「……」
この人は、何がしたいんだろう。
意図が分からず固まっていると、その人は口パクで何かを伝えてきた。
(………草…一緒に?取らない?
ぇ、草むしり?絶対違う…
……三葉?ぁークローバー探しね)
意味を理解した俺は、後ろにあった扉から中庭に出た。
「やっほー!
君は、患者じゃなさそうだね
パートナーが入院してるの?」
年上に見えるその人は、にこにこしながらそう俺に話し掛ける。
「そうです
さっきの、クローバー探し一緒にやろうってことでいいんですかね」
「そーそー!
俺暇だからさ」
にしし、なんて笑う彼は、見た目よりも中身が幼そうだと思った。
「てか、けーご要らない
俺は翔、君はー?」
「…ぇっと…貴和、です」
「たかかず?
かっこいー✨
たかって呼んでいい?」
「はい」
「あはは、けーごいらないってば〜
ま、いいや
こっちこっち、ここにクローバー生えまくってんの〜」
翔に引っ張られて、クローバーだらけの場所に来る。
「燈李にあげるんだ〜
四葉は幸運をどーのこーのって言うじゃん?
だから、沢山あげたらきっとひいも治るよ✨」
「ひいり、さん?
パートナーさんですか?」
翔に倣って地面に座り、クローバーを探しながら聞いてみる。
「んふふ、そう!
ひいはねー、かっこいいんだよ
背高いし、イケメンだし!」
嬉しそうに話す翔は、輝いているように見えた。
「それは素敵ですね」
思わず微笑みながらそう言うと、翔は嬉しそうにはにかんだ。
「でもね!
怒るとすっごい怖いの!
もう鬼みたいな顔して、こーんな、こーんな怖い顔して追っかけてくるんだー
そりゃ逃げるでしょー」
わざわざ指で目尻を上げてアピールする翔に、俺はクスクスと笑ってしまう。
「あはは、笑ってくれた
よかった」
そう言った翔に、俺は目を見開いたあと、視線を逸らした。
「なんか、諦めたような顔してたからさ
すごい悲しそうだったし
頑張ったら笑ってくれるかなーって思ったんだ」
だから笑ってくれて嬉しい
そう言った翔を見て、この人は本当に優しい人なんだなと思った。
「…あの…」
「んー?」
「…ひいりさんって、入院してるんですか?」
「……ん、ひいは、、」
「無理強いするつもりはないので…」
翔の顔が陰ったのを見て、慌ててそう言うと、翔は眉を下げて笑った。
「いいんだ
俺が話したいから、聞いてくれる?」
そう言われたら、いいのかなと思いつつ頷くしかなくて…
「…ひいはね、階段から落ちそうになった俺を助けて、骨折しちゃったんだ
片足だけど、運悪く複雑骨折だって
大変だろうし痛かったと思う…
まだ治ってないから、入院中」
言葉だけだと軽いけど、怪我をさせてしまった方の罪悪感や悲しさは深いものだろう。
どこか遠くを見るような目をしていた翔は、今度は俺を見つめた。
「たかは?」
「……こっちも…俺を庇って、、昏睡状態です…」
「…何があったの?」
昏睡って中々ないらしい。
びっくりしたように聞いてきた翔に、俺は悲しくなりながら目を伏せる。
それでも努力して口角だけは上げた。
「…倒れてきたパイプから俺を庇って、そのまま倒れちゃって…」
言いながら、あの日の光景がフラッシュバックして、俺はきつく両手を握り締めた。
「………偉い」
その言葉に目を見開くと同時に、翔に抱き締められていた。
「辛かったね、寂しかったね、苦しかったね。
偉い。ずっと独りで我慢してきたんだね
誰にも話してないんでしょ?
偉いじゃん」
優しく背中を撫でられて、俺は堪えきれない涙を零した。
「っ、ふうぅ……」
別に認められたかったんじゃない。
同情が欲しかったんじゃない。
でも…辛かったから。
独りで待っているのはあまりに不安だった。
だから、改めて自覚出来て、気付いて貰えて、ほっとした。
「よしよし」
翔が背中をトントンしてくれて、少しずつ嗚咽が落ち着いてくる。
「ぁ…シャツ…ごめん…」
「んー?気にしないで
たかの辛いのが俺のシャツに吸い込まれてった〜なんちゃって笑」
びしょびしょになってしまったシャツを見て謝ると、翔はまた優しく笑った。
俺が泣き笑いの表情を浮かべていたら…
「未成年泣かせてんじゃねぇよ、翔」
落ち着いた声が、翔の後ろから聞こえてきた。
「はー?泣かせてないし
慰めてたんだし〜」
そう言って翔が立ち上がり、声の主の所へ走っていく。
「たか〜、これが燈李。
ひい、あの子さっき会った子〜」
なんてマイペースにお互いを紹介してくれた。
俺は慌てて立ち上がって、頭を下げる。
「初めまして…」
「こちらこそ。
翔がなんか迷惑かけてなかったか?」
「いえ、そんな…むしろ……助けてもらいました」
俺が困ったように笑って言うと、ひいりさんはへぇ、というような顔をしてから、翔の頭を撫でた。
「そうか、偉いな。」
「へへ、当然✨」
そう言いながらも照れたようにひいりさんを見上げる翔に、少しだけ胸が痛む。
けどその痛みには気付かないふりをした。
「で、2人して地面に座って何やってたんだ?」
「これあげる〜!」
そう言って翔はひいりさんに四葉を渡す。
俺が見つけたやつも渡そうと思ったら、翔に止められた。
「それはさ、パートナーが目覚めた時に渡してあげな。
きっと喜ぶよ
たかが見つけたやつだもん」
にっこり笑ってそう言った翔は、手に乗せられた四葉に感心しているひいりさんに抱き着く。
「うぉ、っあぶねぇだろ
足、!」
「ぇへへ〜
もう痛くないでしょ?」
「ぶつけりゃ痛てぇよ
ま、お前がこんな怪我負わなくてよかったけど」
「…ありがとうね」
「お前を守るのは当たり前のことなんだから、気にすんな」
2人をぼんやり見ながら、少しだけ心が楽になった気がした。
ふと窓の方を見ると、いつの間にか愛斗先生達が戻ってきている。
こっちに向かって手を振った愛斗先生を見て、俺は2人に声を掛けた。
「担当医が戻ってきてるんで、これで…」
俺の声に、2人は立ち上がる。
「うん、また遊ぼーね」
「気をつけてな」
2人に頭を下げて、俺は愛斗先生達の所へ戻った。
その直後、日が沈み冷えるからと中庭にいた人達も棟内へ呼ばれたけど。
「……2人と仲良くなった?」
愛斗先生に聞かれて、俺は小さく頷いた。
「……ほんと、優しい世界ですね。」
「…君がそう思ってくれてよかった」
病室に戻りながら思う。
皆傷を負っていて、きっと皆、何かを乗り越えてる。
俺はその途中なのかもしれない。
その先に幸せがあるなら、2人でいられる未来があるなら。
俺はずっと乗り越え続ける。
その努力を辞めない。
どうか、この決意が揺らがないようにと祈る。
続く