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第四話 商都にて:クラス、隠れて夜遊びをする

  

  とても静かな夜だった。

  隣で眠る犬人を起こさないよう、慎重に起き上がるとベッドを抜け出す。

  闇に目が慣れるまで待って、枕元の時計を確認する。

  月明かりに照らされたそれが、約束の時間が近いことを知らせる。

  「……」

  音を立てずに立ち上がると、闇に溶ける毛色をした犬人を見下した。

  ルート・クレイモア。

  今日はいろんなことがあったが…今はいつも通り、幸せそうな顔ですやすやと眠っている。

  「……おい、ルート」

  小さく声をかけるが、起きる気配はない。

  良し。

  俺は枕元に置いてある小さな石を手に取ると、右手でそれを包み込むように持ち、念じる。

  (…『眠れ』)

  口にした呪言に呼応して、手の中の魔石が薄っすらと紫色に輝く。

  これは、指定した者を眠らせる魔法だ。

  すでに眠っている相手に使った場合は、より深い眠りへと落とすことが出来る。

  本来の俺は魔法を使えないのだが、魔法剣を打つ際に素材として扱う魔石を触媒にする事で、初歩的な魔法であれば行使することが出来る。

  少年の目の周りが、一瞬だけ紫色にふっと光り、すぐに消える。

  ――これで、朝まで目を覚ますことはないだろう。

  ふぅ、と息を吐くと、俺は寝室を後にした。

  質素な木綿のシャツと、木綿のパンツ、と言ういでたちの俺は、椅子に掛けてあったズボンを手に取り、足を通す。

  そして一旦寝室で眠っている犬人の寝顔を確認すると、静かにドアに手をかけ、家の外へと足を踏み出した。

  月明かりできらきらと夜気が煌めく中、しんと静まり返った道を、鼻歌交じりで歩く。

  日中はそこかしこで鉄をたたく音が響いているが、夜中にそんな事をする馬鹿はいない。

  皆、早朝から働くために夜は早く眠りについている。

  だから、こんな時間に外を出歩く奴なんて普通はいないし、いたとすればそれは大抵ろくでもない目的をもって動いている。

  今の俺のように。

  ほどなく、闇の中にぼうっと浮かぶ白塗りの建物…大浴場の前に到着する。

  中からは、大量の水が循環する音が止まることなく聞こえてくる。

  

  辺りに誰もいないことを確認すると、大浴場の外壁を沿って、反時計回りに進んでいく。

  音のない夜に、足音だけがひたひたと響いていた。

  ――別に、これから犯罪を行う、とかそういう訳でもないのだが。

  ここに来るときは、毎度なんとなく後ろ暗い気分になる。

  そうして歩き続け…やがて裏門に到着すると、躊躇うことなく敷地内に侵入した。

  静寂と、まとわりつくような湿気が俺を迎える。

  俺は従業員以外侵入厳禁の通用口を、慣れた調子で進んでいった。

  そして、一枚の扉の前で足を止めた。

  扉の隙間からうっすらと橙色の明かりが漏れ、俺の足元に光の筋を落としている。

  俺は小さく咳ばらいをすると、扉を三度、ノックした。

  すると、反対側から、同じようにノックが三度、コンコンコン、と返ってきて。

  それを確認した俺は、『鍵言葉』を口にする。

  数秒後、扉の錠が外される音と共に、静かに扉が内側に開き。

  「――待ってたぜ、子猫ちゃん」

  聞きなれた声が、俺を出迎えた。

  「黙れクソ犬」

  軽口を返しながら扉を潜ったそこは、人が数人溜まればいっぱいになってしまうような、窮屈な小部屋。

  趣味の悪い香の匂いと、蠟燭のおぼろげな明かりがどことなく陰鬱な雰囲気を醸し出している。

  開いた扉の隣で、声の主である犬人が、ニタニタと笑いながらこちらを見ていた。

  引き締まった中肉中背の体のところどころに、痛々しい傷跡。

  首には太い首輪。首元にはそれを外すための錠がぶら下がっている。

  ギリギリ陰部が隠れるように作られたマイクロサイズの革の下着を穿き、それ以外は裸の犬人は、俺の下腹部に無遠慮に手を伸ばしてくると、

  「なぁ、いい加減俺とも遊んでくれよ」

  掌で俺の股間を包み、揉みしだいてきた。

  発情しているのだろう。

  目が真っ赤に充血し、革の下着は今にも弾けそうなほど膨らんでいる。

  うっすらと香る薬のような体臭は、男が万年発情期になる薬物を日常的に摂取している事を証明していた。

  あれは違法な薬物のはずなのだが。

  「いつまでも裏門の番しか出来ないお前さんが悪いんだろ。

  俺と遊びたきゃ、他のヤツに門番を代わってもらえ」

  ……とは言え、こういうヤツと遊ぶのもまんざらではない。

  下腹部が熱を帯びるのを感じながら、俺も犬人の股間に右手を這わせた。

  ずっと我慢しているのだろうか、そこは痛いほど屹立していて、なんだか哀れだ。

  「てかお前、俺が門番の時にばかりくるじゃねぇか!

  俺のこと嫌いなのかよ!」

  「ははは。

  偶然だよ。

  それに、ワンちゃんはお預け食らってるのがお似合いだ」

  俺は笑いながら歩みを始めると、すれ違いざまに門番の尻をパンとはたいた。

  普段から鞭で叩かれ、感度抜群になったそこに触れられ、ギャン、と犬が鳴いた。

  

  ――さて、そろそろ行かねば。

  夜は短い。

  俺はその場を離れ、薄暗い通路の先へと歩を進める。

  やがて、脱衣室に到着すると。

  躊躇うことなく中へ入った。

  普段は大勢の客でひしめくこの脱衣所も、この時間にはひっそりとしている。

  

  俺は一番手近な棚に向かうと、手早く服を脱いだ。

  一糸まとわぬ姿になると、自身のペニスを見つめる。

  これから行う行為に期待し、ゆっくりと膨らむそれを小さく鼻で笑うと、俺は浴場の中へと続く扉を開いた。

  

  ざぁざぁ、と大量の湯が大きな湯船から溢れ、水音がうるさい程響いている。

  先ほどまで薄明かりしかなかった通路とは違い、浴場内は真昼のように明るく照らされていた。

  思わず目を細める。

  今の今まで闇に慣れていた目には、この明るさは少々辛い。

  やがて眼が明るさに慣れてきたころ。

  そろそろと俺は歩き始め…

  「よぉクラス!!お前も来てたのか!」

  ふいに、少し離れた場所から親し気な声。

  俺はそちらに目線を向けると、視界に入った声の主に挨拶をする。

  「おっ、ライ!ここじゃ久しぶりだな!!」

  全身の毛をぐっしょりと濡らした、焦げかけのパンの様な毛色をした全裸の犬人が、そこに立っていた。

  ライは、うちのはす向かいに店を構える金具屋の倅で、俺と同い年だ。

  親孝行が趣味の気のいいやつで、俺も普段から懇意にしている。

  俺と同じく、日がな一日ハンマーを振り回す生活をしているせいか、全身が鎧のような筋肉に包まれている。

  こうしてずぶ濡れになっていると、その筋肉の隆起がより一層目を惹いた。

  

  尻尾を振りながら腰に手を当てて仁王立ちするライは、俺の股間に目を落とすと、

  「今からか?」

  

  と言って笑った。

  そんなライの赤黒い股間は、ぐいっと天を向き屹立している。

  素朴で人の好さそうな顔をしているせいか、それがとてもアンバランスに見えた。

  「今来たとこだよ。

  お前は?」

  俺が返すと、犬人は胸を張って、

  「俺は一時間前くらいだな。

  ちょうど今、一発やってきたとこだぜ」

  自慢げに鼻をふんふんと鳴らす。

  ま、精力絶倫のこいつからすれば、最初の一発なんてただの上澄みに過ぎないんだろうが。

  「誰とヤってたんだ?」

  質問すると、笑顔を崩さぬままで、

  「ん?親父」

  犬人はあっけらかんと言う。

  「……お前、ほんと親父さん好きだよな」

  普段、ライと一緒に店を切り盛りしている人の良い笑顔の親父を思い出す。

  「いいじゃねぇか、男手一つで育ててくれたんだ。親孝行だよ、親孝行」

  股間の逸物をゆさゆさと揺らしながら笑うライ。

  コイツは天真爛漫、豪放磊落、誰が接しても納得の好青年なのだが、少し変わっている部分がいくつかあって。

  まず一つ。それは、性に関してとても自由な所。

  仕事づきあいを始めたばかりの頃は、事あることに俺の体にべたべた触っては、一緒に楽しい事しようぜ、と誘ってくるこいつにドギマギしていた物だ。

  まぁ、俺ももう子供ではないので、流石に慣れてしまったが。

  

  そしてもう一つのちょっと変わっているところ。

  それは、実の父親に真剣に好意を持っている、という所だ。

  店先で商いをしている時も、一見しては気づかないのだが、時々ふとした拍子に父親の尻や腹を触ってニタニタと笑っている。

  

  そんな、普通であれば報われない恋をするこの男なのだが…

  俺達が談笑していると、いつの間に近寄ってきていたのだろうか。

  話題の男がライの後ろから顔を出した。

  「おいライ、お前ワシを置いて…と、クラスじゃねぇか!」

  へへへ、と笑いながら初老の犬人が手を振る。

  こんばんは、と俺も手を振り返した。

  ガフ。

  ライの実父にして、昔から何かと俺を気にかけてくれる、大切な恩人だ。

  年齢は詳しくは聞いていないのだが…50前後だろうか。

  息子と同じ色の体毛に、ふさふさと揺れる大きな尻尾、いかにもいい人、という感じのまん丸の目。

  数年前から肉体労働のほとんどを息子に一任しているせいか、この父親の体系はすこし丸く、柔らかい。

  加齢によりところどころ色褪せている体毛は、衰えというよりも大人の色気を感じさせる。

  股間には使い込まれて黒ずんだペニスと、大きな睾丸が二つ。

  普段は完全に皮に包まれているその逸物は、ライのように回復が早くないのか、今は萎びていた。

  ガフは、息子とそっくりの明るい笑顔を浮かべると、

  「なんだ、もうちょっと早く来てくれてたらライとワシと、3人でヤれてたのによ」

  と、こともなげにとんでもない事を言う。

  ……この親にしてこの子あり、というか、この子にしてこの親あり、というか。

  ガフも、性に関しては驚くほど奔放で。

  それはなんと、息子に対しても同様だった。

  「親父、俺だけじゃ満足できねえのかよ」

  じろりと実父を睨むライ。

  「はっはっは、クラスのチンポをおしゃぶりしながら、息子のチンポでケツを抉られて哭くのがいいんじゃねえか」

  がはは、と腹を揺らしながら笑うガフ。

  朗らかな顔で、なんともインモラルなことを言う父親だ。

  ――初めてこの二人が当たり前に交わっているのを目の当たりにしたとき、俺は大層混乱したものだ。

  義理の親子ならともかく、実際に血が繋がっているのに、平気で互いの肉体に欲情できるその関係に、戸惑いと同時に謎の感動のような物すら感じる。

  

  とはいえ、恋慕を募らせる息子とは違い、父親にはそういう気持ちはない、とライには聞いた。

  因みに、ライの母親…つまりガフの奥さんは、10年ほど前に他界している。

  向日葵のように笑顔の眩しい人だった。

  だから、ガフがライをこうして受け入れているのは、奥さんがいない寂しさを埋めるため……と思っていたのだが、実は奥さんが存命のころから、二人は隠れてヤる事ヤってたらしい。

  なんというか、面白い親子の関係というか。

  普通は白い目で見られて当然なのだろうが、俺はいろいろあってその関係をむしろ羨ましいと感じる事すらある。

  

  「じゃ、じゃあ今から2回戦目」

  物思いにふけっていた俺の前で、人差し指を立てながら懇願する息子。

  「アホ、腰がぶっ壊れるわい」

  呆れた顔で父親が言う。

  後ろ手で腰をトントンと叩いている辺り、なかなかハードな絡みをしていたのだろうか。

  成熟した魅力をもつガフだが、精力が衰えているせいか連続で事に及ぶことが出来ない。

  いや、まぁ普通はそれが当然なのだが。

  息子が絶倫なのだから父親も絶倫、という訳でもないようだ。

  「っくぅー…まぁしゃーねぇ、じゃあ俺は別の男を探すかな」

  「おぅおぅそうしろ、ワシはそこらへんで休んでるからよ」

  ばりばりと後頭部を掻くライと、通路の端にあるベンチに向かって歩き始めるガフ。

  

  「そういうわけで、クラス。お前もいい男探せよ。

  …ってか、今から俺とヤるか?」

  ライの手が、俺の股間に伸びてくる。

  いつも店先で、顔を突き合わせて軽口を叩く時と同じような気軽さで。

  俺の敏感になっている鈴口に指先をあて、半分被っている包皮を剥く様に、軽く力を込めてしごき上げてくる。

  それに痺れる様な興奮を覚える、が…

  「……や、ちょっと今夜は先約があってな。

  悪いがまた今度。

  またそのうち三人で遊ぼうぜ」

  そう言って、失礼のないよう優しくその手を振りほどいた。

  えー、と残念そうに耳を伏せるライ。

  普段店先で汗と鉄粉に塗れ、煤だらけになりながらも笑顔で働いているコイツが、夜はこんなことをしているなんて。

  そのギャップに気持ちが昂ってしまうが。

  「ま、とにかく。

  また今度な」

  正直俺だってお前とヤりたいよ、などと思いつつ、その寂しそうに尖った口先に、俺はそっと口づけて。

  そして、じゃあ、と手を振ってその場を離れた。

  

  俺は気を取り直すと、目当ての人物を探して歩く。

  視線を巡らせてはいるのだが、どうもこの近くにはいないようだ。

  面倒くせぇな、と舌打ち交じりに一人ごちながら、俺はのしのしと歩を進める。

  大浴場内のあちこちで、行為にふける男達を見る。

  全て、この金物通りの関係者だ。

  ちょっと離れた場所では、金物通りの端で農具を作っている馬人が何やらもぞもぞと動いていて。

  よく見ると、鉄鋼商人をしている狼人がその逸物を必死でしゃぶっていたり。

  反対側では、鎧鍛冶師の犬人3兄弟が、金物通りの警備を取り仕切っている壮年の熊人を3人で嬲っていたり。

  まぁ皆、好き放題やっている。

  ……この大浴場。

  実は資金集めをする際に、当時の商会長から一部の人間に対して、ある提案があった。

  それが、『閉店後、深夜帯に限り、高額資金提供者限定で自由に使用できる場所として開放する』というもの。

  

  鍛冶師ばかりが集うこの金物通り、一つの問題があった。

  それは、女性が寄り付かない、という事である。

  打った武器や包丁等の調理器具は、全て基本的にバザールで取引され。

  わざわざ鍛冶屋に直接足を運んで来る様なもの好きは、大抵が男と相場が決まっていた。

  たまに女の客が来ることがあっても、むさ苦しい鍛冶師達がそのお眼鏡にかなう訳もなかった。

  春を売る女性を斡旋しようと女衒が通りを訪れることもあるのだが、女遊びにうつつを抜かせるほど余裕のある奴は一握りで、大抵の貧乏な男たちはその性欲を持て余し。

  女日照をこじらせた男たちは、自然と男同士で性を処理しあうようになったのである。

  

  とは言え、当然男が無理な者や、普通に結婚している者だって大勢いるわけだ。

  そこで『そういった人種』に理解のあった商会長が、『そういった人種』の情報を集め特定したうえで、大浴場に出資者を募る際に、少々多めに資金を提供してもらう見返りに、夜の大浴場を開放するので、そこで男同士で好きに『遊んで』はどうか、と提案した。

  こうすれば、夜間人目につかない場所で気軽に遊べるようになるので、男同士で発散したい者はすれば良いし、そうじゃない者はその場所の存在すら知らないのでストレスにならない、という寸法である。

  その提案に多くの鍛冶師が乗り、とんでもない額の出資が集まった結果、巨大な大浴場が完成。

  同時に、俺たち金物通りの鍛冶師連中の自治の元、真夜中の乱痴気騒ぎが自由にできる場所として、こうして大浴場は毎夜開放されている訳だ。

  

  俺も商会が資金集めをしていた当時、先ほど出会ったガフから資金提供の話を持ち掛けられ、二つ返事で資金を提供したので、今こうやってやりたい放題出来ている。

  +++++

  

  「――遅かったじゃねぇか」

  大浴場の奥まった場所にある、蒸気風呂の中で。

  一人の牛人が待っていた。

  ベイク。今回俺を呼び出した張本人だ。

  「ま、うちの黒いのが寝付くまで待ってたからな」

  そう答えた俺に対し、へぇ、と興味なさげに言うと、牛人は立ち上がり、こちらに近づいてくる。

  既に固くそそり立つ逸物と、精液を溜め込んで丸々と太った睾丸がゆらゆらと揺れる。

  分厚く鍛え上げられた胸には、絞れば乳が出るのではないかと錯覚するような立派な乳首。

  日ごろから遊んでいる結果だろうか、大きく肥大していた。

  「待ちくたびれて萎えちまいそうだったぜ?」

  と、まるで萎える気配のない逸物をさすりながら牛人が言う。

  

  大きさは、俺の物と同じくらいか。

  牛人としては少し控えめだが、それでも十分なサイズと言えよう。

  普通の牛人のチンポは大きすぎる。

  遊ぶならこれくらいがベストだ。

  

  だが、その強気な態度は気に食わない。

  普段のベイクを知る俺は、少し悪戯心を出す。

  「…ほんとは、ライとやりたかったんだがな…」

  その余裕しゃくしゃくといった顔を眺めながら、俺がぼそっと呟くと…

  「はぁ!?あんな犬ッコロより俺のほうがいいだろうが!!」

  急に声を荒げ、牛人は顔を真っ赤にして抗議した。

  この牛人……大浴場で清掃係を務めているベイクは、ライの事が大の苦手だ。

  どうも、幼いころにライにされた悪戯のせいでトラウマが出来ているそうで…

  

  「知ってるぞ、お前ライのせいで虫がダメになったんだろ」

  俺は挑発するように言う。

  牛人の顔が赤く染まっていくのは、熱気のせいだろうか、それとも怒りのせいだろうか。

  「ぐ、ぐぬぬぬ、べ、別にライなんて今はどうでもいいだろ!!」

  かつて自分のシャツの中に、背中から大きな甲虫を突っ込まれて以来、全ての虫に拒否反応を示すようになった哀れな牛人は、精一杯の虚勢を張る。

  しかし…

  「呼んだ?」

  「ぬおおお!!!」

  俺の背後からひょいっと顔を覗かせたライを見て、牛人が絶叫した。

  「お、良いところに」

  俺は驚いたふりをする。

  ――実は、先ほどからライが俺を驚かそうと、こっそりと後を尾けていた事に気づいていた俺。

  話題に出せば絡んでくると睨んでいたのだが、期待通りこうして来てくれた訳で。

  「呼ばれた気がして」

  ひょいひょいと歩いてきたライは、俺の前で焦る牛人を見て、

  「お前の相手って、コレなの?」

  と呆れたような顔をした。

  言いたいことがわからないでもない。

  その様子にむっとしたようで、なんだその言い方は!と牛人が抗議した。

  「お、お前はあっち行け!

  俺はお前が嫌いなんだよ!!」

  しっしっ、と手で虫を払うそぶりをするベイクだったが、ライはにやりと笑うと、

  「へぇ、じゃあ3人で遊ぼうぜ」

  「俺の話聞いてる!?」

  ベイクの抗議は無視して俺の顔を見る。

  「…一応、事情だけ説明しとくが…」

  

  騒いでいるベイクを背景に、なぜベイクと今夜『遊ぶ』事になったのか…つまり、俺がルートとくっついて勃起していたのを見られた(疲れマラという事にした)こと、そしてそれをルートにばらされたくなければ、今夜ここに来るように言われた事…をライに伝えると。

  犬人は目を笑みの形に歪めて言う。

  「…お前に、クラスを脅迫するような度胸があったんだな」

  確かに、普段大浴場で、ニキの尻に敷かれながらあちこちに荷物を運んだり、ミルク瓶を几帳面に並べている姿からは意外に感じられる。

  むしろ、脅迫される側がお似合いなのだが。

  

  「と、とにかく!

  俺はお前と3人で、なんて絶対にごめんだからな!!」

  と強がるベイクの前に、つかつかと歩み寄ると…

  「まぁまぁ、落ち着けよ牛君」

  犬人は言いながら、不意打ち気味に牛人の口に自分の唇を重ねた。

  「~!?」

  言葉にならない声を上げる牛人の口の中に、顎をぐいぐいと前後させて強引に舌をねじ込んでいく犬人。

  ライのペニスが、グロテスクな生き物のように怒張しきっている。

  ――ライは、とても温和で友人思いで、親孝行に精を出し誰に対しても人当たりのいい、本当に本当に善いヤツなのだが、実はとんでもなく嗜虐的な性格をしている。

  普段俺やガフにはそういった行動に出ることはないのだが…

  牛人の口に舌を差し込みながら、右手で牛人のペニスを鷲掴みにし、左手を牛人の頭の後ろに回し。

  キスから逃げられないように強引に押しとどめながら、牛人の逸物をごしごしとこするライ。

  牛人の先端からぴちゃぴちゃと音を立てて、透明な汁が飛び散っている。

  

  ふご、と情けない声を上げてベイクがついに地面に座り込むと、ライはその上から押しかかり、強引に股の間に自分の腰を押し込み、正常位の体制を取る。

  犬人が腰を前後させて互いのペニスを擦り合わせ始めると、牛人が涙声でやめてくれ、と懇願し始めた。

  しかし、ベイクのそれは萎える様子を見せず、むしろ硬さを増しているようにも見える。

  雄同士が重なり合い、仄かに汗交じりの淫靡な匂いが漂い始める。

  

  「や、やめろ、ライ、いい加減に」

  と言う割には一切の抵抗がないベイク。

  

  ――ああ、これが『わからせられる』ってヤツなんだな、なんて考えていると。

  

  「クラス、ちょっとこっち来いよ」

  と目を輝かせながらライが呼んだ。

  「コイツ、クラスのをしゃぶりたいってよ」

  「そっ、そん、そんなことっ、あっ」

  がくがくと大腿部を震わせながら、ベイクが声を荒げる。

  が、下腹部を襲う快楽に抗えないのかそれ以上は続かない。

  

  二人の行為を見て、流石に俺だってムラムラしてきたので。

  何も言わず、牛人の鼻先にチンポを差し出す。

  半分萎えたそれを目の前で揺らしながら、

  「しゃぶりたいか?」

  

  と声をかける。

  俺は別に嗜虐を好むわけではないが、ここで強気にいかないと興が削がれる。

  すると、いつの間にかライの左手によって乳首を攻められ、右手で肛門を愛撫されていた牛人が、

  「きょ、今日は俺がお前を、お、犯すは、はず」

  息も絶え絶えに俺に向かって虚勢を張る。

  目は怒りや悔しさが混じった色に滲み、鼻息も随分荒い。

  意外にもプライドはまだ折れていないようだ。

  しかし…

  

  「ん-、そうかぁ。

  でもいい子にしないと、チンポ挿れてあげないよ?」

  ライが意地悪そうに言うと。

  急に、ベイクは動きを止める。

  「ち、チンポ…」

  「ああそうだ。

  俺のチンポ欲しくないか?」

  ライが腰を浮かせ、太い血管が走るそれを見せる。

  ベイクの腹が呼吸に合わせて前後し、ライの逸物と向かい合わせになった牛人の逸物からも、たらたらと透明な雫が垂れていた。

  「さっきから、お前の中に挿れたくてうずうずしてるんだけどな」

  攻め始めてテンションが上がったのか、最初俺と出会った時よりさらに太く、そして大きくなっているそれ。

  先端にぷっくりと透明な水滴の塊が出来ているところを見るに、ライも相当興奮しているようだ。

  ベイクは俺たちの顔を交互に眺め、

  「う、その…」

  まるで狼狽える子供のように、なんとも切ない顔をする。

  草を反芻する時のように、もごもごと口を動かすだけになり…

  「ん?なんだ?言ってみろよ」

  ライが、ベイクの肛門に中指を挿し込んだ。

  ひっ、と牛人の体が震える。

  「ここにチンポ欲しくないの?」

  「う、ぬ…」

  背筋を弓なりに曲げ、快感に眉を歪めるベイク。

  ぎり、と歯を鳴らす音が響く。

  「何?」

  「……ほ、欲しい…です…」

  がくり、とうなだれて。

  ベイクが降参した。

  そして。

  おずおず、と分厚い舌を伸ばすと、俺のペニスの先端にあてがう。

  「おね…おねがいしあふ…」

  尻に指を挿し込まれ、目の前のペニスに舌を伸ばして。

  ベイクが、完全に陥落した。

  煽情的な態勢の牛人を見て、俺も興奮してくる。

  「しゃーねぇなあー、そんなに俺のが欲しいのか。

  仕方ねえなこのマゾ牛は」

  荒い息を吐きながら、イキイキとしているライ。

  普段俺には絶対見せない顔で、牛人をどう蹂躙しようか考えるその表情に、少しゾッとしてしまった。

  「まずはクラスに謝れよ、な?」

  「は、はい、す、すいませんでした…」

  

  頭をぺこぺこと下げるベイク。

  さっきまでの反骨心はどこへやら。

  これではまるで子供である。

  するとライは笑顔で、よく謝れたな、ご褒美あげるよ、と言って、ベイクの尻に刺していた指の数を増やした。

  

  「あっ、んご!!!ぶ、ぶふぅうう」

  突然の事に驚くベイクだが、その顔が紅潮しているところを見ると悦んでいるようだ。

  犬人が尻をほぐす指の動きを激しくするが、牛人はそれが気持ちいいのか、腰を動かして自分から押し付けているように見える。

  勝てないと悟って諦めたのか。

  それとも、実はライの事を嫌いと言っておきながら、その実好意を寄せていたのか。

  真意は不明だが、どちらにせよ愉しそうなので、これでハッピーエンドなのだろう。

  しかし、今後普通のセックスじゃ物足りなくなるんだろうな、とベイクが少し哀れになった。

  やがて…

  「あ、じゃあそろそろチンポ入れるからさ。

  クラスもご褒美にしゃぶらせてあげなよ」

  「ん、おう」

  二人の様子を見ながら逸物をしごいていた俺は、よいしょ、と牛の目の前に座った。

  上反りのペニスをしごくと皮もずりずりとめくれ、隙間から薄っすらと小便臭い匂いが漂う。

  ライはこの匂いが好きだと言っていたが、俺は自分の匂いが好きにはなれない。

  「ベイク、お尻見せて」

  「は、はい!」

  言われて四つん這いになるベイク。

  そのまま俺のチンポに舌を伸ばすと、はぁ、と恍惚の表情をする。

  足を伸ばし、足先でベイクのペニスを触ると、びくびくと腰を震わせる。

  「んじゃ挿れるよ~」

  長閑な声で、ライ。

  そして、牛人の雄穴に自身の先端をあてがうと。

  「じゃ、ベイク。

  これからも俺にいじめて欲しかったら、ちゃんとおねだりして」

  

  と、目をぎらつかせながら言う。

  コイツも好きだな…。

  

  言われたベイクは、嬉しそうにしゃぶっていた俺の逸物から口を離す。

  涎が糸を引いた。

  「い、いれて」

  焦点のあっていない目で、躊躇なく呟く。

  「俺の尻に挿れて…」

  「なんか普通だな」

  ライが呆れたように言う。

  「つまんないからおあずけかな」

  「えっ!!」

  焦ったように目を白黒させるベイク。

  確かに、ここまで来てお預けを食らうのはたまらないのだろう。

  

  「ちゃんといやらしくおねだりしろよ」

  犬人が再度催促すると。

  顔を真っ赤に染めて、涙と鼻水を垂らしながら、

  「ううう、おれのマンコに、ら、ライのチンポ入れて、ください」

  牛人が言った。

  瞬間、なんの躊躇いも予兆もなく、ライが腰を突き出す。

  

  「ぶっ、ぶおっ!!!」

  驚いたベイクが奇声を発した。

  表現しがたい鈍い音が響き、続いて少しだけ鉄の匂い。

  流石に少し痛そうで、俺はちょっと萎えてしまう。

  牛人を屈服させた犬人は、荒く息を吐きながら、べろりと舌なめずりをして。

  ベイクの尻を鷲掴みにすると、全身の筋肉を躍動させ、勢いをつけてベイクを突き刺し始めた。

  「うおっ、す、すげぇな…」

  

  思わず声が漏れる。

  

  浴場内の湿気で水滴がついていたのか、うっすらと飛沫を上げながら、がっ、ごちゅっ、と接合部から音が漏れ。

  力任せにベイクを蹂躙するライと、被虐心を丸出しにし、肛門を破壊されながらも快感に顔をゆがめ、逃げようともしないベイクの姿に俺も一層昂る。

  ベイクは背後から何度も何度も突き上げられながら、がむしゃらに俺のペニスに貪りついた。

  ぬるりと熱い牛の口が、俺の下半身を包み込む。

  ライが乱暴に突き上げるたびに、ベイクの体がゆさゆさと揺れ、そのランダムな動きが予想外の快楽を与えてくる。

  俺の口からも、知らず知らずの内に熱い息が漏れていた。

  そうやって、数分が経過しただろうか。

  「――お、やっとるの!」

  「ガフさん」

  俺が首を回すと、そこにはガフの姿があった。

  休憩を終えたのだろうか、首からタオルをかけて上機嫌な顔で歩み寄る。

  そして、牛人を勢いよく犯す息子の姿と、その牛人にしゃぶられている俺を見て、

  「ええのぉ、ワシも混ざりたい所じゃが…」

  と、少し寂しそうな顔をした。

  見ると、先ほどは萎びていたガフの逸物が、半分ほど勃起している。

  普段は完全に包皮に包まれた先端から赤黒い亀頭が覗き、俺の鼻を雄の匂いが刺激した。

  年若くないガフのペニスからは、加齢臭もあるのかもしれないが、ライのそれにはない熟した芳香がする。

  正直なところ、俺はこのガフの匂いが好きだった。

  ライが本気で恋をしていなければ、もしかしたら俺がガフの虜になっていたかもしれない、と思う程度には。

  俺はその美味そうな逸物を前に頭が真っ白になり…

  「じゃあ、そのチンポしゃぶらせてくれよ」

  と、無意識に提案していた。

  「お、いいのかい?」

  目を輝かせるガフさん。

  逸物がぐっと持ち上がる。

  興奮してくれたのだろうか、ちょっと嬉しい。

  「ああ、口寂しくてね」

  俺はべろりと舌を出すと、舐めさせてくれ、と表情で懇願する。

  ガフは息子と同じく、無垢で満面な笑顔を浮かべると…

  「おお、うれしいねぇ。

  じゃあ、ちょっと失礼して…」

  よいしょ、と俺の目の前に、その太った逸物を差し出した。

  亀頭の先端に鼻先を当てて深呼吸すると、胸いっぱいに熟成した匂いが充満し、切ない気持ちになる。

  包皮と亀頭の間に捻じ込むように舌を挿し込むと、ガフがうん、と唸った。

  舌先が粘りを帯びる。

  先走ってくれたのだろうか。素直に嬉しい、と感じてしまう。

  まだ完全に回復しきっていないのか、逸物は完全に勃起しきらずに少し柔らかいが、それはそれでエロティックだ。

  「あ、クラスいいなあ、俺も親父のチンポしゃぶりたいのに…」

  恍惚としながら老犬のペニスを味わっていると。

  腰を何度も何度も叩きつけながら、ライが羨ましそうに言った。

  牛人はそんな俺らの姿を見て余計に欲情したのか、ガクガクと腰を震わせている。

  絶頂が近いようだ。

  俺は横目で牛人を見ながら足を延ばし、その逸物に足先をあてる。

  くすぐる様に触ったそこに、白く粘る液体が付着した。

  そして。

  10分ほど経った頃だろうか。

  各々が、各々の快楽を貪っていると…

  「うっ、ううっ!!!!!」

  急に牛人が呻くと、俺の足に熱い飛沫が飛んだ。

  俺の足に、強烈な熱を持った液体がびゅっびゅっとかかるのを感じる。

  さすが牛人、量が凄いな、と感心していると。

  「よし、じゃあ俺もそろそろ出すかな」

  それを見たライが、全身を弓なりにして腰を叩きつけた。

  ライの豊かなしっぽがぴくぴく、と震えている。

  「お、イったなライ!」

  嬉しそうなガフ。

  さすが父親、見ただけでわかるのだろうか。

  それはそれでどうかと思うが。

  「よし、じゃあワシも…」

  息子の絶頂に興奮したのか、口の中のペニスが硬さを増した。

  俺はガフのペニスを口から離す。

  つつ、と唾液が糸を引く。

  ふうふうと息を吐きながら、目の前の逸物に胸を躍らせて。

  俺はおねだりをする。

  「ガフさん、顔にかけてよ」

  舌を精一杯伸ばし、大きな睾丸をべろべろと舐める。

  睾丸にまばらに生えた太い毛が口に入る。

  「クラスもライと一緒で甘えんぼじゃの。

  よし、じゃあご褒美をやるぞ」

  満面の笑顔で俺の頭を撫でると、ガフさんが逸物をしごき…

  数秒ののち、びくびく、とガフの逸物が震えて、どろどろと濃い精液が俺の鼻先を濡らした。

  「うん、ああ、すげぇ…」

  ふう、ふうと肩を上下させて息を吐くガフ。

  一滴でも逃したくない俺は舌を伸ばして、自分の口の周りと、そしてガフのペニスをぴちゃぴちゃと嘗め回す。

  強烈な青臭さと塩気、そして親友が愛する父親の精を、親友の目の前で受けている、という背徳感が脳をまっさらにする。

  「クラスいいなぁ…」

  堪能している俺を見て羨むライ。

  そして俺にも絶頂が訪れ。

  「んっ、うっ!!!」

  下半身をぶるぶると震わせながら、ベイクの口の中に、どくどくと精を放った。

  

  「う、お、おいし」

  ベイクが間抜けな顔で言う。

  喉の奥まで俺のペニスを咥えこみ、全て呑み込もうと必死な顔だ。

  

  プライドが崩れて、良い顔をしているな、とふと思った。

  「親父、親父」

  顔を上げると、ライがガフにキスをせがんでいる。

  仕方ないの、と呆れたように笑うガフ。

  

  そして、ガフが腰を曲げると、親子は濃厚なキスを始めた。

  恍惚とした顔のライが腰を引き、ベイクの肛門から逸物がぬるりと排出される。

  あっ、と牛人が寂しそうな声を出した。

  「――てワケで。

  また犯してほしかったら、つまんねぇ事言い触らすんじゃねえぞ」

  全てが終わった後。

  ガフに後ろから抱きついたまま、ライが口止めする。

  「わ、わかりました…すいませんでした」

  最初の勢いはどこへやら…

  ベイクがうなだれて頭を下げる。

  こうして素直にしてれば可愛いんだがな…。

  「ま、4人で遊べて楽しかったよ。

  まあその、俺は別に怒っちゃねぇから」

  俺の許しに、ベイクがぱっと表情を明るくする。

  「本当にすまねえ、次からはあの従業員用の風呂、いつでも使ってもらっていいからよ」

  提案する牛人。

  「そりゃありがたい。

  また使わせてもらうぜ」

  これで、ルートといつでもゆっくり風呂に入れるな。

  意外な展開に、ほくほくとしてしまう俺だった。

  +++++

  帰宅すると、ルートはまだ眠っていた。

  ベッドに入る準備を終えた俺は、ベッドの隣に立つと、その頬にそっと指を這わせる。

  ビロードのような触感、ふわふわの獣毛の波。

  窓から差す月明かりはまだ明るく、黒い被毛に反射して眩しい。

  ルートの顔をまじまじと見る。

  まだ幼さが残る、成年へとうつろいゆく顔。

  寝息は小さく、耳を澄まさないと聞こえない程だ。

  ベッドに入り、ルートの口元に俺の口を近づけて。

  

  そっと、触れたか触れていないか、判らないほどの口づけをする。

  「――愛してるぞ、ルート」

  ガフとライの姿を思い出しながら、俺は小さく呟く。

  血の繋がった親子でも、あんなに奔放に愛し合えるなら。

  血のつながらない俺達だって、あんな風に…。

  良からぬことを考えてしまう。

  ……駄目だ駄目だ、と自身を戒めるように俺は強く目を閉じた。

  まだ半人前のころ、思いがけず拾ってしまった小さな黒い犬。

  

  俺自身、体毛が白い事で奇異の目で見られていたので、この赤子が今後どんな苦境に立たされるのか、理解できてしまって。

  どうしても、見過ごすことが出来なかった。

  毎晩、家々を回って。

  少ない賃金と引き換えに、金物の修理をさせて貰えないか、と頭を下げた日々。

  かつて乞食同然の生活をしていた俺は、飢えの苦しさを知っていたから。

  この黒い犬を飢えさせないために、どんな事でもやって来た。

  『包丁を研がせてください』

  俺が何度も口にした言葉だ。

  そして、実際に包丁を研いだことなんて、数えるくらいで。

  

  実際には、思い出したくもないような事をして、売れる春を売り、金に換えて。

  そんなことをしてでも、歯を食いしばって生きてきた。

  そして、ようやくルートが今のように頼れる存在になった今更になって。

  

  この黒い無垢な犬を犯したい、自分の物にしてしまいたい、なんて情欲を湧かせてしまった自分を、呪いたくなる。

  はぁ、とため息をつくと。

  「……ん、くらす?」

  ルートが目を覚ました。

  魔法が解けてしまったのだろうか。

  「おう、坊主」

  俺は枕元の魔石を、ルートからは見えない位置にそっと移動させる。

  

  「起きてたの?」

  「いや、小便に行ってただけだ」

  寝ぼけているのだろう、目をうつろに開くルート。

  頭をそっと撫でると、目をきゅっと細めて喜ぶ。

  小さな頃から、ルートは俺に撫でられるとこの顔をする。

  

  「さ、眠るぞ」

  俺が右腕をぐっと持ち上げると、うん、とルートは答えて、そこに自分の頭を載せる。

  そして、ものの数秒で再び寝息を立て始め。

  「――お休み」

  俺は、下腹部が再び熱を持ち始めるのを隠す様に、布団をかぶって。

  そして、眠りにつくのだった。

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