●
落ち着く照明。シックながらも豪奢な誂えのソファに腰を深く落ち着かせ、牛獣人はとあるクラブにいた。
「そんでだ! そこで俺のタックルが炸裂ってな!」
そう語れば、キャーッと黄色い声が上がって「カッコいい」と言葉と共にパンパンに張った太腿に手が触れる。胸元を大きく開いたドレスで前かがみになるメスの鹿獣人の豊かな谷間がさり気なくその太い腕に押し付けられた。
「流石っすよね、フォロスさん。ラグビー界の星っす!」
「ねー、カッコいい」
ホステスの接触に知ってか知らずか、チームメイトは意気投合している別のホステスに体を預けられて満更でもないような笑みを浮かべている。
「……悪い、ちょっと手洗い借りるぜ」
フォロスはしなだれかかるメスの体を押し倒したくなる衝動を抑えながらそう言えば、雌鹿は黒服に合図を送ってトイレへの道を誘導させる。
酔った足取りで、その場所を目指しながら、チームメイトを振り返る。あれは、この後アフターにでも入って、しっぽりと交尾に洒落込むのだろう。
インタビューを受けたアナウンサーと仲良くなってそのまま……なんて話もある。分からない話じゃない。
要するに、美人な雌に褒められ上機嫌になった選手は好意を抱きやすい。そして、そのまま食事にでも誘い、意気投合すればあとは決まっている。適当なホテルで熱い試合を繰り広げるだけ。
「……下らねえ」
フォロスは硬派ぶったセリフを吐きながら小便器の前に立つ。正直、雌達から熱い視線を受ける事は少なくない。だが、その後上手くベッドまで事を進められた経験は殆どなかった。
オスが好きな訳でもない。当然、メスが好みで、胸がデカければ尚良い。好みのメスから言い寄られる事は大学時代から数え切れない程経験している。だというのに、未だ一度も交尾をしたことがない。その理由を彼はまさに今文字通り、
手にしていた。
排尿後の余韻に体をブルリと震わせたフォロスは、ズボンの窓から取り出した雄茎を振って滴を散らす。
「……はあ」
シャツを捲り上げた腹の下、ズボンからひょっこりと顔を出した雄としてのシンボルを指先で摘む。
摘めてしまう。
赤茶色の薄い毛に包まれたそれは、まるでどんぐりのように指の間で力なく挟まれている。先端で余った包皮に溜まっていた小便が指先に染み出したのを彼は苦々しげに見つめていた。
彼の股に収まっているその竿は、見るからに小さいのだ。
フォロスの剛体との比較で小さく見えるのだという言い訳も通じないほど。発育の良い中学生程度にも負けてしまうのではないかというような大きさしかない。
更に言えば、勃起をしても先端まですっぽりと包んだ皮は剥けず、手で剥こうにも途中で痛みが走って殆ど露茎しない、真正の包茎だった。
中学時代は短小包茎といじめられていたフォロスはラグビーと出会い、自信を手に入れていった。そして、優勝した試合で個人賞を勝ち取ったその夜、熱が冷めぬままマネージャーともつれ込んだホテルのベッド。柔らかなシーツに包まれながら前戯を経て、フォロスはその体を晒した。
その瞬間の彼女の表情が忘れられない。
「く、ぁ……」
フォロスは酒の匂いの中で鮮烈に香ったホステス達の匂いと押し付けられる柔らかな胸の感触を思い返し、無機質な小便器の壁に向けてその勃起しきった漲りを扱き上げる。酒のせいか、試合の興奮が残っているのか。駆け上るように射精感がこみ上げてきた。
8cmもない皮を被りきった短い棍棒から先走りを垂らしている。
今、小便器の無機質な白い壁が見つめるものと同じそれを、マネージャーはじっと2、3秒見つめていたかと思うと、
繕ったような乾いた笑みを浮かべてフォロスにキスをした。
「私……」
そして、それまでの色めいた声は鳴りを潜め、失笑とも取れる穏やかな声色でこう言ったのだ。
「やっぱり、スター選手の貴方とそういう関係になるのは駄目だと思うの」
それはマネージャーとしての分別ある言葉にも聞こえるが、フォロスはそうではないと知っていた。他のチームメイト達や同じくスター選手だった先輩にも彼女は抱かれているということを。
だから、その言葉の真意はすぐに分かった。
――そんな短小包茎の相手なんてしていられない。
「ごめんね」と言ったあの見下すような視線を忘れられない。
「……ぐ、っ……ぅぁッ」
ビュグ、と勢いよく陶製の小便器に白濁が弾けた。
「はぁぁ……、交尾してぇ……」
それからというもの、誤魔化すように欲を発散してはその先に進むのを自ら拒んでしまっている。
呻くように小さく呟く。後ろに白濁を流す水流の音を聞きながらトイレを出たフォロスは、俯いた視線の端に人影を捉えて、慌てて視線を上げた。
「あ……っ」
そこにいたのは確か、フォロスの卓にヘルプで着いていたホステスだ。青と白のドラゴン、他のホステスよりも胸がデカい彼女はフォロスにとって一番の好みではあったが、席が遠く絡みのない相手でもあった。
どうしたのか。と疑問を浮かべたフォロスに、困ったように彼女は笑う。
「少しお手洗いが長い様子でしたので……」
それで心配になったのだという。優しい営業だ、とフォロスは心の中で嘲る。鱗色に合う黒のドレス。見慣れた毛皮と違い弾力感のある肌。その豊かに膨らんだ胸はさぞや抱き心地が良いだろう。その体に似合う包容力のある物腰、気遣い。
くすんだスターの鈍い重みが胸でちかちかと嫌な痛みを発している。
(そんで、コイツも俺のモノを見た瞬間、見下してかかるんだろうな)
穏やかに笑ってみせるこの竜人とて、俺が雌を喜ばせもしない短小と知れば鼻で笑うだろう。簡単に剥がれる安い化粧だ。
そう思えば、フォロスはどれだけ脆い仮面なのか、気になってしまった。そして。
「よお、この後、空いてるか?」
まるで自ら破滅を望むかのように、フォロスはそんな事を口にしていたのだった。
●
「ん……っ」
部屋に入るなり、フォロスは竜人の唇を奪っていた。酒に酔った頭で、柔らかな温もりを求めて舌を乱暴に絡みつかせる。
アフター用に着替えた彼女を太い両腕で捕縛したフォロスは唇を奪いながら、その豊かな胸を鷲掴みにする。沈み込む柔らかさ、瑞々しさのある弾力。掌に感じる重み。
「ぶふ、ぅうッ……ふーっ」
「んぁ……っ、フォロスさん」
鼻息を荒くフォロスは、押し倒した彼女を寝かせたままベッドの前でシャツを乱雑に脱ぎ捨てると、ズボンを下着ごと押し下げた。
メスの柔らかさと温もりにフォロスのそれは既に最大限にいきり立っていた。天を突くそれは、しかし、やはり「大きい」という定番の褒め文句も出せぬような小さいものだ。
それをフォロスは見せつける。どうだ、笑えばいいと。ヒクヒクと脈を打ち、メスの体を知らぬ皮を被りきった矮茎とそれに見合った小ぢんまりとした種袋を晒す。
「……ぁ」
と雌竜は小さく声を零す。
そうだ、お前も俺をバカにするんだろう。とまるで勝ち誇るようにして竜人を睨み下ろしたフォロスに、彼女はキスをしていた。
まるで、大学時代の記憶をなぞるような状況にフォロスの全身が緊張して強張っていた。さあ、と途端に虚仮威しの愉悦が波を引いていく。
「フォロスさん」
いつかのマネージャーの拒絶の言葉が脳裏を過る。身構える。だが、次に彼女が取った行動は、暗い笑みを浮かべたフ
ォロスが予想だにしていないものだった。
彼女は、唇を離してからその服を脱ぎ始めたのだ。
「キモいですよ、……私の裸」
フォロスは眉を顰めて、その行動を見守っていた。豊満な胸を包む黒いブラ、だがフォロスの視線はそこにはなかった。
「……」
フックを外したスカートを押し上げる彼女の腰にある巨大な何か。スカートが落ち、その正体が現れる。
「ね」
と、彼女は隠す様に身体を抱いて上目遣いにフォロスを見つめた。
彼女の腰にそびえるモノ。毛もなく筋を刻む陰唇の上を少し捲り上げるように突き出た角。
紛れもなく、男根だった。
それも血脈がバキバキと浮かび上がる玉付きの巨根。勃起しても皮のせいで柔らかな感触の残るフォロスとは正反対。まさしく棍棒と呼ぶにふさわしい様な逸物が漲っていた。
「……キモいでしょう?」
確かめるように雌竜が呟く。どう返事をしたらいいのか迷う内に、フォロスの身体は動いていた。唇を重ねる。舌を絡ませながら雌竜を抱きしめながらベッドの上に押し倒した。
先程よりも優しく、フォロスは大きな手にも収まりきらない竜胸の先端を指で刺激する。くちゅ、ぐちゅ、と舌が絡み合う音が響き、口を離せば互いの間に泡立った濃厚な糸が引かれる。
「キモく、ねえよ」
そう答えると、彼女は一瞬目を丸くした後嬉しそうに微笑みを返し、そして。
「んく……っ!?」
ゴリ、とフォロスの雄茎に巨根が押し付けられた。ズリズリと雌竜が腰を動かせば、その凹凸がフォロスの包茎の裏側を刺激してくる。
見下ろせば、まるで子供と大人で兜合わせをしているような光景が見えた。 テレビに出れば途端に視聴率が跳ね上がる様なスター選手が、情けなくも精一杯に膨らんだ包茎を雌の巨根に撫でられ奉仕されている。
時折チームメイトがふざけて互いの大きさを比べあっているのを想起するも、そんなバカバカしい戯れよりも下らない光景だろう。だというのに、フォロスはそんな光景に酷く興奮を覚えていた。
幅広の舌で竜の胸を舐めあげながら、フォロスは下に指を運んで聳える幹の根本、その柔らかな洞窟を撫でた。
「良い、か?」
つぷり、と指先が沈む。熱い体内の温度。それを感じながらフォロスは問いかけた。ただ童貞を捨て去りたい、という欲求ではない。彼女が良いと、そう何故か思ってしまったのだ。
「はい、私も……フォロスさんと交尾、したいです」
返る言葉は紛れもなく、肯定だった。
●
今日だけで何度心を挫かれただろうか。フォロスは内心自嘲しながら、敏感な雄茎を竜のぷにぷにとした手で扱われる刺激に腰を震わせていた。
薄いゴムの皮膜を竜は慣れた様子で纏わせていく。
「……悪い」
自分で着けようとして失敗した残骸が二つ程床に転がっている。物は持っていたが、コンドームを着ける段階まで至っていなかったフォロスにとっては、試しに着けて以来だったのだ。
緊張もあってか、上手く装着出来ず彼女に実演も兼ねて教えられている所だ。
「ふふ、悪くないですよ……ほら、これで大丈夫です」
薄い黄緑色のゴム。その先端の膨らみには既に先走りの滴が溜まっている。
「フォロスさん」
根本で丸まったゴムの輪を見つめていたフォロスの手を引いて、彼女がベッドに誘う。二人が伸し掛かる圧にベッドのスプリングが軋んで二人の身体を揺らして擦り合わせる。
「……、挿れ、て、良いんだな」
フォロスは雌竜の目を少しの変化も見逃すまいと見つめる。だがフォロスには彼女の目に、嘲りや偽りは見つけられなかった。
その代わりに、彼女は掲げた両足をフォロスの腕に託して、濡れた秘部を拡げてみせた。
「ほら、ここ……」
彼女は自らの竿を持ち上げて、その根本へとフォロスの雄肉を導いていく。二重の皮に包まれた先端が、蜜肉の洞穴を探し当て。そして。
「んぐ、……挿入、る……っ」
「ぁ……んっ……ぅ」
ゆっくりとその中へと沈み込んでいった。
「……っ、んぐッ」
瞬間、白く弾ける様な感覚がフォロスの全身に行き渡る。火花が雌竜の熱い体内に触れた面から広がっていく様な快感。きゅう、と締め付ける膣肉に得も言われぬ多幸感に苛まれながら、これが交尾なのかと感慨が生まれる。
今すぐに精を放ってしまいそうだ。いや、だが、この快感を簡単に手放してなるものか。本能の葛藤が渦巻く中で、雌竜の手が頬を撫でた。
「好きに、動いて……良いですよ」
その瞬間、彼女を疑っていた感情は全て消え去っていた。無意識に抑えていた欲求が身体を動かす。
それまでの辿々しさなど欠片も残ってはいなかった。
身体を動かすセンスに関しては、自他ともに認める最高峰のプレイヤーだ。正常位でのピストンのコツもすぐに掴み、まるで熟練のようなスムーズな腰つきで自らの雄茎を膣肉の中へと突きこんでいく。
「ん、あ……っ、気持ち、いいっ……です……! フォロスさん、すご、……ぁあッ」
甲高い音が部屋中に弾ける。それに合わせて、淫らな嬌声が響いていく。自分が突き入れる度、跳ねるように揺れる乳房に口先を誘われて吸い付けば、代わりにというように雌竜がフォロスの胸芯を撫でるように刺激する。
そんな微細な刺激も、フォロスを絶頂へと強く後押ししていた。
「ぶも、ぉお……っ、んぐ、も……ッ」
全身の筋肉を盛り上がらせながら、今にも種をぶち撒けてしまいそうな快感を堪える。その間も蜜肉を穿つ事は止めない。
「やべ……っ、良くて、とまんねえ……ッ」
己の腰つきで、腕の中の雌が佳がっている。その実感がそれを止めさせてはくれなかった。
抑えが効かなくなる寸前で快感をコントロールする。いや、既に幾度か足を踏み出してしまっているのだが、それを力付くで押さえつけて達する直前にしがみついているのだ。
だが、初めての交尾。雌竜からの与えられる刺激も相まって、快感はフォロスの抵抗を押し切るほどの暴威となって、体の中で暴れ狂う。
限界は、程なくして訪れた。
「クソ……っ、出る……イク、ッ、イクぞ……ッ!」
腰の動きを早め、瓦解する忍耐の壁を感じ取ったフォロスが吠える。
「ん、っ……そのまま、出して……ッ、ナカで、イってっ……!」
「モぉ、ッぐ……ぉオおおオオぉォッ!!」
雄々しい咆哮と共に、装填した残弾を全て消費する勢いでゴムの溜まりへと白濁が飛び出していく。
薄いゴムを突き破りそうな勢いで噴き出した熱流。ゴム越しにそれを感じながら雌竜は、フォロスの頬を優しく撫でる。
「……カッコいい」
散々言われてきたセリフ。だが、深く響くその言葉を耳にしながら、フォロスはゆっくりと彼女の胸に顔を埋めていった。
●
それから、彼女とどんな話をしたかは覚えていない。
「ん……」
フォロスは心地よい倦怠感の中で目を覚ました。
カーテンからは朝日が差し込んでいる。微かな重みに腕を見れば、隣には昨夜の竜人がフォロスの腕を枕に寝息を立てていた。
身体に触れる彼女の豊満な肉体。昨日の情事。それを如実に思い出し、盛大に精を放ったというのに徐々に反応する雄の性に呆れを覚えていると、いつの間にか目を覚ましたらしい竜人と視線が噛み合った。
「よ……よお、おはよう」
と、ぎこちなく声をかける。
「フォロスさん……おはよう、ございます」
昨日は酔いに任せたコミュニケーションだった反動か、妙にぎこちない空気が漂う。そんな中、ふとフォロスは目の前の女性の名前を覚えていない事に気が付いた。
「えっと……名前、なんだっけか」
覚えていない事に良心を傷ませながら問いかけたフォロスに、彼女は口を開いたまま数秒考えた後、漸く声を発する。
「フロリアです、……可愛い名前で似合わないでしょう?」
返ってきた名前は、聞いたはずの源氏名ではなかった。きっとそれは彼女の本名なのだろう。それを伝えるという事の意味を自覚しながら、フォロスは嫌だとは思わない。拒みたいとは決して思わなかった。
「そんな事ねえさ」
後ろめたそうに笑う彼女――フロリアの頬に唇を落としたフォロスは、彼女の手に指をそっと絡めて彼女の身体を抱きしめた。
そこには確かに、煌めくスターの輝きが宿っていた。