第4話 私をひとりにしないでくれ! 感度3000倍のままひとり置いていかれるイチ 感度3000倍なんて怖くない!5

  イルハとヘルヒャンは顔を見合わせた。

  何しろイチが感度3000倍の状態にいるなどと思ってもいない。

  だからイチの身体に何が起きているかわからず、困惑していた。

  もしこれが現代であれば薬の副作用が遅れてやってきている可能性を考えただろうが、イルハにもヘルヒャンにもそういう知識はない。

  「な、なあ。マジで大丈夫かよ?」

  腹を抑えて中腰になるイチを心配し声をかけてきたヘルヒャンにイチはコクコクと首を上下させて答えた。

  下手に口を開くと変な声が出てしまいそうだったのだろう。

  「少し、休んでいきますか……?」

  不安げな声を出すイルハにイチは首を横に振って答える。

  「まじでどうしたんだよ?副作病はでなかったんじゃないのかよ?」

  「ふく____、詐病じゃなくッ………てっっ」

  「副作用ですよね?」

  コクコクと首を振って答えるイチ。

  ヘルヒャンとイルハから見てその表情はなにかを必死に耐えているような表情に見えた。

  「腹か? 腹が痛いんだな?」

  その様子からイチの副作用が腹痛だと早合点したヘルヒャン。

  そしてイチはいっそ腹が痛い事にしてしまったほうが良いと思い、症状を偽って首を縦にふった。

  「なんだよ。それならさっさと出しちまえよ」

  いつの時代も冒険者が道や遺跡の片隅で花を摘むのは珍しい事ではない。

  しかし別にイチは便意を堪えているわけではないのだ。

  「大丈夫__、波が引いてきたから、問題ない。先を急ごう」

  そう言って無理矢理笑顔を作るイチだったが、イルハとヘルヒャンにはその笑顔が実に苦しそうに見えた。

  2人して顔を見合わせ、ひとまずはイチの言う通りに先を目指す事にしたのだったが、やはりイチの姿を気にすれば辛そうに見えてしまう。

  実際、イチは3000倍と喩えられる感度に必死に耐えていた。

  もしイルハとヘルヒャンがいなかったら、もし依頼の最中でなかったらどうしていたかわからない。

  しばらくは気丈に振舞いしっかりと歩いていたのだが、少し歩いただけで突き上げるような強烈な疼きに再び歩みを止めてしまった。

  意外に思ったのはヘルヒャンである。

  ヘルヒャンはイチの不調を腹痛だと勘違いしているので、変に恥ずかしがらずに必要な事を済ませてしまえば良いのにと思っている。

  イルハのほうはヘルヒャンと同じくイチの症状を勘違いしているが、ヘルヒャンと違ってイルハはイチの羞恥心を勝手に慮って理解していた。

  「こうしましょう。私とヘルヒャンは少し先に進む事にします。先で待っているので、その間、イチさんは自由にしてください」

  イルハは名案を思いついた事に顔を明るくしてイチに考えを伝えた。

  要はイチが気兼ねなく用を足しにいけるよう、彼女が1人になれる状況を作ってやろうとしているのである。

  これにヘルヒャンも同調した。

  「そうだな。それがいいだろ。イチ、ゆっくりしてこいよ」

  イルハはヘルヒャンのデリカシーのない物言いに少しギクリとしたが、とりあえずお互い意見が一致したことに安堵した。

  困ってしまったのはイチである。

  何しろ別に腹が痛いわけではないのだ。用を足したところでこの身体の異常が回復するわけがない。

  むしろ今までイルハとヘルヒャンの姿があったからこの狂おしい妙な感情に耐える事ができたとも言えるのだ。

  逆にひとりにされてしまっては困る。

  「ま、待ってくれ、私は大丈夫。大____丈夫だから」

  なんとか無事を装ってひとり取り残されまいとしたイチだったが、

  「無理すんなよ。さっさと出しちまえば楽になるって」

  ヘルヒャンがそう言ってイチの後ろの腰をさすってやると…、

  「ひっ____! ひあああああっっっっっっっっっ!!!」

  悲鳴に近い声でイチが喘いだ。

  「ほれみろ! そんなんじゃ途中で漏らしちまうぞ。さっさと済ませてこいよ」

  「じゃあ、イチさん。僕らは遺跡の出口で待ちますから、もし何かあったら大声で呼んでください」

  もう2人は完全にイチが便意を堪えているものと早合点してしまっている。

  イチはこの場に仲間のミュルガルデかエルビアニカを連れてこれなかった事を酷く後悔した。

  彼女らだったらイチの身体の異常を理解し、ミュルガルデであれば症状を和らげる魔法を使ってくれたかもしれない。

  「まっ________まって、まってくれ!そうじゃない、そうじゃ____っ、うあぅ________ん"っ」

  イチを置いて先に行ってしまう2人の影を追いかけようとしたが、まるでカラダ全身を蝕むような、衝撃を伴う痺れにイチはその場でうずくまってしまった。

  「待って………、うっ___、んんっ______つ、はぁッ___、あっ______くぅぅぅ、ッ…………」

  更に悪い事にイチの身体を苛む副作用は時間の経過とともにその強烈さを増していくようであり、先ほどまでなんとか立って歩く事ができたのに、今ではもはや立ち上がることすら困難だった。

  「こんなっ______こんな"っ______!」

  こうしてイチと感度3000倍との孤独な戦いが始まったのである。