7話 再会・プルシェニカ ハーフエルフを狩る者たち7

  メイメイはイチ達と合流し、現状の報告と手に入れた情報を共有した。

  その中でもアリス・ヨルゲンらしき姿をメイメイが寝床に選んだ公園で最近見かけたという情報を得られた。

  他に役立ちそうな情報こそ得られなかったが、まだ調査を開始して間もないのでアリスの目撃情報を得られたのはむしろ幸運と言った方がよいだろう。

  それ以外はイチ達の拠点の場所を共有し、今後の行動の方針を話し合った。

  メイメイは浮浪者のふりを続けて路上生活者らからアリスが何者に拉致されたのかを探る。

  イチとイルハらはもっと幅広く、一般的な市民や時には闇冒険者など反社会的な人種を相手に情報収集を進める事にした。

  3人ともみな、懐にブンタイムシというスズムシとサソリのあいの子のような昆虫をガラスの管に入れている。

  この昆虫は外敵に襲われると特殊なフェロモンをまき散らし同じ巣の仲間に危険を知らせる。そうすると仲間のブンタイムシも騒ぎ始めるので何か応援が必要な時の合図として無線などが発達するまでは重宝されていた。

  現代の警察組織などの捜査と比べると酷く無計画ではあるが、これでも当時の冒険者の中では緻密に行動しているほうであろう。

  実際、冒険者ギルド内で連邦内に重大事件が発生した際に組織的な捜査を行う専門的なパーティがいるのだが、組織的に行動する場合の常で一般の冒険者より初動に時間がかかる。

  今回、冒険者ギルド某支部の考えとして後に控えた激励会の妨害を耳派が目論んでいるという情報を得ていたので、中級以上の冒険者を早期に行動させる事で耳派の計画をけん制する狙いもあったのでイチやメイメイのようにまだ階級の低い冒険者も使ったのであろう。

  ◆

  さて、メイメイであるが路上生活者のふりをして初日にある老婆の路上生活者と関わりを持った。

  彼女はプーシャという兎人族で、旅芸人をしていた。

  元居た一座が旅の最中に野党に襲われプーシャを残して皆死んでしまいプーシャも足を負傷して芸を披露できなくなってしまった為に仕事を求めてインダスバウムに逃げ延び、そのうちに薬物に手を出してしまい加齢とともに真っ当な仕事も得られず最近遂に路上生活者になってしまったと言う。

  彼女はすっかり希望を失っており、寂しそうに老いた耳を垂らしながらメイメイに昔話を話していたという。

  アリスの目撃情報を得たのもこの老婆からだった。

  路上生活者は新入りに対していつも優しいとは限らない。

  そんな中、自分の話に耳を傾けてくれるメイメイがいてプーシャは嬉しかったのだろう。

  秋の夜は冷える。

  それはバルティゴも変わらず、路上生活者にとって厳しい季節の訪れを感じさせた。特に公園の良い場所は先住の路上生活者が確保しているため、メイメイやプーシャのような新入り路上生活者は適当に空いている場所を探して寝床を探さねばならない。

  今日二人が選んだ寝床は既に枯れた草むらの近くにあるゴミの散らばった路面だった。

  メイメイはプーシャに衣服の中に紙屑や布切れを集めて詰め込むと冷えが多少楽になると教えてやったが、老体にはやはり厳しいらしい。

  プーシャは衣服の隠し口からくしゃくしゃになったタバコのような物を取り出すとマッチで火をつけた。

  「やめなさいよ。カプーニャなんか」

  「これでもやらなきゃ寒くて死んじまうよ。あんたもやりなよ」

  カプーニャとは大麻の一種で、その中でも最下等かつ安価なものだが、上手く効果が出れば感覚が鈍り寒さや飢え、不快感を感じなくなる。

  しかし当然健康に良いわけがなく、脳を委縮させ、副作用で異常な不安感を煽り恐怖の発作を引き起こす場合さえある。

  特に物事への意欲を激しく損なう事もあり、日雇い労働でなんとか収入を得ていた者がカプーニャに手を出し、真っ当に働けず路上生活者に転落する例は枚挙に暇がない。

  「いらないわよ。そんなの」

  メイメイとてこの粗悪な薬物に手を出した事がないわけではないが、幸運なことにプラスの効果が出ず、酷い不安と幻覚に恐怖したのが最初の一回だったのでそれ以来吸っていない。

  「あたしだって昔はね、舞台の花形だったんだよ。それが足を怪我して今じゃこんなザマさ。まったく、笑えるねぇ」

  はじめ、プーシャは気分よさそうに笑っていたが段々と悪い作用が出てきたのか酷い不安に襲われ見るからに安定を失い始めた。

  「怖いよ。こんなんじゃ今年の冬にあたしは死んじまうんだ。今だって手足が凍ったみたいに冷たい。助けておくれ。助けておくれよ!」

  「もうやめなさいよ!」

  不安を消すために尚も薬物を吸おうとするプーシャから火のついたカプーニャをメイメイは奪い取って投げ捨てた。

  「なにすんだい!よくもそんな酷いことを!」

  メイメイを突き飛ばしてカプーニャを拾いに行くプーシャにメイメイは虚しさを覚えた。

  メイメイの行動は正しい。プーシャの将来を考えるならば彼女は今すぐにでもカプーニャを絶ち、何か仕事を探すべきだ。

  しかし、希望を失いただただ公園で時間をつぶすしかないプーシャにメイメイが何をしてやれるだろうか。

  何もないではないか。

  これ以上プーシャを見ていると辛くなってしまうので、メイメイがその場を去ろうとした時だった。

  鳥人族、ハーフエルフ、人族の少年がプーシャを囲んだかと思うと急に暴行を加え始めた。

  彼らは浮浪者狩りの少年だった。

  恐らくは彼らは路上生活者よりもマシな生活はしているのだろうが、日頃の鬱憤をこうやって弱者をいたぶる事で晴らしているのだろう。

  他者を自分と同じ生命と思わなければどの種族も恐ろしいほど残忍になる。

  彼らは「助けてくれ、許しておくれ」と身体を丸くして己を守るしかない老いて痩せたプーシャを踏みつけ、その暴力は収まりそうにない。

  「あんたたち!!」

  メイメイは爆発した。

  勝てる見込みなど計算しないまま身近にあったレンガを手に彼らに立ち向かった。

  しかし、メイメイは人族に換算してたったの12歳の少女である。

  愛用の魔道ショットガンこそあればあらゆる脅威に対抗できるが、空手では冒険者ですらない少年に容易に負ける。

  彼らはメイメイからレンガを奪うとあっさり腕をねじりあげ、公園の枯れた草むらに引きずり込んだ。

  「臭いぜ」

  「顔は悪くないよ」

  彼らはメイメイを草むらに押し倒すと野蛮な劣情を発散しようと彼女の襤褸を引き裂いて素肌を露出させた。

  「ふぐううううううう!!むぐううううううう!!ぐううううううううう!!」

  メイメイは口から出まかせに悪態の限りを尽くそうとしたが、ハーフエルフの少年に口をふさがれ言葉が出ない。

  ハーフエルフの少年は薬物か何かの影響か常に涎を垂らしながら興奮した笑顔を浮かべていた。

  人族の少年は決して力自慢ではないのだろうがそれでもメイメイの細い腕を地面に押さえつけて貼り付けにするには十分な腕力を発揮した。

  鳥人族の少年は彼らのリーダーで一番槍というわけか、メイメイの素肌を見て興奮に目を血走らせている。

  ____悔しい!!こんな奴ら、撃ち殺せばよかった!!

  メイメイは後悔した。

  目立つのを恐れて隠したファンクル小型拳銃を使えば良かったのに、それをしなかったので憐れメイメイは残忍な少年たちの慰み者になってしまうだろう。

  彼女を助ける者はいない。

  このような事はこの場所では日常茶飯事なので、反撃を恐れて他の浮浪者は見ないふりをし、メイメイに助けられたプーシャでさえ難を逃れるために既にその場に居なかった。

  ____殺してやる!!殺してやる!!絶対にこいつら、殺してやる!!

  メイメイは下穿きを剝ぎ取られそうになりながらも激しい殺意の浮かんだ目で少年たちを睨み続けた。

  しかし道徳というものをこの町のゴミ捨て場に捨ててしまった少年たちにはその視線すら嗜虐を煽る刺激になったようで、既に粗末なズボンを半分降ろしていた。

  事が終わった後、少年たちはメイメイを殺すか、そうでなくても商売の為に自由を完全に奪うだろう。

  メイメイの冒険はこんなつまらない事で終わってしまうのか?

  しかし、メイメイを知る者は口をそろえてこう言う。「タオ・メイメイは悪運が強い」と。

  「あなたたち!!乱暴は許さないわよ!!」

  メイメイはいつかどこかで聞いたような声が少年たちの背後から聞こえてくるのを聞いた。

  「まずい!!自警団だ!!」

  少年たちは声の主である銀髪の少女を見るとメイメイから離れてその場から逃げ出した。

  実はプーシャは確かにその場から逃げたが、偶然この街の浮浪者を守っている自警団を見つけ助けを求めたのだった。

  メイメイは露出した素肌を隠す為に襤褸を整え、ついでに零れ落ちたブンタイムシのガラス筒を慌てて隠した。

  「あなた、大丈夫?ハーフエルフね?新入りかしら?」

  自警団の少女はメイメイの身を案じ、そして同じハーフエルフの少女を助けた事で喜びを感じているようだった。

  「ありがとう。助かっ____________あなた」

  礼を言おうとしたメイメイは声の主の顔を見ると言葉を失った。

  それはメイメイを助けた銀髪の少女も同じようであった。

  「メイメイ?あなたタオ・メイメイ!?________あぁ!!こんなことってないわ!!」

  二人はお互いの顔を見て喜びに叫んだ。

  「プルシェニカ?あなたプルシェニカなの!?」

  同じ孤児院で育ち、幼少期を共に過ごした無二の親友タオ・メイメイとプルシェニカが再びインダスバウムで再会した時、既に歴史の歯車は彼女達の知らぬところで回っていた。