【番外編:朱色の咎】(朱雀×夕陽)IFルート

  (※性的描写あり)

  夜更け。

  廊下を通りかかった朱雀は、夕陽の部屋の障子越しに、ほのかな明かりが漏れていることに気がついた。こんな時間にまだ起きているとは思わず、ふと足を止める。

  静かに近づき、障子の隙間から中を覗くと、行燈の明かりの下、夕陽が筆を走らせている姿が見えた。

  「まだ起きてたのか」

  障子を軽く開けて声をかければ、夕陽は手を止めてこちらを振り向く。

  薄暗い灯のなか、ふと目が合ったその双眸には、どこか疲れの色が滲んでいた。

  「……ああ、すまない。起こしてしまったか?」

  「いいや、たまたま目が覚めただけだ。……茶でも淹れてきてやろうか?」

  「いや、大丈夫だ。ありがとう。もう少ししたら私も休むよ。朱雀も……もうお休み」

  朱雀は黙って自分の羽織を脱ぎ、そっと夕陽の肩にかける。

  「……ありがとう」

  筆を止めずに、夕陽は小さく微笑んだ。

  「なに書いてるんだ?」朱雀が手元を覗き込む。

  「この前の調査の報告書だよ」

  「ふーん、めんどくさいんだな」

  「こらこら」

  苦笑しながらも、疲労の色は隠しきれない。

  灯りに照らされて、頬に長い睫毛の影が落ちる。目の下にはうっすらと疲労の皺が刻まれていた。

  朱雀は、無意識のうちにその顔に指を伸ばす。指の腹が、そっとその目元をなぞると、夕陽の肩がほんの一瞬硬直した。

  「……朱雀?」

  ハッとして慌てて腕を退くと、途端に変な汗が噴き出す。

  「あ、いや、悪い……その、つい、魔が差したっていうか……」

  頭の中で何かが警鐘を鳴らしている。これ以上、聖域に踏み込んではいけないと分かっていても、欲望に抗えない自分の手が酷く汚いもののように思えた……。触れたい、とそう願ってしまうことすら罪のようで。

  しかし、夕陽の眼差しは、どこまでも優しくてーーー。

  「……嫌ではないよ。ただ少し、驚いてしまっただけだ」

  そう呟いて朱雀の頭をそっと撫でる。

  朱雀はその白い、けれど決して華奢ではない夕陽の手を掴み、うっとりと宝物のように口付けた。俺たちをずっと守ってくれてた、優しい手。

  「……夕陽様……」

  かすかに震えた肩を抱き寄せ、そのまま強く腕に抱くと、夕陽の体温と鼓動が伝わってくるようだった。

  朱雀の唇が、そっと夕陽のそれに触れた。最初はただ、重ねただけだった。震えるような吐息が混じる。けれど、夕陽は拒まなかった。

  それはどこか夢を見ているようで、現実離れした、フワフワとした高揚感が頭の奥をジンと痺れさせた。

  「……こんなに、柔らかいとは思わなかった……」

  頬をわずかに赤らめ、ぽつりと、どこか感心めいた夕陽の呟きは、朱雀の理性のたがを狂わすには十分だった。

  「っ……夕陽様……」

  そのうわずったような囁きは、祈りにも似ていた。

  朱雀はそっと頬に手を添え、今度は迷いなく、深く口づける。

  触れた瞬間、夕陽の唇が驚きに震えた。それでも逃げようとはしない。

  朱雀の舌が、ゆっくりと夕陽の唇の隙間をなぞり、静かに入り込む。

  ぬるりと触れ合った舌先に、夕陽の体が小さく震えるのがわかった。

  「……ん……っ……」

  かすかな吐息が朱雀の口内に零れ落ちる。その音さえ、甘くてたまらない。

  唇を食むように、絡め取るように、何度も深く、深く口づけた。

  そのたびに、夕陽の指が朱雀の着物の胸元をぎゅっと掴んだ。

  受け入れてくれている。その確信が、朱雀の胸を焦がす。

  (ああ、もう、止まれない……)

  そんな想いが、全身から溢れ出しそうだった。

  口付けたまま、傍に敷かれた布団にゆっくりと押し倒す。

  最初の淡い口づけが幻だったかのように、次の瞬間には熱が宿り、溶け合うような舌がそっと差し出される。

  「ん……っ」

  わずかに息を呑んだ夕陽が、戸惑うように朱雀の胸元を押しかけるが、完全には拒まなかった。

  朱雀はその手を優しく包みこみ、ただ静かに、そして深く、愛おしそうに唇を重ね続ける。

  舌先が触れ合い、濡れた音が、静かな部屋の中に微かに響いた。

  「夕陽様……ずっと、こうしたかった……」

  震える声で囁きながら、朱雀は夕陽の背に手を回し、そのしなやかな身体に縋った。鼻先にふわりと届く、柑橘の清涼と微かな体温の匂い。強く強く抱きしめると、その心音までが指先に伝わってくるようだった。

  着物の合わせからするりと手を滑り込ませ、露わになった首筋に何度も口付けを落とし、ねぶるように舌を這わせて歯を立てる。

  次第に夕陽の頬が熱を帯びて染まり、潤んだ瞳を隠すように身じろいだ。

  「……ぅ、ん……」

  声を漏らさないように必死に唇を噛み締めて堪えるその姿はたまらなく扇情的だった。

  「はぁ、はぁっ、……夕陽様っ……」

  耳をはみながら、帯に手をかけ、それを解いた。

  露わになった肌は、うっすらと汗で湿り気を帯びており、夕陽の滑らかな胸元が、淡い月光に照らされて色づくように艶やかだった。

  「……綺麗だ、夕陽様……」

  朱雀は指先でそっと鎖骨をなぞると、唇を這わせながら、丁寧に丁寧にその体を撫でていく。焦がれるような愛情が、行為に宿る熱をさらに深く濃くしていく。

  「……、ぁ……っ、朱雀……っ、ん……」

  甘く濡れた声が洩れ、朱雀はその声に目を細める。ずっと、夢にまで見た光景。触れてはいけないと分かっていた、けれどそれでも……この瞬間を、どうしても欲しかった。

  「もう、我慢できない……ごめん……」

  小さく呟くと、朱雀は夕陽の脚をそっと開かせ、慎重に、しかし確かな熱をもってその間に身体を滑り込ませた。

  昂ぶりきった自身を夕陽のそれに添わせると、手のひらで優しく包み込みながら愛撫を始める。

  「はっ……ぅ、くっ、……んんッ……」

  息を押し殺すような吐息。

  ぴくりと揺れた指先が、感じていることを物語っている。

  「はぁっはぁっ、夕陽さ、まっ、夕陽様っ、夕陽様っ……っ……」

  夕陽が、自分の手に応えてくれている。

  その事実だけで、朱雀の胸の奥が熱く脈打ち、理性の縁を崩していった。

  目の前がチカチカする。

  「うっ……、す、ざく……もう……っ、ぁッ……あっ…」

  「あっーー……くッ、うっ、んっ」

  快楽に打ち震え、同時に果てたふたりの身体が、ひとつに絡み合う。

  白く濁った証を吐き出した後、朱雀は夕陽の上に倒れ込むようにして、深く息を吐いた。

  「はぁ……はぁ……夕陽様……俺、今、めちゃくちゃ幸せ……」

  「……朱雀」

  朱雀のうなじに手を添えた夕陽が、そっと髪を撫でる。

  その手のひらに安堵を覚えた朱雀は、甘えるように囁いた。

  「夕陽様……耳、も、撫でて……」

  「耳……? わかった……」

  夕陽は朱雀の耳の付け根のあたりをぐっと揉むようにニギニギしたり、遊ぶように先っぽを優しく触った。

  その指が揺れるたび、ぴくりと朱雀の尻尾が震えた。

  「うん……、きもちい……夕陽様……」

  深く深く、唇を重ねる。

  甘えるようなキスは次第に熱を帯び、執着の色を孕んでいった。

  「……んっ、夕陽様、もっと……したい……いい?」

  身体を重ねたばかりだというのに、朱雀の昂りは再び熱を持ち始めていた。

  夕陽の首筋や胸元に、噛みつくように唇を這わせながら、じわじわと下腹部へと口付けが移動していく。

  夕陽は思わず朱雀の髪を掴みビクリと震えた。

  固く閉ざされたその場所を、ほぐすように押し広げながら、朱雀はそこに舌を這わした。

  「あっ、やめ、てくれ……そんな、ところ」

  羞恥と快楽の狭間で震える声。

  だが朱雀の口元は緩まず、そのまま舌でやわらかく、そこを開くように舐め上げる。

  「んっ、ぁ……だめ、だ、朱雀……」

  指が這い、じっくりと奥を解きほぐすように入り込む。

  中を擦られるたび、夕陽の体はびくびくと反応し、快楽の奔流に飲み込まれそうになる。

  夕陽が泣きそうになりながら乞うも、辞めてもらえるはずもなく、朱雀の理性の鎖は、とうに断ち切られていた。

  ただ獣のように荒く息を吐きながら、どこか燃えるような虚ろな目で、夕陽を愛した。

  「フーーッ、フーーッ、……夕陽様っ、俺もう、優しく、できねぇ、かも……」

  自身を夕陽にあてがうと、躊躇なくその奥深くまで、一気に突き上げる。

  ミシッと音を立てたような、息もできないほどの痛みと圧迫感で声もなく、ただ朱雀の腕にしがみつくことしかできなかった。

  重なる身体は熱と熱が絡み合い、夕陽の目尻からは熱に耐えるように一筋、涙がこぼれた。

  それを唇で掬い、舌で味わうように撫でながら、朱雀はさらに奥へと踏み込んでいく。

  「ぅ……ん、っ……! 朱雀……っ……っ」

  ぎゅう、と抱きしめながら深く繋がるたびに、夕陽の身体は朱雀にすがるように震える。

  「夕陽様……っ…はぁっ、はぁっ……好き……好きだっ…好きっ、夕陽様ッ……」

  まるでうわ言のように耳元でそう囁き、何度も何度も、奥まで届くように貫いた。

  何度も重なる律動の中で、夕陽の声はもう言葉にならず、快楽の海に溺れるように体を仰け反らせる。

  そして——

  「……っ、あ……朱雀……っ、もう……!」

  その言葉を最後に、夕陽様の身体がびくりと跳ね、強くきつく、朱雀を締めつけながら果てた。

  「……夕陽様……っ……っ」

  熱く満ちたその奥に、朱雀もまた達し、深く深く結ばれたまま、崩れ落ちるように抱きしめた。

  ***

  湯気がもうもうと立ちこめる風呂場。

  無防備に力を抜いて眠る夕陽を抱え、朱雀は湯の中にそっと沈める。

  腕の中にあるのは、いつも凛とした眼差しで俺たちを導く夕陽様――

  だが、今はまるで壊れ物のように、柔らかく、儚い。

  「……こんな姿、俺だけのもんだろ」

  濡れた手で、そっと肩を撫でる。

  背を洗う手が、白磁の肌に触れるたび、何とも言えぬ感情が胸に滲んでくる。

  その時だった。

  不意に、夕陽が眉をひそめ、ゆっくりと瞼を開いた。

  「ん……朱雀……?」

  「――目、覚めたのか?」

  その声に応じるように、朱雀の手が止まる。

  だが、夕陽は反射的に体をすくめ、朱雀の指先から逃れるように身じろいだ。

  その仕草が、やけに艶めいて見えた。

  湯に濡れた長い髪が首筋に張りつき、うっすらと赤く染まった頬。

  白い喉が、つ、と動く。

  朱雀は思わず唇を噛んだ。

  「……やばい、また……」

  押し寄せてくる欲望に、抗えなかった。

  夕陽を抱き寄せると、その肩に鼻を埋める。

  「夕陽様……」

  「……っ、やめてくれ、……朱雀……今日はもう無理だ……足が、立たない……」

  縋るような声に、一瞬だけ朱雀の手が止まる。

  それでも、朱雀の目は、夕陽の濡れた肌を貪るように見つめたままだ。

  「……じゃあ、夕陽様は、何もしなくていいから」

  そう言って、朱雀は夕陽を抱きしめ、己の昂ぶりをその手で包んだ。

  濡れた肌が密着し、夕陽の耳元で朱雀が熱を漏らす。

  「……はぁ……はぁ……っ、夕陽様……好きだ……、好きで好きで、どうしようもないんだ……、んっ、……はぁっ、はっ……夕陽様……っ…、夕陽様……っ」

  朱雀の吐息が熱く肌にかかり、夕陽の身体は小さく震える。

  湯の中で朱雀が悦びに身を震わせるたび、朱雀の腕に囲まれている夕陽の胸にも震動が伝わる。

  朱雀は何度も名を呼び、息を荒げ、果てたあとも、夕陽を強く抱きしめ続けた。

  その夜、湯から上がった夕陽の頬には微熱が残っていた。

  身体はしんと疲れきっているのに、なぜか心の奥だけがやけに温かくて、眠ることもできず――

  彼は、そっと呟いた。

  「……もう、どうしてくれるんだ……」

  明日、どんな顔をして二人に会えばいいのか……。夕陽はただ重い体を横にして、目を閉じているしかなかった。

  番外編:朱色の咎 完