ甘い想像だった。

  ピチャリ、と嫌な音を立てて、尻に何か生暖かいものが押し当てられたのだ。

  「ま、まさか」

  すぐにその先の行為に思い至り、俺は恐怖のあまり泣き叫んだ。もしも予想が当たっているのなら、それは間違いなく、死よりも恐ろしい汚辱だ。

  「や、やめろ、やめてくれ、頼む」

  俺は声を上ずらせながら懇願したが、黒獅子は無慈悲にも、予想した通りにその巨大な一物を尻へとねじ込んできた。

  「ぐぅううっ!」

  あまりの質量と圧迫感に、一瞬呼吸が止まる。しかし、それで終わりではなかった。黒獅子が腰を引いて、その一物が引き抜かれていくと、突き入れられたときとは違う、想像を絶する痛みが襲ってきた。

  「が、ぐあああ!!」

  まるで内臓が内側から鋭い爪で引き裂かれていくような激痛。そうこうしているうちに、再び肉の棒が、肉を搔き分ける音を立てて突き込まれる。だがその圧迫感など、引き抜かれる時の痛みに比べれば何でもない。

  「やめ、やめろぉおお! うぎ、ひぃいいっ、がはっ、ごほっ!」

  繰り返される獣根の抜き差しに、俺の身体はずたずたにされていく。屈辱という言葉では生ぬるいほどの責め苦が、俺に襲いかかっていた。気が狂わんばかりの痛みとともに、尻の谷間からポタポタと血が垂れていくのが分かる。

  解放してくれ。この痛みと苦しみから、俺を解放してくれ。神でも天使でも、悪魔でも構わないから。

  そんな切なる願いが届いたのだろうか。

  永久に続くかと思われたその苦痛が、次第に別のものへと置き換わっていったことに、俺は気付き始めた。

  はじまりは、痛みを感じなくなってきたところからだった。入ってくるときはもちろん、抜かれていくときも、ほとんど痛みを感じないのだ。むしろ、まるでぬるま湯につかったような、じんわりとした温かさと、痺れるような心地よささえ感じる。

  (ああ、とうとう、死ぬのか)

  人は死ぬ時、その苦しみの防衛反応として、至上の安らぎを感じられるようにできているという。おそらくは、これがそうなのだ。

  (神よ、感謝いたします)

  肉体を凌辱される怒りと悲しみは、この際忘れよう。少なくとも今、俺には死という救いがやってきたのだ。

  そう思った俺は、やがて来るであろう意識の喪失に備えて、全身から力を抜いた。

  だが、いつまで経っても、その時はやってこなかった。それどころか、全身を包む快楽はもはや安らぎとは程遠いものへと変わりつつあった。

  「うっ……ふあっ……ふうっ……!」

  先程まで苦悶の声を上げていたはずの俺の喉は、いつの間にか抑えきれない喘ぎ声を漏らしはじめている。ゾクゾクと震えるような快感が、波のように押し寄せてくるのだ。

  (これは、一体どういうことだ)

  なにかおかしい。明らかに、この快楽は死に向かうものではない。俺はそう直感していた。辱められた身体が、自分の意に反して悦びを感じ始めているのだ。

  (まさか、こいつ)

  快楽に霞む頭で、俺は自分の背中の上に覆いかぶさっている黒獅子を睨んだ。

  (俺に怪しげな魔術を施したのか)

  「グオオオッ!」

  俺を貫いているその黒獅子は、一度大きく咆吼すると、さらに激しく腰を打ち付けてきた。もはや痛みなど、微塵も感じない。尻から伝わるのは、激しい抽挿によって生まれる快感だけだ。

  「ひっ、あん、やめ、やめろっ、あぁあん!」

  抵抗するべくもない激しい責め。獣根が抜き差しされる度に、抗いがたい快楽に襲われ、否応なしに身体が反応してしまう。

  その証として、俺は自身のペニスが首をもたげていることに気が付いた。股間のそれは黒獅子の腰のリズムに合わせてビクビクと痙攣し、先端から白濁した汁を漏らしている。

  (こんな、こんなのって)

  深い絶望が、俺の胸を締め付けた。今の俺は、勇者の称号を背負った聖騎士として、それ以前に男として、あまりにも恥辱的な有様だ。

  せめて心だけは屈するまい。そう思って必死に抗い続けたものの、それでも身体は叩きつけられるような快楽に溺れていく。いつしか俺の腰は、俺自身の意志とは無関係に、まるで自ら快楽を求めるように揺れ動いていた。

  そして、その時がやってきた。

  「だ、だめだっ、ああっ! くっ、ひゃあああぁああんんんっ!!」

  ビクビクと背を仰け反らせながら、俺は盛大に絶頂を迎えた。それとともに、腹の奥へと熱いものが流れ込んでくるのが分かった。

  「ふーっ、ふーっ、ぐ、くっ」

  俺は地面に突っ伏して身体を震わせた。腹の下で、俺の垂れ流した精液が地面と擦れてヌルリと広がっていく。

  「う、ううっ……」

  滲んだ視界の中に、横たわる仲間たちの骸が見えた。光を失って見開かれたその瞳に、俺の醜態が映っている。

  罪人め。

  そう、糾弾されているような気がした。獣に責め立てられ、男でありながら、まるで娼婦のようによがって、絶頂にまで至らされた、この俺を。

  (俺は、俺は……)

  ついさっき、苦痛の中で祈った文言を思い出していた。

  ――この痛みと苦しみから、俺を解放してくれ。神でも天使でも、悪魔でも構わないから。

  きっと俺を救い上げたのは、きっと神ではなく、悪魔だったのだ。

  (俺は、もう)

  たとえ死んだとしても、散っていった仲間たちに再会することはないだろう。彼らは天国の門にいるだろうが、罪を犯した俺が行くのは、地獄の底だ。

  「う、ううっ、うう、うわああぁぁ!!」

  自分の未来が待つであろう、残酷な運命に、俺は嗚咽を漏らした。

  [newpage]

  気づくと俺は、がらんとした岩場のほら穴の中にいた。周りを見渡すと、白く乾いた骨が大量に散らばっている。

  ここがあの黒獅子の住処なのだと理解するのに、それほど時間はかからなかった。

  「目が覚めたか」

  その声に、はたと振り返る。すると、黒獅子がのしのしとこちらへ歩み寄ってくるのが見えた。

  「き、貴様」

  「調子はどうだ」

  驚く俺の反応を楽しむように、黒獅子はニヤニヤと笑った。

  「その様子だと、しっかり効いたようだな」

  「貴様、ヒトの言葉を話すのか」

  俺が意識を失うまでは唸り声しか上げなかったはずの黒獅子が、今はやけに流暢な口跡で言葉を紡いでいる。眼前の異形の変化に身震いした。

  しかし黒獅子は喉の奥で低く唸るような声で笑った。

  「効いた、と言ったろう。私ではない、お前が変わったのだ」

  「お、俺が?」

  思わず自分の体を見回す。衣服を失ってむき出しになった身体は相変わらず傷だらけで、見かけ上、特に変わったところは見当たらない。

  「あれ……」

  だが、戦いの中で砕けたはずの骨が早くも回復してきたのか、手足を動かすことくらいは出来るようになっていた。

  そんな俺の姿を、黒獅子はじっくりと舐め回すように観察すると、満足げに頷いた。

  「昨日、たっぷりと魔力を注ぎ込んでやったろう」

  「魔力、だと」

  あの屈辱の出来事が思い出され、吐き気が催してくる。

  「そうだ。我々の体液には、魔力が含まれている。特に精液には、他の生物を変異させるほどに濃い魔力が蓄えられているのだ」

  折れたはずの骨が癒えているのも、黒獅子の言葉がわかるのも、精液に含まれた魔力のおかげ、ということか。

  「俺を、どうするつもりだ!」

  震える声でそう叫ぶも、黒獅子はニヤニヤと笑うだけで、まるで取り合おうとしなかった。そして、一歩こちらへ踏み出すと、俺の顔をべろりと舐めた。

  「な、なにを」

  思わずたじろぐ俺を見下ろしながら、黒獅子は言った。

  「お前はもう、勇者ではない」

  淡々とした口調だった。

  「お前は、我が眷属となったのだ」

  その言葉に、俺は頭が真っ白になった。

  俺が、こいつの眷属? そんな、馬鹿な。

  「そんなこと、信じられるか!」

  俺は黒獅子に向かって叫んだ。すると、黒獅子は首をゆっくりと横に振った。

  「では、確かめてやろう」

  黒獅子はそう言うと、俺を突き飛ばした。不意を突かれた俺は、為すすべもなく地面に仰向けに倒れ、その上にのしかかってきた獅子の巨体によって、手足の自由を奪われた。

  「や、あうっ」

  やめろ、と言おうとしたのだが、顔面にハアっと獣臭い息が吹きかけられたとたん、ゾクゾクとした感覚に体が支配されて、言葉をうまく紡ぐことができなくなった。

  「く、はっ、やめっ」

  抵抗の声を上げたくても、うまく呂律が回らない。手足に力が入らず、身をよじることもままならなかった。

  「そうだ、それでいい」

  黒獅子は、そのまま顔を近づけてくると、マズルを俺の口へ押し当ててきた。

  「んっ!? んんっ!」

  突然のことに驚いて、思わず口を開いた瞬間、ざらりとした肉厚の舌が中へと侵入してきた。その生暖かい感触と、生臭い匂いに、全身に鳥肌が立つのを感じた。

  俺はとっさに顔を背けようとしたが、黒獅子はそれを許さなかった。巧みな動きで口の中を蹂躙し、俺の舌まで絡め取るようにしながら、さらに奥へと差し込んでくる。同時に唾液を流し込まれ、反射的にゴクリと飲み込んでしまった。

  「んっ、んぐっ、んんっ!」

  その瞬間、体がカッと熱くなったような気がした。まるで火が灯ったように、胸の奥が熱くなる感覚に襲われる。頭がぼうっとして、うまく物事を考えることができない。

  (あつ、あつい、熱いぃ……っ!)

  「どうだ、身体が熱くなってきただろう。お前の身体が、私の魔力に染まっていっている証だ」

  そう言いながら、黒獅子は俺の口を解放した。

  「う、うるさい、黙れっ!」

  息も絶え絶えになりながら、俺は何とか言葉を返す。だが、すでに額には汗が浮き、吐く息には明らかな熱がこもり始めている。その様子を見下ろしながら、黒獅子はゆっくりと舌なめずりをした。

  「良く感じているな」

  黒獅子の言葉を、俺は必死に否定しようとした。

  (あり得ない。俺は感じてなど、いない)

  だが、俺の意思に反して身体は正直だった。眼の前の獅子から漂ってくる芳醇な香りに、鼻孔がヒクつき、腹の下あたりがピリピリと沁みるような感覚を覚えた。

  「素直になった方が、楽になれるぞ」

  その言葉に、俺は首を横に振った。そんなことをして、この怪物の思い通りになるのは死んでも嫌だと思ったからだ。しかし一方で、身体の奥でくすぶっている熱はますます激しくなり、俺の心をジリジリと焦がしてゆく。

  「ほら、よく見せてやろう」

  そう言うと、黒獅子は股間から生やしたグロテスクな一物を、俺の眼前に押し付けてきた。むせ返るような雄の臭いが、鼻腔を刺激する。

  「あ、ああっ……!」

  その匂いを嗅いだ瞬間、俺は思わず声を上げていた。心臓がドクンと大きく脈打ち、下腹部がキュンと震える。

  (な、なんだ、これは)

  戸惑いながらも、俺の目は黒獅子の股間に釘付けになっていた。まるで引き寄せられるように顔を近づけると、鼻先に生暖かい感触が伝わってくる。

  ――おいしそう。

  「なっ……!?」

  突然、頭の中にぽっと湧いた一言。俺は慌てて、自分の口を手で押さえた。

  「どうした、勇者よ」

  黒獅子が、ニヤリと笑った。

  「そんなに欲しいのか、これが」

  その言葉に、俺はハッと我に返った。そして、自分が何を考えていたのかを理解して愕然とした。

  (違う、俺はそんなこと思っていない)

  必死に自分に言い聞かせるも、一度芽生えてしまった欲望はそう簡単に消え去ろうとはしなかった。それどころか、俺の頭はどんどんと熱に浮かされ、理性を失ってゆく。

  ほしい。欲しくてたまらない。俺の熱を、この昂りを鎮めてくれるものが欲しい。

  「い、いやだ」

  絞り出すようにして何とか答えたが、それはもはや形だけの抵抗でしかなかった。

  舌は口からはみ出し、口の端からは涎が垂れている。

  「強情だな」

  黒獅子はそう言うと、俺の頭を掴んで股間へと近づけた。

  「では、こうしよう」

  そして、俺の顔に一物をこすりつけるようにして腰を動かし始める。

  「ううっ!」

  饐えた獣の臭いが、鼻腔を通じて直接脳髄へと突き刺さり、思考能力を奪ってゆく。

  (だめ、だ、ああっ)

  そして、トドメとばかりに黒獅子は低い声で唸った。

  「さあ、奉仕せよ」

  (!!!??!!?!)

  その瞬間、抗いようのない衝動がやってきた。命令に従わなくてはいけないという使命感にも似た感情が俺を支配し、頭を痺れさせる。

  (馬鹿な。これはきっと、魔術かなにかで……で、でもご主人様が、おっしゃった命令だし……違う! 何を考えているんだ!)

  脳内に浮かび上がる狂った思考。自分の中に、自分ではない異物のようなものが入り込んで、俺の心を蝕んでいく。

  「あ、あ……」

  嫌だ。そんなの、絶対に、嫌だ! 無理やり犯された昨日と違って、自分から“それ”をしてしまったら、俺はもう、後戻りができなくなる!

  「あ、ああ、あっ」

  なんとか正気を保とうとするも、身体が言うことを聞いてくれない。ハァハァと息を荒くして、だらしなく舌をたらし、ソコへ顔を近づけていく。

  駄目なのに。勇者の名を与えられた聖戦士として、そんなこと、あってはいけないのに……。

  そしてとうとう、俺の震える舌先は、黒獅子の一物の先端にチョンと触れてしまった。

  (う゛っ……!)

  あまりの臭いと味に、嗚咽が漏れる。

  それなのに、俺の身体は勝手に動いて、それをペロペロと舐め始めた。悪臭と嫌悪感から来る吐き気で、苦しくてたまらない。それでもやめられないのだ。まるで何者かに操られた人形のように、俺は自分の意志に反して、ただ奉仕を続ける。

  「う、うぅっ、オェッ、レロォ、うぶッ」

  惨めだった。魔王にかけられた術のせいか、歯を立てて抵抗することもできない。自ら息をつまらせて命を断つこともできない。

  「つらいか」

  いつの間にか涙を流していた俺に、黒獅子は妙に優しい口調で尋ねた。

  「なら、早く楽にしてやろう」

  返答も待たずに、黒獅子はそう言って俺の頭を掴むと、一気に一物を喉奥まで突き入れた。

  (うぐ!?)

  喉の奥まで異物が侵入した苦しさに、俺は無我夢中でもがいた。

  だが、黒獅子は構わず、そのまま激しく腰を振り始める。

  「ん゛っ! んんぅっ!!」

  棘だらけの棒に喉の粘膜を擦られるたびに、痛みと吐き気がこみ上げてくる。しかし、それでもなお、俺は抵抗できなかった。

  (なぜだ、どうして、俺は)

  頭の中でそう繰り返しながら、その実俺は気づいていた。黒獅子の言っていたあの言葉が、真実だということに。

  『お前は、我が眷属となったのだ』

  そう、この黒獅子の体液に辱められた俺はもう、黒獅子の眷属にされてしまったのだ。この肉体も、魂すらも、もはや奴の所有物でしかない。だから、逆らえない。抵抗もできない。ただ与えられる命令をその通り実行するだけの、傀儡人形。それが、今の俺なのだ。

  「う゛っ、ぶふっ、んぐっ」

  俺は、黒獅子の腰の動きに合わせて、必死になって舌を動かした。口の中で一物が膨張し、さらに硬くなるのがわかる。ビンビンになった棘が、口内をチクチクと刺激する。

  そして、その時は訪れた。

  「出すぞ、飲み干せ」

  黒獅子が低く唸ると同時に、大量の精液が放出された。喉に直接流し込まれる熱い液体に、俺は目を白黒させた。

  (う、あ、ああっ!)

  吐き出すこともできず、ただそれを飲み込むしかなかった。強烈な苦みと臭みが口の中いっぱいに広がり、鼻から抜けていく。むせるようなその臭いでまた吐き気を催すが、それすらも許されない状況だった。

  (ああ、これで俺はきっと、さらに堕ちていくのだ)

  絶望感に打ちひしがれながらも、俺はどこかそれを待ち望んでいる自分を感じていた。

  [newpage]

  それからというもの、俺は連日黒獅子のバルバリから、魔力……つまり、体液を注ぎ込まれ続けた。口、鼻、耳、そして、尻の穴。ありとあらゆる穴から、奴の精液や唾液を強制的に摂取させられる毎日。

  はじめのうちこそ、激しい嫌悪感を抱いていた。しかし、次第に俺の身体は、それらを快楽として受け入れるように作り変えられていったのだった。

  「あ、あっ」

  バルバリの舌に首筋を舐め上げられるだけで、全身に鳥肌が立つような快感が走る。まるで全身が性感帯になってしまったかのように。

  (こんな身体にされるなんて、死んだ方がマシだ)

  そんな思いとは裏腹に、俺はやがて自ら進んで奴の一物をしゃぶり、尻の穴を差し出すようになっていった。

  「だいぶ素直になってきたな」

  バルバリがニヤリと笑いながら言った。

  (ああ、くそっ)

  心の中で悪態をつきながらも、身体が勝手に動いてしまう。奴の愛撫に反応してしまう。そしてそのたびに、さらに深い快楽へと堕ちていくのだった。

  (ちくしょうっ!)

  だがそれでもなお、俺の心はまだ完全に屈してはいなかった。こんな汚らわしい行為、いつまでも耐えられるわけがない。いつか必ず隙を見つけて反撃に出ようと誓いながら、俺は今日も獣の慰み者になるのだった。

  「ん、あっ、ああっ」

  四つん這いになった俺の尻の穴を、バルバリは容赦なく責め立てる。棘だらけのペニスが俺の直腸を容赦なく擦り上げて、肉に食い込むのがわかる。想像するだけでゾッとするような光景だが、それすらも、もう痛みよりも快感の方が勝っている。

  「あ、ああっ、だめっ、そこぉ」

  (くそっ、こんな奴に)

  悔しさに歯噛みしながらも、俺の口からは媚びるような甘ったるい声が漏れてしまう。

  「ふっ、中がヒクついているぞ」

  バルバリはそう言うと、さらに深く突き刺してくる。

  (そんなこと、言わないでくれっ)

  心の中で叫ぶものの、それを口に出すだけの余裕はない。むしろ、バルバリの言葉に煽られるようにして、俺のアナルはキュンキュンと疼き始めてしまう。

  「ほら、ここが好きなんだろう、言ってみろ」

  (言えるか、そんなもん)

  そんな心とは裏腹に、身体の奥の方では強烈な快楽を感じている自分がいた。

  「ん、んぅっ、んんんッ!」

  堕ちていく自分を感じながら、それでも最後の理性は手放すまいと、歯を食いしばる。そんな反応を楽しむかのように、バルバリはさらに強く俺の中へと押し入ってくる。そして――。

  「出るぞ、全て受け止めるがいい」

  その言葉と同時に、奴のペニスから大量の精液が放たれた。熱い奔流が俺の直腸を満たし、内側から焼かれるような感覚に目の前がチカチカする。

  「んふぅううっ! んうぅっ!!!」

  ビクン、と大きく身体が跳ね、俺は絶頂を迎えた。頭が真っ白になるほどの快感とともに、俺はまたこの汚らわしい行為に屈してしまったことを悟った。

  「く……くそぅ……うぅ」

  床に這いつくばりながら、屈辱にまみれた自分の体を抱える。そんな俺を嘲るように、バルバリは言った。

  「私の魔力も、大分身体に馴染んできたようだな」

  それは、俺がますます彼の眷属として染まっていっているということ。

  「そ、それは……」

  違うと言いたいところだったが、喉が詰まってしまう。というのも、俺は自身の心身の変化を明確に感じ取っていたからだ。

  何日も身体を清めることもできないままバルバリに蹂躙されるうちに、彼の獣臭い体臭が俺自身にまで染み付き、それをなんとも思わなくなっていた。いや、むしろ、心地良いとさえ感じるようになっていたのだ。

  それだけではない。

  「さあ、食え」

  その言葉とともに乱暴に地面に投げ出される肉の塊に、俺は言われるがまま鼻を近づけた。饐えた肉の臭いが鼻を突く。最初に差し出された日はとても食えたものじゃないと思っていたこれも、今では平気で咀嚼し、飲み下すことができるようになっていた。魔力によって縛られた相手に命令されたとはいえ、何の肉かもわからない生肉を食べる。もはや、勇者としてどころか、人としてもあり得ない、獣の所業だった。

  そして、極めつけは性器の変化だった。

  尻から精を注がれるたびに絶頂し、自らも白濁した精を吐き出していたはずの俺のペニスは、日を追うごとに小さくなり、吐き出す精も薄くなり、昨日からはついに、絶頂しても透明な液体を垂れ流すだけになった。大きさも、小指ほどのものになってしまった。人としてはおろか、男としての尊厳すらも奪われつつある。

  バルバリはそんな俺の身体を舐め回しながら、嬉しそうに言った。

  「良いぞ。我が眷属にふさわしい姿へと変わりつつあるな」

  「そ、それは、どういう……」

  まさか、と思いながら尋ねる。

  その答えは考えうる限り最悪の想像と一致していた。

  「お前は、我が伴侶となるのだ」

  「なにを……」

  「魔王様の下僕として、私の使命は一匹でも多くの仲間を増やし、魔王様をお守りする戦力を殖やすこと。お前にはそのための仔を産んでもらう」

  「馬鹿な。そんなこと、あるわけ……!」

  口ではそう言い返したものの、自身の変化を考えれば、嘘ではないのだろうということがわかる。

  俺の身体は、バルバリの魔力が詰まった体液を注がれたために、男らしさを失い、黒獅子の嫁となるためのものへと変えられつつあるのだ。

  恐ろしい。何より恐ろしいのは、この変化を喜ぶ心の声が、確かに芽生えつつあることだった。

  (バルバリ様のものになれるなら、もっともっと、抱かれたいかも)

  そう思いかけた瞬間、俺は慌てて頭を振り、湧き上がった倒錯を振り払おうとした。

  (俺は、男だ。快楽に、惑わされるな)

  頭の中で何度も唱える。だが、一度芽吹いた欲望は、みるみるうちに大きくなってゆく。

  (でも、どうせ、もう戻れないところまで堕ちてしまったんだし。それならいっそ……)

  そんなことを考えてしまうほど、俺の思考回路はもう崩壊寸前だった。

  「さあ、続きだ」

  そう言って、バルバリは俺の尻を持ち上げる。獣のような体勢を取らされながらも、俺の頭は期待でいっぱいになっていた。これから起こるであろう行為を想像して、身体が熱くなり始めるのを感じる。

  (ああ、またあれが来るのか)

  無意識のうちにごくりと唾を飲み込んでしまう。

  その時だった。

  [newpage]

  バァン! と大きな音ともに地面が爆ぜて、その衝撃で俺は我に返った。

  「出たぞ! ここが黒獅子の巣穴だ!」

  砂煙の中から、人間の声が聞こえてくる。勇者一行が敗れたと知った王が、新たな魔王討伐隊を送り込んだに違いない。

  「ふむ、面倒だな」

  バルバリはそう言うと、俺を地面に突き倒すと、自ら人間たちの元へと駆け寄っていった。

  「いたぞ、黒獅子だ!」

  声とともに、カンテラの明かりがこちらへと近づいてくる。バルバリは逃げる素振りを見せるどころか、堂々と仁王立ちになり、その姿を晒していた。

  「おのれ、ここで仕留めてやる」

  男の声とともに、金属が擦れ合う音が聞こえてくる。どうやら相手は武装しているようだ。俺は咄嵯に起き上がろうとするも、すでに四肢に力が入らない状態だったため、無様に地に転がっただけだった。

  「お、おい、人がいるぞ!」

  人間たちのうちの一人が叫んだ。どうやら、俺の姿を見つけたらしい。

  待ちに待った、最高のチャンスだった。

  「ここだ! 何か武器をくれ!」

  俺はバルバリの背後にいる。ここからなら、奇襲で仕留められるかもしれない。俺は、最後の力を振り絞って叫んだ。上手く行かなかったとしても、バルバリの視線を逸らすための囮になることくらいはできるはずだ。魔物の獣に嬲られ、堕ちるところまで墜ちた俺にできる、最期の償いだ。

  だが、人間たちの反応は、期待とは全く異なっていた。

  何事かヒソヒソと言葉をかわしあったかと思うと、パーティーの中の魔法使いと思しき女が、俺に向かっていきなり炎魔法を打ってきたのだ。

  「な、何をする!」

  幸いギリギリのところでかわすことができた俺は、大声で呼びかけた。

  だが、なおも俺に対する攻撃は止まない。そうこうしているうちに、バルバリも戦闘に入った。パーティーは、バルバリを相手にする剣士や戦士たちと、俺を狙う魔法使いとに分かれたようだった。

  「話を聞いてくれ! 俺は、お前たちの敵じゃない! ここにいたのは、バルバリ……黒獅子に囚われていただけなんだ!」

  攻撃魔法をかわしながら必死に訴える俺に、魔法使いの女が言い放った。

  「でまかせを言うな。お前の口と胸に染み付いた血の跡は、魔物の証。よく化けたようだが、ごまかされはしない」

  ハッとして俺は自身の胸元を見た。全く気にしていなかったが、今の俺の姿は、顎から腹のあたりまで生肉の血でべっとりと汚した全裸の男。アンデッドの類と思われても仕方がない有様だった。

  「お、俺は勇者だ!」

  「勇者は死んだ」

  そこで、とうとう電撃魔法が足に当たった。

  「ぐうぅっ!!!」

  痛みとしびれで、俺はその場にばったりと倒れた。身動きが取れなくなった俺にツカツカと靴音高く歩み寄り、魔法使いは低い声で言った。

  「この巣穴の下にある広間に、勇者一行の亡骸があった。どれも酷く食い荒らされていた。一体誰がと思っていたが……」

  彼女が何を言おうとしているのかすぐ察した俺は懸命に声を絞り出した。

  「ち……ちがう、おれじゃ、ない」

  だが、そんな訴えも虚しく、彼女はとどめを刺そうと腕に魔力を集め始めた。

  (ああ、とうとう死ぬのか)

  もとよりそのつもりだったのだから、今更抵抗する気もない。ただ、誤解されたまま死ぬのはなんともやるせない。

  なぜ。どうして。死ぬにしても、こんな汚名を着せられたまま殺されるなんて。これも、獣の眷属に墜ちた俺への罰なのだろうか。やはり俺は、バルバリに敗れた時点で死ぬべきだったのだ。

  悔しさと情けなさで、自然と涙がこぼれてくる。

  せめて、ひと思いに。そう覚悟を決めて、目を閉じた。

  ……だが、いつまでたっても、その時は訪れなかった。

  恐る恐る目を開けると、先程まで俺を執拗に攻撃していた魔法使いの女が、視界の隅で血を流して倒れている。そして、その体をバルバリが押さえつけ、喉笛に食いついていた。

  見れば、戦士たちの方はすでに動かなくなっていた。

  「かはっ……! や、はり、アレは、貴様の……!」

  絶え絶えになった息で、魔法使いの女は憎らしげに言った。

  そんな女に、バルバリは厳かな調子で答えた。

  バルバリの言葉は、人間には唸り声にしか聞こえない。死に瀕した魔法使いには、届くことはなかっただろう。

  だが、俺には分かった。

  「――いかにも、これは私の愛しい伴侶なのだ。殺されては困る」

  そうして、バルバリは女の喉を噛みちぎった。大量の血が吹き出し、彼女の白いドレスを真っ赤に染め上げる。ほんの短い間、ビクビクと痙攣した女の手足は、やがて力尽きたようにだらりと地面に投げ出された。

  命の灯が消えてゆくおぞましい光景の中で、俺は不思議と恐怖を感じていなかった。それよりも、バルバリが女に告げた最後の言葉に、脳が、身体が、歓喜に震えていた。

  『これは私の愛しい伴侶なのだ』

  信じられない気持ちで、俺はバルバリの言葉を反芻した。

  (俺を、守ってくれたのか)

  心の中で繰り返す度、得も言われぬ幸福感が湧き上がってくるのを感じる。

  裏切って奇襲をかけようとさえしていた俺を救い、愛しいとまで言ってくれた。そのことが、たまらなく嬉しかった。

  (違う! 奴はただ、己の目的のために俺を利用しようとしているだけだ!)

  何か雑音めいたものが聞こえてくる。だが事実として、俺はこの黒獅子に命を救われたのだ。

  (正気に返れ! 獣の慰みものに堕ちるくらいなら、誉れ高く死んだ方がマシだろう!)

  うるさい。俺の心をかき乱すような声が、騒がしく頭の中に響き渡る。

  「どうした、苦しいのか。痛むか」

  頭を抱える俺に、バルバリはそっと囁いて、鼻先で気遣うように触れてくる。それだけで心が温かくなるのを感じて、俺は自分の心に嘘がつけないことを悟った。

  「ごめんなさい、俺、今まで貴方を殺すことばかり考えて……」

  涙声でそう言うと、バルバリは笑って言った。

  「構わぬ。我らは敵対する者同士として出会ったのだ。殺し合うのが道理というもの」

  「でも、俺、今はもうそんな気持ちになれない。ただ、貴方の側にいたくて、貴方のものにされたくて、それだけで」

  するとバルバリは心底嬉しそうに目を細め、ぺろりと舌なめずりをした。

  「そうか、嬉しいぞ、我が伴侶よ」

  そう言いながら、バルバリは俺の首筋に舌を這わせた。ざらついた感触に思わず身震いする。だが、不快な感じではない。むしろ心地良いくらいだ。もっと舐めて欲しいとばかりに首筋をさらけ出すと、それを察したのか、勢いよくしゃぶりついてくる。俺はもう何も考えられず、ただされるがままになっていた。

  これは気の迷いなのかもしれない。バルバリに注がれた魔力によって、心が蝕まれた結果なのかもしれない。あるいは自ら命を断つことを封じられ、獣に組み敷かれ、雄の象徴まで奪われつつある己の運命を嘆いた、自暴自棄から来るのかもしれない。けれども、だとしても、今の俺の心を支配しているのは、まぎれもなくバルバリへの、黒獅子への愛だった。

  俺は、ゆっくりと手を伸ばした。そして、その鼻面に手を這わせながら、うっとりと告げた。

  「バルバリ様、俺を貴方の[[rb:番 > つがい]]にしてください」

  「良いのか。それを認めてしまえば、お前はもはやヒトの男としての肉体を保つことはできなくなるぞ」

  その言葉に、俺はぞくりと震えた。恐れや後悔などではなく、歓喜の震えだった。

  「構いません、貴方に愛してもらえるなら、この身がどうなっても」

  俺の言葉を聞いて、バルバリはニヤリと笑みを浮かべた。

  「ならば、私を受け入れろ。身も心も、魂までも、全てを私に捧げるのだ」

  俺はこくりと頷き、自ら四つん這いになって尻を掲げ、その穴を広げて見せた。すると、そこに熱いものが押し付けられる感覚が伝わってくる。

  「いくぞ」

  低い声が聞こえたと同時に、俺の中が押し広げられていくのを感じた。あまりの衝撃に、一瞬意識が飛びそうになる。

  「ぐっ、あ、ああッ!!」

  だがそれも束の間、すぐに激しい抽挿が始まった。内臓が引きずり出されそうなほどの痛みと息苦しさに襲われるものの、俺は必死に耐え続けた。バルバリも、俺の苦しげな声を聞きながらも腰の動きを止めようとはしなかった。

  「ん、ぐぅう、おぇええ!」

  喉の奥から込み上げてくる胃液を堪えきれずに吐き出す。それでもなお、バルバリは動きを止めようとはしなかった。俺の内臓の奥深くまで入り込もうとするかのように、何度も何度も突き込んでくる。その度に俺は体を痙攣させ、悲鳴を上げた。これまでは遠慮してくれていたのだと分かるくらい激しさを増した動きに、俺はただ翻弄されるしかなかった。

  「まだ、お前の名を聞いていなかったな」

  不意に、バルバリの動きが止まったかと思うと、そんなことを聞いてきた。俺は朦朧とした意識の中で、必死になって言葉を紡ぐ。

  「エーリク、です」

  すると、バルバリはふっと優しい笑い声を漏らした。

  「エーリク、か。良い名だ」

  そして俺の首筋をザラリとひと舐めすると、耳元にそっと囁いた。

  「では、これより先は、エーリカと名乗れ。我が[[rb:番 > つがい]]としての、新しい名だ」

  「エーリカ、俺の、名前」

  思わず、涙がこぼれる。獣の眷属として、魔王の配下たる黒獅子と契りを交わす。もはや人間としての自分はどこにも存在しないが、それでも良かった。バルバリという一匹の雄に愛されることこそが、今の俺の存在理由であり、そして悦びなのだから。

  俺はもう一度その名を呼ぼうとしたが、その瞬間に大きな衝撃が走ったため叶わなかった。バルバリが抽挿を再開したのだ。思わず悲鳴を上げるも、今度は違った感覚があった。それは痛みではなく、今までに感じたものとは比べ物にならないくらいの強い快感だった。

  「あ、ああっ! んっ、んぅ!」

  自然と、口から甘い声が漏れ出る。自分が出しているのだとは思えないほど、高く、艶やかな声だ。抑えようとしても止まらない。

  「そうだ。いいぞ。そのまま、身を委ねるのだ」

  バルバリの言葉に、俺は必死で首を縦に振る。もっと、この快楽を味わいたい。そして、少しでも長く、貴方を感じていたいから。

  「さぁ、もう出るぞ、エーリカ」

  そう言うと、バルバリは一際強く、俺の奥深くまで付き入れてきた。そして、次の瞬間には、熱いものが注ぎ込まれるのを感じた。ドクンドクンと脈打つその熱を感じながら、自らもまた絶頂を迎えていた。

  「あ、ああっ! イクっ、イッちゃいます、バルバリ様ぁああ!」

  ビクンと体が跳ね上がり、全身が痙攣する。今までの人生で一度も経験したことのない、強烈な絶頂だった。

  「は、ぁ、あ、んんぅ」

  絶頂の余韻もまた、永遠に思えるほど長く続いた。その波も引かないうちに、バルバリはもう一度、ピストン運動を始める。

  「ま、待って、今イッたばっかり、んあぁ!」

  制止の言葉など聞き入れてくれるはずもない。やがて俺も、舌を垂らしてハァハァと呼吸を荒くしながら、再び快楽に溺れていった。

  [newpage]

  [[rb:番 > つがい]]となり、伴侶となることを受け入れてからというもの、俺の肉体は数日のうちに急速に変化していった。

  まず、縮小が進んでいたペニスはとうとう豆粒ほどの大きさになり、その先端に開いていたはずの尿道は塞がってしまった。かわりに、そのすぐ下に出来た小さな裂け目の中に、排尿の穴が形成された。それと同時に、左右に一つずつあったはずの睾丸もいつの間にか無くなり、その袋はただの肉の襞となってぶら下がっているだけになった。

  そして昨日からは、下腹部がギリギリとなにかに締め付けられているような鈍い痛みに襲われている。

  だが、その程度の痛みを気にしている余裕などなかった。それよりももっと劇的な変化が全身に起きていたのだから。

  「具合はどうだ、エーリカよ」

  バルバリ様が、俺の背中を舐めながら、優しく声をかけてくれる。

  「バルバリさまぁ、ごめんなさい……まだ、痒くて、痛くて……」

  起き上がることもできず、地面に這いつくばったまま、そう答えるのがやっとだった。

  「よい。お前の身体が、獅子の雌として、ふさわしい形になろうとしているのだ。辛かろう」

  そう。俺の身体は、単に性器が変化しているだけではなかった。

  [[rb:番 > つがい]]になると決めた翌日から腕に生えはじめた白い毛は、今や顔面を含めて身体中を覆っていた。さらに骨格も日々目に見えるほど形が変わっていっている。一番わかりやすいのは、前にせり出し始めた鼻面と、尻の上から伸びだした背骨の延長……つまり、尻尾だった。

  通常ではあり得ない速度での肉体変化は、相応の苦痛を伴う。どんどんと濃く長い獣毛が生えてくるのは、全身掻きむしりたくなるほど痒く、骨の変化は涙が抑えられないほど痛い。

  「どれ、毛づくろいしてやろう」

  苦痛に喘ぐ俺を哀れんでか、バルバリ様はそう言って、俺の背中をザラッと舐めてくれた。数日前まではつるつるだったそこには、もう絨毯のようにみっしりと獣毛が生えていた。その毛をバルバリ様の舌で梳いてもらう度に、心地良い快感が走る。おかげで、俺を苦しめている痛みや痒みは、いっとき忘れることが出来た。

  「あう、グルルゥン……♡」

  思わず喉を鳴らしてしまう。人では出せないような音に、自分の声帯が獅子のそれに近づいたのだということを思い知らされる。だがそれも、今となっては誇らしいことに思えた。

  バルバリ様の[[rb:番 > つがい]]の雌として、正しい姿に生まれ変われているのだという証なのだから。

  毛づくろいは背中にとどまらず、首筋から頭の上まで及んだ。額から後頭部、耳の後ろを舌でざり、ざりと舐めてもらう度、身体中が蕩けてしまいそうなほどの幸福感に包まれる。

  いつまでも、こうしていて欲しい。そう思ったその時、パサリと何か茶色い糸の束のようなものが顔に落ちてくるのを感じた。思わず払い除けてみると、それは元々俺の頭に生えていたはずの髪の毛だった。抜け落ちたそれが、乾いた藁のようにボサッと地面に落ちる。

  人間であれば悲鳴を上げてしまいそうな光景だが、俺は少しも動揺してはいなかった。バルバリ様の舌使いで、すでに頭にも白い獣毛が生え揃っているのがわかる。もうこの身体には、人の髪など不要なのだ。

  「うむ、美しい」

  バルバリ様はそう言って、俺を労るように鼻を擦り付けてきた。ザリザリと獣毛同士が擦れ合う感覚は、まるで頭を撫でられているようで心地よい。この身体を、バルバリ様が愛してくれている。そう思うと、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

  「さあ、次はこちらだ」

  そう言って、バルバリ様は俺を仰向けに転がすと、その股間に顔を埋めてきた。

  「んっ、んぅうっ、あぁあああんっ!」

  ざらつく舌が、俺の出来かけの割れ目をなぞり上げる。強烈な快楽に、俺はビクビクと身体を震わせた。

  「ククッ、いいぞ。発情した雌の匂いが、一段と強くなってきた」

  そう言いながら、バルバリ様は何度も何度も、俺の股間を美味しそうに舐め上げた。その身体から、雄臭い獣の香りが漂ってくる。それに釣られて、俺の中の雌の本能が、急速に高まっていくのを感じた。早く、この雄に貫いて欲しいという欲求に駆られる。いつもの後孔ではなく、本来雄を迎え入れるべき雌の穴を。だが、自分の身体にあるその場所は、縦のスジが入っただけの未完成品で、まだ挿入するための口も開いていない。

  「切ないか?」

  もどかしさに身悶えする俺に、バルバリ様はそう問いかけた。その声に何度も頷く。[[rb:番 > つがい]]として、獅子の妻として未熟なこの身体が、恨めしい。

  「ならば願え。お前はすでに十分な魔力を注がれている。あとは心が願うほどに、変化は加速するのだ」

  そうしてさらに、彼は俺の割れ目に舌を這わせ、時折中に押し入ろうとするかのように、強く舌先で刺激した。

  俺は願った。早く、この雄を受け入れられる身体になりたいと。一人前の雌になるために。そして、本当の意味での妻となるために。

  「く、ぅううんん、ぁあ、ああっ」

  そのとたん、たちまち腹の奥の中で何かが蠢くような、異様な感覚が襲ってきた。これまではただ痛みと、ある種の吐き気を催すだけの苦痛だったはずなのに、今はもうそれとは明らかに違う。

  「そら、まもなく花が開くぞ」

  バルバリ様はそう言って、さらに舌をスジに這わせてくる。すると、その舌に切り裂かれるように、肉が裂けて、ひだを形成しはじめた。ひと舐めごとに、裂け目は深く、沈み込むように開いていく。

  「あ、ぁああッ! すご、すごい、こんなっ」

  あまりの変化のスピードに、恐怖すら覚えるほどだったが、同時にこれ以上ないほどの悦びも感じていた。ついに自分はバルバリ様の[[rb:番 > つがい]]として、完璧な雌になる時が来たのだと実感できたから。他ならぬバルバリ様が、俺の身体を作り変えてくださっていることへの嬉しさも、また大きかった。

  そうして、縦のスジしか入っていなかった割れ目に、小さな穴のようなものが出来たかと思うと、そこからどろりとした透明な液体が溢れ出した。ついに、膣が出来上がったのだ。バルバリ様に、俺の性器を味わっていただける準備が整ったのだ。そう思うと、身体の芯から熱いものが込み上げてくるのを感じた。

  「ふむ、なるほど、女陰の出来は悪くないようだ」

  そう言って、バルバリ様は割れ目に舌を押し込んできたかと思うと、仕上げとばかりにぴちゃりと音を立てて舐め上げた。出来立てで敏感な粘膜から、ビリビリと痺れるような感覚が走る。快感というよりも、傷口が沁みるみたいな痛みに近い。それでも、ようやく雌として、立派な性器を持つことができたという実感が、幸せを感じさせてくれた。

  「では、はじめようか」

  バルバリ様はそう言って俺を再びうつ伏せに寝かせた。

  「は、はじめるって……?」

  そう聞き返しながら、俺はこれから何をされるのかを何となく察していた。本能的に、雌としての本能が、それを望んでいた。

  「決まっている。[[rb:番 > つがい]]の儀式だ」

  その答えが聞こえた瞬間、首筋に鋭い痛みが走る。バルバリ様が、俺の後ろから覆いかぶさるようにして、首に牙を突き立ててきたのだ。

  「ギャンっ!」

  思わず悲鳴を上げる俺に、バルバリ様は荒い鼻息とともに言った。

  「許せ。お前のためだ」

  俺のためって、どういうことだろう。そう思っていると、熱い肉の塊が、俺の新しい雌穴に押し当てられるのを感じた。

  早く来て、と思う本能と、怖い、と感じる一瞬の理性が同時に襲いかかる。

  「痛むぞ」

  その一言とともに、ズブリと獣根が押し入ってきた。その瞬間、これまで経験したことのないほどの激痛が走った。まるで腹の中を引き裂かれているような痛み。はじめて尻の穴を突かれた時よりも、ずっと苦しかった。

  しかし、これもまだ序の口だったのだということを、俺はすぐさま思い知ることになる。

  バルバリ様の獣根は、その返しのような棘のせいで、押し入れられる時よりも、引き抜かれるときの方が痛い。

  当然、交尾は押し込むだけでなく、ピストン運動が伴う。できたての狭い膣を、熱いものが掻き分けて入ってくる痛みに歯を食いしばっていた俺は、次の瞬間、内壁を棘で引っ掻きながら引き抜かれていく激痛に絶叫した。

  「ギニャっ!? グルルッ、ぐ、グウゥウッ!!」

  首を振ろうとしても、バルバリ様の牙はしっかりと俺の首に食い込んでいて抜けない。それでも必死で身を捻ろうとすると、今度は前脚で押さえつけられるような姿勢になった。今や逃げることも暴れることすら許されない。いや、むしろ逃げることなど考えさえ浮かばないくらい、頭の中がパニック状態だ。

  (痛い、痛い、痛い)

  あまりの痛みに、ついさっきまで感じていた、雄を受け入れられるように変わっていく身体に感じていた悦びも、すべて吹き飛んでしまった。ただ早く終わって欲しい、この苦しみから逃れたい、そんな生存本能的な欲求だけが頭を支配する。

  だからこそ、正気に戻ってしまったのかもしれない。

  「ぐ、グルルゥ……お、おれ、何やって……!」

  なぜ俺は、獣に組み敷かれて、しかも、雌の身体に変えられてまで、交尾をさせられているのだろう。

  「耐えろ、エーリカ。これは我らが真の夫婦になるための、乗り越えねばならない試練なのだ」

  黒獅子が腰を前後させながら、なにか言っている。おかしい、絶対に、何かが間違っている。

  俺はエーリカじゃない。エーリクだ。魔王を倒すためにやってきた、勇者の名を与えられた聖戦士だ。それがどうして、こんな目に。

  地面に這いつくばった俺は、俺自身の腕を見て、戦慄する。

  なんだ、この腕は。まるで獣のように、白く硬い毛に覆われている。手も、指が太く短く縮んで、親指などは殆どなくなってしまっている。手のひらにも、まるで肉球のような肉の塊が……。

  「グ、グルゥ、ガウ?」

  一体どうなってるんだ――確かに今、俺はそう言おうとした。それなのに、俺の口からは獣の唸り声が出ただけだった。何度試しても、人の言葉を、話せない。

  (嘘だ、うそだ、ウソだ!!)

  認めたくなかった。言葉を失い、人の指を失い、毛皮に覆われた俺の身体からは、黒獅子と同じ獣臭が漂っている。それだけでなく、男の象徴を失い、かわりに雌の肉壺で獣の一物を受け入れている。悪い夢だとしても恐ろしすぎる現実が、どうしようもなく襲いかかってくる。

  「グ、ウゥ、グルルッ、ぐ、グォオオオっ」

  必死の思いで叫ぶ。しかし、相変わらず出てくるのは獣の唸り声だけだった。

  俺はもう、本当の意味で獣に堕とされてしまった。しかも、ついさっき正気に返るまで、そのことを喜ばしいとさえ思っていた。

  愕然とする俺の首筋に、鋭い痛みが走った。黒獅子の牙がまた突き立てられたのだ。

  「エーリカよ、帰ってこい。お前はもはや、人には戻れぬ」

  「い、嫌だ!」

  俺は、獣の声で叫ぶ。

  「お、おれ、は、おれは、エーリクだ! お前の[[rb:番 > つがい]]になど、ならない!」

  しかし、それでも黒獅子は俺を犯すことをやめようとはしない。むしろ更に強く腰を打ち付けてくる始末だ。そしてその度に、俺の身体からは力が抜けていく。一時呪縛から解放された心が、再び身体に従って引きずられていくのがわかる。痛いはずなのに、苦しいはずなのに、なぜかそれが心地よくなってくるのだ。

  本能的にわかった。ここで絶頂を迎えてしまえば、俺はきっと、今度こそ一匹の雌の獅子に堕ちて、二度と人としての意識を取り戻すことはなくなってしまう。

  (いやだ、たすけて、俺は、俺でいたい――!)

  「愛しいエーリカよ。お前のすべてが、私のものだ」

  黒獅子の、いや、バルバリの声が耳元で響く。そして、次の瞬間、熱い液体が俺の中に解き放たれたのを感じた。

  (だ、出されてるっ!)

  体内で吹き出した熱は、そのまま最奥の部屋へと向かう。そこは本来、俺の身体には無かった場所。あるはずがない場所。あってはならない場所。

  その器へと奔流が辿り着いた瞬間、頭の中に、初めての衝撃がやってきた。

  「ガ、ア、ガァ、グゥッ!?!?」

  まるで脳みその中を直接舐められているような気分だった。

  痛い、苦しい、気持ち悪い、そしてとてつもなく気持ちいい。相反する感情が交互に襲いかかってきては消えていく。

  俺は、いやだ、いや、嬉しい、やだ、獅子になど、なりたい、なりたくない、黒獅子の、バルバリ様の、妻に……。

  俺という人間が、心の奥底に植え付けられ、芽生え、花開いた獣の心に食い尽くされていく。押し流されてゆく。

  「わ、わた……ちが、お、おれは……に、にんげ、ん、で……」

  「違う。お前は美しく気高い、白き獅子だ」

  バルバリ様の声が聞こえる。

  「や、やだ……ば、バルバリ、さ、ま、なんか、に……」

  「よいぞ。最後まで屈しまいとするその強き精神力、私が見初めたとおりの雌だ」

  お褒めの言葉をいただける嬉しさに、今にも達してしまいそうになる。だけど、だめ。堪えなくちゃ。戻れなくなっちゃうから。

  ……あれ? 戻れなくなっちゃうって、どこへ?

  「私とともに、下僕として魔王様にお仕えするのに、これほど良い雌はいない。きっと、我らの仔は強き次代の獅子王となろう」

  「そ……んな……わた、おれ、は、あうっ」

  何か答えようとしたけれど、その途端にバルバリ様が再びピストン運動を始めたせいで、喘ぎ声しか出せなくなってしまった。

  激しく突かれている中で、もちろん痛みは続いているけれど、それよりも私は口の周りがムズムズするのを感じ始めていた。

  ふと地面を見ると、人間の小さくて弱々しい歯が散らばっていた。処女を失った痛みで気づかなかったけど、子種を頂く前に、抜け落ちてしまっていたらしい。

  もしかしてと思って舌で触れてみると、私の口にはもう立派な牙が生え揃っていた。そういえばいつのまにか、鼻先も随分出っ張って、たくましい獅子の顎に変わっている。

  「あ、あぁ、ガァア……!」

  鼻の下に、チクリと刺すような痛みが走る。そこから私たちの身体に欠かせない白く硬いヒゲが、ニョッキリと顔を出した。バルバリ様がひと突き腰を打ち付けてくるたびに、ヒゲは少しずつ伸びていく。

  (やだ、やめて、怖い)

  心の中の弱い部分が叫んでいる。

  (獣になんて、なりたくない)

  臆病な私。強く、美しい獅子になるために、バルバリ様へ身を捧げたというのに。きっと思いのほか交尾が痛くて、苦しくて、気弱になってしまったんだ。私だって、雄……じゃなかった、雌だもの。

  だけど、こんな弱い私がいるってことが知られてしまったら、嫌われてしまうかもしれない。

  私は必死に、気丈に振る舞った。雌の意地ってやつを、見せなきゃ。

  「バル、バリ、さま! 早く、もっと、おれ、私に、力をください」

  少しでも早く、立派な獅子になれるように。そして、バルバリ様の伴侶として、恥ずかしくない心と身体になるために。

  「う、うぐぅ、あううぅ……」

  来る。大きな波が、来る。私が、私に変わる絶頂が、すぐそこに来ている。そしてその時、耳元でバルバリ様が囁いた。獣の私に、獣の言葉で。

  『愛しているぞ、エーリカ』

  嬉しい! 嬉しすぎる! ああ、来る、来るっ!!

  「が、ぐっ、グルゥウウウッ! ガァアアァアアッ!!!!」

  絶叫と共に、私は絶頂に達した。同時に、バルバリ様の剛直から二度目の熱い迸りが放たれ、身体の奥深くへと流れ込んでくる。そのたまらない熱と、力強さに押しつぶされそうになる。膣内でバルバリ様の子種が暴れ回る度に、私は私へと生まれ変わっていく。もう、自分がただの獣であることに何の疑念も感じない。

  (ああ、最高……!)

  征服される喜びに打ち震える身体は、ミシミシときしむような音を立てながら、最後の変化を迎えているようだった。出来損ないの柳のようだった私の貧弱な脚は、力強いバネを備えた後ろ脚へと変わり、前脚とおなじように、鋭い鉤爪と肉球を手に入れた。これでもう、不安定でのろまな二足歩行などに戻る必要もない。私は、誇り高き獅子として、これからバルバリ様にお仕えするのだ。

  「グル、ルル、ウゥ」

  ああ、愛しい。私の旦那様、バルバリ様。もっと、もっと愛して欲しいし、たくさん奉仕させて欲しい。身体だけでなく、心までも捧げて尽くしてさしあげたい。

  そして何より、妻の務めとして、雌の本懐として、素晴らしい子供を産んで差し上げなければ。そのためにも私は強くなるんだ。どこまでも気高く美しい獅子になるように――!

  すっかり長く伸びた尻尾を愛しい旦那さまの身体に絡めながら、私はそんなことを考えていた。

  [newpage]

  あれから、三月ほどの月日が流れた。

  私は、魔王様の第一の下僕である黒獅子バルバリ様の妻、白獅子エーリカとして、彼の根城で暮らしている。

  私がバルバリ様の妻になったと聞いて、魔王様はさぞかしお喜びになられたそうだ。他の魔人たちも、私が立派な雌獅子になったことを、大いに祝福してくださったらしい。

  妻となったからには、バルバリ様とともに魔王様に仇なす人間どもと戦わねばならない。その日が来るのを心待ちにしていたのだけれど、あいにく、まだ私は戦いの場に出ることを許されていなかった。

  なぜなら――。

  「エーリカよ、胎の仔の具合はどうだ」

  「はい、バルバリ様。おかげさまで、とてもよく育っています」

  そう答えて、私は大きく膨らんだ自分のお腹を舌で撫でた。そう、私はバルバリ様との子を身籠っている。もういつ産まれてもおかしくないくらいだ。

  「うむ、それは良かった」

  そう言って、バルバリ様は私の膨らんだお腹に顔を寄せると、愛おしげに頬擦りをした。雄々しい黒いたてがみが、私の白い毛皮をくすぐるように撫でる。その心地よさに、思わずうっとりしてしまう。

  「お前の胎に宿る仔は、必ずや魔王様の御力となるであろう」

  「はい、バルバリ様。私も、このお腹の仔も、そのつもりでおります」

  喩えようもない幸福感に包まれながら、私はゴロゴロと喉を鳴らした。

  バルバリ様に愛し、可愛がっていただいている。そして、魔王様にお仕えする責務を引き継ぐことになる我が仔も、まもなく自身の胎内より産まれてくる。雌として、母として、これ以上の幸せがあるだろうか。

  「さあ、今日はもう、休め」

  「はい、バルバリ様」

  バルバリ様に促され、私はゆっくりと、彼の大きな身体にもたれかかりようにして横になった。

  逞しい腕が、優しく私を抱き寄せる。

  「愛しているぞ、エーリカ」

  「私もです、バルバリ様」

  そして、私たちは唇を重ねた。舌と舌が絡まり、唾液が混ざり合う。その甘美な味に、私はうっとりと酔い痴れるのだった。