惑星ムイラウカの(いろいろ終わってからも)暑い夏!

  「イサリビ殿」

  背後から呼ばれて、オイラは振り返った。

  場所はムイラウカの[[rb:宇宙港 > ターミナル]]。

  観光地のここは、少しシーズンを外すと人の姿が目に見えて減っていく――んだが、今日は見知った顔のヒーローやオペレーターがわんさかいやがる。

  地球への便が出るタイミングだからだ。大漁、じゃなくて盛況盛況。賑やかってのはいいことだ。

  んでもって、こちらに向かって直立不動で立つ堅物さんは――、

  「おう、サダヨシ! 今から帰りかい?」

  「ええ。こちらは自前の機ですので、一足お先に失礼させていただきます」

  「豪勢だねえ。って、どうせ戻ったら仕事なんだろぃ?」

  「トラブルもあり、予定以上の休みをいただいてしまいましたので。

  戻りましたら、夏季休暇明けの軍事訓練の打ち合わせです」

  「よーく働くねえ。さすが軍人さんだ」

  オイラのからかいにも、サダヨシは邪気のない笑顔を返す。

  堅物だからって冗談が通じない奴じゃねぇ。なかなかイイ[[rb:漢 > オトコ]]だ。

  んでもって、やっぱり折り目正しく礼をかます隊長さんである。

  「この度は大変お世話になりました。学ぶことも多々あり……イサリビ殿がいなければ、どうなっていたことか」

  「よせやい。かゆくなっちまうだろうが。あのなあ、ダチなんだからよ。そういうときは『楽しかったぜ、あんがとよ』って言えばいいのさぁ」

  「ダチ……。あんがと、よ……」

  サダヨシは、飲み込んだことのない食べ物を口に入れたみてえな顔をして、だがすぐに、子供が砂浜で宝物を見つけたみたいになった。

  「また、学んでしまいました。大変参考になります。ありが――あんがと、よ?」

  「そうそう」

  うんうん。上手く言えないのも、いいじゃねえか。

  コイツが憎めないのは、そういう屈託のないところも理由かもしんねえ。

  そんなことを考えるオイラ、イサリビさんである。

  とそこへ、

  「二人ともー!」

  「よーうお二人さんー」

  「おー大将! ユーハン!」

  「参謀殿、ユーハン殿」

  やってくるのは我らが大将とユーハン。

  二人で地元の食材屋へ土産を見に行ってたんだ。

  「よーうサダヨシー。そっちはもう帰る時間かー?」

  「はい。ユーハン殿。この度は大変お世話になりまして――」

  「にぇへへ。俺も身体張った甲斐があったなー?」

  サダヨシの例の挨拶が始まっちまったもんで、オイラは大将へ向き直る。

  その両手には大量のお土産が入った袋がぶら下げられている。

  「まーたスゲエ買い込んだなあ。重いだろうが」

  「えへへー。食べ盛りがいっぱいいるからねーウチの会社。

  それにイサリビさんに教えてもらったお店、すごい良かった!」

  「だろぉ? このな、干物をちっと直火で炙って、酒でキューっとやんのよ。大将酒呑めたっけ?」

  「うーん、そんなに……」

  「なんでぃ、大将もそこらへんはまーだまだだなあ。――その、なんだ。お前さんさえ良けりゃあ……今度イサリビさんが呑み方を教えてやるよ……二人でな」

  「わお、内緒の特訓? うん、二人だけでね、イサリビさん!」

  ……ったく、こういうこと平気で言いやがる大将。ホント参るね。

  そんなオイラの微妙なヤキモキはよそに、大将はお土産の袋をごそごそして、

  「はい! 二人にもあげる」

  「おーこりゃあんがとさん」

  「わ、私にも? よろしいのですか?」

  「サダヨシさん、お土産買いに行くヒマなかったでしょ」

  サダヨシは、まるで勲章でも受け取るみたいにおそるおそる受け取って――大きな手で、それをぎゅっと胸に抱えた。

  ――嬉しそうな顔しやがってまあ。

  あー、まあ、イサリビさんはオトナなので、一応言っておく。

  いや断じてヤキモチとかそういうのじゃねえんだが?

  「それ、ちゃんと食べろよ? 干物ったってずっと保存できるわけじゃねえからな?」

  「はっ? いえそんな。決して私用金庫で保管しようなどとは!」

  一応言っておいてよかった。

  大将はそんなオイラ達のやり取りを見て相変わらず平和そうに笑ってやがる。

  笑顔はいいが……おめぇさんのせいだぞ。ったく。

  「その貝なー、旨いダシも出るからおすすめだぞー。腹壊したりしないから安心しろなー?」

  「おいユーハン、縁起でもねぇこと言うんじゃねえやい」

  「にへへー、煮ても焼いても食えるってやつー。俺みたいだろー?」

  「それは……本当にうまい事をおっしゃいますね……」

  「まあユーハンさん、さっきからずっとのそのネタ[[rb:擦 > こす]]ってるんだけどね」

  「おおいー、バラさないでくれよなー!」

  「えへへ。――でもホント、イサリビさん、今回はいろいろありがとね」

  「なんだよ大将まで……へへッ、今日はお礼言われまくりじゃねえか。照れるぜ」

  「参謀殿、参謀殿っ」

  と、息せき切って口を開くサダヨシ。尻尾がぱたぱたしてやがる。

  「参謀殿。かような時は、あんがとよ、と言うらしいのです」

  「ええー? なに急に、サダヨシさん!」

  「なんだー、そういうのもいいなーサダヨシー」

  顔を見合わせて思わず吹き出すオイラと大将とユーハン。

  サダヨシの奴もぽかんとしてから――すぐに笑った。

  ああ、夏の海風を受けえたみてえにいい気分。今年も最高の夏だった!

  「ホント、えれえ目にあったけど、楽しかったよなあ」

  「――うん。楽しかった」

  「知らない食材もいっぱい食べれたしなー」

  「はい。一つ屋根の下で寝食を共にしたり、焚火を囲む経験は何事にも替え難く。……その、裸も同然の恰好にもかかわらず、あんなとらぶるや、こんなとらぶるもございましたが……」

  「まあ、ははは……」

  「にぇへへ、そりゃ言いっこなしだぜー」

  「あー、それは思い出さなくてもいいやつだぜ、サダヨシ」

  ウオッホンと咳ばらいをするオイラ。

  ……ユーハンが食べた虹色のアレの効果でピンク色のヘンな空気になったり、布だけ狙う謎の触手に悪戦苦闘したりとか色々。ホント色々あったけどな!

  極めつけは、溺れかけた大将に誰が人工呼吸をするかで軽く戦争になりかけたり――いやいや、思い出しちゃいけねえって言ってんのに。

  ちなみに、その時の大将は全然意識があって、いつ起きだしていいかわからず寝たフリをしていただけで、あとでギアンサルとザニアにめちゃくちゃ怒られていやがったっけ。――ん? なんかヴィランのほうがマトモだなオイ?

  しかしそういうことも、今となっては楽しい思い出だ。たぶんな!

  「ほら、ザニアの奴じゃねえけどよ。一緒にメシ食って寝起きしたらよ、家族みたいなもんだ。いいこともトラブルも一緒に――だろ?」

  頷く一同。そして何とはなしに、それぞれがターミナルの巨大なガラス張りの天井から見える空を見上げた。過ぎた夏に思いを馳せて。

  サダヨシも噛みしめるようにこっくり頷いて、それから言った。

  「家族のような――はい。本当にそうです。本当に。

  して順序が逆になってしまったのですが……結納が必要かと」

  「え?」

  「ん?」

  「へー?」

  ぽかんとするオイラたち三人。なんて?

  サダヨシ、ずいっと一歩前に出て白い大きな手で大将の手を握った。がっしりと。

  「[[rb:婚姻の日取りはいつにいたしますか > ・・・・・・・・・・・・・・・・]]?」

  「ブッ!!!!」

  さすがに吹き出すオイラ。なに言ってやがんでえ!?

  というか、周囲で知り合いの何人かが派手な音を立ててひっくり返ったり石化したりしてないか?

  ……オイラだってちょっと危なかった。イサリビさんはオトナだからセーフだけどな!?

  で、肝心の大将はと言うと、呆れ顔をしている。またか、みたいな。

  「あのね、サダヨシさん。前も言ったかもだけど、そういうのは――」

  「ハッ! もう出立の時間でした。それでは皆様、また。

  ――参謀殿。戻りましたら、すぐに家を通じて連絡いたします!」

  「ちょっと待って」

  「会社へご連絡のほうがよろしいですか!」

  「そうじゃない」

  「会場の手配はお任せ下さいっ!」

  「ちがーうっ!!!」

  さすがに大将もキレた。どっちかって言うと、普段オトナを振り回す側の大将が。

  ――サダヨシあいつ、とんでもない強キャラなんじゃねえか?

  んで、その当人は夏の爽やかな風みたいに、シュバッと片手をあげてにこやかに走り去っていった。

  照れてやがるのか、話を全く聞いてねぇ。あ、尻尾ブンブンしてらあ。

  「いやーすげえなー、サダヨシのやつー」

  「感心してる場合かってんだ。……なあ大将。あれ、早く訂正しとかないと面倒なことになるやつじゃねえか?」

  「ううー、もう! サダヨシさーん!!」

  「おおーい、そんな荷物持って走るとあぶないぞー。イサリビー、俺もちょっと追いかけてくるなー?」

  「あー……、頼んだ。ユーハン」

  既に姿が小さくなってるサダヨシ。その背を追って、大将とユーハンが走っていく。コケるなよと見送りつつオイラは呆れちまう。

  別れの時まで騒がしくって、まったく若いやつのノリにはついていけねえや。

  ――いやサダヨシ、確かオイラ達とそんな年が変わらなかった気がするが。

  深いことを考えるのはよそう。うん。

  んで、取りあえずいつものメンツと合流でもするかと振り返って――、

  「うおおおおおっ!?」

  気配もなく背後に立ち尽くす長身に心底ビビるオイラ。

  それは馴染みの犬獣人で――なんか真っ白に……風化してやがる!?

  

  「――お、おいパブラシア!? どした!?」

  オイラがゆさゆさ揺さぶると、その抜け殻は、明後日の方向を見たまま呟く。

  「……コンインて、最近、意味が……変わった…………よな」

  「な、何言ってやがんでい!? 変わってない! 数十世紀変わってない由緒ある言葉だって!!」

  オイオイオイオイ。

  なんかぎりぎりのところで威厳を保とうとしてやがるが、常識が可哀そうになってることを隠せてねえ。というか、パブラシアの奴……。

  んで、そこにフラフラしながらやってくるのはゴロウだ。……なんだが、おいコイツ朝から一升瓶咥え込んでやがる。げふっと大きく息を吐いて、

  「ほーらあ、あいつ気が多くてフラフラしてんだから、とっととツバつけとけって言っただろお…………ック」

  「オイそういう話はやめろぃ! ていうかめちゃくちゃ酔ってんなお前!?」

  へべれけはターミナル内じゃ普通にご法度だ。

  酒臭い酔いどれ熊は脇に追いやって、オイラは慌ててフォローする。

  「あのな、サダヨシの奴はああいう性格なんだよ! だから気にすることな……ん? いや、じゃあ本気で言ってやがんのか……あれ」

  墓穴。オイラの不用意な発言に、今度こそパブラシアが深く沈んだ。

  「おおおいしっかりしろぃ! なっ――泣いてる!? ねえよな、な!?

  おいゴロウ! お前もなんとか言えよお!」

  「わっはっはっは、ぶわっはっはっは!!」

  「なに笑って――。…………え、まさかお前もダメージ受けてんのか?」

  さすがに真顔。一体全体なんだってんだこの状況!?

  ゴロウがパブラシアの肩をがっしり組んでクダを巻き始める。

  「パブラシアぁ! 今日は朝から飲むぞぉ!!」

  「……コンインて、食べられるのだろうか……」

  こいつら! せめて通路ど真ん中ででやるのはやめろぃ!

  ああもうラチが明かねえ!

  「大将ーー! 誰か、誰か大将呼んできてくれーッ!!」

  ターミナルに、オイラの叫びとおっさんたちの悲哀がこだまする。

  声は高く、天に抜けて。

  目に染みるほど青い空にはデッカイ入道雲。

  秋を前に控えても、ムイラウカの夏はまだまだ暑い。

  ■惑星ムイラウカの(いろいろ終わってからも)暑い夏!

  ――了。