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第九格の詩【はるぼん9二次創作】

  「きりーつ、きょうつけ。礼。ありがとうございました」

  「「「ありがとうございましたー」」」

  「進路相談の日程をあらためて各自確認するように、あとみんな体調管理には気をつけるのよー」

  ガラッ

  僕の名前は[[rb:福本 > ふくもと]][[rb:三久 > みつひさ]]。三毛猫のオスの高校三年だ。

  三毛猫のオスといっても普通に暮らしている。悩みは特にない。もう十二月なこともあって周囲は“受験”の二文字にやたらピリついているけど、もっとマイペースにいけばいいのにと思う。

  模試の成績がどうだったこうだったと盛りあがっている同級生を横目にそそくさと学校を出て、校門へ向かうなりピューと北風が吹きつけてきて、思わず身を震わす。

  「…………、サムい」

  今年の冬は[[rb:寒気 > かんき]]の南下に伴い一段と冷え込むらしい。これじゃ風邪も流行るだろうなと白い息を吐いてマフラーや手袋にコートと完全防備に身を包んだ僕は帰り道を歩きながら一匹そう考える。

  とはいえ中学のときからこの通学路はたんなる帰り道ではないのだ。寄り道がある――中学校で知り合った“アイツ”と会うために。

  ピンポーン

  『開けたから入っていいぞ』

  「お邪魔しまーす」

  ガチャッ タタタッ

  砂糖菓子みたいな色あいをしたあるアパートのとある一室。玄関をくぐり寒い廊下を抜けて[[rb:最奥 > さいおう]]に位置する部屋のドアを開けると、暖気がヒゲをかすめてきてついその暖かさを享受する。

  「うぉおー、やっぱあったかーい! エアコンいいな~」

  カチャカチャ

  そして――その部屋のまたしても最奥に設置された薄型テレビの前で、黙々とコントローラーを握りあぐらをかく、フサフサの尻尾が揺れ動いている、こづいてやりたい後ろ姿をした“ソイツ”。

  [[rb:谷口 > たにぐち]][[rb:靖教 > やすのり]]。引きこもり常習犯の、ゴールデンレトリバーのオスの同級生。中学校からの知り合いもとい腐れ縁で、僕は“ぐっちー”とあだ名で呼んでいる。

  「部屋、寒いからドア閉めて」

  「ああごめんごめん。これ、進路相談の日程だって」

  完全防備をほどきながら僕はぐっちーに学校で配られたプリントを差し出す。ちょうどテレビの画面は『GAME OVER』の表示と、盛大にへばっているキャラクターを映し出していた。

  「もうそんな時期か」

  「ぐっちーは進路どうするの?」

  「聞かなくてもわかるだろ。考えるのがめんどくさい」

  「あはは、そっかー」

  ぐっちーには妙に計算高いところがある。怠惰にすごすためならば通学も出席日数をあらかじめ稼ぎ、夏と冬はトコトン巣ごもりに徹するという感心できるかはなはだ怪しい努力を垣間見ていたのもかくいう仲介役を任された僕自身だった。

  きっと進路についてもこういってくれるけどなにか案を考え練ってはいるのだろう。

  ふたたびコントローラーを手にしたタイミングを見計らって――僕はぐっちーの背中にピタリと張りつき体をすり寄せる。とたんに固まるぐっちーをよそにニシシと僕は笑い、腰を下ろして肩に頭を乗せ“サイソク”をした。最近は勉強で忙しくてオナニーもご無沙汰だったから楽しみだ。

  「……“したい”のか?」

  「しようよー。ね、いいでしょ?」

  「わ、わかった」

  しどろもどろなぐっちーをよそに僕はやったーと小さくガッツポーズをキメてみせた。

  「ん……あっ」

  くぽっ こぷっ ザリザリ

  ぐっちーのちんちんは熱くて固い。中二の冬にしたあの初体験以来、僕はこの感覚が忘れられずいつもむしゃぶりつきたい衝動に駆られていた。ただあの頃と比べ僕はネコ科特有の舌が発達してぐっちーのちんちんはずっと大きくなっているのが実状だ。喉元に届きそうなくらいデカくて太い肉棒の先端からはトロトロと潮が湧き出して、僕はあますことなく汁をチロチロすくいとる。

  「お、おい」

  「む。おおしふぁの?(ん。どうしたの?)」

  「あッ――!! 咥えたまま喋られるとヤバいから離せって!!」

  チュプン

  どうやらぐっちーは感度が高まっているらしい。それがなんでなのかはわからないけど、すごく嬉しい自分がいた。ベッドにうつ伏せになって股間にマズルをうずめる僕は、同じくベッドに身を置いて紅潮するぐっちーへと視線を送る。久しぶりなこともあってニヤニヤが止まらないでいた。

  「どうしたのってばぐっちー、もうイっちゃいそう?」

  「い……いやその、な? 思っていたんだけどお前が[[rb:挿 > い]]れるのなら俺が舐めたほうがいいんじゃ」

  「別に気にしなくていいよ。僕が好きでやっているんだし――」

  かぽっ ちゅぶっ

  いまだ固さと熱を保っているぐっちーのちんちんを逃すまいと、再度僕は喉奥までズチュチュとわざとらしく音を立て咥えきる。舌を絡ませるたびに目の前であえぎをコロコロこぼすのがひどくいじらしくてたまらないのだ。

  「あっ、うぁ、やっぱすげッ……!!」

  やらしく全身をピクつかせるぐっちーに僕の“[[rb:舌技 > ぜつぎ]]”は情け容赦しない。必殺として取っておいた技をおみまいするため、根元にしかけていたロックを外し鈴口を舌先に運ぶ。――準備は整った。

  ザリ ぴちゃぴちゃ

  「あ゛っ、お?!!」

  潮があふれ出る尿道に、僕は舌を這わせてときおり割れ目をなぞる。ぐっちーの弱い部分がここにあるということは何回かしてみてわかった経験則だ。しょっぱい汁がぴゅぴゅっと跳ねるごとに僕はゴクゴクと喉を鳴らし、唾液と混じったそれを飲み込む。そろそろ頃あいだろうか。

  「だ、ダメ……いっ――!!」

  グッ ビュルルルル

  (んっ――)

  ぐっちーはいつもどおり僕の頭を抱え込んで射精した。青臭い粘液を大量に放出するちんちんに合わせ、熱くてネバネバしたものを舌で絡めとる。気持ちよさそうに腰をカクカクさせるぐっちーはとろけた表情を浮かべているに違いない。精液が逆流を起こしプクリと鼻ちょうちんを作った。

  「はぁ、はぁ……」

  ジュルルルル

  「んひぃッ?!」

  んべっ

  ひとしきり出しきったことを確認したあと、僕はニヘヘと笑いぐっちーに舌の上でダマになった白濁汁をこれみよがしに見せびらかす。そうとう前から溜めていたんだろうか、濃い栗の花の臭いと潮しょっぱさで喉奥がどこかツンとする。ぐっちーの反応を楽しんでから喉を鳴らしてみせた。

  ゴクン

  「あ、あんま人前でそんなことすんなよ。……まだイったばかりだってのになんてか、もう」

  ビンビン

  「ふぅ、ごちそうさまー。まだ元気そうだね~、――続きもする?」

  ぐっちーはきわめてわかりやすい。顔を真っ赤に目をそらしてくれはするけどその実尻尾だけはブンブンでもっと素直になればいいのに、なんて内心つぶやいてしまう。精液の変わらないあと味のなごりもそこそこに肉棒をツツツとなぞるなり先端からトロトロと我慢汁がにじみ出てきた。

  「んあっ……いじめないでくれって。お――俺のケツに早くミツヒサのちんこぶっ込んでほしい」

  「うんうん。大好きだよ、ぐっちー!」

  [newpage]

  ピクッ

  「――――」

  ふと、僕はいつの間にうたた寝していたことに気がつく。夢で見たのは数日前にぐっちーとしたあれやそれやの一部始終。無意識に股間がテントを張っていて自分でも苦笑してしまうと同時に、なぜだかあのとき口から漏れ出た“大好き”の言葉が胸に引っかかっていた。得体の知れない感傷に浸らないようガラにもなく英単語帳を取り出して目を落とす。ええと、 "mate"の意味は……。

  「福本くーん!」

  「わっ」

  まだ眠気が抜けていないのかもしれない。クラスの女子三人が僕の机のまわりを囲ってニコニコ笑みを浮かべている。なにかいいことでもあったんだろうか。はたからすればうらやましい光景に違いないはずなのに、どこか後ろめたさが勝ってしまう。こういうときどうすればいいんだっけ。

  僕がなにを言うべきか喉を詰まらせている間に女子たちが順に、親しげに話しかけてきた。

  「福本くんってさー、頭もいいし顔もいいしスタイル抜群だよねー」

  「そうそう! 三毛猫の男子だからモデルなんか向いているよね~」

  「今日、私たちでクレープ屋に行くんだけど……福本くんもどう?」

  すごい勢いでホメちぎられ内心ビクビクする。そりゃ確かに三毛猫のオスは珍しいと思うけど、もしやこれは集団デートへのお誘いなのか。耳の裏をちょちょいと掻いて照れながら言葉を返す。

  「あ、ありがとう。でも今日の帰りはぐっちーの家に寄らなきゃだから――」

  ヒュー

  窓からなのか廊下からなのか、冷たい隙間風が僕と女子との間を通り抜ける。見ればさっきまでの笑顔はどこへやら、女子たちは一様に呆れたふうなため息をついていた。なにか気に障ることを言ってしまったのか――あたふたする僕とは対照的に女子のうち一人が冷めた口ぶりでかく語る。

  「福本くんって口を開けば“谷口”の話ばっかり。もう知らない、行こう」

  「え、えっと……なんかごめんね」

  不満タラタラで口々に文句を垂れながら、女子の面々は散り散りになってゆく。なにがなんだかわからないけど、 “谷口”ってぐっちーのこと? いったいどんな噂が流れているというのだろう。

  「次の人どうぞー」

  ビクッ

  事実を確認したくて尻尾を引かれる思いだったけど、時間は待ってくれないみたいだ。そもそも放課後こうやってみんな教室に待機している理由、それは進路相談を受けるために他ならない。

  僕は席を立って相変わらずピリついた雰囲気の教室をあとにする。こうささくれ立っているのは受験期特有のものなのか、はたまた先ほどのやりとりに由来しているのか、よくわからなかった。

  廊下に出るなり大風がピュウウと吹きつけ、手にした志望調査表がパタパタ音を立てる。

  進路、色恋、そして……“ぐっちー”。

  僕はこれからどうすればいいんだろうか。そんな杞憂とも実像ともいえるものを胸に抱えたまますっかり日が落ち灯りが薄ぼんやりと照らし始めたリノリウムの暗路を、ぽつぽつ歩くのだった。

  [newpage]

  『県外の国立がいいんじゃないか? 福本は基礎がしっかりしているし、浪人でも可能性がある』

  『学費の点で他に選択肢はないだろう。親御さんにとっても孝行になって、すごくいいと思うぞ』

  (そんなのはわかっている。でも僕は、本当は僕は――)

  ザア ヒーヒョー

  宵闇を街明かりが切り裂くなか、風が吹きすさび名前知れずの鳥が騒いでいる。こうも夜が回り体調優先を担任に指示されているのだからさっさと帰路へつくのがもっとも最善なのかもしれないけど、今ばかりはそうもしていられない心情だったのだ。

  妙なザワつきを抑えられない僕は、早脚でいつものごとくアパートの一室にその歩を急ぐ。

  ピンポーン

  『……入っていいぞ』

  なぜか一刻も早く会いたくて敷居をまたぐのもそこそこにぐっちーの部屋へと向かう。すると、ふだんのように部屋の手前でゲームをピコピコ操作する音が耳に入ってきて、すこし気が紛れた。

  (驚かせたら怒るかな)

  ギィ コソリコソリ

  「そこにいんのはわかっているんだが」

  「はにゃッ?!」

  我ながらバレバレの手前味噌な演技に苦笑いを浮かべざるを得ないけどシリアスにこり固まった雰囲気を崩すには、むしろ上出来だったのかもしれない。なぜなら――画面越しに映るぐっちーの瞳が薄ゆらいでいたからだ。

  しばしの静寂にわざとらしく立ちあげた尻尾が疲労を覚え始めたころ、向こうが口火を切った。

  「進路相談……どうだった?」

  えっ。ぐっちーから聞いてくるんだ。ここで変にウソをついても仕方がないので正直に話す。

  「け、県外の国立かなー。ほら僕って一応成績がいいほうだし? 先生たちもベタ褒めでさ――」

  「お……俺は通信の専門かもしれない。この成績じゃ進学は諦めたほうがいいっていわれたんだ」「そ――そっか! でもぐっちーらしくていいんじゃないかな? 通信だったら通学だって――」

  「…………」

  ギクッと思わず不意を突かれる心の機微を、どうか許してほしい。これは丸五年間に渡り関係を放置してきたツケなのだろうか。泣き出しそうな表情を見るまいと腰を下ろしそばに寄りかかる。

  「寂しいの?」

  「寂しくない。そっちは寂しいのか?」

  「そりゃ寂しいよ。ぐっちーと離ればなれになるなんて」

  カチャカチャ

  ここにきて僕は重大な事実に気がついてしまう。ぐっちーと離れて暮らすこと――それすなわち毎日こうやって理由もなく遊びに行く未来は存在しないのだ。なにげない会話に花を咲かせるのもゲームで対戦して白熱するのも好きなとき体を重ね合うのも――遠く過去と色あせてしまうのだ。

  “寂しい”だけでは足りない感情の渦に呑まれてたまるかと、ぐっちーに脈絡もなく跳びかかる。

  「うわっ!! と、突然抱きついてくんなよ……コート脱がないとお前は暑いんじゃないのか」

  「そんなことないよ~。……むしろ“抱き納め”にならなければいいなーって」

  「んなふうにいわれたって、今日はケツの準備をしていないぞ?」

  「あはは、ぐっちーったらすぐえっちばかり考えているんだから。これはそういうのじゃないよ」

  僕とぐっちーは表向きはつくろってみせるものの内心ではそれぞれが不安と無念を身体を介して分かちあっているみたいだった。僕たち二人は――はたしてこのまま終わってしまっていいのか。

  行き場のない“感傷”を背負い込んだ僕は急に抱きつかれ困惑するぐっちーに――やりすごすのがひたすらな現状を悟られまいと、無理に甘えてごまかすのが、一夜ばかしの“精一杯”なのだった。

  [newpage]

  僕は考える。思い悩むよりは深く考えた。この関係の正体はなんなのだろう、と。

  確かに知識のうえではえっちは恋人同士で行うものだと知っているし、ましてオス同士となれば同性愛に該当することも理解している。でも――今まで散々やってきた“くんずほぐれつ”は遊びの延長にあるというのが共通の認識だったはずだ。中学三年の八月なんて勉強会にかこつけ僕んちにお泊まりをして、親の目を盗んでは布団にもぐり込み、風呂上がりの体温を互いに確かめあった。

  思えばあれくらいの頃から――ぐっちーの僕を見る目が変化していったような気がする。

  『これにて第二学期終業式を終わりにします。先輩方を大きな拍手でお見送りしましょう!』

  パチパチ パチパチ

  そんなことで心がモヤモヤに頭がグルグルに支配されたまま、終業式もとい“出陣式”が終わってしまった。こんな状態ではたして大学受験……しかも国立の入試に臨めるのかわからないでいる。

  「はぁ……」

  憂鬱なのかそうでないのか何度も大きくため息をついているあいだに最終授業を満了して皮肉なことに晴れて自由となった。十二月も折り返しを迎えた冬の弱々しい日射しを浴びながら、短い昼のなかとぼとぼ自分の家に向けて脚を動かす。なにか――なにか打開策は突破口は、ないだろうか。

  「おっ、福本じゃないか。久々だな。元気しているか?」

  「わっ――」

  視線を下に思案を重ねていた僕は予期しない声がけに小さい叫びを漏らす。突然話しかけられたからではない。その声に聞き覚えがあってなおかつひどく懐かしいものだったからだ。

  「せ、先生ですか???」

  「その様子だとあの三毛猫の“福本”で間違いないみたいだな。元気そうでなによりだ」

  目の前にたたずむ人物の姿をよくよく認めれば中学二年のとき担任をしていた通称“タマネギ”が買い物袋片手に立っていた。見ないあいだにいかつさがすこし増したようなそうでないような。

  「先生こそお元気そうでなによりです。しかし僕たちの代の離任でここの学区を外れたのでは?」

  「いやはやオレもいよいよ身を固める運びとなって縁談でここに戻ってきたんだ……そうだ福本、受験生にはちと悪いかもしれないがちょっとばかし時間をもらえないか? 近況を聞かせてくれ」

  「いいですけど……どこにしましょう」

  思わぬ誘いに回らない頭でとりあえずイエスをいうとタマネギは――大事な縁談に向けて愛想を良くしようと努力しているのか――大柄なオスのイノシシなりにニカッと不器用に笑ってみせた。

  「オレがここの担任だった頃によく通っていた喫茶店がある。高三はブラックぐらい飲めんだろ? ついてこい、案内してやんぞ」

  「なるほどな。福本は国立を目指しているのか、各教科でその点数なら大したもんだ」

  「あ、ありがとうございます……ただ最近はずっと悩みがつきまとっていて」

  昼帯のガラガラな喫茶店の相席に僕とタマネギは座り主に受験のことが話題に挙がっては消えてゆく。今さらながら中学二年のとき敬語を使っていなかった過去を指摘されないかすこし心配だ。

  「ん、勉強関連か? あいにく文学専攻でせいぜい今教えられるのは頻出の古典くらいだが……」

  「ああいえそういうのではなく。そのー、ぐっちーって覚えてられますか?」

  “ぐっちー”の単語にタマネギはピクリと反応して見るからに眉をひそめた。けどその仕草も数瞬のうちに元に戻って当時の担任はズズズとわざとらしくコーヒーをすすりフーとため息をつく。

  「ああ――ゴールデンレトリバーの谷口のことか。確かにいたな、そんな奴。今頃どうしているかわからんが福本はまだ連絡を取り合っているのか?」

  「――実は同じ高校で、相も変わらず僕が仲介役を買って出ているんです」

  「ハァ?! あいつ高校でも学校サボってやがんのか!! ここまでくんと見上げた根性だなそりゃ」

  タマネギは明らかに青筋を立てながら驚きと呆れを交えつつ当時となんら変わりないタテガミをガシガシ掻きぶつくさと悪態を吐く。ここは喫茶店ではなく居酒屋だったのかもしれない。

  「引きずって無理にでも通学させることができたら苦労していませんよ……すっかり慣れました」

  「話のかぎりなんだかんだ五年あまりずっと一緒にいたんだもんな。悩みはまだ聞いちゃいないが……谷口を気にかけているんだったら、これからもそばにいてやったほうがいいんじゃないのか」

  「――――」

  ハッとさせられる気持ちだった。いつから僕はぐっちーの想いに応えず、意図して無視を貫いてきたのだろう。関係がどうあれ遊びであろうとそうでなかろうと、僕はぐっちーのそばにいたい。

  「……すみません。悩み、解決しちゃいました。そしてそろそろ行かなくちゃならないようです」

  「ほう? すこしでも励みになったならいいんだが」

  僕はコーヒーを熱いのに一気に飲み干し腹を決める。ひょっとしたら今だってコントローラーを握って寂しい表情を浮かべているかもしれない。すぐに走って抱きしめたい衝動に駆られていた。

  「お会計は頼みます。それでは僕はこれで」

  「おう。久々に話せてなかなか楽しかったぞ。……受験、頑張れよ」

  タマネギの労いと応援の言葉もそこそこに僕は喫茶店を飛び出す。かいた汗が穏やかな昼の外気に冷えてゆくのも気にせず無我夢中で駆けた。ぐっちーとのこれまでの思い出が頭によみがえる。

  『お、お前は福本っていうんだな。面倒だろうがこれからよろしく。え――“ミツヒサ”でいい?』

  『あだ名? そうだな、俺は考えちゃいないから好きに呼んでいいぞ。――ふーん、ぐっちーか』

  『お前さ、なんで俺なんかのために高校もわざわざ……いや。その、な。すま……なんでもない』

  ぐっちー。こっちこそごめん。ずっと思わせぶりに見せかけて。気がつくのがただただ怖くて。

  ガチャ

  「ぐっちー!!!! ――!?」

  わき目も振らずここ最近は立ち寄っていなかったアパートのエントランスを抜けて、五年あまり通い詰めた変わらない一室のドアを、チャイムも鳴らさず開け放ちくぐる。すると仄暗いリビングのテーブルにてぐっちーのお父さんが飄々とした面持ちを浮かべながら新聞に目を落としていた。

  毛並みがボサボサの慌ただしい様子から察してかふだんより声色を優しくして話しかけてくる。

  「なんだ、誰かと思えば三久くんか。息子がいつも世話になっているね」

  「ぐ――ぐっちーはどこに」

  「ヤスノリなら通信の説明会に出向いているよ。送り迎えのため今日は午後半休をもらったんだ」

  そういってぐっちーのお父さんは新聞を畳みフーッとため息をつく。ぐっちーと面影がよく似た感情のこもった瞳がこちらに向けられ、なんだかドキッとしてしまう。

  「三久くん。大事な話がある、聞いてもらえるかな」

  「い……いいですけどなんでしょう」

  「うちのヤスノリをよろしく頼むよ」

  ぐっちーのお父さんはあっけらかんとそう言い放った。理解が追いつかずポカンとした顔をしているであろう僕へ言葉は続けざまに投げかけられる。

  「君たちが“そういうこと”をしているのは薄々勘づいていた……だからこそ本気のお願いなんだ。私のような家内に愛想を尽かされた形だけの“父親”にはできないことを、君は息子にやってみせてくれた。もしも三久くんがヤスノリと一緒にいるのを望むのならば、私はなんだって協力しよう」

  「?! け、けど僕は国立で県外に行く予定なので離ればなれに――」

  「そう心配する必要はないさ。私から君のご両親に話を持ちかける――あとは三久くん、君自身の選択とほんのちょっとの勇気にすべてを委ねるよ」

  「…………」

  もしかしたら今僕の目の前に千載一遇のトンでもない好機がぶら下がっているのかもしれない。

  そして脳ミソがおのずと回転を起こし、とある計画が脳裏に持ちあがる。

  “コクハク大作戦”。勝算の見込みなんてない、うまくいくか下手打つか誰にもわかりっこない、子供と大人の狭間にある即席の作戦。でも僕はこれに賭けてみよう。ぐっちーとの未来のために。

  数日のあいだ[[rb:心中 > しんちゅう]]に抱えていた悩みは当時の担任にほぐされぐっちーのお父さんに後押しされ、高校生活最後のイタズラを思いつかせるに至った。中学二年のハツタイケンとのデジャブに思わず胸が[[rb:昂 > たかぶ]]る。僕たち二人を結ぶこれまでの長い長い道のりは、いよいよ大詰めへと差しかかった。

  [newpage]

  「じゃーん!!! 見てこれ、エロゲ買ったんだー!」

  「!!? ――ってお前は勉強で忙しいんじゃ」

  「そういわれなくてもわかっているよ~。ただたまには息抜きしなきゃ体に毒でしょ?」

  「お、おう。しかしどこで入手したんだか」

  作戦当日。冬至――一年でもっとも夕暮れが早く夜の長い日。すでにとっぷり日が落ちかかっているなかぐっちーのアパートに赴き、あの日みたいにエロに食らいつくか感触をまずは確かめる。

  「安心して、中古でこっそり買ってきたんだ。たぶんぐっちーのゲーム機には対応しているはず」

  「!!! ほ、ホントなら一緒にやってやってもいいぜ」

  しょうがなさそうな口ぶりとうらはらにその実ひときわ[[rb:爛々 > らんらん]]と目を輝かせ尻尾をパタパタさせているのはなんだかちょっとかわいくてズルいと思う。……“コクハク大作戦”、第一段階完了。

  「そ……そんじゃ起動するぞ?」

  「うん! 楽しみだね」

  ウィーン ピコン

  『警告:このゲームは成人向けコンテンツを含みます。あなたは十八歳以上ですか?』

  見慣れない表示に戸惑わず、迷わず“はい”を選択するぐっちーは相当の手練れかつスケベ犬なのだろうと妄想する。オープニング映像が流れ出し、僕はゲームの世界にすっかり入り込んでいた。

  「へー、エロゲってこんななんだ~! でも女の子が多すぎてどの子がヒロインかわからないな」

  「この手のゲームの場合正規ルートとそれ以外とでマルチエンディングシステムを採用している、やり込むなら別だが好きなキャラを選ぶのが筋だ」

  「あれ。この子なにかあったのかな? ――えぇ、急に泣き出しちゃったけどこれってどうしよ」

  「落ち着け、おそらく分岐だろ。このキャラは――たしか幼なじみとひと悶着あったな。フラグの回収次第で好感度の上昇が期待できるぞ」

  かくしてかれこれ一時間くらいが経った。今はぐっちーに操作を任せ、画面を眺めるに徹する。

  カチャカチャ カチャカチャ

  そして僕はといえばそろそろ限界が近づいていた。おなかの“内側”からジワリジワリと甘苦しい感覚が襲いかかってきて平たくいうなら果ててしまいそうだ。画面にも徐々に変化が現れ始める。

  『らめぇっ……ヤスヒサのバカァ、そんなところいじめられたら私……ッ』

  テレビから女性声優のものと思しき喘ぎ声が漏れ出し、防音が効いているだろうけど近所迷惑にならないかすこし心配になった。見れば濡れ場らしいスチルがデカデカ表示され、[[rb:直截 > ちょくせつ]]に状況を述べれば僕と同じ三毛柄をした猫の女子が主人公の持つディルドで陰部を責め立てられている構図が惜しげもなく映し出されている。このルートを選んだ張本人であるぐっちーはといえばハスハスと鼻息を荒くしコントローラーを器用に左手で操作しながら右手はガサゴサとスボンをまさぐっていた。もしかせずとも発情しているのかこれは。――“コクハク大作戦”の第二段階、たぶん完了。

  「そんなにいいの? 確かに際どくてえっちだけどさ」

  「ああ。このキャラ、妙に股間に刺さってさ。お前と同じ三毛猫ってのもあるけどよ」

  「むー。その言い方は感心しないなぁ。隣に同じことのできる理解がある同級生がいるってのに」

  「“同じこと”? “理解がある”?? それってどういう――」

  僕はすくっと立ちあがりパパッとみずからズボンとパンツを脱ぐ。ぐっちーのポカンとした顔がまもなく赤面へと大きく移り変わったのには訳があった。僕のお尻に大きなディルドが挿入されていたからだ。ピクピクはねて汁を漏らす自分の肉棒をなでながら、僕はおなかにコツコツ当たっているそのディルドをゆっくりと取り出してみせる。

  ズルル

  「ん……んッ」

  「え。ちょ……ちょっと待てってミツヒサ?! それ以上は流石にマズいぞ!?!?」

  チュポンッ

  ディルドを取り出し終えてハーハーと息を切らし快感にガクガクと内股で身体を震わせる僕は、おもむろに正面から倒れ込んでぐっちーを押し倒す。ディルドとコントローラーが宙を舞っているのを背中で感じとった。気がつけばぐっちーとの距離はゼロに等しく、互いの息が身じろぎが心臓の鼓動までもが、否が応でも音として耳に伝わってくる。

  「これが僕の答え」

  いまだ取り乱しているぐっちーに僕は初めてキスをした。 “コクハク大作戦”、最終段階完了。

  できることは全部やりきった――さて。向こうはどう出るか。

  ポタポタ ポタッ

  ? ぐっちーの胸に水滴が跳ねる。ふと正面にある顔を覗いてみれば――ゴールデンレトリバーの同級生はポロポロと泣き始めていた。それも鼻水を垂らし大号泣といって差し支えない勢いだ。

  呆気に取られる僕に対しぐっちーは涙交じりのしゃがれた声で、しかしはっきりと語りかけた。

  「……ごめんな。こんな手間かけて告白してくれるなんて、嬉しいというより面目ないくらいだ」

  その言葉に思わず僕も目頭が熱くなり、涙がこぼれる。口をついて出たのは申し訳なさだった。

  「こちらこそごめんね、今まで気がつかないふりをしていて。素直に告白できないからこうやって一芝居みたいなこと打ってまたごまかすしかできなかったんだ。でもあらためていわせてほしいよ……僕はぐっちーが好き。大好き。付き合いたいしこれから先もずっとそばにいさせてください」

  涙でぐずぐずになった僕たちは起きあがりお互いがお互いを支えあうかのように抱きしめ合う。まるで二匹が一つになってゆきそうな感覚に、この恋がたった今成就した事実を確信したのだった。

  「お前は――ミツヒサは嫌じゃなかったのか? しかもケツにこんな太いもんを挿れて告白って」

  「あはは全然平気だって。嫌だったら五年も仲介役を買って出ていないよ。それにお尻に関しては前々から興味があって今回が初の挿入じゃないんだ。――ゲーム中実はイっちゃいそうだったし」

  「そうだったのか……み、ミツヒサがケツでイくところ見てみたい! 俺のちんこが処女を奪っていいのならトコロテンぐらいはさせてやるぞ」

  「もちろん初体験はぐっちーがいいな~。それに……すでに“ヤるき”満々じゃん? 早く来てよ」

  しばし泣き笑いが入り交じったあと、僕はぐっちーの股間に視線を落としツツツと劣情を煽る。

  まだまだ僕たち二人の夜は始まったばかりだ。

  [newpage]

  プルル ピッ

  「もしもし福本です――そろそろ到着するのですね。わかりました、玄関先にて待機しています」

  それから。

  ピッ

  「業者さんがもう来るって、ぐっちーはどうする?」

  三月の十二日。僕とぐっちーは実家を離れ、とあるアパートの一室で引越し業者を待っていた。

  そう――僕は国立に受かりぐっちーは専門に入り、またぐっちーのお父さんによる粋なはからいと強力な後ろ盾もあり、こうして春を迎えいわゆる“シェアハウス”が協議の末に認められたのだ。

  「俺が応対する。ミツヒサは家の中でやってくる荷物に備えていろ」

  そういってぐっちーは一人玄関から外へ出て行こうとする。ここ最近は急にしっかりと頼もしくなっちゃっていったいどうしたんだろうという心配が勝っていた。

  「僕も一緒に行くよ~。二人のほうがいいって」

  「な、なぁ」

  「ん? どうしたの?」

  ぐっちーは振り返ると目を逸らし、いかにも照れくさそうに口ごもりながら、こうつぶやいた。

  「俺、こんなんだけど……これからまたよろしくな」

  なにいっているんだか。 “こんな”だから僕は君が好きで好きでたまらないんだ。……だから。

  「こちらこそ! 大好きだよ、ぐっちー」

  チュッ

  僕はフフンと笑い不意をついてにじり寄り、親愛なる鼻キスをおみまいした。

  「お、おま――?!?! ~――!!!!」

  ブシュー

  とたんに真っ赤っ赤になって鼻血を盛大に噴き出し、ヘナヘナになって崩れ落ちるぐっちー。

  (あちゃー、やりすぎちゃった)

  「お邪魔しまーす……って大丈夫ですかァ!? きゅ、救急車……!!」

  ささやかな“イタズラ”がきっかけでつながった関係は、いつの間にやら恋に絆に大きく変わり、告白を経て花盛りにまで至った。例年より一足早い桜前線は、近く日本全国を覆い尽くすだろう。

  寒い冬を乗り越えツボミに栄養を蓄えた僕たち二本の桜木は、今まさにあたたかな“はる”へ、まだ見ぬその先の世界へ、遠くいざなわれようとしているのだった。

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