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「小車おぐるま、今日晩メシ何?」
「焼きラーメン。母ちゃんすぐ野菜送ってくるから野菜ガンガン使わねぇと減らねぇし。」
「インスタントラーメンって炒めて美味ぇの?」
「初めてやるから知らねぇけどお前が余り玉で交換してくるカップ麺もいい加減消費しないと減らないんだよ。」
お湯が沸き立つフライパンの中では2人分の即席麺がぐつぐつと煮えていて、沸き出る湯気の中に油っこい匂いを潜ませている。
「乳化ちゃんとさせろよ?乳化乳化。」
乳化という言葉を知っているもののよく分かってはいないのだろう同居人の勦介ほろすけが覚えたてと思わしき単語を口にしながら俺の肩に顎を乗せ、嘴で煙草を上下にぴこぴこと動かしながらじゃれついてくる。
やわらかくて油っこい匂いのする湯気が途端に毒気のある鋭い臭いをふくませて俺の鼻腔を刺激した。
「カップ麺でそんな洒落たこといちいちやらねぇから。あとタバコ咥えたまま後ろ立つのやめてな、羽毛も入るし。」
「入ったら入ったで鶏白湯とりパイタン風ってことでいいじゃん。」
「トリはトリでもお前“鳥”だろ。猛禽であり先祖が捕食者である誇りとかないんか。」
「誇りじゃ飯は奢って貰えないし、最近ってそういうのクサす奴らの方が多いじゃん?ネカフェ店員の俺が頑張って飯奢っても真面目に高給取りやってる奴の奢る飯のランクには勝てないんだからさ、だったら雛が餌を貰うかの如く俺は飯を奢られたいね。事実俺ら階級だとそういう男のがモテる。」
「ク ズ だなぁ~!いやむしろいっそ清々しいのか…?」
「自分に自信がないから自分より下の誰かに何かをしてあげて感謝されたり認めてもらうことを存在証明にしたがるって子は意外と多いんだよ。」
「哲学っぽく言ってるけど要はただのヒモじゃねぇか。」
「寂しい奴が増えた中でウィンウィンの関係を築いてるんだからむしろ社会福祉って呼んで欲しいけどな?」
「俺と後輩はそんなんじゃねぇしあいつはそんなんじゃねぇぞ!」
「もちろん俺みたいな男嫌いだって子もいるしお前の後輩はしっかり俺のこと嫌いだから安心しろよ。
……っつーか、あの子はお前を捕食する側だよ。」
「…?後半、なんて?」
「んにゃ何も。さっき小車は猛禽の誇りって言ったけどさ、逆に俺が猛禽だからこそ“たすけてください”が効果的になるんだよな。」
「付き合いを計算づくでやるなよ!」
「失礼なやっちゃな、打算って言ってくれよ。」
「あんま変わんねぇよ。…ていうかそれを聞いてしまった俺は今後お前の言う“ありがとう”とか“美味かった”をどんな顔して聞きゃあいいんだよ。」
「え?小車って俺に好きになってもらいたくて飯作ってんの?」
「飯担当だからだよバカタレ。」
「じゃあそれでいいじゃん。ま、なんの気も遣わず食えるのは女の子に奢ってもらった飯より圧倒的に小車のインスタントラーメンだよ。」
「あんま嬉しくねぇよ。」
…悪い気分もしないけど。
「本音が聞こえの良いものだとは限らないからな。」
「…じゃあせめてタバコの灰が料理に落ちないよう何歩が下がるくらい気ぃ遣ってくれるか?」
「あ、わりわり。…でもそうは言ったって換気扇ここにしかないんだからしょうがないじゃん?」
「いつも自分の部屋でパカパカ吸ってるじゃんかよ。」
「お互いの休みが被った時くらいなんかお喋りしたいじゃんか。」
「…………」
「ちゃんと本心だっての。」
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