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助けてもらって恐縮ですが。僕は、ヴィラン側の怪人なんです。
陽射しが容赦なく降り注ぐ街の中を、僕は人混みに流されるように歩いていた。
ダボダボのパーカーに長ズボン、両手には手袋。このうだるような暑さの中ではどう見ても浮いている格好だが、周囲に行き交う人々に僕を気にする余裕はない。
皆、それどころではないからだ。
遠くの方から、悲鳴と歓声、そして時折、腹の底に響くような爆発音が轟いてくる。
(思ったよりも、ヒーローの対応が早いな)
僕はパーカーのフードの奥で短く息を吐いた。
背負った鞄の中には、ある人物から頼まれた「お使いの品」が入っている。つい先ほど、現在進行形でヒーローの襲撃を受けている犯罪結社のアジトから掠め取ってきた代物だ。
あの人が求める品物は、どれも市販ルートでは手に入らない厄介なものばかりだ。だが、相手が悪の組織なら盗んでも僕の心は微塵も傷まない。
ついでに、より確実な陽動にするため、匿名でアジトの場所をヒーロー協会へ通報しておいた。
(これで、盗みがバレることもない)
僕はフードをさらに深く被り直し、騒ぎに気を取られる人混みに紛れながら帰路へとついた。
人目を避けるようにして、郊外へと向かう。
数年前に起きた、ヒーローと怪人による大規模な抗争。その爪痕が色濃く残るこの辺り一帯は、今ではすっかり誰も寄り付かないゴーストタウンと化している。
朽ち果てた廃マンションの前にたどり着いた僕は、淀みない足取りで中へと入り、一階の最奥にある部屋の扉を開けた。
扉の先に広がっているのは、カビ臭い空き室などではない。無数の機材と工具、モニターの光がひしめく、オーバーテクノロジーの吹き溜まり――博士のラボだ。
「博士、頼まれたもの取ってきましたよ」
「おお! ニックスおかえり! 待っとったで!」
奥から顔を出したのは、見事なメタボリック体型を揺らす猪獣人のおっさん、猪野牡丹(いの ぼたん)博士だ。
下顎から突き出した立派で鋭い二本の牙。骨格からして本来はいかつい強面なのだろうが、どんぐりのように丸くて小さな目は、常に人懐っこい光を宿している。本人がいつもニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべているせいで、せっかくの厳つい顔立ちからも威圧感の欠片すら感じられない。
僕から鞄を受け取り、中身を確認した猪野博士は、その丸い目をさらに輝かせた。
「これやこれ! これでついに完成や!」
はしゃぐ博士を横目に、僕は暑苦しいパーカーとズボンを脱ぎ捨て、通気性の良い部屋着へと着替える。
あらわになった僕の両肩の先、そして股関節から先に繋がっているのは、本来あるべき生身の手足ではない。まるで骨格標本をそのまま黒く塗りつぶしたような、禍々しくも無機質な『真っ黒な義肢』だ。
「……博士。この義肢の見た目、もう少しまともにできませんか? 毎回隠すの大変なんですけど。特にこの季節は」
「アカン。絶対無理」
即答だった。しかも子供が駄々をこねるような返事だ。
「何故です?」
「人工皮毛貼り付けてもどないせ違和感は残るし、人工筋肉で覆おうとしたら今度は排熱やら何やらの問題で出力に支障でるやろ。とにかく物理的にもシステム的にも無理なんやて!」
「で、本音は?」
「めっちゃカッコええやんか!!」
目をキラキラさせて悪趣味な義肢のロマンを語り出す猪野博士を見て、僕は盛大なため息をついた。
「……やっぱり、あんたの趣味じゃないですか」
これ以上言い合っても無駄だと悟り、話題を変える。
「で、今回は何を作ってるんです? ヒーロー協会からの依頼の品ですよね」
「おぉ、そうやったそうやった! ちょっと待っとき、すぐ完成させたろ!」
猪野博士は鞄を持って意気揚々とラボの奥へ消え、そして数分後――満面の笑みで戻ってきた。
その手に握られていたのは、およそ正気の沙汰とは思えない、冒涜的な色合いをした『男性器を模した物体』だ。
「ヒーロー協会からの、『ヒーローの戦闘力を底上げするアイテムが欲しい』っちゅう依頼で作ったんや。名付けて、潜在能力覚醒装置『メキメキ君DX』や!」
高らかに宣言し、それを掲げる猪野博士。
くすんだ肉桃色、濁った黄色、どす黒い赤紫。ぬらぬらとした光沢感があり、新鮮さと腐敗が同時に存在しているような不潔極まりない色合いが、視覚的暴力となって僕の目を襲う。
僕は、こんなものを作るために危険を冒したのか……?
頭痛を堪えるようにこめかみを押さえた。
「……気を取り直して尋ねますが。で、それはどういう効果があるんです?」
「ええこと聞いてくれたわ!」
猪野博士は得意げに胸を張る。
「計算し尽くされた特殊な振動数での前立腺刺激によってな、脳のリミッターを強制解除するんや! さらにメキメキ君本体から分泌される特殊な薬効成分を直腸から直接吸収することで、瞬時に肉体を限界まで活性化させる! 筋力やったら、通常の二倍の出力は見込める超優れもんやで!」
だめだ、まだツッコんではだめだ。最後まで説明を聞いてからだ。
僕は湧き上がる殺意を深呼吸で静め、淡々と問い返した。
「それをどうやって使うんです? 戦闘中にスーツを脱げとおっしゃる? それとも、任務に向かう前にあらかじめ仕込んでおけと?」
すると、猪野博士がねっとりとした、嫌な笑顔でこちらを見つめてきた。
「なんや、ニックスくん。おぼこい顔してコイツの使い方がわかるんかいな〜?」
「あ、そういうのいいんで」
「なんや、冷たいなぁ」
素っ気なくぶった斬ると博士は少し寂しそうな顔をした後、再び自信満々に言い放った。
「スーツ着てても大丈夫や! コイツは起動状態になったら、肉体以外の物質を透過するんやで!」
そこから先は「量子トンネル効果がどうのこうの」と熱弁を振るい始めたが、僕の頭には一切入ってこない。
どうしてこの人は、これだけの実力と技術があるのに、頭の中身がこんなにも残念なのだろう。
「――それでなんやけどな」
ひとしきり語り終えた猪野博士が、その巨体に似合わない上目遣いで僕を見つめてきた。
「理論上は完璧にできてるはずなんやけど、まだテストができてへんねん」
僕の直感がアラートを鳴らした。
あ、この人、僕で試す気だ。
「……しょうがないですね。貸してください」
諦めたように僕は『メキメキ君DX』を受け取る。
「おおっ! ほんまにやってくれるんか!?」
猪野博士が嬉しそうに一歩身を乗り出した瞬間。
ガシャアン!
僕は、テーブルの上に置かれていたパーツトレーを「わざと」床に落とした。
「あぁ、すみません」
しゃがみ込み、散らばった細かい部品を拾い始める。
「何やっとんねん、もう。しゃあないなぁ」
何も疑っていない猪野博士もまた、巨体を揺らしてしゃがみ込み、部品を集め始めた。
その無防備な背後に、僕は音もなく陣取る。
手の中の『メキメキ君DX』のスイッチをONにする。
狙いを定めて、迷いなく差し込む。
「んほお”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”っ!!??」
ラボ中に、猪野博士の汚い雄叫びが木霊した。
おお、本当に服だけ透過した。
冷静に観察する僕の目の前で、メキメキ君DXは猪野博士のズボンをすり抜け、先端を挿れただけなのに自ら埋もれていくようにズブズブと奥へ侵入していく。どうやら目標へ自動で向かう恐ろしい機能までついているらしい。
(無駄に高性能だな……)
「一応は依頼品ですからね。記録は残さないと」
「あ”ぁ”ぁ”!? ひ、ひぃぃぃぃん!」
「どうですか? 効果は出てますか?」
僕は、白目を剥いて悶える猪野博士の手に、その辺にあった太い鉄の棒を握らせた。
「ぬぐうぅぅぅんぅぅぅっ!!」
奇妙な喘ぎ声と共に、猪野博士の手の中で、分厚い鉄の棒がまるで柔らかい粘土のようにグシャァッとひしゃげた。
「へえ、本当に効果出てるんですね」
驚きつつも、僕は呆れた声で呟く。
いや待て。さっき筋力が『通常の二倍』と言っていなかったか?
厚い鉄の棒を粘土のように潰すには数十トンの圧力が要る。二倍でああなるということは、このメタボのおっさんは普段から握力が十トン近くある計算になるが。それともメキメキ君の性能が二倍どころではないのか。
(……考えないようにしよう)
床に崩れ落ち、ビクビクと痙攣している猪野博士。
僕は部屋の隅からパイプ椅子を持ってくると、その傍らにどっこいしょと座り込んだ。
「あとは、持続時間かな」
淡々とスマホを取り出し、ストップウォッチのタイマーを起動させる。
画面の中で無機質に進んでいく数字をぼんやりと眺めながら、ふと思考を沈ませた。
なんで僕は……こんなところで、こんな馬鹿みたいなことをしているんだろうな。
平和ボケした日常の欠片。
ほんの数年前までは、こんな生活を送ることになるなんて想像もしていなかった。
使い捨ての部品として生み出され、ごみくずのように死にかけていたあの雨の日。
視線を落とすと、真っ黒な骨の義肢が鈍く光っている。
僕がこの残念な天才発明家と出会ったのは、すべてが終わるはずの、あの夜のことだった。
***
『N-1X』
結社の諜報用低級怪人、Nシリーズの六十九番目に製造された素体。それが僕だった。
グレーと白の毛並みを持つ、ハチワレの猫獣人。
あどけなさの残る愛嬌のある顔立ちに、大きな目、そして少し眠たそうな一重まぶた。全体的に少しふっくらとした丸いシルエットをしている。
誰からも好感を持たれ、警戒心を抱かせない見た目。自惚れなどではない。潜入先で怪しまれないよう、初めから「そう」デザインされた造形なのだ。
主な任務は、潜入先での諜報と工作。
日々淡々と任務をこなすだけ。疑問も感情も抱かず、ただ組織の歯車として動く。それが僕のすべてだった。
だが、そんな生活は唐突に終わりを迎える。
結社のアジトに対する、ヒーローの大規模な奇襲。
炎と瓦礫の雨の中、崩落するアジトから僕はなんとか這い出した。
『アジトが襲撃された際は速やかにその場から離脱し、潜伏して司令を待て』
事前のマニュアル通りに行動しようとしたが、無理だった。途中で完全に力尽きた。
左腕は千切れ、右腕も潰れている。両足の感覚もとうにない。元々、僕達Nシリーズは戦闘用ではない。耐久力だって常人より少し毛が生えた程度だ。
アジトからそう離れていない薄暗い路地裏。冷たいビルの壁に背中を預け、僕はへたり込んでいた。
出血がひどい。寒い。雨が冷たい。
程なくして僕は死ぬだろう。
そう悟った時だった。
誰かの気配がした。ビシャビシャと慌ただしい足音が駆け寄ってくる。だが、すでに目は霞んでほとんど見えない。
そこで、僕の意識は途切れた。
目を覚ますと、見知らぬ場所にいた。
どこかの研究所だろうか。周囲には用途もわからない怪しげな装置が所狭しと並んでいる。僕は冷たい手術台のようなものの上に寝かされていた。
「おお、目ぇ覚ましたか」
部屋の奥から声がした。ぬっと姿を現したのは、大柄な猪獣人だった。
彼は僕を見るなり、ひどく悲しそうな顔をして告げた。
「すまんなぁ……手足は、アカンかった」
その言葉に、僕は自分の身体へと意識を向ける。
両腕、両足。あるはずの場所には何もなく、ただ真新しい包帯がぐるぐると巻かれていた。
「なんで……」
掠れた声が漏れた。
「すまん。救急車なんか待っとる余裕なかったさかい、ワシが直接処置したんや。お前さんを生かすためには、切るしか方法がなかったんや」
「いえ、そうではなく。何故、僕を助けたんですか?」
僕の問いに、目の前の猪獣人は意図が分からないのか言葉に詰まっていた。
「助けてもらったことは恐縮なのですが。僕は、ヴィラン側の怪人なんです」
自分でも、どうしてそんなことを口走ったのか分からなかった。自身の正体をバラすなど、諜報員としては絶対にやってはいけない御法度だ。
今思えば、あの時すでに結社が崩壊したことで、僕の中に組み込まれていた洗脳のようなものが解けていたのだろう。
男は驚愕に目を見開いた。
「そ、そんなアホな……。自分、どっからどう見てもまだ子供やんか! 悪の組織っちゅうのは、こんなガキにまで手ぇ出してるんか!?」
「いえ。僕は諜報用に作られた個体なので、この幼い見た目もデザインされたものです」
「じゃあ、自分何歳なんや?」
「えっと……製造されたのは、六年前ですね」
「ほな、立派な子供やんか!!」
男は声を荒らげた。ただ怒っているのではない。僕の身の上に対する、真っ直ぐな義憤だった。
「子供がそんな、すべてを諦めたような顔するもんやない! ……安心せえ。自分のことは、おっちゃんが守ったるさかい」
僕が何かを言い返す暇も与えず、男は力強く言い切った。
「おっちゃんの名前は、猪野牡丹(いの ぼたん)や。自分の名前は?」
「名前、ですか……。僕は『N-1X』と呼ばれていました」
「なんやそれ! そんなん名前ちゃうわ!」
猪野博士は腕を組み、うーんと唸って数秒考え込んだ。
そして、にかっと太陽のような笑みを浮かべて、僕を指差した。
「決めた! ニックスや。今日から自分の名前は、ニックスや!」
***
いつの間にか、時間が経っていたようだ。
ふと我に返ると、室内に響いていた『メキメキ君DX』のえげつない振動音が、徐々に弱くなっていくところだった。
パイプ椅子から立ち上がり、床を見下ろす。
猪野博士の巨体が、まるで地面に溶けるようにうつ伏せで伸びていた。
「博士、大丈夫ですか?」
僕が声をかけると、ビクッと背中がわずかに痙攣した。反応は薄いが、一応意識はあるようだ。
スマホのタイマーに目を落とす。持続時間は三十六分か。
充電が切れた後は透過機能もオフになり、そのまま尻の中に残るらしい。……ここは実用面での大きな改善点だな。
僕は冷たいため息をつきながら、博士のズボンの尻の部分を少し捲った。
谷間から少しだけ顔を出しているメキメキ君DXの端を、義肢の親指と人差し指で摘まみ、一気に引き抜く。
「あひんっ!?」
気絶しかけていた猪野博士が汚い声を上げた。
(……義肢の指とはいえ、なんか嫌だな)
バッチいモノを扱う手つきで、僕はメキメキ君DXをテーブルの上の金属トレーにボトッと放り投げた。
「ほら、起きてください」
僕は博士の巨体をよいしょと仰向けに転がした。
酷い有様だった。顔は涙と鼻水と涎でべちょべちょだし、ズボンの前側も広範囲にわたって絶望的に濡れている。
「博士? 大丈夫ですか? 後遺症とかないですか?」
「……ニ、ニックス……自分、覚えとれよ……」
息も絶え絶えな声で、猪野博士が恨み言を吐く。
「いや、博士。これを僕で試そうとしたの、あんたですよ? 少しは反省してください」
僕は淡々と事実を突きつけ、呆れたように肩をすくめた。
その日の夜。
ラボの片隅にある居住スペースで、僕たちは遅めの夕食をとっていた。
テーブルの上に並んでいるのは、コンビニで買ってきた適当な弁当だ。
「……イタタタ」
猪野博士は、テーブルの向かい側で器用に立ったまま弁当をかき込んでいる。
尻への深刻なダメージにより、パイプ椅子に座ることができないのだ。完全に自業自得である。
部屋の隅で点けっぱなしになっている古びたテレビからは、夜のニュース番組が流れていた。
『――本日午後、ヒーロー協会の精鋭部隊が、市街地に潜伏していた犯罪結社のアジトを急襲。激しい戦闘の末、見事壊滅させました。近隣住民への被害はなく――』
画面に映し出されているのは、黒煙を上げる見覚えのある廃ビルの映像だ。
それを見ながら、猪野博士は呑気にペットボトルの茶を啜った。
「ヒーローの兄ちゃんらも頑張っとるなぁ。こうやって悪い奴らをやっつけてくれるんやから、やっぱり平和が一番やで、ニックス」
「……そうですね」
僕は適当に相槌を打ちながら、弁当の白身魚のフライを箸でつまむ。
(その『激しい戦闘』のどさくさに紛れてヤバい部品を盗み出した上に、ご丁寧にヒーロー協会へアジトの場所をタレ込んだのは僕なんですけどね)
そんな事実を口に出すわけでもなく、僕はただ黙々とフライを口に運んだ。
テレビから流れる平和なニュース。
自身の発明品により立ち食いを強いられている、ポンコツな天才発明家のおっさん。
そして、ダボダボの服で真っ黒な義肢を隠しながらコンビニ弁当を食う、元・悪の怪人である僕。
(……どうしようもない日常だな)
僕は温くなったお茶で弁当を流し込む。
けれど、満足そうにぽっこりと出た腹を叩きながら「食った食った」と笑う猪野博士の姿を見ていると――こんな日々も悪くないと、そう思ってしまう自分がいるのも事実だった。
窓の外では、今日もどこかでパトカーのサイレンが遠く鳴り響いている。
***
ヒーロー協会本部、第一会議室。
厳粛な空気が漂う室内で、屈強な肉体を持つA級ヒーローと、スーツ姿の協会担当者が固唾を飲んで机上の木箱を見つめていた。
「猪野博士から納品された特別装備です。なんでも、筋力を一時的に二倍に引き上げる画期的なデバイスだとか」
「ああ。あの人は変人だが、技術力だけは確かだ。先日のアジト急襲でも、敵の思わぬ抵抗で苦戦を強いられたからな……。この装備さえあれば、我々の正義はより強固なものになる」
A級ヒーローが力強く頷く。
担当者が「開けます」と告げ、重厚な木箱のロックを解除した。
パカッと蓋が開く。
そこに入っていたのは――冒涜的な色合いをした、ぬらぬらと光る『男性器を模した物体』だった。
「…………」
「…………」
くすんだ肉桃色、濁った黄色、どす黒い赤紫。
新鮮さと腐敗が同時に存在しているような不潔極まりない色合いが、会議室の真っ白な蛍光灯の下で嫌な光沢を放っている。
「……た、担当くん。これは……?」
「お、お待ちください。同封されている取り扱いレポートを読みます」
担当者が、震える手で添えられていた紙を取り出す。
そこには非常に美しい字で、極めて事務的に、一切の感情を排した文章が綴られていた。
『潜在能力覚醒装置:メキメキ君DX。
被検体にて実証実験済み。対象の筋力が飛躍的に増強されることを確認。
使用の際は本体のスイッチを入れ、対象者の直腸へ挿入すること。服や鎧を透過する機能が搭載されているため、ヒーロースーツ着用時でも問題なく使用可能。ただし、効果切れの後はそのまま体内に残留するため、手動での回収が必要となる』
「…………」
会議室に、再び重苦しい沈黙が落ちた。
A級ヒーローの顔から、スッと血の気が引いていく。
「……これを……ケツに挿して戦えと……?」
「……そ、そのようです。透過機能のおかげで、脱がなくてもいつでも挿入できると……」
「ふざけるなッ! 戦闘中にズボンの中でそんなものが振動し続けたら、正義もクソもあるかァァッ!!」
平和を守る正義の象徴が、かつてない絶望に打ちひしがれた瞬間だった。
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