9話 「シーナともやらせてやる!!」 バルティゴ鉄道乗っ取り事件14
「な、なんて人達…………」
アンバー・フォックスとグレイ・ベアーが部下たちを自らの手で始末する一部始終を見ていたシーナは言葉を失った。
彼女は強盗団の悲鳴を聞き、すぐさま偵察に向かったのである。
シーナとて冒険者である。
今まで人の心のない犯罪者を見た事がないわけではないが、ここまで残虐な人間は初めて目にしたのだろう。
「イ、イチさんに伝えなければ」
シーナはあまりの邪悪な光景に吐き気を催しながらイチが閉じ込められている一等貨物車へ走り出した。
◆
「…………狂人共が」
イチは息を切らしたシーナの報告を聞いて思わず自分の下唇を吸っていた。言葉にできない憤りを感じた時に出る癖である。
常軌を逸した連中だとは思っていたが、その逸脱っぷりはイチの想像を軽く超えていた。
何のために自分で自分の仲間を皆殺しするのか。
無論、グレイ・ベアーとアンバー・フォックスも意図があってそうしたのだろうがイチにはとうてい理解できそうにない。
「イチさん…………」
小さくなったシーナの目が言外に「逃げましょう」と言っている。無理もない。凶悪な魔法を使う二人の魔法使いを相手にするにはあまりにも分が悪すぎる。
イチもできれば逃げると言う選択肢を選びたかっただろう。
しかし、イチは逃げる為の方策を考える一方でまた別の事を考えていた。
敵の戦力が思いもかけず大幅に減少したのだ。
無論、グレイ・ベアーとアンバー・フォックスは厄介だ。
しかし、たとい驚異的な魔法使いであろうが不意を撃てば一瞬で無力化できる。
イチはそういう考え方をする女だった。
「シーナ。敵の魔法使いは、どういう魔法を使う?」
「イチさん! 戦うおつもりですか!? お言葉ですが、見たところあの二人は魔法戦に相当慣れているように思いました。いくらイチさんとは言え、せめて私が万全だったら……」
しかしイチはシーナの言葉に被りを振った。
「まだ閉じ込められている乗客がいるんだ。それに、ここから逃げ出そうにもこいつがいる」
そう言ってイチは右手のテオドールをシーナに見せた。
「俺を忘れて好き勝手話すじゃねえか。この女の言う通り、ただで逃がしてやるわけにはいかん。俺様の命がかかってるからな」
「イチさん。お辛い決断ですが、いっそ右手を切り離すという選択もあるのではないですか? 私の魔法なら、上手くすれば切り飛ばした右手を後後繋げるかもしれませんし」
シーナも覚悟が決まっている。普段呑気なシーナがここまでの事を言うのにイチは驚き苦笑した。
「剣呑だな。それも選択肢のひとつとして考えるがなんにせよ、ここから出よう。仮面のどちらかが見張りに着いたらそれこそ厄介だ」
「おいおい。ちょっと待てや。俺の事を忘れて話を進めてんじゃねえぞ」
戦場の思考を研ぎ澄ませていたイチに水が差される。テオドールである。イチは呆れてため息を吐いた。
「いい加減意地になるな。もうお前も私も運命共同体なんだ。それともここで死にたいか?」
「ギリギリまで粘って魔法を解除して身体に戻る。隙を突いて俺だけ脱出する事もできると思うが?」
「それならそれで今すぐやってくれ。私も両手が自由に使えたほうが遙かに良い」
「だが、今はそのタイミングじゃない」
「走ってる列車から飛び降りるつもりか? よほど上手く飛び降りなけりゃ怪我じゃ済まんぞ。そんな度胸、お前にあるのか?」
「まず第一に、お前の偉そうな態度が気にくわない!」
話は平行線に入りつつある。シーナはどうにか話を建設的な方向に持っていこうと何かを叫んでいるが、声が小さくてイチとテオドールに気が付いてもらえない。
このままテオドールの協力を得られずこんなつまらない事でふたりの冒険は終わってしまうのだろうか?
しかし、業を煮やしたイチはとんでもない事を口走った。
「わかった! やらせてやる! シーナともやらせてやる!!」
テオドールは言葉に詰まり思わず聞き返した。
「なに!? やらせるって、何を………」
「セックスだってば! いちいち聞くんじゃない!!」
こうしてイチはテオドールの協力を取り付ける事に成功したのである。
当然シーナは怒り、機関銃のようにイチを非難したのは言うまでもない。