売春宿にて

  そこは広い草原であった。

  遥か彼方から吹き込む偏西風の余波が地平線の先まで広がる草花を揺らし、微かに甘い香りと雨露で濡れた若葉の匂いを漂わせる。青空は澄み渡り、白い雲が風に身を任せて漂っている。

  青と白のコントラストにより色塗られた空を見上げ、影は微かに鼻を揺らした。

  古代エジプトの冥界神、アヌビスの様なシルエットであるが、全身を空と同じ青い体毛で被われた影は草原に生える草花の中から特定の枯れた花だけを摘み、それを肩から下げた革製の鞄に入れる。

  兎のように生えた青い耳と頭部を被う黒い体毛、そして赤い瞳が強く印象に残る影、まだ年若いルカリオは牛革の鞄を満たす枯れた花に目を向け、嬉しそうに目を細めた。ルカリオは鞄の口を閉じ、地平線から漂ってくる灰色の雲に目を向け、僅かに青い耳を揺らす。

  ルカリオの優れた聴覚が、嗅覚が、そして波導が迫り来る豪雨を彼に知らせる。

  もう間もなく、この草原にも激しい雨が降ることを察したルカリオは踵を返し、駆け足で移動する。ルカリオの腰ほどの高さしかない草々が彼の動きに合わせて揺れ、微かな音を響かせる。

  風がルカリオの身体を撫でる。

  それに混じり微かに匂う牝の香りがルカリオに届き、彼は僅かに速度を落とし、草原の先に広がる木々の海に目を向ける。深い森林からは微かな牝の香りが漂っており、それを嗅いだルカリオは目を僅かに細め、そのまま木々の海に飛び込む。

  深い森林の中は青空を支配する陽光が殆ど差し込まず、先ほどの草原とは打って変わって湿気と暗さが広がっている。微かに湿った土とあちこちに生える苔の匂いにルカリオは眉を僅かに寄せるが、そのまま走り続ける。

  ルカリオの後方から雨音が木霊する。

  徐々に迫り来る豪雨を肌で感じたルカリオは、少しずつ下がりつつある気温に身を震わせ、そのまま走り続ける。だが、ルカリオの予想以上の早さで周囲は冷え込んできており、その寒さに身を震わせたルカリオは小さな嚔を漏らし、マズルに手を当てる。

  目的地までの距離と時間、そして下がりつつある気温と後方から迫る豪雨の存在、それらを互いに織り混ぜ考慮したルカリオは、牛革の鞄に手を入れ、中から布に包まれた物と小瓶を取り出す。炭と鉄粉を混ぜ内包した布に、小瓶に満たされた食塩水を数滴垂らす。

  ルカリオは小瓶を鞄に入れ、微かに湿った布を握り潰す。

  それを胸元や首筋など太い動脈の走る箇所に当てながらルカリオは走り続ける。布はやがて発熱し、その熱がルカリオの動脈を流れる血液を少しずつ暖め、彼の全身に程好く暖められた血液が送られる。その熱にルカリオは心地良さそうに耳を揺らし、走り続ける。

  彼の視界の端を緑の世界が流れていき、彼は1人深い緑の海を泳いでいる。

  やがて、ルカリオの頬に雨水が微かに付着しだした頃になり、ようやく彼は目的地に到着した。彼の視界に深い木々に囲まれた建物が映り込み、その軒下にルカリオは飛び込む。

  数秒後、雨音は大きくなり、豪雨が襲った。

  凄まじい雨量が森中に広がり、その冷たさに身を震わせたルカリオは微かに身震いさせ、建物の中に入る。

  それは2階建ての古い洋館だった。

  建造されてから四半世紀は経過しているだろうか、深い森に鎮座するそれは、まるで幽霊屋敷のようである。不気味な雰囲気が広がる洋館であるが、ルカリオは意にも介さず足を踏み入れ、玄関に置いてあるタオルで身体を拭く。豪雨で冷やされた外気とは反対に、洋館内の空気は一定の暖かさを保っている。玄関で身体を拭いているルカリオの視界に広間で赤々と燃えている暖炉の火が映り込む。さして広くない空間を暖めるには十二分過ぎる熱源をみたルカリオは目を僅かに細め、微かに湿ったタオルを脇に置いてある篭に放り込む。湿り気を帯びて重さが僅かに増したタオルは弧を描きながら飛び、篭の中に入る。

  ルカリオは濡れた身体を乾かそうと暖炉のある部屋に入り、牛革の鞄を床に置き、暖炉の前に座り込む。パチパチと薪が燃える音が微かに響き、時おり火の粉が暖炉内から飛び散った。

  その熱を全身で浴びていたルカリオの長い耳が微かに動く。

  薪の燃える音とは違う音、何者かの足音と強くなる牝の匂いから正体を見抜いたルカリオは、床に置いた鞄に手を伸ばし、その中を満たす枯れた花を取り出した。それらを近くの木製の篭に入れ、ルカリオは音が聞こえてきた方向に目を向ける。

  「頼まれた物は取ってきましたよ」

  枯れた花で満たされた篭を差し出し、ルカリオは隣室から入ってきた影に目を向ける。影、全身を黒い体毛で被われ、赤い毛髪の生えた姿はルカリオと何処か似ている。だが、その鋭い眼光は薄暗い室内でも妖しく輝いており、その目はルカリオの差し出した篭を捉えている。影、ゾロアークは括れた腰を振りながら歩き、周囲に微かな香水の匂いを広げる。植物から採取した天然の乳液とビークインが集める蜂蜜を混ぜ合わせた香水を身体の各所に塗ったゾロアークは、マズルから赤い舌を覗かせ、挑発的な笑みを浮かべ舌舐めずりした。黒い体毛は暖炉の炎と乳液により煌々と輝いており、彼女の豊満な胸と臀部、括れた腰を照らしている。香水に混じり広がる牝の匂いだが、ルカリオは至極冷静な表情のまま彼女の顔を見て、少し落ち込んだ雰囲気で隣室に目を向ける。

  ルカリオの差し出した篭を受け取ったゾロアークは、赤い染みが付いた白衣のポケットからガラス板を組み合わせたルーペを取り出し、篭の中にある枯れた花を見た。

  「...うん、オーダー通りの物だね。ありがとう」

  数々の枯れた花を確認したゾロアークはルカリオに礼を述べ、隣室へと歩いていく。その背中を見たルカリオは戸惑うように息を止め、やがて震える声を投げ掛ける。

  「その花が要るということは...彼らは...」

  花の意味、そして隣室の様子を紐付けたルカリオの質問にゾロアークは肩越しの振り向き、悲しそうな表情のまま首を左右に振った。その反応と開いた扉から見える隣室の光景を見たルカリオは目を伏せ、無意識に握り拳を作り、力を込める。

  ゾロアークはルカリオの心情を背中越しに感じ、悲しそうな表情のまま口を開く。

  「あなたに責任はないわ、オズワルド...救えなかったのは私の責任よ...」

  ゾロアークの言葉を聞いたルカリオ、オズワルドは目を伏せたまま唇を噛み締めている。心の底から沸き上がる悲しみを懸命に堪えようとする姿に、ゾロアークは悲しそうな表情のまま背中越しに見つめ、そのまま隣室へと歩きだした。

  その背中にオズワルドの声が向けられる。

  「ニコルも休んでください...貴方の体力も限界でしょう...」

  彼の言葉にゾロアーク、ニコルは「ありがとう」と応え、隣室へと消えていく。オズワルドはニコルの背中を目で追うが、やがて彼もまた歩きだし、隣室に入った。

  室内には生臭さと血の臭いで溢れている。

  それらはニコルの匂いを掻き消し、鋭い嗅覚を持つオズワルドは反射的に腹の底から込み上げる吐き気を抑え、ニコルの傍に寄った。彼女の視線は室内に設置された寝台に向けられており、そこには全身のあちこちを純白の包帯で被われたミミロップが寝ている。首もとに黒い装飾品を着けたミミロップの身体を被う包帯は、所々に赤い染みが浮かんでおり、寝台のシーツにも広がっている。

  ニコルがミミロップの包帯を変えようと手を動かす。

  包帯の下、そこには針と糸で縫合された真新しい傷口があり、体液と血液が滲み出ている。水分を吸い、乾いた包帯はパリパリと音をたてながらミミロップの身体から剥がれ、その痛みにミミロップは苦悶の声を漏らし、反射的に左腕をあげた。

  ミミロップの左腕は肘の辺りで終わっていた。

  前腕から先が欠損しているミミロップは全身に刻み込まれた傷による痛みと熱に苦しんでおり、朦朧とした目付きのまま虚空を見上げている。

  「...何で、私がこんな目に...」

  顔面に汗が伝い、シーツに新たな染みを作る。オズワルドは寝台脇に置かれているテーブルから新たな氷嚢を手に取り、ミミロップの汗を拭き、それを額に置いた。彼女の言葉を聞いたニコルは、何も言わずに煮沸消毒した布にアルコールを染み込ませ、ミミロップの傷口を綺麗にする。だが、ニコルが手を離した直後に新たな血液と体液が滲み出ており、それを見たニコルは悲しそうな表情のまま俯いた。

  やがて、ニコルは室内に置かれているケースに手を伸ばし、蓋を開ける。

  ケースの中には氷が敷かれており、その上に網が設置されている。ニコルは金網上に保存している小瓶を手に取り、その中身を注射器に充填する。ニコルは注射器とミミロップを見比べ、やがてミミロップの腕から延びる点滴のチューブに手を伸ばす。点滴のバイパスに注射器を差し込み、ニコルはゆっくりと指を動かした。

  注射器に充填された薬液、モルヒネは点滴のルートに侵入し、やがてミミロップの体内へと入っていった。

  その様子を目の当たりにしたオズワルドは、先ほど自身が集めていた枯れた花、芥子の花の効果を思い出していた。ニコルの手元には十分なモルヒネが無かった、それ故にオズワルドは新たなモルヒネを精製できるように芥子の花を集めていたのだ。

  モルヒネを投与されたミミロップは暫くの間は呻き続けていたが、やがて動きは収まり、ミミロップの全身から力が抜けていった。

  「...ゼクロム様」

  ミミロップはポツリと呟いた直後、目が閉じられ、静かに呼吸が止まった。ニコルは近くのランプを手に取ると、ミミロップの閉じた目を開き、ランプの光を当て、続けてミミロップの首もとに指を当てた。

  「...死んだわ」

  ニコルはミミロップの死亡を確認し、そのまま目を閉じた。

  オズワルドもニコルに倣い目を閉じ、ミミロップの魂が救われることを切に祈る。

  新たな呻き声が聞こえる。

  それを耳にしたニコルとオズワルドは目を開き、声が聞こえてきた方向を見る。そこには複数の寝台が置かれており、その上にはミミロップと同じように負傷したポケモンたちが寝かされている。黒い装飾品を着けた彼らの身体には手当てが施された形跡があるが、それでも傷の生み出す痛みと熱により苦悶の声を漏らしている。

  その光景にニコルは疲れた表情のまま溜め息を溢し、そのまま彼らの傍に歩み寄った。

  オズワルドもニコルの背中を追い、近くの寝台に横になっているポケモンの包帯を交換しようと手を伸ばす。

  ふと、オズワルドの視界に窓が映り込んだ。

  窓の外には負傷したポケモンたちで溢れており、誰もが黒い装飾品を着けている。黒い装飾品、それは『黒陰教』、またの名を『ゼクロム教』という宗教の信者たちが身に付ける証である。ゼクロム教の信者たちの身体に刻み込まれた傷は、何れもが人為的に付けられた物である。

  そんな彼らを遠方から睨み付けるポケモンの集団がいる。

  彼らは白い装飾品を身に付けており、その手には血飛沫が付着した刃物が握られている。白い装飾品、それは『白陽教』、またはレシラム教の信者の証であり、刃物を持つポケモンたちはレシラム教の信者である。レシラム教の信者たちは憎悪の眼差しでゼクロム教の信者たちを睨んでおり、彼らの間を幾つもの声が響いている。

  「異教徒だ」

  「殺せ」

  「異端審問官を呼べ」

  「敵だ」

  「奴らが疫病を広げたんだ」

  「犯せ」

  「奪え」

  「邪教徒め」

  「潰せ」

  「奴らが殺したんだ」

  「奴らが犯人だ」

  「裁判だ」

  「裁判だ」

  「裁判だ」

  群衆の中を木霊する憎悪の言葉はレシラム教の信者たちを突き動かし、彼らは刃物を手にしたままゼクロム教の信者たちに向かい進みだす。その光景を洋館の中から見たオズワルドは表情を凍らせ、無意識に駆け出した。

  「オズワルド!」

  その背中に向かってニコルが声をあげたが、オズワルドは足を止めずに駆け、洋館の外に飛び出した。豪雨はいつの間にか止んでおり、オズワルドの視界に負傷したゼクロム教の信者たち、彼らに向かって襲いかかるレシラム教の信者たちの姿が映り込む。辺りに広がる血の臭いが木々の香りを消し去り、腹の奥底から込み上げる嘔吐感にオズワルドは顔を歪め、それを呑み込み、代わりに声帯を限界まで震わせた。

  「止めてください!!」

  オズワルドの叫び声を聞いた数人は動きを止めたが、彼らはオズワルドを一瞥し、手にした刃物をゼクロム教徒めがけて降り下ろす。

  周囲に鮮血が広がり、右脚を切り落とされたザングースが悲鳴をあげ、地面を転がり回った。その背中めがけて別のレシラム教徒たちが手に持った包丁や斧を降り下ろし、ザングースの白い身体を赤く染めた。肉を切り、骨を断つ音がザングースの悲鳴に混じり木霊する。その光景を見たオズワルドは思わず手の平で口を被い、ザングースの姿から顔を背けた。

  森林内にゼクロム教徒たちの悲鳴が響き、レシラム教徒たちの憎悪の声が木霊する。異教徒同士の止めようのない争いを目の当たりにして、オズワルドは泣き出しそうな表情のまま駆け出した。彼はそのまま暴走するレシラム教徒のブーバーの首もとを掴み、強引に地面に押し倒した。

  「てめっ...」

  ブーバーはオズワルドの腕力に苦悶の声を漏らし、右腕に炎の力を宿しオズワルドの腕を掴んだ。鋼タイプのオズワルドはブーバーの熱に顔を歪ませるが、ブーバーを押さえつけたまま、近くにいたゼクロム教徒であるライチュウとピカチュウの親子を見て、声を張り上げた。

  「逃げてください!!」

  オズワルドの声に頭から出血しているライチュウはピカチュウを抱き上げ、そのまま洋館の中に飛び込んだ。その姿を見た他のゼクロム教徒たちも急いで走り出し、洋館の中に逃げ込んでいった。

  それを見たレシラム教徒たちは怒りに震え、武器を手にしたまま洋館目掛けて駆け出す。

  「ま、待って...」

  ブーバーを抑え込んでいるオズワルドはレシラム教徒たちに向かって声をかけるが、彼らは止まらない。何人かのレシラム教徒たちは洋館を囲み、アルコールで満たされた瓶、手製の火炎瓶を投げた。何本もの瓶が洋館の壁に当たり、周囲に破片とアルコールが飛び散った。

  アルコールは洋館の壁を濡らし、瞬く間に引火した。

  ニコルや負傷した患者のいる1階はあっという間に火に呑まれ、それを見たオズワルドは呆然とした表情のまま声を張り上げた。

  「ニコル!!」

  オズワルドが叫んだ直後、彼の胴体に鋭い蹴りが入れられた。その一撃にオズワルドは成す術もなく吹き飛ばされ、雨と血で濡れた地面を転がった。オズワルドが吹き飛ばされたことにより、自由になったブーバーはゆっくりと立ち上がり、近くに転がっているナイフを手に取り、逃げ惑うゼクロム教徒の子供を追いかけた。

  それを見たオズワルドはブーバーを止めるために身体を起こすが、その背中を何者かが踏みつけた。強力な熱を有する存在にオズワルドは再び顔を歪め、その正体を見極めようと首を回した。

  オズワルドの背中を踏みつける影、レシラム教の白い礼服を着た牝のバシャーモは薄汚い生ゴミを見る目でオズワルドを見下ろし、足に力を込めた。バシャーモの着ている礼服には魔除けの六芒星が記されており、赤い模様が刻まれていた。

  それは異教徒や魔女を見つけ出し、裁判にかける者たちの証、異端審問官の証である。

  異端審問官である牝のバシャーモは目を細め、苦しむオズワルドを見下ろし、足に更なる力を込めた。

  洋館は、炎に呑まれていた。

  *

  そこはとても狭い空間である。

  狭い室内は湿った空気で満たされており、牡の精液が放つ特異的な臭いで溢れかえっている。

  寝台上には2つの牡の影がある。

  影、エンブオーはそそりたつ性器を強引に目の前の牡の排泄孔に押し込み、力任せに腰を振る。エンブオーは額に汗を伝わせ、眼前のもう1つの影、オズワルドの腰を掴んだまま腰を振り続け、その動きに合わせてオズワルドの身体が揺れる。

  「ん...あ...」

  直腸の粘膜を削る勢いで挿入される性器の熱と硬さに、オズワルドは喘ぎ声をあげ、背筋を大きく伸ばし身体を仰け反らせる。オズワルドの性器は充血しており、彼が性的に興奮していることは明白である。その姿にエンブオーは口角を歪ませ、自身の性器をオズワルドの直腸に深々と挿し込んだ。

  エンブオーの性器から高熱の精液が放出され、オズワルドの体内にエンブオーの欲望の痕跡を刻む。

  エンブオーは深く息を吐き出し、オズワルドの直腸から性器を引き抜いた。

  「ん...」

  その感覚にオズワルドは再度喘ぎ声を漏らし、上半身を白いシーツに沈める。オズワルドの肛門はエンブオーの性器ほどの太さまでに開ききっており、その穴から精液の白い筋が流れ出ている。

  直腸から伝わる感覚によりオズワルドの性器はそそりたっており、彼はその欲を解消しようと手を伸ばそうとした。だが、エンブオーはオズワルドの手を掴み、強引に捻りあげ、再度オズワルドの肛門に自身の性器を挿入した。

  「あん...」

  室内にオズワルドの喘ぎ声が木霊した。

  十数分後、再度オズワルドの体内に精液を放ったエンブオーは清潔なタオルで己の股間を拭き、寝台上に横たわるオズワルドを見下ろし鼻で笑った。

  「卑しい奴隷め...」

  そうエンブオーは呟き、白い礼服を身に纏い、扉を開けて室外に待機していた配下のポケモンを引き連れ、歩き去った。部屋から出ていくエンブオーたちを別の影がおべっかと共に送り出し、やがて影は室内に入り、オズワルドの腕を掴み、彼を寝台から引きずり下ろした。

  堅い床に叩きつけられ、オズワルドは微かに悲鳴をあげる。

  「立て」

  影、いや売春宿の主であるバンギラスは豪腕に物を言わせ、オズワルドの身体を強引に引きずり廊下を歩いた。

  オズワルドの視界に、彼がいた部屋とよく似た造りの部屋が幾つも映り込む。数多くの部屋からは牝や牡の喘ぎ声が木霊し、消えていった。廊下の随所には白い装飾品が飾られており、この売春宿の主がレシラム教徒であることを暗に示していた。

  レシラム教は真実を教義としている。

  こと複数のポケモンたちが作り出す社会において真実とは、他社との関係性を前提に社会において合意し共有できる事柄、つまり現実における社会性、延いては今ある集団を指している。レシラム教は社会的集団を重視しており、個より全体を優先する傾向にある。

  ゼクロム教は理想を教義としている。

  ポケモンたちはそれぞれ生態が異なっており、彼らの社会においてもそれぞれの考える理想があるとゼクロム教では考えている。故にゼクロム教は集団よりも個を優先する傾向があり、各々が望む理想を抱くことを善としている。

  相反する教義の宗教、対立するのは必須である。

  この売春宿はレシラム教徒が運営しており、此処で働かされているポケモンたちの多くは誘拐されたゼクロム教徒か奴隷である。

  先のエンブオーの言葉を思い出したオズワルドは、虚ろな眼差しで複数の部屋を見ていたが、彼はバンギラスによって別室に連れ込まれた。室内には庭にある井戸から汲まれた水で満たされている水桶が保管されており、バンギラスはその1つを掴み、オズワルドに向かって中身をぶちまけた。

  井戸の底で冷やされていた水が全身を覆い、その感覚にオズワルドは再び悲鳴をあげた。だがバンギラスは「うるせぇ!」と乱暴に言い、オズワルドの腹を蹴りあげ、彼を部屋の隅に蹴り飛ばした。

  その一撃にオズワルドは胃の中身を吐き出した。

  胃酸が食道と口内を焼き、苦味が広がる。

  その痛みと感覚にオズワルドは苦悶の表情を浮かべたが、バンギラスは冷たい眼差しでオズワルドを見下ろし、「片付けておけ」と冷たく言い放ち、部屋を後にした。全身を覆う冷たさと腹腔を貫く激痛にオズワルドは身体を丸めたまま震えていた。

  ふと、オズワルドの視界にレシラム教の聖典が映り込んだ。それを見たオズワルドは震える手を伸ばして、薄汚れた聖典を掴み、それを開いた。

  「...伴侶のみ愛せよ」

  レシラム教は個より全体を優先する宗教であり、集団を重んずる傾向にある。故に信者同士の無用な争いを避けるべく、レシラム教では浮気を罪としている。レシラム教の定義する浮気とは、伴侶以外の異性との性行為であり、同性との性行為に関しては禁じていない。故にレシラム教を重んずるポケモンの中には、先程のエンブオーのように同性のポケモンを抱き、性欲を解消する者もいる。

  肛門に響く痛みを感じ、オズワルドは声を出さずに泣いた。

  先程のエンブオーがオズワルドに向かって呟いた一言、それが彼の身分を如実に表しており、その事実にオズワルドは悲壮の気持ちを覚え、声を圧し殺したまま泣き続けた。

  *

  オズワルドの身体の汚れを落としたバンギラスは、各部屋を見回り客と商品の間にトラブルがないか確認し、受け付けに戻った。客の中には商品に対して過剰な暴力や性的行為を加える者がいるが、価値ある商品が襲われている場合のみ客を力ずくで排除し、大した価値のない商品が襲われる場合は無視していた。

  価値のない商品が例え殺されたとしても、その代価を客に支払わせれば良いだけである。

  バンギラスは受け付けに戻る道中で牡のエーフィが商品に襲いかかる場面に出くわし、彼はエーフィの首を掴み、力任せに床に叩きつけ、財布を奪うと窓から表通りに投げ捨てた。

  「たく、価値の知らねぇゴミ共が...」

  エーフィの相手をしていた商品の価値を知っているバンギラスは小さく毒づくき、受け付けの椅子に座り、数時間前に購入した新聞紙を手に取った。紙面にはポケモンたちの共通文字である足形文字が記されており、それに目を通したバンギラスはグラスに注がれている安酒を一気に煽った。

  粗悪な蒸留酒がバンギラスの喉を焼き、胃に熱が広がる。

  時刻は既に真夜中を過ぎていた。

  売春宿の外は街灯代わりの松明の明かり以外、光源が存在せず闇夜の空には月も存在していない。

  今夜は月食である。

  普段ならば月の光が街を照らしているが、今晩は月食のため月光が存在しない。漆黒の闇に覆われた街、カピンタウンの裏通りに位置する売春宿の周囲には、堅気の世界で生きていけないポケモンたちの姿がある。罪を犯した者、仕事や住処を失った者、国を追われ密入国した者、戸籍を持たぬ者、様々な背景を持つポケモンたちが裏通りに集まり、それぞれの独特なコミュニティを形成している。

  先ほど摘まみ出したエーフィも裏通りの住民である。

  恐らくは賭けに勝ち泡銭を手に入れたエーフィは、一晩の快楽を求め売春宿へと足を運んだ。だが、バンギラスの商品はエーフィの欲情を満たすことができず、代わりに危害を加えようとした。

  裏社会のルールを守らぬエーフィにバンギラスは悪態を漏らし、新聞に記されている足形文字を読み続けた。

  『エレキ平原にゼクロム教徒の死体。魔女狩りか悪魔崇拝か』

  『レシラム教円卓は調査のために異端審問官をエレキ平原に送ることを決定』

  『地元住民は治安維持のためギルドメンバーによる保護を望む』

  『キザキの森で暴動発生。住民が互いに殺し合う』

  『死傷者100人以上、暴動の原因は不明』

  『時の歯車?逃げ延びた住人が謎の発言』

  複数の見出しを読んだバンギラスは再び安酒を煽り、空になったグラスをテーブルに置いた。粗悪なカットガラスにランプの光が乱反射し、黒に染まる窓を微かに照らした。

  「...ずいぶん物騒になってきたな」

  バンギラスはそう呟き、新聞紙の項を捲った。そこには暴動の場となったキザキの森についての詳細が記されており、記者が書き記したキザキの森の現状が描かれていた。殺される住民、犯される人々、奪われる財産、横行する人買い、それらの文面を読んだバンギラスは他人事のように安酒を更に煽り、紙面を捲った。

  ふと、バンギラスは先ほど痛め付けたオズワルドを思い出した。

  彼は海岸に倒れていたところを人買いに拐われ、奴隷商人の手を経てバンギラスの下に来た。彼の容姿はそこらのルカリオたちより優れており、権力者や資産家の相手をさせるにはうってつけの商品である。最初は抵抗していたオズワルドであったが、媚薬と調教によりバンギラスの命令に服従するようになり、今では客との性行為に快楽を見出す程である。

  美しい顔を歪ませ客の一物を求め、腰を振る姿を思いだし、バンギラスは股間が熱くなっていることに気がついた。

  「...俺も味見してみるか」

  普段は牝しか抱かないが、バンギラスは牡であるオズワルドを抱きたい欲求に駆られた。オズワルドの快楽によがる姿は彼を欲情させ、それを意識したバンギラスは新聞紙を畳み、ゆっくりと立ち上がった。

  バンギラスの胸に痛みが走る。

  それを自覚したバンギラスは思わず右手を胸に当てるが、痛みは収まらず、額に嫌な汗が伝う。彼は自身の身体に起きる異常事態に身を凍らせ、先ほどのカットグラスを見た。粗雑な造りのグラスはランプの明かりでキラキラと輝いており、動けなくなったバンギラスを照らしていた。

  「あ...」

  バンギラスの両足から力が抜け、舌と指先に痺れが広がる。そのままバンギラスは床の上で動けなくなり、彼はその場で失禁していた。全身の筋から力が抜け、バンギラスの心機能と呼吸機能を抑制する。少しずつ動かなくなる身体にバンギラスは言葉で表現できない恐怖を抱くが、館内の誰もバンギラスに気が付かない。

  何せ客は商品と事に励んでおり、受け付けのバンギラスを気にする余裕など無い。

  床の上で動けなくなったバンギラスは、口角から涎を垂らし、舌を覗かせていた。ふと、外に繋がるドアが開き、牡のガブリアスが入ってきた。彼は床の上で動けなくなったバンギラスを一瞥し、膝を曲げて彼の目を覗いた。

  バンギラスの瞳孔は開いており、ランプの光に対しても反応しない。

  ガブリアスはバンギラスの首に手を当て、心拍の有無を確認した。既に脈は停止しており、対光反射も消失している。それを確認したガブリアスは悠々とした態度で館内を歩き、受け付けの奥、事務所に足を踏み入れた。事務所とは名ばかりの薄汚れた一室には、空になった酒瓶とゴミが散らばっていた。その中を通り抜け、ガブリアスは死んだバンギラスの机に手をかけ、引き出しを開けた。

  「...」

  ガブリアスは机の引き出しに入れてある小瓶を手に取り、それを肩から下げた鞄に入れた。続けてガブリアスは他の引き出しを開け、中から売上金と宝石の納められた袋を回収し、部屋を後にした。

  事務所を後にしたガブリアスは絶命しているバンギラスの傍を横切り、廊下を進み幾つかの部屋を覗いた。

  「あ...ん...」

  室内では商品である牝のヘルガーに向かって牡のライボルトが腰を振っている。恐らくは麻薬の類いを投与されているのか、ヘルガーは焦点の定まらない目で虚空を見上げたまま喘ぎ声を出している。その姿にライボルトは下劣な笑みを浮かべ腰を深く挿し込み、彼女の中に精液を放った。

  ライボルトの顔が緩み、恍惚とした表情でヘルガーの身体を抱き締めた。

  その瞬間、ガブリアスは室内に侵入し、鞄の中から取り出した注射器をライボルトの首筋に突き刺し、一息に中身を全て注入した。突然の出来事にライボルトは声を出す暇もなく失神し、ヘルガーは思わず悲鳴をあげた。

  彼女の口をガブリアスの手が塞ぎ、その首に別の注射器が突き刺さる。ガブリアスは躊躇なくヘルガーにも襲いかかり、あっという間に意識を奪った。ライボルトとヘルガーは共に意識を失い、体液で汚れたシーツに沈んだ。

  ガブリアスは失神した2人を見下ろし、それぞれの首もとを見た。牝のヘルガーはゼクロム教の、牡のライボルトはレシラム教の装飾品を身に付けている。

  「...」

  この世界のパワーバランスを如実に表す光景を見たガブリアスは目を細め、そのまま部屋を出て、廊下の先に向かい歩き続けた。途中、幾つかの部屋で性行為に走る牡と牝のポケモンの姿があったので、ガブリアスは先ほどと同様に彼らの意識を奪った。

  ガブリアスは歩き続ける。

  やがてガブリアスは館内にいた全てのポケモンの意識を奪い、そのまま館内を警戒し歩いていた。

  ふと、ガブリアスの耳に牡の声が届いた。

  それを耳にしたガブリアスは足を止め、左にある扉に手をかけ、ゆっくりと開いた。薄暗い部屋は複数の水桶が置かれており、それらを見渡したガブリアスは警戒したまま、ゆっくりと足を踏み入れた。

  ガブリアスの視界に、部屋の隅に転がるオズワルドの姿が映り込む。

  「...せよ」

  オズワルドは小声で何かを呟いており、それを耳にしたガブリアスは怪訝そうな表情のまま歩み寄り、オズワルドの言葉に耳を傾ける。

  「...人の物を欲することなかれ」

  部屋の隅に転がっているオズワルドは、先ほど目についたレシラム教の聖典を抑揚の無い声で読み続けていた。その姿にガブリアスは眉間に皺を寄せると、オズワルドの傍に歩み寄り見下ろした。

  オズワルドの首もとには装飾品の類いがなく、彼がゼクロム教・レシラム教の何れの信者でないことは明白だ。だが、オズワルドは無意識にレシラム教の聖典を読み上げている。その姿を見たガブリアスはある事実に気がつき、驚きの表情を浮かべた。

  「...君は、その文字が読めるのか?」

  ガブリアスの視界にレシラム教の古い聖典が映り込む。それは世間に出回っている聖典とほぼ変わらぬ内容であり、活版印刷技術を用いた物である。

  Bible

  薄汚れた表紙の文字は殆ど掠れて読むことは困難だが、一際大きいフォントの文字だけは読むことができた。ガブリアスはそれを視認し、驚愕の表情を浮かべ、オズワルドを見下ろした。一方のオズワルドは自身が聖典を読んだことに対して、ガブリアスが驚く訳を理解できずにいた。

  ガブリアスはオズワルドを見下ろして閉口し、やがて膝を曲げ彼の腕を掴み、引き起こした。

  オズワルドは予想以上に柔らかいガブリアスの手に目を丸くさせたが、そのまま成す術もなく引き起こされ、ガブリアスの顔を見た。ガブリアスは固い表情のままオズワルドを見つめ、何も言わずにレシラム教の聖典を鞄に入れた。

  *

  売春宿の扉が蹴り壊され、続々と保安官事務所の職員であるポケモンたちが館内に流れ込んだ。彼らは受け付けの床で絶命しているバンギラス、そして奥の部屋で失神している客の身柄を拘束し、商品だったポケモンたちを保護していった。

  その光景を尻目にガブリアスはオズワルドの手を掴み裏口から外に出て、保安官であるジバコイルやコイルたちに見つからぬ様に闇夜に紛れて移動した。

  「あの...」

  オズワルドは急ぎ足で歩くガブリアスに向かって声をかけるが、ガブリアスはオズワルドを一瞥し、足を動かし続けた。やがてガブリアスは売春宿から離れた場所で立ち止まり、物陰にオズワルドを押し込み、周囲を警戒した。

  闇夜に虫の鳴き声が微かに響く。

  異様な雰囲気のまま周囲を警戒するガブリアスの姿にオズワルドは怯えたように身を震わせた。だが、ガブリアスは周囲に目を向けたまま五感を集中させ、何かを待った。

  闇夜の中を影が動く。

  影、闇夜に相応しくないピンク色の身体のポケモン、プクリンはゴム毬の様に全身を弾ませながら歩き、オズワルドとガブリアスの傍まで近づいた。闇夜の中から突如として現れた存在にオズワルドは身を固くさせるが、ガブリアスは何も言わないままオズワルドを物陰の奥に押し込み、プクリンを見た。

  プクリンは軽い足取りでガブリアスの傍に寄り、「やぁ!トモダチたち!」と短い手をあげながら声を出した。静寂が支配する世界を切り裂くプクリンの声にガブリアスは眉間に皺を寄せ、口を開いた。

  「声が大きすぎますよ、親方様」

  親方様と呼ばれたプクリン、ヘンデルは悪戯っ子の様に目を笑わせ、「ごめんね」と応えた。

  「それにしても...流石はゼーン、見事な腕前だよ」

  ヘンデルはガブリアス、ゼーンに称賛の言葉を送り、肩から下げた鞄に手を入れ、白い袋を取り出した。ヘンデルはそれをゼーンに手渡し、中身を確認するように促した。ゼーンはヘンデルの要請に素直に応え、袋の中を見た。

  「約束の報酬だよ、トモダチたちを救ってくれてありがとう」

  袋の中身、幾枚もの金貨を見たゼーンはヘンデルの感謝の言葉を耳にして、照れ臭そうにそっぽを向いた。そんなゼーンを見たヘンデルはクスクスと笑いながら大きな耳を揺らし、売春宿の方に意識を向けた。

  「...あの売春宿はレシラム教の権力者も出入りしている施設だから、探検隊ギルドとしても手を出しにくい場所だったけど...ゼーンのお陰で助かったよ」

  ヘンデルは大きな瞳に悲しそうな色を滲ませ、僅かに潤させた。その姿をゼーンは閉口したまま見つめると、やがて首肯し報酬の金貨を鞄の中に入れた。彼らの耳に保安官のコイルたちがバンギラスの遺体と拘束した客を運ぶ喧騒が届く。その喧騒を聞いたヘンデルは、まるで心地よい子守唄を聞いているかの様に表情を緩ませた。

  ヘンデルが口を開く。

  「さてと、そろそろ僕もギルドに戻るよ。あんまり遅いとノイズにどやされるからね」

  プクリンギルドのNo.2であり、事務方を全て仕切っている友人の名前を口に出し、ヘンデルはゼーンに向かって手を差し出した。その姿にゼーンは目を丸くさせたが、素直にプクリンと握手した。

  ゼーンの手中にプクリンの柔らかい毛皮の感覚が広がる。

  「...そういえば」

  ヘンデルはゼーンの手を握ったまま口を開いた。彼の声にゼーンは怪訝そうな表情を浮かべたが、ヘンデルは真ん丸な瞳で正面からゼーンを見つめ、口を開いた。

  「君ほどの腕っぷしなら...あのバンギラス程度なら速攻で始末できたよね?それなのに...何でわざわざ毒を使うの?効率悪くない?」

  ヘンデルの質問にゼーンの身体が硬直する。言葉と声色は疑問計であるが、ヘンデルの瞳はまるでゼーンの核心を知っているかの様に彼を見つめている。その視線にゼーンは思わず視線を逸らせ、ヘンデルの手から自身の手を離した。

  そのまま彼は視線を泳がせ、やがて口を開いた。

  「...この方法がスマートで血生臭くないでしょう」

  ゼーンの答えを聞いたヘンデルは「んー」と考え込むような声を漏らし、左手を口許に当てた。

  「...そうだね、確かにスマートだよ!ごめんね、トモダチ!」

  底知れぬヘンデルの振る舞いに、ゼーンは言葉に表現できない不気味さを覚えた。だがヘンデルの表情は無邪気な子供のそれであり、一見すると無害に感じる。

  雰囲気と表情が相反するヘンデルにゼーンは恐怖心を抱いた。

  一方のヘンデルはゼーンの心情など露知らず、「じゃあね」と言い、ギルドに向かって歩いていった。そのピンク色の背中をゼーンは見送り、ヘンデルの気配が完全に無くなるまで待った。

  「...」

  周囲に誰も居ないことを確認し、ゼーンは物陰に隠れさせていたオズワルドを引きずり出した。彼は寒さに震えており、その顔色は少しだけ悪かった。

  ゼーンはオズワルドの異変を即座に見抜き、彼の額に手を当てた。

  「...熱があるな」

  これ以上、寒空の下にオズワルドを曝すわけにもいかない。ゼーンはそう判断し、自身の隠れ家に急いで移動すべく、オズワルドを背負い、急ぎ足で歩いた。ゼーンの背中にオズワルドの体温と吐息が当たり、ゼーンはくすぐったそうに目を細めた。

  ふと、ゼーンの足が止まった。

  「...トモダチ『たち』?」

  先ほどのヘンデルの言葉を思いだし、ゼーンは苦い表情を浮かべた。ヘンデルほどのポケモンにとって、ゼーンの思惑を見抜くことなど容易すぎる事なのかもしれない。

  ゼーンはため息を溢し、一先ずオズワルドを休ませるべく、駆け足で走り出した。

  闇夜は何処までも広がっている。