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熱に浮かされて

  涙を流している望に、秋信と立は動揺した。

  「……皆、僕を置いていく……勝手に、それらしい理由をつけて……それをまるで、僕のためみたいに言うなよ……僕の気持ちなんて、見向きもせずに……!」

  望のその言葉に、胸が痛くなったのは、立だけでなく秋信もだった。

  「僕は……」

  何かを言おうとした際、体力的に限界がきたのだろう。望は、気を失っていた。秋信と立は、望を布団に戻した。立は、大きくため息をつき、その日は帰って行った。

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  純可と恵奈が、部屋に戻って来る。

  「秋信さん。今日はありがとうございました」

  「ありがとうございました」

  たくさん泣いたのだろう。二人とも目の下が赤い。

  「ちゃんと、話せたみたいでよかったよ」

  秋信がそう言うと、純可と恵奈は顔を見合わせて笑った。

  「……立くんは、帰ったんですか?」

  恵奈は秋信に、そう訊ねる。

  「うん」

  「望くん、まだ熱がありそうですね……」

  望を見て、心配そうに純可が言った。

  「……二人も、そろそろ帰った方がいいよ。日が暮れてからだと、危険だからね」

  「……でも」

  「望くんが心配……」

  「……大丈夫。望くんの調子が戻ったら、僕が送るから。安心して」

  秋信がそう言うと、純可と恵奈はゆっくりと頷き、手を繋いで帰って行った。

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  「……さてと」

  秋信はだいぶ落ち着きを取り戻していた。今度は術が使えるだろうと確信をし、望の額に手を当て、回復術をかけ始めた。

  「っ……ア、キ……」

  「?」

  「……アキ……どこ、行っちゃったの……?」

  どこか聞き覚えのある名を、望はうなされながら呼んでいた。

  無事に術をかけ終え、望が目を覚ますのを待った。

  「……アキ……さみしい……さみしいよ……」

  「……」

  望は、また涙を流していた。声も幼い子供のように弱々しい。普段の望からは、想像も出来ない姿だった。そして不思議なことに、望がアキと口にするたび、秋信は自分のことを呼ばれている感覚がしていた。

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  「……ん?」

  数十分後、望は目を覚ました。

  「あ、起きた? 体調はどう?」

  「……驚く程、楽です……あの……」

  望は体を起こした。

  「ん?」

  「……立、いましたよね? あれは、夢じゃないですよね?」

  「……うん」

  望は、ため息をついた。

  「ところで、望くん。何であんなにも熱があったのに、僕のところへ来たの?」

  「……昨日、また明日来ますねって言った時、秋信さん初めて、心から待ってるよって言ってくれた気がして……立の言う通り、家で休むべきだったんですけど……不安になって……」

  「不安?」

  「あ、いえ、ええっと……今日は、クロが道案内をしてくれたんです! でも、秋信さんの家の前に来たら、安心して、一気に疲れがきちゃって……迷惑かけてごめんなさい」

  望は秋信の問を、はぐらかすように喋り、頭を下げ謝った。

  「迷惑だなんて思ってないよ。ただこれからは、体調が悪い日は山に入らず、ちゃんと家で休んで。いい?」

  「……はい」

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  その後望を山の出口付近まで送り、秋信はいつものように、寝支度を調えた。

  (……今日は、本当にいろいろあったな……)

  今日のことを思い返しながら、布団へと入った。

  (……アキって、誰なんだろう……?)

  そして、眠りについた。

  その日も秋信は夢を見た。

  「綺麗な猫さん! 私達も触ってもいい?」

  「……猫さんだ!」

  少女の後ろに隠れるようにいたもう一人の少女が、秋信を見て元気よく出てきた。姉妹だろうか。秋信を撫でている少年二人は、顔を見合わせた。そして、その視線は秋信の方へ向けられた。

  「アキ、いい?」

  (え……)

  アキと呼ばれた瞬間、今までよく顔が見えなかった少年少女達の顔が、はっきりと見えた。

  秋信を見た途端、元気よく出てきたのは、黄色の髪をした女の子。

  秋信を綺麗と言ったのは、茶色の髪をした女の子。

  秋信を木から下ろしてくれたのは、紫色の髪をした男の子。

  そして、秋信をよく褒め、先程アキと名を呼んだのは、赤茶色の髪をした男の子だった。

  全員、確かに見覚えがあった。この少年少女達は、望、立、純可、恵奈にとてもよく似ている。彼等の幼い頃など、秋信は知らない。

  (……本当に僕は、知らない?……違う……僕は……僕は……っ!!)

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  目を覚ました秋信は、反射的にそのまま庭へと出た。とある木の下を、急いで掘っていく。急がなければいけないと、脳が告げていた。そして、見つけた。それは、術が施されている紙だった。秋信は、それを何の躊躇もなく、破った。記憶が、一気に秋信の頭の中に入り込んでくる。その衝撃に耐えられず、秋信は意識を手放した。

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