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道物語(ロードストーリー)第十三幕 フォーゼリア編

  ラート村にて

  ティミス「私たちも……そろそろ、答えを出す時かもしれないわね。」

  アルベルト(少し戸惑いながらも、真剣な目でティミスを見る)「あ、ああ……俺も、ずっと考えてた。俺たちは、たぶん――もう、十分わかってる。」

  ティミス(微笑んで)「気づかないふり、もうやめましょ?」

  アルベルト(決意を込めて)「ティミス、俺は――お前が、好きだ。誰よりもな。」

  ティミス(頬を染めながら)「うん……私もよ。アルベルト。」

  しんしんと降り積もる雪。

  汽車の揺れに身を預けながら、二人の心はようやく一つになっていた。

  言葉よりも温かな手のぬくもりが、互いの想いを確かに伝えていた。

  アルベルト「ありがとな、グランジャス……助かる。」

  ティミス(照れくさそうに)「……お邪魔します。」

  アルベルトとティミスが部屋に入ると、グランジャスはそっと扉を閉めて、静かに書斎へ向かった。

  グランジャス(独り言)「……ようやく、か。」

  棚の本を何気なく手に取り、ふっと笑みをこぼす。

  グランジャス「こうして一つずつ、繋がっていくのは……悪くないな。」

  窓の外では雪が静かに降り続けていた――静かで、穏やかで、どこか温かい午後だった。

  アルベルト(少し照れながらも堂々と)「……ああ。俺なりに、ちゃんと向き合ったよ。」

  ティミス(うなずきながら微笑む)「私も、ちゃんと伝えたわ。思ってること、全部。」

  グランジャス(頷いて)「……そうか。よくやったな。」

  しばし静けさの中にある余韻が流れる。

  グランジャス「これでまた一歩、前に進んだな。それぞれが、自分の想いを背負って。」

  アルベルト「ああ……もう迷わない。あいつが隣にいてくれりゃ、俺は何でもやれる気がする。」

  ティミス(少し顔を赤らめながら)「……もう一人で背負わせないから。」

  グランジャス(微笑み)「ふたりとも、いい顔してる。……あとは、信じて進むだけだな。」

  外は雪が止み、澄んだ空に朝日が差し込んでいた。新しい一日が、確かに始まっていた。

  駅に行き列車に乗りフォーゼリアに向かう

  グランジャス「汽車で行こう。雪山までは距離があるし、歩きじゃ日が暮れる。」

  ティミス(頷きながら)「そうね。荷物も多いし、みんなも疲れが残ってるだろうし……。汽車なら途中で休めるもの。」

  アルベルト「助かるぜ、おっさん。正直、歩きは勘弁してほしかった。」

  マル(笑いながら)「汽笛と雪景色……いい詩が浮かびそうですぞ。」

  シルクー(切符をぎゅっと握りながら)「えっと……座席、窓側がいいな……雪、見たいから……」

  カラスト「いいじゃん、俺も隣に座るよ。」

  リセリナ「汽車での旅なんてロマンチックね……マル、手でも握っておきましょうか?」

  マル「リ、リセリナさん、せめて出発してからにしましょう……!」

  ホルスター「弁当持ったか?冷えるからスープもあるぞ。」

  ルプス「胃に優しいやつな。お前ら、暴飲暴食はするなよ?」

  シーフェ「気圧変化で気分が悪くなる子もいるから、酔い止めは配るわね。」

  グランジャス(ポケットから切符を取り出して)「さあ、みんな乗るぞ。汽車はもうすぐ出る。次の冒険の地――フォーゼリアまで、ひと眠りしていこうぜ。」

  汽車の汽笛が鳴り、白銀の世界へ向けてゆっくりと走り出す。

  雪舞う車窓の先に、新たな謎と運命が待ち受けていた。

  ルプス(マフラーをぐるぐる巻きながら)「うぅ……俺も正直きつい。薬草も凍ってるし採取大変そうだな。」

  シーフェ(冷静に頷きながら)「気温−10度前後かしら。低体温と凍傷に注意が必要ね。みんな、手袋は外さないで。」

  リセリナ(吐く息を白くしながら)「空気が澄んでて綺麗だけど……この土地、魔力の流れが普通じゃないわ。警戒して。」

  マル(毛皮のポンチョを羽織ってぶるぶる震えながら)「ひぇ〜〜!寒さが骨にしみますぞ〜!あったかい鍋が恋しい〜!」

  ホルスター(雪を踏みしめながら辺りを見渡し)「村の外れに集会所らしき建物があるわ。まずはあそこに挨拶かしらね。」

  メルディス(グランジャスの腕にしがみついて)「ダーリンの体、あったかい♡ しばらく離れられないかも……」

  カリン(くすっと笑って)「ご主人様、私も寒いから寄りかかってもいいですか〜?」

  グランジャス(肩をすくめながら苦笑い)「重ね着より愛情のが効くとはな……ま、いいけどよ。風邪ひくなよ?」

  ティミス(真剣な目で先を見つめながら)「この寒さの中で暮らしてる人たちがいるってことよね。物資の支援も考えましょう。」

  カラスト(魔導機械の雪かき車を見て)「あれ、魔力で動いてる雪かき機だ。…ここ、想像以上に進んでるかもね。」

  シルクー(雪に足を取られつつ)「うぅ……こんな所で凍ったら、虫には致命的……カラストくん、手ぇ握ってもいい……?」

  カラスト(照れつつも手を差し出し)「……うん。温め合おうか。」

  白銀に覆われたフォーゼリアの村に、ラート村の仲間たちが足を踏み入れた。

  寒さに凍る風の中でも、一行の結束と温もりは、確かにそこにあった──。

  アルベルト(雪道に貼られた掲示板のビラを見つけ、眉をひそめながら)

  「……なんだこれ……ローレスとの戦争に備えて徴兵、だと?」

  ティミス(ビラを覗き込んで)

  「戦争準備って……ここ、フォーゼリアの人たちはそんな動きをしてたの?」

  グランジャス(ビラを受け取り、じっと読んでから唸る)

  「“ローレスとの対決は避けられぬ”……“若者たちよ、国の未来のために剣を取れ”か……この文体、かなり煽ってやがるな。」

  ルプス(冷静に読みながら)

  「ローレスといえば……かつての公害都市、そしてあの瘴気の発生源。確かに脅威ではあるが……戦争となると話は別だ。」

  シーフェ

  「この手のビラ、情報統制の一種よ。住民の感情を操作して兵を集める。相当追い詰められているのかもしれないわ。」

  ホルスター(険しい目で)

  「戦争の準備より、瘴気や環境破壊の根本をなんとかする方が先だろうに……」

  カリン(グランジャスの袖を引っ張りながら)

  「ご主人様……もしこの村にも徴兵の命令が来たら、私たち……」

  グランジャス(黙ってビラを丸め、雪の中に突き立てて)

  「行かせねえよ、絶対にな。誰一人として。」

  メルディス(きっぱりと)

  「ダーリンのために戦うならともかく、そんな大義名分のためには剣を取らないわ。」

  マル(ビラの文字を読みつつ)

  「ふむ……これは“国家の存亡”とか書いてますが、どうも臭いますな。裏に別の思惑がありそうな気がしてきますぞ。」

  カラスト(ビラの下部の印章を指差して)

  「これ、王国の封印じゃない。つまり、フォーゼリアだけじゃなく王都全体が動いてるってことかも……」

  シシオ(腕を組みながら)

  「まずはこの村の長や守備隊と話してみよう。内部の情報を知ってるやつがいるはずだ。」

  グランジャス(真剣な顔で)

  「そうだな。ローレスとの戦争を本気で考えてるんなら、止めなきゃならねえ。こっちは“あの遺跡”で何があったか知ってるからな。」

  グランジャス(腕を組み、白い吐息を吐きながら)

  「軍事国家ローレスと魔導国家フォーゼリア……なるほどな。思想も成り立ちも違いすぎる。そりゃあ、反発もするか。」

  ティミス(やや警戒しながら)

  「片や科学と効率重視、片や伝統と魔力の制御。根本から違うわね。交わるにはあまりにも遠い。」

  マル(帽子を押さえながら、ぽつりと)

  「……そういえば裏の噂ですが、“魔法”と“化学”を融合させた“魔科学”なるものが、両国の一部研究機関で開発されていると耳にしたことがありますぞ。」

  ルプス(目を細めて)

  「魔科学……確かに理論上は成立しうる。魔力の不安定性を化学で抑え、精度と安定性を補うという発想だ。」

  シーフェ(頷いて)

  「魔力を媒介にした反応式……最近じゃ“霊素転換炉”なんてのもあるわね。魔法で生まれたエネルギーを現実世界の動力に変える試み。」

  グランジャス(険しい顔)

  「ローレスがそれを手にしたら、魔力の再現性を持った兵器を量産する可能性があるってことか……フォーゼリアにとっては、禁忌の領域だろうな。」

  カラスト(考え込むように)

  「どっちも、自分たちの“正しさ”を証明しようとしてるんだね……でも、それで人が傷つくのは違うと思う。」

  ホルスター

  「“力”を制御しきれないまま進むのが一番危険だ。制御不能な兵器や術式が野に放たれたら……今の瘴気なんて比じゃないかもしれねえ。」

  メルディス

  「ダーリン……魔科学の研究施設って、もしかしてあの遺跡の奥に繋がってる可能性あるんじゃない?」

  グランジャス(目を細め、静かに頷く)

  「ああ……思い当たる節がある。“瘴気の根源”が人工的なもんだったとすれば……もはや遺跡じゃなく“研究所”だった可能性があるな。」

  カリン

  「じゃあ、ローレスがそれを使ってるなら……いずれ、この世界そのものが……」

  グランジャス(皆を見渡して)

  「……戦争の火種は既に撒かれてる。だが、俺たちはその火を消しに行く。力じゃなく、心でな。」

  シシオ(腕を組みながら、真剣な表情で)

  「魔科学はな……とにかく**“消費”が激しすぎるんだ。火薬、希少金属、時には生物資源まで使われる。

  そして何より──膨大な魔力**が必要だ。」

  ルプス(頷きつつ)

  「理論上、魔力を“触媒”ではなく“燃料”として使うんだ。つまり、魔法使い一人分の魔力を、一発の弾に変えることすらある。

  だから“非魔法使い”が“魔法的兵器”を扱える……その代わり、周囲の自然環境も生態系もガタガタになる。」

  マル(眉をひそめて)

  「まさに“燃やす魔法”ですな……扱い方を誤れば、国家ごと焼き尽くしかねませんぞ。」

  グランジャス(険しい顔で、視線を遠くにやり)

  「つまり、強さと引き換えに、あらゆるものを“代償”に変える技術ってわけか。

  それをローレスが使ってるなら……戦場は、もう“地獄”と同義だな。」

  ティミス(苦い顔で)

  「燃料の供給を維持するために、きっと“人間”や“生き物”すら……」

  ホルスター(口を噤みながら低く言う)

  「だから遺跡の中、あれだけの公害と異形が生まれてたのか……廃棄物の処理が間に合ってなかったんだ。」

  カリン(不安げな顔で)

  「もしそれが広がったら……ううん、止めなきゃ、ダーリン。ご主人様。」

  グランジャス(小さくうなずいて)

  「ああ、放っとけば世界そのものが蝕まれる。

  だが、技術そのものは“使い方”次第だ。俺たちの知恵と勇気で、奪うためじゃなく、守るための道に変えてやろう。」

  シシオ(ニカッと笑い)

  「おう、そう来なくっちゃな。火薬と鉄だけじゃ未来は作れねえ。

  ──俺たちの手で、別の“魔科学”の在り方、見せてやろうぜ!」

  アルベルト(雪の降る街並みを見渡しながら)

  「……この街、なんだかドルセニアに似てる気がするな。建物の雰囲気も、空気の冷たさも……あの城下町を思い出す。」

  グランジャス(微笑を浮かべて)

  「ああ、石造りの建物と、広い通りのせいだろうな。

  フォーゼリアの首都は魔法の利便性で発展したが、基本の構造はうちの影響も少しはあるかもしれん。昔、外交で似た技術を共有したからな。」

  カラスト(興味深そうに)

  「魔法で自動的に動く仕掛けはこっちが進んでるけど、人の暮らしの作りは似てるね。どっちも“寒さ”に順応してるのがわかるよ。」

  シーフェ(冷えた手を温めながら)

  「でも、ここの方がどこか張り詰めた空気ね……防備の強さと引き換えに、自由の匂いが薄いわ。」

  ティミス(頷きながら)

  「兵士も多いし、通りの監視も厳しい。

  “いつ何かが起きてもいいように”って、そんな緊張感を感じるわ。」

  ルプス(警戒しながら)

  「それだけローレスとの戦争が近いということだ。

  街の穏やかさの裏に、爆発寸前の圧がかかっている……気を引き締めろよ、みんな。」

  グランジャス(街を見上げながら小さく)

  「似ていても、同じじゃない。

  ──戦の影が落ちる街と、仲間が笑って過ごす街じゃ、似て非なるものだ。」

  アルベルト(決意のこもった目で)

  「ああ……俺は、あのラート村の“笑い声のする日常”を守りたい。

  だから、進もう──この街の真実と、その先にある“選択”のために。」

  兵士(鋭い目を光らせて)

  「……そこの旅人、貴様らはどこから来た?」

  アルベルト(一歩前に出て)

  「俺たちはラート村から来た。目的は観光と、少し調査だ。」

  兵士(眉をひそめながら、持っていた巻物に目を落とす)

  「ラート村?──徴兵対象地域だ。

  **帝国との戦争が間近に迫っている。貴様らも軍隊に加わってもらう。**それがこの国の法だ。」

  グランジャス(静かに歩み出る。その目には威圧と余裕が宿る)

  「……却下だ。」

  兵士「なに……?」

  グランジャス(腕を組みながら)

  「我々は国家間の外交権を有する。私はドルセニア王国の正統な貴族、グランジャス・ラーブス・ドルセニア。

  旅の目的も、立場も、一兵卒として扱われる筋合いはない。」

  バイラス(フードを少しずらしながら横に立つ)

  「フォーゼリアの法が全てと思うな。我らは独立自治権を持つ一団、勝手な徴兵など認めない。

  ここで事を荒立てたくないなら、今すぐ引け。」

  兵士(たじろぎながら)

  「……っ、貴族……外交特権……」

  (後ろの兵士に小声で)「本部に確認を……ああ、はい……」

  グランジャス(ゆっくりと上着の内ポケットから金細工の紋章を取り出し、兵士の目の前に突き出す)

  「──これでいいか? 侯爵の紋章だ。」

  兵士(一瞬にして態度を変え、目を見開きながら)

  「こ、これは……! 確かに……フォーゼリアでも通用する侯爵位の紋章……っ。」

  (即座に深く頭を下げる)

  「大変、失礼いたしました……!!」

  グランジャス(冷ややかに見下ろしつつ)

  「ふん、無理もない。だが次からは**“格”を見誤るな。**」

  兵士「はっ!承知しました(敬礼)」

  グランジャス(肩をすくめながら)

  「いいさ。**国が焦っているのも分かる。**だがな、巻き込まれる側としてはたまったもんじゃない。

  今度から“旅人”に刃を向ける前に、よく目を凝らせ。」

  アルベルト(ため息交じりに)

  「やれやれ、旅に出るとやっぱりひと悶着はあるな……」

  バイラス(静かに頷いて)

  「だが、これで一つ確信が持てた。──この街、本当に限界に近い。」

  (そこへ──)

  カリン(頬を赤らめながら、ぴょんと跳ねて)

  「ご主人様♡」

  (そのままグランジャスの腰に抱きつく)

  メルディス(にっこり笑いながら、しなだれかかるように)

  「ダーリン♡」

  (腕にしがみついて、愛しげに見上げる)

  兵士たち(完全に固まる)

  「(……あの侯爵様、二人も奥方を……? いや、これはもう貴族様の世界だ……)」

  (視線を逸らしながら一斉に後退する)

  アルベルト(頭をかきながら)

  「……おっさん、すげぇな。」

  グランジャス(笑いながら)

  「**当然だ。俺は“殿上人”だからな。**──だがまあ、これで先に進めるな。」

  グランジャス(肩をすくめて手をこすりながら)

  「うー寒い……! 一旦宿屋に行こうぜ。 このままだとおっさん凍っちまう……」

  マル(歯をガチガチ鳴らしながら)

  「早く温まりたいですな…… 手も足も耳も冷え切ってますぞ……!」

  ティミス(腕を組んで眉をひそめながら)

  「まったくよ。 ここは乾いた冷気が骨に染みるわ……アルベルト、大丈夫?」

  アルベルト(薪を背負いながら苦笑して)

  「へっ、まあな……でも早く火のある部屋でのんびりしたいのは同じだ」

  シシオ(笑いながら)

  「宿屋か。風呂もあるといいがな」

  カラスト(雪を払いつつ)

  「ちゃんと暖炉があるところがいいね。シルクーちゃんも冷えてる」

  シルクー(頷きながら震えて)

  「う、うん……糸が凍りそう……」

  グランジャス(歩き出しながら)

  「よし、駅前の宿屋がよさそうだ。 あの**“雪の火灯館”**ってやつにしよう」

  ──一行は、凍える風を背に、温もりを求めて宿屋へと向かった。

  扉を開けたその瞬間、薪のはぜる音とほのかな木の香りが彼らを包み込んだ。

  宿屋の主人(年配だが気さくな女性、頬に笑い皺を浮かべながら)

  「あらあら、いらっしゃい。こんな寒い中ご苦労さま。あんたたち、旅人さんかい?」

  アルベルト(頬を赤くしながら)

  「まあそんなとこ。で、泊まる前にちょっと聞きたいんだけど、この国——最近何かあったのか? 外がなんか物騒そうでさ」

  宿屋の主人(ふっと真顔になって)

  「……ああ、あんたたちも気づいたかい。最近はね、**ローレスとの関係が悪化しててね。**首都でも徴兵令が出たばかり。魔導省の動きも妙に慌ただしいのさ。噂じゃ、魔科学兵器の実戦配備が始まるとか何とか……」

  グランジャス(腕を組んで)

  「魔科学か……火薬と魔法を融合させた、あれか。どっちにしても良からぬ前触れってわけだな」

  宿屋の主人(小声で)

  「そうなのさ……それにね、数日前から“白衣の男たち”が村々を回ってるって話も聞いたよ。なんでも“魔力測定”とか言って、子どもを集めてるらしい。フォーゼリア政府の関係者かどうかもはっきりしないのが、なおさら不気味でね……」

  ティミス(顔を曇らせながら)

  「子どもを……? それって、魔導兵士の選別?」

  宿屋の主人(頷く)

  「かもしれないね。まったく、戦争が近いって空気が街全体から漂ってくるよ……」

  アルベルト(険しい表情で)

  「……そうか。ありがとう、おねーさん。とりあえず、部屋空いてるか?」

  宿屋の主人(笑顔に戻って)

  「もちろんだとも! 炉のそばの広い部屋がちょうど空いてるよ。団体さん歓迎さ、あんたたちみたいな連中は久しぶりだよ。あったかいシチューとパンもあるからね、ゆっくりしてっておくれ」

  グランジャス「俺は少し外の空気吸ってくる」

  カラスト「あんなに寒いって言ってたのに」

  カリンは何かを察する

  カリン「やり過ぎないでね」

  グランジャス「ああ、分かってるさ」

  ──夜の冷気が頬を刺す中、グランジャスは銃剣を肩に担ぎ、フォーゼリアの街の入口付近へと静かに歩を進める。彼の足音は雪を踏みしめる音だけが響き、街の灯りから徐々に離れていく。

  周囲は静寂に包まれていた。

  しかし、城門近くの監視塔付近にだけ、不自然に明かりが灯っていた。

  そこには、白衣を着た数人の男たちと、黒いフードをかぶった兵士たちの姿があった。彼らは何か機械のような装置を操作しているようだ。

  白衣の男A「……このあたりの魔力密度は平常値を保っているな。次は……“標的D-7”への追跡準備を」

  兵士B「奴らがこの街に入ったという情報は確かか?」

  白衣の男B「ああ、問題ない。侯爵家の紋章を確認した者がいる」

  グランジャスはその会話を雪の影に隠れながら静かに聞き取っていた。

  やがて一人の白衣の男が何かに気づく。

  白衣の男A「……誰かいるのか?」

  グランジャスは一歩、堂々と姿を現す。

  グランジャス(冷えた声で)

  「お前ら……夜中に何をしている? 許可を得ているとは思えんがな」

  白衣の男A(少したじろぎながら)「侯爵殿か……これは失礼。我々は魔導省の外部研究班でして、魔力の流動調査を――」

  グランジャス(間髪入れずに)

  「その“調査”に、なぜ武装した兵士が必要なんだ?」

  兵士たちが動きを見せた瞬間、グランジャスは銃剣のグリップを握る。

  ──冷たい夜風が、グランジャスのマントを大きく翻す。

  彼は一歩、また一歩と雪原を踏みしめながら進み、目の前を逃げる魔導省の白衣の男たちと黒装束の兵士たちを見据えて言い放つ。

  ⸻

  グランジャス(静かに、しかし烈火のごとく)

  「我は――ドルセニア侯爵、グランジャス・ラーブス・ドルセニア。

  生き恥など、晒すものか……!」

  「貴様らなど――切り伏せてくれるわ!」

  ⸻

  その瞬間、彼の足元の雪が爆ぜる。

  グランジャスの身体が空を裂くような猛烈な速度で駆け抜ける!

  兵士A「ッ!? は、速――ぐはッ!」

  一人目の兵士が反応すらできぬまま、喉元に閃光のような一撃を食らい倒れる。

  白衣の男が呆然と振り向く間もなく、二人目、三人目が鮮やかな軌道を描く銃剣の刃に斬られていく。

  白衣の男B「ば、化け物か……っ!」

  グランジャス(振り返らず)

  「貴様らが弄ぶ命の数だけ……俺は、命を刈る」

  敵の一人が魔術を詠唱しかけるも、それより速くグランジャスは至近距離に瞬間移動したかのように飛び込み、その胸元を深く貫く。

  兵士C「し、死ねッ――!」

  最後の一人が手榴弾型の魔導爆弾を構えた瞬間、

  グランジャスは投げナイフを手首の腱に的確に刺す。

  爆弾は手からこぼれ――

  グランジャスが地面に叩きつけて靴で踏みつぶす。

  爆発は起きない。

  完全なる無力化だ。

  ⸻

  雪原には、血と蒸気と硫黄の匂いが漂う。

  立ち尽くすグランジャスの手には、返り血を吸った銃剣が静かに光っていた。

  ⸻

  グランジャス(低く)

  「……戦いたくて戦ってるわけじゃない。

  だが、命を軽く見る奴は俺が赦さない」

  夜空を見上げ、雪を払うようにマントを翻し――

  彼は静かに、再びフォーゼリアの街へと歩を戻す。

  メルディスとカリンとアルベルトが駆け寄る

  カリン 「ご主人様、これは」

  メルディス 「何があったのですか?」

  アルベルト「 研究者と兵士だな」

  グランジャスは剣を静かに収め、深呼吸をひとつ。

  その顔は怒りではなく、沈痛な決意に満ちていた。

  グランジャス(低く、静かに)

  「……逃げる研究者と、護衛の兵士たちだった。

  何かを隠そうとしてたようだ――だが、止めさせてもらった」

  血に濡れた雪原を見て、メルディスがそっとグランジャスの袖を掴む。

  ⸻

  メルディス(不安げに)

  「まさか、ご主人様……一人で全部を?」

  グランジャス(うなずいて)

  「ああ。手加減は……してない。奴らが手にしていたのは“魔科学兵装”だった。

  あの遺跡や、瘴気とも何か関係がある。臭いが同じだった」

  ⸻

  アルベルトは、倒れた兵士たちの残骸を見下ろし、魔導機器の破片を拾う。

  アルベルト(険しい表情)

  「これ、フォーゼリアの最新技術だ。軍部直轄のものだな……。

  やっぱりか――この国の一部が、裏でローレスと手を組んでる」

  ⸻

  カリン(抱きしめるようにグランジャスの腕をとり)

  「ご主人様……怪我は?」

  グランジャス(微笑む)

  「大丈夫だ。お前たちが来てくれて、心が少しあったかくなったよ」

  ⸻

  メルディス(ぎゅっと抱きつく)

  「ご主人様が“誰かのために剣を振るう”とき、私はいつも誇りに思うわ。

  でも、無茶はしないで……」

  ⸻

  アルベルト(周囲を見渡し)

  「ここで何があったのか、痕跡は全部回収して屋敷に戻ろう。

  俺も警備兵に話をつけとく。おっさん……今回はよくやった」

  ⸻

  グランジャスは頷き、

  カリンとメルディスの肩を優しく抱いて――

  グランジャス(静かに)

  「戦いの後に残るのは、誇りと痛みだけだ……。

  だが、守るべきものがあるなら――俺は何度でも剣を振るう」

  グランジャスは立ち止まり空を仰ぎみる

  その背はひとりの剣士であり、ひとりの王であり、そして――ひとりの人間だった。

  ⸻

  グランジャス(低く、力強く)

  「処されるべき者たちが、罰を受けぬままこの世にのさばる。

  そのせいで――どれだけの子供たちが泣いて、どれだけの母が絶望する?

  どれだけの命が……理由も知らずに散っていくんだ」

  彼の拳がぎゅっと固く握られた。

  グランジャス(続けて)

  「だから俺は戦う。民を守るために、仲間を守るために。

  この命も、腕も脚も、心臓も……くれてやる覚悟だ。

  それが“俺の正義”だ」

  ⸻

  アルベルト(真剣な眼差しで横に立つ)

  「おっさん……俺も同じ気持ちだ。

  俺は――“まだまだ”未熟だけど、でも分かる。

  誰かを守るってのは、戦う理由を持つってことなんだな」

  ⸻

  グランジャスはようやく振り返り、

  肩を並べたアルベルトに向かって穏やかな笑みを見せた。

  グランジャス

  「……強くなったな、アルベルト。だが、その信念、けして折るな。

  強さなんてのは、最後に立ってる者の中にしか宿らねえ」

  ⸻

  メルディス(そっと手を握り)

  「あなたが歩むその道、私たちも共にいるわ」

  カリン(微笑んで頷きながら)

  「何があっても、ご主人様の盾になる。だから、前を向いて」

  宿屋の灯りが揺れる中、一行が戻ってくると、マルがソファに腰かけてティーカップを傾けながら顔を上げた。

  ⸻

  マル(にこやかに)

  「おやおや、何してきたんですかな? こんな雪の夜に外で――」

  アルベルト(コートを脱ぎながら)

  「ローレスと繋がってた奴らを懲らしめただけだよ。少しばかりキツめにな」

  ⸻

  マル(片眉を上げ)

  「……ほう、また“お掃除”ですかな? おっかないことで」

  グランジャス(銃剣を置きながら、静かに)

  「必要なことだった。腐った根は早めに断たねば、いずれ全体が枯れる」

  ⸻

  ティミス(椅子に座って、カップを手に)

  「この国、見た目以上に綻んでるわね。早めに気づけてよかったわ」

  カリン(頷きながら)

  「ご主人様がいなかったら、あのまま放っておかれてたでしょうね」

  ⸻

  メルディス(グランジャスの横に座って)

  「ダーリンが動いたから、もう心配ないわ。これで少しはこの街も落ち着くかしら」

  ⸻

  マル(紅茶を啜りつつ小さく笑う)

  「いやはや、どうやらこの旅の仲間たちは、ただの旅人じゃなさそうですな」

  リセリナ(湯気の立つティーカップをそっと持ち上げ、瞳を細めながら)

  「この宿の紅茶は良い味よ。優しくて、深くて……温まるわ」

  ⸻

  シーフェ(にっこりしながら)

  「ハーブがブレンドされてるわね。カモミールと、少しレモンバーム……リラックス効果もあるはずよ」

  ルプス(紅茶の香りを確かめながら)

  「うん、胃の調子にもいい。寒さで縮こまった体にも効くな」

  ⸻

  アルベルト(湯気に顔を当てながら)

  「は〜……あったけぇ。外で雪と剣交えてたのが嘘みたいだ」

  マル(スプーンでゆっくり紅茶をかき混ぜ)

  「こういう時こそ、戦のあとの静けさってやつですかな」

  ⸻

  グランジャス(椅子に深く腰かけながら)

  「こういう一杯に救われる時もある……戦いの連続の中で、俺たちは生きてるんだな」

  ⸻

  カリン(ティーカップを両手で包み込みながら)

  「ご主人様、次はもっと平和な旅がしたいですね」

  メルディス(頷いて)

  「そうね、次は花が咲く場所とか、温泉とか……暖かい場所がいいな♡」

  ⸻

  そして、静かに過ぎていくフォーゼリアの一夜。

  紅茶の香りが、戦士たちの疲れをゆっくりと溶かしていった。

  ホルスター(顔を伏せ、洗面所の蛇口の音だけが響く中、肩を震わせながら)

  「……どうしたのかしら、私。こんなの初めて……」

  ⸻

  シーフェ(静かに背後から現れ、そっとポケットから何かを取り出す)

  「ホルスター、あんた……これ使ってみなさい」

  (手渡されたのは、ピンクと白の小さな判定キット)

  ホルスター(戸惑いながらも)

  「……これは?」

  シーフェ(優しく、でも淡々と)

  「唾液をここに数滴垂らすだけでいいの。ちゃんと反応が出るやつよ」

  ⸻

  数十秒後――。

  細い窓に、くっきりと浮かび上がる 二本の線。

  ⸻

  ホルスター(それを見て、声を詰まらせる)

  「……まさか……」

  シーフェ(そっとその肩に手を添えて、微笑む)

  「おめでた、ね」

  ⸻

  洗面所の静寂を破るように、小さな命の兆しが静かに灯った。

  ホルスターの瞳に浮かぶ涙は、驚きと、まだ見ぬ未来への不安、そして少しの喜びを映していた。

  シーフェ(宿の居間に戻り、椅子に腰かけて紅茶を一口)

  「ふぅ……落ち着いたわ」

  (ホルスターはまだ少し顔を赤らめているが、無言で頷く)

  シーフェ(にやりと笑いながら、シシオを見て)

  「ねぇシシオ。立派な父親ね。まぁ、前から子どもたちの相手ばかりしてたし、実質“父”だったけど……」

  シシオ(紅茶を飲みかけていたが、口元で止まる)

  「ん? まあ、確かにな……俺は孤児院の子らの面倒も――って……えぇ!? まさか!?」

  ホルスター(もじもじしながら)

  「……そういう、ことよ」

  シーフェ(肘をついてにこり)

  「今度こそ、本物ね。覚悟決めなさいよ、パパ」

  ホルスター(顔を少し伏せて、でも微笑みながら)

  「……よろしくね、シシオ」

  ホルスター(少し驚いた顔で)

  「えっ……リョーンくん、息子だったの?」

  シーフェ(紅茶を置きながら)

  「血は繋がってないけど、ずっと面倒見てた子よ。ね、シシオ」

  シシオ(頭をかきながら、苦笑して)

  「あぁ。まだ幼い頃に拾ってな。『父ちゃん』って呼ばれた時から、もう抗えなかった」

  ホルスター(柔らかく笑い)

  「ふふ、優しいのね」

  シシオ(真面目な顔になって)

  「でも……アイツ、俺のことを“唯一の家族”だって思ってる。だから……説明の仕方、間違えると不安にさせちまうかもな」

  シーフェ(頷きながら)

  「うん……“新しい命が増える”ってことは、愛が増えるってことよ。誰かが減るわけじゃないって、ちゃんと伝えて」

  ホルスター

  「私からも話すわ。リョーンくんのこと、ちゃんと“家族”として迎えたいもの」

  シシオ(ゆっくりと頷く)

  「……ああ。そうだな。俺の家族は増えるだけだ。減りはしない」

  シーフェ(くすっと笑って)

  「じゃあ決まりね。パパ、頑張って♡」

  シシオ(照れながら)

  「……こっちは心の準備がまだだっての」

  ——

  一人の父と、一つの新しい命。静かに、でも確実に、あたらしい家族のかたちが動き出していた。

  グランジャス(真面目な顔で、大きめの木箱をホルスターに渡す)

  「……これ、持ってきたぞ。ホルスタイン種ってこともあるが、母にもなるんだ。定期的に搾乳が必要なら、これを使え」

  ホルスター(箱を見て少し唖然とし)

  「……搾乳器!? しかも……結構本格的じゃない」

  シーフェ(クスクス笑いながら)

  「ほんと、さすがご主人。備えが抜かりないわね」

  ホルスター(ちょっと頬を赤らめながら)

  「まさか、こうなることを見越してたってワケ……?」

  グランジャス(少し咳払いをしつつ)

  「いや……シシオが動揺してる隙に、俺が動いた。慣れないうちは負担も大きいだろうからな」

  ホルスター(微笑んで)

  「ふふ、ありがとう。素直にありがたく使わせてもらうわ」

  ルプス(後ろから手を挙げて)

  「念のために言っておくが、ミルクの状態も定期的に観察する必要がある。医療班として記録も取る」

  ホルスター(苦笑しながら)

  「はあ……もう、こうなったらしっかり向き合うしかないわね」

  ホルスターがゆったりした表情で語るその言葉に、部屋の中は自然と静まり返る。ティミスや他の仲間たちも、彼女の話にじっと耳を傾けていた。

  ⸻

  ホルスター(少し遠くを見るように)

  「最初の頃はね、夜もぐっすり眠れないわ。4時間おきに授乳して、オムツ替えて、ちょっと抱いてあやして…。慣れないうちは、時間がぐちゃぐちゃになっちゃう」

  ティミス(真剣な表情で)

  「4時間おきって…ほとんど寝られないじゃない。それを何ヶ月も?」

  ホルスター(コクリと頷く)

  「そうね、だいたい半年くらいはそんな感じかしら。でも、それでも…あの小さな命がね、こっちを見て微笑むと、全部忘れるのよ。疲れも、眠気も」

  カリン(ぽそっと)

  「母って…すごいのね」

  メルディス(興味深そうに)

  「夜泣きってほんとにあるの?」

  ホルスター(苦笑して)

  「あるわよ。突然泣き出して、30分も1時間も泣き止まないことも。理由がわからないときもあるの。それでも抱いて、背中トントンして…そのうち、すぅっと寝ちゃう」

  ティミス(やや不安そうに)

  「私…できるかな、そんなこと…」

  ホルスター(優しく微笑んで)

  「できるわ。自分でも驚くくらいにね。子どもが生まれると、不思議と“できる母”に変わっていくのよ」

  ⸻

  ホルスターの言葉には、母としての経験と覚悟、そして深い愛情がにじんでいた。

  彼女の強さと優しさを前に、ティミスや他の仲間もまた、それぞれの未来を思い描き始めるのだった。

  ホルスター(静かに微笑んで)

  「孤児院ではね、先生でありながら……子供たちにとっては育ての母でもあったのよ。たとえ血は繋がっていなくても、あの子たちには私しかいなかったから」

  シーフェ(優しく)

  「だからこそ、誰よりも子育てに詳しいんだね」

  ホルスター(頷きながら)

  「病気になれば一晩中看病したし、泣いてる子を抱きしめて、一緒に泣いたこともあるわ。怖い夢を見て起きた子に、朝まで手を握っていたことも。……全部、母親としてやってきたのよ」

  マル(ぽつりと)

  「それを一人で……?」

  ホルスター(少し寂しげに)

  「最初はね。でも、だんだん年上の子が下の子を世話するようになって。そうして“家族”になっていったのよ。誰もが親であり、子どもでもある……不思議な家族」

  ティミス(じっとホルスターを見つめて)

  「……本物の母だね、あんたは」

  ホルスター(やわらかく笑って)

  「ありがとう。でも、私だけじゃなくて、あの子たちが私を“母にしてくれた”のよ。人って、誰かのために生きると強くなれるの。母って、そういうものなのかもね」

  ホルスター(柔らかな声で)

  「実際に……母になるのは初めて。でもね、不思議と不安はないの。きっとこれまでの経験が、全部この時のためにあったんだと思えるの。むしろ……嬉しいのよ。心から」

  メルディス(頬を赤らめて)

  「私も……ダーリンとの子ができたら、きっと全力で守るわ。ううん、守りたい。そう思うの」

  カリン(頷きながら、真剣な表情で)

  「私も、きっとまだまだ未熟だけど……ご主人様との子なら、全力で愛せる。そう確信してるわ。だから……私もちょっと、母になる覚悟……頑張らないと」

  ⸻

  ホルスター(優しく二人に微笑んで)

  「……あなたたちなら大丈夫よ。命を迎える覚悟がある限り、母になれるわ。迷っても、怖くても……子供はそれだけで、あなたを必要としてくれる。無条件で、ね」

  シーフェ(腕を組みながら)

  「……あんたたち、なんかすごく“綺麗”な顔してるよ。母になるって、こんなに顔つきが変わるもんなんだね」

  リセリナは湯気の立つ紅茶を口に運びながら、ゆっくりと語り出す。

  ⸻

  リセリナ(静かに)

  「私からしたら不思議ね……。きっと種族間の違いなんでしょうけど。私たちの繁殖は、“種から育つ”ものだから……母になるって感覚、少し違うのよ」

  ティミス(興味深そうに)

  「“種から”って、どういうこと? 生き物が芽を出すみたいな……?」

  リセリナ(頷いて)

  「ええ。私たちの子は、受粉のあと、一定期間体内で“種”として形成されて……その後、安全な場所に植えられるの。土と水と魔力で発芽し、時間をかけて人型になるまで育つのよ」

  マル(ぎょっとして)

  「人が……芽から生える!? なんとも神秘的ですな……いや、ちょっと怖い気も……」

  ホルスター(微笑して)

  「でも育てるって点では、きっと私たちと同じよね。手をかけて、心を注いで、成長を見守る」

  リセリナ(微笑み返して)

  「ええ。だから“育てること”には私も慣れてるわ。ただ……最初から母乳をあげるとか、抱っこして寝かせる、みたいな経験はないから。あなたたちがやっていることには、別の意味で感動すら覚えるわ」

  ⸻

  カリン(嬉しそうに)

  「なんだか……素敵ね。どんな形でも、命を育てるって気持ちは通じ合えるんだなって思うと、安心するわ」

  メルディス(リセリナをじっと見つめながら)

  「リセリナも、きっと“いい母”になれるわ。種からでも、きっと愛は注げるのよね?」

  リセリナ(目を細めて)

  「もちろん。むしろ、長く時間がかかる分……愛情もゆっくりと深まるものよ」

  ⸻

  部屋に静かな間が流れる。

  母となる者、母である者、そしてこれから“命”に向き合う仲間たちの絆が、また一つ強まっていく。

  シシオ(豪快に笑いながら)

  「ま、俺は慣れてるからな。リョーンを一人で育てた頃の苦労を思えば、今さら夜泣きくらいどうってことないさ」

  アルベルト(感心したように)

  「羨ましいな……。俺なんて、誰かの面倒見るどころか、自分のことで手一杯だったから」

  マル(こくこく頷きながら)

  「全くもってその通り。人の親になるってのは、そう簡単なことではありますまいな」

  グランジャス(紅茶を一口飲んでから、ゆっくりと)

  「俺はな、父親ってわけじゃねえけど……一人、育てたことがある。――カリンだよ」

  カリン(少し恥ずかしそうに微笑んで)

  「昔ね、私……ご主人様に拾われたの。小さい頃、ひとりぼっちだった私を……あの人は“俺の屋敷で暮らせ”って」

  マル(目を丸くして)

  「なんと……それは初耳ですな」

  ティミス(穏やかに)

  「育てるって、血の繋がりじゃなくて心の繋がりなんだね」

  グランジャス(静かに頷き)

  「カリンは……俺が初めて“守ろう”と思った命だった。だからあいつが俺のことを“ご主人様”って呼ぶのも……まあ、悪くねえよ」

  カリン(そっとグランジャスの手を握りながら)

  「私は、ご主人様の娘であり、今は……愛する人。それだけ」

  アルベルト(少し照れ笑いしながら)

  「はは……なんか、いいな。俺も、そういう“誰かのために強くなる”って生き方、ちょっと憧れるよ」

  シシオ(腕を組んで)

  「誰でも最初は初心者だ。だけどな、育てるってのは筋肉と同じで、続けてりゃちゃんと力になるんだぜ」

  グランジャス(くつくつと笑いながら)

  「そういうことだな。最初っからご主人様って呼んでたんだ、あの小さい声でな。」

  カリン(頬を少し赤らめて)

  「だって……子供のままでいないといけない気がして……。でも私は、ご主人様の“お嫁さん”になりたかったから」

  マル(にやりと)

  「いやはや、なんとも愛らしい変遷ですな。父から主人、そして旦那様へ……筋の通った昇格ではありませんか」

  ティミス(笑いながら)

  「でもその間柄、かなりややこしいわよね。世間的にはどう思われるのかしら」

  グランジャス(ふっと息をついて)

  「誰がどう思おうと構わん。俺たちの間にあるのは事実だ。それだけでいい」

  カリン(ぴったりとグランジャスに寄り添い)

  「ご主人様に拾われて、守られて、育ててもらって……そして今は、愛されてる。私は、ずっとそうありたかったの」

  ⸻

  シーフェ(腕を組んで)

  「まあ、関係ってのは形じゃないわ。大事なのは、どんな想いで結ばれてるか、ってこと」

  ルプス(静かに)

  「血縁ではなく、生き方を共にする絆……俺はそれを“家族”と呼ぶ」

  バイラス(頷きながら微笑)

  「良い家族なんですな……シシオ殿とグランジャス殿は。血に縛られず、心で繋がっている」

  グランジャス(少し照れたように鼻を鳴らし)

  「ま、気づいたら“そうなってた”ってだけだよ。俺はただ拾って、育てて、支えただけだ」

  シシオ(どっしりとした声で)

  「俺も似たようなもんだ。血はつながってたが、育てるってのは、そういうことじゃねぇ。リョーンの時もそうだった。守りたいって気持ちに嘘はねぇんだ」

  バイラス(柔らかく微笑み)

  「……戦いの最中に、そういうものを築ける人たちがいるのは、救いです。争いだけじゃないって、信じられる」

  ティミス(静かに)

  「そうね。どんな時代でも、家族や仲間って希望になるのよ。誰かが帰る場所を作るって、大事なことよ」

  マル(しみじみ)

  「戦火の世だからこそ、温もりがありがたく感じられるものですな……まったくもって羨ましい」

  リセリナ(ふふ、と笑って)

  「私たちも、家族みたいなものじゃない? 形は違っても、想いは同じ」

  アルベルト(少し微笑んで)

  「そうだな……バラバラだった奴らが、気づけば一緒に飯を食って、肩を並べて戦ってる。悪くないぜ、こういうのも」

  ⸻

  グランジャス(仲間たちをぐるっと見回して)

  「……気づけば、俺の周りは“家族”ばっかりになったな」

  メルディス(グランジャスにぴったりくっつきながら)

  「ダーリンが家族の中心だもの」

  カリン(笑顔で)

  「ご主人様がいるから、私は安心していられるの」

  マリーナ(腕を組んでムスッとした顔で)

  「ちょっと何言ってるのよ、あんたたち。アタシがいるじゃない」

  グランジャス(ニヤッと笑って)

  「おおっと、忘れてたわけじゃねぇさ。むしろ一番頼れる女だろ、マリーナは」

  マリーナ(顔を赤らめて、でもすぐに腕を振って)

  「べ、別にあんたのためにいてやってるわけじゃないんだからね! …でも、そう言われると悪い気はしないけど…ふんっ」

  ティミス(クスクス笑いながら)

  「マリーナ、ほんと可愛いわね。素直じゃないとこがまた」

  アルベルト(小声で)

  「出たよ……ツンデレ海の女王様」

  マル(頷きながらお茶をすすって)

  「しかしツンの後のデレは極上ですぞ。まこと、感謝の極み」

  マリーナ(顔を真っ赤にして)

  「な、なによ!? アタシだって家族って思ってるし、あんたたちがいないと…その……さみしいんだから!」

  グランジャス(ふっと笑って)

  「知ってるよ。だから言わなくても伝わってるさ。でも……たまには言葉にしてくれると、やっぱ嬉しいな」

  マリーナ(ほんの少し照れながらも、いつもの力強さで)

  「……家族なんだから、当然でしょ。アタシはずっと、あんたたちといるわよ」

  アルベルト(空を見上げながら)

  「こうして並んでるとさ、この旅団……もう“ほぼ家族”みたいだよな」

  マル(いつもの飄々とした調子で)

  「全くですな。朝起きれば誰かの声、飯の支度に洗濯、恋の話に子育て話……ここまでくるともはや大家族ですぞ」

  ティミス(微笑みながら)

  「家族って血の繋がりだけじゃないのよ。こうして支え合って、共に過ごす時間がそれを育てるの」

  シーフェ(お茶を飲みながら頷いて)

  「そうね。傷を治して、心も癒す……家族じゃなきゃ、そんなことできないわ」

  ルプス(少し照れくさそうに)

  「一人でいた頃が嘘みたいだ……今は誰かがそばにいる。それだけで、全然違う」

  ホルスター(お腹を軽く撫でながら)

  「新しい命が生まれる場所って、家族の証だと思うの。あたしたちの旅路も、命を繋いでるわ」

  シシオ(豪快に笑って)

  「フハハハッ! だったら俺たちは“旅団家族”ってとこだな! 一家の長は誰になるんだ?」

  グランジャス(紅茶をすすりながら、少し笑って)

  「シシオは“父”、ホルスターが“母”って感じだよな」

  マル(くすくすと笑いながら)

  「確かにそう見えますな。威厳のある父に、しっかり者の母。まさに理想的な家庭ですぞ」

  グランジャス(ひとさじ砂糖を入れて)

  「んで、アルベルトとカラストはその“息子”って感じするんだよな。どっちも性格全然違うけどな」

  シーフェ(笑いながらうなずく)

  「アルベルトは長男タイプね、真面目で熱血。で、カラストは手先器用でマイペースな次男って感じ」

  ホルスター(頬に手を当てて微笑み)

  「じゃあ、私は叱りつつも甘やかす“母”ってところかしら。ふふ、悪くない響きね」

  シシオ(照れ隠しに腕を組んで、胸を張る)

  「フン、まぁ俺が父ってのは否定せんがな! このでっかい背中を見て育てば間違いねぇ!」

  アルベルト(やれやれという顔で)

  「……おい、俺はもう成人してるってのに、子ども扱いかよ。まあ、悪い気はしねぇけどな」

  カラスト(小さく笑って)

  「うん、僕も。お父さんとお母さんがいて、兄弟がいて……なんだかあったかいね」

  リセリナ(遠くから聞きながら、ふっと微笑んで)

  「家族の形はいろいろある……けれど、心が繋がっていればそれは本物よ」

  グランジャス(ふと空を見ながら)

  「……なんか、こうして見ると、俺たちの旅団って“戦う家族”なんだな。守りたいものがあって、共に歩いてる」

  マリーナ(にやっと笑って)

  「家族にしちゃ濃いわよね、みんな!」

  グランジャス「家族にしては濃い、か……確かにな」

  彼がふと口にした瞬間、空気が張りつめた。

  グランジャスはわずかな殺気を感じ取り、反射的に叫ぶ。

  グランジャス「アルベルト!伏せろ!」

  次の刹那、漆黒の影が木々の間から飛び出した。

  無音のまま、鋭い短剣が二人の頭上をかすめる。

  アルベルト「なっ……!」

  彼が身を低くした瞬間、地面に突き立つ刃先が鈍い音を立てた。

  暗殺者たちは黒い布で全身を覆い、目元だけが光を反射している。

  三人、いや四人――影はまだ増えている。

  グランジャス「フォーゼリアの……暗殺部隊か!」

  低く唸るように言うと、背中の剣を引き抜いた。

  アルベルトも腰の剣を抜き、肩を並べる。

  アルベルト「グランジャス、どうする!?」

  グランジャス「まずは数を減らす! 後のことは考えるな、斬り抜けろ!」

  暗殺者「ロードストーリーズの面々よ、フォーゼリア王の命令で――貴様らを消す」

  アルベルト「ハッ、そんな言葉は王の口から直接聞きたいもんだな」

  その時、背後でシシオが低く唸った。

  シシオ「……待て。あいつらの真ん中の男……たぶん、フォーゼリア王だ」

  グランジャス「……な、何だと!」

  暗殺者たちが道を開くように動き、中央に立つ一人の男が姿を現した。

  仮面で顔を隠していたが、その声、その立ち姿は、グランジャスが城で見た王そのものだった。

  フォーゼリア王(仮面の男)「……ようやく会えたな、ロードストーリーズ。余の前に跪け。さもなくば――この場で屠る」

  アルベルト「王自らが、暗殺者の装いとはな……国家の威信はどこへやった?」

  グランジャスは剣を握り締めた。

  グランジャス「俺の耳には信じがたい話だな……本当に王なら、何故このような真似をする」

  アルベルトの声が夜闇に届く。

  「仕方ない、ラート村まで撤退しよう。このフォーゼリアは奴のフィールドだ」

  短い合図で味方の隊列が動き出す。グランジャスは一瞬躊躇したが、仲間と非戦闘員の安全を最優先に考え、低く頷く。周囲ではまだ刃が交差し、呻き声が混ざるが、彼らは冷静に退路を作る。

  ティミスが近くのカリンに寄り添いながら、険しい顔で言う。

  「やむを得ないわね。ホルスター、お腹を守りなさいよ。ややこに響く」

  ホルスターは僅かに笑みを浮かべ、しかし目は真剣だ。

  「わかってるわ」

  暗殺部隊との激闘をかわしながら、長い夜道を駆け抜けるロードストーリーズ一行。息は荒く、衣服は裂け、所々に血の染みが滲む。だが誰一人欠けることなく、ついに街道沿いの小駅の灯が見えてきた。

  アルベルトが声をあげる。

  「見えた……駅だ! あそこまで行けば!」

  皆の胸に一気に希望が差し込む。

  ティミスは肩で息をしながらもホルスターを支え、カリンは必死にグランジャスの背を追う。リセリナの袋に押し込められた捕縛した暗殺者が呻き声を上げているが、誰も構っていられない。

  改札口の明かりに飛び込むと、駅員が目を丸くした。

  「な、なんだ!? こんな時間に大人数で……」

  グランジャスが前へ出て、声を張る。

  「臨時便でも何でもいい! ラート村までの切符を頼む!」

  混乱する駅員に、マルが軽く肩を叩いて微笑みながら小声で囁く。

  「事情は後で説明するさ、今は俺たちを通しておくんなまし」

  マルの機転と道化師らしい人懐っこさで、駅員はしぶしぶ切符を渡す。

  列車の汽笛が鳴り、車両が重々しい音を立ててホームに入ってきた。鉄の車輪の響きが、まるで救いの鐘のように皆の耳に届く。

  シシオが最後尾で警戒しながら皆を乗せ、扉が閉まる瞬間、アルベルトとグランジャスが剣を構えたまま暗闇を睨みつける。仮面の王の影は追ってこなかったが、瘴気はまだ森に漂っているのが見えた。

  やがて列車はゆっくりと動き出し、轟音とともに駅を離れる。

  カリンは座席に崩れ込み、震える手を胸に当てる。

  「……生きて……帰れる……」

  その隣に腰掛けたグランジャスは、短く頷き、ただ静かに窓の外を睨んでいた。

  列車は闇を裂き、ラート村への道を駆け抜けていく。

  フォーゼリア編 [完]

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