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心情と新たな来客

  秋信は、庭の掃除をしながら、最近よく見る夢について、考えていた。

  (あの夢……一体何なんだろう……)

  夢というものは、自分の記憶内にあるものを繋ぎ合わせているらしいが、秋信には、幼い子供とあのように関わった記憶などない。

  あるのは、酷い仕打ちを受けたことくらいだ。

  (……無意識に、望んでいたのかな……妖怪じゃなく、普通の猫か人間として……)

  秋信は、自身の感情を理解した途端、切なくなった。

  そして、その気持ちを落ち着かせるため、とある場所へと向かった。

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  秋信が足を運んだ先は、少し大きめの石が、地面に置かれている場所。

  「……お父さん、お母さん……」

  秋信が滅多に出さない、縋るような声は、その石の方に向けられていた。

  そう、ここは秋信を救い育てた人間、秋信の育ての親の墓だった。

  「……最近、優しい人間に出会いました。それも二人も。あんなに温かさに触れたのは、父さん達以来で、正直戸惑っています……」

  秋信は、墓の前に座った。

  「……父さん達が亡くなってから、僕は人間と関わることに、恐れを抱いていたのだと思います。だって……」

  秋信は、墓石に手を当てる。

  「あなた達は、妖怪である僕を受け入れてくださったけど、他は、わからない……怖いんです……僕が妖怪だと知った途端、あの村の人々のように、僕を……悪妖だと、化け物だと……忌み嫌うのではないかって……」

  秋信は、望と立の姿を思い描いた。彼らを疑ってしまう自分自身にも、腹が立った。

  「……ごめんなさい。こんな疑うようなこと、言葉にしてはいけませんよね……彼らは、本当に温かくて、優しい人間です。お母さんが、言っていた通りの人と、僕は出会えましたよ」

  にこりと微笑み、秋信は立ち上がる。

  「また来ます。次は、明るい話をしますね」

  「ーーきっといつか、私達以外にもーーだからどうかーー」

  「……はい」

  秋信の母が、生前言った言葉が秋信の脳裏に浮かび、自然と返事をし、家へと戻って行った。

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  幾分か気持ちが楽になり、秋信は掃除の続きをしていた。

  その時、知っている気配と、知らない気配を感じとった。

  クロと、もう一つの気配は人間。

  望でも、立でもない。

  とりあえず秋信は、姿を人間に変え、気配のする方へと向かった。

  もはや、人間が来れるはずがない場所に人間がいるということに、驚かなくなっていた。

  (……慣れって怖いな)

  そう思い、秋信は苦笑する。

  気配のする方に行くと、クロと茶髪の長い髪をした少女がいた。

  その子も、制服姿だった。

  デザインが望や立が着ていた物とは違うため、学校は別の所だろう。

  「あ!秋信!こいつとお話してやって!」

  どうやらクロが、この少女をここまで連れてきたらしい。

  「あの……もしかしてこの子の飼い主さんですか?」

  少女が口を開く。

  「いや、飼い主ではないよ。よく家の庭に遊びに来るってだけ。君も、クロの知り合い?」

  「クロ?その子の名前ですか?」

  秋信は自然と、クロの名を口にしていた。

  「あ……うん。付けたのは、僕じゃないけど」

  そう秋信が言うと、少女はクロを撫でる。

  「君、クロくんって名前だったんだね。いい名前」

  「だろ!俺の友達がつけてくれたんだ!」

  クロが言う友達とは、立のことだろう。

  (友達か……)

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  それから秋信は、少女を家へと上げた。少女の名は花摘純可というらしく、近くの中学に通う二年生だという。

  「クロくんとは、数日前に公園で会って」

  「公園?」

  「はい。何となく、昔よく遊んでいた公園に行きたくなって。そしたら、クロくんがベンチに座ってて。その姿が、どこか懐かしくて」

  純可は、嬉しそうに話した。

  「それで、今日もクロくんに会いに公園に寄ったら、何故か必死に付いてくるように促されて……そしたら、山に」

  秋信は、クロの方を見た。

  「違うんだって!あのね!なんかこいつ、いつもより元気がなかったんだよ……」

  (えっ?)

  「望も立も、秋信と話してる時、楽しそうにしてたから……」

  クロは、純可を元気づけるため、秋信のもとに連れてきたらしい。

  わかったと言うように、秋信はクロを優しく撫でる。

  「……綺麗」

  純可は、秋信を見て、そう呟いた。

  「えっ?」

  「あ、すみません。私、和服を着ている人を、こんなに間近で見たことなくて……」

  確かに、現代で和服を秋信のように、普段着として着ている人は、ほとんどいないだろう。

  「すごく素敵だなって。髪もとても……初めて見た時、綺麗すぎて驚きました」

  純可は、真っ直ぐな瞳を向けてそう言う。

  「き、綺麗?」

  「はい。あ、あまり綺麗とか言われるのは嫌でしたか?だとしたら、ごめんなさい」

  「い、いや、大丈夫。ただ、言われ慣れてなくて、驚いただけだから」

  秋信は、昔父母に会った当初、綺麗だと言われたことを思い出した。

  「本当ですか?本当に、不快な思いとかしてませんか?」

  「えっ?うん。全然大丈夫だし、嬉しかったよ」

  「……よかった」

  不安そうに訊く純可に、秋信がそう答えると、純可は安心したように呟いた。

  (……人を褒める言葉で、不快な思い……何かがあったんだろうな……)

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  「秋信さーん」

  玄関の方から、望の声が聞こえ、自然と頬が緩む。

  「あ……通しても、大丈夫かな?」

  秋信は念のため、純可に確認をとる。

  「もちろん!私の方こそ突然来てすみません。お暇した方が……」

  純可がそう言った時、望が部屋に上がってきた。

  「秋信さんすみません。待ちきれなくて、勝手に上がらせてもらいました!」

  苦笑しながら望は、そう言った。

  望の視線は、純可へと移る。

  望と純可は、お互いに目を見開いていた。

  「えっ、もしかして……純可ちゃん?」

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