馬成牧場の秘密  前編

  山道を何時間も進んだところに、馬成牧場と呼ばれる牧場がある。

  「1年ぶりか…クロガネ、元気にしてるかな」

  俺の名前は相馬アキラ。親友のクロガネから1年ぶりに連絡があって、馬成牧場にやってきた。なんでも、俺にどうしても見てもらいたいものがあるらしい。

  クロガネが指定した待ち合わせ場所は牧場の入口だった。しかし…場所も時間もあってるはずなのに、アイツは一向に現れない。

  「もしかして、約束すっぽかされてるのか?1年ぶりの再会だっていうのに…まったく酷いぜ…」

  呆れてため息をついていると、山の奥から気配を感じた。

  カッポカッポ…

  「なんの音だ?クロガネ?」

  木々の間から、見たこともないくらい巨大な黒馬がノッシノッシと歩いてきていた。

  「で、でかすぎないか!?」

  その馬の大きさは自動車くらいあった。背丈は2m以上、頭からお尻までは3m以上はありそうだ。重量馬というやつだろうか…あまり馬の知識がない俺でも、その馬が相当恵まれた肉体を持っていることがよくわかった…。

  馬の周りを見てもトレーナーらしき人がいない。

  ひとりで散歩してるのか?…それって大丈夫なの…?

  いきなり襲いかかってくるんじゃないかとドキドキしてると、黒馬は俺を横目に涼しげな表情でゆっくりと牧場の中へ向かっていった。

  「す…げぇ…かっこいい…」

  近くで見てわかったが、毛並みはツヤツヤで、黒い毛は光を反射してキラキラと輝いている。全身の筋肉が発達していて巨体を支える四肢は大木の幹のように太い。筋肉には血管が浮き出ていて、筋がハッキリと見える。張りのある大きな胴体は、太鼓のような丸みがあり、柔らかく厚みのある長毛で包まれていた。そのどっしりとした風貌からは、神話の生物のような神々しささえ感じてしまう…。

  「あんなにムキムキなら、きっと牝馬からモテモテだろうな…」

  その時、俺はハッキリと見てしまった。黒馬の後ろ姿、大きく肉厚なお尻の間からぶらんぶらんと象の鼻のようにぶら下がった巨大な馬のチンチンを…

  「ゴクリ…(まじか、アソコも規格外にデカい…思わず2度見してしまった…)」

  黒馬のチンチンは黒いのかとおもったけど、竿の色は違うんだな。全体がピンクで、所々に黒色の斑模様があって…水玉模様みたいで可愛い。でも、一緒に付いてる睾丸は、スイカみたいにデカくて歩く度に左右に揺れている…あのサイズ…全然可愛くないな…。

  にしても、あのチンチン、本当に平常時の大きさだよな?下手したら俺の腕くらいあるんじゃないか…?あれが勃起して更に大きくなるっていうんだから、馬っていうのはすげぇよな…生物としての格が違うというか…

  「それに比べて俺のは…」

  自分はズボンの中を覗いた。皮の被った小さなそれを馬と比較すると、圧倒的な敗北感を感じてしまう。

  「はぁ…馬が羨ましいよ…」

  学生時代、友達にナニが小さいってバカにされていた。大人になって多少ましにはなった……はずだが、銭湯なんかに行くと人の視線が気になってしまう…

  馬みたいにジャンボになんてのは欲張りかもしれないけど、人前に出ても恥ずかしくないくらいには大きくなりたい…

  はぁ、少しくらいサイズを分けてほしいぜ…

  馬の股間をまじまじと見ていると、黒馬は視線に気づいたのか、振り向いて俺を嘲笑うかのように鼻息を鳴らした。

  ブルヒィン!!

  「な、なんだよ…びっくりしたなぁ…」

  俺の驚いた表情を見て、満足したのか黒馬はスキップしながら牧場へ帰っていった。

  「…帰ったか…にしてもクロガネのやつまだ来ないな…さっきからメッセージ送ってるのに…」

  黒馬が去って数分後、ようやくスマホに通知が来た。クロガネからだ。

  『待たせて悪かったな、今は訳あって案内できないんだ。外で待たせておくのも悪いから馬成牧場に入ってくれ』

  …勝手に入っていいのか?うーん、クロガネがこの牧場にいることは確かなようだし、言う通りにするか…

  ピローン

  再びクロガネから連絡が。

  『入口から真っ直ぐ進むと目の前に大きな厩舎がある、中に入ってくれ』

  目の前の建物というのは、正面にある細長い建物のことだろう。建物に近づくと、牧場特有の芝生の香りと動物臭が漂ってきた。

  そういえばさっきの黒馬もこの建物に入っていったな…

  建物の入口に到着すると、看板が設置されていた。そこには『育成棟』と書かれていた。

  ピローン

  『そこは育成棟、若い馬が調教や身体作りをしている場所だ。中に入ってくれ。』

  言われた通り入ると、そこは屋内にもかかわらず、馬が走り回れるくらいの広さがあって、中では元気な馬たちが仲良く走っていた。

  どの馬も、さっきの黒馬よりも小柄だ。きっと若い馬なんだろうな。どの馬も胸やお尻の筋肉にプリッと張りがあるし、毛づやが良い。

  「立派な馬たちだな。あ…あの馬ちんちんが大きくなってる。走る度にブルンブルンして走りづらそうだな…ふふ」

  ピローン

  またタイミングよくクロガネから連絡が来た。この感じ、監視カメラか何かで俺のことを見ているんじゃ…

  『そのまま奥に進んでくれ、その先に扉があると思うから中に入ってくれ』

  クロガネの指示通りに進むと奥の扉に『繁殖棟』と書かれた看板が掛けられていた。

  「繁殖…ってことはここは馬の飼育とか交尾させるための施設ってことか?」

  中に入ると、清潔そうな廊下に小部屋に続く扉がたくさんあった。小部屋は廊下きら窓ガラスで中が見えるようになっていて、中には馬の形をした台、えーと擬牝台って言うんだったかな、それが設置されていた。今の時間はどの部屋にも馬も作業員も居なかった。

  ピローン

  『そこは繁殖棟だ。うちの牧場は種馬…ここではスタリオンと呼んでいるんだが…そのスタリオンの貸出しや種の販売を商売にしてる。その部屋は、うち牧場のスタリオンと他所から呼んできた牝馬を交尾させたり、擬牝台を使ってスタリオンの種を搾取する場所だ。』

  種馬の貸出し?さっきまで見てきた馬たちは、みんな種馬ってこと?

  その時、俺の頭に思い浮かんだのは、入口ですれ違ったあの大きな黒馬だった。

  もしかして、あの黒馬もここで交尾をしているのか…

  あんな巨体で交尾なんてできるのか…?

  どんな感じに交尾するんだろう…アイツのあの大きなチンチンがどうやったらあの小さな擬牝台に入るのか…?

  …って何考えてるんだ…うぅ……顔が熱くなってきた…

  ピローン

  『繁殖棟の通路を進んで一番奥の"右"の扉、そこが休憩室だ。そこで待っていてくれ』

  突き当りまで進むと、左側には普通の扉、右側には泥で汚れた両開きの扉があった。

  「えっと右だな…」

  俺はメッセージ通り、右の扉に手を掛けた。

  [newpage]

  「お邪魔しまぁ…す」

  扉を開けた瞬間、絶句してしまった。

  扉を開けて最初に感じたのは、強烈な"臭い"だった。

  サウナのようなむわっとした熱気、塩素のような青っぽい濃密なニオイ、そして、こびりつくような獣臭が鼻の奥を刺激した。

  「うっ、な、なんだこの強烈な雄の臭い…」

  ブルヒィヒイイイン!!

  その時、目に飛び込んできた光景に思考が止まってしまった。

  「うわああっ!?」

  目の前で、何十頭もの馬が擬牝台に跨がり、腰を激しく打ち込んでいたのだ。

  スパン、スパン、スパン…

  ドスッ、ドスッ、ドスッ…クチャ…

  ヒィィヒヒン…!ブルヒィヒィイイン…!

  部屋は長い廊下のようになっていて、等間隔に擬牝台が設置されていた。擬牝台からは粘着音と打撃音、振動と生暖かい馬の嘶きが部屋中をこだまし、立ち込めた熱気で混沌とした空間を作り出していた。

  「うそ…だろ…」

  馬たちは全身から蒸気を立ち昇らせ、本能のまま腰を振っていた。口から泡のような唾液をこぼし、汗で全身が濡れている。

  体液という体液をまき散らし、馬たちは汚れていることを楽しんでいるようにも見えた。

  手前の馬を見ると、快感の赴くままに全身の筋肉を硬直させ、擬牝台に食って掛かるように腰を奥に捩じ込んでいた。

  奥にいる馬は、本物の牝馬を相手にするようにゆっくりと腰を突きだし、的確に急所を責めている。その所作一つ一つに自信が満ちていた。

  「や、やばすぎる…これが馬の交尾……」

  どの擬牝台も接合部から黄ばんだ混合液をボコボコと溢れさせ、ピストン運動によって汚ならしく泡立たせている。

  目の前で馬が快感を漏らすように"嘶く"と、快感が伝播するように他の馬も鳴き出した。そして、快感の熱気はその場にいる馬たちを飲み込んでいく。

  「ヒヒーンッ!!!」

  1頭の馬が大きく嘶いた。すると熱気は最高潮に達し、馬たち全員が擬牝台に噛みつくように腰を突き立てた。

  その一瞬、すべての擬牝台からビュルルルと液が注がれる音が響いた。

  (まさか、射精したのか!?全員同時に…!?)

  ブモオオオオ!!

  ヒヒイイィィン!!

  射精する馬たちは、達成感に満ちた表情を浮かべていた。

  擬牝台に搾取されていた精液は、程なくして満杯になり結合部から噴水のように吹き出していた。

  「あれじゃ馬じゃなくて乳牛だろ…」

  その光景は言葉に表せないほど下品で…その…俺には刺激が強すぎる…。

  見てるだけで全身がゾワゾワして…身体が熱くなって…

  俺の下腹部に…熱が……こもって……

  あああダメだ!今すぐここから離れないと…取り返しのつかないことになる!

  扉のドアノブに手を掛けようとしたその時、目の前の栗毛の馬が俺に気づいて視線を向けてきた。

  すでに射精を終え疲れきった様子だったが、擬牝台からペニスを引き抜くと射精したばかりのビンビンペニスを見せつけてきた。

  鋭い槍のようなペニスは、出したばかりの精液でテカテカと輝き、心音に合わせてビクビクと腹を打っていた。俺の鼻先に青臭い精液の臭いが漂ってくると、栗毛の馬は気分が昂った様子で再び擬牝台に向かっていった。

  まさか、あんなに出しておいて、まだやるつもりか…!?

  栗毛の馬は後ろ足で蹴りだすように、擬牝台の穴に自らのペニスを当てがうと、体重を乗せて一気に侵入させた。そして、前足で擬牝台を器用に抱き抱えると、腰をねじ込み、狭い穴に長く太い馬ペニスを根本まで挿入した。

  その一連の動きには、一切の無駄が無く、栗毛が相当手慣れていることがわかった。

  「こいつ、俺に…見せつけてやがる……」

  その場に空気にあてられて、俺の心臓がバクバクと鼓動しているのが分かった。

  栗毛の馬は腰をグリグリと動かし好みの位置を見つけると、息を止めてお尻の穴をぎゅうっと締め、ペニスを硬直させた。そしてその剛直をゆっくりと擬牝台へと押し入れた。栗毛の馬はブルリと震え、そして息を吐くのと同時に緊張を解き、自重に任せてゆっくりと引き抜いた。その一連の動作を少しずつ早めていき、テンポよく、何度も繰り返した。

  ブルヒィイイイン!!

  栗毛は激しく動きつつも、牝馬を喜ばせるように、突く場所や角度、そしてスピードを変え続けていた。

  こ、これが…馬の交尾……なんて緩急とテクニックなんだ…

  休む隙がない…。馬の交尾を見ていると人間の交尾がお遊びに見えてくる。人間であればこんな激しい動き、すぐにバテてしまうだろうに…、きっと馬のあの体格と体力、そして交尾への没入力が成せる技なのだろう。

  「ゴクリ……」

  俺はいつの間にか、栗毛から目を反らせなくなっていた。口の中がひどく乾き、目の奥が痙攣する。

  栗毛は全身から汗かきながら、イメージ上の牝馬の首筋に優しく甘噛みした。そろそろフィニッシュを決めるのだろう。

  (あれだけちんぽがデカいと、感じる快感も凄いんだろうな…。あの責めを受ける擬牝台もきっと気持ちいいと感じているに違いない。)

  俺はほんの少しだけ、馬が羨ましいと思ってしまった…。

  栗毛は俺の様子を見て、誇らしげに嘶くと、ラストスパートを掛け始めた。激しい動きに擬牝台はギーギーと軋んだ。数回ピストンをした後、栗毛は擬牝台の一番深いところに自らを捩じ込み、巨体をブルリと震わせた。それと同時に後ろ足の間にぶら下がっていたソフトボールくらいの大きさの玉がギュッと収縮した。

  次の瞬間、白濁とした液体が擬牝台の結合部からボコボコと溢れ始めた。

  さっき見た他の馬たちの射精量とは比べ物にならないほど多い…こぼれていった栗毛の汁は、あっという間に地面に水溜まりを作り広げていった。

  「う、うそだろ…あれが全部…馬の精液!?まだ出るのか?」

  3…4リットル…いやもっとある……

  栗毛は鼻の下が伸ばして、この瞬間を全身で感じ取っていた。

  すげー、気持ち良さそうだ…あれだけ出せたらさぞかし気持ちいいだろうな…

  その瞬間、俺は自分の中に芽生えた邪な気持ちが確信に変わってしまった。

  ようやく絶頂が過ぎたのか、栗毛はブルルと息を吐くと、腰を少し引いた。

  ジュポンッ!

  馬ペニスが擬牝台から抜けると、詰まりが抜けたような軽い音が鳴り、擬牝台の穴からは馬の種がドボドボと溢れ出した。

  ヒヒィイイン!

  馬は擬牝台から降りると、やっと馬のペニスがすべて抜けた。ブルリと飛び出した馬のペニスは、2度も射精したというのに、まだ萎えていなかった。

  最後に栗毛は俺を少し見て、鼻を鳴らすとペニスをぺちぺちと足に腹に当てながら奥の部屋に帰っていった。

  「はぁ…はぁ…」

  圧倒させられちまった…馬に本気を見せつけられた…

  さっきから心臓がバクバクしてる…だ、ダメだ。早くここからでないと、本当に頭がおかしくなっちまう!

  俺はあわてて入ってきた扉から部屋を飛び出すと、巨大な影にぶつかってしまった。

  「い、いたた…、す、すいません、前を見てなくて…怪我はありませんか?」

  俺は影の先を見上げると、そこには身長2m近くの大男が立っていた。肌は褐色で肩幅は力士くらい広い。腹は太鼓のようにポッコリと出ているが、全身は鎧のような太い筋肉に包まれている。

  「でか…!?」

  その巨体を見た瞬間、さっきの黒馬と勘違いしてしまいそうになった。

  大男は黒いピッチリしたシャツに青いオーバーオールを着ていた。きっとここの従業員だろう。さっきまで力仕事でもしていたのか、全身から大量の汗をかいていて、さっきの部屋のようなむわっとした雄の臭いが漂っていた。

  俺がその大男に驚いていると、大男は俺を見てこういった。

  「アキラ、大丈夫か?」

  その声は何となく親友のクロガネに似ていた。

  「だ、大丈夫です。勝手に入ってすいません…友人のクロガネに呼ばれてここに来たんです……って、どうして俺の名前を…?」

  「プフッ…何いってんだよ。俺だよ俺、クロガネだ」

  「えっ、あ、はぁ……はぁ!?」

  目の前の大男がクロガネなわけがない。だってクロガネは細身でスラッとしてるやつなんだ。

  「久しぶりだな、アキラ」

  変な冗談は止めてくれよ。さっき変なもの見せられて混乱してるってのに…

  「ガハハ、そんな反応されても仕方ないよな。この1年で俺はかなり"変わっちまった"からな…」

  いまだに信じられないが、声や表情をみていると一年前のクロガネの面影が残っている気がする…いや、本当に気がするだけだ…。学生時代、中性的な見た目で無駄毛の一本すらなかったあのクロガネが、顔に髭を蓄え、腕や胸元から剛毛が生えている…あ、あり得ない…!

  「その顔、まだ信じてないな?うーん、じゃあこれならどうだ?中学生のころ、アキラが好きな子のリコーダーをこっそり持ってきて俺に自慢してきたよな?」

  「そ、それは俺とクロガネしか知らない話…」

  「あと、修学旅行でこっそり女子風呂覗いて2人でシコッた話とか?今考えるとサイテーな話だよな」

  「うっ…そんな話まで…ってことはお前本当に…」

  「先からいってるだろ、俺がクロガネだ!悪かったな入口から案内できなくて」

  クロガネは昔の頃みたいにニカッと無邪気に笑うと、昔とは全然違う大きな身体で俺の肩を抱き寄せた。

  その瞬間、クロガネの男らしいニオイになぜかドキッとしてしまった。

  「そ、そうだ、オマエなんで入口に来てくれなかったんだよ」

  「そ、それは~…」

  クロガネは少し間が悪そうに頭を掻いた。

  「ちょうど変身…じゃなくて手が離せない仕事をしててよ~、悪かったなぁ…」

  「たく、久しぶりの再会なんだから予定開けとけよな?それはそうと、クロガネは今ここで働いてるのか?」

  「あぁそうだ。一年前、馬成牧場のオーナーに拾われて、"種馬"…じゃなくてこの繁殖棟の管理を任されてんだ。」

  「拾われた…?お前銀行の仕事してたんじゃ」

  「あぁ…そうだったな、去年辞めたんだ。今はここの仕事の方が性に合ってる。」

  「そうなのか…まあ、今が楽しいのが一番だよな」

  クロガネは昔の仕事について話したくなさそうだった。気になるけど、これ以上は聞かないほうがいいな。

  「それで…今の仕事はどうなんだ?お前のそのムキムキな身体を見た感じ、楽しめているんだとは思うが…」

  「ハハ、ま…まぁ楽しんでるぜ…」

  「にしてもクロガネ、いきなりあの部屋に案内するとか酷すぎるぜ?あんな乱れきったもの見せられて…驚いたよ…ほんと」

  そう言うとクロガネはピンと来ていない様子で頭を傾げた。

  「あの来客用の休憩室が?変なものは置いてないはずだけど…あ、もしかして…」

  クロガネは自分の手より小さなスマホを取り出すと、俺に送ったメッセージを読み返した。

  「すまん、右と左を間違えて送ってた…左の扉が休憩室なんだ」

  「つまり、右の扉じゃなくて左の扉に入れって言いたかったわけね?」

  「悪かったなアキラ…初めてで"あの光景"はキツかっただろ…」

  「あ、あぁ…本当、嫌なもんみたぜ」

  そう言うとクロガネは、俺の身体をじっくりと見てこういった。

  「ハハ、お前の"それ"は良いもん見れたって言ってるぜ?」

  クロガネに言われて下半身を見ると、大きくなったそれがくっきりと盛り上がっていた。

  [newpage]

  休憩室に入ると、そこには古いパイプ椅子と長机が置かれていた。

  テーブルには何もなく、ホコリが積もっていた。なんか……休憩室という割には全然使われていない気がする。

  「ふぅー、歩き疲れたぜ…まったく」

  「運動不足だなアキラは」

  「施設が広すぎるんだよ、そうだ、喉乾いたんだけど自販機あるか?」

  「自販機?あぁ……ニンゲン用か……、うちには置いてないんだよ…」

  「まじかよー、じゃあコーヒーとかないの?」

  「えっと…休憩室にあったかなぁ…ニンゲン用…ゴホンゴホンッ…缶コーヒーがあったと思うなぁ…」

  「…ニンゲン用?なんて?」

  「い、いやぁ…気にすんな、うちの従業員は基本繁殖棟で休憩とってるからよ、この部屋を利用するのは俺くらいしかいないんだ。だから飲み物とかは常備してなくて…あっ、棚からコーヒー出てきたぜ」

  クロガネは棚に入っていたコーヒー缶を俺に手渡した。

  「サンキュー!じゃあいただくぜ」

  「おう、飲め飲め」

  お言葉に甘えてコーヒーを飲んでいたが、汗だくで喉が渇いていそうなクロガネはコーヒーを飲まなかった。それが妙に引っ掛かって俺は何となく尋ねた。

  「クロガネはコーヒーは飲まないのか?学生のころはあんなに好きだったじゃん?」

  「あー…、確かに…そんな時期もあったな…でも今は"身体作り"のために別のものを飲んでいるんだ」

  「え、そんなにムキムキになったのにまだ鍛えるのか?」

  「筋肉をつけることだけが身体作りって訳じゃねぇんだ」

  すると、クロガネの手首につけていた時計からアラームが鳴った。

  「お、そんなこと言ってたら時間だ…」

  「時間?いまから仕事があるのか?」

  「業務ではないんだが…まぁそんなところだよ。俺は仕事柄、見ての通り身体作りをしてるんだが、このアラームは1日のルーティンを知らせるアラームなんだ。」

  「ルーティン?」

  「…人前で見せるのは、ちょっと恥ずかしいな…まぁアキラならいいか。”あんまり引かないでくれよ”?」

  そう言うとクロガネは、休憩室の隅に置かれていた段ボールを開いた。そこにはなぜか大量のニンゲンが入っていた。クロガネはそのニンジンを何十本も取り出すと、大きめのミキサーに入れていった。

  「なにしてるんだ…?ニンジンジュースでも作るのか?」

  「半分当たり、これは"プロテイン"なんだよ」

  「プロテイン?プロテインってたんぱく質だろ?ニンジンにたんぱく質全然ないだろ」

  「このニンジンは、うちの牧場が馬成製薬から仕入れている特別なニンジンでな、筋肉や骨を成長させる特別な成分が含まれてるんだ。」

  ニンジンにそんな栄養があるなんて聞いたことがないぞ…

  「俺はこのニンジンを……1日5回に分けて、10キロくらい食べてるんだ…」

  「じゅ、15キロ!?しかもニンジンだけを!?」

  「あ、あんまり引かないでくれよ。自分でも恥ずかしいと思ってるんだから…」

  「わ、悪い…た、ただ…さすがに毎日じゃないだろ?」

  「いや毎日だよ。流石に食べているから、お腹いっぱいで他の物が食べられなくなったけど…このニンジンはいわゆる完全食ってやつらしくて、毎日食べても栄養が偏ることもない」

  さっきコーヒーを飲まなかったのはこれが理由か…

  いや、それしても、ニンジンだけ食べて生活してるなんて…馬でも無いのに、そんな草食動物みたいな生活よく続けられるな…

  クロガネはニンジンが大量に入ったミキサーに少し水をいれ、スイッチを押した。ニンジンはすぐにジュース状になった。全部で3Lはあるだろうか。砂糖や塩で味付けもしてないがまさかそのまま飲むつもりなのか?

  「変だろ?これが俺の"今の生活"なんだ…」

  そう言うとクロガネはミキサーの容器をそのままマグカップの様に持ち上げ、恥ずかしそうに飲み始めた。

  クロガネは一気にニンジンを流し込んでいった。クロガネの喉がゴキュッゴキュッと音を鳴らすと、クロガネの大きなお腹が風船のように更に膨らみ始めた。

  「お、おい…そんなに一気に飲んだら…」

  しかし、クロガネは飲むの止めなかった。あんなにいっぱいのニンジンがどんどんクロガネのお腹に入っていく。

  俺だったら、こんな量を一度に飲んだら、苦しくて全部吐き出してしまう。でもクロガネは苦しい顔ひとつもせず、飲み進め、ついに容器が空になってしまった。

  「ぐるぅふぅ…」

  クロガネは気持ち良さそうにゲップをした。

  「まじかよ…」

  「うぅ…、や、やっぱり変だよな…さっきのは見なかったことにしてくれ…」

  顔を真っ赤にしたクロガネは、恥ずかしそうにミキサーを流しに持っていった。

  「確かにこんな食生活してたら、たった一年でお前がそんな姿になったのも理解できるわ……」

  「うぅ…」

  「でもいいんじゃないか?昔のヒョロヒョロだったころのお前より、今のお前の方がカッコいいと思うぜ?だから恥ずかしがるなよ」

  「アキラ…」

  クロガネは嬉しそうに俺に駆け寄ると、両腕を広げギュッと抱き締めた。

  ムキムキになったクロガネの包容力は、万力みたいで危うく背骨が折れてしまいそうだった。

  「お、おい、痛いって!お前デカくなった分、力の加減が出来てないぞ!それにお前みたいな"むさ苦しい男"に抱きしめられてもうれしくねぇよ!」

  何とかクロガネから離れる。

  「わ、悪い…。なんかアキラの顔赤いけど…体調悪いのか?」

  「こ、これは違う…気のせいだよ」

  俺は咄嗟に顔を手で覆った。

  ("さっきの光景のせい"で頭がおかしくなってんだ…、男のお前に抱き締められただけで、胸がドキドキしてしまってるなんて、恥ずかしく言えねぇよ。)

  「そうか…気分悪かったらいつでも言えよ?」

  そういってクロガネは俺の背中をさすった。

  それからしばらく俺とクロガネは休憩室で昔話に花を咲かせた。

  クロガネは姿こそ一年前と全然違うが、中身は学生の頃から変わっていなかった。言葉使いは少し荒くなったが、相変わらず性格は真面目で、目標のために直向きに努力する、良いやつだった。

  「そうだ…うっかり聞くのを忘れてた。今日、俺をこの牧場に呼んだのは何でなんだ?1年ぶりに連絡をしてきて、俺に見てもらいたいものがあるって…」

  「うーん、それは…まだ秘密だな。まずは俺がアキラを呼んだ理由から説明させてくれ」

  「秘密?まぁいいや、じゃあさきに呼んだ理由を聞かせてくれ」

  「よし、じゃあ厩舎を歩きながら話そうか」

  クロガネは休憩室の外に俺を案内した。

  [newpage]

  「見ての通り、俺は今この牧場で働いている。仕事は主に"従業員"の管理と商品の品質管理だ。」

  クロガネは慣れたように自分の仕事について話し始めた。

  「へー、ってことは結構偉いポストにいるのか!一年で出世したんだな」

  「まあな、前職の経験が活きたってのはあるが、オーナーが言うに、俺は"この仕事に向いてる"らしくてな」

  クロガネは繁殖棟の更に奥に俺を案内した。

  「さっきも話したが、この牧場はスタリオンの育成と商品となる種の販売を行ってる。まぁ、かっこつけてそう言ってるが実際は馬たちに射精させて精液を売ってるってだけだ。ガハハ」

  すると、クロガネは繁殖棟の1室に俺を案内した。部屋に取り付けられた窓を覗くと、そこには沢山の馬がいた。

  「ここにいる馬がうちのスタリオンたちだ。今の時間はこの厩舎で休憩している。」

  「いっぱい飼ってるんだな、全部で50頭くらいか?」

  沢山いる馬を見ていると、何頭か腰にベルトのようなものを巻き付けていた。

  「あの馬、腰にベルトみたいなものを着けてるけど、あれは何なんだ?」

  「あぁ…あれか?あれは馬用の"貞操帯"だよ。ここにいる馬はさっき搾精室で商品の精液を採取し終わってるんだが、性欲が強く自制心のない馬は、他の馬を手当たり次第犯して、商品である種を消費しちまうんだよ。だから、悪癖のある馬を躾ために貞操帯を着けさせてるんだ。」

  「なるほどな、その話を聞いてからあの馬の顔を見るとスゲー情けなく見えるぜ」

  「あれはただの貞操帯じゃないからな…一度取り付けられたら最低でも3日は外せない。それに興奮状態を維持するために微弱な電流が流れてるんだ。だけど、ちんぽの根本が絞められているから、射精したくても出来ない…まさに地獄のような日々を過ごすことになる。」

  「えぇ…そ、そんな機能いるのか…あんまり我慢させてると馬が暴れたりしそうだが…」

  「俺も最初はそう思ったさ、最初は暴れる元気がある。でも半日過ぎると、性欲が高まりすぎて暴れる元気すら奪われちまうんだ。そうすると、馬は頭じゃなくて身体で"ここのルール"を覚えるようになるんだ。あれは本当にキツかったな…」

  「えっ、キツかったって?お前が?」

  「ち、違う!馬がな、馬が…。つ、次の場所に行くぞ!」

  クロガネに案内され繁殖棟を出ると、今度は事務室のようは場所にやって来た。

  「ここは従業員の事務作業で使う部屋だ。この部屋でいつも事務処理を行ってる。といっても俺とオーナーともう一人”栗田ユウジ”っていう俺の後輩しか利用してないんだけどな。」

  「そういえば、ここに来てお前以外まだ誰とも会ってないんだが…従業員は全員で何名くらいなんだ?」

  「従業員でいうと全員で60…かな、でも人数で考えると15人くらいか…」

  「えっと…60?15?どっちだ?」

  「あー、悪い悪い、馬の数も従業員に入れて話してたんだ。」

  「そんな間違いあるか?」

  「あ、あるよ…ここでは馬も仕事を手伝ってくれるからな。みんなうちの大切な"従業員"だ。」

  そう言うと、クロガネは事務室の一番奥にある来賓者用のソファーに俺を通した。

  「まぁ、ここまでこの牧場のことをお前に話してきて、薄々気づいているとは思うが…、今日ここにお前を呼んだのは他でもない、アキラに"ここで働いてほしい"からだ。」

  「まぁ、話の流れとして何となくわかっていたけど、なんで俺なんだ?別に俺は特別な能力やスキルがあるわけじゃないぞ?今の仕事だってデスクワークメインで牧場に活きるようなことはなにも…」

  「それについてなんだが…実は…」

  そう言うとクロガネは一枚の紙を取り出した。

  そこには、大手製薬会社である"馬成製薬"の文字と雇用契約について書かれた紙だった。

  「製薬会社の馬成製薬、CMでよく流れるからお前もよく知ってるだろう?」

  「『薬を買うならヒヒ~ン♪ウマナリ♪ウマナリ♪馬成製薬♪』だろ?CMでよく見る。それについこの前、この製薬会社が作ってる薬を購入したよ。あれは…花粉症の薬だったかな…。でもそれが俺を雇いたい理由とどんな関係があるんだよ」

  「実は、うちの牧場は馬成製薬の子会社で、主な出資が馬成製薬なんだ。馬成製薬はうちに多額の支援をする変わりに、うちの雇用や人材育成に対してかなり影響力を持ってるんだよ。ようは、馬成製薬には頭が上がらないってこと」

  「ふーん、ということは俺を雇いたいっていうのは牧場側の意思じゃなくて、馬成製薬の意思ってことなのか?」

  「そういうこと、俺としてもアキラがここで働いてくれるならすごく嬉しいんだがな…」

  「だけどなんでいきなり?俺はいままで馬成製薬と関わったことなんて一度も…」

  「これだよ」

  クロガネは一枚の紙を俺に渡した。

  「これは…あっ、この前薬局で書いたアンケート用紙」

  それは薬局で馬成製薬が行っていたアンケートで、回答するとクオカードやタマゴなんかが貰える。アンケート内容はごく普通の内容だったはず…

  「このアンケートをみた馬成製薬から連絡があったんだ。アキラにぜひ馬成牧場で働いてほしいってね。」

  「え、ええ…!アンケートなんて商品目当てで適当に書いただけなのに…」

  「まぁ…なんだ、アンケートでお前の人柄とかがわかったんじゃないか?知らんけど……」

  クロガネはこのアンケートについて何か隠しているような気がした。

  「それでだ。話を戻すがアキラにはこの牧場で働いて貰いたい。」

  「そ、そんないきなり、俺はいま別の仕事しているし…」

  「まぁそうだよなぁ…でもこれを見てくれ、馬成製薬はどうしてもお前に働いてほしいらしいぜ?」

  クロガネは馬成製薬から提示された雇用契約書を俺に渡した。

  「業務内容は馬成牧場での品質管理業務…、賃金は…基本給が50万…!?」

  「あ、どれだけじゃないぜ?下に手当が書いてあるだろ?」

  「まさか、この下にあるのが全部手当!?これ全部で80超えるんじゃ」

  そこら辺の企業の管理職以上じゃないか……

  「あぁ、それに年3回の賞与もあるし、休日も他の会社と比べれば多いほうだ。まぁ、ここで働くとなると住み込みになるけどな」

  「クロガネもこれくらい貰ってるのか!?」

  「まあな…」

  「こ、こんな上手い話…逆に信じられないって…」

  「だよな、俺も一年前アキラと同じようにオーナーに呼ばれたときは同じように考えたな」

  クロガネも俺と同じように突然馬成製薬に選ばれたのか…

  クロガネが楽しそうに働いてるなら職場は悪くないんだろう…。職場が変わってもクロガネがいるなら安心できる…

  ただ…

  「どうする?」

  「…俺は」

  [newpage]

  時刻は17時、俺は繁殖棟の休憩室でクロガネに謝っていた。

  「ごめんなクロガネ、せっかくあんないい条件で俺を誘ってくれたのに…。それでも俺には"家族"がいるからさ」

  この牧場での仕事は原則住み込みになるらしく、牧場から遠い今の家に帰るのは年に数回だけになる。どんなにいい条件でも家族離れ離れになるのは納得できなかった。

  「いいんだよ。アキラが結婚か…全く驚いたぜ。」

  クロガネは笑いながらも少し寂しそうな顔をした。

  「一番にお前に連絡したんだぜ?繋がらなかったけどな」

  「そうか、悪かったな。今日はありがとうか、こんな遠い場所まで来て貰って…気が変わったらいつでも連絡くれよ」

  「おう、考えとくよ。じゃあ俺は帰るよ、帰るのが遅くなるとまた嫁に起こられるし」

  「…そうか、なら入口まで送るよ。」

  休憩室を出てすぐ、俺はクロガネに1つ質問した。

  「なぁ、そういえば今日、お前以外の従業員を見ていないんだけど…今はお前しかいないのか?」

  「ん?いや、みんな働いているぞ?」

  「そうなのか?でもこの繁殖棟の部屋ひとつひとつ確認しても馬以外のいないけど…」

  「あ~まぁそうだろうな…繁殖棟にいる時はみんなそうだから…」

  「それどういう意味だ?」

  会話をしながら歩いていると、繁殖棟の小窓から栗毛の馬が顔を覗かせていた。…って擬牝台で腰降ってたやつじゃねぇか…

  すると、クロガネはその馬に近づき頬を撫でて話しかけた。

  「"ユウジ"おつかれさん、今日のノルマは終わったか?」

  「ユウジ?」

  あれ、ユウジって名前をどこかで聞いたような気がする…

  すると、クロガネはまるで馬と会話するように話続けた。

  「ん?こいつか?こいつはアキラ、俺の友達だ。アキラも俺たちと同じように馬成製薬に選ばれたんだ。」

  「え、なんだって?お前の交尾見て興奮してたって?そりゃ仕方ないだろ?おれらの交尾は刺激が強すぎるんだからよ。」

  「こいつには無理だって?何言ってんだ。お前だって初めての仕事で、搾精器に突っ込む前に漏らしちまってオーナーに怒られたろ?」

  「ガハハ、そんなに怒るなよ。また後でたっぷり種仕込んでやるから…じゃ後でな」

  クロガネがそう言うと、栗毛は部屋の奥に帰っていった。

  「なぁクロガネ、お前馬と会話できるのか…?」

  「そうだぜ?牧場で働いていると馬の考えがわかるようになるんだよ」

  クロガネはそう言ったが、俺は少し疑っていた。

  …

  厩舎を出て俺はクロガネにこういった。

  「案内はここまでいいよ、入口までの道はわかるし。クロガネはまだ仕事があるんだろ?」

  「ああ、今から"デカい仕事"があるんだ。」

  「まぁ、なんだ。お前の顔を久々に見れて良かったよ!ここだけの話、お前から連絡が来なかった間、ずっとお前のこと本当に心配してたんだぜ?知り合いに聞いてもどこにいるかわかんない感じだったし…」

  「それは…悪かったな、この一年この仕事に夢中になっていたからな…お前のことをすっかり忘れてたよ」

  「ひっでぇ」

  「へへ、嘘だよ、ここで仕事してる間もずっとお前のことを考えてた。いつかお前と2人でこの仕事したいと思ってたんだ。でも少し"タイミングが悪かった"みたいだがな」

  クロガネのその言葉はとてもまっすぐで、素直に嬉しい思う反面申し訳ないと思った。

  「そうか…実は俺も……一緒に仕事したいって思ってたんだぜ?学生の頃みたいに2人一緒に…」

  俺がそう言った途端、クロガネは俯いてしまった。何か良くないことを言ってしまったのだろうか…?

  「く、クロガネ?」

  「…そうか…そうか…」

  クロガネは何か呟きながら、ゆっくりと俺のほうを向いた。その表情はいつもの軟らかな優しい顔ではなく、悔しさを滲ませた怒りの表情だった。

  「だったら…なんで…なんで」

  「え、お前どうしたんだよ!?」

  「やっぱり…俺は我慢できねぇよ…!馬成製薬からお前の採用通知が来たとき、運命だと思ったのによぉ!!」

  「運命…?」

  メキメキ…

  その時、クロガネの身体から肉が軋むような音が聞こえた。

  瞬間、嗅いだことのある強烈な雄のニオイが、クロガネの身体から立ち上った。

  「俺はもう…お前を離さない…!」

  クロガネの顔が黒い何かに覆われていった。そして、クロガネの影がググンッと伸びて、俺の身体に覆い被さった。

  「くっ、クロガネッ!?」

  次の瞬間、視界が真っ黒に覆われた。そして俺は意識を失った…。

  [newpage]

  ぅう…ここは…どごだ?

  真っ暗な部屋…スンスン…このニオイ、知っている、馬の繁殖棟の…強烈な雄の臭いだ。

  ってことはここは、馬成牧場?

  とりあえず、起きないと…ってあれ?手が縛られてる?

  どうやら俺は円筒状のあん馬のようなものにうつ伏せで寝かせられているようだ。

  っ痛ぇ、頭がくらくらする…なんでこんなことになってるんだっけ?

  俺はクロガネに呼ばれて馬成牧場に来て…

  そこで牧場の仕事をしないかって誘われて…

  でも、家族がいるから、誘いを断って…

  そこから…くそっ!思い出せない!

  その時、部屋の外から誰かの声が聞こえてきた。

  「クロガネ先輩も、やり口が大分"こっち側"になってきましたね…」

  聞き覚えのない若い男性の声だった。

  「ユウジ…それ以上言わないでくれ…」

  「オーナーも喜んでましたよ、先輩がやっと素直になったって…」

  「…ぐぅ…」

  「先輩の思い人だったんでしょ?ならいっそ…気持ち良くこっち側に堕とすしかないですよ~…」

  「そうだな…」

  この声は…クロガネ?それと…誰だ?初めて聞く声なのに知ってる気がする。

  とにかく、クロガネがいるなら俺を助けてくれるかもしれない。

  「ク、クロガネ…助けてくれ…」

  「お、クロガネ先輩。あの人目を覚ましたみたいっスよ」

  「ふぅ…わかった。今回は俺と同じ”重量馬の適合”だ。馬因子は俺のを使う。アキラ…いや、素体にはかなりの負荷がかかるだろう…、ユウジは俺のサポートをしながら、素体にかかるストレスをできるだけ軽減させてくれ」

  「了解、やり方は俺流でいいっスか?」

  「…いいだろう、ユウジは上手いから心配はしてないが、今回は重量馬だ、ヒト種の抜きすぎには注意しろよ?バランスが崩れて馬化がコントロールできなくなれば、自我の喪失と品質の低下に繋がるからな…」

  「心得てるっスよ~」

  「それと…"トリガーは俺だからな"!」

  あ、アイツらは何の話をしてるんだ…?馬化?素体?どういう意味だ…?

  「クロガネ先輩、あのニンゲンが相当大事みたいっすね」

  「クッ……それ以上言ったらお前をただの馬にするからな……」

  「さ、さーせん」

  「それじゃあ、俺は黒馬になる、俺の変身は時間がかかるから、先に変身してアイツの世話をしてやってくれ。特に、"ケツは念入り"に頼む」

  「了解ッス」

  「それじゃ、仕事に取り掛かるぞ…」

  「変身するッスよ……フゥー…フゥー……」

  メキメキ…

  メキメキ…ゴキッ…

  「馬の滾りが…グオオ…グォオオ……ブルルルル…」

  な、なんなんだ……この音。肉と骨が軋んでいるような……

  それに、扉の奥から漂ってくる……この濃厚な『雄馬のニオイ』…

  『ヒヒィイイーーン!!!』

  大きな馬の鳴き声と共に、奥の部屋から現れたのは、栗毛の馬……って、この馬繁殖棟で腰振ってたやつじゃねえか!

  ま、まてよ、俺が今寝かされている場所って、まさか……

  その馬は興奮を示すように俺を見つめ、不気味に舌舐りをした。

  つづく